神父と聖杯戦争   作:サイトー

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 ドラッグオンドラグーン3が発売と聞いて歓喜してます。ニーアをクリアして数年、新作が凄まじく楽しみです。


34.黄金と死灰

 バゼットは見ていた。過去と未来の殺し合いは壮絶を極めた。

 互いで互いを剣で否定し合い、互いで互いの剣で絶望と理想が鬩ぎ合う。

 

「―――………」

 

 これがバゼット・フラガ・マクレミッツに見せたかったアヴェンジャーの物語(シナリオ)の一つ。

 彼女は茫然としながらも、自分の裡には無いモノを持つ彼らが、どうしようもなく尊い存在に思えた。

 

「…………―――っ」

 

 あの男は相変わらず悪趣味だ。こんなものを見せられては、戦争が出来なくなる。もはや彼女では、衛宮士郎を殺す事など不可能だ。無論、殺すと決めれば殺せるが、自分の心に余分な傷が残るのは確実となってしまった。セイバーのマスターである遠坂凛も、ここまで深入りしてしまえば、敵として見るのに覚悟が必要になってしまった。

 話に乗せられて、ここまで来て見れば、一人の男の終わりと始まりが殺し合い―――自分同士の決闘が目の前で行われている。

 ―――決着を見届けたい。彼女は純粋にそう思った。

 しかし、永遠と続きそうな剣戟の音も終わりを迎える。

 勝者は一人、敗者も一人。

 衛宮士郎とエミヤシロウの決着は、現代にて因縁を終える。

 ―――そうして、過去と未来の死闘は終わりを迎えた。

 勝利したのは理想を肯定した過去。敗北したのは理想を否定した未来。二人の決着をその目で見届けたのはセイバーとバゼット―――そして、ギルガメッシュ。

 

「――――死ね。偽物よ」

 

 彼は静かにこの戦いを見ていた。愉しんでいた。そして、勝利した小僧を殺すと決めていた。口に出した言葉は空気に解け、広間に居る誰にも聞こえない。

 故に、遠坂凛の到着により油断している所をギルガメッシュは宝具で攻撃した。上空より降り注ぐ刃の雨は必殺を体現し、無慈悲な死を表していた。―――アーチャーに勝利し、立ちつくしていた衛宮士郎は、死ぬ。

 そんな無様な姿を晒している士郎を助けるべく、一人の男が彼を庇った。先程まで完膚なきまでに殺そうしていたアーチャーが、嘗ての自分自身であった衛宮士郎の身代わりになったのだ。

 

「―――――――――――――……」

 

 ―――しかし、ギルガメッシュの宝具は届かなかった。

 アーチャーを串刺しにするべき刃は、同じ刃によって弾き飛ばされる。全ての武器が当たり前の如く撃ち落とされた。

 

「――――アヴェンジャー?

 ふむ……そうか。なるほど。王である(オレ)の行いが、そこまで気に喰わぬか……」

 

 彼は意外そうな顔でそう呟いた。その後、地に堕ちた宝具を蔵へ即座に回収する。そして、彼は下にいるマスターとサーヴァントを見下げると、彼ら全員から驚愕と殺意を以って見上げられた。

 

「何者―――!」

 

 セイバーの恫喝が響く。視線は広間の二階―――崩れた階段の上に向けられている。

 

「楽しませてもらったぞ。偽物同士、実にくだらない戦いだった」

 

「貴様、アーチャー……!?」

 

「十年ぶりだなセイバー。おまえとはもう少し早く顔合わせをする気であったが、予定が変わった。予想外の事故もあってな、我の思惑とはズレてきてしまったのだ」

 

 バーサーカーを倒し、イリヤスフィールを攫った男の一人。士郎と凛の視点から見れば二度目の邂逅となる英霊、ギルガメッシュ。

 彼の視線は自分を凝視するセイバーから受け流れ、とある男の方へ見下ろされていた。

 

「……アヴェンジャー。何故、我の邪魔をした?」

 

 黒衣のサーヴァント―――アヴェンジャーが其処にはいた。彼は霊体化によって遠坂凛よりも早くこの場に到着し、決闘の後を見守っていた。そして、ギルガメッシュの奇襲に反応し、宝具全てを同じ武器で迎撃したのもまた、アヴェンジャーであった。

 

「―――ク。当然だろう。

 まだ戦争は何も終わっていない。死なれては困るのだよ、ギルガメッシュ」

 

 返答は溜め息だった。ギルガメッシュの声には失望が滲み出ていた。

 

「雑種は雑種らしく、惨たらしい死に様を晒すだけで良い。特に王の許可無く贋作を作り上げる偽物など、汚らわしいにも程がある。

 ―――クズだ。そこな偽物共の裡には何一つ真作が存在せぬ。他人の真似事だけで出来上がった偽物は、疾くゴミになるのはこの世の為だ。

 ……それが理解出来ぬのか、士人(ジンド)?」

 

 王の言葉の先にはいるのはアヴェンジャーだ。彼へギルガメッシュは当たり前のように士人と、その名前を呼んだ。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 準備もそこそこに。神父はこれから起こる馬鹿騒ぎに備え、予め用意していた策の下拵えを終える。

 彼は城の中を悠々自適に進む。目的地はエントランス。

 今其処では、衛宮士郎とエミヤシロウの決着が終わり、ギルガメッシュの乱入により混迷の極致に陥っている。そうなると分かっていて、士人は彼を自由にさせていた。

 

「“この世全ての悪”とやらが何者であるかは知らん。

 だが都合が良いだろう? 全ての人間に等しくおちる死の咎。

 人より生まれた、人だけを殺す底無しの闇。

 本来(オレ)がすべき仕事を任せるには相応しい猟犬だ」

 

 どうやら、士人が来た時にはギルガメッシュの話も佳境になっていた。王が気分良く冗舌に話していた為、場を乱すのはつまらないと思い姿を見せなかった彼だが、それもここまでで良いだろう。

 

「―――ギル。それは困る。

 全て滅ぼす前に、まずは自分に中身を見せてくれ」

 

 凍りついていた場に、更なる冷徹な空気を出す人物が一人。

 神父はギルガメッシュの背後から自然に出てきた。そして、そのまま進み、ギルガメッシュの斜め後ろへと移動する。

 

「手に入れてしまえば、聖杯を使うのは何時でも可能なのだろう?」

 

「我の物を我が使うのだ。聖杯の使用権は我にこそある」

 

「―――……全く。ギル、俺はただ困ると言っているだけだ。別に、ギルがそうするのであれば、それはそれで構わないさ。

 ……ただお前にとって、この世を正すなど、本当は如何でも良い些末事なんだろうよ。出来るからするだけであり、他に面白い事があれば、其方の方に興が乗る。

 ギル。お前は聖杯による娯楽と、目の前に存在している娯楽―――本心ではどちらが欲しいのだ?」

 

「……ほう。貴様程度の分際で、王である我を計ると言うのか?」

 

「くくっ、何を今更。

 王が臣下として選んだ者が、そもそも再度王を計る訳が無いだろう」

 

「―――は。これだから貴様は愉快よな」

 

 ギルガメッシュの眼光には凶兆が目に見えている。どんなに器が大きい者であっても、彼から脅威を取り除く事は出来ない。

 しかし、神父に変化は無い。ただ何時も変わらず、日常の仕草と変哲の無い笑顔を浮かべている。

 

「それで、楽しめそうなのはあの女かこの女か、どちらだ?」

 

「……………」

 

 つまりは、聖杯であるイリヤスフィール・フォン・アインツベルンか、騎士王であるセイバーか。彼の臣下はどちらを優先すべきなのか、この場で聞いているのだ。

 

「―――セイバー。嘗ての問いを、再度貴様に投げかけよう。

 剣を捨て、我が妻となれ。

 貴様のその下らぬ理想を捨てろ。その身、その心、全てを我に捧げろ」

 

 ―――そして、完全に空気が凍った。

 バゼットは勿論な事、衛宮士郎、遠坂凛は完全に固まっている。はっきり言って、言葉の意味を理解するのに時間が掛かった。アーチャーは動じてはいないものの、表情はずっと無表情。

 後、アヴェンジャーは楽しそう普通に笑っていた。士人も同じ。

 だが当事者のセイバーからすれば、このような戯言は看過出来ない。英雄王が本気であろうとも、彼女からすれば下らない戯言なのだ。

 

「―――断る。断じて貴様のものになどならない……!」

 

 場違いにも相変わらず神父はニコニコ笑っている。この雰囲気で笑顔のままでいられる当たり、この臣下は王様を本当に敬っているのか、実に怪しかった。

 

「……なぁ、ギル。お前さ、普通に求婚を断れてないか。

 相思相愛であるならば兎も角、神父として無理矢理と言うのは余り好ましくないな。不幸な夫婦関係であると、生まれて来る子供も不幸に成ってしまう」

 

「おぉ! セイバーと(オレ)の間に生まれる赤子とはな。

 なるほど。実に面白そうだぞ。

 ―――うむ。是非とも一考しておこうか。受肉が何処まで可能か分からぬが、分からぬからこそ世界は面白い……‥」

 

 士人は呆れた様な、疲れた様な苦笑を浮かべる。常にマイペースな王様であるが、何故か自分と話をするとそれが顕著になる。臣下として心を許されている事に喜べばいいのか、今の場に満ちる微妙な空気を悲しめば良いのか、情緒を実感出来ない彼は判断に困っていた。

 

「少しくらいは臣下の言葉を聞いてくれないか?」

 

「―――む。何だ?」

 

「……いや、良い。何でも無い。今は敵に意識を向けてくれ」

 

「おいおい。この我が敵を見逃すとでも思うのか?」

 

「手抜きをして痛い目を見そうではあるな」

 

「ほざけ雑種」

 

 ギルガメッシュ一人であるなら、隙は有る。しかし、神父が居る事でつけ入れる部分が少なくなっている。アーチャーはこの二人のコンビの凶悪さが忌々しい。会話をしつつも、敵の動きに合わせて手痛い迎撃を神父が目論んでいるのが分かる。

 はっきり言おう。攻撃、あるいは逃走した瞬間、殺される。全滅だ。

 あの男は自分たちが消耗した事による彼我の戦力差や、戦法、戦術、戦略を踏まえてこの場にいる。どのような選択を選ぼうと、裏を突かない限り死ぬ。ギルガメッシュの戦力を巧く使い、またギルガメッシュも神父の悪辣さを利用している。考え得る最上と言って良い災厄の二人組。

 

「言葉に過ぎたか。まぁ、今更か。

 ……それはそうと、言っておきたい事があるのだが―――」

 

 神父が初めて、その笑みを失くす。眼の光は奈落みたいに空っぽとなり、感情の色が窺えない。

 

「―――ギルガメッシュ。お前は、聖杯が呪われている事を話してしまったのか?」

 

「ああ。別段如何でも良いことであろう」

 

「…………――――――」

 

 神父にとって、聖杯の中身については最後まで隠しておきたかった事柄だ。

 聖杯の悪性を知らせなければ、話に聞いたセイバーの救国の願いを餌にして、あのサーヴァントを壊そうと密かに画策していたのが無駄になった。

 なので、士人は少しだけ残念だった。折角の面白い遊びが王様の娯楽で潰れてしまい、戦争のお楽しみが減ってしまった。

 そして最後の最後で、呪われた聖杯を見せ付ける楽しみも消えてしまった。あの呪われた黒泥の塊を前にし、全てを一度に悟らせて絶望させる機会も失った。衛宮士郎、遠坂凛、バゼット・フラガ・マクレミッツ、この三人がどんな反応をするか期待していたのだ。更に言えば、聖杯で願いが叶わないと絶望するサーヴァントも見れなくなった。

 

「ままならいなぁ。実に勿体無い」

 

「……何がだ、士人」

 

 残念そうな苦笑と言う、王からすれば珍しい表情を浮かべる臣下に対し、王様も珍しく困惑した表情を浮かべる。互いに互いの態度が珍しく、更に言えば部外者からすると何処か気味が悪い。

 

「……いや、なに。ギルがそれを話さなければ、聖杯を餌にセイバーを救国の為、裏切らせようと考えていたのだ。聖杯は既に此方の手中にあり、別段これと言って俺達に使い道は無いので、実際セイバーに使わせても問題なかった。

 故に、何だ……楽しみの一つが減って残念だったのだよ」

 

 しまった、と愉悦の機会を自分からうっかり逃してしまった顔をする。ギルガメッシュにしては珍しく、勿体無い事をしたかもしれないと、少しだけ過去の自分の行動を見つめ直した。そんな彼に臣下は珍しく反省しろと言いたげな視線を送る。

 

「ほう。なるほど、確かにそれは……ちと勿体無かった。絶望させるのもまた、手の内であったかもな」

 

 セイバーを見ながらギルガメッシュは、陰惨な笑みを浮かべていた。しかし、彼の言葉には逃してしまった娯楽の面白さを考え、残念だという気持ちが込められていた。

 そして、士人は王様から視線を外し、階段から下の彼らを見下ろした。神父の視線の先にいるのはセイバーのサーヴァント。

 

「そうだろう、セイバー。

 もし、聖杯が今回のようなゲテモノではなく真実本当の願望機であったならば、お前―――皆を裏切っていただろう?」

 

「わ、私は―――――」

 

 裏切らないとは断言出来なかった。聖杯を得る為だけに殺し合いに参加して人を斬り殺しに来たセイバー―――アルトリア・ペンドラゴンにはどんな事を犠牲にしてもやらねばならぬ事があった。

 ――それが救国。

 今の自分では無い完璧なアーサー王に選定の剣を抜いて貰うこと。これを叶える為であれば、マスターたちを裏切る事で可能であれば、自分は皆を裏切っていたと直感していた。自分でも自分のソレが既に妄念や執着に変貌していることに気が付いており、躊躇いはせずとも裏切りを働いたかもしれないと考えてしまった。聖杯の為にならばと、裏切りを考えてしまうのは間違い無かった。

 

「では聞こう。―――お前は自らの国を前にし、衛宮士郎と遠坂凛の二人を比べられるのか?

 騎士王の願望よりも、ただ現世に呼ばれて関係を持っただけに過ぎない魔術師達を、お前は優先出来るのかね。過去を変える為だけに、態々この世にまで召喚されて人を斬り殺しているのだろう」

 

 所詮はもしもの話。こんな事に価値は無く、実際の聖杯は呪われている。そう、ギルガメッシュが話していた。

 

「聖杯がそうであったとしても、それでも使いたいのであれば俺はお前を仲間として歓迎するぞ」

 

 場違いな程、綺麗な笑顔。神父はこんな場所でも聖職者であり、彼が言葉で祝福するだけで侵し難い神聖な空気に満ちる。

 それが恐ろしい。あの男がなにか尊い存在に感じてしまう自分が、当たり前のようで恐怖する。その場にいる全員が神父の気配に呑み込まれる。例外はギルガメッシュとアヴェンジャー程度。そして後、もう一人だけ、彼に対して強い者がいた。

 

「―――聞いちゃダメよ、セイバー。あいつはああやって、人の罪をメスにして精神を解剖するのが趣味な奴なのよ。

 真に受けてしまうと……心が壊れるわよ。意味の無いもしもを考えて、ヒドい顔になってる」

 

 セイバーは神父の言葉で心を抉られていた。多分、自分はどうなるのか分からないが、聖杯で願いを叶えられるのは本当だ。もしも、聖杯の事を嘗てのアーチャーがバラしていなければ、自分が拒否出来ていたのかどうかさえ、分かりたくも無い。そして、何よりも、この神父は何でも無い様に自分を壊そうとした悪魔であった。

 今回は聖杯を諦めるしかないと強く決意する。自らの全てを固めなければ、目の前にいる黄金の王とその臣下の神父に勝つことは出来ないと悟った。

 

「―――……すいません、凛。確かにあの神父の言葉は毒だ」

 

 セイバーにとってギルガメッシュの方が戦闘能力で考えれば危険だ。しかし、危なさではあの神父の方が危険だと第六感が告げている。

 彼女は思った。ギルガメッシュの暴露が無ければ遊び半分で自分の心は壊されていた。聖杯を目の前にし、裏切れば願いを果たせる状況を作り、苦しむ自分を楽しむ気であったのだ、あの神父は。自分は恐らく、金色のアーチャーの気紛れによって偶然にも危機から逃れられた。

 

「……ま、慣れてしまえば何でも無いんだけどね」

 

 何でも無いと魔術師は言い切った。凛からすれば、神父の言葉などに惑わされる事など有り得ない。彼女はこの男の言葉で、ある意味精神を鍛えられていた。

 毎回付きつけられるのは、現実の奈落。魔術師である自分と、人間性を切り捨てられない自分は、常に葛藤を続けて来た。その事に気付かない神父では無く、彼女も自己の在り方を神父によって鏡を見るように認識していた。

 ―――だから、逃げない。

 

「それに士人。わたしはあんたに言ったわよね。

 魔術師なら魂を持ちなさいって、魂の尊厳を守れって。魔術師になったんなら、遠坂の弟子だったら、貫かなくちゃいけないコト。

 ―――それなのにあんたはこうしてわたしの前に立ち塞がってる。それが、士人の、あんたの答えだって言うの……?」

 

 泣きそうなまで歪んだ表情の凛。涙は流れずとも、悲しみはもう溢れ返っていた。

 彼女は自分の弟子が幼い頃から知っている。長い年月を一緒に過ごしてきた。魔術の仲間でもあって……そして、家族とさえ感じていた。

 裏切られた訳では無い。この弟子は一度も師を裏切った事は無い。今この状況も、魔術師同士であれば如何でも良い末路なだけ。

 

「……そうだな。それが答えだ、などと偉く断言は出来ない。

 しかしな、それでも譲れない物が有る。聖杯に潜む者の復活は興味が無い。ただ、自分を焼いた存在が、自分の過去を消した存在が、どの様なモノなのか見ておきたいだけだ。そこには何かしらの、言峰士人を言峰士人にした原因が存在している。

 ―――私はそれを見ておきたい。戦いに参戦した理由は、そんな個人的な理由だ」

 

 能面、そうとしか表現できない無表情な貌で神父は階段から見下ろす。

 

「それに二人には前にも言った筈だが、俺は聖杯に叶えるべき願望は無い。ただ、聖杯がどういうモノか興味があるだけだ。見る事が出来れば、ソレだけで良い。

 実際、こうやって聖杯戦争に参加しているのは何だ……ギルの望みを叶える手伝いの為だからな」

 

 神父はそのまま言葉を続け、階段から敵を見下ろす。ここまで来てしまえば殺し合うしか無く、今している会話も絶対的戦力となるギルガメッシュが戦いを始めないから続いているだけに過ぎない。

 それ故、神父は今この状況が好ましい。敵と対話が出来るなんて贅沢は本来ならば蛇足であり、必要も無い徒労であり、だからこそ苦に思わない娯楽となる。

 

「だったら―――バカ弟子。覚悟は出来てんでしょうね?」

 

「……覚悟、か。それは死の覚悟のことか?」

 

「全然違うわ。

 ―――目の前で願望を砕かれる覚悟のことよ」

 

 遠坂凛は言峰士人を殺そうと考えていない。士人にはその事が分かってしまった。

 

「……相変わらず甘いな。

 既に弟子を殺す覚悟をしているが、出来るなら生かそうとも考えている。実に遠坂凛らしい人間性だ。どっち付かずでは、葛藤に迷い殺されるぞ」

 

「良く言うわ。……じゃあ、なんであんたはわたしを殺さなかったのよ。

 邪魔になるなら、わたしを殺せば良かったじゃない。甘いって言うならあんたも人の事は言えないでしょ。皆殺しにする機会なら十分にあった」

 

「―――殺す必要が無い。

 言ったであろう、ここにいるのはただの手伝いだ。目的達成の為にそもそも殺人を行う理由が無い。必要ならば殺害するだけだ」

 

 苦笑を浮かべ、その笑みを更に歪めた。

 それは人の死に様を楽しむ悪魔のような笑い方。

 

「故に、ここで最後の譲歩だ」

 

 ―――宣告する。

 士人の言葉が重い圧力となって皆に圧し掛かる。

 

「降参し、セイバーを渡し、我々に保護されるのであれば、殺しはしない。聖杯戦争が終われば元の日常だ。

 聖杯も其方が好きにしろ。ギルも聖杯は欲しいようだが、一番の目的はそこの女。受肉さえしてしまえば、後は取るに足りない些末事となる。遊びにしかならない娯楽であれば、俺が王を説得してみせよう」

 

 そんな甘い蜜を彼は見せた。そして、この男は本気で提案しているのが凛には理解出来た。

 彼は本気で聖杯を欲していない。本当に視て、知る事が出来れば満足なのだ。ギルガメッシュと言うサーヴァントも、セイバーの受肉が本命であり、今回の聖杯も使うのが面白そうだから使ってみたいだけのだろう。多分であるが、神父が説得出来ると言うのであれば、ギルガメッシュをセイバーを餌にして聖杯戦争から抜けさせる手腕を発揮すると凛は思考した。

 ―――この男に嘘は無い。セイバーを渡せば戦争は終わる。

 本当にセイバーを渡して聖杯で受肉させた場合、この戦争は其処で当たり前のように終了するだろう。殺し合うことも無く、ギルガメッシュと言峰士人は教会へ帰宅する。それこそ何でも無い日常のように。

 そんな凍り付く空気の中、彼女が大きく溜め息を出す。嘗ての第四次聖杯戦争でも思い出しているのか、泣きそうな顔になっている騎士を見捨てる事など出来ない。そして、遠坂凛が遠坂凛で在る事をこの世の誰よりも理解しているバカで外道な似非神父の弟子に、言ってやらない事が出来てしまった。

 

「話にならないわね、バカ弟子。セイバーを生贄にして聖杯が欲しいなんて、本当にこのわたしが思うって考えてんの。今の彼女はわたしのサーヴァント、わたしのセイバーなの。断じてわたし以外のサーヴァントじゃないわ。

 ……それをなに。そこの金ピカに渡すなんて、まず最初から有り得ないでしょう!」

 

 ああ、そうであろうとも。彼にとってこんな問答をする必要など無かった。しかし、それによって再度確認できた事こそ重要。

 

「……お前はやはり、何時も変わらないな。

 師匠は本当に、この愚かな弟子を裏切った事が一度も無い。とても弟子として誇らしいぞ」

 

「裏切る裏切らないはアンタも同じでしょ。

 いつもいつも師であるわたしの予想も期待も上回って、毎回本当にぶん殴りたくなるわね」

 

「優秀だろう。まぁ、お前の弟子なのだ。それも当然のこと」

 

「―――……ふん。

 このわたしの弟子ならば確かに当然のことね」

 

 士郎は傍から見て、この二人の関係は永遠に変わらないんだろうな、と溜め息を我慢しながら考えた。地獄だろうと極楽だろうと変わらない。

 それは言峰士人が言峰士人で在り続けるように、遠坂凛が遠坂凛で在り続けるのだろうと、互いに有る意味で信頼しているから。

 

「―――ならば、殺し合うか」

 

 かつん、と一歩踏み出した。ただそれだけで世界が停まったと錯覚していまう。

 体内にある魔術回路の魔力を循環させ、零秒で魔術発動を可能にする。今の神父であれば、即座に敵を始末する準備が整っている。

 

「……………ふ」

 

 十年来の獲物を前にギルガメッシュも陰惨に笑みを浮かべる。背後の空間は歪み、まるで銃口を眉間に押し付けるかの如き圧迫感で場が支配された。

 士郎、凛、バゼットの三人が固まる。殺気を纏って構えを取るのはアーチャーとセイバー。そして……

 

「俺が残ろう。

 ―――皆はここから去れ」

 

 ……アヴェンジャーが前に出た。彼が言った。背後にはマスターたち、前方には嘗ての王と嘗ての自分。

 一歩だけ前に踏み出して進んだ男の背中が、彼らの視界に入っている。それは勿論、彼のマスターからすれば許せないこと。有ってはならない事態。バゼットの悲鳴染みた懇願が響く。

 

「―――駄目……ダメだ! それでは貴方が死んでしまう……っ!」

 

「気にするな。元を正せば、お前が此処に居るのも俺の策によるもの。故に、ここで死ぬとしてもマスターが気にする事も無く、呪われているならば既に聖杯を手に入れる必要性も無い。お前が俺を生かす訳も消え去った。

 ―――マスター。今は生きることを考えろ。

 それにだ、アレとの戦いだと背後に人がいると邪魔になる。自分の不手際でサーヴァントがマスターを死なせる訳にはいかないだろう」

 

 ギルガメッシュと戦うならば、アヴェンジャーだからこそ全力を出さなくてはならない。背後に誰かいては絶対に勝利する事など不可能。そして何よりも、彼が現世との繋がりにしているのはマスター、バゼット・フラガ・マクレミッツであり、彼女が死ねば自分も魔力切れで必ず敗北する。バーサーカーがそうやって敗れた様に、彼も負けるだろう。

 ……故にアヴェンジャーが勝つには、バゼットの避難は必須だった。

 彼女は自身のサーヴァントを勝たせる為に、マスターであるからこそ戦場から離れなくてはならない。もし、今よりも力量が優れているのならば兎も角、彼女が持つ宝具にさえ対応可能がギルガメッシュが相手では、現状の彼女では戦闘は無理なのだ。

 

「―――私も残ります。

 消耗したアーチャーならば兎も角、私であれば十分に加勢が可能です」

 

 緊迫した空気の中に、声が鋭く響く。今は凛のサーヴァントであるセイバーが、アヴェンジャーと戦うと申し出た。そしてセイバーの言うことは確かに事実。他の者は無理だが、彼女であればギルガメッシュとの戦いを有利してくれる。

 マスターたちが戦いをサポートするにはギルガメッシュは規格外過ぎる。消耗したアーチャーもそれは同じ。何よりも、守る者が背後にいて勝てる相手では無い。

 

「……駄目だ。森の中に伏兵が居れば、その時点で詰みだぞ。

 それにセイバーのサーヴァントよ、お前が後の戦いでは必要になる。そして、全員で戦うにしても、マスターや消耗したアーチャーではギルガメッシュの良い的にされる。其処にあそこの神父も参戦したら、最早生きる望みも無い。お前が其処に居たとしても、宝具による制圧射撃から皆を守り切れず、況してや守りながら戦うのでは邪魔にしかならん。

 ―――ここは一人の方が都合が良い。

 アーチャーか衛宮士郎が万全なら場合も違うが、今はこれが最善だ。俺に囮にして逃げるのが一番正しい」

 

「……ですが、私は戦える」

 

 彼女にとって、逃げるなど出来ないのだ。自分が戦う力が無いのなら邪魔者にしかならないが、自分には戦う力がある。騎士として、王として鍛えて高めてきた能力がある。

 それなのに、アヴェンジャーを置き去りにして逃走するなど、騎士王が騎士王として存在する要となる誇りが抉られる。剣や槍で身を実際に切り裂かれる方がまだ気分が良い。

 

「確かに、お前と二人掛かりと言うのも良い策だ。しかし、生存率を高め、最終的に聖杯を奪取する為と考えるならば、俺一人の残すのが一番良い。

 そして、森の中で皆を守るにはお前の力が重要となる。それにもし、逃げる途中に兵がいた場合を考えれば、お前が残るのは危険過ぎると先程も言った」

 

「――……分かりました。御武運を」

 

 セイバーも理解していた。アヴェンジャーの策が一番効率的だ。

 皆で今、ギルガメッシュに加えて言峰士人などと言う怪物と殺し合えば、セイバーとアヴェンジャーでは守り切れない可能性があった。むしろ誰か死ぬ可能性の方が高く、マスターが死ねばサーヴァントも死に、直ぐに全滅と言う結果は目に見えていた。

 それが分かっていたからこそ、セイバーはアヴェンジャーを見殺しにすると決めた。

 

「ああ、感謝する。お前の言葉、しかと貰っておこう」

 

 アヴェンジャーとしても、一対一の決闘をギルガメッシュに挑み、それを王が承諾すれば、嘗ての自分が参戦してこないのは理解していた。ギルガメッシュだけでは無く、言峰士人の投影魔術も足された制圧砲火を防ぐには、セイバーとアヴェンジャーでは不十分であり、自分の身を守るのさえ危ういのだ。

 その事はアヴェンジャー以外にも、バゼット、アーチャー、凛の三人は深く理解していた。ギルガメッシュと言峰士人の追撃を長時間耐えられるのは、アヴェンジャーだけ。

 分かっていながらも、それを信用する事の恐ろしさもまた、アーチャーは理解していた。

 この男は虚言を吐かない。嘘をつかない事を平然と趣味にし、真実だけで人を甚振る事を愉しむような捻くれた正直者。ある意味では、この世界で誰よりも信用出来る。だからこそ、信頼出来ない。

 

「……貴様、何を考えている?」

 

 アーチャーにとって、アヴェンジャーのサーヴァントは一番の危険人物。そも、このような場面で命を掛けるに相応しくない。

 だが、本人がそう言うのであれば、これは正真正銘アヴェンジャーとの別離。

 ……本心で言えば、認めたくは無い。

 結局のところ、この展開に運ぶまで全て自分の復讐も手の平だった。それが既にエミヤは分かっていた。利用されるのも計算の内であったものの、最終的には利用され尽くされた。

 

「実を言えば……私はね、今のお前を羨んでいる。死人に等しいこの私がな」

 

 アヴェンジャーが背中越しに語り掛ける。自分が英雄王の宝具から救ったアーチャーに、彼は重い言葉を話していく。

 

「……昔の話だが、正義の味方であるお前に私の心は光を見ていた。あの火事で同じ境遇となった男が正反対の存在だと知り、その生き様に輝きを感じ取れた。

 同類であったからこそ、自分に存在し無い理想と絶望を抱いて生きて死んで逝くお前に、未だ嘗て無い喜びで魂の呪いが震え上がった」

 

「…………―――」

 

 穿たれた。過去に敗北してしまった今の自分にとって、神父であったこのサーヴァントの言葉は、余りにも重い。

 

「お互い結果はこの姿だが……何、愚者で在るからこその人生だったではないか」

 

「――――コトミネ。おまえは……」

 

「故に此処は、何だ………お前の兄弟である私に任せておけ」

 

「……………―――――っ」

 

 その言葉は悪意に満ちていた。何故ならエミヤシロウにとって、コトミネジンドの生き方は嫌いでは無かった。互いに相容れぬ在り方だったからこそ、肯定した上で反発するしか無かった。最後には否定するしか無かった。

 

「それにな―――目の前で女に死なれるのは、中々に応えるぞ」

 

 ここでアヴェンジャーを犠牲にしなくては、遠坂凛が死ぬ。セイバーは泥によって違う者に変貌する。バゼットは勿論、自分に勝った衛宮士郎も死ぬ。全てが無駄になる。

 エミヤシロウにはその未来が分かる。ギルガメッシュと言峰士人を止められねば、この場所で得られたモノが消えて無くなってしまう。

 

「―――――助かる」

 

 ―――故に一言。それに思いを込めた。

 アーチャーにとって最早アヴェンジャーの企みなど分かった所で、もう何も変えられない。アヴェンジャーが何を考えていようとも、自分が彼に助けられるのは確かな現実だ。

 だからもう、アヴェンジャーに言葉を掛けるべきではない。

 衛宮士郎も遠坂凛も、背を向けて城から全力で今直ぐに逃げなくてはならない。しかし、彼女だけは、このサーヴァントに最後の一言を手向ける感傷が許された。彼女だけは、この男の最期を悲しんで良かった。

 

「―――アヴェンジャー、生きて戻りなさい」

 

 三画有った令呪の一つが消えた。バゼットの思いに呼応し、令呪の一画が力に代わった。アヴェンジャーが纏っている存在感が一段階上昇する。

 それだけで、彼の生存率は上がった。

 マスターとは決してサーヴァントの枷では無い。それも、バゼットほど優秀な魔術師であれば尚の事。

 

「―――またな、バゼットさん。

 自分一人分では心もとないのでな、マスターの誇りを少しだけ借りておく」

 

「……ええ。

 貴方に貸しておきますから、しっかり返して下さいね……アヴェンジャー」

 

 別れの時。バゼット・フラガ・マクレミッツが二度目に体験する、死んで欲しく無い者との別れ。

 ―――彼女は自分のサーヴァントに背を向けた。

 そして彼女に続いて、アヴァンジャーを置き去りにして、四人が城から脱出しようとする。もう何秒か走れば直ぐに森の中へと逃げ込める。

 

「……ああ、そうだ。良い事を教えてやろう、衛宮士郎。

 お前が俺から助け出そうとしている魔術師、イリヤスフィールはお前の養父―――衛宮切嗣の実の娘だぞ。

 あの男に火事から救われたお前が、衛宮切嗣のようにその娘を救えるのか如何か………実に見物だよ」

 

 ―――その場に、神父は無粋な言葉を刺し込んだ。

 今生の別れをする彼らに対し、士人は余りにも非常な現実を突き付けた。

 

「―――――――――……っ!」

 

 士郎はその嘲りを背後の聞いて歯を食いしばった。しかし、今は背を向けて逃げねば死ぬだけ。

 その屈辱を背にし、正義の味方は去った。

 未来の自分に勝つ為に全力を尽くした今の自分程度なら、何も出来ずに殺されるのは分かっている。消耗しきったアーチャーでは、絶対に英雄王には勝利出来ない。

 セイバーではギルガメッシュには勝てない。

 遠坂凛では言峰士人には勝てない。

 バゼット・フラガ・マクレミッツもそれは同じ。

 勝てないのであれば、勝てる手段が必要だ。生きる為にはこの場からは何が何でも逃げきらなくてはならない。五人は五人それぞれに違う思いを抱いていても、それを果たす為の方向性が完全に一致する。

 ―――だからこそ、迷わないと決める。

 復讐のサーヴァント、アヴェンジャーを戦場に独り残し、この場から振り返る事無く逃げ去って行った。

 

 

◇◇◇

 

 

 アインツベルン城の広間に存在する者は三人―――ギルガメッシュ、言峰士人、そして復讐者のサーヴァントだけ。他の者は全てこの場所から過ぎ去った。

 

「士人よ。貴様は、貴様の王である(オレ)に歯向かうというのか?」

 

「当然だ。マスターを生かさなければ、サーヴァントである俺は死んでしまうからな」

 

「……何だ。死ぬ気なのか、貴様ともあろう者が?」

 

「ただで死ぬ気は無い。目的を果たす為にここで朽ち果てるのも、それはそれで悪くは無いのだ。

 ……それにな、友の為に力を使うのもまた一興。あの幸薄い孤独な友人が、最後の聖杯戦争で惨劇を引き起こすには、どうしても遠坂凛と衛宮士郎の命が必要なのだ」

 

「……最後の聖杯戦争、だと? それに友とは誰の事を言っている?」

 

「さて。まぁ、これは如何でも良い話だ。アヴェンジャーたる今の私では、全く関係が無い事でもあるからな」

 

 懐かしそうに“友”と言う言葉を喋るアヴェンジャーは、苦笑いを浮かべて話を仕切り直そうとする。恐らくだが、目的は他にもあったのだろう。しかし、それを成すことが出来ぬからか、彼は英雄王と殺し合う事を選んだ。

 もっともギルガメッシュにとって、そんな事は心の底から如何でも良い。

 今はただ、あの不愉快極まる偽物を助けた目の前のサーヴァントが気に喰わない。

 

「―――ほう。では聞こう。

 アヴェンジャーよ。あの贋作者を斬ろうが串刺しにしようが、何にも成れぬ貴様には如何でも良いコトだったであろう」

 

「それは確かに。アーチャーが生きようが死のうが、別段拘りがある訳ではない」

 

「……では、なにが目的で我の邪魔をした?

 貴様のような在り方の者であれば、守護者としての殺戮作業など欠片も苦痛ではあるまい。

 あのアーチャーのような人間らしい情緒を持たぬからこそ、貴様は今こうして此処に居る訳なのだからな。それ故に、言峰士人はこの我の臣下足し得た存在でも在った」

 

 ギルガメッシュの中に有るのは純粋な疑問。怒りや恨みが湧く前に、そもそもこの神父に対してその様な感情を抱く事が如何に不毛なのか、彼は知っている。故にこうして、感情が逆立つこと無く目の前で敵対してくる嘗ての臣下を相手取る。

 

「―――……その通りだよ、ギル。

 守護者と成って得られた物は何一つとして存在しなかった。

 永遠も無限も、結局は取るに足りないモノだった。―――心には何も響かなかった」

 

 無表情のまま、そう語るアヴェンジャー。無限地獄を如何でも良いと切り捨てる姿は寒気さえ抱かせるが、英雄王と過去の神父が相手では何の感慨も与えられない。

 

「ならば何故、あの雑種を生かした?」

 

「……そうだな。

 ギルが贋作者(フェイカー)と蔑んでいるあの男は、火事で生き別れた俺の兄弟だ。

 それにな、実は言うと俺よりも戦争で生き残るのが巧い。

 殺しや戦いなら自分の方が巧い自信はあるが、総合的な生存能力が素晴しく高い」

 

「―――で。それが一体何だと言うのだ?」

 

「断言するがギル、今のお前ではエミヤに勝てないぞ」

 

「――――――――――――――な、に……?」

 

 その言葉を理解出来ない。王であり、全ての原典を保有する己が、雑種風情の贋作者以下だと、自分が育てた最後の臣下の成れの果てに断言された。

 

「―――……貴様、この我があの様な木端英霊に負けると?

 よりにもよって、あの薄汚い贋作者を相手に敗北すると言うのか…っ!?」

 

「臣下であるこの身が虚言をギルに吐ける訳がない。

 私は私の生き方の為に、私が王から貰い受けた誇りの為に、王の前では唯の臣下で在り続けるだけだ」

 

 その言葉を理解する。つまり、本当に、自分は芥に等しい贋作者(フェイカー)に負けるのだと。何よりも自分に忠実な従者が本心で断言していた。

 

「――――………っ、本当に死にたいらしいな」

 

 ギルガメッシュの心をとある感情が赤一色に染め上げる。それは憤怒であり、憎悪であった。

 

「―――まさか。自分から死に逝く事を潔しとしないのは、ギルが良く解っているではないか。

 私が言いたいのはなギル、お前が慢心を持ったままアレに挑めば、そこから戦況を抉られて最後に殺されると言う話だ。

 残念なことにエミヤは強い。それこそ―――私を殺せる程にはな」

 

 しかし、その感情も一瞬。背後にいる自分の臣下と変わらない笑顔を浮かべる眼前のサーヴァントを見て、彼の精神はゆっくりと静まり返った。あの言峰士人が英霊となり、それでも高く評価する男ならば、贋作者でしかない今代のアーチャーはそれなりのモノを持っているのだろうと思考する。

 だが、それこそ如何でも良いコトだと考えを改め直す。

 彼が今からアヴェンジャーを殺す事に変わりは無い。ギルガメッシュはギルガメッシュであるからこそ、王として最強である。

 

「……ふん。アーチャーを貴様が高く評価しているのは認めよう。

 我にとってはただの雑種でしかないが、アレが貴様の中では我に並ぶ強敵であると言う事は理解してやろう。

 ―――だがな、例え偽物(フェイカー)(オレ)と戦える数少ない英霊だろうと、この英雄王が最強である事は一切揺ぐことは永遠に無い」

 

 楽しそうにアヴェンジャーは笑っているだけ。王の怒りを前に欠片も変化なし。

 

「その様な当然の事実、王から直接聞くまでも無い。

 私は生前、英雄王ギルガメッシュの臣下であった者なのだぞ。その時に貰い受けた感動は死後の今でも死んでいない。

 ―――故に、王こそが強さの象徴みたいなものだ。

 ギルガメッシュが真に敗北する事はどの英霊にも無いのだと確信している。

 しかし、――――」

 

 呪詛が噴き出しそうだ。声の紛れて純粋悪と化した悦楽が、世界を震わす。

 

「―――今は第五次聖杯戦争。

 今の冬木は私にとって最高の舞台だ。嘗ての現世で味わえなかった貴重な娯楽に興じられる」

 

 ギルガメッシュが聖杯を取る根本的な理由と、アヴェンジャーのそれは同類。つまり、楽しめるから楽しもうとしているだけ。

 それを理解した英雄王ギルガメッシュは、復讐者のサーヴァントに対して君臨した。

 戦いなど的に武器を当てるだけでしか無い王にとって、敵と成り得る人物は最高の楽しみとなる。無論、不快な敵もいるが、自分に巡り巡って現世で出会うサーヴァントに対してならば、楽しく命を奪えそうだ。

 

「アヴェンジャー……いや、士人よ。

 貴様は我と殺し合い、尚且つ勝利を得るつもりでここにいるのか?」

 

「―――当然だろう。

 敵であるならば誰であろうと殺害するまで」

 

 ―――完全に世界が死んだ。英雄王が手加減無く殺意を剥き出しにした。無数に存在する英霊の中でも、ギルガメッシュのものほど濃厚な殺気は無い。

 だが、それを受けているアヴェンジャーは笑顔のまま。

 楽しくて楽しくて仕方がないと笑う童のように、何処までも真っ直ぐな視線をギルガメッシュに向けている。

 

「―――では死ね。

 最期まで狂い笑って消えると良い、泥人形」

 

 まるで絨毯爆撃。それは太古の砲撃―――宝具の嵐。

 

「―――投影(バース)始動(セット)

 

 古今東西、ありとあらゆる武器が乱舞して的に迫って命を奪い取る絶対暴力。それに対抗するには個人的な武芸では無く、自分もそれと同じ戦争を行える戦力が必要となる。英雄王と戦うには、それに匹敵する火力が居る。故に彼からすれば、そんな戦力を生み出す事は造作も無い。

 ―――全て、アヴェンジャーには届かなかった。

 予定調和の如き撃ち捌き。ギルガメッシュの攻撃を全て同じ武器で迎撃し、無効化し尽くす。

 

「―――――――――――――」

 

 カキィン、と幾重もの金属音が鳴る。一つ一つが最高峰の武具で在りながらも、それらがその場しのぎの道具として役目を終える。その浪費がどれ程のモノなのかは、優秀な魔術師であればあるほど理解するのは容易い。

 アヴェンジャーはギルガメッシュと宝具を撃ち合いながら、長く長く呪文を唱え続けている。呪文の中に呪文を隠しながらも、延々と宝具を投影した模造品で撃ち落とす。

 

「―――は。それは固有結界の詠唱か、雑種(ジンド)?」

 

 無論のこと、ギルガメッシュからすれば全てが読み取れる。敵が呪文にどのような概念を込め、その魔術回路にどれ程の魔力が奔っているかなど、当たり前のように理解出来る。

 

「……これはまた、随分と楽しそうだな、ギル」

 

 アヴェンジャーが、言峰士人と全く同じ口調と雰囲気でギルに声を掛けた。戦闘中により、武器と武器が衝突する爆音に支配されているものの、何故か二人の声は良く響く。第三者として戦争を見守っている士人にも、彼らの言葉は聞こえている。

 

「―――許す。早く固有結界を完成させよ」

 

 アヴェンジャーはそれだけでギルガメッシュが言いたい事を察知した。嘗ての自分が仕えていた王の言葉であるからこそ、次の言葉も簡単に予想出来た。

 にたり、と神父であったサーヴァントは笑った。

 笑いながらも宝具を投影して、敵の攻撃を砕き落とし続けている。ギルガメッシュもまた、無尽蔵に貯蔵された武器を王の財宝と言う兵器で連射し、アヴァンジャーの命を狙う。

 

「それごと貴様の全てを―――この(オレ)が砕いて敗北を教えてやろう」

 

 その瞬間―――声なき声でアヴェンジャーは固有結界の詠唱を完了させた。

 遠慮は最初から不要、初手から自分自身の全てを叩き込む。ギルガメッシュが相手であるからこそ、アヴェンジャーは『固有結界・空白の創造』の展開に踏み切った。

 ―――頭上には黒い太陽が浮かぶ。

 ―――虚空から死灰が舞い落ちる。

 世界が余りにも唐突に一変してしまった。この世界はこの世のモノなどでは無い。地獄の果てよりも空虚な空白の世界。何も無い世界。

 灰色の火を纏った黒色の歪な太陽。遥か空から雪のようには降っては真っ白な地面に溶けて消える死灰。この二つ以外は全てが空白に塗り物されている。

 

 ―――心の中には何も無い(There is nothing in my heart.)

 血肉は削げ心骨は朽ちる。(My body is broken,and my bone is clumbled.)

 我が人生は独り。(I create one of the worid)

 血の雨を歩み沈黙。(My sin of the evil)

 存在しない輝きは灰のまま(Black sun burns the soul.)

 空は白く晴れ渡る。(White sky erases the emotion.)

 故に殻の世界は満ちることは無く。(The being is Ash.)

 その心は、再び無から生まれ落ちた。(Therefore,I bless empty creation.)

 

 ―――心の塗り替える言霊が言峰士人の中へ響き渡った。

 復讐のサーヴァントの心象世界は、自分の心象世界と何一つとして変化が無い。つまるところ、自分は英霊になっても何も変わる事が出来なかった。その結末が眼前に広がっている。

 ……だが、そんな生優しい世界では無い。

 ここに詰め込まれているものはコトミネが一つの世界に詰め込んで来た全てが存在している。彼は彼の世界にいることで、その世界を視てしまうことで、脳へ直接それら全ての情報を入れこんでしまう。ただ視界に入れて仕舞うだけで、視界内に移るありとあらゆる存在因子が自分の内側へ流入する。

 

「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――っ」

 

 頭上に輝く闇。世界を白く照らす暗黒。

 固有結界の中で唯一存在している死灰を纏った呪いが、灰色の炎に焦げている。

 ―――頭が痛い。頭が痛い。頭が痛い。

 脳が耳から溢れそうだ。目玉が飛び出そうだ。口から五臓六腑が吐き出そうだ。神経が体を内側から締め付ける。筋肉が雷に痺れ悶える。

 ―――体が裂ける。体が裂ける。体が裂ける。

 視た瞬間から脳髄がビリビリと、死に続けている。魂が逝ってしまいそうだ。精神が空白に洗浄させられる。

 

「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ぁ」

 

 消える。何もかもが消える。魂の中に嵐が入り暴れる。

 自分の心が、心象風景が決壊する。これは魂そのものが軋む音。痛覚の限界を超えた、形容出来ない感覚。

 ―――心が壊れる。心が壊れる。心が壊れる。

 今、自分がいる世界。この心象風景に満ちている情報が自分の心象風景に流れる。固有結界に固有結界が刻まれる。

 ――魂が消える。魂が消える。魂が消える。

 呑み込む。全てを刻み込む。ここに溢れる因子は自分の心だ、魂の欠片だ。

 

「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ァ」

 

 悟り、識り、理解した。言峰士人が極めた業。心象風景が至るカタチ。

 魔術、固有結界。名前を『空白の創造(エンプティクリエイション)』。英霊コトミネジンドの証。象徴(シンボル)である宝具(マーブル・ファンタズム)

 

「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッッッ!!!」

 

 白い世界に響き渡る声。もはや音にさえならない不協和音。

 ―――苦悶の絶叫を上げる。

 言峰士人には余りにも似合わない絶叫。まるで悪魔の誕生するかの如く、それは赤子の産声でもあった。

 ―――神父の心が再誕する。

 生まれ変わったと言えるまで、士人の固有結界は成長する。抉り込まれたモノは無尽蔵に溢れ返った存在因子。物体創造に欠かせない物を構成する情報だった。

 ―――魂が、死灰に満ちる。

 呪いが共鳴する。心象風景が同調する。幻視するは己が至る求道の果て、幻影は確かな未来、道の終わりを示していた。

 

「ぁ―――――――――――――――――――――――――――――――ア」

 

 両手が先端の指先から真っ白に成る。両目が全て黒泥に潰れ始め、人型である人以外の何かに変貌していく。

 ―――塗り潰される。

 ―――体が空白に成り果てる。

 本来ならば有り得ない邂逅により、彼はコトミネジンドの固有結界の情報を取り込んでしまった。魂の中に入り込んだ膨大な因子が暴走し、自身の固有結界が肉体面へ顕現し始めた。

 

「―――心の中には何も無い(There is nothing in my heart.)

 

 強く神父は呪文を唱えた。心象風景を強引に内側へ押し込める。

 内側で暴れる魂を縛りつけようと精神を零にまで圧縮し、時間が完全に停止した。何もかもが止まった世界の中、言峰士人は空白と化す。その有り様はまるで罅割れた人型の模型だ。

 ―――太陽の日差しに乾き、亀裂が奔った泥人形に成り果てていた。

 空白と化した部分から呪詛が漏れ出す。白と黒が混ぜ合わり、濁った灰色を成す。既に顔の半分が空白に変貌し尽くせれ、そこから黒い太陽の輝きが照らし出る。

 

「―――心の中には何も無い(There is nothing in my heart.)

 

 ―――呪詛を吐き出せ。呪文を唱えろ。所詮は全て己でしかない……!

 

「―――心の、中には…何も無い………っ!」

 

 ―――故に、言峰士人は何もかもを飲み干した。

 肉体は時間が戻ったように、全てが錯覚だったと思える程、人型の生命に戻っていた。変異は治まり、空白も黒泥も消えて無くなっていた。

 

「………はは。これが未来の己か」

 

 得られたモノは異常なまで膨張した固有結界の存在因子。ありとあらゆる物体、物質、概念、神秘、理論、基盤で構成された一つの世界。

 彼の魔術理論の特性上、存在(モノ)の情報を内包するだけなら並ぶ世界は無い。

 武器としてなら二流であり、究めたところで二流の極限。しかし、こと創造することに掛けて、彼は究極と言って良い規格外。

 ならば、世界より外れ、守護者と化した彼が持つ世界は、人間一人が保有可能な情報規模では無くなってしまっている。魂が破裂する。

 

「生まれて初めて―――苦しいと実感出来たぞ」

 

 魂そのものの絶叫に、神父は壮絶な苦痛を味わい―――それを完全に喰らい殺した。

 神父は笑った。これが痛みと言うものなのだと、明確に理解する。

 

「………………―――」

 

 意識を数秒で完全に取り戻し、士人は改めて眼前の光景を受け入れる。だが、それでもやはり信じ切れないものが眼に映る。財宝と投影による戦争は既に佳境を越え、全てを合切する一撃を繰り出そうとしていた。

 あの男―――アヴェンジャーは一体何を投影している?

 有り得ない……と言うよりも、有り得ざる頂き。

 目の前でこうして起きているから認識出来ているのだが、言葉だけでは決して理解することは絶対に不可能であった。

 士人が意識を失っていた数秒の内に、事態は深刻なまで劇的な方向へ進んでしまっていた。

 

投影(バース)完成(アウト)――――」

 

 ―――その呪文に、どうしようもなく神父は畏怖を覚えた。

 彼の手元に出現したのは一つの武器。三つの回転する輪で刃が作られた最古の宝具―――乖離剣エアの型落ち。

 ―――オリジナルに近い究極の模造品……!

 

「………が、ぁ――――」

 

 口から赤い血が多量に溢れ出ている。そもエアの即時投影など魔法の領域。それを成す為の代償となるとサーヴァントであるアヴェンジャーでさえ、凄まじく大きいものだ。

 恐らく、エアの投影の代償で内臓の幾つかが死に絶えている。無事なのは心臓と肺と脳髄程度であろう。心臓も止まり掛けてしまった。

 

(オレ)のエアを―――複製しただと……!」

 

 ギルガメッシュに殺意と、有り得ないモノを見てしまった人間らしい驚愕が浮かぶ。

 

「―――そこまで自身を極め切ったか……!

 貴様は本当に愉快な男だ。よもや我の目の前でそれの模造品を生み出すとはなぁ!」

 

 胸の内にあるのは最高の偽物を作った侮蔑と、王の言葉を上回って頂きを超えた先まで鍛え上げた事に対する歓喜。下らない偽物と言えぬ怒りさえ伴ったある種の賞賛を臣下に送りたい。

 この男は、確実に強くなっている。自分と殺し合える程に、強くなっている。王の言葉を真実に仕上げたのだ。

 

「面白そうだろう? これで殺し合えばどうなるか、分かり切っているのに先が不透明だ」

 

 そんな言葉を吐くアヴェンジャーだが、どんな無謀な行動にも勝算を作り出すのがこの男の強さ。オリジナルとレプリカでは結果は見えていようとも、そんな未来が覆りそうで相手を恐怖させる。

 

「……ハ。ふはははははははははははははっ……!

 この我と、一撃で決すると言うのだな! 良かろう。受けて立つ」

 

 王は笑った。腹の底から愉快だと笑みを浮かべた。

 思えばこの男、英霊になどに成り果ててまで自分を鍛え上げた。自身の前に立ち、己の究極に足元程度にも届けるほど魂を極め上げていた。

 ―――それ故に、素晴しい。

 これが運命であるならば、ギルガメッシュ以外の誰がこの神父を祝福すると言うのだろうか。だからこそ、王は王として言葉を送らねばならなかった。

 

「―――本物の重みを改めて思い知れ。加減は一切せぬぞ、我が臣下よ……!」

 

 王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)から、とある原典が出現した。

 それは嘗て、この星―――地球が生まれたばかりの時から刻まれてきた現象。ありとあらゆる原典を持つギルガメッシュだからこそ持ち得る宝具―――乖離剣エア。地獄の原典。

 三つの刀身が回転し、渦が生まれる。赤い原初の世界が空間を毀して奔る。

 

「―――天地乖離す(エヌマ)―――」

 

 王が唄うは原初の地獄。

 乱れ狂う紅の亀裂が全てを砕き―――生命に死を知らしめる。

 

「―――開闢の星(エリシュ)………っ!」

 

 それと同時に稼動するはアヴェンジャー。彼が構える武装も英雄王と同じもの。

 ならば、すべき事もまた同一。嘗ての神父であった彼であるならば、もはやこの状況こそが望外の彼方にある光景。

 

天地乖離す(エヌマ)―――開闢の星(エリシュ)………っ!」

 

 ―――故に、復讐者も同じ真名を唱えた。

 あの世へと繋がる門が開らかれ―――今此処に地獄の原典が衝突する……!

 

「―――――――――――――――」

 

 ―――その光景を神父は見届ける。

 人類最古の英雄王ギルガメッシュが放つ一撃は、ありとあらゆる英霊の中でも最強を越えた幻想だ。座に遍く存在する聖剣魔剣の中でも究極の一となろう。竜が吐き出す火の咆哮さえも小鳥の囀りと化す。故に、誰もが彼の乖離剣による全力の潰し合いには、何かしらのトリックを仕掛けない限り勝てない。

 ―――しかし、アヴェンジャーはそれが理解していながら、真っ向から迎え放つ。

 赤い地獄の渦は世界を穿ち、撃ち合いの中心部には巨大な黒い孔が出来上がっていた。世界そのものを激震される幻想同士の衝突により、法則が限界を迎えるのは当然のこと。

 

「――――………世界が、消える」

 

 ―――孔を中心に、亀裂が入った。

 神父が見たのは世界を創生した原初の力。理解するなんて観点はもはや無意味となり、ただ彼は揺れるこの世を実感する。

 これは概念と概念と戦い。

 どちらが強者であるかと言う存在証明では無く、どちらが綻びの無い秩序(ルール)を有しているのかと言う殺し合い。

 故に―――より確固たる地獄こそ、惰弱な地獄を飲み干すに相応しい……!

 

「―――は。やはり、私の魂では王の原典には届かぬか…………」

 

 光の中に復讐のサーヴァントが溶けて逝く。音の中に彼の言葉は自分にだけ聞こえる呟きとなる。

 ―――固有結界が消え、空白の世界は黒い太陽が墜落するように滅び去る。

 崩落する世界は終焉を示し、一人の英霊の心が砕ける瞬間。もはやこの世界は地獄の原典により、彼の魂に還った。

 

「……ほう―――」

 

 英雄王は確かに見た。光の中に消えて逝く世界と英霊。自分が撃ち放った真名解放は正真正銘の地獄となって敵を呑み込む。

 ―――しかし、生きていた。

 王の前に存在するのは満身創痍になった嘗ての臣下。複製品のエアは砕ける寸前。肉体は血に塗れ臨死状態。

 宝具の真名解放を受けたアヴェンジャーは波によって押し流され、城広間の端まで移動している。固有結界によって具現した数多の武装の盾と、相殺して減衰した攻撃により、彼は死からだけは生き逃れていた。令呪により生きろと命じられた事により、彼の生命は死神の鎌から逃げられた。

 

「―――満身創痍だな。実に愉快な姿よ。

 我の地獄を踏破し―――人のカタチを保てているだけ、褒めてやろう」

 

「………………………」

 

 そして、英雄王が持つエアの回転が止まった。

 敵は既に死に体。後はもう殺すだけ。止めを刺す為に乖離剣を装備したままだが、距離が離れている今は一斉掃射で串刺すかと思案するも決定は迅速。

 では殺すか、とギルガメッシュが判断した瞬間―――

 

「…………ク――――」

 

 ―――そんな血塗れのアヴェンジャーは不意に、手に持っていた壊れかけの乖離剣を英雄王に向けて投擲した。

 

「―――宣告(セット)消え逝く存在(デッド・エグジステンス)……ッ」

 

 ―――そして、復讐者が投げた出来損ないのエアが炸裂した。

 威力はもはや測定するまでもなく破壊的。規格外の爆撃を全方位に放ち、城を簡単に崩落させる。爆心地中心部となったのは、エアが投げ込まれた英雄王がいたところ。

 地獄より放たれた死の風が―――森の城を粉砕して王を消し飛ばす……!

 

「………っ――――!」

 

 ギルガメッシュが苦悶の声を漏らす。

 彼は寸前、笑みを浮かべたアヴェンジャーを見た。しかし、たかだが人間一人の声など爆音の渦の中へ消え去った。

 ―――何もかもが閃光の中に消えた。

 炸裂の直撃を受けた彼を中心に光の柱が全てを薙ぎ払い、焼き尽くし、吹き飛ばす。もはやミサイル規模の破壊効果は生半可な爆撃以上に壊滅的で、生物を死滅される熱風。

 ……光が収まった頃には、全てが終わって崩壊していた。

 まるでミサイルで爆撃された後、竜巻に襲われてたような地獄の惨状。

 ―――其処に、爆破の張本人が何事も無く佇んでいた。

 彼とて勿論のこと、乖離剣の崩壊によって熱風と衝撃を受けている。この攻撃は使用者本人さえ巻き込むある種の自爆攻撃だ。故に本来であれば、自分が爆破物から遠距離に位置して使うのは好ましい。それを近距離で行うのは狂気の沙汰。

 よってアヴァンジャーは、風除けと火除けの加護を持つ装備により、魔力が十分に込められた爆風の余波から身を守った。ギルガメッシュのように直撃であれば死は当然の結末だが、その余波程度であれば何とか命だけは防ぎきれた。

 

「――――ふむ。自分が近い場所でする魔術では無いな」

 

 そんな自分で生み出した地獄から生き延びたところで彼には感傷は勿論、英雄王の裏を取った達成感も無い。言い放つのは、相手の神経を逆なでするような皮肉だ。

 

「―――――……」

 

 そして、爆発に巻き込まれた士人は無言のまま瓦礫から這い出ていた。彼も瞬間的に防具を投影して防いだが、余波でさえ危なかった。大部分の破壊効果はギルガメッシュへ向かっていたとは言え、まだまだ未熟な投影魔術師の身では死んだと錯覚するほど危険であった。

 

「……絶対にアレは私の成れの果てだな」

 

 死なないで済んだからか、思わず出てしまった独り言。神父は城であった瓦礫の山の下敷きになりつつも、何とか衝撃を防いで生き延びた。また、その後に上や左右、前後から襲い掛かってきた石の弾幕も、かなり危なく、防いで避けて死から逃げ延びた。

 ―――アインツベルン城であった場所は、瓦礫の山と化す。

 ―――その場所に、二人の英雄が向かい合っている。

 抜け出た神父が見た光景は、血塗れになった男が殺し合いを再開する為に殺意を交わしている決闘場。魔力の反応から既に士人は分かっていた事だが、攻撃が直撃したギルガメッシュは生きていた。

 

「―――アヴェンジャー。嘗ての貴様の王をここまで追い詰めるとは、余程愉快な末路を辿りたいらしいな……!」

 

 士人が見るギルガメッシュの姿は既にアヴェンジャーと同じく満身創痍。

 黄金の輝きはもはや見る影も無し。鎧は砕け散り、王の威光は無い。瞬間的に守りに出した防具や武具も、何もかもが木端にされて、自身も生死の境界を彷徨った。

 

「王よ。既にお互いが死に体だ。

 ―――決着をつけよう。

 やはりお前を殺害するのは、この世の誰よりも手間が掛かる」

 

「……たわけ。貴様に殺される程、我が臣下に優しいと思ったか?」

 

「ははは。それこそまさかだよ。こうして臣下で“あった”私と死闘を演じてしまう時点で―――王はとても慈悲深い」

 

 血塗れだ。王も嘗ての臣下も血に染まっていた。それでも尚、英雄王は黄金に輝き、復讐者は死灰に濁っている。

 英雄王にはまだ武器が山を成す程ある。しかし、復讐者には武器は二つしかない。いざと言う念の為に投影しておいた悪罪の二本だけ。腰の後ろに隠して装備していたそれだけが、今の彼の武器であった。

 

「―――ならば、精々舞い踊れ。

 その千切れ掛った回路でどこまで足掻けるか―――実に見物よな」

 

 その言葉通り、もはや満足に魔術など運用は出来ない。……そう、故に、アヴェンジャーが取れる戦法は限られていく。

 ―――近寄り、殺す。

 これを成すには問題点がたった一つだけある。他の相手ならば兎も角、ギルガメッシュが相手ならば重大な問題点。

 その問題点とはつまり、近づけない。

 王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)による宝具一斉掃射には、まともに接近可能な隙間は無いと言うことだ……!

 

「どうした、その程度か……!」

 

 降り注ぐは死の雨。一つ一つが絶殺の威力を持つ殺意の群れ。

 ―――だが、死んでいない。

 地獄の中にいるにも関わらず、アヴェンジャーは生きている。彼がギルガメッシュの攻撃を避けられるのは、攻撃手段を知り尽くしているからに他ならない。

 

「―――――――」

 

 まず、思考を読む。次に殺気を感じ取る。次に空間の歪みを察知する。次に魔力の流れを把握する。次に武器を視認する。次に攻撃を誘導する。

 ―――そして、砲撃を回避した。

 ギルガメッシュの攻撃、王の財宝は一長一短。点の群れによる面制圧を真骨頂とし、回避し切れぬ殺戮空間を生み出す。しかし、それでも攻撃は点によるもの。絶対不可避と言う訳ではない。撃たれた瞬間に弾道から外れてしまえば良い。避け切れないならば、剣で逸らす。

 無論、そんな事は不可能に近い。だが、その不可能を覆してこその復讐の英霊。英雄王とて既に万全には程遠いからこそ、全力での宝具が使えない状態が故に―――アヴェンジャーは弾幕を避けられていた。

 

「―――貴様……!」

 

 だが、一斉掃射が通用しない相手に対し、各宝具の能力を使いこなして対処するからこそ、英雄王はありとあらゆる英雄よりも上に君臨する。宝具の射出するだけでは無く、本当の意味で万能な宝具使い。戦闘で肉体が傷付こうとも高い癒しの効果を持つ霊薬があり、それらの道具も戦いの中で使用出来る。

 ……そう、アヴェンジャーの狙い目は其処だ。

 弱まった宝具の弾幕を瞬間瞬間、全て避けて前進し、そして眼前に到達する。ギルガメッシュが蔵の中の宝具を使おうと王の財宝以外に魔力を使うものなら、その隙を突いて刹那で接敵する。

 

「……アヴェンジャー――――!」

 

 しかし、最早それさえも遅かった。既にアヴェンジャーは目と鼻の先。英雄王の弱まり万全には程遠い弾幕ならば、アヴェンジャーがコトミネジンドである時点で捌いてしまえるのは当然。当たりそうになった攻撃も、予めこうなると予想して置いたが故に準備しておいた悪罪の双剣で、弾道を自分から逸らして外した。

 そして、彼はその双剣を投げる。

 回転しながら進む二本の同一の剣は一直線に、英雄王へ向かって行った。

 

宣告(セット)存在破裂(ブレイク)……―――!」

 

 ―――炸裂。ドォオン、と巨大な爆発音。

 爆破した箇所、それは―――王の財宝が射出される空間の歪み。それによって、一斉掃射が一気に遅延した……!

 ギルガメッシュが氷りつく。

 何故ならば、既に目の前にはいるのは、黒衣を風に棚引かせて辿り着いたアヴェンジャーの姿。

 

「ッ―――――――――――――!」

 

 アヴェンジャーはその勢いのまま、ギルガメッシュを殴った。

 殴る、殴る、殴り続ける―――!

 英雄王に武器を持たせず、さらに宝具射出を許さない拳の威力と速度。無論アヴェンジャー程度の打撃では、致命箇所に当てねばギルガメッシュに生命に関わる損傷を作る事は不可能。だが、それでもダメージが零になる訳では無い。鎧も壊れて機能を果たしていない今ならば、肉弾戦に持ち込めれば最終的にはアヴェンジャーが有利。

 33本ある回路など殆んど千切れている。無事なのは残り僅かで数本程度。それさえも致命的損傷を受けていた。

 もし全ての魔術回路を回復させるには、サーヴァントの身であるアヴェンジャーでも回路復元に数日は必要。人間であれば再起など見込める訳が無い状態。魔術師としてならば既に何もかもが死んでいるようなものなのだ。

 故に攻撃手段は一つだけ―――格闘のみ。

 戦いの基本は体術。アヴェンジャーのサーヴァントの戦術の大元。体一つさえあれば、諦めるのは早すぎる。歯を食い縛り、痛みに支配された肉体を稼動させる。

 

「……がぁ―――――!」

 

 アヴェンジャーはまだ死んでいない。令呪によって死んでいる筈の肉体は生きており、まだ十全に活用可能。このままでは確実に死ぬとは言え、今はまだ殺し合いを行える。

 

「――――っ……!」

 

 王の財宝を展開出来ぬ連撃。急所を抉る攻撃を防御し、回避に成功したとしても、生命を削る様な拳と脚の弾幕は致死には十分。止まらない高速攻撃が、ギルガメッシュをその場に拘束する。無理矢理にでも虚空から撃ったとしても、接近している的に当てるには、自分と言う障害物がある。

 上空から撃ったとしてもステップを踏み、射出される宝具を見る事もなく回避。―――そして、同時に攻撃も殴り放つ。復讐者は止まらない。

 

「邪魔だ……っ!」

 

 ガン、と言う抉る音。殴られながらも、クロスカウンターの要領で敵を吹き飛ばす。

 ギルガメッシュがアヴェンジャーの腹を蹴り抜いた。大砲の如き轟音を発したが、それを喰らった男はけろりと何でも無いように佇んでいる。

 あれはもはや、苦痛だとか損傷などで停止する存在では無い。何でも無い当たり前を実戦するのと同じ、呼吸して戦い、殺す。

 復讐者は笑った。心の底から笑みを刻む。つまり、今この瞬間の死闘を愉しんでいる。そして勿論のこと、それを看過出来る程、英雄王はお人好しでは無い。

 ―――王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)。絶対無敵の殺戮宝具。しかし、それが展開された瞬間に、王の敵は既に疾走していた。

 独特な歩行によって空間がスライドするような速度を出し、最小限の動きで最高速に達する。彼はアヴェンジャーの迅さに追い付けない。元になる武術は中国武術の歩行である活歩であろうが、彼の動きは独自の流れが強く、もはや我流の武術の歩行と化している。無動作、無拍子、初速にて最速で間合いを縮小させた。

 アヴェンジャーの肉体は限界を越え、霊体でさえ崩壊するほど全力で酷使する。

 筋肉が千切れた。壊れていた回路を崩壊まで使い込んで肉体を強化した。代償として魔術はもう使えない。使えなくなったが―――敵に拳が届く。

 ―――アヴェンジャーはギルガメッシュを殺しに掛る。

 ギルガメッシュに打撃の衝撃が浸透する。直撃すれば心肺機能が停止していただろうが、両腕で敵の拳を防ぐ。だが、アヴェンジャーは殴った隙を巧く利用し、死神の如く掏り込む様に、重い蹴りをギルガメッシュへ叩き込まんと迫った。

 流石のギルガメッシュも、顔面を狙い迫る右脚が直撃すれば首が撥ねる。戦慄に背が凍るが、身を逸らして首から死神の鎌を回避。しかし、ギルガメッシュの懐に敵が入り込む。そこは拳が最高の殺傷能力を誇る至近距離……!

 

「―――殺せ」

 

 ……生々しい肉が裂ける音。グチャリ、と自分の体が死んでしまった死の音を、彼は確かに聞こえた。

 ―――令呪の命令が届いたと理解した時、戦いは終わっていた。

 ギルガメッシュの拳は本来の威力と速度を遥かに上回り、致命の一撃としてアヴェンジャーを完全に砕いていた。

 そして、勢いは止まる事無く腕は心臓を超え―――貫通している。英雄王の片腕が復讐者を串刺しにしていた。

 

「……私の敗北か。実に残念だ」

 

 王の拳は復讐者の生命を停止させる。魔力が枯渇した状態で心臓を完全に破壊され、もはや生き残る手段が存在していない。そして、心臓だけではなく、重い一撃は肺など生命活動に必要な臓器も全て殺していた。

 ―――グシャリ、と鈍い音を鳴らして腕が引き抜かれる。

 ギルガメッシュの片手は血塗れであるが、目の前のサーヴァントが死ねば血痕も消滅するだろう。彼らは死人らしく、遺体を欠片も残さず消えて逝く。

 

「―――……は。全く、因果な戦争であったな。

 死亡する原因が過去の自分自身だとは、中々に愉快な結末だ」

 

 死した肉体は塵に還るのみ。サーヴァントとは元より、そのような歪な存在。仮初の寄り代が消える。アヴェンジャーが死ぬ。何よりも、ギルガメッシュがその手で直接心臓を潰したのであるならば、その死は当然のこと。

 ―――王の眼前に臣下が死ぬ。

 

「……さらばだ。我が臣下。

 貴様が極めた頂き、この英雄王が認めよう」

 

 英雄王(ギルガメッシュ)復讐者(アヴェンジャー)の視線が交差した。

 

「―――貴様は強くなった。

 王に届いた自分自身を誇りにし、己が座へと還るが良い」

 

 その言葉を聞いた彼の表情は例えようも無い程―――楽しそうであった。

 

「……そう、か。強くなったか。

 そのように褒められたのは、実に久しぶりだな―――――――」

 

 手足の先から消えて行く。アヴェンジャーは死灰へと変わっていく。この世の何よりも透明なカタチで楽しそうに笑っている。

 ―――復讐者(アヴェンジャー)のサーヴァントが、こうして消滅した。

 この度の聖杯戦争において、新たな脱落者が決定した瞬間であった。その今際の姿を見届けたのは、王と神父の二人のみ。

 求道に生きた末に聖杯戦争に参加したアヴェンジャーのサーヴァント―――コトミネジンドは自分が嘗て仕えた王によって、聖杯に届く事は無かった。

 

「―――――………」

 

 王は口元を歪めながら、その死に様を見た。死んだ後も見続けた。

 しかし、嘗ての臣下を殺した感傷も長くは続かない。彼は振り返り、現世に生きている自分の臣下へ視線を向けた。

 

「……雑種(ジンド)、貴様―――何故(オレ)に令呪を使用した!」

 

 この怒声は当然のものであった。この臣下は決闘に邪魔をした。無粋な死闘に変えてしまった。

 ―――それが許せん。

 ギルガメッシュの殺意は津波となって神父の方へ襲い掛かる。

 今まで神父に怒りをぶつけ無かったのは、アヴェンジャーの最期を見届ける為。それを見終えてしまえば、感情の蓋は外れ飛ぶ。

 

「王に死んで貰うと困るからだ。

 ―――言っただろう、セイバーのサーヴァントを手に入れるのを手伝うと。お前が死んでしまえば、それが出来なくなるではないか」

 

 欠片も気にしない。臣下である彼にとって、王が語った目的を優先するのが当然。

 

「そもそもこれは、死闘であっても決闘では無い。

 ―――戦争だ。

 俺は誰の臣下であり、そして誰のマスターとしてこの場所に立っているのだと思っている。俺の力はお前の力でもあり、その逆もまた聖杯戦争では同義のことだ」

 

 英雄王の心情を知りながら、神父は王から貰った誇りを貫いた。彼の臣下である限り、この行いは必然であると宣言する。

 ……ギルガメッシュとて、その事は察している。

 だからこそ、彼は臣下の行いを許容するしかなかった。王である限り、臣下の所業が自身に背いた訳でも無く、まして間違いですらないのであらば、認めるしかない。不愉快だがギルガメッシュは、自分の臣下に命を救われた。

 ―――英雄王に対してさえ、神父の悪辣さは変わらない。

 否、自分の王であるから、ここまで彼は実直で在るのだ。王の臣下として、言峰士人はただの一度も間違えた事が無い。

 

「―――次は無いぞ」

 

 故にこれはただの通告。命令ですらない。次に戦の横槍を入れれば、間違いなく臣下を王は殺害するであろう。王はそう言い、自分の精神をセイバーと聖杯に向けてリセットした。

 

「ああ、分かっている。

 それに……―――次でこの戦争も終わりにする予定だからな」

 

 聖杯の降臨は既に決定している。サーヴァントの魂も十分投下されているのもあるが、前回の第四次聖杯戦争から使われていない聖杯に余裕は無い。無尽蔵の魔力が貯蓄されている事だろう。そして、向こうとも孔が順調に繋がるのも分かっている。

 ―――言峰士人は笑った。

 彼は未来の自分さえも殺してしまった。本来ならば異様なまで残酷な殺人を行ったが、それでも何か変わる事が無かった。思う所は何も無い。強いて言うならば、羨ましかった。しかし、あの満足そうに死ぬ事が出来た自分を見て、言峰士人は言峰士人として答えを得る事が出来るのだと確信する。

 ああ、求道の先に何があるかは分からない。しかし、自分が自分になった原因を遂に知る時が来た。そんな神父を見て、英雄王も楽し気に苦笑を浮かべたのであった。




 CCCがとても楽しみです。

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