神父と聖杯戦争   作:サイトー

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 外伝で、オリキャラの過去話。内容はオリキャラだらけですので、キャラはそこまで濃くないようにしました。
 本編は次回から続けて行く予定です。
 そして、個人的にやりたいゲームベスト3に入るDOD3発売が後数日となって楽しみ過ぎてテンションが可笑しくなりそうです。来年にはダークソウル2も発売になりますし、色々とゲームが楽しみです。


外伝9.鏖の聖騎士

 十字架が神聖な器物になったのは、西暦が始まってからだろう。聖人が殺された処刑器具として使用されたからこそ、宗教の象徴となっている。

 ―――何処までも美しいシンボル。

 ―――十字に象られた神聖な偶像。

 磔にされた聖人の表情は、どの教会でも変わらない。両目を瞑り、死を体現したいる。

 

「―――全滅か……」

 

 故に、静寂に満ち溢れた教会で聖職者が祈りを捧げている光景は、見る者の胸に迫る貴さがあった。

 

「……いや、(オレ)が皆殺しにしたのか」

 

 彼は嘗ての仲間を全て殺し尽くした。アイズベリで勃発した戦争は大仕事になると分かっていたが、自分が所属“していた”騎士団が壊滅よりも惨たらしい最期を迎えた。

 まず、感染が始める。

 そして、汚れた血は循環する。

 それ故に、騎士団の者は彼を除いて死徒もどきに果てていた。

 とある死徒が即席で強力な屍の製造する為、騎士団に目を付けた。この死徒が開発した血の伝染は素早く凶悪で、瞬く間に騎士団は身内同士の嬲り合いで動く屍の群れと化した。

 ―――寡黙で口下手な自分を食事に誘ってくれた同僚の首を撥ねた。

 ―――まだ若くて将来があり、美しい女性騎士を真っ二つに裂いた。

 ―――子供を良く自慢して、親馬鹿過ぎる彼の肢体を斬り飛ばした。

 ―――孤児院の経営もしていた仲の良かった同期の頭を斬り潰した。

 ―――吸血鬼を憎悪していたが、お人好しでもあった彼を惨殺した。

 ―――殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、斬った。

 だか、そんな事は些細な事。

 戦場で人が死ぬのは当然だ。

 故に、敵が命を散らして死に果てるのも自然の摂理。

 だがしかし、此方側だけ死ぬのは、どうも殺意ど憎悪が湧き過ぎる。目の前に存在する怪物共を斬り殺し尽くさないと気が済まない。

 デメトリオ・メランドリは初めて戦場で、斬る為に敵を殺すのではなく―――殺す為に敵を斬った。

 

「久方ぶりだな、メランドリ。アルズベリ以来からの再会だ」

 

 静けさが、同じ聖職者によって打ち破られる。

 

「懺悔とはまた、とても“らしい”姿ではないか。同じ騎士団の仲間を殺し尽くした事を、余程後悔しているようだ。

 戦場で仇の怪物をその手で斬り殺せても、こびり付いた罪悪は消去されなかったのだな」

 

 この神父―――言峰士人は他者の心を無遠慮に暴く。人に備わっているべき情が無いかの如く、精神を丸裸に解剖する。

 

「……用は?」

 

 言葉少ないが、殺意だけは十分に含まれていた。神聖さに満ちていた教会が、一瞬で地獄のような修羅場と化している。身動き一つ取っただけで死にそうな危機感と圧迫感が恐ろしい。だが、それを一身に受ける士人の表情に変化は無い。

 

「俺の地元でな、特別な催しがある。

 とある魔術師の三家系が開催する魔術儀式で、優勝者の生き残りを賭ける殺し合いなのだが―――お前、聖杯に興味はあるか?」

 

「――――――」

 

「成る程。良い具合に願望が熟されている。聞くまでも無いか」

 

 ―――斬る。斬る、斬る斬る斬る。

 斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る切る斬る斬るKILL切るキルKILL切る斬る斬る斬る斬る―――

 

「……斬る――――――」

 

 聖剣を、抜いた。血塗れた人の手で作られ、人の手で人を斬り続けた剣は、今もまた人を斬ろうとしていた。断罪の刃は、己が所業が悪で在ると理解しながら良しとする非人間を斬る為、剣気を滾らせている。

 

「別に構わん。殺したいのであれば、この身を斬れば良い。

だが、その殺意を越える程の願望が有ると言うのならば―――俺の言葉に耳を傾けろ」

 

 騎士は止まる。私怨と嫌悪が混ざった特別な殺意は、いつも抱く単純な斬殺衝動はかけ離れていて、抑えるのは堪らなく理性を歪ませる。しかし、それでも尚、デメトリオ・メランドリは神父を斬る事は無かった。

 

「……聖杯―――か?」

 

「ああ、その認識で間違いは無い。人の願いを叶えるだけの、本物と同等の神に並ぶ贋作ではあるが」

 

「偽物か。だろうな、魔術師らしい」

 

 しかし、何もかもが叶うとなれば、真贋に価値は無い。デメトリオは複雑に思考を絡ませながらも、至る解答はとても簡易的な代物であった。

 

「だが―――欲しい。出来れば、それを斬りたい」

 

 彼の全知全能はソレだ。剣を振ると言う現象と、物を斬ると言う概念で出来上がっている。多彩な分野で発揮したであろう才能と、万能極まる心身の素質と、何事も事無く仕上げる完全な素質が、既に「剣で斬る」と言うソレで完成されている。

 人並の情緒も、当たり前な常識も、社会に溶け込める価値観も、当然の如く兼ね揃えている。彼は狂っていない。

 この髄まで染み込んだ習性は、一から作り上げた執念である。

 魔術師が魔術師足らんと足掻いて根源を目指すよう、彼は騎士足らんと理性的に生活した。理性的に剣の鍛錬を行い、理性的に剣以外の訓練も行い、その果てで剣戟の極致に至り―――まだまだ全く以って全然足りない。彼の感性はもう、剣に染まった。自分から剣に堕ちた。

 ならば―――答えなど最初から決まっているのだ。

 斬りたいから斬り、切れるから切る。

 ああ、故に騎士は生粋の人を斬る為の武器であった。

 

「斬り合いがお前の望みか?

 ならば、自分ごと切り裂いてしまいたくなる程、お前好みの敵が渦巻くぞ。召喚される英霊は強く、参加者は気が狂ったとしか思えない領域の異能集団だ。

 ―――其処らの死徒など、話にさえならない。

 もはや組織は形を保つだけ。騎士団も既に壊滅状態。一人生き残った所で、仕事など異端狩りと新人育成程度。溜まりに溜まった憂さを晴らすには、あそこは程良いこの世の地獄だ」

 

「今の生活も悪くは無い。鍛錬と、教導と、殲滅は好きだ。最近は、人を育てる楽しみも理解出来る」

 

 彼には彼の、今のデメトリオ・メランドリに相応しい日常がある。少なくなった騎士団を再編する為、ベテランの聖騎士がすべき行いは数多い。魔術師や死徒を殲滅する異端狩りの頻度は多くなり、人数を揃える為の訓練の指導官も兼任しなけらばならない。今は代行者も騎士も悪魔祓いも、弱体化した聖堂教会では役割は決まり切っていた。

 

「ああ、それは同感だ。良い弟子を持つと、これからの未来が実に楽しみになる」

 

 理解はしよう。士人とて、他人にモノを教えるのは嫌いでは無い。本来ならば、この男が好みそうな面倒事であった。

 

「それでは物足りない。(オレ)(オレ)で在らねば、志したモノが消えてしまう」

 

「……ふむ。それで?」

 

 もう殺意は消えていた。剣気だけは充満していた。

 

「―――是非も無い。

 挑まれた斬り合いを拒む程、諦観には至っていない」

 

 聖杯の聖痕たる令呪とは、果たして何の意味があるのか。

 とある魔術使いは自身では届かぬと認めた理想の為、とある神父は生まれ持った在り方の為、とある魔術師は一族の悲願たる根源の為、とある貴族は自身の人生に相応しい名誉の為、とある学徒は周りの皆からの称賛の為、とある殺人鬼は自身の感性に適合する快楽の為、とある逃亡者は恋した女から得る愛の感謝の為―――令呪と言う聖杯に選ばれた資格を贈与された。

 願望とは尊くなければならぬのか―――否。

 渇望たり得る願い、貫かねばならぬ望みこそ―――祝福された人の業。

 斬りたい、ただそれだけ故に純粋だ。余りにも明確で、何処までも単純な行為が、もし人生の全てであったとしたならば……もう願望とさえ言えぬ執着である。

 

「―――これか?」

 

「それだ。その三画の聖痕が、選ばれた資格である」

 

「断る理由も無くなったな」

 

「良い事だ。教会も正式にお前の参加を認めるだろう」

 

「では、話を変え―――お前も参加するのか?」

 

 当然と言えば、当然の帰結。そして、当たり前と言えば当たり前な敵対意志であった。

 

「……ク。気が早いな。既に俺を斬り殺したいのか?」

 

 首に刃物を押し当てられ、皮を一枚裂かれていると錯覚する剣気。生きる気力を根こそぎ奪い取られる殺気。

 気が遠くなるとは、正にこれ。

 騎士は神父に意思を叩きつけるだけで戦場を生み出した。腹の底から血を吐きだし、直ぐにでも楽に成りたい重圧が空間を塗り潰す。

 

「―――無論。

 斬らぬ理由が無い。殺さぬ利益も無い」

 

 敵は斬り殺す肉の塊。何処を如何に沿えば絶命させられるか、彼は人の斬り方を熟知している。脳裏に描く切断軌道が視界へ投射され、神父もまた脳裏では騎士と見えぬ斬撃の応酬を繰り返した。

 

「別段、殺し合いは構わない。ただ……あれだ、サーヴァント無しよりかは、召喚した後の方が心が躍ると思うぞ。

 それに神聖な礼拝堂を血に染めたいのならば、好きにすれば良い。

 血生臭さを隠さず、信仰で以って死を下す。その行き過ぎた断罪こそ、聖堂騎士に相応しいのだろうよ」

 

 彼らにとって会話も、今のような殺意の応酬も変わらない。言葉の裏に隠された殺気は相手を仕留めんと唸っていても、喋る言葉に影響は皆無なのだ。

 

「…………去れ。祈りの邪魔だ」

 

 ならば、その結論は騎士にとって不本意だった。まさか、自分が剣を納める事に納得するとは、自分自身に対して驚いていた。

 葛藤は無い。だが、自分が取れる選択肢が気に食わない。目の前の神父は悪辣な嗜好で他人へ、判断を迷わせ後悔を促せる代物を提示する。今の自分の思考と行動も、この結果も、結局はこの男が想定する策の内であった。

 

「ああ、邪魔をした。此方の提案を了承して貰い、神に仕える者の一員として感謝する。戦場での再会を期待しているぞ」

 

「―――……」

 

 デメトリオは無言で背を向けた。もう剣は鞘に仕舞い込み、相手を一欠片も気にしていなかった。

 言葉を無視された士人も令呪を確認出来ただけで満足であり、寒気を越えた重圧を持つ微笑を浮かべた。彼は迷うことなく礼拝堂の出口へ向かう。

 かつん、かつん、と足音を静かな空間で響かせ、そのまま出て行った。

 そして騎士はまだ、斬り殺したい程気に入らぬ神父が消えても尚、両目を瞑っている。

 

「…………――――――」

 

 デメトリオは神父の足音が聞こえなくなっても、祈りの姿勢を崩していなかった。

 ―――彼は代行者と初めて対面した時を回想する。

 

「魔術師、ですか?

 そうですね……無価値ではあると思いますけど、無意味だとは思いません。

 彼らは無駄なことに命を掛けていますが、それは我々も同類ですからね。よって、無駄な徒労を生き甲斐にする不適合者と言えます。

 無駄な人生。

 無価値な命。

 未来が無い哀れな外法者。

 しかし、その無意味さは見ている者の胸に迫る惨酷さがあります。魔術師はそう言う生き物であり、最後の最期で次世代へ呪いを残して死んでいきます」

 

 騎士は久方ぶりに代行者と共闘した際、仲間になったのが東洋出身者の代行者だった。自分と同じく、魔術の心得がある教会の異端者であったが、敵を殺すだけの神の道具で在らんするならば如何でも良い些末事だった。

 そう、それは……本当に些末事だった。

 ただデメトリオは純粋に、この少年の心意を知りたいと思い、思い付いた質問をしただけだった。

 

「何故なら魔術師としての彼らには絶望も希望も価値がないのです。何も得られず、何もかもを失っても、魔術師には関係がない訳ですから。求め続けるからこその魔術師です。

 そこはほら、我々神に仕える聖職者と大差ない。こんな、魔術なんて異端があることを知れば、神意の虚しさ何て至極当然なのですから」

 

 質問の答えはあっさりしていた。長々と何分も語っていたが、結論は実に分かり易かった。

 ―――つまり、この代行者からすれば、どちらも娯楽用品。

 代行者も魔術師も、結局は無価値を成すだけの良い観察対象。

 

「君は異端を肯定するか」

 

「成る程。貴方は無能ではありませんが、何処までも無垢であるみたいですね。知識を知識として使えるけど、感情的な理論として扱えない」

 

 敵の魔術師を殺した後の他愛無い会話だった。なのに、何故か、こんなにも殺意が湧く。子供相手に対処不可能な衝動が蠢く。

 ―――斬りたい。

 ―――裂きたい。

 ―――殺したい。

 初めて、騎士は自分で自分の敵を見付けた。

 今までは死徒だから、魔術師だから、悪魔だから、と決めつけて斬り殺してきた。しかし、この相手だけは、自分の感情で決めて敵ゆえに―――直ぐ様、殺したい。けれども、眼前の代行者はそんな自分の殺意を理解した上で悟らせて物事を語る。

 

「その単純さは……ふむ、教会の純粋培養による育成でしょうかね」

 

「―――癇に障る」

 

「当然です。何せほら、言うなれば、触れられたくない真実を抉ってますので。

 まぁもっとも、無自覚であれ、自覚があれ、神に対する狂信であれば私もここまでは言いません。けれども、貴方のそれは自覚ある人格の歪みですので、遠慮するのも馬鹿らしいでしょう?

 盲目な相手を暴くのであれば手順を踏んで楽しむのですけど、貴方の様に悟っている相手ならば加減は不要ですのでね」

 

 騎士は膨張し過ぎて視覚に移りそうな殺意を剣気に混ぜ、無造作に刃を振った。並の死徒では首が撥ねてしまう剣戟であったが、士人は瞬時に投影した刃で防ぐ。彼が魔術で作り上げた刃は代行者が持つには禍々しい呪詛の塊で、それが聖剣もどきから主を護る姿が実に皮肉が効いていた。

 

「危ないではないですか。殺すと言うのであれば、私も貴方を殺害しようと思うのですけど」

 

 士人の眼光が暗く深まる。首の皮に死神の鎌が這う嫌な圧迫感をデメトリオに与えたが、彼は気にせずに刃を納めた。

 戦いを見ていたので先程の一閃で切れるとは考えてはいない。謝罪する気は欠片も湧かないが、この一撃で侮辱を受け流す事にしたのだ。騎士は暗い感情を露わにしながら、不快な丁寧口調をどうにか止めさせたかった。

 

「胡散臭い。丁寧な話し方が尚更気味が悪いぞ」

 

「ほほう。ならば、俺も仮面を被るのは辞めよう。目上の同僚故、気心を使ったのが余計であったか」

 

 殺され掛っても、神父のふてぶてしさに変わり無し。むしろ、口調が変わったことで憎たらしさは増大した始末。

 

「其方の口調も気味が悪い。

 それにな、自覚無自覚など、騎士足る自分には無意味な自問自答だ。貴様の言葉は真実である故に、所詮は精神的傷跡を抉り出すだけの戯言でしかない。

 ―――そう在れ、と決めたからには貫くだけだ」

 

「自分自身の内で自己完結している訳か……成る程。見る分には面白いが、詰問をする相手としてだとつまらない。実につまらない。揺るがない相手は自己矛盾によって破滅を戒告出来るが、終わっている者が相手だと解剖のし甲斐無い。

 故に―――終わりの先へ思いを馳せろ。

 そう在れと誓った過去を大事にしたいのであらば、末路もまた完結した矛盾の内側にある」

 

「……なに?」

 

「何だ、分からないか? つまりな、目を叛けている自分の行いを直視しろと言うことだ。己で施した装飾を捨て去って顧みろ。

 騎士など所詮は人斬り、人殺し。

 代行者など殺し屋と大差ない殺人者。

 その悪行に何かしらの価値を見出す為の行いをした結果、果たして今まで犠牲にしてきたモノにはどのような意味があると言うのだ?」

 

「それ、は―――」

 

 デメトリオは斬った。剣で斬り殺した。数多の命を切り裂いて殺してきたの一体果たして―――何の為に?

 

「剣で斬り殺して生まれた屍が自分の末路だと、お前は既に知っている筈だ。そんな事は俺でさえ分かっている。

 報われず、救われず。果てに辿り着いても、得るモノは無い。

 だが、それがお前の幸福だ。斬撃を味わう為に敵を斬る。その結果、命を奪い殺しているだけ。剣で在り続けることがお前にとって、最も価値ある存在理由と言う訳だ」

 

「否定はしない。しないが、何故―――」

 

 ―――そこまで見抜けるのか。

 言葉にせずとも、騎士は代行者の異常性をはっきりと理解出来た。

 

「愚かにも程がある。敵をあんなにも愉しそうに斬っていれば、その程度のことなら簡単に分かるに決まっているだろうが。殺す事では無く、斬る事を喜んでいるのも実に分かり易い異常性であったぞ」

 

 にたり、と心臓を掴み潰す寒気を宿す笑みであった。この神父はおぞましいのだ。吐き気が腹の内から神経を圧迫する。

 年齢など関係無く、例え相手が百戦錬磨の老獪な策士であろうと、あっさりと至極簡単に内側を見通す。

 デメトリオ・メランドリは初めて、自分が敬虔な神に仕える信徒とは程遠い“何か”であると見抜かれた。行き過ぎた修練と、異端の神秘も取り込む信仰心は一重に、聖堂教会の騎士として優れていたからではない。純粋に、ただただ他に染まらぬ無色透明な斬殺魔であるからこそ、騎士として生まれながらに完成していただけなのだ。生まれた時から完成しているが故に、今の愛剣と出会った瞬間に終わってしまったのだ。

 

「なら、貴様は如何なのだ?」

 

「さてな。特に理由は無い。今は純粋に力が欲しいだけだな」

 

「異端を滅する為の?」

 

「違うぞ。自分が欲するモノを得る為だ。お前もそれは同じ筈だ」

 

「―――そうか、そう言う事か。

 騎士であることに疑問なく生きてきたが……成る程」

 

 デメトリオは止まる事を知らなかった。する必要も無かった。過去を顧みる事を余分と感じ、次に至る為に剣として生き抜いてきた。だが、それでは人間味を持っているだけの斬殺装置に過ぎないのだろう。

 悟る。

 知る。

 想う。

 答えは既に知っていた。この生き方、在り方。貫き通した自分の生き様こそ、もしかしたら欲しかった己の形なのかもしれない。故に完成した終わり果てた今のカタチを、デメトリオはデメトリオとして仕上げなくてはならない。

 死ぬ時まで、生きる。

 諦観を知らず、真実しか分からず、“剣”で在るコトを忘れずに。

 

「長らく忘れていた。子供の頃は騎士に憧れたものだ」

 

 彼の本質は救いようの無い人切り包丁。幼い頃から疑問もなければ、苦痛はあったが苦悩は無く、剣を振って生きてきた。

 しかし、騎士に憧憬を抱いていたのは事実。

 ただ人を斬りたいだけの狂人であれば、そもそも聖堂教会になど所属せずに狂っていれば良い。騎士を年を経た今も続けていたのは、少年時代の夢から醒めても諦観しなかったから。

 

「……ほう?」

 

 どうも相手の反応が可笑しい。士人は不可思議な得体の知れぬ者にあったような、言い様の無い違和感を感じていた。

 確かに、相手の心の揺れを見抜いていた筈。しかし、この反応は何処か違う。忘れていたものを思い出し、過去を大事に仕舞い込む老人のようである。

 

「む?」

 

 完全に殺気が無くなった模様。だが逆に、剣気に凄味が増している。此方を見る騎士の表情は任務中と同じく、無愛想な張り詰めた無表情に戻っていた。

 

「あー、いや。そうか、いや別に。まぁ、そう言うオチか」

 

 期待が外れた少年神父の表情。士人は面白可笑しい精神的外傷(トラウマ)を知れると考えていたが、どうも思惑が思いっ切り外れてしまったらしい。一筋縄ではいかないと言えばそうだが、実に残念であった。これ程の強靭な騎士の斬り合いに対する執着を愉しめると思ったのに、引き出せたのは過去にある原始の誓いだけであったようだ。

 最も、元々開き直って人斬りを極めていた男。

 狂った歪みを持っていようとも、既に容認して人生を進んでいる。士人にとってメランドリの生き様は嫌いではないが、どうも予測し難い方向に歪んでいるみたいだ。

 

「しかし、憧れた先生と今では同じ年。老けるのも無理はないか」

 

「年を取ると過去を想い懐かしむ。家の居候と似ているな」

 

 士人は昔は良かったと呟く青年だったり、時には少年にもなる教会に住む英雄を思い浮かべる。似ても似つかないが、思わずそう呟いてしまった。

 失敗に終わった解剖ではあるが、それはそれで良しとしよう。愉しめる相手は、しっかりと見分け、内側を見抜けるようにならなければならない。

 

「君には家族が?」

 

「ああ、養父がいる。後、居候と姉代わりが一人」

 

「そうか。大事にしてやれ。(オレ)にも妻子がいる」

 

「へぇ、そうか―――え、そうなのかっ? あー……まぁ良いか」

 

 デメトリオは残念そうに首を疲れたように振るう少年代行者を見つつも、最近忘れていた事を思い出せた。そう思えば、この少年とは良い邂逅であったと結論する。意見は相反するのだが、嫌いでは無いらしい自分に従がった。

 そして―――時間が逆流していった。

 正確に言えば、こうして見ている光景は全て過去の出来事。

 幾重にも場面は交り、移り変わり、順序の程を成していない混沌の世界。

 そうして、また映像は段々と変化していった。見物人は書物のページを飛ばして読むような気分で、この劇場に再度入り込んで行った。

 ―――場所は何処かの国の地方都市の暗黒街。

 裏路地には光は入り込まない。表通りは人通りが多いが、一度裏側に入り込めば月明かりさえ心もとない。いや、既にビルの影に隠れて夜空を照らす星々の光源も届きそうになかった。時折、路地裏の入り口から差し込む街の光や、車のヘッドライト程度しか彼の眼前を照らしていない。

 そして、鼻を惑わず異臭と耳障りな雑音。

 完全な無音ではなく、何処かしこに人の気配で満ちており、煙草や薬物の刺激臭が漂ってくる。暗闇の中は公衆を嫌う者で蠢いており、誰も彼もが黒い影を好んでいた。倒れ込む浮浪者も、ドラッグの売人も、マフィアに属する暴力主義者も、獲物を狙っている強盗も全員が全員、目が腐った魚のように死んでいる。感情が無いのではなく、精神がグズグズに腐り溶けている。どいつもこいつも、この場を好む者は全て、青空が余りに似合わない連中で満ちていた。

 

「―――何名で?」

 

 黒い外套の男と、真っ赤なシャツの男。彼は威圧的な赤色が目立つ青年から、睨み付けられながら質問をされた。赤い男は赤色以外に特徴は余りなく、深過ぎる色合いの黒色のズボンも変な部分は無く、普通な黒髪も髪型が普通としか形容できない。この場所に似合わないほど普通なのだが、誰よりも黒い暗闇に馴染んでいた。

 

「一人だ」

 

「分かった。……では、良い夜を」

 

 とある地方都市のクラブ。血の様な赤シャツが特徴的な黒髪の青年が、受付けと門番を兼ねている煌びやかな夜の店。客を誘惑する玄関の外からでも、濃厚な酒と金と性の匂いが漂って来た。

 其処に、夜の街には相応しくない人物が一人。

 服装は黒いシャツに黒いズボン。細長い荷物を背負っている。ざっくばらんと微妙に伸びた髪はファッションを欠片も気にしていない事がわかり、無精髭も剃っていない。しかし、仕立ての良い黒色のコートを上から一枚羽織っているため、其処まで雰囲気が浮いている訳でもなかった。

 

「……ああ」

 

 全身を黒で覆う男は、そのまま階段を下りて地下に潜って行く。まるで上がる事の出来ぬ根の国の一本道の如く空気が粘り付いているも、歩調に乱れは出ていない。彼は無表情で降りた先にある扉を躊躇う事無く開き、店内に入って行った。

 

「―――……」

 

 地獄とは、ヒトの魂の行く着く先の一つ。ならば―――此処もまたある種の地獄と言えるのであろう。

 人、人人、人人人人。ヒト、ヒト、ヒト。

 満ち溢れる人型の群れ。

 目障りな程、重なり合って一体化したヒトの塊。

 繋がり、交わる人々。男と女が、女と女が、男と男が、女と男と男が、男と女と女が、人数も組み合わせもバラバラだが、確かに此処は業の澱が粘り合わさった獄の極。色欲の極みである。体液の臭いが充満し、汗と唾液と愛液が床に垂れ落ちている。男特有の匂いが鼻に付き、女が出す甘い体臭で眩暈がしそう。

 

「ようこそ、いらっしゃいました。クラブ・サバトをお楽しみ下さいませ」

 

 異様な色合いのライトで照らされ、余りにも本能を刺激する独特な薫りが精神を可笑しくさせる。光の加減で視覚から催眠作用を施し、特殊なハーブの薫りで欲求を向上させているのが、男には簡単に理解出来た。そして、この場にいる者全員が、それが分かった上で醜態をさらしているのも、あっさりと彼には分かった。なにせ、本能のまま貪っているのだと悟らせるのだが、彼らはとても理性的に欲望を発露させている。

 

「感謝する。しかし、要件があって此処に来た」

 

 コートの男は、恐らくは店員だと思われるセミロングの赤髪が目立つ女性に聞き返した。グラスを乗せる丸いトレーを持っているのは良いが、格好からして彼女の服装は変だった。ピンク色の水着のような卑猥な服とも言えぬコスチュームに、下着みたいなそれはティーバックにしか見えなかった。加えて、太ももまであるレザーのブーツに、二の腕まで伸びる黒革の手袋。序でに赤色で髪の毛と同じであり、まさかのバニーガール的仮装まで使って自分を飾っている。

 ―――一言で表せば、エロい。

 巨乳のボンキュッボンなのが更に良い。実にエロい。最上級のスタイル。

 彼は鍛え上げた加速させた体感時間の圧縮作用を行使し、サラリと視線を動かしながらじっくりと観察した。

 

(オレ)はデメトリオ・メランドリ。ここの主、スヴァルトホルムに用がある」

 

「……そうでしたか。

 恐らく、時間は大丈夫だと思います。彼女も暇を持て余していましたし」

 

「有り難い」

 

「いえ、別に大丈夫です。気にせずに、少しだけ待っていて下さい」

 

 と、彼女はそのまま店の奥に入って行った。黒い外套の男、デメトリオ・メランドリは少しだけ要らぬ時間出来てしまった。騎士であるが、こういった所に嫌悪を抱かぬ彼は、無表情のまま周りの観察を始めた。

 ―――まず、目に入るのは乱交を続ける幾つかのグループ。

 彼も経験が無い訳ではないが、この光景に比べれば健全なものしか試したことは無い。人並み程度に興味はあって知識はあるものの、自分が率先して混ざりたいとは思わなかった。しかし、ああ言った両方からヤっていると言うのは……いやいや、どうなのだろうか、と彼も彼なりに考察していた。度し難いが、凄まじい。

 次に視界へ映るのは、普通に酒を飲んでいる者達か。

 彼らと彼女らは、楽し気に痴態で喜び狂う性の獣の様を肴にして会話を交わしている。内容は血生臭いが、嬉々とした表情を浮かべる姿は娯楽について語り合う趣味人そのもの。雰囲気としては釣った魚を自慢し合う休日のオヤジや、貰ったブランド物のプレゼントを比べ合う年増と大差が無い。

 ……と、彼が考えていると時間が大分過ぎていたようだ。目の前には、扇情的な格好をした同じ美女が、再び彼の前に立っていた。気配で此方に向かっていたは分かっていたので、別段失礼の無い態度で再度対面する。

 

「ミスター・メランドリ。マリーは今お暇なようですので、案内出来ます。付いて来て下さい」

 

「……ああ」

 

 改めて見ると、後ろ姿からでも赤髪が目立つ肉感的な凄まじいレベルの美女だと簡単に理解できた。男は彼女の後に連れられるが、必然的に絶妙なお尻が視界に入った。やはり、胸も良いが尻も素晴しい。今は仕事中だと分かってはいても、生来から好きなモノは好きなので無視は出来ずにいた。昔の自分は俗物的な欲得に関心は欠片も無かったが、今はそう言った事柄にも興味を分ける様になった。

 まぁ、そんな自分自身に対して嫌な成長もあったな、と内心で苦笑した。表情には出さず無表情のままであるが、彼も彼で男であった。

 

「この先にマリーがおります。では、どうぞ」

 

 そう言って、彼女はそのまま扉を開けて中へ入って行った。無論、彼も続いて室内に入る。ドアを開けた瞬間、煙草と酒の臭いに襲われたが、眉一つ動かさずに無表情のままであった。

 

「―――あら、ルートさん。

 貴方が部外者のお客さんをここまで案内するなんて、とても珍しいですわね」

 

「いえいえ。私もあのヴェガが通しました客ですので、此方までお通しました」

 

「……へぇ、あのサカリアスさんが通したの?

 それでしたら、そこそこ期待できそうな内容なのでしょうかしらね」

 

 簡単に言ってしまえば、彼女は黒かった。腰まで届く長い髪の毛も黒く、黒いシャツと黒いミニスカートに黒いストッキング。普段着であるのだろう、マリーと呼ばれた女性に衣服に魔力の気配は皆無。仕事終わりのOLに見えるが、凄味出る邪悪な気配で女が人外の者であると騎士には直ぐに分かった。また、腰には一本の短杖が備えられており、近くには彼女の物を想われる鞘に入れられた細剣が立てられている。

 

「……ふむふむ。これはこれは、もしや教会の代行者であるか?」

 

「否。聖堂騎士だ」

 

「成る程な。此処も潮時になるのだろうな。イフリータ、お前は如何思う?」

 

 部屋は実に簡素な作りになっていた。小さい個室であり、換気扇が付いているだけの地下の一角。四角い形のテーブルには麻雀で遊べるよう改造されており、必然的に椅子には四人の人物が座っていた。マリーは一番奥の席に座っており、他に三人の人物がテーブルで向かい合っている。デメトリオに話しかけてきたのは、その内の一人。

 名はジャック・ストラザーン。

 デメトリオは要注意人物として写真で見覚えがあり、名も知っている死徒の一人。魔術師上がりの吸血鬼であり、あちらこちらで魔術の大規模実験を行っている封印指定の怪物である。茶色のスーツを着込んでおり、懐の膨らみ具合から拳銃を二挺所持しているのがデメトリオは目利きで分かった。封印指定に選ばれる程の魔術師でありながら、銃火器を愛用しているのは実に珍しい。

 

「ストラザーン。だから、前々から妾も危ないと言っておったであろうが」

 

 呆れ顔を浮かべるのは、炎のような長い赤髪に黄金の瞳が特徴的な、ストラザーンにイフリータと呼ばれた少女。きめ細やかな褐色の肌は男の欲を駆り立たせ、まるで中東地域の踊り子のような衣装が実に似合っていた。ルートと呼ばれた案内人のバニーガールと同じ髪色であるが、先程の血の様な赤とは反して、彼女のは触れば焼けそうなまで炎と言う印象が強烈だ。

 だが、それを上回るインパクトを持つのが全身の刺青だ。

 年齢が十代程度に見える少女とは思えぬ禍々しいデザインのタトゥーであり、実際に邪悪に澱んだ魔力を宿していた。デメトリオが見える範囲、顔から指の先まで呪詛が体の至る所に刻まれている。

 

「ドゥからの情報通り、あちらからの使者が遂に来た訳か」

 

「知っていたと言う事なのでしょうか、イノセントさん?」

 

 マリーの視線は相変わらず胡乱気で口調も胡散臭いが、それなりの鬼気が混ざっている。

 

「無論だとも。付き合いの長いあの情報屋は信用に足る詐欺師だ。それに、奴は魔術協会と聖堂教会の両方にパイプを持つ」

 

「ホワイトヘッド。お前は何故、そう言う情報を皆へ流さんのだ」

 

「面倒だ。手間が煩わしいしな」

 

 筋肉質の強面。革製のジャンパーで、他に色を持たない交りっ気なしの白髪。鋭い眼光が既に凶器染みている男は、その場に居るだけで重圧を部屋全体に掛けていた。

 名はイノセント・ホワイトヘッド。

 此方もデメトリオが所属する教会から手配され、協会からも封印指定を受けている魔術師。死徒と言った吸血種では無いのだが、嘗て所属していたアトラス院から抜け出した野良錬金術師。この男は半ば機械と一体化した半人半機であり、秘匿せねばならない開発した兵器を実験と称して使用している。更に様々な概念武装や魔術礼装と言った魔術的な道具と+αで金を積まれれば、自分の武器を商売道具として売買している死の商人。

 

「まぁまぁ。皆さん、折角の来客ですわ。折角盛り上がった麻雀を止めて、彼の話を聞いて上げます。すみませんが、今宵のお遊びはここまでにしましょう」

 

 マリーはそう言って、麻雀牌を置く。厭味が多分に含まれた言葉だが、彼女は騎士の言葉に耳を傾けることに決めた様だ。

 

「仕方ない。ドゥから貰った遊戯も、今夜はここまでか」

 

「中々面白い遊びであったぞ。このような娯楽は、妾も実に愉しめる事が出来た」

 

「ああ、どうも。その言葉はあれにも伝えておこう」

 

 残念そうにイフリータはそう言って、牌を片付けた。ストラザーンとマリーも、丁度良い終わりだと片付けに参加した。そして、一つ一つ丁寧にホライトヘッドは牌を、麻雀用の箱に仕舞い込んでいった。もっともその間、デメトリオはずっと赤髪の二人であるルートとイフリータの四肢を見つつ、暇を有意義に潰していたが。

 

「では、さようなら」

 

「妾も主の下に戻るとする」

 

「帰る。暇を潰せて良かった」

 

 ストラザーンは酒杯の中身を一気飲みし、イフリータは体を捻って凝りを解し、ホワイトヘッドが麻雀箱を持った後、部屋を出て行った。用事は済んだを言わんばかりに、三人は早々に部屋を抜け出して去って行った。

 

「ルートさん、貴女も出て行っても良いですよ。退屈な話が終われば、お祭りになると思いますし」

 

「……わかりました。では」

 

 そうして、部屋にはマリーとデメトリオのみ。麻雀が片付けられたテーブルは案外大きく、対話を行うにのには丁度良い。

 

「どうぞ、騎士さん。お座りになりさいな」

 

「メランドリ。デメトリオ・メランドリだ」

 

「そうでしたか。ではデメトリオさん、どのような要件ですの?

 ……あ、すみませんね。立っているのもあれですし、そちらに座って下さい。新しいグラスもありますし、好きな酒を飲んで下さいな」

 

「ああ、失礼する」

 

 ―――騎士と魔女。

 マリーは新しく入れ直したウィスキーをロックで用意し、デメトリオもそれを受け取る。騎士は剣を入れている筒を椅子の隣に置き、机に立てかけた。魔女は魔女で懐から杖を取り出し、それを机の上に置く。

 つまり、その気になればどちらも敵へ攻撃を行える。

 直ぐ傍に命を奪える武器を携えた交渉は、時間が経てば経つほど緊張感が増していった。

 

「……はぁ。全く、貴方の御蔭で賭けがパーですよ。イノセントさんから唯で兵器を取れそうでしたのに、良い所で中断されてしましたわ」

 

 氷が溶けて、カランと音が鳴る。マリーは酒を喉に流し込み、胡乱気な目付きで騎士を睨みつけた。

 

「そうか。すまない」

 

「つれないですわね。本当にムッツリさんですこと」

 

「斬るぞ」

 

「ほほほ。では本題に入りましょう」

 

 彼女はやる気が無いのか、酒を飲みながら暇そうに杖を弄っていた。その短い杖は分かり易いくらい魔女らしい道具で、物語から抜け出てきたような“魔法使い”の触媒だ。軽く小さい杖を右手でクルクルと面白い程、まるでペン回しのように回転させていた。

 

「美味い」

 

 とまぁ、彼も彼で酒を楽しんでいる模様。折角相手が本題に入り込んで来たのに、興味が無いかの如くアルコールを味わっている。

 

「あの本題に入りたいのですが……まぁ、良いんですけど。にしても、警戒とか皆無ですわね」

 

「すまない。後、毒は効かない」

 

「入れていませんよ。善意を疑わないで下さいな」

 

「知っている。飲んだ」

 

 もしかして天然さんかしら、とマリーは疲れて表情に出さずに内心で溜め息。話が噛み合わない相手だと、交渉事は神経がすり減っていく。

 

「何故、貴方のようなコミュニケーション能力欠如者が使者になったのか疑問はありますけど……それは置いておきますわ。

 ―――で、要件は何ですの?」

 

「死んだ理由を聞きたい」

 

「へぇ、それはどちらさんの死因が知りたいのかしら?」

 

「協会の監視役の者だ」

 

「ああ、彼ですわね。ええ、よく知っておりますわよ。知り合いですし。でも、シスターさんの方の行方は良いのかしら?」

 

「もう保護している」

 

「あらま。それは実に素晴しい事ですわね」

 

「話を逸らすな。死因を教えろ」

 

「ふふふふふ。良いですわよ、お教え致しますわ」

 

 胡散臭い笑みのまま、彼女の気配が歪んでいく。禍々しい怪物と言うよりかは、駒を弄ぶ老獪な策士のような気味の悪さ。

 

「―――彼は我々との協定を破ったのですわ。だから、あのように無惨な末路を辿りましたの」

 

「破ったとは?」

 

「ほら、元々はこの場所は魔術協会と聖堂教会の両方から黙認されていたでしょう。それをあの魔術師、本部の方に連絡をし、此処を地獄に変えようと致しましたのよ。

 死徒が人を飼っているとか、封印指定が人体実験をしているとか、しっかりと社会から隠しておりましたのに、その事実を連絡しようとしまいたの。両キョウカイもここがそう言う場所と知っていましたが、情報が隠蔽されていた故に、ここは暗黙の協定地区になっていましたのに。それが破壊されそうになってしまえば、我々も自衛せざる負えないと言う訳ですのよ」

 

「成る程。殺したと認めるのだな」

 

「殺しておりませんわ。彼の死因は自殺ですからね」

 

「……なに」

 

「だから、自殺です。どうも彼は教会の司祭と出来ていた様でして……まぁ下世話な話、死徒の私も敵同士の恋愛なんて見ていて愉しかったですわ。まるでロミオとジュリエットですもの。

 それで案の定、魔術師は絆されてしまいまして。

 シスターさんの方、どうも惨劇を黙認する事に耐え切れなくなっていた様です。この街から我々を殲滅したいと考えていたらしく、それに彼は了承してしまったようです。其処から色々とあって、今回のような事態になってしまっただけですの」

 

「答えになっていない」

 

「あら?」

 

「―――何故、教会の司祭を攫い、協会の魔術師を殺害した?」

 

 此処は死都ではあるが、一般的な死都では無かった。言うなれば、一種の協定地区。吸血鬼が規則正しく、人間社会に適応して血液を啜っている混沌の都。

 聖堂教会も魔術協会も、人間社会に害は与えないと見離していた。正確にいえば、他により危険な吸血鬼を殺す為に戦力を裂く必要がなく、危険な橋を渡る道理が無かった。巧妙に隠していると言う部分も多いに在ったのだが、暗黙の協定と言う部分が多かった。例えるならば、二十七祖のヴァン=フェムやリタ・ロズィーアン、トラフィム・オーテンロッゼ等の領地の扱いに近かった。規模は小さいが、死徒の街としてはそれなりに栄えていた。

 ―――だが、それも今日までのこと。

 この街に住む化け物の誰かが、教会から派遣されていた修道女と、協会から監視の命を受けていた魔術師に危害を与えた。魔術師の方に至っては、ニュースで殺人事件としてテレビに報道されてしまっているのだ。

 

「―――愉しかったからです。他に理由は要りませんわ」

 

「成る程、理解した」

 

「へぇ、そうですの。理解出来るのですか、魔女狩りにしか興奮出来ない聖堂騎士風情に?」

 

「勿論。魔を斬るのは愉快だ」

 

「……ふふ、うふふふふ。ははははははははははは――――!

 腐っていますわね、流石は泣く子も凍る聖堂騎士さんですこと! そんな言葉、教会の狂信者から初めて聞きましたわ!!」

 

「それで、自殺した原因は?」

 

 可笑しそうに笑う魔女を気にすることなく、彼は質問を続ける。淡々としていた。噛み合わない二人の様子は、第三者視点から見ると怖気を誘う違和感に満ち溢れている。

 

「―――シスターさんを犯したの。

 彼の目の前で散々酷い事して、豚のように快楽で殺そうとしましたのよ。吸血鬼の男達に蹂躙されて散らされる修道女って、何だか興奮して愉しかったわ。色々と私自ら試してみた拷問も力み過ぎて、少々危なかったですしね」

 

「それが自殺の理由か」

 

「ええ。神の無意味さと、世の無慈悲さを体験させて上げたのよ。

 ……まぁ、自殺して地獄に堕ちるのでしたら、彼女の命だけは助けてあげると言ったのが―――本当の止めでしたけど」

 

「そうか」

 

「ええ、そうなのです。見物でしたわよ、自分で自分の首を落とす男の最期は」

 

 外道である。下劣である。だが、この邪悪さは死徒故の倫理の変異では無く、彼女自身が持つ真性の悪意。

 

「ならば何故、修道女は殺さなかった?」

 

「嫌ですわね。私、こう見えても約束は守る魔女ですの。命だけは護ってあげましたわ。ちゃんと五体満足のまま、ぐちゃぐちゃに犯し続けて上げましたわよ。

 魔力を回復させる為の男共を使った輪姦は基本ですし、快楽拷問の実験体には丁度良かったです。

 まぁ、他にも色々な拷問も試してみましたし。魔女狩りの参考文献に載っていた方法とか、意外と楽しくて面白いのですわよ。ほら、そう言う拷問は教会の人間も好きでしょう?」

 

「腐っている」

 

「仕方ないですわ。人間って弄くるの、楽しくて堪りませんもの」

 

「―――……」

 

 黙り込んでしまった。これでは、ここの管理をしていたシスターが協定を破棄しようと画策するのも無理は無い。

 そして、倫理観と使命感に挟まれて苦しんだ果てに、彼女は自分の志を貫くと決めたのも納得出来た。しかし、その果てがシスターに何時の間にか恋をしていた魔術師の死であり、自分自身に訪れた凌辱と拷問の日々だった。

 

「……このクラブは売春も経営しているのか? 貴様のような輩としては珍しい」

 

「まさかですわ。ここで売春や買春はしてはおりませんよ。

 売春窟は売春窟で別にありますし、其方は其方で経営をしております。ちゃんと、あちらの方は暗黒街に相応しい合法的な表の法に則って、売り物の女や男を集めていますの。一応ではありますけど、我々のルールを破るような違法な手段で経営はしておりません」

 

 スヴァルトホルムは、深く怪しく笑みを浮かべる。

 

「例えるなら……そうですわね、違法な闇金返済の代理品として、娘や妻を差し出させてたり。あるいは、薬物中毒の女を綺麗して売り物にしたりとかです。他には、何処かの路上で拉致したり、人身売買の者もおりましたわね。

 なので、無意味にルールを破るのもアレですし、反抗するような者や、逃げ出す自由のある者に対しては、現代的な手法でキチンと薬物と快楽で精神を狂わせて操り人形に変えました。その後に売り者にするような雰囲気ですの。

 ……ほら、あれですよ。

 無理矢理快楽狂いにされた者が快楽に溺れるのは、とてもとても見応えがあります。あの胸に迫る感動は、やはり簡単な術を使って行うのでは欠片も面白くありませんわ。とは言え、快楽を増長される薬品や、肉体の耐久性を上げる薬物は私の特性品ですけどね」

 

 感動的な娯楽話なのだろう、彼女にとっては。世の中を面白くする行いなのだろう、この魔女からすれば。だが、それは余りにも悪意に満ち、だからこそ、人間味に溢れる悪行であった。

 

「やはり、しっかりと表の職業を全うしてこそ、化け物も健全な生活が送れるのでしょう。常に暗闇を穴蔵に籠もってばかりでは、世間に遅れてしまって面白くありませんもの」

 

「外道め」

 

「お好きな言葉を使って下さいな。慣れてますの、そう言う下らない事は」

 

 デメトリオは、このクラブに行き着くまでに色々と見て回っている。自分の姿と名を隠さず、様々な場所の監視して回った。勿論、彼女が言う売春窟も見た。見てしまった。

 騎士は、既に攫われた修道女を見付けている。彼女を保護している。

 だがそれは、余りにも遅かった。彼女に何かしらの魔術が施された形跡はなく、死徒に血を送られた痕跡も無い。神秘的な観点ならば、殆んど無傷と言える。

 しかし―――その精神は跡形もなく崩れていた。無惨であった。

 覚醒剤や凶悪な媚薬などによる薬物投与と、幾日も続いた何度にも渡る凌辱の爪後。更に売春窟で散々に売り物にされ、クラブでは服を剥ぎ取られて見世物にされて犯され、もう人格が正常を保てていなかった。デメトリオは彼女の壊れた悲鳴を聞き、汚れてしまったと言う惨酷な懺悔を聞き、こうして今、敵を前に剣気を滾らせていた。。

 

「ならば、此処に居る者は?」

 

 故に聞かねばならない。この地下で息をしている者が、一体何者であるのか。斬り殺して良い化け物達なのか如何か、魔女の宣戦布告を聞きたかった。

 

「勿論―――死徒ですわ」

 

「成る程。(ケダモノ)の群れか」

 

「まぁ、全員が吸血鬼と言う訳じゃありませんが、例外無く人殺しを営む人外なのは確かな事です」

 

 彼女の言葉は全て事実だった。クラブ・サバトは人外の異端者が欲求も互いに満たす、欲得の社交場。人間相手だけでは発散出来ない化け物同士の交り合いの場。別に欲求を解放するだけではなく、血液や酒を飲み合って互いに会話をして楽しむ者もおれば、情報交換の為に来る者もいる。だが、店員も含めた全員が化け物。吸血鬼である死徒であり、不老になった魔術師であり、魔獣との混血もいる。

 そして、一人の例外無く、店内に居る全員が理性的に殺人を愉しむ化け物だと言うこと。

 誰も彼もが、人間を虐殺してきた生粋の人でなしの集団だった。一人残らず皆殺しにされても、誰からも同情されない外法の集団。人間は唯の一人もいない。

 つまり――――

 

「なら―――皆殺しだ」

 

 ―――聖堂騎士が殲滅すべき異端者であると言うこと。

 デメトリオ・メランドリが躊躇すること等、もはや何一つ存在しない訳である。愛剣はまだ筒の中に隠しているので振れない為、瞬時に殺そうと魔眼を発動。超能力の作用を視覚化出来る者なら見えるだろう、綺麗な閃光が奔って魔女の首を斬り落とさんと迫った。

 ……これは死ぬしかない。

 魔女が第六感で切除の魔眼を感じ取ろうと、同じく魔眼で閃光を視覚で捕えようが、避けようが無かった。

 

「―――……化け物め」

 

 しかし、その切除も空振りに終わる。何故ならば―――もう魔女は部屋から消えていた。

 ―――空間転移。

 それも無詠唱による即効性。

 これ程の腕前となると、神話の時代に生きた太古の魔術師に並ぶ領域だ。それこそ神言や統一言語が蔓延り、飽和した魔力が地上を覆い尽くし、魔物達が星を跋扈し、科学文明が欠片も無い剣と魔法の世界だった時代の幻想である。

 

「殲滅戦の始まりか……」

 

 デメトリオ・メランドリは無表情のまま、愛剣を取り出した。まずは首領の首を()る為に雑魚を皆殺しにせんと、表情を陰惨な笑みへと作り変えた。暗く恐ろしい笑顔は相手が人外であろうと……いや、第六感が鋭い化け物だからこそ死を予感させる不吉に満ちていた。

 ―――斬撃とは、これ即ち人体の切断である。

 彼が鍛え上げた剣の術理は、あらゆる敵を仕留める刃の法。あるいは、あらゆる敵と渡り合う為の生存技術。

 戦闘と生存を両立させ、斬殺と防衛を確立させる。

 叩き斬り、撫で斬り、様々なモノの切り方を学び、鍛え、実践する。

 強く、速く、肉を斬り、骨を斬り、命を断つ。

 デメトリオ・メランドリは今回も斬り殺し尽くした。斬って斬って、殺し回った。

 死都を取り締まっていたスヴァルトホルムを取り逃がした後、彼は只管敵を斬り殺し回っていた。あの魔女を下がり回る序でに、吸血鬼共を細切れにしていった。出会った人外全て、愛剣の刃で浄化し尽くしていった。既に仲間達に連絡を済まし、あちらこちらで死闘が続けられていた。

 

「――――――」

 

 今回の死都殲滅は、中々に危機感を感じる地獄であった。鍛え上げた剣の技術、教えられた神の技法、そして染み込んだ戦場の感覚が無くば、今回の任務で死んだ同僚たちと同じ道を進んでいた事だろう。

 これは死徒を一匹殺す抹殺任務ではなく、吸血鬼が徒党組んだ死都の殲滅作戦。

 聖堂教会は戦力を存分に注ぎ込み、これの滅殺に当たった。街の中に存在する魔の物は、問答無用で撃滅する。代行者だけではなく、騎士団も用いた大規模作戦であった。

 そして、人外を束ね、暴虐の徒を律する者が一人居た。

 その怪物が全ての元凶、殺すべき怨敵。

 対象となる死徒の名は、ブリット=マリー・ユング・スヴァルトホルム。

 死徒と魔術師を率いていた張本人である吸血鬼であり―――大昔から生き永らえる真性の魔女。

 

「あらら。今回の宴はここまでなのかしらねぇ。本当に残念ですわ」

 

 真っ黒な尖がり帽子。黒髪と黒衣に黒いスカート。見えないが恐らくは下着まで黒色一色であろう女は、その漆黒の魔女は、青白く顔色の悪い表情で笑みを作った。若々しい聖堂騎士を前にして、その騎士がこの街で戦闘に長けた魔術師の死徒を何人も殺した凄腕であろうとも、なんら脅威を抱いてはいない。例え、眼前の騎士が一人で殺した死徒の灰で山を築き上げられる程、自分の組織の同胞が殺されているのだと分かっていても、なんら憎悪を抱いてはいない。

 くるくる、と杖を魔女は右手の指で、素早く回して遊んでいる。

 長さにして30cm程度の魔術師の魔杖は、ほんの数百年前は本物の“魔法”使いの杖であった。しかし、今の時代になっては魔女の杖であろうとも、決して魔法使いの杖では無い。そんな想念が積もった上質な礼装を手の上で滑らす様に、蟲惑的に弄んでいる姿は少女の姿に相応しく―――だからこそ、寒気を誘うまでおぞましい。

 言い表せば、全てが胡散臭い。

 笑顔が偽装に見える。言葉が虚言に聞こえる。今の姿が偽物で、本当はもっと形容し難い何かではないのかと、目に見えるモノが一つも信じられない。

 

魔宴(サバト)のマリー。馬鹿騒ぎは終いだ。もう直ぐ夜明け、朝が来る」

 

「嫌ですわね。気の早い殿方は女性に好かれません事よ」

 

「ふ。これでもそれなりにモテる部類だ」

 

「あらあら、まぁまぁ。お気の毒に。血を吸われなくても、亡者になっているみたいです」

 

「ん?」

 

「……加えて、天然でもあるようですわ。救われませんねぇ。まぁ、吸血鬼の私が言えることではありませんけど」

 

 浄化され過ぎていて気味が悪い西洋剣。そんな消毒液の如き瘴気を放つ聖剣もどきを構える騎士、デメトリオ・メランドリは隙を窺いながらも、時間稼ぎの為に得意ではない舌戦に興じる。相手が話に付き合っている事を疑問に思いつつも、彼は気にせず会話を重ねる。

 頭は結構良い方ではあるのだが、まだまだ若い彼は基本切って解決する脳筋なので作戦を臨機応変に変えるのを疎んだ。斬り合い以外の面倒は少ない方が良い。ここ最近完成させた魔眼の威力は十分に掃討戦で試せた所為か、殺すのであれば直ぐに斬り捨てるつもりである。

 

「態とだ、婆様。天然阿保の斬殺馬鹿の自覚はあるが、そこまで世間知らずでは無い。実際、天然魔性の貴様に指摘される謂われは欠片もあるまい」

 

「口汚い聖職者ですこと。直ぐにでも血祭りを楽しみたいわね」

 

「ふむ。だが、死ぬのは貴様だ。既に大方の人外は始末されている」

 

「お馬鹿さん。主戦力を一匹も殺せずにいて、何が始末されているって話なのでしょうかね」

 

「しかし、もう配下の大部分は斬り殺したぞ。

 だから、もう諦めて罪に潰れて死んでしまえ」

 

 魔宴のマリーと呼称される魔女の死徒―――ブリット=マリー・ユング・スヴァルトホルムは、それはそれは惨酷な表情で笑みを浮かべた。

 確かに、彼女を頂点する組織は構成員の大部分が討たれて死んでいる。しかし、その殺された人外共は死都を作り上げてから集まった木端たち。以前から名を連ねている者は、まだ数人しか殺されていない。それも戦闘に長ける古参者は誰も死んでいなかった。

 

「良いのですよ。元々、私達は人格が変てこな個人主義の集まりですので。

 普段は個人個人バラバラな所で自由気儘にやっていますから、計画段階から欠員が出るのは当たり前ですし、今回のように集合して遊ぶイベントごとで死ぬのも織り込み済みなのですわ。結果、今回みたいな死都遊戯で何人死んでしまおうとも、私が生きていればお祭りはずっと続きますのよ」

 

「―――ならば、死ね」

 

 彼女を長とする秘密結社・日緋色魔宴(サバトサンライト)は、そも最初から纏まりが無い。

 組織とは名ばかりの数有る魔術結社であり、個人個人が好き勝手に生活している。規則など無い。今回のようなマリーが発案する計画が無い限り、集まる事も無い。そして、呼びかけても来ない者もおり、知らない内に死亡している場合や、勝手に抜けだしている者もいる始末。

 だが、それで良い。むしろ、だからこそ居心地が良い。

 元より人外に成り果てた化け物共が、魔術師や死徒の規律さえ煩わしいと感じる外法者共が、自身に都合が良いから利用出来るからと参加しているだけの結社なのだ。

 その事をデメトリオは知っている。

 この女が如何仕様もない外法の輩なのだと理解している。返事など、死ねと言う殺人予告以外に思い付かなかった。

 

「ふふ。良い殺意です。

 ……さてはて、空気も暖まってきましたわ。そろそろ、殺したいので殺します。お互いがお互いに仇打ちって言う状況は、とても良いモノです」

 

 生粋の魔女であり、生き果てた魔術師が彼女だ。大昔から続く長い長い間、代行者と執行者を相手と戦い、生き延び、今此処に居る。

 敵との会話など無駄であり、余分であり、慢心であるが―――ソレを愉しめずに何が魔女か。

 加えて相手も次の瞬間にも殺し合うだけの獲物と言葉を交わす余裕があるとなれば、付き合わずには居られない老婆心がある。要らぬ心構えだが、名乗りを上げるのはとても心地良い。

 

「―――我が名はブリット=マリー・ユング・スヴァルトホルム。殺し合いを申し込みます」

 

 故に―――騎士たるデメトリオ・メランドリも遊びに興じる。相手の舞踏の申し込みを受け入れた。

 

「了承する。我がデメトリオ・メランドリの名の下、斬り殺させて貰う」

 

 ふふ、と魔女は笑った。

 

「……まぁ、一対一じゃありませんけれどもね」

 

 刹那、殺気。瞬間、銃砲。死線が唸り、脅威が荒れる。現れたのは三人の人影。

 ―――シスター服を来た赤髪の美女が、拷問器具を鋭く構えながら強襲する。

 ―――大型の盾と両刃剣を持つ青年が、盾で押し潰す様に騎士へと突進する。

 そして―――回転式拳銃を手に持つ茶色のトレンチコートと帽子を着込む男が、敵対者へとほぼ同時に六連射発砲した。

 交差する剣戟銃撃の複合交差。

 破裂音が鳴り響き、死の舞が命を貪る獣を連想させるほど踊り狂った。だが、曲は一瞬で静まり返し、辺りは静寂に包まれる。

 

「仕留め損なってしまいました。ヴェガ、迂闊ですよ」

 

「アーメント、気を抜き過ぎであるぞ。奇襲に失敗する等、らしくない姿よ」

 

「―――あららら。

 失敗でしたか。残念ですわ、お二人さん。

 間抜けの屍を踏み付けるのは好きですので、これじゃあつまらないわね」

 

 魔女は笑っていた。笑み以外の表情を浮かべていなかった。ある意味では、無表情以上に感情が読み取れない。騎士と無駄な会話を続けていたのは、奇襲を行う為の時間稼ぎであり、それが成せれば直ぐにでも殺してしまおうと画策していたのだ。

 

「相変わらず考え方が下劣ですね。追い詰められたフリをして、逆に罠に嵌めようなんて……とてもマリーらしいやり口です」

 

「なぁに、戦争ではいつものことでは無いか。スヴァルトホルムがあくどい女なのは、今に始まった事では無いぞ」

 

 緋色の剣と巨大な盾。ヴェガと赤髪のシスターに呼ばれた死徒が、歪み切った冷笑を浮かべる。まるで血に飢えた通り魔のように、人が殺したり無いと訴えている様だ。

 名はサカリアス・ヴェガ。魔女が組織する魔宴の古参の一人。

 禍々しい灰色の外套を纏い、無表情で敵を静かな様子で眺めていた。冷徹な殺意では無く、滾る闘志でも無く、明鏡止水と形容するに相応しい気配。手に持つ魔剣が真っ赤に燃えて、空気を何処までも煮え滾らせているが、それと正反対な冷たい姿である。

 

「もっとも―――それは相手も同じことぞ」

 

「ですね。両方とも中々の腕前の持ち主です」

 

 鮮血を被ったように真っ赤な色合いをしたセミロングの髪が目立つ女は、他二人と同じく死徒である。髪の毛と同じく血生臭い笑みを浮かべ、噎せ返る程の血の気配を漂わせている。

 名はルート・アーメント。彼女もまたヴェガと同じ魔宴の古参。

 着込んでいる修道服はシスターそのもので、彼女は敬虔なカトリックの修道女にしか見えない。もっとも、それは拷問器具を構えていなければの話。ルートの生前は理想的な聖職者であったが、今となっては見る影もない人外の怪物に成り果てていた。

 

「―――遅いぞ、ダン」

 

「ひひひひひ。スマネェな、メランドリ。

 ちょっとばかし熱が入り過ぎて、雑魚狩りに熱中しちまってだぜ。けれどよ、しっかりと奇襲を仕掛けた人外の攻撃を止めたじゃねぇか、な!?

 だったら、それで万事オーケー。全く以って問題無しだ!」

 

 茶色のトレンチコートに茶色の帽子。片手にリボルバーを握る姿が異様に似合うのは、騎士の同僚でもある代行者だ。

 名はアデルバート・ダン。

 騎士デメトリオと同期となる代行者(エクスキューショナー)

 銃殺を得意とするこの男の武器は拳銃一つであり、そのリボルバーだけで幾人もの死徒をこの死都で狩り殺している事がわかる。つまり、代行者はそれほど狂った腕前の銃使いであると言う事。視線で弾丸を如何に打ち込もうか虎視眈々と狙っているのが一目で悟れ、対峙しただけで生きた心地がしなかった。

 

「問題だらけだ。先手を取られた」

 

 デメトリオはアデルバートの銃撃の不意打ちを期待し、敵の足止めをしていた。だが、それも今となっては無駄になった。斬り殺さないで敵と会話なんて慣れない真似してこの様。今回の事で溜まった憂さは敵の斬って晴らすしかない。

 ……つまり、先程の展開は実に単純。

 騎士と魔女はお互いに仲間に奇襲を行わせる機会を作る為、時間稼ぎをした。その結果、互いの潜伏していた仲間が同じタイミングで隙を見付けて強襲し、鉢合わせしてしまったのだ。ルートとサカリアスの死徒陣営の攻撃を、アデルバートが銃弾を撃って止める形で奇襲は終わってしまった。まだ誰も命の危機は無く、無傷のままであり、誰も彼もが敵の隙を窺っていた。

 

「しっかし、これはまた言い様の無い危機的状況。三対二っつーのはキツイな……むぅ、どうしたものやら」

 

 リボルバーピストルで肩を疲れたように叩いた。そして、とても良い事を思い付いたと、実に態とらしい道化のような仕草で口を開く。メランドリは無反応で無表情であるが、内心では何を言い出すかと呆れていた。この男の強さを理解してはいるが、偶に変なノリに付いていけない事がある。

 

「良し、逃げるか!

 化け物が三人もいちゃあ、死んじまう確率が高くなっちまう」

 

「断る」

 

 一切の気負いなく、良い終わった直後の零秒で返答。

 

「おいおい、三対二だぜ? こっちが不利じゃねぇかよ」

 

「―――それが?」

 

「……だと思ったぜ、最悪だ。

 全くホント疲れちまうが……イーぜイーぜ、理解したよ。敵は皆殺しにしろってんだよな?」

 

「ああ」

 

 丁度その時であった。何の脈絡もなく、実に呆気なく―――マリーの頭蓋骨が弾け飛んだ。

 それは銃声であり、致死の一撃を与える銃撃の一手。

 ……宙に脳漿が散らばる。まるでビデオのスローモーションのように、グロテスクな光景がゆっくりとデメトリオとアデルバートは見る事が出来た。真っ赤に吹き出る鮮血と、血の色に染まった脳味噌の色合いと、鼻から上が消えて無くなった魔女の姿。胡散臭い笑みだけを残し、彼女は一発の鉛玉で屍になった。

 そして―――次の瞬間に異変が起きた。

 同様の表現であるが、それはビデオも巻き戻しのような奇怪な現象であった。流血の脳漿は地面に落ちる前に、同じ軌跡を辿る動きで元の位置に逆流する。

 

「―――ふぅ。

 殺されるのは久方ぶりですわ」

 

 死の正体は銃弾。それも音速を遥かに超過し、秒速2000mに達する超音速の魔弾であった。

 音速に対応する吸血鬼を確実に殺害する為に改造された対物狙撃銃であり、一切の気配と魔力の反応無く即死の一撃を放つ埒外の殺害方法。弾丸そのものも特性の逸品であり、恐らくは弾速を加速させる為の何かしらの細工が施されていた。

 そして、吹き飛んだ黒い尖がり帽子がヒラヒラと宙に舞ってマリーの頭上に戻って来た。撃たれた前と何一つ変わらぬ姿で、眼光を撃ち手の方へ鋭くさせる。内心で侮れない目の前の敵に集中し過ぎ、認識外からの暗殺に対処出来無かったことに苛立っていた。不意打ちなど受けたのは久しぶりであり、完璧な気配の隠蔽で殺気をまるで感じられなかった。言わば、機械以上に感情を通さぬ冷徹な作業的殺害で、死徒の感覚を以ってしても対処の仕様がない。まさか、僅かばかり反応出来て頭を逸らしたのに、側頭部に掠っただけで頭蓋骨が吹き飛ぶとは思わなかった。

 

「私を死に至らしめたのは誰でしょうかね?」

 

 魔女は銃弾が飛んできた方向に視線を向けた。

 ―――そこには若い東洋人が一人。

 年齢は十代に見えるが、刻まれた苦悩が表情に出ている所為で二十歳を越えている様にも見える。狙撃銃を構え、即座にまた次弾が発射された。

 

“貴様の差し金か?”

 

 誰にも聞こえぬ様、デメトリオは専用礼装でダンへ念話を送った。アデルバートも念話用の礼装を身に付けているので、念話で彼と会話を行えた。現代の品物で例えるならば無線機に近いが、これは手に持つことなく魔力の作用だけで使用でき、戦闘中にも有効に利用出来る効率的な道具であった。

 

“おうよ。敵を殺す為に飛行機を撃ち落とすファンキーな奴だ。物の序でに情報流して死都に誘ってみた”

 

“―――魔術師殺し(メイガスマーダー)か”

 

“大正解! 良い勘してるぜ、全くよ”

 

 ここ最近、悪名が轟いているフリーランスの魔術師。銃火器を愛用し、魔術の裏を突いて敵を仕留める暗殺者。

 アデルバート・ダンは組織に属さぬ者や、協会や教会以外の小さい結社と繋がりがある。彼は魔術師殺しが如何な人物か知っているが故に、今回の死徒を餌に戦場へ引き摺りこんでいた。

 

“援護は期待できるのか?”

 

“さぁ? 信用できない奴だから無理じゃね?”

 

 だったら何で戦力として呼んだのだ、と言葉では無く殺気でアデルバートに伝えた。

 戦場は更に混沌具合を増加させ、様々な陣営が互いに殺し合う地獄と化したのだ。死都の中には、街を支配する死徒と、教会の代行者と騎士、そして協会の執行者とフリーランスの魔術師たち。もはや戦場となった街そのものが滅びぬ限り終わらない災害へと、戦火は順調に成長していった。

 ―――と、如何やら夢は此処までの様だった。

 ライダーはデメトリオの視点で過去を垣間見ていた。

 魔術師(マスター)英霊(サーヴァント)の過去を夢と言う形で覗く様に、サーヴァントもまたマスターの過去を見る場合がある。

 

「ほほう。どうやら、我がマスターは我輩(ワシ)に相応しい者のようだ」

 

 実に興味深かった。ライダーはマスターの気が狂ったような強さに疑問を抱いていたが、その謎も解けつつあった。

 確かにこんな怪物連中を相手に単身で挑む事が多ければ、問答無用で強くなる。幾度も越えて行った夜の数が多ければ多い程、彼の剣技は際限なく鍛え上げられた。また、ライダーが彼に及第点を与えた理由は戦闘能力だけでは無い。

 謂わば、狂気を飲み込める精神性。

 戦場で貴賤を持ち込む愚者では無く、戦略戦術も理性的に選択可能な柔軟性を持つ。自分の戦闘方法として剣に拘りがあるだけで、勝つ為の手段としてならば何でも出来る。つまり、ライダーの戦略に異を唱える事は無い。加えて、男なら持つ闘争の喜びと、戦争の楽しみ方も心得ていると来た。

 

「申し分ないぞ。実に良い。

 共に戦って楽しめる男であれば、英傑集う聖杯戦争も猶の事―――愉快極まり無い」

 

 深淵を覗くとき、深淵もまた、君を見ている。とは、実に的確な言葉だ。ニーチェが書いた本の通り、人が怪物を倒そうとすれば自身もまた怪物に成り果てるかもしれない。しかし、互いに怪物同士であれば、深淵は深淵に飲み込まれる事も無し。

 なら、それこそ問題は何も無い。

 ライダーは自分の過去を覗かれる駄賃代わりであると開き直り、マスターの過去を暇な夜の娯楽にして愉しもうと決めたのであった。

 

 

◇◇◇

 

 

 ―――唐突な話であるが、デメトリオ・メランドリは所属していた騎士団の中で最強だった。

 そして、聖堂騎士で在りながら魔術師でもあった。

 正確に言えば、根源は目指していない為、魔術師では無く魔術使いの分類となる。更に言えば、根源を目指す魔術師達の敵対者でも在る騎士な為、魔術師側から見れば魔術を積極的に悪用する畜生であった。

 数少なく、余分も無い神秘の絶対量を使う魔術の徒であるにも関わらず、その魔術を極める魔術を殺す為の技術として使用するのだ。当然、魔術協会からすれば絶対に殺してやりたい相手の一人と言えよう。

 ……まぁ、彼はそんな事を気にする事は永遠に無いのだが。

 

「――――――……」

 

 一日の始まりは、山中の小屋から始まる。ここは孤児院とは違い、身の周りの事は全て自分で行わなければならない。

 日の出前に起きる彼は、鞘に入れて壁に掛けてある剣を手に持って庭に出る。

 

「……っ!」

 

 まず、素振り。何度も繰り返す日常の中、この作業を必ず行う。剣を振り、ただただ只管に剣を振って、振って、振って、素振りを繰り返す。

 そして、朝食。

 そして、鍛錬。

 そして、昼食。

 そして、鍛錬。

 そして、夕食。

 そして、鍛錬。

 そして、就寝。

 一年間、毎日毎日、来る日も来る日も、延々と、剣の鍛錬を繰り返す。

 週に何日か、四度ある剣の鍛錬過程が魔術鍛錬に代わるか、食料調達に代わる程度で日々に変化は無い。

 ―――故に、純粋な強さで彼は聖堂教会の騎士団で最強だった。

 何せ、生きる事が鍛える事に果てている。鍛え続ける装置であり、彼は延々と強くなり続けるだけの無敵であった。だが、そんな強くなるだけの鑑賞用の剣……いや、騎士では聖堂教会では意味は無い。よって、彼にも教会から任務が与えられる。十代の頃から死徒、悪魔、魔術師、ないし神秘面に属する異端者の抹殺をしていた。時には暴走する幻想種の討伐なども行っていた。彼は山の中で自分自身の剣を作り上げ、任務で実戦を行い、完全無欠の聖堂騎士と化していく。いや、彼の剣そのものは幼少時代から既に完成されていたので、この山籠もりは純粋に全てを練り上げる為の、自分で自分に課す単純な育成工程に過ぎなかったのだろう。

 ……騎士として完成した後の彼は、一度の敗北は無い。

 昔、騎士に成る前お自分を鍛えてくれた師に鍛錬の過程で敗北したことは有るも、その師を殺してから負けた事は一度も無い。……まぁ、引き分けや敵を逃がしてしまった事は何度かあるが、今こうやって生きていると言うことは騎士として無敗で在ると言うことだ。

 日々日々、延々と続けた修行の日々。

 既に忘我した自己の澱と欲と罪と情。

 十五歳を越える前に何もかもを極限まで鍛え、山籠もりは終わらせた。言ってしまえば、自身を究極まで到達させてしまったのだ。後に必要となるのは技術と精神であり、肉体に染み込ませる極みの業は、既にあっさりと昔に完成させてしまっていた。後は外界のあらゆる事を学びつつ、今の業を状態を維持し、更なる研鑽で強くなる事が人生となる。肉体もまだまだ臨界点を越えた程度では、鍛え抜いていないと言える。

 しかし、根本的に修練は終わらない。纏まった休暇が有れば、山に籠もって過ごす事も少なくない。とは言え、何もかもが到達している為、技と心を鋭く錬鉄して業を更なる限界へと突破する以外、彼が強くなる方法は無かった。

 ―――修練以外の事を人として知った後、彼は更に強くなった。

 彼の業は、自分を鍛える事以外の事に時間を割くようになっても、更に磨かれていく事なる。これは他人と関わる事で精神がより良く強くなったのも有るが、根本的な心技体が何処で鍛え上げようとも、構わず鍛錬に没頭出来る性質を山で得たのが大きい。つまり、今の彼かれからすれば、既に心技体は完成されているにも関わらず、その限界を無視して鍛えて強くなり続ける事が何処でも出来た。

 強くなった彼は世界の広さを知る。

 様々な事を関わり合いになる事で、自分の中にある色々なものが成長していった。

 山に居るだけでは突破出来ないでいた限界も、外に出る事で新しい視界を得て、ただただ業は昔よりも強くなった。俗物なモノも自然なモノも関係無く、人生とは即ち是鍛錬と習性で染み付いていた。

 

「――――――……」

 

 とは言え、剣を振う事しか興味の無い剣馬鹿の斬殺狂いであるのが事実。彼は戦場の中で唯々、敵が何であろうと斬り、殺し、生きて、また次の戦場までの間、剣を振って生活していた。

 今は偶の休みで山籠りで静養中。

 孤児院に入る前から続けている山での修行は、もはや苦行でも何でも無い日常と化している。家に伝わる修練であり、自分が自分だと認識した時からの習慣だ。両親や祖父に強制されるまでもなく、自主的に今まで続けていた。

 木々の葉で日差しは木陰を作り、休憩をするにはとても良い雰囲気であった。

 とはいえ、時間的には昼を過ぎた夕焼け前。数時間もすれば夜になり、そろそろ狩った動物の血抜きをし、夕飯の準備をしなかれば今夜の飯は夜遅くまで引き延ばされてしまう。

 

「……―――」

 

 ぺらり、と本を捲る指を止める。メランドリが読んでいたのは聖堂騎士にとってのバイブルであり、一般的な物ではないが神秘が宿す普遍的な聖書(バイブル)であった。読む込む事で信仰心を身につけ、言葉に神意を宿らせ聖句とする。聖堂教会の魔術であり、彼が使用する主な魔術もこの洗礼詠唱に連なる神秘。自然の摂理を叩き込む魔の浄化を基本にし、また奥義でもあり、シンプル故に強大な魔術基盤である。

 神の言葉は、膨大な概念を生む。

 デメトリオ・メランドリは魔術師を斃す為、教会が伝えている魔術基盤以外の神秘を身に宿す。魔力を消費し、様々な炎や風を引き起こす。それら魔術を応用して独自の聖句で、浄化の魔術を開発していた。

 

「―――何用だ……?}

 

 ぱたん、と本を閉じた。

 

「緊急事態です、デメトリオ!」

 

 訪れた人物は知人であった。長い付き合いもあり、友人と呼ぶ事も出来る者であった。その彼女が痛ましそうに、悲しそうに、何よりこれから告げる言葉を躊躇うように、表情を歪ませていた。

 ここまで異相で走って来たであろう事は、荒い呼吸で直ぐに分かった。しかし、彼女はそんな事を欠片も気にせずに、慌てたように声を荒げた。

 

「先生、行方不明だった先生が……あの人が死徒に血を吸われて――――――!」

 

「……事実なのか、それは」

 

 彼の中の全てが凍り、止まった。精神が停止し、しかし鍛え上げた理性が現実を簡単に受け入れた。機械のように淡々と処理し、そして機械にならなければ聞かなかった事にして混乱したい程の悪夢であった。

 

「は、はい!

 それだけじゃなく、そのまま孤児院の子をグールに変えてしまいました!!」

 

「―――そうか」

 

 孤児院とは、つまるところ先生が務めていた孤児院なのだろう。つまり、デメトリオ・メランドリが生活している孤児院である。

 彼は騎士や代行者を代々務めるデメトリオ一族最後の一人であり、父も母も任務中に死徒の手で殺されてしまっている。共に生活していた祖父も既に死んでおり、彼は家と繋がりが合った人物が運営する孤児院に入っていた。そこで騎士となる為の訓練を積み、十代の若さで任務を行っていた。

 ならば、それは悲劇であった。

 彼の世界は全て、悲劇でしかなかった。

 家は聖職者らしく教会や孤児院への寄付金で、貧乏であった。両親が死に、祖父が死に、彼が孤児院へ行くまでの流れは本当に拍子よく事が進んだ。そして、その挙げ句の果てに、剣の師である孤児院の先生までもが死に、吸血鬼と成り果て、彼の仲間を死肉食らい(グール)に変えてしまった。

 

「なら―――先生を殺さないと」

 

 彼は騎士である。デメトリオの師匠である先生も騎士であった。剣の師であり、騎士としての師であり、尊敬する大人であった。気がつけば独りで生きていた自分を、実に人間らしくしてくれた恩師であった。

 

「そんな! 何もあなたがする必要が―――」

 

「―――ある。

 始末は弟子の自分がしなくてはならない。弟子とは、そう言うものだ」

 

 教えの一つ、異端は滅せよ。

 例え、その姿が嘗ての仲間であり、家族であり、恋人であろうとも、人を殺す化け物ならば―――人の手で殺さなければならない。同じく、その怪物が師で“あった”誰かであろうとも、騎士として尊敬出来る者だろうとも、親と等しい人であろうとも―――デメトリオ・メランドリには殺さねばならぬ義務がある。

 彼は神の名の下に断罪を下す騎士。

 聖堂教会に属するとは、そう言う事だ。

 ここでもし躊躇ってしまうと、今まで殺してきた命達に一体どんな意味があるのか?

 デメトリオ・メランドリは若い騎士でありながらも、既にベテランと同等の技量と、神よりも優先すべき信念を持つ。それは信仰と呼べる“何か”では無く、貫かなければ過去が無に帰ってしまう感情であった。

 

「駄目です! だって先生なんですよ、わたしたちの!?」

 

「君は来ない方が良い」

 

 彼女もまた、デメトリオと同じ孤児院出身の者。騎士では無く代行者になったが、所属は違えどデメトリオの事を弟のように思っている。

 

「―――でも! もうアデルバートが既に向かっていますよ?!」

 

 鬼のような顔で自分達の先生を殺しに向かった代行者を、彼女は恐れていた。アデルバート・ダンは代行者の中でも異端であり、まだデメトリオと同じく若い年で死徒狩り、魔術師狩りの達人になる狂人。彼ならば、例え吸血鬼に成り果てた先生であろうとも、問題無くあっさりと殺せるに違いない。しかし、それはデメトリオにも言えること。

 彼が出向かうとなれば、アデルバート・ダンと鉢合わせしてしまう。

 力量と言う観点で見れば十分であるが、見習いであった騎士は平常心で先生を殺そうとするアデルバートに剣を向けないでいられるかは疑問が残った。

 

「……あの男。まさか、お節介か?」

 

「知りたくもない。けど、貴方が行くなら私も行きますからね絶対!」

 

「わかった。邪魔はするなよ」

 

 葛藤はあった。だが、判断を出すのは一瞬。力量と言う観点ならば、アデルバートと同僚である彼女は別段足手纏いでは無かった。

 

「分かっています!」

 

 後ろの気配を気にせず、彼は育ての親である先生を殺しに山を降りて行った。必死の決意を示す代行者は騎士の後に続いて行く

 女性の名は露雲(つゆぐも) 真心(まこ)

 デメトリオと同じ孤児院の出身者であり、先生が嘗て拾った孤児の娘。異能の才能を持った突然変異で会った為か、異端に巻き込まれ家族を失い路頭に迷っていた所を拾われたとか。元々彼女の親と先生は昔から親交があり、孤児になって以来、孤児院で育ち代行者となって今も聖堂教会に仕えていた。

 そしてまた、アデルバート・ダンも同じ孤児院の出身者。

 あの銃狂いの代行者も剣狂いの騎士と同じで、共通の目的を持つ。そんな事はデメトリオは理解していたし、アデルバートも彼が先生が死徒化したとなれば考える事は同じだろうと予測していた。

 

「ダン、殺すなよ」

 

 無意識的にデメトリオは言葉にしてしまっていた。それは懇願では無く、一種の命令である。殺意を越えた異常な焦りが滲み出ていた。

 声に出さなくとも、騎士は自分こそ彼を斬り殺すのだと語っていた。

 

「――――――……」

 

 真心(まこ)の目に浮かぶのは不安と焦燥。

 デメトリオは彼女と違い、代行者ではなく騎士の道に進んだ。露雲真心はアデルバート・ダンと同じ代行者の道を進んで行った。同じ先生の下で育ったが、デメトリオ・メランドリだけが三人の中で一人聖堂騎士に入団した。

 任務から帰りイタリアの本拠地に戻れば、三人は何時も会っていた。同じ年の二人よりも彼女は2、3歳年上で姉として振舞っていたが、良い幼馴染であったと言えた。気の良い育ての親の先生に、幼馴染の二人に、沢山の孤児院の仲間たち。

 ……けれども、それも先程に崩れ去った。

 仲間は殆んど死に果て、先生が元凶である化け物に成り果て、二人は育ての親を殺しに向かっている。

 

「……なんで、こんな」

 

 涙が出てしまいそうにある。今まで我慢していたが、先生を殺しに向かう彼の背中を見るていると、何もかもが嫌になってしまう。だって、その先に居るのは先生と、自分と同様に先生を殺そうとする友人であるのだ。彼女はその中に騎士が入る姿を見て、その上自分も戦場で戦わなければならない立場にある。

 ―――山を下るのは直ぐだった。

 孤児院のある街は自然豊かな山中にあり、規模で言えば村と言っても間違いでは無かった。物静かな所で、昼間の今でも人通りが少ない落ち着く場所。今では長閑さでは無く、気味の悪さで静まり返っていた。

 

「……デメトリオ」

 

「気を付けろ。もう夜だ」

 

 山を降りた頃には、既に時間は夕方を過ぎていた。日も完全に地平の彼方に沈み、夜が支配していた。街を照らしているのは星と月だけ。街灯が少ない村の中は、物音は響くが人影は殆んど目に映らなくなってしまう。

 しかし、それはもう関係がなくなっていた。

 少々大規模であるが、結界が張り巡らされている。魔力に耐性が無ければ夜の闇に違和感を感じられず、悲鳴や騒音に気付くことも出来やしない。加えて、道端で人間の死体を見ても、その日常では有り得ぬ事態を異常だと認識出来ぬだろう。

 

「……結界です」

 

「ああ」

 

「それも、かなり高度な魔術理論で編まれています。敵は魔術の心得があるようです……いえ、すみません。

 これはあの人の魔術です。もう先生は既に―――」

 

「―――だろうな。既に街は堕ちている」

 

 生物の気配が夜の寒気さに消えている。これは生気を失った屍が醸し出す腐臭と冷気。

 

「……そん、な」

 

 そして、物影から現れる屍に真心は戦慄した。首元からは流血して固まった血の穴の痕が二つ。まるで小説の吸血鬼に咬まれたかのような傷であり、それは事実そうであった。

 

食屍鬼(グール)になったのか、君は」

 

 物影に隠れていたグール。二人は彼女に見覚えがあった。そもそも遂この間に再会したばかりで、仲間の結婚式の主役との事でお祝いをして上げたばかり。今まで辛い人生を送ってきて、これからと言う所でこんな惨劇に巻き込まれて、挙げ句グールに成り果てている。怪物になってしまっていた。

 ―――するり、とグールは綺麗に首が墜ちた。

 デメトリオが剣を素早く振い、彼女に永遠の安息を与えたのだ。屍になって屍を食べながら彷徨うよりかはと、騎士なりの慈悲であった。

 

「―――あ……」

 

 茫然自失の表情で生首を眺めていた。仲が良かった友人が段々と灰となり、屍が死灰になって風に吹かれて消えてしまった。

 

「今からでも遅くは無いぞ?」

 

「……断ります。せめて最期を見届けないと」

 

「そうか」

 

 そう言った真心は修道服から武装をもう一度確認し、しっかりと再装備させた。服の内側にあるので見た目からでは分からぬが、彼女は格闘戦専用の手甲と具足を付けている。浄化の魔力を叩き込む事である種の洗礼を施し、死徒を一殴りで内部から一瞬で爆散させるかの如く浄化する概念武装であった。

 確認し合った後の二人は順調そのものであった。

 結界の起点となる中心核へ向かって進み、道を阻むグールを片手間に皆殺しにしていった。今尚親交が続いている顔見知りばかりであったが、それでも止まらずに殺しながら進んで行った。

 

「良いか?」

 

「大丈夫です。もう覚悟は決めましたから」

 

 禍々しい瘴気に満ちた孤児院の異形。見た目が変わっておらぬが、巨大な化け物の内臓のように気味が悪かった。魔力が暗く光って脈を打ち、醜悪な汚物に人々の営みが汚されていた。

 そして―――響き渡る銃声の騒音。

 結界の所為で外まで漏れていなかったが、敷地内に入ると血臭と共に戦闘の音色が此方まで聞こえてきた。デメトリオと真心は走り、直ぐ様戦場のど真ん中まで急ぐ。

 

「……あぁ? 遅かったな、お前ら」

 

「ぎぃいああああああ!」

 

 ふ、とアデルバートが二人の方へ視線を向けた。その隙を狙ってグールの一体が大口開けて彼に襲い掛かるが、口に銃身をブチ込んで進撃を強引に止めた。

 

「―――死ね」

 

 パン、と空気が籠もった銃弾の発生音。銃弾が口内を通して脳を貫通し、後ろにいたグールの心臓を序でに打ち抜いていた。頭部を撃たれたグールは口を鼻から大量の血をダラダラと滝のように流し、まるで口の中に銃を入れて自殺した哀れな屍の如き姿を晒している。後ろのグールも糸が切れた操り人形のように力を失い、口から血を噴き出して倒れていた。

 

「もう来ちまったか。あの化け物はオレが殺したかったんだけどよ」

 

 ……先程、撃ち殺された者は三人の知人の成れの果て。しかし、もはや感傷など無い。無慈悲に淡々と、一人残らず標的にしていった。ダンは発砲と装填を繰り返し、何度も何度もグールを葬り去る。

 

「断る。某のものだ」

 

 返事をしつつ、斬る。目の前の屍食鬼を斬殺する。離れている敵ならば、魔眼で以って急所を切除した。

 

「いい加減にして下さい! 早く行きますよ!」

 

 殴った直後、グールが破裂した。浄化の魔力を叩き込まれたグールは、灰になって肉を一欠片も残さず爆散する。いっそ見ている者に何が起こったのか理解させない早技で、流れ作業に乗ってすれ違った屍達が次々と浄化されていく。 

 

「―――先生、出てきて下さい! いや、出て来やがれ!!」

 

 皆殺し。一人残らず、皆殺しだった。ダンと露雲、そしてメランドリは自分達が育った施設の仲間達の成れの果てを、斬り、撃ち、殴り、殲滅し尽くした。

 

「凄まじいです。

 素晴しいです。

 喜ばしいです。

 いやはや、感慨深いですねぇ。私が育てたとはいえ、とても優秀な殺し屋に育って良かった良かった」

 

 筋肉質で、背の高い厳つい男。しかし、彼の笑顔は他人を安心させる優しさに満ち溢れていた。今となっては不気味な化け物の血生臭い微笑みだが、昔は子供をあやす人格者の笑みであった。

 

「貴方は、こんな事をして―――何で! 何で笑っていられる!?」

 

「―――化け物になったからです。

 死徒と言う生き物も、中々に爽快な生命体ですよ。この不死性、この吸血衝動……生まれて初めての興奮です!」

 

 全てが変異している。何もかもが狂っていた。血を吸われ頭の歯車がずれた元人間が、其処で楽しそうに笑っていた。

 

「先生……いや、テオドル・ファルタ。血の味は美味いか?」

 

「勿論ですとも。デメトリオ。今は最高に良い気分ですよ、うふ……うふふふふふふ!!」

 

 テオドル・ファルタは聖堂騎士。正確にいえば、死ぬ前までは騎士であった元騎士である。十六代目ロア討伐の際、ミハイル・ロア・バルダムヨォンの転生体に血を吸われて死徒と化し、その取り巻きの一人と成り果てていた。

 ……しかし、その転生体は真祖によって葬り去られた。

 ロアは幾年後に発覚するであろう十七代目の肉体へ転生し、舞台から消えてしまった。

 自由の身になった彼は各地を転々と虐殺し回り、生前の自分が暮らしていた孤児院に辿り着いた。勿論、狙いは実の子供同然であった孤児達の血を吸いたかった為。彼は死徒になり、嗜好が反転し、愛する者を殺したくて如何仕様も無くなっていた。だから、自分を慕ってくれた子供達の血を吸い尽くして、殺してあげたくなってしまった。

 

「死んでしまえ」

 

 ―――もっとも、暴力主義者のアデルバートは育ての親の変化を如何でも良いと斬り捨て、銃弾を撃ち放った。そもそも、昔馴染みをあれ程殺した後となってしまえば、今更この男を殺した所で別段何も思う所は無かったのだ。

 故に顔へ飛来する弾丸は死の象徴であり、絶対の浄化であり―――歯で弾を止める姿は化け物に相応しい。

 だが、ダンは欠片も動揺していなかった。そんな真似が出来る死徒は別段珍しく無く、この弾丸は目暗ましの為のもの。

 早撃ちでは無く、ただ殺意を表しただけのお遊戯で。次の瞬間から本物の殺意を撃つべく高速で移動した。目視不可の銃捌きが刹那を置かずに狂い猛るだろう。

 

「――――――……」

 

 よって―――デメトリオ・メランドリの殺意は簡素。

 敵であると判断したのであれば、それ即ち斬殺による命の奪取。アレを殺害せんと先生を睨み、彼が行方不明になってから開眼した魔眼の能力を発動させた―――!

 まず右肩、次に右肘。

 そして、左太股、左膝、脊髄、首、顎、額、後頭部、右太股、右足首、左足首、右膝、股間、臍、右胸、左胸、左手首、左肩、左肘、右手首、左眼、右目、左側頭部、右側頭部、心臓、左脇腹、右脇腹――――――

 

「お……」

 

 ―――斬。

 斬、斬、斬。斬斬、斬斬斬、斬。斬斬斬斬斬。

 斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬……っ!

 

「……おぉ―――?」

 

 死徒が意味を成さない言葉を呟いた直後、バラバラバラと人型が崩れ去った。ダンが銃を構えて殺し合いを始めたと同時、決着がついてしまった。

 死徒は彼の魔眼を知らなかった。相手の手札を全て知っていると勘違いしていた死徒は、実にあっさりと切り裂かれて死亡した。物理的に何百何千の肉片に変えられた事で、概念など必要とする事も無く圧倒的斬撃が吸血鬼に止めを下した。各急所を念入りに細切れにされ、各関節を丁寧に切り取り、上からハムを切るように横方向へスライスし、縦方向にもスライスした。

 もはや、死ぬしかない。

 よって、復元呪詛も効果を成さぬ程、育ての親を小さなmm単位以下の肉ブロックに変えてしまった。

 

「え。せ、んせ……い?」

 

「おいおいおい!

 テメェ、良くもこんなにあっさり殺しやがったな!」

 

 茫然自失に続く言葉を失くす真心と、もっと苦しめて殺したかったアデルバートが死体を見る。特に時が止まっている彼女と違い、アデルバートは殺意に溢れた目で直ぐ様デメトリオを睨みつけた。

 

「……さぁ、後はもう後始末だけだ」

 

 とは言え、デメトリオは軽くアデルバートを無視した。自分が細切れにした相手を悼むなど何の価値もない事を彼は知っている。しかし、アデルバートの獲物でもあった彼を斬り殺したのは、確かに早計であったかもしれない。

 

「―――っち。貸し一つだぜ」

 

「了解した」

 

「……――――――」

 

 胸に襲い掛かる虚しさは、真心の心を問答無用で抉っていた。狂人のアデルバートは兎も角、デメトリオも先生が死んだ事に悲しみはないように見える。今の彼女では強がっているのか、本当に何も感じていないのか分からないが、それでも無感動な無表情は冷徹な騎士そのものに見えた。

 

「デメトリオ。良いのですよね、これで?」

 

「騎士として、代行者として、この行いは正義だ」

 

「―――人として、ならば?」

 

「親殺しに過ぎない」

 

「……そうですか。

 ああ、やはり貴方は強いですね」

 

 まだ生きているグールや他にもまだ死徒がいるかもしれない、と敵を狩り殺しに向かったアデルバートの背中を見つつ、二人は思い出が死んだ孤児院の中で過去に沈む。

 ―――月は満月。

 吸血鬼の夜に相応しい輝きであり、悲劇の幕に丁度良い。

 この事件を切っ掛けに、デメトリオ・メランドリは更なる鍛錬に狂い、アデルバート・ダンは聖堂教会そのものを窮屈に感じ始め、露雲真心は信仰を揺らがせ始めた。結果、メランドリは強さを恐れられ蝙蝠屋となり、ダンは代行者を抜け出し野に下り、露雲は身分的に一度俗世へ下ったが結局聖堂教会からは抜け出さなかった。

 ……これは二十年以上前の昔話。

 現在ではアデルバート・ダンは名前を奪い取られて死に、露雲真心は籍を入れずともデメトリオ・メランドリと結婚した。そして、アデルバート・ダンの名を奪い取った殺し屋は、彼と同じく第六次聖杯戦争に参加ししていた。




 読んで頂き、ありがとうございました。
 この話に出てくるアデルバート・ダンは、本編のキャラのアデルバート・ダンの師匠の方のアデルバート・ダンとなります。
 このデメトリオは年齢は結構取っているので、活動し始めたのは衛宮切嗣が魔術師殺しと呼ばれたのと殆んど同時期です。なので、現在では五十歳はいっていないけど、四十代後半と言った雰囲気。見た目はまだ三十代前半であるのだが、別に魔術を使わないで素で若い見た目。
 後、余談なんですけど、境界の彼方ってアニメが壺に嵌まりました。このアニメの主人公が眼鏡好きな所と、ヒロインのキャラクター性に中々響くモノがありました。

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