東方空闘犬 〜 元エースパイロット、幻想郷の旅 作:メビウスノカケラ
まあ、会話が書きたいっていうのもこの小説書いている理由だからいいか。
というわけで、第5話です。
2016/04/03 リメイクしました。
滝の裏の洞窟を進んでいくと、行き止まりになっているのが普通である。が、そこで岩肌の何処かがずらせるようになっており、そこをずらすとドアノブが有る。鍵を差し込み、ドアノブをひねって岩肌を押すと、そこからは河童のアジトだ。
その中の中央ロビーとも言える空間、私はそこにいる。大きくくり抜かれたようなドーム状の広い空間、壁には支木が張り巡らされ、この空間全体の補強がされている。天井には中心に切れ目が入っていて、2枚の鉄の扉が合わさって閉じられている。
腕、足、顔・・・隅っこの方に、なにか巨大なパーツがかためられている。ここは河童の『ハンガー(格納庫)』だという。巨大ロボットを作ろうとしたが断念したとかで、私の機体がくるまではその残骸しか無かったみたいだ。
その残骸の使えそうなパーツを探しているのだろうか、にとり以外の河童も数人、チラチラとこちらを見ながら作業している。うっすらと話し声も聞こえるが、内容までは把握できない。
(・・・にとりって、ホント肝が座ってるよね~)
(・・・射命丸文って言ったら、烏天狗でしょ?)
(しかも、トップクラスの実力者。あんまり天狗内の評判はよくないらしいけどね)
(そんな相手に・・・私じゃあんなに軽い態度で話すことできないなぁ・・・)
(にとりだからできることだよね、あれ。私達みたいな雑魚河童があんな態度を取ったりしたら・・・ブルブル、考えたくないね)
(・・・ほんと、憧れちゃうな)
そんな様子を、私は自分の戦闘機『F-16』のコックピットから観察していた。
第5話(Re)「変化」
『F-16』のコックピットからはしごを使って地上に戻る。にとりと文のやり取りを横で聞きながら、私はアリスとケーネ先生の近くに寄っていく。
「こんな所にこんな物を隠してらしたんですねぇ」
アヤは戦闘機を写真に収めながら言う。フラッシュがドームの中を何度も照らしている。
「よく言うよ。あんたらだって色々隠してるんだろう?お山の大将の天狗様?」
にとりはそんなアヤに、渋い顔で悪態をつく。しかし、アヤは余裕の表情で対応する。
「いえ、今の私は天狗の一人としてではなく、『文々。新聞』の記者として取材に来ています。清廉潔白な私の新聞に隠すことなどございません」
自信満々に胸を張るアヤ。にとりはやはり難しい表情のまま。
「確かにあんたの新聞は他のと比べりゃちっとは事実に即している様だが、主観が混じりすぎてるんじゃないかい?」
「あやや、『文々。新聞』ちゃんと読んでくれてるんですね。ご意見がもらえるとは思いもしませんでした!」
批判したつもりが、逆に前向きな意見に捉えられてしまうにとりの眉間はシワが寄ったまま戻らない。このアヤという記者、なかなかに計算高く、頭の切れる女性のようだ。
「・・・カッ、これだから天狗は。気に食わないねぇ」
どうしようもないと、にとりは手を広げて首を振る。
「な~に言ってるんですか~。私とにとりさんの仲でしょう?」
しかし、アヤは逆に笑顔を振る舞う。その余裕に、にとりは周りにも聞こえるように舌打ちをする。
「なんか、にとりが押されてるわね。さっきまでと違って、余裕が無い感じ」
にとりの様子を見た私は、アリスと先生に聞くように話す。ぶっきらぼうでズケズケくるタイプのにとりが押されているのが不思議だ。
「人間、誰しも苦手な相手というものはいる。妖怪も然りだ」
「あの子、あの天狗さんと話してる時はいっつもあんな調子。いつもの調子が、面白いくらい崩れちゃうのよね」
にとりみたいな押せ押せタイプでも、苦手でやりづらい相手はいるのか。
「まあ、あのブン屋には、にとりじゃなくてもペースを乱されるがな」
そしてやはり、あの記者は切れ者のようだ。注意は怠らないほうが良さそうだ・・・私は口は弱いけど。
にとりは嫌そうにしながらも、アヤとの会話を続ける。
「・・・で?要件はなんだい?」
「いや、要件ってほどでもないのですがね。あなた方がそこの人間であろう女性を“攫って”いるのを見かけましてね~」
文の眼差しはにとりから私に移る。考えの読めない赤い瞳はがまるで、獲物を見定めるかのように見つめるので、私は少し気圧されてしまう。
「ど、どうも」
少し萎縮しながらも、私はとりあえず少し会釈をかわす。アヤはにっこりと微笑み返し、にとりに向き直す。
「あの方ですよね?攫ったのは」
「攫ったなんて人聞きの悪い事を言うな、招待したんだよ。寺子屋の先生とあの人形遣いもいるのが何よりもの証拠さ」
にとりは先生とアリスに指をさす。
「人里の守護者の一人と、お人好しの人形遣いさ。アジトに招待するにあたって、人間一人の護衛として着いて来てる、ってことぐらいわからないかい?」
「知ってましたよ。そんなに私は馬鹿じゃありません。でも、2人に担がれて運ばれている様は、傍から見たら攫っているように見えましたがね」
アヤは首にかけているカメラを持って、手で揺らす。私が運ばれている様子を写真に収めた、弱みは握っているのだ、ということだろうか。
「さいですか」
「しかし、最初に見つけたのが私でよかったですね~。他の天狗。椛あたりに部外者を山に入れる所を見つかっていたら、あなた、何を言われたものかわかりませんよ」
「しょっちゅう侵入者を匿って観察しているあんたには言われたくない」
「あや?何の話ですかね~?」
にとりが言い返すも、アヤはわざとらしく首を傾げてとぼける。しかし、その表情は余裕のまま。
その様子に苛立ちながら、にとりはこれ以上話していても無駄だと言い、本題に入っていく。
「お前の言いたいことは分かったよ、射命丸!部外者を山にいれたことを黙っておく代わりに、ロボの取材をさせろってことだろう?」
「お察しの通りです!」
にとりが指すのは私の『F-16』戦闘機。アヤはそれに向けて再びシャッターを切る。
「それから、あなたにも!」
「わっ!」
続けてこちらにもカメラを向けて、閃光を走らせる。急に自分に向けられたカメラに驚き、フラッシュに目を瞑ってしまった。
「あ、撮り直しですね」
「勝手に撮っといて・・・」
アヤは苦言を言おうとする私を無視して、体にかけた鞄を開き、手帳とペンのような筆を取り出す。
しかし、そんな取材を始めようとするアヤを制止するように、にとりは強い口調で言う。
「ちょっと待った。まだいいとは言ってないよ」
「おっと、どうしましたか?にとりさん」
アヤは動かそうとした筆を止めて、にとりに顔を向ける。
「取材には一つ条件がある」
「何ですか?侵入者のこと、話しちゃっていいってことです?」
柔らかい口調ではあるが、早く取材をさせろと、アヤは持っている“カード”を示してにとりを威圧する。
「それは困るが、こっちも真剣なんでね。
この鳥型ロボは、我々河童の技術力向上に大きく貢献してくれるに違いない。いかなるリスクを背負ってでも、分析を進めたいのさ」
にとりは手を広げ、『F-16』に向ける情熱をアヤに説明する。にとりは話を続ける。
「それに、射命丸。お前にも悪い話じゃ無いよ、今から言う条件っていうのは」
にとりはニヤリとほくそ笑む。それを見たアヤも、釣られたように笑みを浮かべて、にとりにその条件を聞く。
「・・・何をお考えで?」
「動くんだよ、このロボは」
その一言に、アヤは目を見開かせた。
「なんですって?」
「“動く”のさ、この鉄の鳥は」
「それ本当なの?ですか?」
取ってつけたように、畏まった口調に直すアヤ。その目はキラキラと輝いている。
「まさか、って思うだろ?けれど・・・」
にとりはこちらを見て、アヤに私の存在を示す。
「へ?」
「お前も察しているかもしれないが、そこにいるドーラはこのロボの持ち主だそうだ。そして、ドーラはこのロボが今にも動ける状態にあると言い、いとも簡単に動かした。間違いないよ」
にとりが私の立場を口に出すと、アヤは私に詰め寄って確認を入れてくる。
「本当に!?あなた、それは事実なのですか!?」
私に向けられる赤い目はさらに輝きを増したように見える。余程興味が有るのだろうか。
「え、ええ、事実よ」
嘘を言っても何をされるか分かったもんじゃない雰囲気なので、私は肯定した。
「・・・!ちょっと、動かしてみてくださいよ!」
「わわ!!ちょっ!?」
アヤは目にも留まらぬ速さで私の後ろに回り込み、後ろから服を掴み私の体を持ち上げる。そして、せっかく降りてきた戦闘機のコックピットへと再度降ろされる。
「ほらほら、早く!」
にとりとはまた違うアヤの期待の眼差しは、私を急かすように語りかけてくる。目は口程に物を言うと言った感じに。
「ちょ、ちょっと待って・・・」
私は操縦桿を再び握り、エルロン、尾翼、ラダー、エアブレーキ・・・F-16の可動部分を様々に動かしてみせる。
「おおお!!動く、動きますよ~!!」
その様子をパシャパシャパシャリと、まるで雨が落ちる音のように素早くシャッターを切っていくアヤ。
「どうだい?射命丸」
「にとりさん、マジものじゃないですか、これ!大スクープですよ、これ!!」
写真を撮る手は緩めることなく、アヤはにとりに興奮した様子を伝える。
「これって、飛ぶんですよね?ドーラさん?人間が空を飛ぶための機械なんですよね?」
アヤはやや早口になりながら私に確認を取ってくる。それに応えようとする前に、にとりが注意を入れてくる。
「“飛べない”んだ、射命丸」
「はい?え、“飛べない”!?」
アヤはくるりと縦回転し、頭を地面に向けた姿勢になってにとりを視界に入れる。
にとりは先程私が話した内容をアヤに説明する。
「このロボが飛ぶには相当なスピードが必要なんだ。その為の助走には、相当長いまっすぐな平地が必要なんだ」
「平地って・・・そこいらの道じゃ駄目なんです?」
「ドーラの話から判断したことだが、しっかりと整地されていなけりゃ駄目らしい。なんとか距離は稼げても、それだけの長い距離を硬くて平らな地面にすることは、この幻想郷じゃできない」
「なんだ、それじゃスクープの面白さ激減じゃない・・・本来の役割も果たせずに動くだけのオモチャなんて、誰も面白がらないですよ」
飛行機が飛べない事を知るや、アヤは肩を落とす。
「せっかく今年こそは新聞大会の上位・・・いや、トップを勝ち取れると思ったのになぁ・・・」
「けれど、私は『方法』を思いついた」
「「・・・え?」」
にとりの言葉に、私もアヤと一緒になって驚いてしまう。
「方法って・・・滑走路もないのに?」
突然にとりから発せられた、再び飛ぶことができる可能性を示す発言に、私は鳩が豆鉄砲を食らったようになってしまう。
アヤはにとりの話を聞くために、もう一度地に足をついた。私もコクピットから再び硬い大地に戻る。
「ドーラ、さっき説明してくれたよね?ものすごく加速してこの翼に『風』を当てると機体が浮くって」
「・・・なるほど、そういうことですか。にとりさんの条件というのは!」
「そういうことだよ」
私が説明したことをにとりの口から聞いたアヤは、合点がいったと手を打った。
「??」
しかし、私はやはり置いてけぼりである。二人は一体何を言っているんだ?
「ならば、その条件お飲みしましょう!」
「よしきた!交渉成立だな!」
「この機械が『翼』なら、私は『風』・・・ふふふ、外の世界の空飛ぶ機械を動かしたなんてスクープ、きっと誰も予想だにしないでしょうからね・・・!」
「ね、ねえ!どういうことなの?2人だけで話が進んでるみたいだけれど・・・」
たまらず私が聞くと、にとりは得意げな顔で私に説明を始めた。
「逆転の発想さ、ドーラ」
「逆転?」
「加速を付けて、翼を風に乗せることで空を飛ぶこのロボ。けれど、十分な加速をこの幻想郷で得ることはできないと言っていいだろう。
だけど、加速ができずとも、『風』が機体を浮き上がらせられるほど十分に有ったとしたら、どうだ?」
「・・・!」
私は感づく。にとりはにやりとしながら自信満々に自分が立てた仮説の説明を続ける。
「長い平坦な道はそう簡単に作れない。だが、幻想郷で『風』を作るのは容易いのさ」
「この私、清く正しい射命丸文の手にかかれば、お茶の子さいさいです!」
アヤは誇らしげに、手で叩くように自らの胸をポフンと軽く揺らす。
「あ、あなた、そんなことができるって、嘘でしょ!?」
「もちろん、嘘じゃありません!」
アヤはぱちんと指を鳴らす。閉鎖され、風の吹かないはずの地下ハンガー内に、そよ風が流れだす。
「このように、風の吹かない場所にそよ風を吹かせたり、新聞をばらまくために突風を起こしたり、侵入者を阻むために旋風を巻き起こしたり、私にかかれば自由自在なのですよ!」
「まあ、正確には天狗という種族が風を操る事ができるんだけどね」
風を操る・・・なんともゾッとする超能力だ。アリスの人形や宙に浮くというのにも驚いたが、戦闘機乗りの身としてはこれが一番怖いかもしれない。
風が乱れれば飛行機は体勢を乱しストール(失速)。そのまま地面にキスだ。しかも、眼に見えないと来た。避けようがない。
「・・・パパラッチに風害、あなたって、かなり質の悪い妖怪のようね」
「あやや、失敬な!私は相手に敵意がなければ、人畜無害な妖怪ですよ」
・・・天狗は危険な妖怪、覚えておこう。
「それで、話を戻すが」
にとりは説明を再開する。
「変な記事にされちゃたまらないから、天狗に頼むのはホントは嫌だったんだが・・・見られてしまったからね。仕方なくだが、この射命丸の『風』を使って、この機体を飛ばそうって言う魂胆なのさ」
にとりとアヤが二人で話していたのは、飛行機が浮き上がるほどの強風をアヤが起こし、それに機体を乗せて上昇させる、というもの。
鷹も風にのって空中で動かずに浮いていられるという話も聞いたことがあるし、それだけの風が本当に吹かせられるのであればだが、この方法は悪くはないと思う・・・だが、
「どうだい、ドーラ?これで行けるんじゃあないかい?」
「・・・“浮く”だけならそれで大丈夫だと思う。だけど、問題があるわ」
そう、これでは“浮く”だけで“飛ぶ”ことができない。
「問題があるのか?うーん・・・」
にとりは少し険しい顔になりながら、その問題点は何かと考えを巡らせる。
「飛行機は常に前に“進む”事を続けなければ飛ぶことができない。前進することで翼から揚力を生み出すから」
私がそう言うと、にとりとアヤはハッとした表情をした。
「あ、そうか!そりゃそうだ、盲点だったな・・・」
「鴉と違って羽ばたくこともできないし、私達みたいに自由に方向転換して飛び続けられるわけでもない・・・ということですね」
ヘリコプターのような回転翼機とは違い、翼が固定された飛行機は、“前に進むこと=飛ぶこと”に他ならない。前方に向かう速度が無ければ、仮に風に乗せられて浮けたとしても、風速が緩まったり止まったりしたら、前に進めずそのまま落下していく。速度を上げる間もなく地面に真っ逆さまだ。
それに、アヤの能力の精度がいかほどかは分からないが、風というものは不安定なものである。戦闘機自体も、万分の一レベルの誤差であろうが、完全に設計図通りの構造をしているわけではない。風が乱れたり、戦闘機に異常が出たりして体勢を崩しても、墜落コースまっしぐらだろう。
「じゃあ、どうすりゃいいってんだ?ああ、もう、いきなり夢の計画が頓挫してしまうっていうのか?」
「どうにかならないのです?ドーラさん!」
すがりつくような様子でにとりとアヤは私に解決策を問う。
「うーん・・・思いついたことは一つだけあるんだけど・・・」
「何かアイデアでも?」
「ええ。けれど、絶対にできるって保証はないわ」
私は確証はないと注意を払ってから、自分のアイデアを二人に向けて解説する。
「風で機体を浮かせるまでは同じ。さっき言ったように、そのままでは前に進むことができないのは火を見るまでもないわ」
「うん、浮くだけのロボじゃないだろうしね。そうじゃなきゃ、あんな形をするはずもない」
にとりがうなずいたのを見て、私はそこからの動きの解説を続ける。
「だから、目一杯高さを取るのよ。できるだけ高くね」
「高さ・・・なるほど、ドーラさんの思いつきはわかりましたよ!」
アヤは気付き、私の代わりに高さを取る理由を説明してくれた。
「高いところから落下させて、スピードを上げる。滑空し、風に乗る時と同じですね!」
「その通り。十分な高さから落とすことで体制を立て直す時間を、重力の力を借りることでスピードを稼ぐことができる」
敵機を追う際に、自分の速度が劣速である際に取る、降下して速度を補い相手に追いつく『マニューバ(空戦機動。空戦の際の飛び方のこと)』、『ロー・ヨー・ヨー』を応用した機動だ。
しかし、本来は飛行している状態で行う動きだ。成功する可能性はあるものの、大きな危険が伴う。
「問題は高さをどこまで取れるかということ。それに付随して、アヤと操縦者との連携、操縦者の操縦技量の課題も中々に大きなものだと思う」
アヤと息を合わせて、風の強さと方向、戦闘機の操縦タイミングを合わせること。落下中、体勢を立て直せるほどの技量があるのかということ。そして、その2つをしっかり満たして、なおかつ気流の乱れに襲われずに高度がしっかりと稼げるかどうか。
私はその3つを、それぞれ理由も説明していく。
「操縦者とアヤはしっかりと打ち合わせを行い、息を合わせなきゃいけない。操縦者との意思疎通が難しいからだ」
幻想郷に、遠距離の相手と意思を疎通する方法は無いとみられる。アリスの人形に使われている無線が使えればいいが、私の戦闘機と通信ができるのかは怪しい。
「それだけではない、操縦者自身の技能も重要な要素ね。上昇中も落下中も、機体は常に不安定だから」
飛行機の操縦は複雑だ。スティックを倒して曲がることができ、ボタンを押すだけで加減速ができる、そんなテレビゲームとはわけが違う。
操縦桿とスロットルだけでなく、機器のチェック、計器の読み取り、各種レーダーの正しい使い方など、覚えなきゃいけないことだらけ。ただ飛ぶだけでも大変なのに、こんな特殊な飛ばし方、エースと呼ばれる人間でも確実にこなせる保証はない。
「そして、その2つがしっかりしていなければ、機体を十分に浮かすことは困難だろう。高度が低すぎると、体制を立て直す前に・・・ドカン、ね」
低過ぎたら立て直す時間が足りずに地獄行き。連携がうまくいかずに、操縦者の操作ミスにより、はたまた急激な突風により・・・不測の事態で高度を得る前にバランスを崩すことは、この世からおさらばのカウントダウンが始まってしまうことである。
「・・・この壁は高い。かなり高い。どれか一つが欠けても奈落の底。そんな綱渡りな方法だ。すべての要素の連携が・・・そう、連携が大事なのよ」
連携、編隊を組んで空を飛ぶものとして何度も聞かされた言葉だ。こうやって飛行機の飛び方について話していると、ついつい過去の記憶に浸ってしまう。
思い出すな、皆のこと。昔、空を共にした仲間たち。私がいた部隊、スワロー隊のジャーン、ロスコー、トマス、ヘインズ、管制塔のネイミーとその飼い犬ジェイク・・・そして、モーリス中佐。
「ドーラさん、どうしましたか?そんな過去を懐かしむような顔をして」
アヤは私の顔を読み取り、聞いてくる。さり気なく顔から感情を読み取られるが、気にせず続ける。
「・・・あ、ごめんなさい。それから、もう一つ問題があるわ」
私は最後にもう一つ、この方法に限らない欠点を示す。
「着陸時にどうするか。浮き上がったは良いものの、着陸できなければ意味が無い。着陸できなければそれは、ただの出来損ないのミサイルよ」
ここまで、離陸することだけを説明してきたが、離陸すれば当然、着陸しなければならない。それが、空を飛ぶということである。
「飛んだらそれだけでも面白いのですが、現物が残っている方が裏を取ったという証明にもなりますしね。で、着陸はどうやってやるかとか、案はあります?」
「機体に負荷はかかるが・・・『アレスティング・ワイヤー』を使う方法ね」
「あ、あすれちっく?なんだそれ?」
にとりは聞き慣れない用語に戸惑う。着陸の方法とともに、私は説明する。
「戦闘機が短い距離で止まるために使うものよ」
私は『F-16』の排気口下部の当たりに回りこみ、そこにある装置を二人に見せる。
「ほら、ここにフックがあるでしょ?これにワイヤーを引っ掛けて無理やり速度を落とし、着陸の際の距離を短くするのよ」
「は~そんなものまで。これなら、幻想郷の狭い土地でも着陸できるかもしれないってことか」
にとりは感心しながらフックを覗き込み、アヤはやはり写真を撮る。
「けれども、私の機体についているのはあくまで緊急着陸用。普通は長い距離を使ってゆっくりと減速していくのよ。
普段からこのフックを使って、ワイヤーで止まる機体は、それ用に車輪の支柱とワイヤー周辺を頑丈にしている。この機体はそういう構造になっていないから、機体に過大な負荷がかかって、故障が生じる可能性は大よ」
「なるほど、一回限りになるかもしれないということか」
戦闘機の複雑な構造を、こんな田舎のような幻想郷の技術力じゃ、修理は難しいだろう。にとりたちがいずれ開発する可能性はあるが、何年、何十年かかるかわからない。それだけの時間がかかるならおそらく、バラして個々の技術を研究するために使うのだろう。
「以上のことから、どうやっても、この方法でのフライトは一回勝負になると思うわ」
一頻り話し終え、私はふぅと息を吐く。そして、二人の様子を見る。
「うーむ、一回だけか・・・他に方法はないものか・・・」
にとりは顎に手を当て、目を伏せて考えを巡らせる。やはり、データが一回しか取れないというのは、エンジニアとしては辛いということだろう。
「・・・・・・」
アヤは無言で手帳にメモをし続ける。かなり神妙な面持ちから察するに、真剣にこのネタに取り組もうとする様子が伺える。
「・・・ま!とりあえずその方法しかないんなら、やるしかないね。他にいい方法が思いついたら、それも随時考察していくという形で」
にとりが考えることを諦め、開き直る。それと同時に、アヤもメモを終え、にとりに続く。
「計画は綿密に行わなければいけないし、私も操縦者との息を合わせるのに時間がかかりますしね。プロジェクトの期間は長いスパンで見たほうが良いでしょう」
期間が長ければ、計画の打ち合わせも十分に行える他、新しいアイデアが出た際の考察の時間も取れる、ということね。
「それで、もちろんこれにはあなたが乗るんですよね?」
そして、アヤは私に目を合わせて聞いてくる。この幻想郷で、私の愛機を操縦できるのは、もちろん私しかいない。
「・・・そうなるわね。まあ、言われなくてもそのつもりだったけど」
それに、他の人に操縦させるなんて、そんなこと、私も他人もできるはずがない。長いブランクはあるが、やるしかあるまい。
「となると・・・まず最初にやるべきは、貴方へのインタビューですかね」
「そうだな。私もこの機体のことを予め喋ってもらおう。洗いざらい、ね」
二人はまず、話を聞くことからはじめようと計画を組み立てていく。
「どうして、インタビューから?」
何か少し引っかかった私は、その理由をなんとなく聞く。
「ええ、墜落死して後からインタビューができなかった時のための保険です」
「え」
アヤの答えに、声が詰まってしまう。後に続いたにとりの言葉にも少し戸惑ってしまう。
「同じく。死なれてこの機体の事を話せなくなってしまわないように、事前にね」
そうだった、彼女らは人間じゃあ無いんだ。さっきまで普通に喋って来たけれど、価値観が根本的に人間と違う部分があるのだろう。基本的に、人間の命などどうでもよいのかもしれない。
「お、落ちないわよ・・・落ちてたまるもんですか」
私は二人に向けて、そして自分に言い聞かせるように、強がる言葉を無理に吐き出した。
西の空が炎のように赤く、頭上に向かうに連れて暗くなっていく。それまで私たちはこの先の予定を話したが、結局詳しいスケジュールは定まらずに、とりあえず長い期間だけ取って随時計画を進めていこうということになった。
そして話を終えて、山の妖怪に見つからないようにと、アヤの手引きで人里に戻ってきた。
「それじゃあ、みなさん!今後も『文々。新聞』をご贔屓に!」
アヤが飛び去っていく。今後、妖怪の山に向かう際は、信頼できる付添人を連れて、アヤに案内してもらうことになった。
「ふぅ、結局こんな時間になっちゃったわね。私は帰るわ。先生、ドーラを頼みます」
アリスもアヤが飛び去った後に、森の方向へとふわりと飛んでいった。山に向かう付添人に、アリスとケーネ先生時間があるときはなってくれるという。ありがたい話だ。
だが、二人だけでは少しいつでも対応できるか怪しいところがあると、明日はハクレイジンジャに『ハクレイのミコ』という役職につく人物に、付添人候補の一人となってくれるかを交渉しに行くそうだ。
本当は、この場所には私の正体がもう少しつかめてから行く予定だったようだが、仕方なくそうなったようだ。ちなみに、ジンジャに行くことが無ければ、アリスが私にテーブルマナーを教えるために1日を費やすことになっていたという。危なかった。
「さて、ドーラ。寺子屋の戻ろうか」
そして、今晩はケーネ先生の元でお世話になることになった。寝る場所を探す時間も無くなってしまったからね。先生が親切な人でよかった。
「アリスに任されたからには、しっかりと面倒を見させてもらう・・・と言いたいところだが、一つだけ断っておくことがある」
先生は改まって私に話す。
「何かしら、ケーネせんせ・・・!」
そんなケーネ先生を見て驚いてしまう。腰の付け根あたりからフサフサの何か。“尻尾”だ。
「ああ、もう始まってきたのか」
「先生、これって・・・!!」
どういうことかを聞こうと頭を上げて先生の顔を見ると、頭から尖ったものが2本、飛び出してきている。“角”だ。
それだけではなく、肩と胸がつっぱり、服は少しキツキツになってきている。体つきも少し大きくなっているのか。
「私はな、満月の夜だけ姿が変わるんだ。角が生え、しっぽが生え・・・服もキツくなる。私は『ワーハクタク』だからな」
「わ、ワーハクタク?」
聞き慣れない言葉。ワーウルフなら知っているが。
「今日、私は人間じゃないと話しただろう?こういうことなんだ。満月になると、私の身体は人間から『ハクタク』に変わる。まあ、狼女みたいなものかな」
「そ、そうなのね・・・」
先生は苦笑いを浮かべながら、自分のことを話す。私は初めて妖怪らしい見た目に近くなった先生を見て驚く。先生はさっき言った断っておくことを続ける。
「それでだ。本来、私は『歴史を食べる』能力を持っているんだが、この姿でいる時だけ『歴史を創る』能力が使えるようになるんだ」
「れ、歴史?」
「そうだ。それに関する仕事がこの満月の一晩で終わらせなければならないから、今晩はとても忙しく、部屋にこもりっきりになると思う」
詳しい仕事は言ってくれないが、先生の他に歴史の管理人のような仕事をしているのか。
「だから、食事、風呂、寝床はちゃんと用意するけれども、それ以上の事はできんから分かっておいてくれ。すまないがな」
「わかったわ、ありがとう」
「それとだ。『入るな!!』と書かれた張り紙の部屋には入るなよ。私が仕事をしているから。ハクタク化の影響で気性が少し荒くなるのと、溜まった仕事への苛々で、間違いなく相手が誰であろうと頭突きが飛ぶ」
ケーネ先生は、ツノ付きの頭をグワンと回す。体つきも少し大きくなって、角も生えた頭突きは、朝に受けた普通の頭突きよりも遥かに痛そうだ・・・覚えておこう。
「そ、それもわかったわ。お仕事、頑張って」
「うむ、ありがとう。それじゃあ、時間もないから、早く食事にしようか」
今日の晩ごはんはライスに川魚の丸焼き、山菜のおひたし、そしてミソスープ。どれも塩味がきていて、ライスにぴったりなメニューだった。ごちそうさまでした!
そして、食事を終えた私は風呂に入る・・・アリスに無理やり入れられた時は人形たちにせわしなく世話されたから、ゆっくりできなかったな・・・。
そういや、たまの休みに体を休めるために同僚とスパに行くことはあったが、軍ではシャワーしか無かったな。シャワーでは軍に女性が少なくて狙われることもたまにあったけど、後ろから襲ってこようとした男に肘を入れたこともあったっけ・・・
風呂の心地よさは、私にそんなことを思い起こさせる。ゆっくりと浸かり、少し熱めの湯を疲れが取れるまで楽しんだ。
風呂から上がった私は新しい下着と用意された寝間着・・・はまだ着なかった。アリスからもらった私の服を着直し、浴場を後にする。昼間、アリスとテラコヤに向かって歩いている時に気になるところを見つけ、そこに今夜行こうと思っているからである。
思い立ったが吉日。明日まで待っていられない。「これから人里で買い物をすることがあるでしょうし、少ないけど持って行きなさい」と言われてアリスからもらった財布を持ち、私は“夜”の人里へと赴く。
「・・・昼間とは打って変わって、ものすごく静かね」
日中の賑やかさはどこへやら。声が聴こえるのは里の中心部にある居酒屋からのみ。私が探していた喫茶店は閉まっていた。
とりあえず、なにか無いかと歩いていると、アリスと一緒に里に入った門にたどり着く。
「もう端っこか・・・里の夜は酒飲み以外は静かなだけ。覚えておこう」
けれど、夜空は綺麗ね。私は空を仰ぎ見る。
電気がないせいだろう、こんなにも夜空が透き通っているのは。月も星も、まるで雲の上を夜間飛行しているかのよう。夜間飛行で見る景色は大好きだったなぁ。
《・・・を・・・・・・・・ね》
「・・・え?」
感慨にふけって月を見ていると、何故か無線のノイズのような雑音混じりの声が聞こえた。まるで聞き取れなかったが、人の声だ。
「・・・だ、誰かいるの?」
声の正体がつかめずに不安になり、私は後ろを見る。しかし、人影などありゃしない。
「・・・気のせい?」
そう思って振り向き直した時だった。
「うっ、うわああああああ!?!?」
私の目の前は真っ暗になった。
第5話(Re)・完