神父と聖杯戦争   作:サイトー

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 もう直ぐ、この小説もハーメルンで掲載して一年。長い様な、短い様な。第二部完結もそろそろ中盤戦の中ごろですので、勢いのまま書いていきたいです。



53.Deepest Fate

 士郎を助けた男が持っている古い自動拳銃、US M1911コルトガバメントの銃口が静かに下された。本来ならば銃弾など効かぬ怨霊を撃ち殺している所を見ると、どうやら弾丸は霊体をも撃ち抜ける特別製であるようだ。つまり、サーヴァントを殺せるように改造されている。それも銃弾の初速度もかなり素早く、本格的な改造が施されていると簡単に分かった。銃弾の一撃一撃が人間の四肢を吹き飛ばし、コンクリートの壁にも風穴を開ける破壊性能。加えて、使い手が気配を殺すのも非常に巧い。英霊や魔術師と言う前提以前に、敵は天性の暗殺者の才を持つ凶手であると理解出来る。

 

「――――――」

 

 そして、銃声が重なり響いた。下していたコルトガバメントを再度上げ、自分を狙って来た悪霊三体と、士郎の背後でお父さんお母さんと泣いている子供の悪霊ニ体を撃ち殺す。その後、直ぐ様カートリッジを交換し、空の弾倉が地面に落ちた。どうやら込められる弾数は七発までらしく、オートマチックピストルとしては少ない方。しかし、銃弾は一撃必殺に近い破壊力を持ち、容易く人間を行動不能にするだろう。

 ……と。衛宮士郎は半ば現実逃避に近い考察を行っていた。

 悪霊は既に皆殺しにされ、この場にはもうセイバーと自分とその男しか存在していなかった。

 

「じい―――さ、ん……?」

 

 拳銃を片手に持ち、自分の生みの親を殺して助けてくれた男を間違える訳が無い。萎びた黒いコートと、無精髭と、少し先が撥ねている黒髪。

 ああ、忘れるものか。忘れる訳が無い。

 最後に見た時と変わらない。全く変わっていない。自分を死から助けてくれた時から、男は何も変わっていない……―――!

 

「そうだよ。死んで以来だね」

 

 男の名は―――衛宮切嗣。

 森の影から、居てはならぬ死人が現われていた。

 

「―――衛宮、切嗣……っ!

 貴方は既に死んでいる筈だ! 偽物め、本当の姿を見せろ!」

 

 セイバーは迅速だった。呼吸を乱す程、急ぎ親子の間に入り込む。士郎の視界にはセイバーの背中が広がり、切嗣は眼前には嘗ての相棒の姿が現われる。もっとも、剣を向けられている様は、流石にパートナー同士であった事など第三者には理解出来ぬ有り様であったが。

 

「家族水入らずの間で、そんなに声を荒げないで欲しいな。セイバー」

 

 らしくない。衛宮切嗣と言う殺戮機械であるならば、殺すべき対象と対話する事自体がそもそも有り得ない。声を出す余裕があるのならば、銃口を向けて引き金を引く。問答無用で敵を抹殺する。

 彼はそう言う暗殺者だ。

 効率を優先し、目的を全うする。

 その油断出来ぬ魔術師殺しが、こうして無駄な事をしているのが恐ろしい。

 必要だから、念入りに殺すのに重要だから。そう思考してあの男はこの場にいるのだと、セイバーは全力で警戒を行っていた。 

 

「何故、この場所に居る……?!」

 

「君が問うのかい? 士郎ではなく、僕と同じ死人風情の屍が、現世で甦った理由を聞くと言うのかな」

 

「貴方は! ……いえ、もはや全て如何でも良い事です。

 ―――敵対すると言うのであれば、私はシロウのサーヴァントとして義務を果たすまで」

 

 一旦頭を冷やし、セイバーは冷静さを自力で取り戻す。自然と衛宮切嗣らしき死人と士郎の間に入り、剣を構えて切っ先を男へ向ける。油断など欠片も無く、一秒で何度も命を斬り奪えるような鬼気を纏っていた。

 

「敵? 敵と言ったのかい、騎士王。さっき君のマスターを助けたのが僕だってことを、もう忘れてしまっている様だ」

 

「―――ふざけるな!

 死人を操るキャスターの庭で出会った屍を、私が信じるとでも思っているのか!?」

 

 だが、セイバーの心中にあるのはそれのみではない。何故なら、士郎の両親が再び自分達サーヴァントとマスター達の争いで殺される場面を見てしまった。生みの親をまた殺される士郎の後ろ姿を見てしまった。嘗ての親を、“衛宮”士郎の親となる人物に殺される光景が―――脳裏から離れない。焼き付いている。自分がこれ程の憤怒に陥っているならば、士郎が果たしてどれ程の狂気に落ちているのか分からなかった。

 

「ああ、成る程。確かに、それはそうだったね。でも、キャスターの傀儡を殺し、マスターを助けた事がキャスター側では無い証明になると思うんだけど」

 

「戯言を。そも、あの時裏切られた私が、本当にそうであろうとも信用するとでも?」

 

「聖杯を君の手で壊させた事かな。でも、次は自分自身の意思で破壊しただろう」

 

 たった一言で―――切嗣はセイバーの境界線を踏みにじった。

 

「……それが! それが戯言だと言うのだ―――!!」

 

 彼女の憎悪は、第四次で切嗣に受けた屈辱に限らない。この今の現状がもはや、許せざる悔恨の惨状だ。溜まりに溜まったこの場面で、彼女にとって導線の発火と言える人物と巡り合ってしまった。

 

「―――……」

 

 それは正しく―――煩わしいゴミを見る目だった。

 この男は、衛宮切嗣はセイバーの事を唯の人殺しにしか思っていない。その大事そうに抱えて、自分の誇りだと語る理想も、其処らの殺人者が人を殺す理由の一つにしか感じていない。

 ……眼で語っているのだ。

 しかし、それはアルトリアも同様だった。

 言ってしまえばお互い様。自分達を罪人だと感じていながら、人を殺すしかないから殺し続けて、こんな世界にまで辿り着いて出会った似た者同士。

 

「……やはり、君とは会話をするべきでは無かった。こんな言い争いにしかならないと、もう十九年前に分かってたんだが」

 

「そうですね。そこは同感です」

 

「―――……」

 

「……―――」

 

 睨み合い、無言のまま視線で殺し合う。彼は退けと殺気で唱え、彼女は去れと剣気で語る。

 

「ふぅ、僕は君に用など無い。退いてくれないか?」

 

「断ります。誰が貴様など」

 

 即答。既に彼女の中では決まり切っているのだ。衛宮切嗣と分かり合おうとする行為が、無駄な徒労であると理解している。そして、それは事実であった。

 共感を覚える部分はある。

 アルトリアも切嗣も、お互いがお互いの苦悩と苦痛を知っている。

 しかし、それが理解出来てしまえば仕舞う程、溝が更に深まるばかり。互いを知れば知る程、許せない思いは重くなるばかり。

 正義の味方を諦めた暗殺者と、国を救えなかった騎士王。

 切り捨てて、見捨てて、見殺しにして、殺し尽くして、挙げ句の果てが今の様。

 ―――まるで鏡を見ている様だ。

 理想に燃えている最中の衛宮士郎を中心の軸にして、理想に燃え尽きた死人の二人は何かを諦めずに現世に甦っている。近親憎悪であり、同族嫌悪であり、つまるところ純粋に相手が嫌いであった。狂う事も出来ずに苦しみ足掻いて生きて死んだ果ての姿が、お互いの今のソレであった。相手を信頼しろと言うのが前提として無理な話で、相手が自分を心底嫌っているのが互いに共感出来てしまうのがより救えなかった。

 

「―――は。はは。あはは、はは」

 

 下げていた銃口が上がってしまいそうだ。意識が戦闘用のモノに移り変わっていく。らしくなく、死んでしまえと罵詈雑言を吐き出しそうだ。

 

「ふふ。くく、ふふふふふ―――」

 

 人間と言う生き物はどうやら、心底狂うまで怒りに染まると笑ってしまうらしい。誇りなど忘れて、衝動のまま斬り殺したくなって可笑しくなりそうだ。

 

「はぁ、君との対話は非効率的だ。冷静に成れないと言うなら、僕はここから去る事にする」

 

 だが、切嗣は殺意を無理矢理納める。どうも感情的に成り過ぎてしまっている。効率を優先して対話を試みたのだが、生前から慣れていない事はすべきではないと後悔した。

 

「―――……要件を言いなさい。まずはそれからです」

 

 衛宮切嗣は断じて信頼出来ない。それがセイバーの決断であり、一種のけじめ。

 しかし、士郎を育てた養父としてなら、アンリ・マユの危機から世界を救った魔術師(マスター)としてなら信用は出来る。それは切嗣も同じで、士郎のサーヴァントであり、自分と同じ殺人と言う手段だが他人の為に戦った英霊としてなら、ある程度の信用をしている。しかし目的の為なら手段を問わぬ暗殺者である限り、そして死が溢れる戦場で誇りを抱く騎士である限り、お互いを信頼する事は永遠にないのも事実だった。

 

「撤退しろ。キャスターを殺すな」

 

「……話になりません。あれは必ず仕留めます」

 

「は。やっぱりサーヴァントでは話にならない。同感だね」

 

「ふ。暗殺者風情が何を言うかと思えば、本当に下らない」

 

 まず、セイバーは切嗣の目的が欠片も理解出来ない。そして、切嗣はセイバーが自分の言葉を聞かないと虚しい確信を得ている。平行線で、無駄な対話だ。よって、それを進展させるには第三者が必要となる。切嗣がそう思い、助ける為とはいえ言い訳の出来ぬ行いをした義理の息子へ、罪悪感で逃げ出したくなる思いを抑えながら声を出した。

 

「士郎。少し、大丈夫かい?」

 

「―――動くな、外道」

 

 見えない剣を首に突き付けた。僅かでも相手が動けば、直ぐに斬首するつもりであった。敵であるなら一瞬で殺害するものも、背後のマスターの為に冷静さを保って理性的であることを意識しているだけ。一瞬で切嗣の決意を踏みにじり、そんな彼女の背へ士郎は名を呼び掛ける。

 

「―――セイバー……」

 

「駄目です」

 

「オレはもう、大丈夫だから」

 

 こうなると何度断ろうとも意味は無い。士郎の頑固さを知っている身として、セイバーは吐き出したい溜め息を噛み殺して剣気を消した。

 

「…………わかりました。

 良いですか、気を許してはいけませんよ。あれは本当に人でなしです」

 

 人間、自分以上に気が荒ぶっている人を見るとある程度は冷静になれるらしい。士郎は混乱し切っていた自分の理性が戻り、現状を把握出来るだけの時間を得る事が出来たのだと判断した。

 

「本当にじーさんは……衛宮切嗣なのか?」

 

「そうさ。僕は正真正銘―――本物の衛宮切嗣だ。

 衛宮士郎の義理の父であり、第四次聖杯戦争ではセイバーのマスターをしていた魔術師でもあった」

 

「何故、この場所に?」

 

「その疑問は当然だ。まぁ、言ってしまえばね、僕は死んでも魂が消えなかったんだ。あの世に逝くことを許されず、この世の地獄に留まっていた。

 ずっと、あの場所―――聖杯の中で死後の魂が捕えられていた」

 

「聖杯の中。まさか……この世全ての悪(アンリ・マユ)―――!」

 

「うん、正解。そこで士郎の成れの果ても知ったし、今回がどれ程狂った聖杯戦争なのかも予想が付いている」

 

「―――アーチャーを!」

 

 英霊エミヤ。あるいは、守護者。正義の味方を目指し、理想を抱いて溺死した衛宮士郎の未来の姿。それを知っていると言う事はつまり、第五次聖杯戦争の顛末を詳細まで知り得ていると言う事。死人であり、この世に居なかった筈の衛宮切嗣が九年前の戦争を知っている等本来は有り得ない。

 ……だが、例外は何ごとにも存在する。

 

「第五次のサーヴァントの殆んどを僕は知っている。中から見ていたからね。

 そこの剣の英霊(セイバー)や他の英霊達は勿論、聖杯の子である復讐の英霊(アヴェンジャー)―――言峰士人の事もね」

 

「全て―――知っている……のか?」

 

「ああ、殆んどの事は知り得ているんだ。今の士郎がしていることも、有り得るかもしれない未来もね。偶然とは言え、あの地獄の泥の中には外部の情報が流れ込んで着ていた」

 

「……見ていたんだな、聖杯の中で」

 

 そこで気付くことが一つ。聖杯の中に居たと言う衛宮切嗣だが、ならばその彼を現世に呼び込んだ人物がいる。士郎は召喚者の存在を悟る、自然ととある人物を一名思い浮かべる。

 

「まさか―――言峰、か」

 

 友人であり、兄弟であり、宿敵でもあり、衛宮士郎にとって例えようの無い神父。信用は出来るが、絶対に信頼は出来ない自分と同じ破綻した異常者。

 聖杯から亡者を取り出し、策を練るような者は神父しかいない。

 衛宮切嗣を自分の所まで案内した黒幕の候補として、一番最初に思い付いたのが言峰士人であった。

 

「……言、峰―――」

 

 衛宮士郎にとって、言峰の名で思い浮かぶのは言峰士人と言う神父。そして、衛宮切嗣にとっては言峰綺礼と言う神父の事であった。

 

「―――ああ、そっちの言峰か。

 取り敢えず……そうだな、僕の召喚した人物は神父では無いよ。士郎が言っているのは、言峰士人のことだろう?」

 

「……それ以外に誰か該当者がいるのか?」

 

 切嗣から僅かな違和感を感じ取る。仮にも長い時期を一緒に生活した親子だ、相手の心情は手に取る様に分かってしまえた。勿論それは、切嗣が士郎に対しても同じことが言えるのであるが。

 

「知人に一人。腐れ縁だよ、切れれば良かったんだが。まぁ、死んだ今となっては如何でも良い事さ」

 

「―――シロウ」

 

 親子の語り合いを、セイバーは唐突に邪魔した。無粋であると思ったが、それでも口を挟まなくてはならなくなった。

 

「およそ百メートル先にて、敵の気配を察知しました。今までの兵士とは違い、手強そうです」

 

 ―――余りにも凶悪な魔の存在感。セイバーがそれを言葉にした瞬間、その敵が殺気を此方へ向けてくるのが分かった。

 恐らくは、挑発。あるいは、強襲。

 気配の持ち主はゆっくりと自分達の方向に歩いてくる。じっくりと距離を一歩一歩確かめる様に縮めてきた。故に、先程の衛宮切嗣は返答を急いでいた。

 

「まだ、士郎には返事を聞いていなかったね。

 ―――君はキャスターを殺すのを諦めてくれるかい?」

 

「駄目だ。あれは危険なんだ、じいさん」

 

「そうだね。いや、士郎ならそう言うとは思っていたさ。けれど、だったら、ここでお別れだ。

 ―――僕には僕の、やるべきことがある。

 だから、死ぬな。生きてまた、冬木の何処かでまた会おう」

 

 苦笑いを浮かべるが、両目に浮かんでいる感情は混沌としていて理解不能だった。後悔と、絶望と、そして僅かばかりの羨望と希望。他にも沢山渦巻いているが、主な感覚としてはその四つ。

 そうして、彼は背後を向けた。

 暗殺者らしくない相手に隙を見せる行為だが、今の切嗣は暗殺者では無かった。理想の為に今、この場所に居る訳ではない。目的の為に効率的に手段は問わぬ外道のままだが、今はもう関係無かった。

 

「英霊エミヤは僕の罪だ。

 衛宮士郎に呪いを残した衛宮切嗣が―――そもそも罰せられるべき罪人だった」

 

「……待て、衛宮切嗣―――!!」

 

 セイバーが声を荒げた。それで確実に此方の居場所がバレたが、所詮は時間の問題で大したことではない。そして背後の脅威を無視し切れないが、この男を逃がす気にもなれない。森の奥底から伝わる後ろの敵は確実にサーヴァントクラスの気配を持ち、眼前の男を逃がすと後が無いと直感が訴えていた。言葉で止められないとなれば、やらなくてはならない。

 ―――選択の時。

 今ならば、衛宮切嗣を斬り殺せる。

 だが、それは、衛宮士郎に親の死に様をまた見せると言うこと。

 彼女のマスターである士郎は、既に切嗣を逃がす方針で決めている。動かないとはそう言う意思表示。もし、それに逆らう機会があるとしたら、今しかない。

 

「―――セイバー、判断は任せる。衛宮切嗣を如何したい?」

 

 つまり、それは衛宮士郎はもう決意を固めているのだと彼女に伝えていた。士郎は信じているのだ、彼を。だが、それと比べれる程にセイバーの事も信じている。

 自分だけで決めて良い事じゃない。だったら、と士郎はセイバーの意思を問う。

 

「……っ――――――」

 

 数秒の間、空気が凍った。セイバーは去っていく切嗣の見て、彼の姿が夜の森に消えて行ってしまう様子を眺めている。今なら、まだ間に合う。

 

「―――敵を迎撃します。マスター、指示を」

 

「敵はニ体だ。伏兵を警戒しつつ、撃破するぞ」

 

「了解しました」

 

 そして、森の影から敵影を確認する。セイバーが剣を構え、その後ろで士郎が弓を構えている。マスターとサーヴァントとして正当な配置だが、その脅威はもはや並の英霊数人レベルの厄介さ。それに対し、敵は堂々と姿を現した。

 この森で休み暇など無い。

 絶え間なく続く襲撃を乗り越え、二人はキャスターの居城を目指していくしかないのだ。

 

 

◇◇◇

 

 

 軍隊で行う兵士の訓練は実に効率的だ。沢山の人を殺す為と言うよりも、如何に戦場で有利な立場に回り、如何に命を長らえて生き残るかと言う部分に優れている。それに加えて大量殺人が巧く行えれば、戦場で人は英雄になれるのだが、其処の所は今は如何でも良い。まずは死なぬ事が兵士にとって先決すべき事柄である。特に傭兵ならば、それこそが一番重要だ。

 

「だー、しつこい。しつこ過ぎんのよ、あの殺し屋!」

 

「はいはい。殺気が漏れるとアレに場所がばれるよ、マスター」

 

 絶賛匍匐前進中の二人は、森の中で土だらけになっていた。まるで鬼軍曹に追い立てられる新米兵士の様だが、死なぬ為には仕方が無い。軍人ではないが軍人以上に様になった姿で、マスターとサーヴァントの二人は森を文字通り這いずり回っていた。

 と、そこで銃弾が頭上を通り過ぎて行く。

 余りにも唐突な即死の使者が頭の上の空気をブチ抜いて過ぎ去って行った。それも此処まで来る途中の障害物全部を貫通させる大雑把さ。どうも物影に隠れても、大体の位置を悟られているらしい。魔力を隠蔽し、気配を殺し、姿を隠しているのに、段々と此方の位置がバレ始めている。

 

「―――アーチャー、早くあれ撃ち殺しなさい!」

 

「いや、無理だって。場所分かんないし。つーかさ、私の視覚外からどうやって隠れてんのか、早くマスターも探ってくれよ―――っとと」

 

 隣で自分と同じ様にうつ伏せになっている凛を見ていたが、銃弾を避ける為に一回転して仰向けになった。その後直ぐ、気配を殺しながらゆっくりとうつ伏せになって凛の近くに転がった。

 

「今度は14時方向からの狙撃だ。どうなってんだかなぁ、ホント。前方から飛んでくるんは分かるけど、発射位置がランダム過ぎる」

 

「……っち。このカラクリ、何か分からないの?」

 

 苛々した雰囲気を隠さず、戦場用に開発した魔力と気配を隠蔽する礼装を弄りながら凛は問う。このままではジリ貧であり、彼女はそう言うのが大嫌いだ。やるならやるで、派手にブチ壊してやりたいのだ。

 

「予想は付いてるけど、ね。まぁ、まだ反撃方法は思い浮かばないんだけど」

 

「ダメじゃない」

 

「愚痴らない愚痴らない。茂みと木々に隠れながら、移動し続けないと死ぬよ。狙撃対策もある程度錬れてるし、身を隠す方法は幾つかある。後はアレの居場所を見付けるのと、攻撃手段だけじゃないか」

 

「分かってるっつーの!

 ああ、士郎とセイバーとは別れちゃうし。こんなピンチに陥って脱出出来ないし、軽くツんでるっぽいわ……」

 

 そんなこんなで凛は時に横になったまま転がり、時に匍匐前進し、移動を続けて位置を悟らせない様に動き続けていた。勿論、彼女を先導するのはアーチャーその人。

 ―――と、危機を身を潜めて逃れられていたのはここまで。

 キナ臭い気配が二人を目指して急速接近している。途中に立ち塞がっていたキャスター傘下の妖怪共を、まるで雑草を刈るみたいに斬り殺しながら近づいてくる。造作もなく、敵を殺し尽くす何かが迫って来る……!

 

「―――バーサーカー」

 

「……え、マジ?」

 

「マジもマジ。本当に本当さ、凛」

 

「ホントにもう、こんなになるなんて―――何事(ナニゴト)なのよ!」

 

「―――大事(オオゴト)さ」

 

「うるさい!」

 

 顔を突き合わせて言い合う二人。アーチャーは橙色の右目をキョロキョロと動かし、狂戦士の凄きを索敵していた。どうも現状は自分達に分が凄く、本当にとても悪過ぎる。

 自分の位置を察知させない遠距離狙撃。

 対し、気配も魔力も消し、姿を隠しているのに見付け出す索敵精度。

 加え、銃弾の軌道はランダムで相手に軌道を慣らさせず、常に臨死の気配を与える圧迫感。

 更に、この死地に炙り出す為に護衛の為のバーサーカーまで、自分達を殺す為に即時投入する決断力。

 もう隠れるメリットが無い。敵が近いならば、迎撃体勢を取らねば為るまい。あのバーサーカーが殺す為に接近戦を挑むとなればアーチャーは凛の楯にならねばならず、逆に凛はバーサーカーの攻撃範囲から逃れる必要がある。

 

「―――殺しに来たぞ、弓兵。さぁ、もう一度現世で死ぬ時ぞ」

 

 バーサーカーが到達したのは一瞬だった。魔物を殺しまくったのだと、血濡れの魔剣を見れば凛は直ぐに分かった。それによって疲労しているかと思えば、逆にバーサーカーは敵の命を刃で啜って魔力を貯め込んでいる。

 アーチャーの気分は憂鬱そのもの。

 対狙撃戦、対近接戦。そして、マスターの護衛も彼女は同時に行わなければならない。

 

「―――行ってくる。

 マスターは隠れながらで良いから、うまく事を運んでくれ」

 

「死なないでね」

 

「了解さ。策はあるから、期待して良いよ」

 

 そう言って、アーチャーはバーサーカーの前へ躍り出る。既に武装は完了させており、刀を正眼の構えで体勢を整えていた。

 

「ほう、一人か。主を逃がす気か、貴公。それとも伏兵にでも使うのかの?」

 

「さぁて、ね。そんなのどっちでも良い事でしょ、不死身のアンタだったらさ」

 

 気合いと共に彼女は魔力を一気に放出させる。敵の索敵のタネは何となく読めてきたので、その対策の一つとして場を魔力の渦で混沌とさせた。空間が歪んでいき、力場がグチャグチャに捻じれ狂ってしまう。

 そして、歪に軋む音がしたと同時に結界が張られた。

 バーサーカーは、この結界を張ったのが敵のマスターかアーチャーのサーヴァントか分からぬが、魔術であると言う点からマスターが何かをしたのだと判断した。場に満ちている魔力は混ざり過ぎて、誰の魔力の気配なのか判別がし難いが、発動したか否か程度はバーサーカーでも感じ取れる。

 

「魔剣ダインスレフの主とくれば、使い手の真名はホグニ。そして、とある女神に貰った魔剣の伝承とくれば、アンタの不死性も簡単に説明がつく。

 ―――アンタの肉体、それ自体が不死の正体。

 女神の欲得によって不老不死の霊薬を騙されて飲んだ伝承が、不死身の宝具の真名なんだろう?」

 

「フハハハハハ! 正解、正解よ!

 良くぞ、我が宝具の真名を見破った。実に良い、素晴しい、最高ぞ!」

 

 ―――永劫なる屍骸(ゴッデス・カラミティ)

 宝具の真名。狂戦士が持つ不死身の正体。肉を切り刻まれようが、骨を断ち斬られようが、問題無くバーサーカーは活動する。復活すると言う工程さえ要らず、彼は死んだままの肉体で殺し合いに溺れて戦う。

 

「女神に騙されて報復の剣を使い、その女神に不老不死の呪いを与えられた英雄。呪われた剣を振い、呪われた体で戦い、閉じ込められた島で永遠の時を生きる呪われた王。

 ……成る程、それがアンタの正体になる訳か。

 哀れだね。そこまで呪われて、英霊になる前は死ぬまで戦い続けて、まだ命が奪い足りないのかな」

 

「……フ。我はあの地獄で結局、誰の命も奪っておらんよ。あの島では全ての者が不老不死の呪詛で、死ねぬ肉に果てたのでな。

 故に―――奪い足りんなぁ。

 死闘に決闘と戦いは飽きる程の数を味わったが、殺し合いは忘れてしまったわ。命を奪うのも、奪われるのも、何の実感もありはせん」

 

「……っ――――!」

 

 濃厚過ぎる呪詛と、殺意と、剣気。英霊と言うヒトの領域を越え、もはや彼の感情が呪いと化してアーチャーを襲っている。想うと言う思念が呪いになって、剣を犯して、魔力が黒く澱んで腐っている。

 

「だからのぉ、我に思い出させてくれ。死の触感を与えてくれ。

 あの島に存在していたのは生きていぬが故に、死ぬことも無い屍だけよ。死んだまま動ける死体だけよ。もう命を何処にも、何にも実感出来ぬのだ。

 故に―――」

 

 殺し合い。ここからは、並の殺し合いではない。相手の命を奪い、一秒でも長く死地に生きていられるか。バーサーカーがアーチャーに科すのは、そう言う問答無用な死闘であった。

 

「―――頼むぞ、アーチャー。我を死ぬまで楽しませよ……!」

 

 呪われた亡国の王は―――狂気に染まる。狂った笑みを浮かべ、弓兵に斬り掛った。上段から大ぶりな分かり易い剣戟は、見抜かれ易いからこそ最速で破壊的な一撃を生み出せる。

 

「…………―――」

 

 ―――己が専心、全てを絶殺に絞る。

 アーチャーは明鏡止水を以って、大嵐を越えた狂気を斬り殺さんと余分な自己を殺した。普段の軽口を消し、静かに澄み切った瞳で相手の駆動を完璧に読み取った。

 

「―――ハ」

 

 氷を滑るかの如き受け流し。刃の上を魔剣が通り過ぎる。刹那、交差した視線からバーサーカーは、相手の透明な目を見て時間が停止した錯覚を得る。

 彼女の左眼は、余りにも澄み切っている。

 どれ程の長い年月、自己を鍛え、技術を修め、精神を練ったのか。

 バーサーカーが笑みを溢してしまうのも無理は無い。無骨でありながら流麗で、大胆でありながら精密。そんな矛盾した動きが、完璧な技量で許されている奇跡。体感時間を限り無く零にしなくては、初動さえ見切れぬ素早さは、剣を修めた武人として驚愕を越えて感動してしま得る。体の速さではなく、技の迅さで敵を殺す絶技であるのだ。

 しゅるり、と刃が胴を狙って流れた。

 彼が魔剣で防いだ直後、喉を狙った突きが既に打たれている。

 身を捻り避けながら、バーサーカーは剣を横払い。広範囲に広がる斬撃をアーチャーは紙一重で後退して避けているのに、敵が剣を振り終わった瞬間に間合いを詰めた。

 斬撃とは突き詰めれば、速さだ。

 相手よりも早く、相手を斬ることに終始する。筋力や身長体重に左右されるが、斬り殺せれば勝利。その為の技であり、その為の刃だ。アーチャーの剣技とは、それを果てしなく突き詰めた頂きの業。生き残る事を、何より斬り裂く事を、徹底して極めていた。

 ……もっとも、それはバーサーカーにも同じことが言えるのであるが。

 

「―――ヌゥア……!」

 

 既に狂戦士は宝具の魔剣は解放済み。魔物を殺して血で汚し、狂化も行使して心を滅し、身体を暴走させている……!

 斬り合いは加速し、一秒の間で数え切れぬ刃が交差し、殺気が錯綜する。幾度も、幾十度も、そして数秒後には幾百度の死が踊り狂った。

 

「くぅ……っ―――!」

 

 バーサーカーは魔剣を片手で振るい、更に左手も打撃武器として酷使している。通常の英霊ならば、余りの身体機能上昇で骨肉が粉々になるほどだが、彼からすれば何ら問題は無かった。

 上段から落ちてくる魔剣の刃を打ち落とし、返し刀で頸を撥ねんと追うも、バーサーカーは身を翻す。そして、左腕の肘が回転した遠心力を加えながら、即死の破壊力を有して彼女を襲った。アーチャーは刀の柄頭で軌道をづらす。そのまま斬り込むも、バーサーカーは圧倒的な反射神経で剣戟を掻い潜った。

 ―――弓兵の背後に、狂戦士が回り込む。

 身体機能は絶望的な差があり、彼女が追い付けるのは敏捷性程度。それも魔剣の効果と狂化のスキルで、段々と差が話されていく。加えて敵は不死。そして、もはや首筋を狙って斬首の一撃が繰り出されている。そもそも、この狂戦士は真正面から戦いを挑んで良い相手ではないのだ。

 

「……ヌゥ」

 

 ―――脇腹に刺突が掠る。逆手持ちにした刀で以って、刃を刺し込んだ。

 バーサーカーは狂戦士らしくない思考で以って、相手に場所を誘導されたのだと悟る。背を見せると言う隙を晒した上で、曲芸じみた背面刺しをアーチャーは狙っていた。その時に生まれた斬撃の隙を縫い込む様に、アーチャーは敵の斬首を避ける。相討ちなど真っ平御免で、ある程度の距離を作る為に間合いを離した。

 

「お主、前よりも斬り合いが巧いの。あの時の剣技は偽りと見える」

 

「冗談。今も前も本気さ。ただ単純に、今はテンションが違うってだけ」

 

 一撃一撃が素早く、斬撃が鋭い。前回にバーサーカーが対峙した時よりも技が迅いのだ。一対一と言う状況で且つ危機的状況と言う場面、アーチャーは追い詰められた時こそ直感が働く。

 

「ふむ、厄介な……」

 

 言葉とは裏腹に、とても楽しそうに狂った微笑み。

 

「……ならばこそ―――我を殺してみせろ、抑止の化身よ」

 

 バーサーカーは敵の真名がまるで分からない。故に思い付く候補が存在している。

 ……抑止力とは人間を生贄に捧げ、英霊に昇華させ、守護者にする機械的なシステムである。恐らくは、あのアーチャーもそうではないかと睨んでいた。彼の狂気がそう囁いている。狂戦士は敵が抱いている憎悪と絶望が手に取る様に分かり、それがどんな種類の感情なのか肌で感じている。

 このアーチャーには、英霊の輝きが無い。生前の自分が味わっていた様な、果ての無い無限地獄に落ちた者特有の、磨り減って澱んだ意思で共感できるのだ。

 

「―――あは」

 

 アーチャーは、気付かれた事に気が付いた。自分が如何なる英霊なのか、呪われ切った王様だからこそ、この内に燻ぶる呪いを視られたのだ。

 死ね、死ね、死ね。救って死ね。救う為に殺せ。

 粘り付く断末魔。救われたい、と唄う人々。向けられた本人からすれば、ただの呪いに過ぎない。なのに今の自分が持つ、この力、この武、この術、全て殺したアイツから教わった宝物。

 生前も死後も抑止として利用し尽くされて、全部磨り減って分からなくなって、彼女は抑止そのものに成り果てていた。抑止の化身とはつまり、生前も死後もそうでしか無かった彼女の蔑称。思い出しただけで、言われただけで、相手を意味もなく殺したくなる。

 

「フフ、くふふ。死んじまいなぁ……ッ―――!」

 

 突き。最短最速で刺殺する。アーチャーは何の拍子も無く、一瞬で間合いを無くして踏み込んだ。無論、バーサーカーは迎え撃つ。剣を持たぬ左の手の平で剣先を刺し込ませ、彼は一気に根元の鍔部分まで突き進ませた。

 そして、圧倒的な握力のまま相手の刀を握り締める。手の平に風穴が開いているのに、それを気にすることなくバーサーカーは思いっ切り武器を固定させたのだ。傷穴が開き、血が流れ出て、アーチャーの手もバーサーカーの血流で赤く染まっているにも関わらず、彼には欠片の躊躇もない。

 刀の鍔と柄を強引に壊れる程強く握り―――狂戦士は弓兵の右手を捕まえた。アーチャーを逃げられない様に捕まえた。

 

「――――――」

 

 理性を失わず、狂気のまま斬殺を尊ぶ。狂戦士は純粋な意味で、狂気に堕ちている。理性が無いから狂っているのは無く、正しく狂喜を楽しむから狂っているのだ。

 故に―――この死の時程、狂気を実感出来る時は無い。

 敵の武器は一つ。それを封じる。片腕も封じている。つまり、死ぬ。殺せる、死なせられる。魔剣を振るい、新たな生贄の血を啜ろう。バーサーカーは敵の両目を見詰めながら、一切躊躇わず死を与える……!

 

「―――ヒ」

 

 引き攣った笑みを彼女は浮かべていた。まるで死ぬ直前の死刑囚……の姿ではなく、正しく死刑囚を殺害する処刑人の如き邪笑であった。彼女は剣が当たる刹那、既に殺人技巧を完成させていた。

 彼女は右手を掴まれた時にバーサーカーの腕を流しながら引っ張り、彼の体勢を少しだけ揺らした。更に剣を振った時の力の方向性を利用し、右脚で相手の左足を絡み取る。よって体勢が崩れ、間合いが零にまで接着した。その時点で彼女は剣戟を避け、攻撃を行使する機会を強引に捥ぎ取った。

 瞬間―――飛躍し、左肘と左膝が首を噛み砕いた。

 ギロチンを模した形で相手の命を一気に壊す。サーヴァントであろうとも、首の骨を砕かれれば死ぬしかない。

 

「……グォ―――」

 

 生理的に発する呻き声は生々しく、断末魔の音色を持っていた。しかし、バーサーカーに死は無い。この程度ならば死なない。だが、流石のバーサーカーでも首を砕かられれば隙を晒す。その合間を狙い、アーチャーは絶殺の為の手段―――宝具の開示を決意していた。

 その肉体と精神と魂ごと、細胞と魔力と元素を残さず消滅させてやらんと真名を解放する―――!

 

「―――甘いのぉ」

 

 グルリ、と左腕を強引に回した。その先に居るアーチャーを地面に叩きつけた。バーサーカーは自分ごと背中から一気に倒れ込み、アーチャーは仰向けに転がった。

 

「……カァ、ア――――!」

 

 耐久性が普通のサーヴァントよりも低い、それこそ魔術師のサーヴァント並に肉体が弱い彼女にとって危険な衝撃が身を通り抜けた。物理的な攻撃では死なない霊体のサーヴァントとは言え、衝撃を受けた肉体にダメージはある。肉体に欠損は生まれず、霊核が砕かれないだけで、死なないだけで活動停止に追い込むには十分だ。ショックで一瞬、心臓が止まり、呼吸が止まり、心肺機能が停止する。筋肉が弛緩する。そんな程度ならサーヴァントは死なずに現界可能だが、戦闘を行うのにラグが生じるのは防げない。

 敵の様子を悟り、バーサーカーは左掌から刀の刃を引き抜いた。今はただ、可及的速やかに相手の命を奪う事に専念する。彼は勢い良く立ち上がり、そのまま魔剣を倒れ込む弓兵の心臓に突き立てた。

 

「ぬぅ、しぶとい……」

 

 ―――魔剣を弾く。開放された刃で以って、死から逃れた。アーチャーは刀を振った勢いを殺す事無く、地面を転がって距離と取りながら立ち上がった。

 アーチャーは停止した肉体に魔力を叩き込み、危ない所で復活していた。もう少し遅れていれば、弓兵は串刺しにされていた事だろう。

 

「―――……っく。やりずらいな」

 

 殺した程度では止まらない。一殺くらいでは隙は作らない。バーサーカーは自身の能力を知り尽くしているが故に、死をも利用した戦術を先取りしている。生前に死に慣れている所為か、死ぬ時の苦痛や衝撃では彼は戦いを停止などする訳がないのだ。

 前回の戦いで魔槍によって心臓を抉られた時、再び動くまでに僅かばかりの遅延があった。しかし、それはブラフであったのだ。一回でも殺せれば隙が生まれると錯覚させる為の演技だった。ランサーとの死闘も本気であったが、あれはあれで死んだふりをして宝具を解放し殺す為を行った演技であると同時に、あの戦いを見ていたサーヴァントを騙す為の演出でもあった。

 

「死んでいても動けるのね、アンタ」

 

 バーサーカーは戦闘続行のスキルを持つ。宝具・永劫なる屍骸(ゴッデス・カラミティ)との相性は非常によく、そもそも戦闘続行スキルは死に慣れたバーサーカーだからこそ最高峰のランクを有している。

 殺しても死なず、死んでいるのに動く。死んだまま戦い続ける。

 血濡れた魔剣で命を啜り、不死身の肉体を持ち、霊核を殺されて死んでも彼は消滅しない。

 

「―――是なり。

 我は生無き亡者故、死なず朽ちずに動く屍よ」

 

 そして、やっとアーチャーは、止まっていた心臓を動かせた。魔力で心臓に刺激を与え、無理矢理動かせていたが、叩きつけられた数秒後に漸く心肺機能が復活する。勿論、バーサーカーは掌の風穴と砕かれた首の骨を蘇生させていた。

 

“マスター、バーサーカーかなり強いよ。早くしないと消耗戦になる”

 

“分かってるわよ。もう少し頑張んなさい。こっちもこっちで、直ぐ準備を終えるから”

 

“宜しく。結界と魔力の散布で敵さんの狙撃は止まったから、予定通り進めておいてね”

 

 アーチャーはライン越しの念話を切る。マスターの遠坂凛は、予め練っておいた策の一つの通り、無事行動を続けられているようだ。ならば、安心だと彼女は敵に集中し続ける。

 

「―――さて。ここからが正念場かな」

 

 気合いを入れ直す。再度、アーチャーは刀を正眼の構えと取り直した。狂気と剣気がぶつかり合い、殺気が結界内を充満させていく。

 ……殺し合いが再開された。

 制限の無い無尽蔵の命を持ち狂戦士を相手に、弓兵は絶望的な戦いに身を投じて行った




 バーサーカー、暴れまくりな回でした。一番戦闘が書き易いんですよね、バーサーカー。切嗣は切嗣で行動している最中であり、暗躍しているグループも色々と策を張り巡らせている最中です。そして、切嗣が持っている銃でありますが、これは現世で購入してきたものです。そして、今回の話で設定ミスがありましたので修正しておきました。前回の戦いでアーチャーが二刀流で闘っていたと言う変てこな描写があったので、本来のモノに修正して置きました。
 後、キルラキル面白い。
 そして、攻殻機動隊の新作に嵌まっている最中です。冲方丁の小説を読んでいる身として、攻殻好きな自分としては良いコラボ過ぎて死にそうでした。サイトーの名前も、この作品のキャラからなので、これからのスナイパーなサイトーさんの活躍に期待したいです。でも、新作になって一番キャラ変わったのってサイトーさんだと思うんですよね。

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