bloodymarionette 作:壺踊り亡者
「…ふむ」
男がいる。
男は無表情にその手の中の武器を眺める。
それは男が拾った男が、さらに拾った妙な人間が持っていたものだった。
黒鉄でできたのギザギザの刃、木製の持ち手。
持ち手と黒鉄の部分は可変式になっており、ワンタッチでその刃を伸ばす。
端的に言えば、これはノコギリだった。
しかし、通常のノコギリとはあまりにも掛け離れていた。
まずは重い。恐らく持ち手の部分にも鉄が仕込まれているだろうが、なにより刃の部分である。
刃渡りにして60cmはある。
それに加え厚い。分厚い。厚みにして 2cmはあろうか。とても頑丈な鋼で出来ている。
もはやノコギリというよりは、鉈や斧に近い重量だ。
そして、もう一つ。
それは持ち手の部分。滑り止めであろう布切れを巻かれたその部分は、
もはや元の布の色がわからなくなるほど、どす黒く変色していた。
男は知っている。この持ち手の色を変えているであろう、この世で最も趣味の悪い染料を。
人間のものかとも思ったが、違うだろう。恐らく獣。
何故ならば臭うのだ。血の匂いに混ざるのは獣臭。
それも恐らく犬猫などという可愛い愛玩動物ではない。
本能に訴え掛けるような、狂暴な大型獣の臭い。
つまり彼がこれを使って犬猫を面白半分で殺すサイコパスではなく。
己よりも遥かに強靭で剛力で獰猛な獣を狩っていたハンターだということであろう。
しかし、だ。大型の肉食獣というのは往々にして絶滅危惧種であるのだ。
こんな得物で嬉々として殺し回っていればそれこそ、人目につく云々ではなく、監獄行き。
いや、そもそもだ。大型獣を殺すのにこんなノコギリはいらないのだ。
ハンティングと言うのなら、ライフルを抱えて行けば済むのである。
それをしなかった、いや、できなかった?
男の頭の中には次々と疑問が浮かぶ。
この狩人はいったい《どこ》で《なに》を狩っていたのか。
それはきっととてもとても、大事なことだと、髪も眼も思考すらも白銀の男は考え、ふと、思い出す。
そういえば今朝はこの狩人を拾ってきたバカはだいぶ受け答えがまともになっていた。
となれば、そろそろ頭の靄も晴れる頃だろう。
ならば、ひとまずこの狩人は置いておこう。
まずは、あのバカに教えなければいけない。その身に宿した業を。宿命を。自分がなにになって、そして何を葬るのかを。
まずは人形の説明と実践だ。
そう思いながら男は部屋を後にする。
そして、銀の男が出ていった扉。
それが軋みをあげて、バタン。と、音をたてて閉まると。
ピクリ、と微かに狩人の指が動いた。