不機嫌そうなピンクの子の叫びが静まると、無難に俺は少し考えながら言葉を返した。
「俺は野中健。何なのかと問われるとその、返答に困るな。君も自分という人間は何者なのかという曖昧かつ哲学的な質問に答えられるほどの賢者でもないだろう?」
うん。彼女の求めてるものは多分こういった答えではないだろうし、不快にもなる発言かもしれない。
だが、あんまりにも上からの物言いに、大人げないとは思っていてもついこんな返し方をしてしまったのだ。
案の定ピンクの子は全身をおそらく怒りで震わせながらこちらを睨んでいる。
「そんなこと聞いてるわけじゃないわよ!アンタは私の使い魔でいいの!?それとその鎧は何!?アンタもしかしてメイジなの!?」
「生憎俺はメイジなんてもんじゃない。そして君の使い魔かは魔力的な繋がりも感じないし、否定してもいいのだが何分主従っぽいやり取りをやった手前いきなり突き放すのも悪い。気が向くまま付き合う使い魔とかどうだ?」
偽らざる本心である。自身に都合のいい感じの。なんでこんなに強気なんだろう俺。シャドウサーヴァントの能力を使ったからだろうか?
セイバーアルトリアの力を自分の内に感じてから、ここの周りの人間に全く脅威を感じ無いのだ。
これも騎士王の持つ『直感』スキルのおかげだろうか。
「い、い、いぃぃぃぃ」
「胃?意?すまんよく聞き取れな…」
「良いわけあるかあああ!気の向くままじゃなくて!アンタは私の使い魔なの!決定!わかった!?わかったわよね!?」
「お、おう」
しまった。つい勢いに押されて同意してしまった。俺も少市民な部分がまだ抜けてないようだ。
ようやく納得行く答え得られたのか、大声の出し過ぎで肩で息をしながらピンクの子は満足気に頷いた。
それが彼女、ルイズとの出会いだった。
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なんとも言えない日々だった。まるで奴隷のように、という程でもないがこき使われる毎日。
あの後俺はピンクの子の部屋に連れられ、やたら長い彼女の自己紹介を聞き、様々な仕事を押し付けられた。
まあ、働かざるもの食うべからずと言うが、労働契約とはお互いが納得して報酬の遣り取りをするものである。
何が悲しくて年下の少女の下着を洗濯せなあかんのだ。
執事スキルってサーヴァントで持ってる奴いただろうか?家事EXとかだと嬉しい。
試しにアーチャー、エミヤへとシャドウサーヴァントしてみたがスキルや能力として無いものは俺という個人の人格がサーヴァントに引っ張られ過ぎないようにするための処置なのか、戦闘技能関係以外カットされるらしく、ルイズの世話は自分の今までの経験を信じるほかなかった。無念。
しかし使い魔の仕事は面倒なのでシャドウサーヴァントによる趣味と実益を兼ねた実験を続けた結果、結論から言うと家事など、存在しないスキル、と言うより現行俺が知らないスキルは表現できないらしい。
皇帝特権などのスキルでも既存のスキルしか模倣できなかった。
自分の能力が万能でないことにもどかしさは感じたが、残念には思わなかった。
ゲームでもそうだが、チートは程々が大事なのだ。何事もやり過ぎると弊害が生まれるものである。
そんな風に自分の能力を確かめつつルイズの使い魔生活を続けていると、生活をしているのでどうしても人付き合いと言うものは出来てしまう。
「シエスタ?なんだか忙しそうだな。俺で良ければ手伝おうか?」
そんな俺がルイズの頼みを聞いて一段落した時見かけた知人のメイド、シエスタへとそう声をかけた。
学園に通う貴族はやはり俺のことを平民だと思っているからかどうにも下に見がちだが学園で働いている者達は平民らしく同じ立場だと思って気軽に話すことが出来たのである。
彼女もそのような経緯で知り合えた仲だ。
「ケンさん!けど…ルイズさんの使い魔でもある貴方に私達の仕事をさせるわけには…」
彼女は一瞬破顔して嬉しそうな表情をするが、すぐに俺の立場を思い出して遠慮しだした。
それに対し俺はいまのところのルイズの要件は終わって、暇をもらったからと、人手不足らしい給仕の仕事を手伝うのだった。
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ホント、変な使い魔。
人間の時点でイレギュラーではあるんだけど、アイツは、人間としても変わっていた。
まず、私の家、ヴァリエール家の威光に全く怯えないで普通に嫌なことは嫌って言う。今まで会った平民なら皆メイジである時点で何でも頷くのが普通だったのに。
初めてあった時の鎧について問いただしてもはぐらかされるし。どうにも謎が多くて気になってしまう。
まあ根は善人みたいだし、2、3日様子を見ても問題を起こすようにも見えなかったし授業などに連れて行ったりもした。
なんだかやけにまじめに授業を聞いた後、『あれ、グロウアップブロウを使えばすぐに覚えられたりするのかな?』や『いやしかしヒュージスケールを考えたらやばいか?そもそもアルターエゴにはなれるのか?なんか怖いし』などとブツブツ言っていた。さっぱり意味が分からない。
そんな奇妙な言動の時もあれば、妙に教養があるようなところもある。謎が深まるばかりだ。
そんな本人の前で、アイツのことを思考したい時に暇を出してやっている。私もずっと一緒じゃ疲れちゃうしね。
まあ、こんなことを考えていた後すぐに、その日アイツに暇をあげたことを後悔することになったのだった。