神父と聖杯戦争   作:サイトー

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 第五次聖杯戦争最終局面開始


36.降臨

 ―――聖杯戦争最後の決戦が今夜にも始まる。

 衛宮邸にてバゼット・フラガ・マクレミッツは一人、星が輝く空を見ていた。アインツベルンの森から無事帰還し、しかし彼女の精神は深く傷が刻まれている。相棒を失った喪失感が夜になっても消えはしない。

 

「――――――――――――」

 

 遠坂凛と衛宮士郎、セイバーとアーチャーは聖杯戦争最後となる決戦に向けた準備をし終えていた。アーチャーは新しく契約した自分のサーヴァントとなったが、最早既に自分に出来る事は無い。

 

「―――本当、無様だわ…‥」

 

 暗い世界で独り言を漠然と漏らす。思いを言葉にしなくては物へ八つ当たりをしたくなる。

 四肢は砕けた。肋骨も折れ、臓器を刺し込んでいた。肉も引き千切れ、宝具を使える状態では無い。魔術で命を何とか繋ぎとめられたが、戦闘可能な肉体には余りにも程遠い。いや、生きているだけで精一杯。戦闘をすれば直ぐにでもポンコツに逆戻りだ。この時ばかりは衛宮士郎の頑丈さと不死身さが、少々羨ましかった。

 ……無力感に脳髄が苦痛に唸る。

 あの尋常ではない強さを誇っていた男は、魔術師でもなければ、何かしらの異能を持っている訳でも無い唯の人間。拳だけを鍛え上げていた敵に彼女は致命傷を何か所も受けていた。自分が一人だけで戦っていたとしたら、確実に息の根を止められていた。

 

「戦いしか能が無い女なのに、いざとなったらこれですか……っ」

 

 極められた男の拳は、神代から業を受け継ぐ魔術師である自分さえ凌駕し、鍛錬や才能も戦闘を通じて敗北していたと悟った。

 負けていた。無様に負け姿を晒していた。勝てたのは自分の力では無い。

 自分が彼らに出来る事と言えば、マスターとしてアーチャーに魔力供給をすることのみ。戦闘で役に立てることは無くなってしまった。遠坂凛も自分と同様の状態となり、戦いの場に赴いたとしても、足手まといとなるだけだ。

 いや、足手まといどころか人質にさえなってしまう程弱っており、的にしかならないだろう。戦力どころか脚を引っ張り、敵の攻撃から守ってもらう様な破目となる。戦いの補助をするどころか、守って貰わなければ戦場に居る事さえ適わない無様な姿。

 

「此処まで来てこの様とは―――情けない。

 ……出来るのであれば、士人君は私だけで止めたかったわ」

 

「マスター。そこまで自分を追い詰める必要は無い」

 

 思わず漏れ出してしまった独り言を自分のサーヴァント、アーチャーに聞かれてしまう。

 そして、新たな自分のサーヴァントの顔を見ると、アヴェンジャーと似ていて、余計に思い出してしまった。

 そしてまた、自分の弱さが己を苛ませる。絶対に今の姿をアヴェンジャーが見ていたら、ニタニタといつも通りに笑っている事だろう。

 

「……アーチャーですか。

 すいません。弱音が聞こえてしまったようですね」

 

「盗み聞きをするつもりではなかったがな。

 ……ま、結果的にそうなってしまった。すまない」

 

「いえ、私は別に気にしていません」

 

 ……そして、無言に満ちた。

 そも、彼ら二人には語るべき事は何も無い。エミヤにとって生前の知人であったとしても、バゼットからすれば唯のサーヴァント。自分と契約していると言えど、この局面まで来てしまえば、もう何も関係ないのだ。

 だからか、彼女は令呪を見た。それはマスターの証。

 これはもう今の自分には要らなかった。もう少し詳しくえば、自分以上にこの令呪を必要としている者がいる。道具はそれに相応しく、必要とする者が使うべきだ。

 

「アーチャーのサーヴァントよ。令呪を以ってマスターが命じます。

 ―――勝ちなさい。

 ―――生きなさい。

 ……これをマスターとして、貴方に下す最後の命とします」

 

 残り二画の令呪をアーチャーに下した。既に戦場でまともに立つ事も出来ぬ自分では、令呪など持っていても価値は無い。故に全ての令呪をこれから戦いに向かうサーヴァントの強化へと使用し切った。

 

「―――感謝する。

 必ずや、戦場での勝利を君に誓おう」

 

 数分後には、準備を整えた皆が柳洞寺へ向かう。バゼット・フラガ・マクレミッツと遠坂凛は戦闘不能となり、決戦場へ行くことさえ許されない手負いになってしまった。

 ―――血戦は間も無く始まる。

 彼女はただ純粋にアヴェンジャーの仇を討てない自分が、そしてアヴェンジャーの過去である士人を止められない自分が、余りにも無様だと思った。

 

「……はぁ。全部使い切ってしまいましたか」

 

 自分の元を去ったアーチャーの背中を見て、バゼットは溜め息を一つ。全く以って、何もかもが巧くいかなかった。

 けれども、これで良いと納得はしていた。結局のところ、自分は敗者だ。

 今回の第五次聖杯戦争は今夜にも終わるだろう。最後の戦いに参加する資格はあれど、怪我がそれを認めない。だから、その終わりが自分達にとって良き終幕になるよう、彼女はらしくもなく願った。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 柳洞時。門を潜り抜けた先の広場にて、三人の男達がいる。

 一人は神父服を着たマスター。もう一人は着物を羽織る侍。最後の一人は黄金の鎧に身を包む英雄王。

 ―――場の空気は完全に凍りついていた。

 誰もが底無しの戦意と殺意を纏っている。あの神父でさえ、隠しようもない高揚の笑みを顔に張り付けている。アサシンは余りにも鋭く自身を静めさせ、ギルガメッシュも殺し合いの愉悦を待ち構えていた。

 

「既に聖杯は開いた。イリヤスフィールの様態も、器として安定している」

 

「―――貴様はこれで満足したか?」

 

 先程イリヤスフィールの様子を見て戻って来た士人に対し、ギルガメッシュは楽しくて仕方がないと見る者に思わせる笑顔で問う。

 王からしても、ここまで巧く事が運んだのは喜ばしい。

 面白い中身を持つ自分の臣下がアレを知った時、その果てにどうなるのかは結果など関係無く楽しそう。此処に来るであろうセイバーの末路を考えるだけで、十年も待った甲斐もある。

 

「……いや、まだ駄目だな。

 泥に触れてみたが、呪詛の塊でしか無い。単純に呪われただけだった。それに量が少ないのもある。孔の広がりが十分ではない。

 おそらく、聖杯がまだ覚醒仕切っていないのだろう。

 中身の意識が聖杯を通して顕現せねば、原因を知ることは不可能なようだ」

 

 孔は開いたが、泥に触れたところで呪詛が士人を呪っただけだった。それでは何故自分がこうなったのか、その原因であるアンリ・マユを、彼は正確に知る事が出来ていなかった。

 

「ほう。まだ生贄が足りんのか。

 ……ならば、サーヴァントをもう一体殺す必要があるな」

 

 ギルガメッシュとしては、既に泥が微量でも溢れている時点でサーヴァントの受肉が可能である為、自身の欲望の一つであるセイバーの入手は目前。それに力み過ぎて殺してしまったとしても、聖杯から魂を引きずり出して召喚し、泥で受肉させれば良いこと。後は、聖杯を狙う自分以外の賊を殺すだけで良い。

 

「その通りだな、ギル。だがまぁ、聖杯に必要な生贄も直ぐに此方へ向かってくるだろう」

 

 決戦を直ぐに始まる。士人は最後の確認をする為、仲間の二人に問い掛ける。

 

「ギルガメッシュはアーチャー、アサシンはセイバー。……これで良いのだな?」

 

「構わん。あれにあそこまで言われたならば、我の手ずからあの雑種を始末せねばなるまい」

 

 ギルガメッシュが思い出すのは、アヴェンジャーとの死闘。

 あの黒衣の神父の、ギルガメッシュが贋作者程度に敗北するだろうと言う挑発が、精神に澱として残留してしまっている。これを晴らさぬ限り、彼はセイバーを手に入れるのに不愉快な気分のまま、受肉させて婚姻を結ぶ事になってしまう。

 ……それでは駄目だ。王として許し難い。

 その所為でセイバーがアサシンに殺されてしまうかもしれないが、その時はその時。其処までの女であったと認めた上、黒い聖杯でも使って魂を聖杯から再度この世に呼び戻そう。どうなろうとも、あの女をもう逃す気はない。

 

「うむ。私としてはどちらでも良い」

 

 彼からすれば、セイバーもアーチャーも両方とも敵としては好ましい。

 二人とも十分に自分と愉快な死合いを望める強敵。

 故にアサシンとしては、アーチャーとも最後に殺し合いをして決着をつけておきたい気持ちも多分にあるものの、セイバーとの死闘も同等に期待していた。

 

「……では、次に会うとすれば、互いの敵を倒した後だ」

 

 そして、士人は彼ら二人に背を向けて自分の戦場へ向かう。ギルガメッシュとアサシンも、神父に背を向けて自身の敵が到来するのを待つ。

 

「―――ああ、そうだったな」

 

 神父は何かを思い付いた様に歩みを止めた。最早何も喋る事も無く、戦いを挑むのみとなったこの時、彼は振り返らないまま言葉を続けた。

 

「餞別だ。殺し合いを前に最後の命を下す」

 

 その時、言峰士人の左腕―――令呪が輝きだす。数多あるそれは強い光を放ち、暗い闇が支配する夜の中で淡い灯火となった。

 サーヴァントらは視界に入れずとも、その力強さを背後から感じ取る。確かにそれはマスターがサーヴァントへ送る最高の餞別だった。

 

「―――勝てよ。最強を示せ」

 

 神父は令呪を二画消費した。一つはギルガメッシュ、もう一つはアサシンへ。

 ―――既に彼らの戦場は別々にある。

 互いに背を向け、神父は聖杯の元へ歩み続ける。これ以上の言葉は不要。令呪によって最高潮に至ったサーヴァントの二人は、確かにマスターからの命令を承諾した。

 

「…………」

 

「…………」

 

 英雄王と侍の間に会話は無い。視線の方向を変える事も無い。

 聞こえるのは、背後で自身の戦場に向けて歩き去って行く言峰士人の足音だけ。再びマスターとサーヴァント達が合い見れるのは、この聖杯を奪いに来るサーヴァントを打倒した後となる。

 

 

◇◇◇

 

 

 ―――言峰士人は独り、聖杯を前にして敵を待っていた。 

 境内の奥。柳洞寺の本堂の裏には大きな池があった。人の手は入れられず、神聖な赴きをした、竜人でも棲んでいそうな池。

 だが、それは昨日までの話。もはや池は見る影も無し。

 澄んだ水色の池は赤い燐光で塗り潰されていた。黒く濁ったタールの海。

 ……そして、天に穿たれた孔と、それに掲げられている少女。

 イリヤスフィールは既に捧げられ、宙で磔にされて浮かんでいる。大聖杯と繋がった孔から泥が此方側の世界に流れ出ているものの、その呪詛は大した量にはなっていない。彼にとって、聖杯を知るにはまだまだ不十分。

 

「――――言、峰………!」

 

 冷静を演じていた筈の思考が一気に弾け、感情が理性を振り切る。士郎は駆けてきた足を止め、神父を凝視する。

 

「よく来たな衛宮。やはり、最後まで残ったのはお前だったか」

 

 彼は皮肉げに口元を態とらしく歪め、最後の敵を右腕を広げて迎え入れた。この男は教会で会った時と変わらず、友人を心より歓迎している。

 ……ここが、決着の戦場だ。

 今回の第五次聖杯戦争における、聖杯召喚の祭壇であった。

 

「―――ほう。

 師匠……いや、遠坂凛とバゼット・フラガ・マクレミッツの気配が欠片も無いが……ふむ、なるほど。

 どうやら、葛木宗一郎はかなり有能だったのだな。復讐を誓った男は一味も二味も違うらしい。彼女たち二人を戦闘不可能なほど追い詰めていたとは。

 ……元より見込みが十分にある奴であったが、ここまで巧く事が運べるとは実に良い」

 

 士人にとって、葛木宗一郎の復讐劇は見所ある余興だった。遠坂凛を殺せる時に傷一つつけなかったのも、アヴェンジャー以外を逃したのも、彼が行う復讐の為だった。

 勿論、戦略的に考えた場合、ギルガメッシュの負担や自分の負担を考えて行った計略でもある。

 それでも、この最終局面において、あの二人の脱落は自分にとって良い風向きだ。いざとなれば聖杯を無理矢理使って三人と戦う心構えも有ったが、不完全な聖杯を使って賭けを行う必要もなくなった。

 アサシンによって敵の生存を知り、一人も戦闘では死んでいなかったと知った時は、改めて敵となった三人に対して戦力計算を何度も行った。だが、それも無駄になったようだ。

 また、その二人が伏兵となっている可能性もあるが、その辺の油断など彼は一切しない。僅かでも可能性があるのであれば、それを油断しないのが神父の一番厄介な部分である。

 

「――――――――――……っ」

 

 士郎にとって、二人の脱落は手痛い。この神父の強さは異常だと知っている。戦法も戦術も教えられている。逆に、アーチャーとの戦いから自分の能力も知られている事も理解している。

 ……今此処に、あの二人が居ればどれ程心強いのか。

 しかしもはや、今に至ってしまえば無駄な感傷でしかない。そも、手負いの彼女らを守りながら戦える訳もなく、士郎では自分の身を守るだけで手一杯だ。

 

「―――イリヤを降ろせ。おまえをぶちのめすのはその後だ」

 

 ……士人と士郎の距離は十メートル程度。これ以上進めば戦いが始まる。お互いがお互いの戦法を知っているが故に、戦いの火蓋はあっさりと落ちてしまう。

 

「それは出来ない。この段階で聖杯を解放する訳にはいかないのでね」

 

 気味が悪い程、神父は饒舌だった。いつもの笑みとは程遠い、心の底から楽しくて堪らないと言った人間らしい笑顔。

 ―――アレは、楽しんでいる。

 衛宮士郎にはその事が一目で理解出来た。目の色が余りに危険で、笑みの一つで空気が完全に停止して死んでしまいそうだ。視線が合っただけで、心臓が止まると錯覚するほどの畏れを抱かせる。

 

「……まぁ、お前の気持ちも良く分かる。しかし、聖杯は現れたが、その『孔』はまだまだ不完全。私は答えを見せてくれる完成した聖杯に用がある。

 故に、彼女には不安定なコレを支えて貰わなければならない。それこそ―――あの女の命が続く限り、な」

 

「―――そうか。

 なら、おまえに降ろす気がないってんなら、力ずくで降ろすだけだ。

 おまえの願い―――その黒い泥を、今直ぐに止めてやる」

 

「困るな。この泥は別に俺の願いでも何でも無いが、俺をこのようにした大元の原因。止められてしまうと……ほら、何も理解出来ぬまま死ぬことになる。

 それはそれで別に良いのだが、知れるのであれば知りたい。

 ―――この呪いの正体。壊れた聖杯の本質。

 泥が何故、ここまでの呪詛を孕んでいるのか。何が自分の中身を奪い、自分が呪われた聖杯で失ったモノが何であるのか。私が私で在る限り、言峰士人が言峰士人を得る為に、この黒い聖杯を知る必要が如何しても存在している。

 故に―――邪魔をするのであれば、お前をこの手で葬らなければならない」

 

 並外れた決意だった。衛宮士郎の髄から震わせる言葉だった。その所為で解かってしまった。

 ―――こいつは絶対に止まらない。

 自分が未来の自分を乗り越えて理想を求めた様に、この友人は絶対に求道を辞めない。何故ならば、既にもう、そう在るのだと自分自身で決めている。

 

「……ギルガメッシュも言ってたな、聖杯が呪われていると。じゃあ、おまえは、その黒い泥に呪われているからこそ、壊れた聖杯が必要だって言うのか……?」

 

「無論だとも。この泥は人の手による物では無く、聖杯自体による泥だ。本来ならば無力の力として万能であったが、それが黒く染まった結果がこの始末だよ。

 この聖杯は、初めからこうなのだ。おそらく、一度でも開いてしまえば最後、際限なく溢れ出て災厄を巻き起こす」

 

 右腕を上に掲げ、士郎に聖杯を見るように示す。

 

「それがこの聖杯の本性なのだろう。この中にはあらゆる悪性、人の世を分け隔てなく呪う『何か』が詰まっている。それを操作する事など、誰にも出来ない。

 だからこそ、この泥は十年前と変わらず、常に黒く染まったままで在り続ける」

 

「――――――――十年前……」

 

 本当は分かっていた。この絶望は衛宮士郎にとって二度目の経験。

 

「そうだ。十年前、お前と俺の何もかもを奪い去った大元だ。この泥が、この聖杯が、全てを消した」

 

「まさか―――そんな事の為に、お前はあんな泥を望むって言うのかよ!?」

 

「それこそが、自分にとって残された数少ない娯楽だよ」

 

 神父は、そんな当たり前な事実を喋った。楽しいから知りたいのだと、遠回しに語っている。

 

「……な、に――――?」

 

「結局のところ、何も変わらない。過度の鍛錬に励み、神聖に祈りを捧げ、人々の物語を嗜み、延々と続く日々を過ごす。それらの出来事と聖杯を知る事は、私にとって変哲もない日常の一幕だと言う訳だ。

 ―――何故、それらと違う理由がある?

 私にはそれが本当に理解出来ない。生きて死んで、それが一体何だと言うのだ」

 

 この神父には分からないのだ。人々の営みがどういうモノなのか、人欠片も実感出来ず、理解出来ず、知識でしか把握出来ない。

 生き延びる事も、死に果てる事も、どちらも等価値に真っ平らで同じコト。

 善も悪もどちらも等価値でしかなかったから、呪いの衝動だけが自分の内側から響く流れだった。奴にはそれしか心に存在しない。 

 

「全てに価値がない。故に、何もかもが等価値でしかない。

 人が生み出す物事に感情が湧かない。

 人が尊いと大切にする物が要らない。

 人が見出してきた走馬燈が下らない。

 ―――もう既に、私にはこの世界で何の実感も起きない」

 

 神父はそれでも尚、笑っている。言葉として吐き出す泥の呪詛とは逆の、神聖さに満ちた姿。それを尊いと感じてしまう自分自身に、衛宮士郎は凍りつく。

 

「在るのは唯一つ―――この呪いだけだ。あの地獄の中、お前も見たあの黒い太陽が笑うのだ、人の業が愉しいと。

 ……しかし、何故それが愉しいのか、何も無い私には理解出来ない。

 故に、この娯楽を理解する為にも、私は自分のこの衝動を知る必要がある。そして、それを知り得た時、自分は心が空白に成り果てた時に失った何かを初めて、知る事が出来る」

 

 ―――だから、この地獄を祝福する。聖杯を背後に彼は心の底から笑みを深めた。

 

「これには自分を、言峰士人として成り立たせた要因が内包されている。

 ―――――この黒く染まった聖杯の泥を真に理解した時、私は己の求道の果てに生きる事が出来る」

 

「……おまえは、この聖杯の中に答えがあるって言いたいのか?」

 

「そうではない」

 

 士郎を見て、士人はこの場で初めて無表情になる。笑みを作らず、奈落のような目で鋭く笑う。

 

「……言わば、この壊れた聖杯は自分が壊れた原因だ。

 その工程に詰まれた方程式が分かるのであれば、自分を答えへ導くのは容易くなる。何も解からない自分であるが、それを得る為のやり方を知る事が出来る。

 ―――故に、求道を理解出来る。

 嘗ての自分を破壊したこの聖杯には、私が欲するモノが詰まっている」

 

「言峰にとってこの黒い泥こそが、既に願いのカタチだと?」

 

「そうだ。だからこそ―――お前がその理想を未来から掴み取った様に、私はこの求道を自分の人生として決定した」

 

「―――……ふざけるな。ふざけるなよ、てめぇ……っ!

 そんな……そんなことの為に、誰かを犠牲にしてまで聖杯を願ったのか……っ!」

 

「何を今更。お前の理想にも人の不幸は必要不可欠だろう。

 願望とはどのような物であれ、他の誰かの願望の犠牲の上で初めて成り立つ。それは善悪関係はない。人間とはそういう生き物だ。

 お前が抱く正義の味方と言う理想も、争いの無い世界では無価値な夢想でしか無い。救われぬ人間が存在して、それは漸く価値を持つ。

 ―――おまえと私の理想と求道は等価値だ。

 己の為に行いながらも、どちらも決して自分に還るものが無い」

 

 言峰士人は確かに正しかった。衛宮士郎は、エミヤシロウが辿る末路を知り得ている。ならば、自分が抱くこの理想の残酷さも分かっている。

 

「ああ。そうか……――――」

 

 衛宮士郎は理解した。この神父は自分と似ているようで異質な人間だ。

 この男は決して揺るがない。

 どんな事でさえ顧みず立ち向かう。

 不動にて不屈。

 ―――これは多分、憧れなのかもしれない。

 自分もこの神父ほど何もかもが強ければ、何一つ迷うことなく理想を行えると確信している。全てを割り切って自身を全うし、人間でも無ければ、機械でも無く、化け物でも無く、英雄にさえ成る事も無く、自分は自分として正義の味方になれている。アーチャーのように地獄に落ちてさえ、理想を志して永遠に耐え抜けた事だろう。

 ……故に、この神父には何も無い。

 それは何も無いが故に強さだ。ただ一つを決めた末に至れる強靭な意志。

 だから許せない。

 この男が成す悪を自分だけは赦したくない。

 

「―――言峰、おまえは……っ!

 ただ知りたいからなんて願いの為に、聖杯を開いて災厄をばら撒くって言うのかっ!」

 

「それは違うぞ。聖杯から漏れ出す呪詛に興味は無い。結果的に、そうなってしまう可能性が高いだけの話。

 流石の俺も、何も知らぬ今の自分のまま、世界が終わってしまうのは御免だ。聖杯による終焉はなるべく回避したい結末の一つだよ」

 

「おまえは、自分が死ぬかもしれないのに―――それでも聖杯が必要なのか……」

 

「―――ああ、必要だ。

 例え、身を滅ぼし、世界を終わらせてしまう可能性があるのだとしても―――私はこの答えが欲しいのだ。強いて言うのであれば、それが今の自分が聖杯に託す願望だ。

 ―――私はただ、この求道の最後に在るものを知りたい。

 その為に聖杯を知りたい。それ故に―――自分は自分を取り戻す」

 

「―――……そうかよ」

 

 改めて衛宮士郎は覚悟を決めた。

 ―――奴はここで倒す。

 否、自分が打倒しなくてはならぬ絶対の敵となった。

 

「だったら尚更―――俺は絶対に、おまえを止める……!」

 

「宜しい。殺意が決まった様で何よりだ」

 

 両腕を広げ、神父は正義の味方に微笑んだ。

 理想を目指す為、衛宮士郎は敵を打ち破り聖杯を破壊する。求道を切り開く為、言峰士人は敵を打倒して聖杯を完成させる。

 同類故に相反する彼らが殺し合うのは必然だった。

 今此処に、第五次聖杯戦争最後の戦いが到来した。

 

「―――では、殺し合いを始めよう」

 

 その神父の言葉が始まりの合図。そして、互いの魔術回路が一気に解放。十分に高まった魔力は全身に行き渡って肉体強化の魔術を行い、敵の動きを見抜く為に二人とも両目が強化された。

 ―――士郎は即座に投影魔術の工程を組み上げ、干将莫耶の準備を終えた。

 

「―――投影(トレース)開始(オン)……!」

 

 両手に双剣を持ち、士郎は斬り掛った。十メートルもある距離を一気に詰め込み、間合いに入り込む。

 

「――――――」

 

 対し、士人も無詠唱で双剣を投影した。聖杯の泥はまだ攻撃に使う事は出来ぬ為、彼は自身の能力で戦闘に臨んだ。呪うだけならまだしも、身動きをする敵に泥を伸ばすのはまだ合理的では無い。

 もっとも、聖杯を戦力として換算したのは、遠坂凛とバゼット・フラガ・マクレミッツも含んでいた時の計算であった。よって、衛宮士郎一人であれば聖杯を使わずとも勝機は十分にある。

 

「―――――ハァ……ッ!」

 

 キィン、と金属音が鳴る。干将が刃に防がれ、軌道を逸らされる。返し刀と莫耶が士人に斬りかかるも、彼はその斬撃を見を捻り最低限の動きで回避。そして、悪罪の双剣を繰り出し、連続的に士郎へと斬り掛った。

 

「……く―――」

 

 まずは右の剣からの薙ぎ払い。士郎はそれを避けるも、避けた先には左手に持つ悪罪からの突きが心臓に迫っていた。それを右手の干将で防ぐも予想以上の衝撃が身に浸みる。その停止した隙を狙い、士人は右の剣で首を狩り切りに迫った。

 ―――この一瞬で、士郎は自分の不利を悟った。

 まず、身体能力に差がある。戦闘経験に差がある。武器の鍛錬密度に差がある。自分には敵を倒すのに足りないものが多過ぎる。

 

「………ぁ――――!」

 

 その首狩り一閃を干将で防いだ瞬間、動きが止まった。元からの膂力の違いにより、筋力の差から押し込まれる。そして、士人から悪罪の一閃が士郎の胴を狙って迫るも、それも莫耶でもう一度防ぐ。干将を抑え込まれ、このままでは拙いと分かっていながらも、莫耶で守るしか士郎には出来ない。

 

「……―――――――!」

 

「―――――――………」

 

 干将莫耶と悪罪の刃がぶつかり合い、至近距離で視線が交差。まるで鍔迫り合いのようになるも、士郎が刃に意識を移した隙を見逃さなかった。双剣で敵の双剣を切り開き、強引に間合いを詰め込む。

 ―――神父は敵の腹目掛けて蹴りを叩き込んだ。 

 八極拳における震脚によって踏み込み、限界まで全身を力ませた上での攻撃。技としては旋体脚に近い回し蹴りだが、動きは完全に我流の殺人術。最小限の動きで最大限の殺傷力。これ以上ない程、見事なまでの決定打。衛宮士郎が後方へ吹き飛んだ。

 

「………―――」

 

 ―――堅い。まるで鉄。

 士人が脚から伝わってきた感触は異様の一言。柔らかい人体を一撃で粉砕し、内臓を全て破裂させる威力を持つ一撃だったが、あれでは死んでいないと確信。この衛宮士郎と言う魔術師は、人間以上な頑丈さと不死性を持つ。

 神父は地面へと滑落する敵を追う。飛びながらも士郎は自分を殺しに近づく敵を視界に収まる。彼は地面を転がりながらも受け身を取り、即座に立ち上がった。

 

「……がぁ―――!」

 

 僅かに血を吐いたが、本来ならば死んでいて当然の破壊力。士郎の異常さを把握した士人は、双剣で命を()らんと間合いを取った。

 仙人が使うと言われる縮地じみた素早さは活歩の動きによるもの。

 空間を縮めたような迅さは、士郎から見ればそれこそ魔術の一つに見えただろう。だが、敵の動きを見ている士郎は、神父の技は純粋な人間の業を極めた末のモノだと分かっている。それを分かってしまったことが、更に士郎に彼我の戦力差を再認識させた。

 ―――悪罪が首を挟み込むように斬り込む。

 士郎は肉体を直ぐさま再起動させ、呼吸をする間もなく後方へ避ける。しかし、さらに踏み込んだ士人が振う右側面から瞬間的な斬り返し。それを自分の刃で逸らし、自分から斬り込むも目前には既に突きが放たれた剣の殺意。

 

「―――――――……っ」

 

 ……眼前の死。それを前に衛宮士郎の思考は加速した。

 まず、刹那に当たる刃に自分から迫って紙一重で回避し、敵が詰めた間合い以上に自分から間合いに入り込む。とは言え、突きからの払いよって悪罪の斬撃が士郎を再度襲い、それに対する士郎の動きを待つように片方の剣が刃を黒く濁らせる。

 士郎は斬り払いを膝を折り畳んで避け、上から降ってきたもう片方の剣を自分の双剣を交差させて防ぐ。そして、その勢いのまま士人の剣の片割れを粉砕した。全身に魔力を回して強化し、剣にも魔力を叩き込んで行った破壊剣技。

 

「……ほう――――」

 

 言峰士人は感嘆の声を漏らす。それは称賛に値する絶技。

 ―――だが、驚愕には値しない。

 彼は破壊された剣を再投影すると見せ掛け、敵の動きを思考と殺気で束縛する。そして瞬間、武器が空いた手でもう片方の悪罪を両手持ちにし、力の限り振り抜いた。

 

「―――――……っ」

 

 士郎はその一撃を双剣を盾に耐える。しかし、凶悪な威力を持つ一閃によって干将莫邪は砕け散った。同時に士人の悪罪も飛び散り、魔力に溶けて消え去る。

 

「……投影(トレース)――――」

 

 士郎は即座に再度双剣の投影を試みる。武器が無くば敵を倒せず、攻撃を防ぐ道具も無い。故にその行動は魔術師としても、戦闘者としても正しい。

 しかし――――

 

「―――()………っ!」

 

 ―――それよりも早く、拳が衛宮士郎に襲い掛かっていた。

 言峰士人にとって戦いは体一つあれば事足りる。拳と脚で敵を十分に打ち砕ける。間合いを詰める為に踏み込まれた震脚により、彼の縦拳は絶望的な死を幻視させる脅威として敵に打った。その光景を強化された眼球で士郎は陰ること無く見抜き、自分に命中するまで見届けた。

 

「……ぐ、ガァ――――」

 

 その威力は即死に届いていた。人間の肉体を内側から炸裂させ、内臓を粗挽き肉にしてしまうには十分。養父の綺礼から教えられた士人の技―――金剛八式、衝捶の重い拳打は死徒さえ容易く葬る。肉体強化によって硬化した拳は並の鉄以上に強靭な岩石であり、本来の肉体性能が魔術で増加された上で放たれたからには、技の破壊力は恐ろしい領域に到達している。

 ……だが、士郎は耐え抜いた。

 彼にとって魔力で強化された肉体は剣と同じ。その上、両腕を交差させて咄嗟に防御態勢を取っていた。投影を破棄して守りに入ったのが正解であった。与えられた損傷は致命傷には程遠く、必殺の一撃を受けた衛宮士郎はまだ生きている。

 とは言え、それは耐えられただけ。士人はその防御を強引に抉じ開けた。一撃必殺を体現する縦拳は、敵の守りを切り開く破壊鎚でもある。士人は開いた距離を利用してもう一度震脚を行い、左の足から間合いへと入り込んだ。そして左足を軸にし、右端脚が士郎の頭を砕きに襲った。

 ―――直撃は即ち死。

 このままでは士郎の頭蓋骨が砕き開けられ、脳漿が無惨に飛び散り、顎から上が消えた死体になる。

 

「――――……っ!」

 

 それを彼は寸前で避けた。腰を折り、膝を曲げ、首を反った的確な最小限の動き。その合理的判断から来る回避行動は、アーチャーからの戦闘経験による所が大きい。

 衛宮士郎は未来の自分と殺し合った経験を自分の業へと昇華していた。否、アーチャーのそれを自分のモノにしていなければ、最初の一手で死んでいただろう。故に、彼がここまで戦って生き残っているのもまた、必然と言える。

 ―――だがしかし、連撃は止まらない。

 勢いのまま言峰士人は捻り回り、今度は右足を軸にして左脚による足払い。鮮やかな足捌きから来る技は士郎の足に絡まり、見事に体勢を打ち崩した―――と、同時に神父は至近距離に入り込み、拳を再度握り締めた。

 右脚を前にし、攻撃した左脚が地面に着くであろうその瞬間―――姿勢は完全に整って拳は接触状態に持ち込まれる。既に言峰士人の左拳は繰り出され、徐々に衛宮士郎へと迫っていた。

 

「――――――――」

 

 彼はその死神の鎌の如き神父の拳を目視していた。高速で行われている戦闘であるが、その一部始終を士郎は見抜き、この危機を抜け出そうと思考する。

 回避―――否。姿勢が崩れた今の自分では不可能、間に合わない。

 反撃―――否。敵の拳は既に自分へと迫っている、間に合わない。

 投影―――否。剣を具現して撃つより神父が早い、間に合わない。

 防御―――決。間に合わないならば堪える他無い、行動手段決定。

 方法を模索し、それを零秒で決める。根本的にこの一撃よりも強く、破壊に耐え抜ける肉体と化してしまえば良い。

 瞬間―――思考は停止した。敵の体勢が決まり、左拳が自分の胴体に接触した。

 

「………っ―――――!!!」

 

 ―――心臓付近で爆撃が起きた。衛宮士郎は本気でそう錯覚する。

 寸剄の一撃は今までとは種別が違い過ぎた。衝撃が全身に広がる様に放たれ、自分を穿った拳から伝播するかの如く、骨と筋肉を震わせて末端まで響き届く。もはや、耐える耐えられないの話では無く、即死するか致命傷を負って死ぬかと言う領域の威力。

 士人の寸剄は人間の性能を越え、人体を簡単に壊して命を殺す。それに加え、魔術による強化と魔力の放出により、破壊力は更に相乗される。

 ……士郎の肉体が士人の拳から遠く離れて行く。

 まるで糸が切れた操り人形のような姿。風に飛ばされて地面に崩れ落ちていくようだった。

 

「―――――ぐ……!」

 

 苦悶の声。漏れ出すのは衛宮士郎―――では無く、言峰士人からだった。 

 

「……投影(トレース)―――」

 

 金属を強引に穿つような痛みで左の拳が痺れた。言峰士人はまず、敵の固さが予想より高く、拳で殺せる想定を越えて仕舞っていた。この事実を戦闘の断片として瞬間的に処理し、機械的に判断する。

 ―――衛宮士郎の強化魔術は、自分を越えている。

 肉体の運動性能の上げ幅具合は正確に把握できていないが、肉体硬度と言う観点から見れば確実だった。まるで一つの鉄の塊のように肉体が硬い、堅過ぎる。

 

「―――開始(オン)……っ!」

 

 敵の一撃で呼吸は停止したが、心肺機能を強引に再開。強化魔術で大量の魔力を消費したものの、それの対策は既に完了している。強化による硬化と全身の耐久性上昇もあるが、衝撃時に彼は足を強引に使って後ろへと瞬時に跳んでいた。その二つの事が幸いし、士郎は死地から生き残った。

 よって呪文は見事に唱えられ、士郎は投影に成功する。

 崩れた体勢から攻撃態勢に移れた瞬間に、士郎は再度双剣を装備した。そのまま大きく後ろへ下がり、更に敵から距離を取る。

 

「―――鶴翼(しんぎ)欠落ヲ不ラズ(むけつにしてばんじゃく)

 

 士郎は後方に下がりながらも双剣を投擲する。干将莫耶へと魔力を最大限まで込め、美しい鶴翼が十字を描いて敵の首を挟む。

 ……だが、無駄なこと。

 そんな単純な手段が通じる事も無く、士人は新たに二本投影した悪罪を手に持って迎撃。キィン、と高い金属音を鳴らして軽く弾いた。

 ―――ここに、衛宮士郎が成す必殺の策が開始される。

 士郎は剣が弾き飛ばされたを確認。描いていた設計図に魔力を通して投影を行う。無手になった士郎へと士人は高速で間合いを零に縮めて行く。

 

「―――凍結(フリーズ)解除(アウト)

 

 両手には再び干将莫耶が具現。肉体に回路全開で魔力を叩き込み、最高状態にまで強化する。敵対する代行者に匹敵する速度で接近。

 互いに距離を詰め、中間地点で双剣同士衝突した……!

 彼は双剣を全力で振う。そして、士人の剣と斬り当たり、共に砕けて消えた。陰陽の夫婦剣と呪詛の黒剣が相打つ。

 瞬間―――再度、双剣が投影される。敵もまた同じ。

 士郎は敵が持つ双剣―――悪罪(ツイン)と自身の剣と一度斬り結ぶ。互いの剣の刀身が軋み、音が高鳴る。

 

「―――心技(ちから)泰山ニ至リ(やまをぬき)

 

 ―――その時、有り得ない角度から奇襲が来た。

 言峰士人の背後から迫る干将莫耶が、士郎が持つ夫婦剣に引き寄せられて敵の絶殺の隙を狙う。

 前方には双剣を持つ衛宮士郎。

 後方には背中に迫る干将莫耶。

 四方向から自分に斬り掛って来る死を前に、代行者の時間が停止する。

 

「……――――――」

 

 士人は疑問に思う間も無く、敵の策を看破した。陰陽剣の特性と投影魔術の有利性を理解すれば、彼にとって現状の把握は不可能ではない。

 これは既に、戦闘を行う前から予め想定されていた危機に過ぎない。

 

“挟み撃ちか。なるほど、論理的に厭らしい――――〟

 

 士人はアサシンからアーチャーとの対決を聞いていた。その時、アサシンからアーチャーの攻撃方法の一つである手段、多重展開された双剣による同時挟み攻撃を知っていた。そしてアーチャーと衛宮士郎は同一人物である事実を踏まえれば、自ずと干将莫耶の使い道も分かった。更に言えば双剣を解析した時に、戦闘を行いながらも内包された経験と概念を読み取り、攻撃手段と武器能力の詳細も把握。

 ……だが、その事を戦術に組み込んだ自分を、衛宮士郎が逆手に取る事も思考に入れる。

 衛宮士郎と言峰士人の戦闘は思考の潰し合い、先の読み合いが根本にある。どちらが武器を巧く利用し、相手の裏を取って一撃を加えられるかが分かれ目だ。

 士人は士郎が迂闊な必殺を出すとは考えていない。自分以外の敵であればそれでも十分であろうが、言峰士人が悪辣極まる事を知っていると分かっていた。故に、自分は更なる戦術を用意しておかねば、次の瞬間には死に絶えていると確信していた。

 

「―――罪を我が手に(My hands create the sin of the evil.)

 

 心の裡で、音もなく呪文を詠唱。

 士人は悪罪の呪詛に魔力を強引に叩き込み、極化した呪いによって刃が変貌する。時間にして刹那の変態は、まるで映像がぶれたと錯覚する程の素早さ。

 

「―――――――っ!」

 

 人外の足捌き。桁外れに強化された膂力。全身の筋肉と体中の神経を使い尽くし、身を全力全開で捻り回った。彼は悪魔の爪のように刀身が伸びた悪罪を半回転させ、士郎が持つ双剣と背後から迫る双剣を同時に破壊。右手の爪で前方を、左手の爪で後方を撃破した。

 ―――その姿は本物の悪魔の如く。

 必殺を体現する双刃陣営は呆気無く壊れ崩れる。彼は敵の姿が黒い泥人形に似た悪魔と重なって幻視した。だが、役目を終えた呪詛の双剣が現実に耐え切れずに消えた事で、その幻想も視界から消え去った。

 士郎は衝撃に逆らわず大きく敵から距離を取った。

 代行者との間合いは剣戟と範囲では無い。目測でおよそ十メートル程度。

 

「―――心技(つるぎ)黄河ヲ渡ル(みずをわかつ)

 

 その悪罪による攻撃方法を、士郎は自身の戦術に入れ込み先読みを計算し直す。今は互いに無手。

 士郎は干将莫耶を投影し、大きく円を描いて再度投擲して敵に挑む。そして、その双剣の後を追って自分自身も敵へ突進する。

 ―――走りながらも、彼はまた双剣を素早く投げた。

 士郎は両手に夫婦剣を投擲直後に再投影。今度は六重奏の三対の剣刃乱舞。三本の干将と三本の莫耶が代行者を囲い込む。

 一対の双剣は衛宮士郎の両手に。もう一対は言峰士人の首に迫り、最後の一対は大きく旋回して背後から襲い掛かる。

 

「―――心の中には何も無い(There is nothing in my heart.)

 

 心象風景を強く意識する。心の中で創造した聖剣を其処から抜き取る。投影した瞬間から、その剣に魔力を叩き込んで光を装填した。

 ―――光り輝く聖なる刃。

 言峰士人は剣を既に構えている。右腕が振り上げられ、剣戟が斬り放たれる寸前だ。

 

「―――唯名(せいめい)別天ニ納メ(りきゅうにとどき)

 

 剣の舞が士人を中心にし、夫婦剣たちが迫り来る。クルクル、と高速回転して飛来する二対の陰陽剣と士郎の干将莫耶が必殺を成す!

 彼は右手に美しい西洋剣を持ち、敵が作り上げたその死を感覚する。

 まず、眼前に迫る衛宮士郎。前方左右から首を両断しようと回る双剣と、後方左右から背中を狙う双剣の脅威。

 

「―――聖閃天意(デュランダル)……!」

 

 言峰士人は前に踏み込んだ。余りにも迅い一歩は初動を悟らせない。そして、前方左右から来る双剣を紙一重で避け、初手で士郎の双剣を聖剣で粉砕。

 ―――その勢いのまま、後方左右から来る双剣を薙ぎ払った。

 直後、神父は敵を強引に蹴り飛ばした。後ろへ放った回り蹴りが腹部へと入り込み、衝撃が一点集中した。敵の策を利用し、必殺を逆手に取る。

 使ったのはギルガメッシュの原典の一つ。名前を絶世の名剣―――デュランダル。

 そして、彼が持っているデュランダルは自分専用にした改造聖剣。天使の加護と大量の聖遺物に加え、秘蹟と聖文による神秘が多重に掛かった神の奇跡。故に、天使の贈り物は極限まで聖の概念が重複し尽くされ、決して折れない言峰士人の剣と成り果てた。だからこそ、真名解放によって悪夢に等しい暴力と化し、天の力は士郎の夫婦剣を幻を斬る如く両断して破壊した。

 ……怪物だ。此方の戦術が通用しない。

 士郎は士人よりも身体機能が高い敵を何度も見ている。しかし、それなりの手の内を見抜いて対策を立てる事は出来る。なのに、それがこの代行者には出来ない。この男は戦術運用が極限まで迅い故に、初動速度と状況判断が素早過ぎるのだ。繰り出してくる手段が高速に展開され、相手を瞬く間に圧倒する。思考と戦術と手段で敵を容易く凌駕し、策を以って相手を殺害するまで持ち運ぶ。

 ―――だが、衛宮士郎にとっては当然の死地。

 言峰士人が如何に極まっていようとも、それを凌駕するモノを作り出すまで……!

 

「―――両雄(われら)共ニ命ヲ別ツ(ともにてんをいだかず)……!」

 

 投影魔術によって干将莫耶が士郎の両手に具現。そして動き出すは、先程双剣を避けた士人の背後に墜落した一対の夫婦剣。

 その双剣が士郎が持つ双剣に引かれて飛来する……!

 彼は脅威を認識した。

 それ故に、士郎の魔術詠唱と同時に、呪文を唱える。完全に同一のタイミングによって、誤差が欠片も無く完全に一致するよう、敵の動きを読み取った。

 

投影(バース)完成(アウト)――――」

 

 自分の左後ろから迫る干将に対して莫耶を背後に投影し、右後ろから迫る莫耶に対して背後に干将を投影して撃ち出した。

 ―――陰陽双剣、干将莫耶の特性は二つ。

 まずはその刃に宿る退魔。

 この剣は魔を切り裂く化け物退治に特出した効果を持つ。衛宮士郎が持つそれら二つには巫術要素も加わり、対魔対物の能力もある。退魔の能力による効果は素晴しく高い。

 そしてもう一つが、互いの剣が引き合うのだ。

 夫婦剣としての性能によって干将が莫耶を、莫耶が干将を呼び寄せ合う。陰陽が見事に一つへと結び付く。

 ―――故に、神父が投影した双剣に背後の双剣が当たるのは当然のこと。

 互いに合致した陰と陽はぶつかり、そして粉砕された。士人の干将莫耶も、士郎の干将莫耶も、魔力の塵へと還って行った。もはや背後からの脅威は無い。

 

投影(トレース)開始(オン)――――」

 

 士郎は呪文を唱えながらも、そのまま両手の双剣を投擲。近づきつつも、思い切りの良い行動で敵を狙った。当然、士人はそれを見切り、投影を火薬として使われないよう魔力で強化した聖剣の刃で壊し、攻撃を防御した。

 ―――予定通り、必殺の策は見破られていた。

 そして、士郎の空いた両手に新たな武器が装備される。現れたそれらは複数だった。片手に三本づつ持ち、両手で合計六本の刃が出現した。

 

「―――投影(トリガー)装填(オフ)

 

 士郎は投影した武装―――黒鍵を持つ。そして、唱えた呪文で投影魔術を行使する。

 この魔術は単純な剣の投影では無い。それは、剣に秘められた担い手の経験を自分自身に投影する魔術。憑依経験による技術の投影だ。憑依したのはアヴェンジャーのサーヴァント―――コトミネジンドの経験。彼は自分の心臓を串刺しにした剣を読み取った末、この武器を選択する。

 ―――それを士郎は大きく両腕で振り広げ、投げ放った。

 攻撃は二段構え。左腕から三本を投げ、敵の動きを予測した上で右腕から黒鍵を投擲する。

 

「……それは――――」

 

 アヴェンジャーの、つまりは自分の黒鍵。最初の三本を避けるも、その回避先を縫う様に二射目が来ていた。

 勿論、彼はその策は分かっている。構えられた瞬時に悟っていた。

 次の三本の黒鍵は別々の箇所の狙っている。一つを避けたところで他の黒鍵が宙に在り、もう一つもパズル合わせの如き巧みさで飛来する。

 

「―――――!」

 

 二本は避けた。しかし、一本は避けきれない。否、回避は出来ようとも、敵を視界から外す程無理な体勢となる。

 故に、聖剣で黒鍵を斬る。直後―――轟音と共に響く衝撃に肉体が硬直した。

 ―――徹甲作用。

 そうであろう、と神父は確信していた。何せ、自分ならその手を選ぶ。あの攻撃は実に便利且つ、手数の多さでも有利に戦況を運べる。

 

「言、峰……士人――――!」

 

 体勢が大きく崩れ、背中から地面に吹き飛ぶ。聖剣デュランダルも右手から離れてしまった。真名解放までし、細部まで強靭に投影した武器を失ったのはかなり手痛い。

 

「―――衛宮、士郎………!」

 

 敵の背後には数多の聖剣魔剣名剣。そして、此方の背後にも武器の軍勢が浮遊する。

 ―――始まる一斉掃射。戦争が開始される。

 だが、二人とも結末は理解していた。投影の撃ち合いでは勝負はつかない。魔力を消費する潰し合いになるのが目に見えている。その上、生身の殺し合いになれば士郎に勝ち目はない。

 ……だが―――

 

「―――ほお、その不自然な魔力量。お前……我が師の純潔を貰い受けたのか。いやはや、これはこれは」

 

 ―――今の衛宮士郎はこと魔力の心配は不要。

 士人は疑問に思っていた魔力消費のカラクリを把握した。第六感で伝わって来る魔力の気配以上の消費量が、可笑しな不自然だったのだ。しかし、彼らはラインを繋げる方法によって、魔術行使に足りない魔力量が解決されている事が分かった。

 ……不利なのは自分らしい。

 固有結界の長時間維持には流石に令呪が必要となる。また、令呪も含めれば総合的な魔力量は同程度かもしれないが、此方は一人でサーヴァント二体の戦闘を支えている。これに備えて令呪の加護を与えて自分の負担を減らしておいたが、それでも辛いモノは辛い。

 投影の撃ち合いに勝機は薄い。純粋に弾丸の数量となる魔力量に問題がある。

 

「……ならば―――」

 

 敵の隙を狙うか、あるいは裏を突いて嵌め殺す。

 

「―――宣告(セット)破片軌道(リカウント)

 

 士郎の近場にある悪罪を操作。遠隔から回路へ繋げ、魂の欠片として自在に飛ばす。彼は自分に突如として牙を向いた敵の剣を避けるも、危機はまだ過ぎず。

 彼を襲うのは一つでは無い。士人が投影射出の時に紛れ込ませておいた数多の悪罪が、この場面で一気動いた。士郎はそれの対処の為に27と限られた数しかない魔術回路を使い、迎撃するしか生き延びる手段はない。

 

投影(バース)再始動(リセット)――――」

 

 魔力消費を犠牲に、武装を瞬間投影。眼前の敵よりも早く準備を終え、一斉展開射出。士郎にとって絶命の危機を越えた死の局面。

 ―――死ぬ。これは死ぬ。

 不意を完全に捉えた神父の悪辣な戦法。遠隔操作可能な武器を他の投影物に紛れ込ませ、それをいざと言う場面で死角から射出する。更に上空から迫る刃の雨。今の士郎にとって、この手の搦め手は未知のもの。

 

「―――投影(トレース)開始(オン)……っ!」

 

 咄嗟に武器軍を投影し、自分を守るよう楯として配置する。言わば囲いの檻だ。守りの裏側にいる士郎へと甲高い金属音が響き渡り、骨の髄まで騒音が揺らしている。合間を縫う様に飛来する悪罪は、投影した武器を射出して撃ち落とした。

 ……重層な盾の群れによって攻撃を防ぎ切った。

 この危機を凌いだ士郎であるが、それ以上の危機を実感していた。余りにも巨大な脅威で思考も肉体も凍りついて停止寸前になるのも仕方がない。それほどの驚愕だった。

 

「――――――――っ!」

 

 ダァン、と地面が踏み込められた轟音。衛宮士郎の眼前に居てはいけない敵の姿……!

 ―――言峰士人が拳を打つ寸前だった。

 全身全霊で肉体を極限まで強化魔術を施している。投影をせず、身軽のまま、武器を装備する間も捨て去り、ただ速さだけを求めた最大限の速攻。士郎が持つ最高の武器であった視界が封じられたのを一瞬で利用し、彼は間合いを失くしていた。気配なく、殺気なく、視界にも無く、彼はこの隠密接敵を完全に成功させた。

 神父が投影をしていれば、士郎は防衛に間に合っていただろう。神父が武器を使っていれば、不意は突かれなかっただろう。衛宮士郎であれば、同じ投影魔術を見抜くなど目を瞑っていても出来る。だが、視界の影を滑り縫い、言峰士人は完璧に死角を取った。

 

「………――――――――――――ァ」

 

 血を吐き出す。頭部を狙うと見せ掛け、軌道は心肺機能を停止させる為に胴体を穿った。

 ―――命中。剣と化した肉体が拉げる程の威力。

 士人はここで完璧に始末をつけると、全筋肉を高速稼働させた。

 

「――――…………!!」

 

 だが、衛宮士郎とてその程度の危機は予測範囲内。頭部に来るか、心臓に来るか、隙を見せて賭けの勝率を上げ、刹那の博打に勝った。しかし、予想を遥かに超える殺傷拳打の破壊力。

 ……左腕が完全に死んだ。

 直撃であれば確実に死していた。殺されていた。そして、その機能停止した左手を魔力で動かし、強引に神父の腕を掴んで拘束。その隙に右拳で敵の頭を砕かんと振り抜いた……!

 この距離では投影魔術を使う時間はなく、隙を作れば殺される。相手の脅威を理解した士郎の手は正しかった。

 ―――しかし、相手の左腕で捌かれ流された。至近距離で攻撃後の隙を狙われるのは拙過ぎる。

 

「――――……ぁ」

 

 敵の左腕から無拍子で掌打を放たれた。防御の隙間を通って顎を砕きに来たものの、頭部だけは守らねばならぬと士郎は身を曲げて避ける……が、足を内側から刈られて地面に落ちる。

 その時、士郎は左腕を逆に士人の右手で掴まれる。足場を固定出来ず、宙に浮いた体は敵の右腕に拘束され、泥に満ちた聖杯の方向へと大きく投げ飛ばされた。

 

「―――重投影(リバース)完成(アウト)

 

 仰向けに落ちた瞬間―――視界の上空には剣の群れ、殺意の軍勢。士郎は地獄を見た。

 

再装填(エグジスト)存在多重射出(ウェポンマルチフルファイア)――――」

 

 先程組み立てた工程をもう一度使用し、武器を展開発射。投影された鋭い剣が衛宮士郎の顔面に落ちてくる。

 ―――それを避けるも逆転の機会は既に過ぎて去っていた。

 もう士人は魔術行使をさせる合間も与える事も無く、この攻撃で行動不能にせんと武器の雨を降らす。

 

「…………………――――っ」

 

 蜂の巣になった人間の標本。血の沼に沈んだ哀れな死体。

 ―――瞬間的に幾つかは投影に成功した。

 だがそれは、自分の生命活動に必要な個所を守れただけに過ぎなかった。本来なら屍に成り果てていたが、言峰士人の先の手を読んだ士郎は零に近い迅さで死を防ぐ。

 ……だが、防げていただけ。

 両手両足、腹部、両肩に刃が突き刺さっている。心臓、首、頭へ来た物は対応出来たが、肉体は既に死に体となった。

 そして、地に落ちた肉体を動かし、立ち上がろうと足掻いた時にはもう、神父は既に衛宮士郎を地面へ踏み付けていた。視線が交差される。

 

「俺とお前では戦いの経験が違う。その差は余りにも大きい。

 ―――命を賭け、策に賭け、それでもまだ足りない。

 今の衛宮士郎では、この身に届くことは有り得ないと言う訳だ。その程度、此方も初めから賭けていたのだからな」

 

 士郎は魔術を使おうと回路を動かそうとするも、自分の魔術回路が反応しない。彼を串刺しにしている剣の一つに、魔術封じの能力を持つ概念武装があった。これによって体内の魔力が乱されている。

 その事が分かっているからこそ、士人は冥途の土産として語っている。

 

「―――イリヤスフィールを助けられず、残念だったな。せめて、己が始まりの地獄を知り、理解しろ。

 だが………」

 

 隣に在る聖杯から泥が湧き出て来た。その黒泥が掲げられた神父の手の平に集まり、時間を掛けてゆっくりと塊を作っていく。

 ―――それは、凝縮された呪詛の権化。

 憎悪、怨念、狂気、復讐、侮辱、嫉妬、強欲、色欲、疎外、排除、ありとあらゆる人の悪。負の結晶は黒く輝き、奈落に堕ちる闇を成す。

 

「言峰―――――っ」

 

 信じられない。あの男が手に持つ何かは、既に人間に御せる代物では無い。触れただけで精神が汚泥に消え、魂が発狂して死に果てる。

 ……衛宮士郎は、その事実を簡単に納得した。

 彼はこの神父の本質を見抜いていた。だからこそ、全力で挑み、それでも届かなくとも、敗北したとしても最期の一瞬まで戦い抜くと決めていた。自分はこの男に勝たなくてはならない。

 

「……あるいは、お前であれば―――いや、正義の味方を理想とするなら呑み乾し、耐え切ってみせろ」

 

 これさえも、神父にとって面白味の有る娯楽なのかもしれない。

 正義の味方がこの世全ての悪に、全ての悪を願う結晶に―――勝つか負けるか、生きるか死ぬか。

 

「―――この世全ての悪(アンリ・マユ)―――」

 

 そうして、衛宮士郎は闇の中に沈む。奈落の底に堕ちていく過程、彼が見たのは自分を愉しそうに観察して笑う神父の姿。

 ―――泥は固まり、地獄を成した。

 衛宮士郎は消えて逝った。魂がこの世では無い何処に捕らえられ、神父は顔面に亀裂が入ったように笑った。




 そんなこんなでアンリマユ。やっぱり神父とセットな悪神です。アンリマユの呪いは聖職者キャラが似合う。

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