bloodymarionette 作:壺踊り亡者
夜が明ける。
この、終わりのなき惨劇の夜が明ける。
悲惨なる獣狩りの夜が明ける。
聖なる怪物と穢れた高貴の夜が明ける。
そうなれば、この覚めない夢も、明けるのだ。
幾千幾億の獣に刃を突き立て、那由多の果ての化け物に銀の弾丸をぶちこむ。
元はよちよち歩きの新人狩人はいまや地獄の悪鬼すら狩り尽くすハンターとなっていた。
さあ、帰ろう。もはや人と言えるかわからぬこの身体なれど。
覚めぬ夢の中でも故郷は想ったものだ。
月が沈む。狂気の月が沈む。魔性の月が沈む。沈んでそして、
ーーー夜が明けるーー
長く長く続く海岸線、そこに男が波打ち際に立っている。上半身は裸。だか、なぜかその左腕だけは黒衣につつまれ、真白の手袋をしている。
男はただ立っているのではない。
正確には構えている。
両の手は前に出し、腰は椅子に座るかの如く低い。
ただそれだけの格好だが、男の顔には滝のような汗が流れていた。
中国拳法の鍛練方が一つ、站とうである。
男はそれをしながら遥か水平線の向こう側を見つめていた。
男の頭には靄がかかっていた。
深い深い靄が。
この海の向こうになにかがある、そんな気だけは目覚めてからずっとしているのだ。
故になにかを思い出そうとずっとずっと見つめていた。
ふと、海水に浸かっていた足に感触があった。
なにかと見れば波間に帽子が浮かんでいる。
頑丈な、なにかしらの革でできたウェスタンハット。
それを拾い上げた男はさらに離れた波間に同じようなコートが浮かんでいるのを見つける。
しかし、今度のはやけに、沈んでいる。
そう、まるで、中身が入っているかのように。
靄がかった頭でも、流石に背に冷たいものが走った男は、慌てて海に割ってはいる。
しかし、男はついこないだまで、寝たきりであり、今日はその時に凝り固まった身体をほぐす意味での鍛練であった。
ゆえに、
「が、ごほぼぼぼぼ、グハァ!」
まるで思い通りにならない身体に、さらに輪をかけて思い通りならない右手、さらにさらに、この漂うコートの中身、かなり重い。コートの中に僅かばかり空気が入ってなければ、そのまま海のそこだったであろう、それを必死に引き上げる。
ようやく砂浜に引き上げた頃には男は疲労困憊であった。
「ひー、ひー、ち、ちくしょう…、さ、流石に寝起きにやることじゃあねえぞ…」
大の字に寝転がる男の横に、いま一人の男がねている。
その男がこの世界の波乱に投げ込まれた一つの小石だとは、
未だ誰も知らない。
知るよしもないのだった。ーーー
さて かくして 狩人がオペラは 終わりを 告げました
しかし 運命の奔流は 未だ 狩人を 離さぬ ようです
これより 始まりますは 狂気の人形劇
狩人が 出会いたるは 美しき破壊者と 記憶をなくした道化
さあさあ よってらっしゃい みてらっしゃい マリオネットが 第一幕 はじまり はじまり