神父と聖杯戦争   作:サイトー

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 今回は短いです。なので、実験作的なおまけがあります。余り巧い具合に書けなかった嘗ての黒歴史ですが、一応削除した前の作品にも載せたので苦しみながらおまけを載せました。


24.占領

 第五次聖杯戦争が行われていたある日。これは、とあるマスターとサーヴァントの会話である。

 

◇◇◇

 

 ここは市街から外れた場所に建造されている洋館。

 暗く周辺の人からは幽霊屋敷と呼ばれている廃れ具合。そんな風に人目から隠れる様、ひっそりと建てられた館が冬木には有る。

 そして、そこにはマスターとサーヴァントの一組が、聖杯戦争の拠点として利用していた。

 

「………アヴェンジャー。傷の具合はどうですか?」

 

「微妙なところだ。全力は出せるがそれを維持し続ける事は難しいだろう」

 

「そうですか。………バーサーカーは中々に強敵でしたからね」

 

 戦った相手は真名にヘラクレスの名を冠するサーヴァントであった。そしてバーサーカーを制御するマスターも特級の魔術師の素質も持っていた。大英雄の主に相応しい魔力量。

 

「マスター。アレは強敵などと言う次元ではない。間違いなく英霊の中で究極と呼んで良い最強だ。

 俺も条件を整えればどの様な相手でも最強で在ることは出来る。しかしアレと同じ様、常に無敵を誇る最強で在る事は出来ないぞ。

 ……だがそれも、ヘラクレスがバーサーカーのクラスでは無ければの話だがな」

 

 フードを頭から下し、顔を晒すアヴェンジャー。

 肌は白い、それこそ死人みたいに。そして黒ずんだ灰色をした死灰の様な髪、何もかもを呑み込む奈落の如き黒い眼。それがサーヴァント・アヴェンジャーの素顔。

 彼は身に着けている黒い法衣のボタンも全て外し、だらけた姿でソファーに座り込んでいた。そしてバゼットのサーヴァントは自分のマスターの前で、トレードマークのコートっぽい黒色の法衣により普段は隠してた素顔を見せている。

 彼は嘲笑う様、クク、と深みの有る笑い声を出した。恐らくは、バーサーカーとそのマスターを嘲笑っているのだろう。

 

「……確か、“射殺す百頭(ナインライブス)”でしたっけ?」

 

「―――そうだ。

 ヘラクレスをヘラクレス足らしめる宝具。それが無くては恐るるに足らん、とまで言わないが次の機会にはアレを倒して見せよう」

 

 射殺す百頭(ナインライブス)。ヘラクレス最強の宝具の真名。

 これを放たれれば死ぬしか無い、これを防ぐには殺される前にヘラクレスを殺すしかない。

 しかし命を十二も宿す蘇生宝具、“十二の試練”を持つこの男が相手ならば必ず放たれてしまう。十二ある命を一つだけ使用し、相討ち覚悟で“射殺す百頭”を使う。それだけで彼は敵対したあらゆる相手を絶殺する事が出来るだろう。

 十二の試練(ゴッド・ハンド)はそれだけで脅威となる宝具。だがソレは、ナインライブスと共にある宝具であるからこそ、バーサーカーに宿る神の呪いはその真骨頂を見せる。無敵の肉体に究極の絶技、この二つが揃うからこそヘラクレスは最強の英霊で在り続けるのだ。

 

射殺す百頭(ナインライブス)を犠牲に、あのアインツベルンは狂化を選んだ。

 その様な阿呆共に負けるなど英霊として大恥晒しだ。犬畜生にまで魔術師に堕とされたヘラクレスには悪いが、バーサーカー相手に敗北など有り得ないな」

 

「ほう、中々言いますね。………しかし、随分と手酷くやられた姿ですが」

 

 アヴェンジャーはバーサーカーから幾つもの命を宝具から奪い消した。しかし十一回限定だが不死故の反撃、狂っても尚その身を動かす戦士の習性で喰らってしまった。つまり、アヴェンジャーが減らしたバーサーカーの宝具も時間と共に回復し、数日で命のストックを十二に戻してしまうと言う訳だった。

 バーサーカーらにしても数多の宝具を湯水の如く使い、そして自分たちを倒しえるサーヴァントは確実に始末しておきたかった筈。

 

「まあ、それは此方が謝るしかないな。まさか令呪の重ね掛けで狂化してくるとは思わなかった。

 俺がアレを視たイメージ、クラススキルと令呪を発動させた身体能力は平均的なサーヴァントが持つ火力を遥かに凌駕している。対軍クラスを超え、対城クラスに至った身体能力の増強など悪夢以外の何モノでも無い。

 もっともあれは、彼の大英雄ヘラクレスだからこその狂化能力だろうがな」

 

 神に狂わされた悲劇の大英雄。余りにも重い家族殺しの罪。

 彼の贖罪の旅は長く、悲劇と絶望に濡れ切っていた。そして漸く、与えられた償いの日々を終わらせる一人の罪人。だが試練を終わらせた大英雄の最期は女神による毒殺だった。それも自分の妻を騙し使ったどうしようもなく汚く下衆で悪辣な手段。彼は結局、女の悪意に満ちた醜い狂気で殺された。

 

「―――なるほど。そういう事ですか……」

 

 バゼットの呟き。彼女はアヴェンジャーの話を聞く。

 大英霊を語るアヴェンジャーの声には怖れる音は全く含まれていなかった。淡々と事実を述べるだけで、バーサーカーを敵と視ているのかさえ怪しい。

 バゼットは己のサーヴァント、アヴェンジャーを改めて見た。

 

「……では既に対策は立ててあると、アヴェンジャー?」

 

 それに対して、ふむ、と彼は頷く。

 

「無論だとも、マスター。

 対神宝具に各種宝具、それと固有結界を以って圧殺する。奴にはもう、令呪の恩恵もマスターの力も与えはしない。

 ―――奇襲にて速攻。

 バーサーカー組が俺達とは違う敵と戦い疲れ、奴が蘇生宝具の命を消費している状態ならば、より確実に殺し尽くせるだろう」

 

戦略はマスターの好きにすれば良いが、とアヴァンジャーは最後に付け足して話を終える。

 

「でしたらアヴェンジャー、固有結界でバーサーカーとアインツベルンのマスターを分断してしまえば良いと思うのですが。

 それでしたら、私があの幼い魔術師を速攻で始末する、と言う計画を練れると思います」

 

 それを聞いたサーヴァントは難しそうな表情をつくる。

 

「……いや、それは危険だな。

 あの城にはバーサーカーとマスター以外にも複数の気配を感じられた。それにその気配の持ち主が宿す魔力量も申し分ないクラスだ。戦闘が可能な人造人間がいると容易に考えられる」

 

「―――む。確かにアインツベルンの人造人間(ホムンクルス)は危険ですね」

 

「だが、城外で巧い具合にバーサーカー組に出会えたのならば、マスターのその策も良いかもしれんな。

 他の人造人間のいない一対一、これならば確実にマスターが聖杯の人形を始末出来るだろう。しかし今回の聖杯戦争はアレが聖杯だと思われる為、仕留めるにしても生け捕りが好ましいぞ」

 

「――――……?」

 

 魔術師にしてアヴァンジャーのマスターであるバゼット・フラガ・マクレミッツ。彼女は決して聞き逃していけない台詞を自分のサーヴァントが発していたのを聞き取っていた。

 

「……あー、あのですね、アヴァンジャー。先程、貴方は、何と言いましたか?」

 

「ふむ。マスターの策も良いと俺は言ったのだが」

 

 頭を振り回したくなるバゼット。このサーヴァントは一度だけしっかりと、とことん口を割らした方が良いのかもしれない。会話をしていると心臓に悪い情報が突然出てくる。アヴェンジャーの真名を聞いた時など、本気で彼女は驚いて脳みそがフリーズした。

 

「それより後の言葉です! かなり重要な事をさらりと言いましたよね!?」

 

「ああ……アレが聖杯だってことだな。――――言わなかったか?」

 

「―――初耳ですっ!」

 

 それを見てアヴェンジャーは、やれやれ、と言いたげに首を振る。

 

「そう騒ぐな。落ち着け、ダメットさん」

 

「――ダ、ダメット……。ほほう、また貴方はダメット言いますか………っ!」

 

 ミシリ、と握り拳二つが軋む音。

 

「すまない、失言だった」

 

「…………………ッ」

 

 物凄く真摯な表情で謝罪の言葉を掛ける彼。それは本気で謝っている様にバゼットには見え、彼女的には許したくなってしまう姿である。

 バゼットはこういう姿をされると、何気に強く言いだせない性質(タチ)をしているのだった。何気に乙女である。

 

「マスターはダメット・ダメガ・ダメレミッツだったな、ハッハッハッハッハ」

 

 正に外道。実に無道。何て非道。冷徹サーヴァントの捨て台詞(セリフ)。

 ピキリ、と固まるバゼット。しかしその後すぐに、ニタリ、とそれはもう凄まじく笑った。もう凶顔とも言える笑顔を浮かべた。泣き喚く子供も心筋梗塞して両目の涙を止めること確実だ。

 

「……アヴェンジャァァア。

 貴方とは日本に伝わる伝統の決闘法―――――ジャンケンで決着を着けましょう、フふふッ」

 

「―――いや。本気で謝るからな、マスター。

 そこまで凄まじい魔力を拳に溜めるのは、流石の俺も止めた方が良い思うのだが・・・・・?」

 

 明らかなオーバーキル魔力、サーヴァントを粉砕しかねない鉄拳だ。だがこれは既に慣れ切った日常会話。二人はこの短い聖杯戦争の日常を楽しむ様に会話をしている。

 

「貴方がそんなんだから、私は……っ!」

 

「ほう、“私”が何だと言うのだ。クク、俺はその先の言葉を聞きたいな、マスター」

 

 ……日常なのだ。

 これはそう唯の日常風景。“伝承保菌者”と呼ばれる執行者と“死灰の英霊”と呼ばれる守護者、その二人が聖杯戦争で過ごした平穏のカタチである。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

2月9日

 

 

 この日は土曜日。一週間最後の曜日であり、学生らが明日を楽しみに学校を過ごす日だ。

 学生である代行者兼神父の言峰士人は聖杯戦争中の監督役を請け負っている。そんな彼は日常を崩すこと無く生活している。今はいつも通り、士人はギルガメッシュと自分で調理した朝食を食べていたのだった。

 食卓に料理が並んでいる。今日は和食であるようだ。味噌汁の匂いが食欲を誘う。

 

「それでギル。暇そうな全くヤル気の無い顔をしているが、まだ動かないのか?」

 

「ああ、貴様が言う通り暇なのだ。

 そもそも動くと言ってもだ、我には我の都合がある。目的がここから逃げることなく飢えた狗ではないのだ、焦る必要もあるまい」

 

溜息を吐く王様。心底退屈そうである。

 

「ほぉ。ギルの言う都合と言うのは、つまり――――――」

 

「―――――そうだ。如何に我のセイバーと対面するかと言う事よ」

 

 あぁやっぱり、とそう言いたげな臣下(ジンド)王様(ギルガメッシュ)をジト目で見る。そして士人のジト目の破壊力は凄まじく、普通の一般人ならモノの一秒で“え、何? なんか変なこと言いましたでしょうか?”と、不安に襲われる事間違いなし。

 何だけど、そこはやはり王様。財力と同じで胆力も世界最強なのだった。

 

「ま、そんな事とは思っていたが。ふむ、実際に聞くと脱力する」

 

「脱力とは無礼な。士人には判らぬだろうが、あの女は実に我が財宝に相応しい。この我の世界にも、あれほど珍妙で見応えのある存在はそうそういないのだ。

 ―――美しいモノは、やはり良い。

 ―――珍しいモノは、心に映える。

 我は手に入れたいと思うモノを思う儘に奪うまでよ」

 

 ズズズ、と神父が味噌汁を飲んでいる。パリパリと沢庵を食すギルガメッシュ。

 

「相変わらずセイバーに惚れ込んでいるようだな。

 しかし、ギルがそこまで人を好きになるとは思わなかった。まあ、セイバーのサーヴァントを本当に人間扱いしているか、疑問であるが」

 

「―――ハ。そもそも人類など我の所有物に過ぎん。

 奴らが語る道徳など唯の屑塵よ、今の人間社会なぞ汚物でしかない。故にだ、“人間扱い”などとつまらぬコトを我の臣下がぬかすでない。

 この世全ての人間はな、所詮“人間”でしかないのだ。我にとって、そこに違いなど有りはせん」

 

 自分を天に、その他諸々は地に平等に見下ろす王。それが英雄王ギルガメッシュ。彼にとっては認めた存在だけに、初めて雑種以外の名が付く。例えるならば、それが友であり、宿敵であり、財であり、娯楽であるのだろう。

 

「ほうほう。

 ……あ、好き嫌いはいけないぞ。ギルはそうやって、また豆腐を残す」

 

 士人の視界に映るのは四角い白いアレ。

 

「………豆腐はどうしてもな、アノ紅い地獄を思い出すのだ。

 そもそも味噌汁にあれほど豆腐を入れるなと、我はあれほど言っていただろう。この冷や奴もそうだ」

 

「だが旨いだろう? 王とも在ろう者が自分の舌を信じないのか」

 

「―――――――――」

 

「―――――――――」

 

 味噌汁の豆腐を残そうとするギルガメッシュに、士人がまるでお袋さんの如く窘める。そして冷や奴に手を出していないギルに食べるように促していた。

 しかし、あの悪夢が現世でのトラウマになっている彼には酷というモノ。だが扱い方を覚えている神父にとってギルは結構容易く操られていたりする。綺礼がそうやってギルで遊んでいるのを、この神父は見て育ってきているのだ。

 

「…………………」

 

「…………………」

 

「ええい! 食えば良いのだろう、食えば!」

 

「ああ。食えばコックとしての文句は欠片もない」

 

 別に何時も食べない言う訳ではないのだが、唐突にトラウマーボーをギルガメッシュは思いだしてしまい、豆腐だとか紅いモノを食べれない時があるのだ。

 ―――泰山のマーボーは本当に業が深い、深すぎる。

 ギルのアレと同じである意味では地獄の具現と同じなのだろう。殆どの人があのマーボーを見れば地獄を連想する、正にトラウマーボー。

 

「ところで士人よ、学校の時間は大丈夫なのか?」

 

 うんうんと唸りながら豆腐を飲み込んでいたギルガメッシュが臣下の神父に尋ねる。そこそこお父さんみたいな事を聞く王様であった。まあ、一緒に暮していればそれなりに情も湧くモノなのだろう。

 

「実は、全くダメだ。

 遅刻するから途中までバイクで行く予定だよ」

 

 不良神父の駄目発言。変な夢を見たからか、今日の朝の鍛錬で何かが掴めそうだったので気合いが入ってしまい長く修練に励んでしまった。

 いつもは徒歩で通っている学校。教会から学園まで数キロはある道のり、士人の足だと歩いて50分と言ったところ。自転車に乗って行っても良いのだが歩きの方が鍛錬になり、何よりも自転車より言峰士人は歩きの方が気に入っている。

 

「ああ、あのバイクか。我に献上すべき一品だったアレのコトだな」

 

「…………」

 

 そうして、飯を食べ終えた士人はキーを持って車庫へと向かう。ギルガメッシュは私用へと出掛けて行ったのだった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 ひゅ~、と風が吹く。ここは屋上、寒い冬の風が良く通る。

 ここだとフェンス越しに冬木の町並みが良く見えた。今は戦場と化している冬木の街、二百年続く業深き聖杯戦争。骨肉喰らい合う魔術師と英雄たちの狂宴。

 

「―――ぶっちきる。ふふふ、ぶっちきってやるわ」

 

 そして冬木市にある高校、その屋上で一人の魔術師が人王立ちで声を漏らしていた。

 

「声に色がないな、師匠。まるで恋人にでも裏切られた様子だぞ」

 

「―――――――」

 

 土曜日の昼。遠坂凛は同盟者の魔術師―――衛宮士郎に思いっ切り約束をすっぽかされていた。

 故に彼女はこうして、屋上で言峰士人が来るまで霊体化したアーチャーと只管に立っていたワケなのだが。結局その甲斐は無く、屋上に来たのは弟子の神父のみ。

 

「……全く。相変わらず自分に素直ではないな。いつもの様に、心の贅肉、とでも思っているのか」

 

「うるさいわね。弟子だったら師の気持ちくらい察しなさい」

 

「贅肉まみれの心を、かな」

 

「―――ち。……まあ、今は勘弁してあげる。それよりあんたにはまだ訊きたいことがあるのよ」

 

 今日の学校は午前中に授業は終了する。屋上からはそうそうに自宅へと帰っていく生徒たちの姿が良く見える。

 言峰士人は遠坂凛に屋上へ呼び出されていた。あんたに訊きたいことがある、と彼は言われ屋上へ放課後に向かった訳であった。彼女の予定では衛宮士郎と一緒に士人に訊こうと考えていたのだろうが、その士郎はそうそうに帰宅してしまう。

 

「ふむ。それは何だ?

 監督役である故、答えられる質問と答えられない質問があるが、自分に答えられるモノは答えよう」

 

「……金髪で赤眼の外国人、知ってる?」

 

「――――ム。誰なんだ、それは」

 

「あ~、うん。間桐の家の前で何度か見たのよ。……それにあの顔は昔どっかで見た覚えがあるような、ないような……?」

 

 神父としては、肝が冷える様な別になんでもない様な、そんな妙な考えが頭を過ぎる。正直な話、誤魔化しようなど腐る程ある。そして何よりも、神父としてはバラした方が面白い展開を見せそうなのが悩むところ。だが今この場所でギルガメッシュのことを暴露するのも芸がなく面白味も半端であるし、聖杯戦争でまだ目立つコトもしたくない。

 そこが一番の悩みどころだな、と士人は己の師匠を見ながらドス黒い事を考えていた。

 

「その人物が如何したと言う。何か気になるところでもあったのか?」

 

「なんとなく何だけど、人間でもサーヴァントでもない妙な気配。こうだ、と断言出来ない変な存在感を持っていた。

 なんでかソイツが気になってね。金髪紅眼の特徴が当てはまる人物、ソレがそっちの関係者に居るかの否か訊いておきたかったの」

 

「――――成程。

 つまりだ、その人物が教会の関係者でないなら早々にヤっちまおうと、そういう腹なワケだ」

 

 金髪紅眼の男。遠坂凛が何度か見た人間か如何かも解らない人物。どうも気になる奴であり、魔術師かどうかも解らないので情報を弟子から得ようと考えた。アレが教会の関係者ならばそもそも戦う必要もないのでこうして神父から訊いている訳であり、少しでも情報が得られれば上出来な話。

 

「そうそう。

 あんまりにも怪しい男だったからね、キッチリとした情報が欲しい。そっちの関係者だったら大変だからこうして訊いて上げてるワケなのよ」

 

 とか言ってる凛だが内心は違う。ぶっちゃけ、こいつだったら何かしらのコトは掴んでいるだろうと考えており、その反応から色々と探ろうと思っていた。彼女の勘では何かしら聖杯戦争に関係していると確信しており、魔術師が感じる嫌な予感ほど良く当たるモノだ。

 

「金髪で赤眼のスタッフは存在しない。そして、その人物を師匠ほどの魔術師が怪しいと第六感で感じたのなら、それは恐らく――――」

 

「――――聖杯戦争の関係者ってコトね」

 

「ま、そういうコトだろう」

 

「―――…………(なんか、隠してそうね。まあ、話さないのならそれで良いわ。アーチャーを連れてソイツと直接会った時にカマでも掛けてみましょう)」

 

「―――――(今はまだまだ、その様な感じだな)」

 

 英雄王について話すことをやめた士人。やはり娯楽は劇的にするのが良いと彼は思った、父親の様な思考をもって。ギルガメッシュが遠坂凛と衛宮士郎が激突するのは必然故、暴露するならば戦場の方が趣がある。

 

「衛宮も呼ぼうと考えていたのなら、その不審者はアレと一緒に居る時に目撃したのか?」

 

「そうよ。一度目は違うけど、二度目は衛宮くんといる時に目撃した。

 両方とも間桐の近くで見たんだけど、間桐の関係者っぽくは無かったからね。ウロウロして桜とも話をしていたし」

 

「成程な、それは確かに怪しい。

 聖杯戦争と関わりの無い外来の魔術師ならば儀式を乱す不届き者。放っておけばどの様な影響が出るかわかったモノではない。監督役として探りも入れておくことにしよう」

 

 情報を感謝するよ、と話を終わらせる神父とそれを聞く魔術師。思うような情報は手に入らず、相変わらず口の堅い弟子。名目上、怪しい輩の報告と言う形で金髪紅眼の話を聞いてみたが芳しくない結果に終わる。

 

「ふ~ん。そう、わかったわ」

 

「何だ、不機嫌そうな顔をして」

 

「別に、何でもない」

 

 悩んだ感じの凛を見て、はっは~ん、と言いたげな顔をした士人が彼女を見る。

 弟子がこんな顔をした時は大抵ツッコミを入れざる負えないことを言われるので自然と心で構えをとる遠坂凛。あぁしかし悲しいかな、彼女はツッコミに慣れてしまった、エセ神父親子の所為で。

 

「心配無用だよ、師匠。衛宮はニーソ好きな太腿(フトモモ)愛好家だから…な」

 

「一体何が! ってか“な”じゃないわよっ! 意味判らないわっ!!」

 

「―――――(……誰がニーソなフトモモ好きだ、誰が)」

 

 ―――と、話を霊体化して聞いていた赤い弓兵が心の中で呟いていた。しかし、その声は誰にも届かない。そして残念なコトに彼はソレを否定しきることも出来ず、自分には嘘をつけない性分であったとさ。

 

「違ったのか。師匠の悩みは衛宮絡みだと、俺は推測していたのだが」

 

「いや、まあ、その、そりゃあ幾らか関心を彼には持ってるわよ。でもそう言うんじゃなくて、わたしが考えてるのは―――――」

 

「――――どう口説き落すかと。いやはや師匠らしく実に男前だな」

 

 ――――爆弾投下。

 

「アホかバカ弟子!! 誰が誰を口説くって言ったっ!!」

 

「ハハハハ、代行者の前で惚気るとは恐ろしい魔術師だ。親の顔を殴りたい」

 

「“見たい”じゃなくて“殴りたい”って言った!! こっちが恐ろしいわっ!!」

 

 はぁはぁ、と下の階に聞こえそうな音量で叫んだ彼女は息が荒い。そして神父は笑顔である。また口車に乗って弟子のペースに呑み込まれた凛は忌々しそうに、目の前の兄弟子の生き写しとしか思えない幼馴染をムムと睨む。

 そんな凛を霊体化中のアーチャーは揄いたくなってしまった、根性が歪んでいる。一体なにが彼をこんな人間にしてしまったのか実に謎であり、実際に皮肉の被害を受けている凛には切実に知りたい謎であった。

 

『……凛。君の趣味に私も干渉する気はな――――』

 

『アンタもノるな! 殴っ血KILLわよ!!』

 

『――――………了解したマスター。

 だが敢えて言わせて貰おう、衛宮士郎にニーソを見せるのは危険だと』

 

『真面目な声でなに念話してんの! わたしを憤死させる気!!!』

 

 フフフ、と笑う気配がある虚空を睨む凛。結局なところ、士人は誤魔化す事を選んだ。凛がキれて士人にガントぶっ放すまで、放課後の雑談は終わりを迎えなかったとさ。

 

 

◆◆◆

 

 

――ブロロロロロロロロッッ!!――

 

 バイクを走らせ土曜の学校から帰宅する。師との話も程々に切り上げ教会を目指し運転していく。土曜日は昼で終わり、今の天気は太陽が真上で燦々と輝く晴天なり。バイクに乗る神父にとって実にバイク日和な天気であった。

 

「―――――最悪だ」

 

 教会の敷地へ入ろうとした神父が言葉を口にした。気配は以前に覚えがある魔力。学園で感じたモノと、新都で被害があったビルのモノ。士人は陰湿な魔女の匂いを感覚で嗅ぎ取った。

 

「……(僅かだが結界が変質している)」

 

 つまり、それは――――結界が破られたと言うコト。

 

「――――――(侵入者。……と、なると、キャスターの仕業かな、これは)」

 

 バイクに乗りながら、神父は自宅をいつもの様に奈落の眼で見ていた。特に困った感じでは無く、ヘルメットからは死んだ魚のような視線が放たれるばかり。彼は事前に用意していた策を幾つか脳内で展開させる。

 

――プルルルル、プルルルル・・・・――

 

「もしもし。……ああ、そうだな」

 

 ヘルメットを外した彼は懐から携帯を取り出し電話を掛ける。

 

「―――でだギル、潜伏場所がな。―――――……それでも良いが、監督役としてかなり派手に動くことになるからな。

 ………そうだな。……ああ、仕方が無いとは言えんが、ギルにとっても其方の方が都合が良い筈だ。俺としても今はまだこのままでいたいのだが。…………―――――――………。・・・・そうだろう? ――――ふむ。まあ、そう言うコトだ。……………―――ああ、今はまだ、な」

 

 言峰士人は電話相手―――ギルガメッシュへと連絡した。ヘルメットを着け直し、そのまま彼はバイクの向きを反転させる。

 

「(全く、監督役はこれだから。前回の監督役もマスターに殺された様だが、実際中々に危険な立場だ。

 ――――さて。キャスターへの対策も考えなくてはな………)」

 

 ヘルメットごと上を見ながら天を仰ぐ。そろそろ忙しくなりそうだ、と彼はそんな予感を感じながら目的地へとバイクを走らせて行った。




◆◆◆

おまけパロディver銀魂風。
竜宮城編の無人島に遭難したら、そんな感じのif。



「―――なんでさ……………」

青い青い大海原を砂浜から見ながら、衛宮士郎は呟いた。

「誰もいないのかぁーーーーー!!」

彼が大声を上げる。
そもそも何故この様な自体になってしまったのかと言うと、言峰士人が夏の冬木で一匹の人面亀を拾ったのが始まりだった。・・・それで、いやまあアレですよ、そんなこんながあんな感じで、結局士郎は無人島へ流されついた訳だったとさ、ちゃんちゃん(終わりません)。

「…………一人かぁ」

砂浜にSOSを書き終えた士郎はサンサンした太陽の光に当たる。海パン一丁で体育座りをする士郎が、しみじみと呟いた。

「――――――なんという解放感」

女だらけ、むしろ自分以外全て女性の極限ヒエラルキー所帯。今にも、ドキッ女だらけの聖杯戦争、とか始まっても可笑しくない環境で生活している彼には、今この状況が与える解放感は半端無かった。

――シュパッ――

何かが脱げる音。てか、海パン一丁なので彼が脱いだ一品は態々、教える必要はないだろう。
―――だがしかし、敢えて言おう、彼は“海パン”を“脱”いだ。そう、スッポンポンな正義の味方と化したのだっっ!!!!!
(海パンと脱を強調した意味はありませんよ)

心が軽くなる。無人島と言うここまで完全完璧な孤独は早々ない。正義の味方は救うべ者が何一つとて存在しない、彼は今だけは理想から解放されて良かった、この新鮮味。そうなのだ、彼が捨てた物は服では無く、心の鎧であった。心が磨り減る毎日から守る為、自分たちは心に重く頑丈だ鎧を無意識に装着してしまっている。もうこの世界に恐れるモノは何一つない。木が水が日が全ての自然の一部であり、自然も俺達の一部なのだ。全てが身の内にあった。恐れるものはない。
――この世界で生きる限り、独りだなんてことは有り得ない!!!!

そうして悟りを開いた士郎は飛び上がる。解放感のまま、空へと跳ねあがった。

「俺たちは――――――」

「僕たちは――――――」


「「――――独りじゃないっ!!!」」


スタ、と砂浜に着地する二人―――衛宮士郎と間桐慎二。彼らは全裸で舞い上がり、飛んだり跳ねたりと恥かしいブラックヒストリーを作っちゃたりしていた。そして脱いでいた服を着る。

「本当に一人じゃなかった」

「なんだよ、居たのか衛宮」

「おまえも流れ着いていたのか慎二」

――シ~~~ン――

「「アハハ…………」」

「衛宮……。僕たちは何も見なかった、そうだろ?」

「それが良いな、ホント」



素っ裸で砂浜を走っていた少年二人が森の中を歩き進む。

「誰もいないと思ったからさ、地球上にもう自分しかいないつもりでついフルスロットルしたと言うかさ」

「そうだな、慎二。ハシャグのも仕方ないよな」

話をしている二人。

「…………波ぁーーーーーーーー!」

自己の正当化に全力を注いでいる駄目な男二匹が物音を聞く。
その声は聞き覚えのある誰かの声。二人は音がする方へ向き、そのまま歩み続ける。

「どどん波ぁーーーーーーっっ!!」

――…………其処には痛い女がいた。
なんかもう本当に痛々しかった。慎二と士郎が自分の黒歴史を連想してしまう程イタかった。

「なんか違うのよねえ、う~む」

「…………………………」←エロエロ贋作者

「…………………………」←可哀想なワカメ

「――――どぉどォんンンン波ァァァアアアアアアアアアアアアア!!!!」

――キョロ――

遠坂凛が視線を感じた後ろを見ると、そこには死んだ魚の眼をした士郎と慎二が佇んでいた。





「―――――――――」

腕で顔を隠しながら歩く凛。

「解るよ遠坂、うんうん。中学二年生の時は僕もデスビームとか撃ちたくなったからね」

「―――……………(俺はかめはめ波だな。あ、でも遠坂のガンドはまんまデスビームだった)」

「――――――うぅ(海藻と同類…………)」

なんか奈落の亡者っぽい、大切な何か(尊厳とか、そう言った感じのモノ)を失ったヒトの呻き声。

「僕たちは何も見なかった。な、衛宮(どうしてだろう、何かイラっとした)」

「ああ、そうだよな。何も見なかった」

「ごめん。誰もいないと思って、一人だったから全力で練習出来ると思って…………」

三人が歩いていると、崖の上で一人ライダーが立っていた。

「夢に見て〇た あ〇日の影に 届か〇い叫び!
 明日〇自分は な〇て描いても 消え〇い願いに濡れる
 こ〇れ落ち〇欠片をぉ 掴む〇の手でぇ 〇れる心抱〇て~ 跳〇込ん〇いけ夜へ~~~~」

ライダーが手拍子をしながら、キリッとしたドヤ顔で歌を歌い続ける。

「………………………」←ハーレム爆発しろbyワカメ

「………………………」←自分の扱いに嫌気を感じてきたネタ海藻

「………………………」←ヒロインの競争率にゲッソリ気味なツンデレ魔術師

「誰~か〇当てに〇ても~~―――――――――ハッッッッ!!!!!!!」


ノリノリ騎乗兵は後ろの三人組に気が付いた。




「――――――――――」

腕で顔を隠しながら歩くライダー。

「あれだよライダー、冬木の人はみんなその曲は好きだからさ」

歩いていた四人は砂浜に座りこむセイバーを発見する。

――ざっざっざっ……――

救助シグナルのSOSを砂浜に描き終えていたセイバー。
夏の砂浜でソフトクリーム食べたいです士郎、とか考えてる彼女は木の棒でソフトクリームの絵を描いている。

「………………………………」←最近、女性陣が怖くて堪らないエロエロフェイカー

「………………………………」←最近、義理の妹が怖くて死んでしまいそうなワカメン

「………………………………」←妹と共にネタキャラ化してきて疲れが溜まる年齢微妙な魔法少女

「………………………………」←姉の悪夢ばかり見てイリヤでトラウマ再発する元女神の蛇

書き終わると共に丁度良く波がセイバーの絵を襲った。そしてどんな偶然か、ソフトクリームのコーン部分だけ波攫われ消えたしまった。

「――――――はっ(な、なんと…………!)」

無言でそれを見ていたセイバーだったが、また波が絵を襲う。このままではアレに見える渦巻き部分は消えてしまうであろう。

「あ、アワワワ………――――ハァ!」

波から絵を守るセイバーを、士郎らはキッチリ見てしまっていた。



「――――――――」

腕で顔を隠しながら歩くセイバー。

「みんなにアレを見せたかったんだろセイバー。俺にはわかるよ、奇跡的だったもんな、アレ」

歩いていくマスターとサーヴァント連中。彼らは砂浜に大きな葉っぱで日陰を作り、そこにゴロリと寝ているイリヤスフィールを発見した。

「――――あの雲、絶対中にラピュタがある!!」

………そうして、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンも一向に加わった。



「―――――――――」

腕で顔を隠しながら歩くイリヤ。

「恥がしがる事はないですよ、イリヤスフィール。大きい雲を見れば皆一度は思いますから」

数を増やしながら砂浜を歩くマスターとサーヴァントら。彼らはこの無人島遭難の原因となった言峰士人を海が見渡せられる砂浜で見つけた。

「「「「「「――――…………………」」」」」」

「誰~かを、エクス~カリバ~」

そんな自己アレンジ曲を歌いながら立ちション(?)で砂浜にSOSのマークを作る神父が一人。これが俺の聖剣エクスカリバーとか言いたいんだろうか。

「――――ムッムム。
 あの雲の中には絶対、天空のマーボークリスタルがあると見える……………っ!」

行き成り彼は上を見上げ、空に浮かぶ巨大な雲を見ながらそんな妄言を呟く駄目神父。既に末期だアンリ・マユ、素早く彼を助けてやれ。

「おっと、SOSマークが途中までになってしまったな……―――――ハァア!!」

そして波からSOSを神父は身を挺して守った。

「なんでさッッッ!!!」

「一つたりとも理解出来ないわよ!!!」

それを聞いた神父はキョトンと首を傾げる。

「そうか?
 アンリ・マユとか召喚出来そうな雰囲気だったと思うが」

「何処が! SOSモドキでどうして悪神が出てくる!! おまえ膿んでるよ!! 頭絶対膿んでるよ!!」

「弟子よ、成長したわね……っ」

「遠坂は何に戦慄してる!!」

うがぁぁあああああ、と頭を抱える正義の味方。この無人島に正義は無いと言うのだろうか。




集まった七人の人間と英霊。
彼らはこれから遭難した自分たちが如何行動するのか、真剣に話合っていた。しかし、そんなモノは長続きしない。空腹に黒歴史の量産。彼らの精神は限界に近そうでありながら、別にどうでも良さそうでもあった。
しかし、限界突破者が一人誕生する。それは食いしん王その人。

「シロウ、お腹が空きました」

士郎は荒んだ目でそれに答える。だってほら、セイバーの頭にはいつもピコピコ動いているアホ毛が無いのだから。多分、現実から逃げる為に自分から黒化しやがった。

「そこの陸型ワカメでも食べててくれセイバー」

「さあ可愛子ちゃん……僕を受け入れたまえ」

「解りました。
 空腹のストレス発散に殴ります」←何となくランクダウンした直感で思考を察知した

「――……え。いや、ちょ、なんで如何して僕ばっかり、………って、アーーーーーーーっっ!!!」

「セイバー、私が混ざっても構いませんか?」

「―――ええ、是非」

外野四人は、そんな八つ当たりの音が聞こえた。


「「「「………Amen.」」」」←士郎、凛、イリヤ、士人


そうして、遭難者は和気藹々と話し合いを続ける。
はっはっは、と笑い合う彼ら。無人島に取り残されても、何だかんだで明るい空気。



「――――って、なんでわたしが乙姫役なんですかぁーーーーーーっっ!!!!」

と、そんな彼らに桜の絶叫が海底から聞こえてきたとか、ちゃんちゃん。







「……おいたわしや、サクラ(―――ですが、流石にその役を変わるのは私も嫌です)」

声の主のサーヴァントが、薄情にもそんなことを思っていましたとさ、改めてちゃんちゃん(今度こそ終わります)。



◆◆◆

登場人物

童顔眼鏡衛宮士郎、マダオなワカメ、駄目人間リン、ゴリライダー(姉)、柳生アルトリア、China娘イリヤ、ズラなコトミネ、乙姫サクラ(集合写真で別枠に写ってるみたいな役割)


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