神父と聖杯戦争   作:サイトー

66 / 116
 PS4が欲しいこの頃。ディープダウンっていうゲームが凄く楽しみ。アクションRPGで、更にダンジョン探索してお宝探してボスを倒す。こう言うキングスフィールドチックな王道ファンタジーが出るのが最高です!


55.アインツベルン城攻略戦線

 完璧に城塞化された城。森の中に君臨する災厄の砦。その中の何処かの一室で、丸テーブルを囲んでいる三人組。一人はキャスター。そのマスターであるエルナがキャスターと会話し、メイドのツェリは静かに作業に熱中していた。

 

「これは酷いですね。見て下さい、マスター。

 ―――ほぼ全てのマスターとサーヴァントたちが、此処を目指して進軍して来ますよ」

 

 水晶玉から空中に映像が浮かび上がり、まるでテレビ画面を見るかの如く監視映像が映し出ている。情報網から送られる映像と、現在位置からして、この城に一番近いのは衛宮士郎とセイバーである事が分かった。そして、他の陣営は混戦とかした戦局で、騙し騙され、不意打ちと闇討ちの応酬と化していた。

 

「あのセイバーは昔の情報から推測すれば多分、騎士王アーサー・ペンドラゴン何だよね。なんつーかキャスター、この城は聖剣解放に耐えられんのか?」

 

 資料で第一次から第五次までの英霊たちの姿形と真名は把握していた。とは言え、それはアインツベルンが知り得る範囲での情報であったが、第四次において自陣が召喚したサーヴァントは流石に揃えられていた。

 なので、エルナスフィールはセイバーを観察し、真名を推理していた。当たっているか如何かはまだ分からない為、情報収集をして確かな証拠を得なくてはならない。

 

「騎士王の聖剣となりますと確か……エクスカリバーでしたか」

 

 キャスターは西洋の英霊では無い。本来ならば冬木の聖杯戦争では呼ばれない地域の伝承出身。しかし、座に招かれた者として、時代と国々を越えた知識を所有している。故に、生前では知り得ぬ聖剣エクスカリバーも知っていた。あの威光を目の前にすれば、自然とキャスターも敵の正体を看破する。

 

「まぁ、ここの城壁なら大丈夫ですよ。内部から放射されると危険でありますが、外側から撃たれるのであれば防げます。

 この砦の壁には対魔力、対物理は勿論のこと、各種対応の障壁があります。全面的な擬似宝具化が完了しています。また、空間そのものを外部と遮断出来ますので、一撃だけならば必ず防げるでしょう」

 

「成る程。行き成り外から一掃される心配は無いわけだ」

 

 ……そこで、カタカタとキーボードを叩き続けるツェリに、エルナとキャスターが視線を向けた。イヤホンを耳に付け、自分で皆の為に入れた紅茶を即席魔術で飲む度に温め直し、更に絶妙な味付けがされた自作クッキーを齧りながらメイドは死んだ魚の目で作業に練り込んでいた。ついでだが、パソコンから流れている音楽のリズムにノッテいるのか、体を微妙に揺らしてちょっとだけ楽しそうだ。

 

「いけません。其処じゃないです。全然駄目です」

 

 カタカタカタカタ、と不気味な程の高速連打音。カチカチカチ、とマウスのクリック音がうるさく鳴り響く。文明機器に駄目駄目な魔術師には珍しく、ツェツェーリエは機械に大変強かった。と言うよりも、そう言った電機機械や科学技術がかなり得意で大好物。アインツベルン家は錬金術の大家であるが、ツェツェーリエはアトラス系統の錬金術にも手を出している。

 

「うー……失敗です、これは」

 

 何時もよりも表情豊かなツェリが、楽しんでいるゲームで操作を失敗した子供の様に唇を尖らせた。無表情がデフォルトな彼女だが、プライベートならば実際は表情豊かな部類の人間。楽しければ笑うし、悲しければ目を細めてしまう。

 そして、パソコンを弄る際に独り言が癖になっているが、魔術師ならばではの精神統一法の一環でもある。

 

「何処を失敗しんたんですか? ツェリ殿」

 

「いえいえ、失敗と言う訳ではないのです。しかし、巧く駒の誘導が出来ません。中々実戦は、シュミレーションのようにはいかないです。

 ……それにまだ、衛宮士郎とセイバー以外に強い札は切っておりません。しかし、今使っております量産型の式神では、やはり異常に能力が高いマスターたちにも通用しません」

 

 手駒の数に限りがある。兵士の役割や種類も様々。巧く配置しなかれば、本陣まで来るのに敵を弱らせる事も出来はしない。

 そして、こくりとツェリが紅茶をもう一杯飲む。そして、話掛けられたこと彼女はイヤホンを外し、キャスターの方に死んだ魚の目を、釣り立てで生きてる魚くらいには輝かせて言葉を続けた。

 

「けれどアナタの式神分身、本当に良い手駒です。ここで指示するだけで、自由自在に動いてくれて実に楽であります」

 

「フフ―――もっと褒めても良いのですよ」

 

「はい。アナタはとても素晴らしい」

 

「すみません。真顔でそう言う台詞、言わないで下さい。ボケ殺しな返しをされると恥かしいですね」

 

「そうですか? でしたら、次回から気を付けます」

 

 エルナは仲の良い二人の従者を観察する。魔術談義で良く熱中し、城と森の罠作りも二人は冗談を言い合いながらサクサクと作り上げていた。キャスターが召喚されて以来、相性が良いのもあったが、時間が経つごとに仲が深まっているように思える。

 自分とキャスターも相棒としては、他のサーヴァントとマスターのコンビよりも良い関係だと思えるが、キャスターとツェリのそれも自分に負けずに良い雰囲気だ。ふふふ、ははは、とかそんな笑い声に似合う空気が形成されていた。

 

「……爆発すれば良いのに―――」

 

「如何しましたか、エルナ様。何か気になる点でもありましたでしょうか?」

 

 小さい声だったので聞こえたには聞こえたが、ツェリはエルナの言葉が分からなかった。

 

「んにゃ、何でも。それよりさ、戦局はどんなもんさ?」

 

「今のところ脱落者はまだ。今回のサーヴァントとマスターは、どうやら中々のやり手達であるようです。

 今の段階ですと、アーチャーとバーサーカーの殺し合いに乱入しようとしたライダーでしたが、それをランサーが結果として防ぎました。そこで此方の兵を使って戦闘に横槍し、膠着状態にしています。

 良い具合に消耗してると思うのですが、ライダーの略奪結界は逆に魔力を補充しながら戦闘可能な長期戦特化の宝具です。思う様に傷めつけられません」

 

 ツェリは淡々と、本の説明を音読するような口調で報告する。

 

「ですが、ランサーには無視し切れない消耗を与えられるでしょう。それにアーチャーとバーサーカーも互いに潰し合い、そこそこ弱っているみたいです。

 加えて、セイバー陣営とアヴェンジャー陣営ですが、此方はそれなりにってところですか。アヴェンジャー陣営は正直、あの宝具を使わせ続けて弱体化を狙うしか無いです。そして、キャスターが操る分身でセイバー陣営には精神的ダメージを与えられましたが―――例の侵入者によって立て直されました」

 

「……あー、あの正体不明か。他にも三匹いるけど、あれって何なんさ?」

 

「―――間桐ですよ。あの者達、どうも悪巧みをしに此処まで来たみたいですね」

 

 キャスターがざっぱりと断言する。邪悪な瘴気に、纏わり付く不快な深い気配。彼の生前でさえ、ここまでの怨念は存在していなかった。その圧倒的な邪気が、サーヴァントさえ寒気で身を震わせる鬼気が、あの魔術師達から発生していた。

 

「やー、そりゃ分かってんだ。間桐家って奴は、ウチのアインツベルン並にキレてるイカれた家系だし、魂の髄まで腐らせてんだろーよ。

 けどま、マキリ・ゾォルゲンが確認出来ないって事は、既にあの家は“そう言う”事な筈。

 それでも尚、サーヴァントの召喚が確認出来ない現当主間桐桜がヤル気満々って事は―――つまり、あの魔術師は自分に勝機があると確信してるってこと」

 

「そんな程度の事は、この我々が建てた“処刑城”に来た時点で、それなりの勝算があるのは分かりますよ。そして、相手が如何に自分達を攻略して殺そうとしてくるのかも、同時に分かっています。けど、まぁ……私もエルナ殿と不安は同じくしていますね。

 なんせ、あれは恐ろしい。

 巧く言葉に出来ないんですけど、強いて言えば予感です。叩けば、蛇と鬼が群れを成して出て来そうで。戦えば、死ぬよりも屈辱的で苦痛な最期を迎えるだろうと―――そんな変な寒気がある」

 

 キャスターの予感、つまり不吉な未来を透視する。確かな未来像は直視出来ないが、彼の視界には邪悪に笑う“間桐桜(黒い悪鬼)”を幻視していた。

 

「取り敢えず、今は計画を進めましょう。エルナ様とキャスターも不安点は多々あると思いますが猶の事、今は万全を期するのが重要です」

 

「それもそうですね。考え得る最悪に備えて、出来る事は全てしておきますか。頭の中通りに敵を動かすの、中々楽しいですし」

 

「おうよ! その調子。けどさ、敵方を良い具合に誘い込めた。今んところは順調だぜ、全くよ。

 街で隠れていたアサシンもこっちのお祭り騒ぎに来たから、森ん中にいるの見付けられたし。エミヤとセイバーらには掘り出し物の“残留思念体の式神”を当てがってやったし。良い感じじゃね」

 

 エルナが言った残留思念体の式神。つまり、現世に残った土地の記録から再現した幻像を、式神に取り込む事で実像にして使役する。これはキャスターが生み出した本物の魔であり、現在の魔術師では術式を思い付く事も出来ない鬼神の具現であった。

 

「隠れていたアサシン……ですね? でもアレ、ヤバいですよ。

 気配遮断に加えまして、呪術で隠蔽工作しています。まぁ、どんな隠蔽方法で隠れているのか手段を絞って、それぞれ専用察知術式で細工すれば、私の警戒網では無意味ですけどね。でも、それほど警戒して、やっと見付けられる程。この本拠地でなければ、探りを入れるのは不可能です。

 そして、特にマスターがイカレています。あんな濃厚な呪詛を持つ魂、この“眼”で初めて見ました。それに礼装の補助でアサシン並の隠れっぷり。このマスターとサーヴァント、正直関わり合いになりたくないですねぇ。誰か他の者が殺してくれると有り難い」

 

 今まで正確に姿を探せていなかった陣営、アサシンのサーヴァントとそのマスター。

 

「身形からして、アサシンの真名はハサン・サッバーハの一体で当たりと考えられます。マスターの方も姿を参照にし、前回の監督役。名は確か、言峰士人であったと思われます」

 

 メイドの情報を聞いて、主であるエルナは悩んだ表情を浮かべる。

 

「……言峰士人、ねぇ。そいつってアレでしょ、犬殺しだったっけ。

 それに確か殺人貴と正義の味方さんとも知人だったような。死神と剣製との因縁は、色々と有名だから。アインツベルンなんてところにも、噂話がちらほらと流れる程だったし……」

 

 言峰士人。恐らく、今回の聖杯戦争で一番狂っている人物。犬を殺そうと考え、本当に実行すると言うだけでもはや人間だとか、魔術師だとか、英霊だとか、そう言う枠で考えてはならない。化け物の中の化け物であり、サーヴァントも関係無い真実の怪物。

 エルナは正直、あの神父が恐ろしい。

 前回の戦争でアインツベルンの聖杯に勝ち、裏切り者の息子である正義の味方と戦えるのは、同じマスターとして憎悪と歓喜で心が震える。そして、他のマスター達も自分と同じ参加者だと考えられるのに―――言峰士人だけは駄目だった。それは、神父が過去にやった狂気の産物に対する思いだけではない。画面を挟んで見ただけで、怖かった。だって、ヒトのカタチをしている生き物が、あんな何も無い空白の眼をしてはならない。感情が死んでいるのではなく、存在していない。今この瞬間、世界に存在している実感なんて無い筈なのに、凶悪な意思に溢れた強い存在感。

 あの虚ろな暗闇が、あの何も無さが、アヴェンジャー(殺人貴)以上の死神に見えてならないのだ。言わば、確信がある直感。

 多分、既に全ての参加者を皆殺しにする算段が付いている。此方はキャスターと言う本物の策士が抹殺手段と生存計画を隙なく、無駄なく作っている。だが、あの神父は楽しみながら策を練って戦争を生き延び、殺したり、殺し合う全員を娯楽用品にして―――最後まで生き残る。そんな予感がエルナにはあり、ツェリもラインでそれを感じ取っている。そして、キャスターも印象は殆んど似た様なものだが、それでも自分が勝つのだと決意を下していた。

 

「……加えて、我々がイレギュラーで召喚枠にした八体目。そのアヴェンジャーのマスター、美綴綾子の師でもあった代行者です。

 その後はあの執行者が二代目の師になったそうですが、其処ら辺も色々と絡み合っているようです」

 

 その言峰士人の弟子であった美綴綾子。ツェリからすれば、要注意人物ではないマスターなど有り得無く、全てのサーヴァントが埒外の強敵揃い。前回の監督役であるこの男が今回のマスターの参加者に関与しているのは十分に知れているが、多分、この女が一番言峰士人に近い。メイドにとって主人を殺すかもしれない相手二番目の危険人物。

 

「複雑だなぁ。それに美綴綾子って、あの“盗賊”だろ? まぁ、聖杯をぶん捕るってのも分かり易いけど、知り合いが多い今回の殺し合いで、本気出してんだか如何か。腑抜けてんなら油断してる所、ブッスリさせたいけど」

 

「―――それは無いかと。彼女は代行者と執行者から教えを頂いた魔術師であります。凶手として考えられる限り、最悪の部類だとワタシは考えております」

 

「ですよね、無理っぽい。んじゃ、計画通り嵌め殺すか」

 

「それが宜しいかと。キャスターは何か、意見はありますか?」

 

「……兎も角、今は欲張りすぎず、深入れし過ぎず、慎重な判断が重要ですね。相手の手を丸裸にしてからでも、十分に間に合いますので。その為に今回は態々、こんな騒ぎを陣地で開いた訳ですし。

 現状、隠れている者も含めた全て、森の中では我々の支配下。空中も、地中も……例え、結界内でも異相空間でも関係ありません。宝具を使われても問題ありません。スキルも無意味です」

 

 ここはキャスターの中の胃袋だ。文字通り、アインツベルンの森は異界に塗り変わっている。ありとあらゆる可能性を考え、例え魔術だろうと、対魔術宝具だろうと、気配遮断用礼装だろうと、直死の魔眼だろうと、仙人の神通力だろうと、もはや隙間など無いのだ。

 ……何せ、キャスターの宝具で森は括られている。

 日ノ本最強の陰陽師が生み出した完全な結界は、知名度補正や地脈の相性も抜群となれば無暗矢鱈と凄まじい。もはや神域の要塞で、キャスターの為の祭壇。城は既に宝具と比較可能な“概念武装”と化し、夜の森は“固有結界”に匹敵する術者の世界。

 と、エルナは色々と現状の有利さを理解していた。殆んどのサーヴァントの真名を把握し、一番理解不能だった言峰士人の手の内を段々と暴けている。だからこそ、疑問に思った。何故この男は―――

 

「―――ってかさ。何でか分かん無いけど、キャスターは真名を素直に教えちゃって大丈夫なん?」

 

 安倍晴明。それがキャスターの真名。日本で知らぬ者は居ない伝説の陰陽師。数多の伝承を持ち、様々な書物に登場する平安時代の英霊だ。

 それを敵にばらしてしまう危険性。そんな、当たり前な不安が吹き出た。ツェリもエルナと同じで、らしくない余分だと疑っていた。

 

「ええ、まぁ。嘘の真名を言うのも良かったんですよ。道満の野郎とか、良い所を狙って鬼一法眼とか、如何にもなキャスターのフリも出来ました。

 それに正直な話、敵の立場になって考えますと、開催元のアインツベルンが態々キャスターとして召喚した陰陽師と、そう思考すれば私の真名が一番最初に浮かびます。なので、召喚されて現状を知った時、私は真名を隠すよりもバレた後の事態を対策すべきだと考えました」

 

 キャスターの知識には、同じ陰陽術を使うキャスター候補の英霊が幾人もいる。キャスターのクラスに選ばれるような陰陽術の使い手へ、術を使った物真似で偽装する事も十分に可能だった。

 彼の脳裏に、記憶にある英霊達が浮かび上がる。生前には神霊とも対面した事がある。逆に、英霊と召喚される可能性を持つ多くの魔を知っている。

 その事から、真名を知ると言う事が如何に致命的な行為か、キャスターは深く理解していた。弱点を最初から知っていれば、生前に苦労して滅してきた魔も簡単に殺せたことだろう。経験則として、知識の強さが凶悪な武器と化す事を分かっていた。

 

「まぁ、真名はバレると私の対策を建てられ易いのですが、逆に言えば相手が私にしてくる事を限定出来ます。思考の誘導って奴ですよ。弱点を晒す事で相手の戦術に方向性を持たせ、その隙を穿つ。

 ……私は少し、やりたい事がありまして。どうせ殆んど悟られているのでしたら、思い切って策に打って出たい。彼らがしてくるだろう策の裏を突きたいので、真名を衛宮士郎とセイバーに教えるのもまた、デメリットだけと言う訳ではないのです」

 

「わぁ……恐ろしいね」

 

 自分の弱点を突き、得意気になって隙だらけな敵を嵌め殺す。それに―――自分の弱点など簡単に隠せる。敵ならば如何に自分を殺そうとするか思考し、自分の弱点を狙おうとする策略に対する反撃案など幾つも考えられた。

 逆に、迎撃による必殺へ利用しよう。

 敵の醜態を狙う為、自身の致命的な弱点を転用する。

 セイバーが騎士王だと知っている。衛宮士郎が投影魔術師だと言う事は分かっている。恐らく、此方にとって都合が悪い武器で、思った通りに都合良く攻撃してくれることだろう。セイバーが次にどう動くかも、キャスターは場合別けしてパターンを試行錯誤する。それに、この二人から他の組にバレた所で、それもまた計画の範囲内。

 

「成る程。しかし、リスクが大きいとワタシは思いますが?」

 

「見返りの分が大きいのですよ。払った犠牲に見合った成果をお見せしましょう。それに……私の宝具は奥が深い。

 自分が言うのもあれですが、私の座を作った阿頼耶識も良い仕事をしてくれました。

 英霊と言う現象として、死後に手にする自分自身の伝承の具現。いやはや、人間の魂ではなくなり、精霊の領域である座に昇ると言う事が如何に出鱈目か、身に染みる思いです。霊長が編み出した英霊の機構とは、本当に頭が痛くなる。

 まぁ、この私の魂が死後に英霊の座の“一機能”として最適化され、挙げ句の果て下らない物事に再利用されるのは―――中々に不愉快極まりますけど」

 

 顔を歪め、キャスターは死相を浮かべる。自殺したくなる程の、屈辱なのだ。自分が興味が湧いた者の為に仕事をするのは良いが、英霊の座は了承さえ無い。利益が無い。愉悦が無い。娯楽が無い。集合無意識と言うシステムそのものが不愉快だった。

 強いて言えば、宝具くらいか。後はそう、今の様な馬鹿騒ぎに参加出来る機会を得られる程度。自分にとって、楽しめる部分はそんなところだ。

 

「失礼な質問ですが、アナタでも憎む程のモノなのですか?」

 

「当然です。何せ、この様ですよ?

 私にとって魂の所有権は、魂本人があるべきです。それがこんな、阿頼耶識などと言う“化け物”の所有物にされ、死後の安寧を奪われるなど―――私に対する宣戦布告に等しい」

 

 ツェツェーリエはまだ知らなかったが、キャスターにとってその質問は導火線に等しい。自分の魂が英霊の座に囚われている現状は、生前の自分が思った以上に最悪であった。

 

「せめて、あの「 」へ、あの始まりの虚無へ。魂はあるべき輪廻の環へ戻るべき、と私は思う訳です。しかし、所詮は英霊の座も根源の一部です。根源に落ち、変換し直され、来世へこの私が逝く事が出来ないのです。

 ……そういうのは、とても苛々しませんか? ツェリ殿」

 

「それは、そうではありますが……」

 

 しかし、ツェツェーリエは人造人間(ホムンクルス)だ。元より“魔”から生まれ出た自然の触覚である生命体。完成寸前であった個体だが人間ではない。彼女は人間として生まれていない製造作品だ。

 魂とは、言わば情報の塊。物質界では無く、星幽界という概念に所属する物体の記録、世界そのものの記憶体。ホムンクルスの彼女にも、らしきモノはあるのだろう。だが、宿ったそれが果たして魂と呼べるのか。その魂は果たして、普通の人間のように根源に還る事はあるのだろうか。モノと壊れるのではなく、ヒトと死ぬことが出来るのか否か、それは死んでみなければ分からない。しっかり死んで、次世代の生命体の魂に根源で新しい記憶体になれるのか……ホムンクルスが人間のように輪廻の環に入れるのか、何も解からない。

 まぁ、そもそも、ツェリは死後に興味が無い。この魂がどうなろうと、消えようが砕けようがそれこそ如何でも良い。今はただ、この瞬間を抱いた想いの為に生き抜くのみ。

 

「ああ、いえ。貴女に対して、不躾な問いでした。すみません。一介のサーヴァントに過ぎない私が、生者であるツェリ殿にして良い事ではありませんでした。

 ……そうですね。この今の私も生前あってこそ。死んでいるのに変ではありますが、死ぬまで気張って生きていくのが一番です」

 

 キャスターは相手の出生を考えれば、先程の発言は悪手だった。生まれから人の魂を持たない者へ、人間の末路を語って同意を求めるなど、同じ主に仕える同僚にすべき事ではなかった。

 

「いえ、良いのです。人らしき意識を持つ人型の生命体とは言え、ワタシは人間ではありません。別段、ヒトと言う括りに興味はありません。人の魂を持たないホムンクルスだからと、気を使う必要は皆無です。

 なので、死後に興味はありませんし……アナタの愚痴を聞くのは、退屈ではありません」

 

「そうですか……ああ、そうなのですね。成る程、こう言う関係も中々に風情があります」

 

 エルナは、じっくりとツェリとキャスターを観察していた。今は騒がしい愛剣を術式の都合で演算の補助装置にしていた為、三人の会話に入って来ない事が逆に彼女に第三者としての視点を与えていた。

 敵が森に居るのは分かっている。はっきり言って、計画通りだが危機的状況であるのは事実。そんな危ない状況で優雅にお茶を飲み、お菓子を食す。そして、ツェリはパソコンを操作して、キャスターは監視と式神の維持で仕事をして、自分はもう暇になっていた。そんな没頭する作業が無いエルナなのに、二人は自分の作業をしながら和気藹々と縁を眼前で深めていた。本音を言えば結構内心で緊張しているのに、人の事は言えないがそんな感傷を外に見せない二人に、エルナはほんの少しだけムっとした。

 

「あー、それと気になったことなんだけど。ツェリってさ―――キャスターの事が好きなん?」

 

「ブフォ――ッ!!??」

 

 ―――と言う訳で、爆弾投下。自分のメイドは画面全てに紅茶を噴き出した。

 パソコンが紅茶で真っ赤に染まる。召喚した時から何だかんだでキャスターとの付き合いは長く、専用メイドのツェツェーリエとは生まれた時からの相棒だ。その何時(いつ)何時(なんどき)も平常心を失わず、鉄の如き無表情や、従者として自分に向ける完璧な微笑みや、殺戮の愉悦に歪めたりと色々と彼女の事は知っていたが、キャスターと対峙している時の彼女は初めて知るツェツェーリエ・アインツベルンであった。

 そんな風に考えていた時、エルナは自然とツェリと言うメイドが、人間らしさとでも言うべき“何か”を思い浮かべた。自分と遊戯で楽しんでいた時とも違い、敵を葬り去っていた時とも違い―――その“何か”が男を見詰める女のソレに似ている事に気が付いたのだ。

 吃驚だった。エルナはホントに分かった瞬間、驚いた。

 正直に言えば、ツェリをキャスターに取られるのが心底むかつくし、キャスターをツェリを取られるのもかなり苛々する。だけど、それはそれとして、二人とも自分の従者。なので、ぶっちゃけた話、二人が自分の元から去るのなら殺してでも手元に置いておきたいけど、去らないなら別にくっ付いても良いんじゃないか。むしろ、色恋ごとが初めてなツェリを愉しむべきなんじゃないか、などどよく分からない電流が思考に走ったのだ―――!

 

「あー、えー……エ、エ、エルナ様? 一体どんな化学反応が、その高貴な脳味噌の中で起きたのですか?」

 

「ん? いや、ただ何となく。言わば、女の勘さ。キャスターはさ、ツェリのことをどう思ってんだい?」

 

 あたふたとパソコンを布巾でツェリは拭いていた。勢い余って流水操作の魔術まで使って、細部まで水分を機械から除去していた。

 

「―――飛び火って怖いです。貴女の爆弾発言は心臓に悪いですねぇ。

 まぁ、実際問題冗談抜きで言えば勿論、ツェリ殿は個人的にとても好ましいですよ。友人としても、女性としても、私には勿体無いですね」

 

「それはマスターである私よりも?」

 

「―――え”?」

 

 キャスターは、現世で最大の混乱に陥った。

 

「だぁから、ツェリと私―――どっちが良い女?」

 

「―――え!?」

 

「答えろ、答えなよ、答えなさいよ―――マイサーヴァント」

 

 最悪な事態に陥っている事にキャスターは気が付いた。生前、様々な無理難題や、困難極まる問答を切り抜けてきたが、ここまで返答に窮する問題は初めてだった。時の支配者以上に理不尽だった。

 目の前の女性二人を比べて、その差異を真正面から本人に告げる。それも気の知れた身内相手にだ。ふとキャスターが視線を横にずらせば、頬を少しだけ赤くしたツェツェーリエの姿。そして、マスターであるエルナスフィールは正しく不幸を蜜として啜る極悪人の笑みを浮かべていた。こんなのが自分の召喚者であるのが最悪だった。

 

「いやいや。どっちがどっちに優れているとか、実に不毛ではありませんかね。ほら、私が勝敗を決してもメリットがありませんよ」

 

「逃げるんだぁ、へへぇ?」

 

 くどいです、と口から漏れ出そうなキャスターは感情を押し殺した。

 

「―――くどいです」

 

 全然押し殺せていなかった。

 

「ヒドいぜ。もう少しくらい、私と乙女トークに付き合えって。ツェリはそういうの、糞真面目人間でからかうのは面白いけど、ダメなんさ。

 だと言うのに、キャスターはつれないぜ。

 それでもお前はエルナスフィール・フォン・アインツベルンのサーヴァントか!」

 

「嫌ですよ! 色恋沙汰でからかわれるの、私嫌いですから」

 

 生前、キャスターもキャスターで恋愛事には少々気苦労したのだ。

 

「え―――嫌い、なのですか……?」

 

「いえ、あのですから。別にツェリ殿の事を言った訳じゃありませんし―――」

 

「良いじゃん。雄と雌、出会えばやる事なんて限られてるしさ!」

 

「―――本当にそれでも大貴族の娘ですか!?」

 

 このマスター、ノリノリである。

 

「分かってないね。世に蔓延る変態趣味は、殆んどが暇と金を余らせた貴族の遊びだぜ」

 

「エルナ殿は、減らず口だけ一人前ですね」

 

 キャスターも元々は貴族の一人。変態嗜好に走るの常に、生きるため以外に余力がある者だ。なので、分かるのは分かるけど、それとこれは全くの別物なのだ。

 

「召喚されるサーヴァントは、マスターに似るんだよ。つまり、お前は私と同じで性質が悪いって事だ」

 

「……――――――」

 

「お願い致します。エルナ様の言葉に納得しそうにならないで下さい、キャスター」

 

「―――ハ! まさか、この私が相手に頷きそうになるとは……エルナ殿、中々やりますね」

 

 変に純情娘なツェツェーリエは気が付いていないが、擦れてるエルナスフィールはそれなりに理解していた。キャスターは結構、こういうお喋りが大好きだ。罵り合いでもないが、相手をそこまで気遣う事をしない本音トークを楽しんでいる。何だかんだで下世話な会話も嫌っていない。むしろ、かなり好き込んで喋っている時もある。

 ふざけ合いが好きなのだ、二人は。無駄な会話で、聖杯戦争では徒労でしかないが、その効率を求める現実主義思考こそ二人には価値が無い。苦労人のツェリは兎も角、エルナとキャスターは余分を愛していた。それに口先だけは二人とも、魔術師の言霊みたいに巧かった。

 

「おいおい。お前が見方になってやらんと、苦労性なツェリが泣くぞ」

 

「泣きません。ワタシがこの程度で泣く訳がありません」

 

「……でもさ、キャスター。メイドさんが涙を堪えてる上目使いでプルプルしてるのって、男として実際どうよ?」

 

「え。堪りませんよ、普通に」

 

 メイドでプルプル。プルプルメイド。等と、キャスターははっちゃけるマスターに悪ノリしていた。

 

「―――キャスター」

 

「すみません、ツェリ殿。それでも私は、男にはどんな時代でも浪漫が必要だと思うのですよ」

 

「全く、これだからエロ爺は。死んでも男の業ってのは、消えないもんなんかな」

 

「愚かなことですよ、エルナ殿。性的煩悩とはつまり、人間が保有する活力の一つです。死して尚、人は本能から欲するのです。サーヴァントに不要とは言え、それでも三大欲求があるのは、人間の精神にとってエロが真理であるからです」

 

「おお、わかったぜ。つまり……」

 

「……そう。私も所詮は―――神秘の探究者に過ぎないのです!」

 

「完璧だぞ、マイサーヴァント」

 

「ええ。貴女こそ、私のマスターに相応しい人物です」

 

 取り敢えず、二人とも仕事だけは万全だ。ツェリは溜め息を吐きながら、侵入者を皆殺しにする勢いで、用意しておいた罠と駒を総動員する。まだまだ自分達が動くまで、戦況は予定通りの位置まで辿り着いていない。

 敵は―――皆殺し。

 全身肉の一片も残さず殺すのだ。

 ツェツェーリエはホムンクルスとして失敗作だからなのか、虐殺が好きだ。殺人に酔ってしまう。血の味を覚えた猛獣で、人喰いの怪物だ。でも、それでも、気の合う主人であるエルナと、同じ従者であるキャスターの二人と馬鹿をする方がもっと好きだ。エルナは元々特別だったけど、キャスターが来てからはもっと良くなった。そして、キャスターはとても素晴らしい仲間で。ついでだが、自分が作ったお調子者な魔剣のクノッヘンも中に入れても良い位。

 そんな彼女にとって一番楽しい時が、四人で馬鹿騒ぎをする時。二番目がエルナの世話をすること。三番目が魔術の研究と開発で、四番目に殺人行為が入る。生まれた時は、殺す事だけが生きる楽しみであった欠陥品だったのに、エルナスフィールが生まれて彼女の従者となり、殺す為に作られた目的である聖杯戦争のおかげで自分はこんなにも大切なモノを手に入れた。

 

「二人とも。おふざけは程々でお願いします。失敗だけは、したくない筈です」

 

 窘める様でいて、なのに彼女の笑みには嘘が欠片も無い。本当に楽しくて仕方が無いように、ツェツェーリエはエルナとキャスターと共に―――森に入り込んだ敵を殺す為、本気を出すのである。

 

「へいへーい」

 

「ふふ。分かっておりますよ」

 

 勿論、その意気込みが二人も同じくするもの。笑みを浮かべるアインツベルンの怪物達が、今は今かと勝利を決める虐殺の一手を待ち構える。

 この森は。この城は。既に、人外魔境。

 結界の森林地帯を抜けても、其処にあるのは処刑の為の魔道要塞。

 

 

◇◇◇

 

 

 此処は森の中。キャスターの結界が張り巡られており、固有結界以上に異常な異界法則(ルール)に支配された魔の国。代行者言峰士人にとって、今の状況は余りにも奇怪だった。いや、むしろ異常事態の極致であったと言える。

 確かに、不気味な影の気配は感じ取れていた。

 様々な経験を得た第六感が、森の中に“鬼”が居る事を悟らせていた。

 

「―――ほぉ。まさか、な。やはり、この聖杯戦争は予想外過ぎて楽し過ぎるな」

 

 この不自然に組み立てられたキャスター殺し争奪戦。考えるまでもなく、キャスターが仕組んだ盤上の策略である。

 たった一組でも、この森に攻め込めば、キャスター陣営を脅威に思っている組が便乗するのは明白。

 衛宮士郎と遠坂凛が攻め入った時点で戦局は不可解なうねりと化した。ここから先は、キャスターが思い作る戦場の駒運び。

 

「キャスター……あれは今一、先が読めんな。何かを企んでいるのは丸分かりだが、底が見えん。不気味を越えた摩訶不思議だ」

 

 中でも言峰士人が一番注意しているのは、ライダーの陣営。危険なのがバーサーカー陣営、純粋に強いのがセイバー陣営、お楽しみなのがアヴェンジャー陣営、厄介なのがアーチャー陣営。そして、脅威なのがランサー陣営。

 だが、一番行動が読めないのがキャスターの陣営だった。

 どうもあの連中、策を幾重にも練り込んでいる。今この状況でどんな手を打ち、更にどの陣営を狙っているのか、まるで理解出来ない。次の瞬間には自分が死んでいても、何も疑問が湧かない策の海であるのだ、此処は。

 

「どうだ、アサシン。そろそろ誰か暗殺するか?」

 

「無駄だぞ。今では殺すに殺せん。特にキャスター、この結界内では私の存在が捕えれている。他の組のマスターを殺すのは良いが、一か八かはなるべく避けたい。今ほど混乱した乱戦に跳び込むのは、暗殺者として下策だ」

 

 士人はそろそろ、目的の為に策を集中させたい。その為には敵の数は少ない方が便利。しかし、最大戦力であるアサシンにとって、今の乱戦状態では実力を発揮出来ない。

 

「ふむ、其処までか?」

 

「無論。それほどまでに、だ。混乱に乗じ、殺せなくもないが後に続かん。まだ、私の殺し方を不特定多数の参加者共に見せる訳にはいかんからな」

 

「極めた唯一の技も、一長一短か」

 

「仕方が無い。山の翁としての業よ。種明かしをした手品程、見ていて詰まらん事も無し。私の技術も、敵にとって未知である故の暗殺技法であるのでな」

 

「ならば、まずは俺の魔術で手助けし、普通に殺すか。宝具の解放は控えるとしよう」

 

「賛成だ。それで―――どちらを殺すのだ?」

 

 森の陰に潜みながら、二人は相手の状況を観察していた。片方は衛宮士郎とセイバーの二人組。もう片方は、恐らくはキャスターの手駒であるニ体の式神だ。

 士人はキャスターが陰陽師である事は理解していた。その術者の使い魔となれば、あれが式神であると推理するのは至極容易。加えて、日本最強の“魔”である鬼種を複数同時に支配するとなれば、真名は限られてくる。知名度補正も、ここ本場の日本では最高峰であろう。真名も、正解であろう名に心当たりがあった。

 

「あれは―――鬼だ。

 スキルか宝具か分からないが、見ての通りサーヴァントに匹敵している怪物を召喚、あるいは作成したのであろう。

 魔術師として、余りにも桁が違う。魔法使いでさえ、英霊並の幻想は何かしらの補助が無くば召喚出来ないが……あれには、そんな条理は通じないと見える。

 アインツベルンのことだ。サーヴァントの早期召喚を行い、下準備を万全にした訳か」

 

 つまり、吸血鬼で言う所のニ十七祖に匹敵する怪物。サーヴァントは匹敵する怪物を、何匹もキャスターは従えていると考えられた。

 

「ほほう、それは厄介な」

 

 その無個性な美貌を翳らせ、アサシンは思案する。纏めて皆殺しにする手段はあるも、セイバーの直感の前では殺気で気付かれる。あの衛宮士郎なるマスターも、傷は与えられても即死出来ないかもしれない。ニ体の鬼もまたしかり。

 

「しかし、鬼か。キャスターも中々に良い駒を手にしているな。私が首領を務めた教団の手練な暗殺者達に並んでいる。

 ……それで神父、お前はどうしたいのだ?」

 

「―――鬼を排除する。まず、衛宮士郎とセイバーを城へ先行させようと思う」

 

「……ほう。我らが囮になると―――何故?」

 

「少し、あの鬼に興味がある。

 アサシンも此処はキャスターの結界内だが、他に盗み見している奴がいなければ、宝具の使用を許す」

 

「―――……よいのか?」

 

「構わん。キャスターを殺す時は、俺の方で何とかするさ」

 

「ならば、それで良いのだが……ふむ。嫌に拘るな? 普段の神父らしくない行動だぞ」

 

 衛宮士郎とセイバーの手助けをする。それ自体は、別に思う所はアサシンには無い。ここで鬼と殺し合うか、城に一番乗りしてキャスターを殺すか、あるいは他の組の隙を付いて殺すか、リスクに違いは差ほど無い。得られる利益も誤差の範囲。

 

「まぁ、な。衛宮士郎とアインツベルンは切っても剥がれぬ因縁がある。それは実に見物であり、そろそろ師匠とそのサーヴァントのアーチャーも、衛宮士郎と合流する可能性が高い。この良い具合で鬼から二人を逃せば、アーチャーとセイバーのタッグでキャスターを討てるかもしれんし、キャスターが一体程度なら道連れにするだろう。

 ……だが、そもそもな話。あの城の中では、サーヴァントが何人敵対してこようとも、キャスターの有利は覆らないだろうよ。それほどの要塞だ。

 せめて、少しでも勝率を上げてやるには、アレに遠坂凛の助けを与えてやるべきだろう」

 

「腐っておるな、変わらず。お前の目が曇っていないのであれば、私は如何でも良い。敵を消耗させるのは、暗殺者として実に賛成出来る」

 

「ありがとう。いやはや、お前は実に俺好みな英霊だ」

 

「それは私の台詞だぞ。……で、子猫は無事なのだな?」

 

 今の二人にレンは付いて来ていない。偵察の任があるのだが、加えてアヴェンジャーの捜索もしている。言峰士人にとって、利用出来る駒は多いほど展開を生み出すのが楽しくなる。

 

「心配無用さ。その為に、俺が投影した概念武装も持たせている」

 

 集結したサーヴァント達。レンは非常に優秀な仮契約中の使い魔であり、生成する魔力量自体は主の士人を越えている。その信用出来る使い魔から得られる情報は、同時に彼にとって重要なリアルタイムで戦局状況を知ることが出来る収集源。

 どうもキャスターは衛宮と師匠を分断させたがったようだが、無駄な事。士人は悪辣なまで敵の思考を読み取り、一つ一つ敵にとってのイレギュラーを作り出して、相手を潰そうと考えていた。

 

「ふむ。では、そろそろ―――()るか」

 

 フードを深く被るアサシンは、髑髏の仮面の裏で邪笑する。

 

「ああ。やるぞ」

 

 神父は暗殺者の暗い殺意に応え、透き通った微笑みを溢す。そして、神父は突破しようとする士郎とセイバーを抑え込むニ体の鬼を見た。

 一体は2mを越えた巨躯を誇る鬼らしい鬼で、かなり筋肉質。簡素な甲冑を身に付け、濃厚な殺気を身に纏う。巌の如き凶顔は、額から角が一本生えていた。手に持つ武器はキャスターが作成したであろう金属製の巨大棘棍棒であり、その荒々しく見えながら、戦士として完成された戦闘技術でセイバーと対等に渡り合っていた。

 もう片方は、180cm程度の中肉中背の鬼。禍々しい篭手と完全に融合した両腕と、腰から下を覆う頑丈な具足。上半身は死体のような真っ白な肌を出し、額から二本の角を生やしていた。そして、両の腕や稀に脚技を使い、巧みな格闘技術で衛宮士郎と死闘を渡し合っていた。

 このニ体に士人は見覚えがあった。

 特に、衛宮士郎と殺し合う鬼の動きは良く覚えていた。何せ、九年前に見学した事がある戦闘技法の一つ。

 

「―――葛木宗一郎。死して利用され、キャスターによって鬼と化したか。

 実に良い趣向だ。誰も浮かばれん。第六次聖杯戦争でお前が再び迷い出るとは、あの“キャスター”も中々に救われないな」




 キャスターの真名は安倍晴明。日本における知名度補正が最高峰となるキャスターです。ぶっちゃけ、サーヴァントが英霊であり、霊的存在な時点で陰陽師からすれば結構なアレであります。今の時点でありますと、戦略的優位に一番立っていますが、ここからが正念場になる展開にしていきます。
 そして、ここからは物語に関係無い個人的な話ですが、伝えたいので書かせて頂きます。
 更新するとお気に入りが減る。第一部から作風も変わりましたし、予想していました。なので、今まで読んで頂きありがとうございました。と後書きで感謝を伝えます。
 そして、お気に入り、評価の投票、感想をして頂けました皆様の有り難さを痛感しました。本当にありがとうございます。何と言いますか、ここまで楽しく書けてきたのは、正直感想を読むのが楽しみだからでありました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。