神父と聖杯戦争   作:サイトー

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 前回の前書きの続きですが自分、騙されていたみたいです。ミコラーシュじゃなくてミドラーシュだった。ストーリーは確かにミコラーシュっぽいですけど。


聖騎士の印

 狂える程の、屍の山。冷え滾る悪意と憎悪が腐った死体から垂れ流れ、この抑止によって隔離された世界は死が煮詰まっていた。

 

「…………―――ふぅうむ、ふむ、ふむ。

 この世、この異界、この特異点、素晴しい悲劇に満ちている。いやいや、本当、世界とは悲劇なのか。何故人間は、こうも飽きずに死に続けるのか疑問だぞ。

 はははは! これにて己が信念を人類に捧げ! 地獄の炎に尊厳を焚べるのも幾度目か!!

 我ら英霊に安息は有らず!

 我ら霊長に平穏は有らず!

 我ら人類に楽園は有らず!

 全て、全て、事も無ければ、是非も無い!」

 

 今の彼はもう、生前の記憶が殆んど消えている。覚えているのは、剣に生きて、剣に死んで、剣を振うのが全てで在った事だけ。

 嘗ての前世の名は、デメトリオ・メランドリ。

 死後、至った座における名は―――アンチ・キリスト。

 キリストとは、救世主の意。セイヴァーであり、メシアであり、メサイアである。

 アンチとは、対する者の意。ネガであり、フェイクであり、フィクションである。

 

「やめ、やめて……止めて下さ―――ぎぃゃぁああああああ!」

 

 本当ならば、黙示録における実在しない英霊の銘を魂に刻まれること何て有り得なかった―――だが、デメトリオ・メランドリは契約を破棄した。自分の願いだけを抑止力に叶えさえ、しかして抑止からの代償を一切払うことなく満足して死んだ。

 嘘偽りの英霊ならざる守護者。

 自らの名で座に至ることを拒んだ者。

 余りに強靭で、膨大で、英霊の座にしか相応しい場所がない契約だけが結ばれた魂を、阿頼耶識が逃す訳はなく。だが、メランドリと言う名でもはや座に登録することは許されず。名前を棄てた聖騎士自身が如何でも良いと魂を特化させ、暴走させ、根源へ至り、霊長でも精霊でも神霊でも真性悪魔でもない別の魂に深化し、何もかもが完成し、あらゆる全てが完結した異端存在。

 ―――一つだけ、座に相応しい空席があった。

 其の名は、有り得ない終末に現れると言う名前だけの偽の預言者。

 神の力に属しながらも、神を信じず、神の為に悪を為す反救世主。

 

「お母さん、お母さん、お母さん!! ああ、ああ…………ぁ、ぁ、ぁ――――いやぁああああああああああああああああ!!!」

 

「可哀想に、だが幸運だ。直ぐにお母さんの所へ逝かせて上げようとも。お母さんを天国に届けた我が刃でな」

 

「なんで、どうし―――……カヒュ!」

 

「ああ、痛いだろうに。喉に刃の先が挿されて苦しいだろうに。故に、ほぉうら、もっと体の中に挿し込んで、お肉の中に入れ込んで、楽にして上げよう。

 殺してやろう、死なせてやろう……ふはははは!」

 

「――!―――!―――ッ……!!」

 

「おっと、死んだか。はははは! 君、可愛い顔をしていたと言うのに、全く以って勿体無い。苦痛と恐怖に表情が歪んでいる。もっと遊べば良かったが、なぁあに、斬って遊べる玩具は沢山あろうてなぁ、ハハハハハハ!」

 

 反英雄―――アンチ・キリスト。実在しない虚構の英霊であった。

 

「しかし、ふぅうむ。相も変わらず、虐殺稼業だな。鍛えた刃を振うは良いが、これ以上強く、巧く、鋭くはなれん。やはり、剣士で英霊になど成るものではなかったか。

 だが、零と無と空の境界にて我が剣は頂きを得た。

 この魂では此処が限界か。いやはや、無念よな。残念よな。生前の最期はこれを至高としたが、辿り着けばまた違う業の頂きを欲してしまう。

 ―――根源程度では、これが限りか。

 何が接続者か、阿保か、馬鹿か。全知全能など無意味無価値と捨て去り、単知剣能と成り果てたが……あぁああ、まこと、つまらんな。つまらん斬殺、つまらん殺戮、つまらん滅却だ……」

 

 本当は、自意識など抑止の守護者には備わっていない筈。しかし、人類を救う為、人理に邪魔な人間を虐殺する為に召喚された男には意思が宿っていた。

 ―――彼は無感情のまま、母親を斬り殺した後、その娘を斬り殺した。

 何の為かと言う疑問など彼には存在しない。人類全ての為に、淡々と斬って殺しただけだった。

 

「ふん。この度の顕現、(オレ)に得る剣技の糧はなし」

 

 アンチ・キリストなどこの世に存在しない。無辜の怪物としてその銘が刻まれた英霊はいるが、それが真名として刻まれた英雄などいない。召喚されるとなれば架空の英霊だが、そもそも召喚することさえ許されない。ヨハネの黙示録に印された終末の徒は、その全てが人類が信仰することで生じる架空の存在。終わりの名前を刻まれた誰かが、その役目を演じる英霊として召喚される。

 となれば必然、アンチ・キリストは彼だけの名前だった。

 他にも候補は大勢いるだろうが、その中でも極まって強い英霊が彼だった。

 

「これこそ刃。妄想が編み出す剣の舞。

 尤も、我が愛剣ではなく、思念だけで振うだけの紛い物の下らぬ斬撃に過ぎんが」

 

 左手に逆十字に釘が何本も打ち込まれた魔杖を取り出し、彼はその両目を輝かせた。瞬間、この特異点において地獄が生まれた。

 彷徨い出ていた者、物影で震えていた者、建物の中に立て籠もっていた者。

 一秒にも満たぬ瞬き程の刹那の間―――一切合切、一人残さず偽の預言者は鏖殺してしまった。

 

「神の敵の、偽りの奇跡。剣を振うよりは早いが、それだけか。ただただ斬れてしまう、幸運なことよ」

 

 魔眼より投影された刃は、丁寧に一人一人両断し、首を撥ね、脳を割り、心臓を裂き、肝臓を抉り、それぞれ異なる趣味趣向に沿った斬撃軌道を描いた。

 偽りの神の虚ろなる奇跡。

 つまりは逆磔刑杖により為される魔術ならざる魔術―――千里眼による透視だった。つまるところ、この男、瞬きをしただけで数千と言う人間の命を断ったのだ。

 

「愉しいか、愉しくないか。やはり、この地獄は愉しいな。人を特に意味も無く斬り殺し、命を無差別に裁き殺すのは楽しいな。良い娯楽だ。ああ、しかし、我が本人格は強者との斬り合いにしか本気を出さず、雑事の守護者稼業はこの某に任せきりか。

 だがしかし、だぁがしかぁしぃ……!

 終末時代において、殺戮者の役目を果たすが某の使命。架空の英霊として刻まれし、アンチ・キリストの名こそ偽人格の某の本質。剣など所詮は斬殺兵器よ。

 この人格は偽の預言者として存在せし憎悪そのもの。

 神を嫌悪し、神に愛されし全ての人間の魂を捧げよう! 悪徳に満ちた獣性こそ人間の真理! ならば我ら悪霊の母たる淫売獣女と、その母を生み出せし七つ首の獣竜に人類を捧げようぞ!!」

 

 ―――殺した。

 大勢、殺した。

 今までと同じ様に、これからと同じ様に、反救世主は殺し続けるだけ。架空の反英霊として存在し、あらゆる世界で永遠に人間を生かす為に人間を殺し続けた。アンチ・キリストとして、反救世主として、偽預言者として、神と人への憎悪を核に聖騎士の魂へ宿った偽人格は何時かと、何時までと、夢見るは終末神話の到来だった。

 ―――これは偽預言者の信仰だった。

 人間が自分達の終わりとして、こんな現世の地獄の果てに神の救いが在ると信じて、黙示録を夢見た信仰の、その幻想より生じた反英霊だった。ナザレの救世主と敵対する架空の反救世主だった。しかし、神と人の為に生まれた憎悪は、神と人を憎悪するには魂が足りなかった。英霊として成り立たず、補わなければ幻霊に過ぎなかった。人類からの信仰は十分満ちているが、殺戮者としての霊核が信仰に届かない。

 その為の―――デメトリオ・メランドリ。

 奴は本来、守護者として存在せし無銘の聖騎士。

 しかして、因果は巡ってこの空席の反救世主の魂に適応した。

 聖騎士に刻まれたのは反英霊として信仰されし架空の憎悪であり、その憎悪より生じた偽預言者の偽人格である。

 

「マザー・ハーロットよ、見て頂けているだろうか。これが生きたいと願う人間の本質だ。

 悪徳の母よ、どうか涙を流して人間を愉しみ給え。これこそ終末に至る為の救いだろう。

 そして、我らが父たる信仰の獣よ。どうか、架空の反英雄へと堕落した我らに救い在れ。

 ―――ああああああああああああああああああああ!

 何と素晴しき人類守護の栄誉だろうか!?

 人間は人間を殺し、終末に向けて繁栄を約束する!!

 我らが同輩、我らが友人、黙示録の四騎士よ、この殺戮劇場を楽しみ給え!

 我ら災厄を讃えしラッパ吹きの天使よ、この娯楽を愉悦し、この惨劇を悦楽とし給え!

 どうかどうか―――ああ、どうか! 哀れな架空の偽物共に、神の加護よ、在り給え!!」

 

 独り言を声高々に叫び、偽預言者は殺し回った。人類繁栄を約束する為、人間が救われたいと願った為、己が役割に殉じて、人類全ての希望を作り上げていた。

 歩き、殺した。

 進み、斬った。

 笑い、断った。

 そうやって、守護者としての役目が終わり、また座へと消えるまで殺し続けた。特異点と化したこの異界で、誰一人逃さぬ為に殺し続けた。そうして歩き進み、殺し笑い、彼は一人の生きた死者と出会った。

 

「ほう。久しいな、我が同僚。そして、とても辛そうだ、エミヤ。

 ………ああ、そう言えば、そうであったな。普段の顕現、某らに自意識はない。この度はそれが存在し、殺戮に嫌悪した訳か」

 

「……良く喋る。高揚しているのか?」

 

「ああ、肯定しようぞ。無辜の怪物と言う、一種の呪いだ。本音を言えば、既に誰かと意思疎通する程に人間へ興味もなく、独り言をボソボソと呟く趣味など毛頭ないのだよ。無様で哀れで、何と無価値な行動か。信仰によって魂に刻まれ、こう在らねばならないと言う人物設定など、そも役を押し付けられた本人から恥ずかしいだけじゃあないか、全く。疲れるよ、人格を偽ることを強要されるってのはさ。

 ―――……英霊は下らない。

 守護者など先兵に過ぎない。

 しかし斬り殺したなら、剣の記録だけはしかと刻みつけなければ」

 

「成る程。最後のだけが本音か」

 

「無論。意識せず、勝手に話す。体も勝手に動く。無駄口すまんな」

 

「その預言者の偽杖、意志を持っているのだったな」

 

「肯定だ。正確に言えば、杖に宿る神への憎悪によって生み出た別人格(アルターエゴ)だが……ふむ。架空の英霊に選ばれると、いらぬ苦労ばかりだ。しかし、押さえ付けるのが楽だからと言って沈黙と不自由を選べば、杖が拗ねて面倒となる」

 

「それは、何と言えば良いか……本当に面倒だな。皮肉も厭味もなく、素直に同情する」

 

「そうか。ならば某も素直に同情を受け取る。ありがとう……―――まぁ、そのような事はひどく如何でも良いので、それはそれとして!

 蛆虫の群れの如き集合無意識の阿頼耶識が、我ら先兵(イヌ)に無駄な機能を備えさせる訳がないからな。自意識がこうして有ると言うことは、その能力が人類存続に邪魔な塵を焼却するのに必要だと言うことだ。

 ―――しかも、派遣された座の飼犬(ガーディアン)は一体のみに非ず!

 となれば大掛かりな殺戮稼業となろうて。我ら二人以外にも、鏖のために呼ばれた座畜はまだまだおるようだ」

 

「座畜?」

 

「今考えた略し方よ。英霊の座の畜生、略して座畜。君の国では確か我らが生きた時代、社畜と言う文化が生み出した新たな蔑称があるそうではないか。

 ふむ、この身も前世では結構な日本贔屓でな。詳しいぞ。何より、そもそも妻が日本生まれだったからな。まぁ、名前も顔も覚えておらんが! はははは、記憶はないが知識だけは忘れていないとは、皮肉よなぁ」

 

「そうか。座畜とは、全く以って私に相応しい名前だ。守護者として、アラヤによって座で飼殺されているからな。

 とはいえ、別段うまいことは言えてはいないが」

 

「ふぅはははは! (オレ)も上手いことは言えてないと思っておったが、まぁ、なぁに……む? おぉ、あそこにいるのは我らの同業者ではないか。

 ……あれはトランペッターか!

 何と、黙示録仲間の一柱も呼ばれていたとは。

 哀れなものだ。歴史に名を刻むことを許されない守護者の集まりだな、これは!」

 

 偽預言者にトランペッターと呼ばれた守護者(ガーディアン)は、金管楽器を金色の銃火器に変形させ―――撃った。逃げ迷う人々をその背後から淡々と撃ち殺していた。建物を一瞬で崩壊される程の威力を持つ数多の徹甲弾を、弾幕として連射し続けていた。まるで弾丸の発砲音がラッパ吹きの演奏となり、天の裁きが人の命を奪い取っているかのようだった。

 ―――手に持つは、天使の黄金銃。

 形状としてはガトリング式重機関銃か。

 そして、次に変形したのは火炎放射器だった。集合無意識から供給される無尽蔵の魔力を燃料に、炎は数百メートルも伸び広がり、民衆を無造作に焼き払っていた。

 

「あれは、アデルバート・ダンか。そう言えば、あれもガーディアンの契約を結んでいたな」

 

 エミヤシロウはぼそりと呟いた。既にボロボロとなった生前の思い出、あるいは前世の魂に残された記憶だが、知識の記録としてならば有る程度は残っていた。

 

「だろうな。また難儀な」

 

「……ふむ、今は本人格と見える。全く、貴様はころころと人格が変わるな」

 

「仕方ない。偽人格など架空の憎悪で形を為す仮初の精神だ。本体の某が話そうとすれば、何の抵抗もなく替わる。黙示録による信仰は根強く、滅びに対する人類の恐怖は多大だが、人間一人の意志の前にすれば濡れた紙切れと変わない。

 某からすれば、無辜の呪いなど雑念に過ぎなかった」

 

「そうか。だから架空の反英霊として通常は、あの反救世主を表に出していると。そちらの方が難儀だと私は思うのだがな」

 

「何はともあれ、人類が某に望んだ役割だ。救世(ぐぜ)に必要とあれば、神の道化師を演じるのも聖騎士(パラディン)の嗜みだ。

 だがな……―――」

 

 そして、深く両目を瞑った偽預言者(アンチキリスト)は、溜め息を大きく吐いた。殺戮に疲れたと言うよりも、飽きて面倒臭い作業をまた開始する職人のようだった。

 

「―――君は、正義の味方なのだろう?

 今は自由意志の有る状況だ。人類の為に人間を殺すのは、殺しを尊ぶ某のような架空の反英霊だけで良い」

 

「気遣い感謝する。しかし、誰かが殺さねば、世界が滅ぶ。その気遣いを私は嬉しく思うが、やはり今となっては心の毒にしかならない」

 

「そうか。某は辛くはないが、君には辛かろうに」

 

「同業者からの労わりだ。素直にその同情は頂いておこう」

 

「ふ。同情などと言うつもりはなく、ただの感想だ。辛い現実は辛く、憎い存在は憎い、それだけの話だ。君に他人からの同情心など不要だろう」

 

「否定はせん。だからと言って、そちらの言葉を否定する気はないだけだ」

 

「成る程。気遣うつもりが気遣われていたか」

 

「傷の舐め合いなど馬鹿らしい故に、私ら守護者には似合わない。する気にもなれん。しかし、だからと、互いの傷を抉り合うのもまた阿保らしいのでね」

 

「成る程、同意だ……―――まぁ、だからと言って、現実が変わる訳でもないがな!

 はっはっはっは! 殺し過ぎて、犯し過ぎて、罪など糞の価値にもなりはしない我らガーディアンが持つ宿業、宿命。そして、我らの宿敵である人類滅亡を果たす自滅因子!

 ……だからこそ、殺すのだ。

 人間が無価値に死して、人類が幸福に終われるように……ッ―――!!」

 

 そうして、殺戮は続いた。固有結界から取り出された宝具が上空から数百と降り注ぎ、クレーターを作りながら地面に突き刺さり、一つ一つが爆散する。それだけで何百何千と言う人間が死に絶えた。世界からの供給があるからこそ許された絨毯爆撃。錬鉄の英霊唯一人で、戦略爆撃機数百機分の虐殺を行っていた。無論、偽預言者もラッパ吹きも、同等の虐殺を常時行っていた。

 英霊とは―――人類最強の兵器である。

 それも抑止の守護者(カウンター・ガーディアン)として召喚された彼らに敵は存在しない。本当に今の彼らは、全人類によって運用される殺人兵器であり、人類を標的とする大量殺戮兵器に過ぎなかった。そも七人揃えば人類を喰い殺す四番目のビーストにして、二十七祖第一位を殺す兵器を相手に、たかが五つの魔法の領域に文明を進化させられない人間共に勝てる訳がない。元より核熱攻撃だろうと、物理的な攻撃手段で死なぬ化け物なのだ。

 

「―――ふぅははハハハ!!

 トランペッターの奴、張り切っているぞ。アバドンの犬もラッパで喚び出し、蝗の群れで人間共をジワジワと喰い殺している。あの人喰い蟲は大喰だからな。

 酷い非道だ。とても外道だ。

 良い殺戮、良い虐殺、良い悲鳴だ。

 反英霊の魂と五臓六腑に染み渡る命の輝き……ああ、素晴しいなぁ。人類を守る為の茶番劇ではなく、何時かは真なる終末で反救世主を演じてみたいものだぞ」

 

 殺して、殺して、ただ殺した。途中で阿頼耶識より召喚された彼ら守護者に対抗する為、拮抗可能な同じ英霊の力で抗う為に、英霊を憑依させられた数多の魔術師が敵として現れた。

 ……しかし、全てが無価値。

 あのギルガメッシュさえ利用されていたが、偽預言者の手で斬殺された。本物の英雄王ならば兎も角、まだバビロンの鍵を完全に使いこなせていない未熟者が相手ならば余りに容易かった。蔵への門が開き、道具を取り出す瞬間、空間を繋ぐ路となる“門”を魔眼による斬撃で力場を崩壊させてしまえた。

 宝具を召喚さえすれば射出し、無双の英雄殺しとなる王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)

 ならば、対処は簡単。道具を出す前に空間の歪みを察知し、魔力の流れを把握し、蔵の“門”が開き切る前に”路”を斬り壊してしまえば良い。その魔術師を最後に、呆気無く敵対した憑依術者達は皆殺しにされた。

 

「―――守護者(イヌ)がぁあああああああああああああああああああああ!!」

 

 その果てで抑止の対象となった元凶を三人は発見した。そして、そもそもこの世界は、剪定された平行世界だった。何れかは完全に星ごと滅び去り、もう既に終末は訪れていた。実際に終末神話が起きた訳ではないが、人間が自分達の文明に耐え切れず人類滅亡を開始してしまった世界だった。

 だが、それに刃向かう者はいた。

 その者は根源に近く、自分が助けられる者だけでも救おうと足掻いていた。

 滅び去るこの惑星に逃げ場は何処にもなく、外へ逃げる為の宇宙開発もまだ進んでいない文明の世界となれば手段は一つ―――他の平行世界へ移住するしか術はなし。

 そして、その者はその手段を持っていた。

 少しでも人間性が残っていれば、誰でも思い浮かべる救援の志。

 全員は無理だとしても、この世界を覚えている者を一人でも救い上げたいと思い―――この世界の住人は、あらゆる全ての平行世界から拒絶されたのだった。

 故に、人理を守るべく抑止の守護者(カウンター・ガーディアン)がアラヤより派遣された。

 剪定事象に選ばれ滅び去る世界から、誰一人として逃さぬ様にと、特異点となった区域の人間全ての虐殺が開始されたのだった。

 

「犬かぁ……まぁ、人間の飼犬だぞ。君達人間の為に、我々は君達の繁栄を約束する先兵(イヌ)となったのだ。

 博学そうな君ならば分かっていそうだが。ああ、それとも魔法の眠る根源は白痴の脳無しの方が理解し易いからな、やはり魔法の使い手は皆馬鹿なのだろうよ。

 人間を人理に逆らってでも救おうとは‥…はははは!! 愚か哉、無様哉!!」

 

 だからこその、特異点。特別な法則で支配されているこの特異点では抑止は介入しに難く、ガーディアンではなくサーヴァントとしての能力を持たせる必要があった。今の彼らに自意識が残されているのはその為だった。 

 

「ふざけるな! これが、こんな殺戮を人間が望んだとでも!?」

 

「あーはっはっはっは! 人間以外に、人間をここまで根絶やしにする意志を持った生物が、この地上にいるとでも?」

 

「守護者め、醜い殺戮者め……ッ―――死ね、死んで償え! 死んで詫びろ!

 この人でな――――……?」

 

 言葉は途切れた。彼は叫ぶ相手を愛剣で斬り殺し、守護者は役目を何時も通りに終えた。世界が滅び逝く剪定事象の中、僅かな人だけでも救おうと足掻いた魔術師は、人理を守る為に不必要と剪定された。そして、数多の平行世界を守る為、召喚された三人の守護者は無事帰還した。

 ―――これは、良くある抑止の守護者の仕事風景である。

 











 読んで頂き、ありがとうございました。
 守護者となったオリキャラのデメトリオ・メランドリですが、死後はこんな風に抑止力として人理の邪魔になった人間を殺しています。エミヤと同業者です。その上で、反救世主の名を刻まれた架空の反英霊として座に登録されました。




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