【完結】ヤンデレの女の子に死ぬほど愛されて眠れない兄になって死にたくなってきた 作:食卓塩少佐
第一章の最終話を投稿したのは2015年のバレンタインデーでした
まだ最後まで書き溜めていないですが、終章の出だしにぴったりなのでフライングで更新します
1~2週間以内に、続きを順次投稿していくのでよろしくお願いします
最後だけ最終回+後書きなどが入るので、その時だけは目次から入ってください
それでは、はじまりはじまり
小鳥遊夢見という少女は、俺の母方の従姉妹にあたる人物で、つまりは夢見の母親は俺の母さんの妹だ。
俺が小5の頃に、小鳥遊家は我が家の向かいにある貸家に越してきた。
歳が一歳違いだった事もあってか、仲良くなるのにそんなに時間はかからず、気が付けば休みの日に綾瀬や渚と合わせて一緒に遊ぶ事もあった。
渚と同じように俺を『お兄ちゃん』と呼び、一時は渚が妹ポジションを奪われるのでは的なヤキモチを焼く事もあった(今考えればこの時かなり危険な状況だった)が、当時まだ小学生だった渚に対して夢見は、丁寧にコミュニケーションを重ねて行って、『本当の妹は渚ちゃんだけだよ』なんて上手く納得できることを言ったりして、喧嘩も起こす事は無かった。
また、これは本当に恥ずかしい話になるけれど、夢見が来た頃から両親の不在が多くなってきて、当時は渚も小学生で今より家事スキルが低く、俺もずぼらだったので、料理や洗濯などだいぶ助けられた事もあった。
そういった事もあって、小鳥遊夢見という少女は、俺にとっては世話焼きな面があり、器用で気が利く、可愛らしい女の子……という印象だった。
そんな夢見だけど、唯一、気になる事がある。
それは、あの子の父親についてだ。
俺はあの子の父親の姿を、ただの一回でも見た事は無かった。
それだけじゃなく、彼女の父親にまつわる話を、小鳥遊親娘はおろか、俺の両親からも耳にした事が無い。
かといって疑問を親子に直接聞いてしまうほど俺は馬鹿じゃなかったし、同じく疑問に思っていただろう渚や、一緒に遊ぶ事が何回かあった綾瀬も、誰一人夢見の家庭事情について聞く人はいなかった。
そんな些細な疑問を抱えつつ数年間、夢見は俺のご近所さんとして一緒に過ごしたが、俺が中学2年だった時の夏頃に急な引っ越しが決まり、そのままロクな挨拶もなく離れ離れになってしまう。
後になって、夢見に父親が居なかったのは両親が酷い喧嘩別れをしたからで、その後急に引っ越しが決まり街を離れたのも、再婚相手が見つかったからだと教えられた。今になって思えば、あの子がすぐ俺に懐いたのも、お兄ちゃんと呼んできたのも、父性──頼れる男性や心の寄す処になり得る存在に飢えていたからなのではないか。そう思ってしまう。……少し烏滸がましいけどね。
再婚の話が急だった事に加え、どうやら母さんは夢見の母親が再婚する事に大きく反対していたらしく、以後は音信不通となっていた。
そんな夢見が『もうすぐこの街に戻ってくるかもしれない』という話を受けたのは、綾小路家とのイザコザが住んだ後くらいだったが……何故こんな急に姿を見せる事になったのかについては──
『ごめんなさい、伝えるのが遅くなって』
「ううん大丈夫、ちょっと驚いただけ」
みんなをリビングに預け、2階の渚の部屋に移動した後、スマートフォンのスピーカーをONして、渚と母さんが会話してるのを、すぐ隣で俺は聴いていた。
どうやら、元居た貸家に再度引っ越すのは決まっていたらしく、それを俺達に伝えるのが仕事の忙しさもあって後回しになってたようだ。
両親は2人で輸入雑貨商を営んでいて、国内だけじゃなく海外に出る事も頻繁だ。商売相手によっては情勢の不安定な国に赴く事で連絡が全くできなくなる時もあるから、今回もそのパターンだったのだろう。
『これからまた、街で暮らす事になるから、力を貸してあげてね』
「……うん、分かった。任せて」
「母さん、一つだけ聞いて良い?」
このままだと電話が終わりそうだったので、すかさず横から入った。
「どうして夢見ちゃんだけが来たの? 叔母さんは一緒のハズじゃないの?」
同じ疑問を渚も抱きつつ聞けなかったのだろう、質問した俺に『聞いてくれてありがとう』と口パクで言ってきた。
母さんはやや間を置いてから、少し言いにくそうにしつつ答えた。
「……行方不明になったのよ、少し前、あなたに電話した頃ね」
「行方不明? もともと音信不通だったんじゃ」
「どこに居るのかは分かってたの。今まで何度か向こうから連絡が来た事もあったわ……でも……」
そこでまた言いにくそうにして言葉を止めるが、次に渚が様子を伺うと、意を決したように母さんは言った。
『連絡は忙しいから返事しなかったの、それでも留守電のメッセージは聞いてたんだけど……『あの子をお願い』って連絡があって。今まではお金の催促だけだったのが急に違う事言いだすから、気になって後で電話したら、夢見ちゃんに『数日前から帰ってきてない』って言われてね』
「……マジかよ」
「じゃあ、叔母さんは今どこにいるかも分からないって事?」
『えぇ。再婚したハズの夫も一緒に居なくなって……夢見ちゃんは自分の学校の事もあって中々引っ越しできないって言うから、最近まで向こうにいたんだけどね。流石に、いつまでも一人にさせるワケにもいかないでしょう?』
母さんの話す内容は俺ら兄妹がそろって口を閉じてしまうには十分な内容だった。
2人して顔を合わせて、今頃悠や綾瀬と再会の会話をしてるだろう夢見の現状を思い、重苦しい雰囲気になっていく。
さっきからたまに夢見の笑い声が聞こえてくるが、とても両親が消息を絶った娘とは思えない。いったいどれだけの不安を押し殺して俺達の前で明るく振舞っているんだろうか。
「分かったよ母さん、できる範囲だけど、夢見ちゃんの力になるようにするから」
「うん……叔母さんの事で何か分かったら、教えてね」
『ありがとう……2人だけで生活するだけでも大変なのに、親の世代の都合に合わさせてばかりでごめんね』
「気にしないで、母さんも叔母さんの事気になるだろうけど、仕事や体調の事を優先してな」
「こっちの事はあたしとお兄ちゃんに任せて。ね」
そう言って、つかの間の親子の電話は終わった。
「……予想外に、重い話だったな」
「夢見ちゃん、全然そんな素振りも見せてないのにね」
これからどんな協力ができるのか、模索しそうな流れになったが、下から『2人ともまだ~?』という綾瀬の声が聞こえてきたので、一旦はこの件について考えるのをやめようという結論になった。
リビングに戻ってからは、元々予定にしていたカレー作りに渚と綾瀬が取り掛かり、残ったメンバーのうち悠は電話するところがあると言って一度外へ出たので、必然的に俺と夢見の2人で会話する事になった。
「それにしても、やっぱ何年も見ないと一気に大人になったって雰囲気出るよな、夢見ちゃん」
「そんな事ないよぉ、それを言うならお兄ちゃんだって……前よりずっと大人な男の人って感じがして、素敵」
「ははは、それこそ言い過ぎだよ」
「ううん、そんな事ない! お兄ちゃんまるで恋を知った男の人みたいよ? もしかして彼女できた?」
「──っ!?」
思いもよらないタイミングで彼女ができた事を言い当てられて、思わず驚いてしまった。
そんな雰囲気、俺に出てるのか?
「……ぇ、その反応、やっぱりできたの? 誰、誰?」
「えっと……今あっちでカレー作ってる方の、右側」
「きゃー! やっぱり綾瀬ちゃんと付き合う事になったんだ! 前からお兄ちゃんの事好きだったもんね綾瀬ちゃん!」
声こそ抑えめだが、黄色い歓声を上げながら、夢見の追求は続く。
「え、え、どっちから告白したの? 綾瀬さん? 向こうから迫られた?」
「いや……どっちかというと、俺」
「お兄ちゃんから? ……へぇー! お兄ちゃん、女の子に告白する度胸あったんだぁ!」
「そりゃあるよ、なんだお前、俺がヘタレだって思ってたのか?」
「どうでしょう~、黙秘権を行使しまーす!」
ニタニタと笑いながら、夢見は俺をからかう視線をやめない。
どうやら、年頃の女子高生にとって最高のオモチャになってしまったらしい。
「それで~? お兄ちゃんはなんて告白したの?」
「なぁもういいだろ、そんな根掘り葉掘り聞いてくるなって」
「でも気になっちゃうじゃない、お兄ちゃんが好きな人になんて言うのか」
「なんでだよ、別にいいだろ何を言ったって」
「そんな事ないよ!」
「なんでだよ」
やたら食い気味に聞いてくるので、恥ずかしさもあって笑いながらそう聞くと、夢見はさっきよりも少しだけ真剣な口調で言った。
「だって、私もお兄ちゃんが好きだったから」
「……え?」
声のトーンが下がり、夢見は俺にしか聞こえない声量で続ける。
「本当はね、あの頃私……お兄ちゃんが好きだったの。告白とかはできなかったけど」
「──えっと、そう、だったのか」
「うん。あたし……昔から頼れる男の人がいなくって、そんな中でもお兄ちゃんはいつもあたしに優しくしてくれたから」
「優しく……まぁ、そうだったかもな」
「『かも』じゃないよ。あの頃からずっとお母さんもピリピリして、あたしに優しくしてくれるのはお兄ちゃんだけだったんだから」
懐かしむように目を細めながら当時を語る夢見。
そんな彼女の顔を見て、俺は何を言えば良いのか分かりかねていた。
「ああごめんね、急にこんな事言って。別にだからって綾瀬ちゃんと別れてなんていうワケないから!」
重い空気になりそうな雰囲気を誤魔化すように言って、夢見はカラカラと笑う。
「今のお兄ちゃんが幸せそうだから、つい気になっちゃって色々聞いちゃった、ごめんね!」
「いいよ、別に」
「それに、私のお母さんの事でも、結構お兄ちゃんや伯母さんに迷惑かけちゃって、それもごめんなさい」
「……夢見ちゃん」
「さっき、電話で聞いたんでしょう? 降りて来た時の顔見たらすぐ分かっちゃう」
そんな一瞬で、分かってしまうものか。
俺が思ってるより、ずっとこの子は洞察力が高いのかもしれない。
「なるべく迷惑かけないようにはするから……またよろしくね」
「迷惑かけるなんて考えなくていいよ。今日からまたご近所のイトコ同士なんだ、持ちつ持たれつで行こうよ、なっ!」
「……お兄ちゃん」
そう言って、暗い話はここでおしまい、とばかりに両手を軽くたたき、俺は言葉を続けた。
「もうすぐカレーも出来上がるし、園子や咲夜も来る。俺達もそろそろ器やテーブルの準備しようぜ。──あ、今言った2人については後で説明するよ」
「……ねえ、お兄ちゃん」
「なんだ?」
「ありがとうね」
そう言ってほほ笑む夢見は、さっきまで見せた『人生に憂いのない明朗快活な少女』では無く。
その両肩に乗った重圧に疲弊している、年相応の女の子って雰囲気だった。
──それが、彼女の素顔だったのか、はたまた、演技だったのか。答えは分からない。
翌日。
俺達はいつも通りに授業をこなして、いつも通りに放課後を迎える。
だが、ここからがいつもと違う。
「良いの? みんな部活動あるのに、学園の案内なんて」
高等部校舎の昇降口前で困り顔にそう尋ねるのは、まだ学園指定の制服が無く、昨日と同じ組み合わせだが色違いの私服を着ている夢見だ。
俺はてっきり今日から夢見も授業を受けるのだとばかり思っていたが、彼女はまだ編入手続きが終わっていなかった。
それどころか引っ越し作業も終わり切ってないので、昨日はカレーパーティの後、借りてたビジネスホテルに泊まって、今日も日中は残ってた作業を済ませたり、市役所に行って住民票の手続きをしたり、アレコレ忙しい日だったのだ。
やらなきゃいけない事を済ませて、ようやく編入手続きも終えたのが、俺たちが部活動を始めるのと同タイミング。
そこにすかさず『せっかくだから庭の植え替えと一緒に、学園の案内もしよう』と提案したのは園子で、反対する人は誰も居なかった。
「もうすぐ同じ学園の生徒になるんですから、今から知っておいた方が便利だと思うんです」
「でも……部活動があるんじゃないんですか?」
「それについては気にしなくていいよ、今日は何人かいなくても手が回る事をするから」
園子に続いて俺からも言うと、夢見は納得したように頷いて答える。
それなら、案内役は俺がやろう──そう言おうとした矢先に、意外な奴が名乗りを上げた。
「じゃあ、案内役は僕が務めるよ」
悠だった。
何が意外かって、悠は夢見と中学時代に面識こそあったけど、別にこの状況で自分から名乗り上げるほど夢見と交流があったわけじゃないって所にある。
昨日のカレパでもあまり夢見と会話する場面を見なかったので、やや違和感とまでは言わなくてもおかしな感じがしたのだが──、
「本当ですか! それじゃあ、よろしくお願いします」
当の夢見はあまり親しくも無い男が案内役を申し出た事に何の疑問も問題も抱かず、むしろ好意的に受け入れている。
その様子から、実は俺の知らないうちに2人は仲が良かったのか? なんて思った。
「どうでも良いけど、今日は何をするわけ?」
そんな風に今日も我道邁進とばかりにマイペースな事を園子に聞くのは、咲夜だ。
仮にも昨日、遅ればせながらもカレパに来て顔見知りなハズの夢見を前に『どうでも良い』は無いだろう。……と説教したところで、馬耳東風なのは分かっている。
咲夜からすれば、昨日から急に現れた夢見は本当に関心の薄い相手だろうしな。昨日だって悠以上に夢見と会話した場面が少ない──を、通り越して無かったくらいだ。
コミュ障って呼ばれる類の人間とはまた趣が違うが、咲夜はたいがいコミュニケーションを取れる人間が限られる子だよ。
そう思うと、改めてこの子が今、部員として俺達と一緒にいる状況が異質な感じだ。
「今日は校舎西側の花壇植え替えですね、場所も数も限られてるので、ゆっくりできます」
「はぁ!? また土臭い作業をアタシにさせる気なワケ? そんなの用務員にさせれば済む話じゃない!」
「まぁそう言わずに、私たちがやる事に意義があるんですよ?」
「そんな意義なんてお断りよ! 働き手が無いわけでもないでしょう。こうなったらアタシが直接言って」
「これについては私から申し出た事なので、先生に直談判するのは別の機会にお願いします」
「アンタのせい!? 何てことしてんのよ!」
「ふふ、今年は秋ごろに色々あって学園にご迷惑をおかけしたので、少しでも印象を良くしたくて」
「…………そう、そうなの、そうなのね」
完全に、咲夜と査問委員会のせいだ。
それが分かってしまったから、咲夜もそれ以上強く言えなくなってしまった。
まあそうだよな、完全に自分の蒔いた種が芽吹いただけの話だし。
「というわけで、縁たちは部活動に励んでくれ。僕も小鳥遊さんに案内が済み次第、合流するからさ」
「悠アンタ、案内にかこつけてサボろうとするんじゃ無いわよ?」
「それは君の専売特許だろ? あんまり素行が悪かったら桐夜兄さんにチクるからね」
「んなぁ! あ、アアアアンタ! それやったらマジで消すわよ!」
なにやら綾小路家の者でしか伝わらない脅しを悠が繰り出して、見事に咲夜にブッ刺さったみたいだ。
荒ぶる咲夜を小馬鹿にしつつ、悠は夢見を連れてさっそく案内に回って行った。
「そういえば、だけど」
2人の姿が見えなくなって、俺達も本格的に行動を開始しようと歩き始めてから、咲夜が言った。
「悠が連れて行ったアイツ、アンタの何?」
「お前……昨日俺が最初に説明したじゃん……従妹だよ、俺が中2の時までこの街に居て、3年ぶりに帰って来たんだ」
「3年……あぁ、そういえばそんな事言ってたわね」
「健忘症になるには早すぎるぞ」
「黙りなさい、埋めるわよ」
「どこにだよ、おっかないなあ」
自分の事を棚に上げて無茶苦茶な事を言う咲夜だが、悲しいかなこれも気が付けばとっくに慣れてしまった自分がいる。
「アタシが聞きたかったのは、なんで従妹なのにアンタをお兄ちゃんって呼んでるのかって事よ。アンタが呼ばせてるの?」
「違う違う、夢見ちゃんの方からそう呼ぶようになったんだ」
「なんでよ」
「なんでって……」
理由はあんまり覚えていない。確か何回か遊んでから、不意にこれからそう呼んでいいかと聞かれた記憶がぼんやりとある。
そう呼びたかったから、と彼女は言ってただろうか。
「それは切っ掛けじゃない。呼びたがる理由はどうなのよ」
やけに食い下がってくるが、何か引っかかる所でもあるのだろうか。
思い当たる節はあるにはあるが、それはおいそれと夢見の許可なく口に出していい内容でもない。
思春期に突入する年齢に父親を失い、父性や頼れる男性ってのに焦がれてたからでは──なんていうのは俺の烏滸がましい憶測な上に、彼女の家庭事情を晒すものだからだ。
「──分かんねえな。今度咲夜が聞いてみてくれよ、俺から聞くのは今更感あって恥ずかしい」
「嫌よ」
にべもなく断られた。
「それに何よ『恥ずかしい』って。アンタそういうキャラじゃないでしょ」
しかも毒づかれた。
「そんなズバズバ言わなくてもいいだろ、夢見ちゃんと仲良くなる切っ掛けになるじゃないか」
「それこそ本当にお断り。アタシ、あの女と仲良くする気は無いから」
「……いくら本人居ないからって、イトコの前でいう事か?」
流石に行き過ぎだと思い、無駄は承知で諫める口調になって言う。
ところが、咲夜は意外な返答をした。
「悪いとは思ってるわよ、言い方を変えるべきだったわね」
「……」
素直に非を認める咲夜という、世にも珍しい瞬間を目にした。
「でも、どう言い繕っても変わらないの。アタシ、あのおん……アンタの従妹とは仲良くできる気がしないから」
「……理由を聞いても?」
「──分かんないわよ。でも、初めて顔を見た時からそう感じたの」
生理的に無理、という奴だろうか。
俺にも顔を合わせるだけでウンザリする奴と、この秋に出会ったからその気持ちは分からなくもない。
ただ、それが俺の従妹と後輩の間で起きてしまったのだけが、正直残念だった。
「……まぁ、無理に仲良くしてくれとは言わないよ。ただ」
「分かってるわよ。アタシからも何かするって気は無いから」
「……そこまでか」
嫌いなものは排除したがる咲夜が、そういう形での関わりすら持とうとしない。
どうやら、本気で夢見を嫌悪しているらしい。嫌いの極致は無関心と昔教わったが、悪感情を抱いたまま咲夜はその領域に到達している。
関係を修復させる事は人間そう容易くはなくとも可能ではあるけど、修復以前に断絶してたらどうしようもない。
俺は咲夜と夢見の間にある、正体不明の溝について、これ以上考える事は止める事にした。
そうこう話をしている内に、今日の活動エリアに到着した。
先を歩いて会話していた綾瀬達3人に合わせて、俺も用具を手に取る。
「それじゃあ、今日も健全に部活動と行こうか」
さっきまでの嫌な会話を忘れるように俺は言った。
あぁ、そういえば。
忘れるついでに一瞬だけ頭を過った事がある。
果たして、今年の秋に唐突に現れ、颯爽と去って行った、塚本千里と名乗った少年。
あの学生服着せ替え人形みたいな自称情報屋はいったい、今はどこで何をしているのだろうか。
──やめた、こんな事を考えてるとひょっこり現れてしまいそうだ。
俺はもうそれ以上、奴についても考えないようにした。
部活動も無事に終了して、今日は俺と渚と綾瀬の3人に加え、新しく家が同じ方向の夢見も混じっての帰宅になった。
これからは4人での下校が基本となっていくのかは分からないが、女3人集まれば……というように、元より顔なじみだった3人は俺抜きでも充分なほど会話に事欠かない帰り時間だった。
やがてお互いの家が見えた頃、夢見は思い出したように声をあげる。
「あっ! 電気屋さんに電話するの忘れてた!!」
「え……夢見ちゃん、それってつまり」
渚が驚きと呆れが半々に混じった顔で夢見を見る。
綾瀬も事の重大さに考えが至って、『あちゃー』という顔をして苦笑いした。
「最低でも今日は真っ暗ね……ガスや水道は大丈夫なの?」
「うん、それは連絡したんだけど……どうしよう、今から連絡すれば明日には通電されるかな?」
「それは聞かなきゃ分からないな……確かまだ電話受付時間のはずだし、今から聞いてみたらいいよ」
電気代の支払いとかは当然俺と渚でやってるので、このエリアの電力会社が何時まで電話対応をしてるかはおぼろげながら覚えている。
「うん。それじゃちょっと聞いてくるね!」
そう言って、何故か来た道を戻って行こうとする夢見。
「おおい、なんで、どこ行くのさ」
「スマートフォン、あんまり使いたくないから公衆電話で聞いてくる!」
「あたしが代わりに電話する?」
「綾瀬ちゃんありがとう! でも大丈夫だから! 先に帰ってて?」
「なら夢見ちゃん、電話終わったら今日は俺らの家で寝なよ」
「……良いの?」
返答する前に、渚に確認を取る。
急な提案だったにも関わらず、渚は不満なく笑顔で頷いてくれた。
今までの渚だったら、ここで不穏な空気になってもおかしくはないが、前提として夢見の状況を知ってるならば、きっと応じてくれると信じていた。
「綾瀬も、そういう事だけど、良いかな?」
「しょうがないわよね、あたしだって真っ暗な家に夢見ちゃんが一人でいるのは心配だし」
「……ありがとう」
彼氏の家に年の近い女の子が寝泊まりする。これも過去の綾瀬なら地雷の一つだったに違いないが、今の綾瀬なら問題なかった。
これまでの時間と行動の積み重ねが如実に感じられて、静かに喜びつつ、改めて夢見に言う。
「この通り問題ないよ、最低限の準備したらおいで」
「──あはは、お兄ちゃんと渚ちゃん、綾瀬ちゃんも……ありがとう!」
笑顔でそう言って、夢見は急いで公衆電話がある場所──おそらく公園だろう──に駆けて行った。
それから少しした頃、夢見は俺の言った通り最低限の着替えとアメニティ一式を持って家に来た。
今日は料理当番が俺だったので、渚には野々原家で以前から客間として用意してた空室に布団を敷いてもらった。
「電気屋さん、明日には通電してくれるって! お兄ちゃんの言う通りすぐに電話してよかったよー!」
そう言って安堵する夢見だったが、夕飯の時間になって俺が作った渾身の酢豚を披露すると、
「──お兄ちゃん、酢豚にパイナップル入れる派なんだ……」
どこか不満げな雰囲気で、そんな事を言ったりした。
どうして人類は酢豚にパイナップルを入れると否定的な反応する奴が多いんだ、俺もシチューにご飯合わせる奴を否定してやるぞ?
心の中で1人、勝手に争いの種を撒き散らしつつ、表面上は冷静なふりをして、俺は気を紛らすためにテレビを点ける。
時刻は丁度19時前を指してたからか、チャンネルは天気予報を映していたが、やがて時刻が更新されると同時に今日のニュースを報道し始めた。
株価がどうとか、政治家の失言がどうとか、海外で日本車のメーカーが新事業展開とか、イマイチ関心の向かない内容が続き、そろそろ別のチャンネルに変えようかと思ったその時、
『──次のニュースです、K県良舟町で17時半ごろ、大きな爆発が起き、複数の負傷者が出ました』
聞き逃さないニュースが唐突に出てきた。
「ついさっきじゃねえか……」
「そうだね……」
渚も息を呑みながら、俺の言葉に頷く。
ちょうど、俺たちが家に着いた頃。夢見が急いで公衆電話に向かうかどうかって時間帯だ。
映像は、この夏に新築された──以前園子と行ったショッピングモールから少し離れた、川沿いの散歩道を映していた。
「ここ、近いの?」
夢見が心配そうな声色で俺に聞く。
「近くはないよ、でも、この街でこんなニュース初めてだ」
「アタシが前にいたところでも聞いた事ないよ……物騒な話ね」
夢見の言葉に頷きながら、俺は事件がこの付近で起きなくて良かったと、負傷した方々には悪いがそう思った。
それに、悠や園子……当然咲夜の帰るルートとも被らない道だったから、取り敢えずそれについては安心する。
それしたって爆発なんて怖い話だ、果たして原因は何か判明してるのか──より詳しい情報を求めてニュースに集中する。
そうして、テレビに映るニュースキャスターはそんな俺らの気持ちに応えるまでもなく、淡々と原稿を読み続ける。
『また、爆発が起きた箇所の近くでは、男子高校生が血を流して倒れているのが発見され、すぐそばに全身に火傷を負って倒れている身元不明の男性がナイフのようなものを持って立っており、警察は男を殺人容疑で現行犯逮捕しました』
「──え?」
何故だろう、根拠も無いのに、嫌な予感がした。
ニュースキャスターは変わらず、画面の先にいる一視聴者に過ぎない俺の心情なんぞ知る由もなく、横から誰かが差し出してきた新しい原稿を受け取り、先程より少しだけ重苦しそうな表情になって言葉を続ける。
『ただいま入った情報によりますと、男性に刺されたと思われる少年が先程、搬送先の病院で亡くなりました。刺された少年は先程、意識不明の重体で搬送されましたが、病院で死亡が確認されたとの事です』
『少年の身元も先程判明しました、少年は綾小路財閥の──』
『綾小路幽夜さん、17歳である事が、先程判明しました』
「────────は?」
『繰り返します、先程爆発が起きた場所の付近で、身元不明の男性に綾小路幽夜さんが刺され、先ほど亡くなりました。警察は直前に起こった爆発もこの男の犯行であると見ています、男は重度の火傷を負っており、現在は病院で緊急治療を──』
──to be continued
オリキャラなんて鬱陶しいだけだし、死んじゃったって誰も悲しまないからどうでもいいよね、お兄ちゃん★