東方空闘犬 〜 元エースパイロット、幻想郷の旅 作:メビウスノカケラ
2016/02/27 リメイクしました。
「・・・っ!」
窓から差してくる陽の光が顔にあたり、私は目が覚める。
「・・・私が寝ていたのはアリスのベッド、よね?これは」
いつも見ていた病院の天井はそこにはない。あるのはふかふかのベッドとおしゃれな部屋、そして私の健康な体。
「夢じゃなかったのね・・・!」
体を起こして再度確認する。手があることを確かめるかのように、両手で握ったり緩めたりしてみる。しっかりと力が入れられるし、握った時の圧迫感と緩めた時の開放感もちゃんと感じられる。ああ、本当に夢じゃあ無いんだ。
そして、私の体が置かれている状況についても把握する。私はアリスの家の寝室にいる。窓からは暖かい陽の光が差し込み、朝であることを物語る。借りた寝間着の綿生地の感触も心地よい。そして、薄っすらと香る朝食の匂い・・・
グギュルル
「・・・お腹すいた」
おそらくアリスが作っているであろう食事の匂いに、私のお腹が鳴る・・・そういえば昨日はお茶と一緒に出されたクッキーしか食べてない。いろんなことが起こりすぎて、空腹を感じなかったのだろうか。
ガチャ
「おはよう・・・ってあら?起きてた」
自己分析をしていると、アリスが扉を開けて入ってくる。
「おはよう、アリス。ベッドありがとう。おかげでぐっすり眠れたわ」
「その割には早起きね。まだ朝の6時位よ?」
「癖なのよ。昔に比べたら遅いけどね」
私の体には早起きの癖が付いている。孤児時代には時計もなく、日が昇るのと同時に起きていたし自然と早くなった。軍にいた時も周りに追いつこうと5時前に起きては自主トレを欠かさなかった。生活リズムの中に早起きが染み付いてしまっているのだ。
「ふ~ん。なんか、ゆっくり寝られなさそうで疲れちゃいそう」
「・・・まあね。何かをする時間は増えるけど、良いことばかりではないし」
寝たきり生活の時の早起きほど悲惨なものはない。早く起きてしまっては、体が動かず意識だけがある時間が長くなってしまう。
「ま、ぐずって起きようとしない人を叩き起こす手間が無いのは良いわね。今日はやることがいっぱいあるから、早く起きてもらうのは大歓迎よ」
「やること?人里に行くだけじゃないの?」
「朝食を食べた後はあなたに新調した服を着てもらって最後の調整をしなきゃいけないし、その後人里に行ってあなたの住む場所やら幻想郷の暮らしについてやら色々と教えてもらわないといけないし・・・」
アリスは指を折りながら今日の予定を数えていく。人里に行ってハイ終わり、というわけではないようだ。
「・・・まあとにかく、今日も明日もやることがいっぱいあるし、これから増えることも間違いなく考えられるからね。善は急げよ」
「右も左もわからぬこの幻想郷、私には何が起こるか見当がつかない。やるべきことは早めにやって、余裕を持つべきってわけね」
余裕を作っておけば、予想外なことが起きても対応しやすい。危険がはびこっているであろうこの幻想郷で、切羽詰まったり追いつめられたりしたら無事で済むかわからない、ということだろう。
「あら、わかってるじゃない。そういうことだし、早速最初の予定から。朝食の用意ができているわ」
「!」
腹を空かしていた私の体は朝食という言葉に反応する。口の中で唾液が溢れ、それをゴクリと飲み込む。
グギュルル
「あ・・・」
再びお腹も鳴る。アリスが目の前にいるというのに、少し恥ずかしい。
「正直者さんね」
「あはは・・・朝食、楽しみだわ。早く行きましょう、もうペコペコよ!」
「ふふ、そうね。今日の朝食はバターロールに目玉焼き、それからはちみつ入りホットミルクも用意したわ。これを食べて今日も一日頑張りましょう」
不安は色々あるものの、少なくとも今日の不安はこれでなくなりそうだ。美味しそうな朝食を食べて、今日一日の活力として頑張ろう。
そして、私の幻想郷生活が始まる。
第3話(Re)「再会」
「ぐぁつぐぁつぐぁつ・・・おいし」
「・・・・・・」
美味しい。こんなに美味しい物を食べたのは3年ぶりだ。口が止まらない。
「ごくごくごく、ぷはぁ」
「・・・ドーラ」
はちみつの入ったホットミルクは、目覚めた体によく染み渡る。体に元気がどんどん湧いてくる。
「ぐぁつぐぁつぐぁつ・・・」
その後に目玉焼きをバターロールに挟んで食べる。ソースをかけたので味が濃いが、逆にその濃さが朝から全身にエネルギーを与えてくれる。
「ドーラ!」
「ゴクッ!?」
バターロールの目玉焼きサンドの最後を飲み込むと同時にアリスが怒鳴る。
「ど、どうしたの?」
「どうしたの?じゃないわよ。もっとおとなしく食べれないの?フォークとスプーンの使い方も全然ダメ。子供じゃあるまいし」
「だ、だって美味しいんだもの・・・ごくごく」
私はアリスの話を聞きながらホットミルクを飲み干す。
「ふぅ、ごちそうさま!とても美味しかったわ!」
「あなたねぇ・・・はあ、まだあの子の方がテーブルマナーはあるわね」
アリスは呆れた表情でいる。いったいどうしたというのだ。
「・・・まあいいわ。やることあるし、今日はお咎め無し。料理を褒めてくれたことには感謝するわね」
何がお咎め無しなのだ?と思ったが、聞かないでおこう。なんだか長々と話を聞かされそうだし。
「さて、お腹がいっぱいになったところで次よ。あなたの服ができてるわ。洗面所においてあるから、歯磨きとかの支度も済ませて、着てみてちょうだい」
アリスは洗面所の位置を手で示す。人形がその位置で手招きしているのも見える。
「わざわざありがとうね。恩に着るわ」
「いいのよ、今後の参考にもできるし。サイズもちゃんと見といてね。合わないところはすぐに直すから」
「わかったわ。それじゃ着替えてくる」
用意してくれた服を着て確認するために私は洗面所に向かう。注文通りならブレザーとズボンになっているはずだが・・・
「こ、これは・・・」
身支度をした後に服を着てアリスのもとに戻ろうと思ったが、少しためらってしまう。とりあえずは着てはみたが・・・
上の緑を基調としたブレザーはほぼ注文通り。細部に違いはあるものの大体は同じだ。
しかし、問題は下である。私はズボンと言っていたはずなのだが、膝丈くらいのスカートになっている。
「す、スースーする・・・」
軍で生活するようになってからはズボンしかはいた覚えがない私にとって、この感覚は少し慣れない。なんというか、恥ずかしい。
コンコン
「ドーラ、遅いわよ?」
アリスが扉の向こうでノックをして呼びかけてくる。
「あ、アリス!この服って・・・」
「え、何?入るわよ~」
「ちょ、ちょっと」
ガチャリ
声が聞きづらいと、アリスが洗面所に入ってくる。
「どうしたの・・・あら、似合ってるじゃない」
アリスはまじまじと私の姿を観察する。スカートを穿いているせいか、少し恥ずかしい。
「その・・・私はズボンと言っていたのだけれど、なんでスカート?」
「あら、そっちの方がかわいいからに決まってるじゃない」
「か、かわいい?」
「そうよ。女の子としてかわいいことは大事なの。ドーラはまず、身の振り方とかしぐさとかの女の子らしさが足りない。その上ズボンにしちゃったら見る人によっては男と勘違いしちゃうかもしれないわ。背高いし、骨格もちょっとしっかりめだし。だから、スカートにしたの」
女の子らしさとやらが大事だと、アリスは私に説明する。そういうことを意識したことがあまりないからぱっとこないが。
「女の子ならスカートを穿くべきよ。うん」
「・・・タイツ」
「ダメ」
スースーするからタイツにしたいと言おうとするも、言い始めで食い気味に却下される。
「タイツは蒸れるわ。匂いのもとにもなってしまう。汗は女の敵よ」
「う、うーん・・・」
汗まみれの人生を歩んできた私には、アリスが言っている言葉の意味が理解できない。汗が敵?何を言っているんだ?
「何、すぐに慣れると思うわ。あなた、適応力高そうだし」
「わ、わかったわ・・・」
スースーして落ち着かないが、アリスがわざわざ仕立ててくれた服だ。その気持ちはしっかりと受け止めなければならない。
「ちなみに、その服は幻想郷に住むウサギの服装を参考にして仕立てたわ」
「・・・ウサギ?あの耳の長い動物よね?」
「ええ。ブレザーを着た長髪のウサギよ」
「へ~・・・ん?」
ブレザー?ウサギが?
「月のウサギさんらしいわね。なんでも、あなたと同じで昔は軍人だったみたいよ?もし会えたらお話してみたらどうかしら」
「ウサギで軍人で月・・・メルヘンかと思ったらやたら現実的な単語も混じってるし、もう何がなんだか・・・」
頭がこんがらがる。アリスから話に聞かされて分かってはいたが、改めて幻想郷の不可解さを感じた。
「それで、サイズはどうかしら?」
「・・・サイズはピッタリよ。これ以上ないくらいに」
昨日着ていたアリスと同じ服と同様で、服の寸法は完璧である。昨日風呂に入れられた際に測ったと言っていたが、ここまで完璧だと少し気味が悪い。それだけ手先が器用ということなのだろうか。
「よかった。その服の着替えも仕立てて、また今度渡すわ。サイズ以外に、他に気になることは何かない?」
「それじゃ、着替えはズボン」
「それはダメ」
「・・・・・・」
即答である。そこは頑ななのね。
「というわけで、何もないわね。じゃ、行きましょ」
アリスは振り返り、洗面所の出口のドアに手をかける。
「この幻想郷でのあなた達人間のサンクチュアリ(聖域)、『人間の里』に向かうわ。先に外で待っているわね。手荷物をまとめてから来なさいよ」
ガチャリ、バタン
アリスは外に出ていく。
「・・・そうね。考えてばかりいても仕方ないものね。まずは行動あるのみ」
そう、今までだってそうだったじゃない。軍での暮らしも、空で感じる重力も、習うより慣れろでやってきたんだ。何よりこんな状況、考えたってどうにかなるわけないじゃない。
これから先に待ち受ける困難がどんなことであろうと、私は前に進まなきゃならないんだから・・・そう思って私は少ない荷物を整理し、玄関へと向かった。
迷わぬように森の中をアリスにエスコートしてもらい、森の出口付近にある奇妙な古道具屋を通り過ぎ、しばらく歩いて行くそこはある。
「さ、着いたわよ」
「ここが『人間の里』・・・」
『人間の里』。妖怪が闊歩するこの幻想郷で、唯一の只の人間が安心して暮らせる場所。
私が想像しているよりも活気に満ちた場所のようだ。流れていく人、いい匂いが漂ってくる店、そこかしこから聞こえてくる声・・・妖怪の恐怖に負けない、人の元気を感じることができる。
「どう?あなたが過ごす場所、人里の感想は」
「・・・思っていたよりも全然ひとが多いのね。これだけ人が集まっているのを見るのは久しぶりだわ。けれど・・・」
「けど?」
この服はちょっと人里の雰囲気から浮いちゃいないか?そう私は思ったが、アリスに作ってもらった手前、口に出すのはやめておこう。
「・・・ううん、なんでもない」
「?」
東洋風の服が多い中、このブレザーとアリスの人形みたいな風貌は目立つわね・・・なんか変な視線まで感じるし。
(ヒソヒソ・・・なあ、アレ見てみろよ!あの背の高いネーチャン)
(・・・ん?おお。ありゃなかなか・・・太ももがチラチラ見えて、官能的な感じがいいな。うん)
(そこじゃねえって。肌の色見てみろ!なんか、アヤカシの類かなんかじゃねえのか?あのネーチャン、日焼けにしちゃ肌が黒すぎるぜ)
(そりゃおめぇ、ありゃ「有色人種」ってやつだ。知らねえのか?)
(夕食?なんだそれ、食べちゃって良いのか?エッチな意味でだけど)
(ちげーよ、そっちじゃねえ。色が有るって書いて「有色人種」だ。まあ、この幻想郷じゃめったにお目にかかれないけどな)
(てことは、かなりレアなネーチャンなわけか)
(その言い方はちょっとどうなんだ?しかし・・・結構かっこいい印象の顔の割にゃ色っぺぇ服着るんだなぁ)
(・・・俺はやっぱその隣りにいるパツキンのお嬢のが良いなぁ。おしとやかで儚げな感じがなんとも・・・黒い肌のネーチャンも悪かねえが・・・なんというか、俺が負けちまいそうだ)
(ああ、おめぇは亭主関白がやりてぇって言ってたもんな)
「・・・・・・」
まるで観察されているかのような感覚だ。有色人種に対する視線には慣れたものだが、そうじゃない何かも混ざっているような気がする。これがアウェー感というものなのか。
「どうしたの?」
「その、視線を感じるというかなんというか・・・ん?」
アリスに話しかけられて1つ気づいたことがある。そういえば、アリスからは出会った当初からそういった奇異な目で私を見るという感じは無かったな・・・
「ま、その服は里じゃ目立つでしょうね。仕方ないわよ」
自分で着せておいて・・・まあ、あんな森で暮らしているんだ。どこか感覚がずれていてもおかしくはないわね。
「あ、その顔、なんか失礼なこと考えてない?」
「いや、何も」
私は表情から感情を読み取られるが嘘をつく。その私の嘘にアリスはまあいいや、と言う感じで人里のある場所について話を始める。
「あ、そう。まあそれは良いとして、これからあなたを寺子屋に連れて行くわ」
「テラコヤ?」
「簡単に言うと学校ね。子どもたちに勉強を教える施設よ」
小学校みたいなものだろうか?孤児だった私はちゃんと行ったことがないからどんな感じなのかはわからないけれど。
「でもなんでそんな所に?」
私はもうとっくに成人している。そんなに頭が良いとはいえないが・・・流石にそれくらいの子供を相手にした教育は受けるまでもない。なぜテラコヤなのか。
「頼れる人がいるのよ。上白沢慧音先生がね」
「先生?」
「そう。寺子屋の先生たちの代表者とでも言えばいいかしらね。今日も頼まれているのだけれど、私は寺子屋に人形劇を見せに行く都合で慧音先生とは親交を持っているのよ。
とても義理堅い性格の人でね。あなたのように困っている人間の助けになったり、なんてこともやっている人なの・・・頭も固いけれど。でもきっと、あなたの助けにもなってくれるわ」
「そんな人がいるのね・・・」
・・・思い出す。この幻想郷に迷い込む直前まで私の見舞いに来ていたモーリス中佐、彼もそんな性格の人だった。
十数年前だったか、正確な年は覚えていないが・・・あの時、まだ私も子供だった頃、若かったモーリス中佐は感染症にさいなまれていた小汚い孤児の私を拾ってくれた。
私のため、他人のため、皆のために自分を顧みずに行動する人だったな・・・ケーネ先生とやらもそんな人物なのだろうか。
「ドーラ?」
「え?ああ、ごめんなさい。少し考え事をしていたわ」
アリスに呼びかけられ我に返る。昔のことは昔のこと、今は目の前のことに集中しなけりゃね。
「それで、そのテラコヤっていうのはどこに有るの?」
テラコヤという場所にまずは向かわねばならない。私はアリスに寺子屋の在り処を聞く。
「ここから歩いて何分もかからないわね。案内するから着いてきて」
私はアリスの後を着いて行く。
「この角を曲がって、ほら見えた・・・ってあら?」
アリスの誘導によって目的の寺子屋が見える場所にたどり着く。しかし、アリスは何やら不思議そうな表情。
「どうしたの・・・って、おお・・・?」
アリスの視線の先を確認してみると背の高めの女性と背の低い少女が言い争っているみたいだ。私はその二人の髪の色に驚かされる。
背の高い方は頭に角ばった帽子を乗せたロングヘアー。髪の色は青みがかったシルバー。
背の低い方はキャップを被り、ポケットだらけの服を着ている。赤い髪飾りで両側でまとめている髪の色はブルー。
「いよいよ、異世界に迷い込んだって感じが濃くなってきたわね・・・」
あの髪の色は、私が居た現実では間違いなく自然には存在し得ない色。そのことが私に、さらにこの幻想郷が異質であることを実感させる。
「あのいがみ合ってるうちの背の高い方が慧音先生よ」
「あの人が?」
「ええ。そして、小さいほうが河城にとりって子なんだけど・・・なんであの子がここに?」
アリスは首を傾げて二人の言い争いを眺める。私もアリスと一緒にその様子を観察してみることにする。
「許可できん!そんなこと、子どもたちに悪影響を与えるに決まっている!」
「何言ってんだ!多感な子供の時期にこそ、こういった刺激が必要なんじゃないか!あんたは子供の可能性を狭めようっていうのか!」
「そういう問題じゃない!」
「そういう問題だろ!」
飛び交う怒号。だいぶ白熱しているようだ。生徒と教師の間で教育方針についていがみ合っているという感じか?
「先生に意見を述べるなんて、感心な生徒ね」
「いいえ、にとりは生徒ではないわ。それどころか人間でもない、妖怪『河童』よ」
「・・・え、ええ!?」
私がつぶやいた言葉へのアリスの返答に、私は声を出して驚いてしまう。髪の色の青い少女にとりは人の形をしているというのに人間ではないというのだ。
「いや、どう見たって人間じゃない!そりゃ髪の毛は青いけれど、それ以外はどう見ても・・・」
「今更ねぇ。私だってそうじゃない。私だって人間じゃないわよ」
「アリスは魔法使いじゃないの!」
魔法使いというのは人の形をしているのが普通だ。アリスにそんなことを言われても説得力がない。
「同じようなものよ。人外であることには変わりないし。
それに、人間の姿のほうが何かと都合がいいことだって多いのよ。この幻想郷じゃ、妖怪はただ恐れられるだけの存在じゃない。時には人間とコミュニケーションを取り、意思疎通を図る時だって有るの。そんな時に人外の姿でいたら、威圧感や恐怖感を与えてしまって話にならない、なんてこともあるからね」
「な、なるほど・・・つまり、あのにとりって子は、今まさにケーネって先生に人間の姿で会話をしているってことなのか・・・
うう、でもなんかイメージとかけ離れてて面食らうな・・・」
妖怪のことをおぞましく、身の毛もよだつ様なイメージをしていたものだからなんだか気が抜けてしまう。ということは、他の妖怪もそうなのだろうか?アリスが話していたウサギももしかして・・・
「でもなんでにとりが里にいるのかしら?慧音先生に追い出されずに話をしているってことは、里に来ると断りは入れているみたいだけれど・・・」
「どうするの?どっちにしろ、あのケーネ先生には話をしに行かないといけないんじゃないの?」
ケーネ先生には私だけでなくアリスにも用事がある。このまま見ていても仕方がない。アリスは少し悩んでその答えを出す。
「・・・そうね。あのままじゃ、あの言い争いが終わった後のピリピリした慧音先生に話を聞きに行くことになるしね。それなら私達が今ここでなだめに行ったほうが得策かもね」
「決まりね。二人の話を聞きに行こう」
そして、私達二人は二人のもとに駆け寄った。
「だいたいなんだ!そんなものを子供に見せて、子どもたちがいらないことに興味を持ったらどうしてくれるんだ!!」
「そんなもの、だって?何言ってんだ!これは真っ当な技術!何もやましいことなんて無い素晴らしいものさ!!失礼だな!!」
「お前達のその技術全般が怪しいと言っているんだ!!」
「そう言って他の見解を取り入れようとしないあんたの頭の固さもどうかしてるよ!!」
・・・すぐ横に私とアリスがいるのに気づく気配が全く無い。お互い譲れないと、相当熱くなっているようだ。
「ええと、二人共、落ち着いて・・・」
アリスが白熱する二人に話しかける。
「この前だってそうじゃないか!バザーだ何だと妙なものを売りつけようとして!!」
「妙なものとは何だ!!アレは素晴らしい発明品だ!!」
しかし、二人は聞く耳を持たない。アリスは再度話しかける。
「あの、にとり、慧音先生・・・」
「なんだ!この大事な話をしている時に!!」「うるさい!黙っててよ!!」
やっと帰ってきたその返事は怒号である。
「きゃっ!ちょ、ちょっと!二人共落ち着いて!」
その勢いに少し押されながらも、アリスは二人をなだめようとする。
「・・・ん?なんだ、アリスか!」
「調度良かった!アリス、この堅物教師が私の話を全くとり合ってくれないんだよ!説得しておくれよ!」
「何を言っている!子どもたちから危険を遠ざけるためだと言っているだろうが!!」
少し落ち着くかとおもいきや、またヒートアップしそうな勢いになってくる。アリスは少し押され気味である。
「落ち着いてってば!とにかく、一体何が発端なの?それを教えてちょうだい」
アリスは二人にこの論争の原因を問う。何がこの二人をそこまで白熱させていたのだろうか。
「ちょっと待ってて・・・よいしょっと!これさ!」
にとりが背負っている大きなリュックサックから一枚のチラシを取り出し、アリスに見せる。その取り出した反動で、リュックサックから同じチラシと思われるものが私の足元にも落ちた。
「・・・!!!」
私も拾い上げてそのチラシを見てみると、私は信じられないものを目にする。
「な、な、な・・・!?」
〈外の世界の技術を解明!謎の巨大ロボの真相やいかに!〉
チラシにはそういった見出しの下にデカデカと写真が印刷されている。その印刷されているものに私は驚愕した。
F-16 ファイティングファルコン。空色を基調とした迷彩塗装で、機首と垂直尾翼には私が居たスワロー隊のエンブレムが付いている戦闘機。間違いない、私の愛機だ。
「・・・ん?あんたも興味あるのかい?この鳥みたいなロボの事」
そのF-16が載っているチラシの持ち主、にとりに話しかけられて私の感情が爆発する。
「・・・あなた!!これは一体どういうこと!?」
にとりに怒鳴りつけ、私はにとりの肩に掴みかかる。
「!?」
「ど、ドーラ!?」
「お、落ち着いて・・・痛いって」
「いいえ、説明してもらうまでは離さないわ・・・!はぐらかして逃げようなんて、そんなことはさせない!」
驚く周りを気にすることもなく、私は感情を抑えようともせず、にとりの肩を強く掴み続ける。なぜ私のF-16が写っているのか、それをはっきりさせなければならない。
このF-16はただの機体じゃない。私が訓練生時代を切り抜けてからずっとパートナーだった機体だ。幾多の戦場を共に飛び、改造・改良にポケットマネーまでつぎ込んだ。それほどにまで思い入れの強い機体だった。
それがなぜ今、この幻想郷で・・・この機体は私がレールガンに突撃した際、レールガンもろとも完全に壊れてしまったはず。写真のようにこんな完全な状態であることなどありえないのだ。
「説明しなさい!このチラシの写真のこれが何なのか!!」
ポン
にとりを問い詰めていると、後ろから肩に手を載せられる感覚がする。誰かが私を止めに来たのだと、私は振り返って邪魔をするなと言ってやろうとする。
「何よ!!邪魔し・・・」
「ふんっ!!」
ゴツリ
「うぐぅっ!?!?」
鈍い音が鳴り、同時に私の額に衝撃が走る。何が起こったんだ?い、痛い・・・
「く、うぅ~っ!!」
痛みのあまり、額を抑えてうずくまってしまう。
「痛たた・・・掴みかかってどうする、馬鹿者!」
ケーネ先生も私に怒鳴りながら額を抑えている。頭突きをされたのか、私。頭突きってこんなに痛いものなのか?
「まったく良い大人のくせして、すぐ暴力はイカンぞ!少しこれで頭を冷やせ!」
「・・・大人にもやるのね、それ」
「大人だろうが子供だろうが、よくないことをしている相手にはこれが一番だ。血が登って周りが見えんようになっている相手にも有効だぞ」
「体罰教師とは、前時代的だねぇ。そのお固い頭を柔軟にしろってんだ」
私以外の3人が先生の頭突きについて話をしている・・・ケーネ先生の頭突きは要注意、覚えておこう。
「大丈夫、ドーラ?」
「・・・あ、うん」
額の痛みが少し引いたところで、アリスに声をかけられる。私はそのまま額を抑えながら立ち上がる。
「ドーラ、ちょうどいいから教えておくけれど、この幻想郷では普通の人間が妖怪に手を上げるなんてことはあまり賢い行動ではないわ。なぜあそこまで高揚していたのかはわからないけれど、もう少し冷静にものを考えたほうが良いわね」
「普通じゃなさそうに見えるけどねぇ。性格も見てくれも。外来人かい、あんた?」
アリスに説教をされ、にとりからは敵対の目で見られる・・・私は冷静さを欠いていたようだ。
「・・・さて、何はともあれだ。結果的にこの場が落ち着きはしたが、何がなんだかわからん。どんな状況だ、これは?説明してもらうぞ、にとりにアリス、それと・・・名も知らないお前だ」
ケーネ先生に指を差される。私はまるで、教師に怒られる子供のようになってしまう。
「・・・ドーラです、ケーネ先生・・・さっきはごめんなさい」
「ドーラ、謝るのなら私ではなく、にとりの方に謝れ」
ケーネ先生は私をにとりの方向に向かせる。
「はんっ、結構馬鹿力なんだな、あんた。痕がついちゃったかもね」
にとりは肩を払って怒っている。当然だ、いきなり掴みかかって怒鳴りつけてしまったんだ・・・悪いことをしてしまった。
「・・・ごめんなさい!!」
「ひゅいっ!?急にびっくりするじゃないか!」
私は深々とにとりに思いっきり頭を下げる。
「その、あなたは知らないだろうけど、このチラシの写真に写ってるこれ、私にとって大事な物なの」
「・・・大事な物?ということは、あんたはこの鳥型の巨大ロボのことを知っているのか?」
「・・・ええ。知っているどころか、それに乗って大空を共に飛んでいた、相棒とも言える存在ね」
「ふむ・・・」
にとりはさっきまでと態度を変え、黙って私の話を聞き始める。
「けれど、その機体はすでに壊れてなくなってしまったはずだった。幻想郷の外で壊れたはずのその私の機体、それがなぜこの幻想郷に写真が存在しているのか・・・」
「だから気が動転してしまって、あんなふうに私に掴みかかってしまったってわけか」
「ええ・・・乱暴してしまって本当にごめんなさい。もう少し冷静でいるべきだったわ」
私は再び頭を下げる。自分の都合で、しかも初対面でいきなり掴みかかって怒鳴りつけてしまって、本当に申し訳がない。
「・・・わかった、今回のことは見逃してやるよ。忘れてあげよう」
そんな私をにとりは許してくれるという。
「ほ、本当に申しわ・・・」
「けど、1つ条件がある」
条件付きだったが。まあ、当然か。
「な、何かしら」
「今日、後であんたを私達、河童のアジトに招待させてくれ。見てもらいたいものが有る」
「「え?」」
にとりが私に提示した条件にアリスとケーネ先生が反応する。
「それくらいなら全然・・・」
「ドーラ、許したなんて嘘よ!」
同意の言葉を私が言おうとすると、アリスが私の方を掴んで制止する。
「アリス!?で、でも・・・」
「でもじゃないわ、尻子玉を抜かれて殺されても良いっていうの!?」
「ここ、殺される!?」
物騒な単語に私は驚く。にとりは私を殺そうとしているというのか。
「にとり・・・お前は白昼堂々と犯行宣言か!!」
ケーネ先生はにとりの頭を挟みこむようにして持ち上げている。なんという馬鹿力。
「痛い痛い痛い!!人の話は最後まで聞け、堅物教師!!さっきあんたがドーラに「すぐに暴力はいけない」なんて言っていたとこだろ!!」
「やかましい!!明らかに悪いことをしようとしている相手には関係のないことだ!!」
・・・ケーネ先生、それは理不尽だと思う。
「いいから、話を聞けっ!!」
「うわっ!!」
にとりは体を大きく動かしてケーネ先生の腕を解く。そして、なかば怒り気味に考えを言い放つ。
「私はただ、この写真のロボを、ドーラに見てもらおうと思っただけさ!」
「!!」
ということは、私のF-16はこの幻想郷に存在するということになる。これまた驚きである。
「ドーラが心配ならあんたたちも来ればいい!わたしゃドーラを攫おうなんて考えちゃいないよ!」
「お前たち河童が私達部外者を本拠地に入れる、だって・・・?そんな嘘をまあ抜け抜けと!」
「ええ、仲の良い魔理沙ですら入れてもらえないって言っていたのに」
「いや、魔理沙は入れてるよ。ていうか、無理矢理入ってきた。どういう神経してるんだ、アイツは。発明品の試験に協力してくれるのはありがたいけれども」
どうやら、河童というのは外部の者を引き入れることを拒むようだ。だから、ケーネ先生やアリスは疑っているのか。
「そりゃそっちから見たら疑わしいかもしれないけど、こっちだってリスクを払って言ってるんだ!外部に情報が漏れるリスクや天狗様に知られてしまうリスクとかがある!
けれど、私が見たところ、このメカは超がつくほどのレアなお宝だ!しかも、それについて詳しいかもしれない人物が目の前にいる!それだけのものなんだ、このロボは!」
にとりは私のF-16のことを熱弁する。かなり気合が入っているように見受けられる。
「あんたらがダメだと言っても、攫って連れて行くくらいはする程のもんさ!」
「・・・って、やっぱり攫おうとしているんじゃないか!!」
にとりの失言で、ケーネ先生がにとりに今度はグリグリ攻撃を繰り出す。
「痛い痛い痛い痛い!!」
痛そうだ・・・このまま見ているのは可哀想なので、私は止めに入る。
「先生、もう良いから!」
「しかしだな!」
「行くわ!私、あなたのアジトに!」
「ドーラ!」
ケーネ先生は私の身を案じているのか、私の名前を呼ぶ。私はそんなケーネ先生に自分の意志を語り始める。
「本当にあるという確証はなくとも、そのチラシに写っているのは確かに私の機体。危険を冒してでも私は確かめたいわ。
それに、どうもそのアジトっていうのはなかなか入ることのできない場所なんでしょ?そんな場所に入れるってことは、アリスや先生にも悪いことではないと思うのだけど・・・」
そして、私の機体が本当にあるのなら、私は再び空に上がれるかもしれない。その可能性があるのなら、逃すなんて事はできるはずがない。
「だから、申し訳ないのだけれど・・・アリス、ケーネ先生、一緒に来てもらえるかしら・・・?」
「ドーラ、お前が危険なことには変わりないんだぞ?」
「先生とアリスがいてくれれば心強いわ」
ケーネ先生が私の身を案じてくれていることはわかるが、どうしても確認しに行きたいのだ。
「そういう問題じゃ・・・」
「・・・はぁ、しょうがないわね。良いわよ、着いて行ってあげるわ、ドーラ」
「アリス!?」
アリスは私に賛同してくれた。その言葉にケーネ先生が驚く。
「先生、大丈夫。私達が守ってあげれば済むことよ。二人もいればなんとかなるでしょう。
それに、妖怪の山で騒ぎを起こすなんてことはにとり達河童も避けたいはず。私達がいるというのに暴挙に出ることは考えにくいわ」
アリスは自身の大丈夫だという理論をケーネ先生に説明していく。
「さっすが、アリスは話がわかるね!」
「あなたが怪しいことには変わりないけどね、にとり」
そして、ケーネ先生は納得させられた様で、重い腰を上げ始めた。
「・・・そうだな。私達がいればなんとかなるやもしれん。
それに、河童についても新たなことを知ることができるかもしれない。だとしたら、生徒に河童についての生態をより詳しく教えられるようになるな」
「それじゃあ!」
「ああ、私も着いて行く。しっかりと護衛させてもらうよ」
ケーネ先生の口からしっかりと協力してくれるという言葉が聞けた。
「二人共、申し訳ない。そして、ありがとう!」
私は二人に深々と頭を下げた。
「あなたにとって大事な物らしいからね。しっかりこの目で確かめに行きましょう」
「騒動になるようなことは起こさないようにな。
・・・それはそうと、ドーラ。さっきから普通に話しているが・・・お前は一体何者だ?」
「あ・・・あ、あはは・・・そうだった」
頭を上げた私は、自分が何者なのかを話さず、相手が何者なのかもよく知らない状況でここまで話していたことに気づいた。こりゃ恥ずかしい。
というわけで、私達4人はお互いのことを話しあうためにテラコヤに上がり、状況を整理した。その後、アリスの人形劇の時間が来た。せっかくだからと、私たちは子どもたちと一緒に見事な人形劇を楽しんだのであった。
F-16戦闘機をめぐって動き出す、私のこの幻想郷生活。一体どこに向かっているのかは全くわからない。
だがどこに向かっているかなどはどうだって良い。私はただ前に進むだけ。まずは私の愛機を確かめに行かなきゃね。
・・・待ってなさい、相棒。願わくばもう一度一緒に空を飛びたいものね。
第3話(Re)・完