神父と聖杯戦争   作:サイトー

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 アカメが斬る!って、世界観が良いですよね。暗黒SFファンタジー中世時代劇。ロールシャッハとかが似合いそうな、腐った帝国の雰囲気が好きです。個人的アメコミ一位のキャラです。
 指を折る!とか題名付けて書こうかと悩んでいます。
 それと後書きがグダグダですので、さらりと流して頂けると有り難いです。


68.桜色の坩堝

 バーサーカーとアデルバートは、ライダーの軍勢を順調に駆逐していた。殺人貴と綾子とは逸れたが、まだこの戦場にいることは分かっていた。そして深い闇が満ちる森の中、異変は余りにも呆気なく事態を急変させた。

 恐らくは、セイバーのサーヴァントが放つ宝具―――約束された勝利の剣(エクスカリバー)。ライダーの軍勢の何割かが消滅を余儀なくされ、急に統率が乱れた直後には何故か、亡霊兵士が黒く染まって消え果てた。

 殺し屋はその光景を疑問に思う間もなかった。再度、本当にこの異変が恐ろしい何かが始まったのだと第六感で察した。それは本当に言葉に出来ない程、あっさりと具現した悪夢。

 ―――捕獲と言うよりも、それは捕食と呼べる行為。

 バーサーカーは世界に存在する他のモノに例え難い、言い表せない何かに囲まれていた。強いて言えば、黒い人型海月(クラゲ)か。地面全てと、周囲360度からの完全な奇襲包囲網は、流石のバーサーカーと言えど全部に対応は不可能。何故なら、エクスカリバーの斬撃に注意を逸らされたからだ。黒く変質した極光に気を取られなければ、影からの攻撃までには逃げられたかもしれない。

 だが、その程度は全く問題にならない……その筈だった。

 バーサーカーの援護をすれば良く、いざとなれば令呪で自分の傍まで呼べば良い。

 つまるところ、今のアデルバート・ダンにはそれが出来なかった。何に妨害されているのか全く分からないが、令呪がまともに機能していない。援護しようにも、弾丸全てが黒い影に貪られた。封印指定の魔術師や聖堂教会の代行者、または数多の自分を狙って来た封印指定執行者を殺害してきた銃弾が、圧倒的な“何か”にはまるで通じない。

 

「―――あれは、天使……なのか?」

 

 アデルバートが即座に退却したい原因がそれだった。だが、バーサーカーを取り戻せなければ、逃げても意味がない。

 黒い天輪を頭上に浮かばせる異形の魔物。うねる影の触手を伸ばし、地面を黒い泥に汚染し続ける。脱色された白い髪と、生気がない蒼白な肌。何より、自我を宿さぬ赤い瞳が人形のように不気味だった。

 それが、バーサーカーを黒い泥で貪る死天使の群れの正体。

 呪詛で生成された黒い衣。人間にはもはや見えない人型が纏うのは、そんな薄っぺらい呪い一枚。

 封印指定時代、アデルバートは間桐桜と出会っている。魔力の気配と顔立ちの雰囲気が、あの魔女と似ている。いや、顔立ちはそれぞれで僅かに個性差が出ているも、魔力の質は全く同じ。

 

「しかも、あの容貌……考えたくもないが―――全て、間桐桜の分身?」

 

 殺し屋は神業じみた察知と回避で影から逃げられたが、それは相手がバーサーカーを優先していたからだ。銃弾一発撃つ余裕がない奇襲であり、鍛え上げた無意識の回避反射がなければそのまま死んでいただろう。

 

「そうだ。これは全部、私のお母さんの写し身です」

 

 その少女も、あの影の魔物たちと同じく唐突な出現だった。異変の始まりは黒い極光で、戦っていたライダーの軍勢が一気に焼き払われた直後から。焼け野原になった森の跡から、あいつらが湧き出て来たのも唐突だった。しかし、アデルバートとバーサーカーも此処に至れば理解できる。

 要は、全てこの目の前にいる少女が仕組んだ罠である……と。薄らと笑っている魔術師、間桐亜璃紗が元凶だと直ぐに悟れた。

 

「令呪もあの化け物が封じてるってか」

 

「察しが良い。ま、そういうカラクリです」

 

 バーサーカーを助けなければならない。疑問点も解消した。答えは目の前の少女。故に、彼がすべきことは元凶の即時射殺。銃口を魔物達の隣で佇む少女へアデルバートが向けた瞬間、僅かに銃の射線から標的が避けた。殺し屋はその敵の挙動を察した時―――ただただ、唖然とした。

 ……有り得ない、と。そんな驚愕で、殺し屋として養った経験則が寒気を伝える。

 自分の早抜きに、あの程度の年齢の魔術師にあっさりと対応された。銃弾を撃った後、弾丸に対処されることはある。ダンとて、銃弾をものともしない達人と戦闘を幾度となく行ってきた。だが、どんな達人であろうとも、英雄とも言える超人魔人共であったとしても―――初手で、弾丸を撃ち放つ前に対処された事は一度もない。

 

「……あれ、そんなに驚いた?」

 

「テメェはただの魔術師じゃないな」

 

「それはそうです。聖杯戦争用に自分で自分を調整してるし、貴方もその類の魔術師でしょ。殺し屋さん?」

 

 既に、詰んでいる。泥に取り込まれながら、バーサーカーは最後にそう悟った。だから、己がマスターに伝えねばならなかった。

 

“行け。アデルバート”

 

 そんな念話を最後に、殺し屋はバーサーカーとの契約が断たれたのを理解する。繋がりがいとも簡単に千切れてしまった。唐突過ぎて、逆に冷静なままでいられるまで、彼は今の事態が地獄の真っ只中だと感じ取れた。

 魔剣の呪いを支配するバーサーカーが、不死身な筈の報復王が―――死んだ。

 意味が分からない。まるで現状が分からないが、状況判断を下せる程度にはまだ冴えている。

 まず、敵戦力を分析し、相手の能力を冷徹に考察する。黒い魔物はサーヴァントを即死させる怪物だと判断し、逃走経路を確認。バーサーカーの仇をしかと記憶に刻み、殺害方法を模索する。無論、眼前の化け物と周囲からの奇襲にも注意しながらだ。

 

「や。偉く冷静だね、殺し屋さん。普通のマスターでしたら、こんな事態に堕ちれば自滅するって考えてたけど。

 へぇ……身内が死んでも、暗い感情に乱されないの。バーサーカーを殺されて、私を惨たらしく殺してやりたいって思わないのかな?」

 

「ふざけろ。当然後で、その顔面に風穴空けて殺してやるよ」

 

 ダンはもう殺意で思考が埋まっている。感情のまま動けない殺害装置なだけで、人としての彼は憤怒一色に染まっている。人殺しと言う天性の素質で冷静さを保っているだけで、熱く憎悪を煮え滾らせないないだけ。彼にとって殺し屋とは、そう言う生態が普通の生き物を指す。殺意が湧けば湧く程、冷たく静かに思考を巡らせる殺人機械。

 

「そ。じゃ、物の序でに貴方の疑問に答えて上げよう」

 

「あ……? 一体何をほざいて―――………テメェ、まさか?」

 

 ニタニタと笑う少女は、気味が悪いのにその不気味さが美しい。早く殺した方が良いと銃口を向けるも、それと同時に射線から紙一重でまた逃げられた。殺し屋のダンがおぞましいと感じる魔技な上、逃げる隙を一切相手に見せなかった。

 狂っている。その不自然なまでの回避性能もそうだが、あの年齢で技量が既に老年の達人だ。身体能力も高いが、それはまだまだ人間の領域なのに、自分の殺し屋として創り上げた技術に並ぶ業を身に付けている。

 

「では、貴方が思い浮かんだ質問に答えて上げますね。

 彼女たちは私が考案した―――聖杯デコイ。

 間桐桜の分身存在。

 乖離した制御基板。

 シスターズシステム・アルターエゴです。苦労したよ、間桐桜の細胞を植え付けて、遺伝子そのものを改造し―――間桐の聖杯を量産するのは。魂分野の研究は間桐家に引き取られる前から知ってたけど、いやはや……これもこれで中々の研究テーマでした」

 

 分身―――アルターエゴ。彼女達は間桐桜の細胞から製作された刻印蟲により、自分の遺伝情報を改竄されている。遺伝子を構成する情報に、アンリ・マユの呪詛をシステムとして書き加えられている。

 洗脳なんて生易しい調整ではなかったのだ。

 まず、魔術を一切使用せずに彼女達は精神を崩壊させられている。特別な苦痛など必要ない。数週間密室で、視覚、聴覚、嗅覚を封じられ、言葉を話すことも禁じられる。出来るのは呼吸と食事だけで、排泄行為さえそのまま放置された。死なぬよう栄養を与えるだけで、段々と精神が死ぬのを待つ。それが第一段階。第二段階に入ると、次は肉体が身動き出来ないよう、専用の蟲の使い魔で拘束される。そこから先は間桐桜も幾度となく味わった快楽拷問を応用する。それを繰り返せば、外界からの唯一の刺激である蟲の快楽と苦痛に依存する。そして―――心が死ぬ。人格が消え、尊厳がなくなる。そうなって初めて、間桐亜璃紗の精神干渉魔術によって人格を再生される。正確に言えば、壊れた部分を封印して自我を元通りにする。そこまでしてやっと、桜は実験体として彼女達を魔術に使い始める。

 ……この魔術の恐ろしい所は、亜璃紗の洗脳を破っても、精神が崩壊した元の自我に戻るだけ。人格は本来のモノのままだが、その根底には亜璃紗の支配が完全に行き渡っている。実際、繰り返される鍛錬により魂魄が強まれば、亜璃紗の魔術を破る事は出来た。しかし、亜璃紗の支配から抜け出しても、また壊れた状態に戻るだけで、亜璃紗の手で復元されてしまうだけとなる。そして、拷問がそのまま続けば、また崩壊して元通りに修復する。崩壊と再生を繰り返し、その魂はより強く硬くなり、結果―――完成した個体は亜璃紗の手による再生も全く必要としなくなった。

 

「聖杯の量産って訳か。狂ってるぞ、お前ら」

 

 細かいところまでダンも理解している訳ではない。しかし、協会所属の元封印指定執行者として、奴らが行ったであろう外法を察することは簡単。あれ程までも人外の魔物へ人間を転生させるとなれば、言葉で言い表すのも醜い所業で成された秘術。

 ―――()ろう。

 殺し屋としてここまで狂った獲物を逃すなんて有り得ない。それに、相手はバーサーカーを自分から奪い取った敵。今までの人生―――殺害による復讐ほど、楽しかった娯楽は早々になかったのだから。

 

「狂気なくして術理の進化は望めない。それだけのこと。ま、それはどうでも良いです。知りたかったのは、この真実を知った時の貴方の反応でしたし……うん、その情報も手に入れられた。

 うん。じゃ、もう良いや。聖杯に呪われてください。

 貴方なら呪詛に耐えられそうですけど、肉体そのものを物理的に融解されれば、至る末路はサーヴァントと同じ姿。あのバーサーカーは吸収に結構時間が掛かりましたけど、並の英霊なら十分の一秒も掛からないし。

 肉を剥奪されて、剥き出しになった貴方の魂を存分に可愛がって上げるので―――愉しみに、死んでね!」

 

 黒輪を頭上に浮かべる魔物は、バーサーカーを黒い泥沼へもう沈め終わっている。ならば、狙える標的は一匹だけ。迫り来る海月の天使を前に、アデルバートは静かに笑みを溢す。

 何はともあれ、アレは相棒(バーサーカー)の仇に過ぎない。

 それに此処から離れた場所で、使い魔のフレディがもう相手の魔力の匂いを覚えた。不意打ちは二度と効きはしない。空間転移をしてこようが、使い魔で後ろから狙ってこようが、魔力を魔術発動の前段階で察知し、逆に奇襲を仕掛けてやれる。

 ならば―――怨敵を()る。

 恨みは存分にあるが、憂いは失くす。

 殺し屋は躊躇わず、師を殺して奪い取った聖銃を構える。敵の気配から、この類の魔物には聖遺物が有効だと相場は決まっているのだ。

 

Pallottola di purificazione(Ashes to ashes,dust to dust)―――!」

 

 素早い詠唱の呪文。魔力と共に魔術を弾丸へ叩き込み、この銃本来の能力を解放。先程は効果が欠片も無かったが、近づいてきた今の距離ならあの黒い影の魔術が発動する前に当てられる。並の黒鍵を優に超えた浄化作用が弾丸へ宿り、魔物へ速攻で撃ち込んだ。

 そして、アデルバートの弾丸は敵一体の右脚を容易く抉り取る。纏っている呪詛の防具服は物理的概念的な硬さを持つが、殺し屋の聖銃はこの類の魔物には滅法強い。だからこそ、敵から流れ出る血液が黒く、もはや人間では無くなっていて―――あっさりと、切断面から伸びた黒い影同士が繋がり、取れた右足が磁石のようにくっ付いた光景は、数多の化け物を撃ち殺した彼から見ても埒外の異形だった。しかし、彼を襲うのは魔物だけではない。アデルバートが回避する先を読んだかの様に、間桐亜璃紗は淡々と銃弾を放っていた。

 バーサーカーを失った今、彼は己が鍛え上げた人殺しの技術だけが頼れる力。殺し屋はこの状況を打破する為、淡々と誰よりも早く思考を回転させ、逃げながら戦局を読み取っていった。

 

◇◇◇

 

 ―――転移したアーチャーが最初に見たのは、焼き払われた森の跡地だった。

 血塗れの地面に、死ぬ寸前の衛宮士郎。同盟相手の筈の魔術師(マスター)を担いでいるのは、誰かは分からない。死んで腐った魚の目をし、草臥れたコートを羽織る男だ。

 

“……衛宮? まさか、あれが討たれたって言うのか。どういうことさ、マスター”

 

“正直、良く分からないわ。でもそうね、有りの儘を説明すると、士郎がライダーの軍勢が撃つ弾幕を、真名解放したアイアスの盾で防いでいたら……突然、前触れも無く血を吐いて倒れたの。で、それと同時にライダーの軍が焼き払われた。混乱したけど、まずは士郎を助けようとして、まるでビデオの早送りみたいな奇怪な動きであそこの男が横取りしたってところ”

 

 左腕で軽く成人男性を肩に乗せている。まだアーチャーは確定できないが、あれが話に聞いた衛宮切嗣らしき人物だろうと判断する。

 本来ならば、人一人を背負っている隙だらけな姿。だが、敵が右手に握る単発式拳銃(シングルショット・ピストル)―――トンプソン・コンデンターから、死よりも恐ろしい異様な気配を感じ取った。また、アーチャーは銃火器マニアの所がり、一目で敵が持つ銃種を判断できた。

 あれは―――危険。下手な宝具よりもエゲツないかもしれないと、アーチャーは背筋が凍る感覚を確信する。十中八九、英霊に匹敵するあの衛宮を再起不能にしたのが、あの男とその銃だ。

 

“なるほど。それで咄嗟にアタシを令呪で呼びだしたと”

 

 現状を念話でアーチャーは理解した。しかし、影から現れた有り得ないサーヴァントを見て、彼女は悩んでいた。敵なのか、味方なのか……いや、あれは敵だと直感はしているが、直ぐに戦うべきか如何か計り切れていない。

 しかし、状況は刻一刻と変わり続けている。

 セイバーだった。凛とアーチャーの眼前に、まるで立ちはだかる敵のように君臨していた。突如として地面の影から、二人の前に具現したサーヴァントの正体は彼女だった。

 

“エクスカリバー……みたいだけど、あれはセイバーなのか? だったら、この地獄絵図は―――”

 

 色褪せた金髪と、混濁とした黄金の瞳。煤けた灰色の鎧と、呪詛で汚染された黒い戦衣装。その場に存在しているだけで、怨念の塊にしか見えない酷く重い存在感を放っている。そして―――黒く汚染され、狂剣と化した約束された勝利の剣(エクスカリバー)。だが、その剣は黒色の霧のような風を纏っており、エクスカリバーだとは見て分かるが、刀身を正確には見れない状態。

 それは―――なんて様なのか。

 セイバーは衛宮士郎を確保した男の隣で、ただただ尋常ならざる剣気を撒き散らし、静かな眼光で凛とアーチャーを見つめていた。

 しかし、その視線も直ぐに振り切られた。今の彼女の視線の先に居るのは、切嗣に抱えられた元マスターだ。セイバーは酷く気味が悪いほど優しい手付きで、意識を失っている士郎の心臓がある背の部分に手を当てていた。そこから、黒化して人間には毒となる呪詛に汚染されているとは言え、セイバーは強引に魔力を彼へ注ぎ続けている。

 

“―――そうよ。これはセイバーの宝具が原因。黒くなっていたけど間違いない”

 

“マスター。流石のアタシも、これは逃げるしかないと思うけど”

 

 この場の状況を悟るのに一秒も掛からなかった。隣にいる凛へ、最善の策を告げるのに躊躇いは欠片も無かった。

 そんな二人を余所に、嘗ての主従は再度戦場に戻っていた。士郎を奪い取った衛宮切嗣へ向き、セイバーは士郎の存在を確認していた。そして、彼女はそっと士郎に触れ続けている。そんな隣り合う主従に、マスターとサーヴァントが持つ信頼関係は窺えない。むしろ、お互いを意志を持つ人間とさえ認めていない。

 

「元マスター、指示を。士郎の確保には成功しましたが、私の加護が無くばまだ危険な状態です」

 

「…………」

 

「ふむ。相変わらずの偏屈さ。この士郎を育てたのだ、それなりの余裕程度は育てておけ」

 

「…………」

 

「全く。貴様も良く良く下らない事を拘るな。息子の不幸だと許せんからと、そこまで自分を追い詰めることもないだろう。

 ……いや、息子云々は私が言えた事ではなかったか。確かにあの猛毒には、無性に死にたくなる罪悪感がある。そうは思わぬか、お義父(とう)さん」

 

 らしくない厭味に満ちたセイバーの笑み。切嗣は思わず彼女を視界に収めてしまい、感情を逆撫でにされた。何故こうも、この女は自分の癇に障るのか理解したくもない。ここまで変質しておきながら、あの時の戦争から本質は変わっていない。

 

「―――……っち」

 

 よって、舌打ちをしてしまった。反応するのも煩わしいと思っていたが、切嗣にも許容範囲がある。この女は―――認めよう、自分の天敵だ。言峰綺礼と同等に苛立つ存在だ。

 

「舌打ちか。まぁ、無視するよりかは良い。この様に果てた私とて、人の心はあるからな」

 

 聖剣の鞘によって士郎の応急処置は完了した。真名解放されたアイアスの盾に魔弾が干渉することよって、魔術回路が暴走し、士郎の内部はズタズタに掻き回されている。内臓が死に、出血も酷い。とは言え、その程度の物理的外傷は鞘の加護で癒すのは簡単だ。死ななければ問題なく、安静を保てれば何時かは完治する。

 だが―――霊体に負った傷を、元のカタチに復元するのは難しい。

 士郎の魔術回路が非常識なまで頑丈で、恐ろしい事にコレ(起源弾)を受けて完璧に壊れてはいない。しかし、もはや固有結界を形成することは永遠に不可能な傷を回路は受けていた。数年は投影魔術さえ使用できない有り様。修復するにはそれ相応の手段と代価が必要だ。その事を治癒を施したセイバーは理解しており、切嗣は士郎が死ななければそれで良かった。起源弾を撃つ時も込める魔力量を計算し、回路が壊れても命は消えないよう感覚で調整していた。幾人もの魔術師を葬った切嗣だから可能な回路破壊。

 何よりも―――彼に魔術を教えたのが、全ての過ちの始まりだったのだから。

 

「……む? ライダーの兵士らが泥に沈んでいく。なるほど、貴様の策を無事桜は完了させたか」

 

 セイバーの呟きに、切嗣は無言を貫くが内心では頷いていた。遠目で、停止していたライダーの兵士が泥となって消えるのを確認―――したが、アーチャーは躊躇わなかった。疑問は多く、事態を把握し切れていないが、しなくてはならない事ははっきりと理解していた。先程まで敵対していたライダーは第三勢力の手に掛かり、自分達の敵は目前のセイバーと魔術師だと。アーチャーは奴らの奇襲によって、様変わりした戦場の勢力関係図を見抜いた通りに修正。

 よって、彼女は神父と暗殺者を容易く切り捨てた愛用の薙刀を、宙に放って宝具に収納。そのままP90を引っ張り出し―――即時、連射発砲。

 士郎にも当たる弾道だが、急所には決して当たらぬ悪辣な射線の群れ。

 その弾幕の嵐をセイバーは避ける事も、斬り払うこともしなかった。頭部だけは剣で守るも、全身を魔力放出を応用してそのまま弾き飛ばした。純粋に、今の彼女は硬いのだ。鋭い直感が避けるまでも無いと囁いており、切嗣の方も守る必要もないと正しく理解していた。

 なにせ、彼は弾丸一発一発を丁寧に体を逸らして避け切っていた。士郎を背負いながらも実行する超人絶技―――

 

「……時間の加速ね、出鱈目な!」

 

 凛とて諦めた訳ではない。セイバーの有り様と、話でだけ聞いていた衛宮切嗣も分かっていない。が、自分が出来ることを忘れてしまう程、生温い修羅場を潜ってはいなかった。それに、士郎がピンチなのは何時もの事で、それを自分が助けるのも戦場の常。敵に囚われた程度の危機、まだまだ序の口。

 彼女は敵魔術師が、限定的な固有結界の展開で時間制御をしているのは見抜けた。しかし、士郎があの様になった理由はわからない。その魔術が一番の危険。だが、原因となるモノがあの銃だと言うのはあっさりと感じ取れる。

 結論は―――当たらなければ、それで良い。

 ロー・アイアスを展開していた士郎を再起不能した能力を顧みるに、魔術で防御するのは危険だと判断。あの現象は回路の暴走に近いと確信し、回路と繋がって操られている魔術に干渉していると考察。よって攻撃に使う魔術に対しても、あの妙な気配がする弾丸で撃たれれば危険だと考えられる。それはアーチャーも同じ考えで、二人は刹那で念話で以って敵戦力内容の把握を終えていた。

 

「―――勝負だ、弓兵」

 

 瞬間―――暴風よりも禍々しい剣戟が嵐を生む。黒い霧のような風に覆われた刀身を、魔力放出で加速させ絶望的なまで強まった膂力でセイバーは振う。掠ればサーヴァントでさえ木端となる。人間ならば肉体が赤い霧になって消える。それに対峙すれば恐怖に襲われ、臨死の脅威に取り付かれよう。なのにアーチャーは剣も刀も、愛用の薙刀を構える事もしなかった。アーチャーが両手に持っているのは―――二挺拳銃。弾切れになったP90を仕舞い、改造済み60口径の大型自動拳銃を取り出していた。一挺当たりの重さで10kgはある狂った凶器。

 ヴォン―――と拳銃を発砲した音には聞こえない銃声だった。彼女は専用強化徹甲弾を撃つ。

 魔力で銃弾が強化され、発射する初速が既に人類が生み出せる技術力を凌駕していた。加速なんて言葉が陳腐に聞こえる魔速に至った銃弾の一撃。投影魔術師衛宮士郎が礼装の弓から放つ強化鉄矢に匹敵する破壊力。そして、左右の銃に装填されているカートリッジ内の弾丸はそれぞれ七発。銃の薬室に予め一発込めておいたので、+1発追加され、二挺の合計は十六発。既に牽制に一発撃ったので、残り後十五発。

 

「……甞めるな。その程度の玩具で遊ぶとは、死にたいと見える」

 

「折角の戦争さ。好きなやり方で殺させな」

 

 ダン、とエゲつない発砲音。セイバーが避けた所為で弾丸が地面に当たり、穴を作り土煙を発生させる。だが、遅い。今のセイバーからすれば敵の殺気を感じ、銃の気配を悟り、指の動作を見て、飛ぶ弾丸を視界に収めながら回避可能。額、右手首、左腿を狙うも、セイバーは類稀なる直感で見切る。斬り払い、掠り避け、弾き飛ばす。

 刃と交る銃のダンスマカブル。

 踊り撃つアーチャーと、斬り追うセイバー。彼女達は戦場を縦横無尽に駆け、既に最初に交差した場所から遠く離れていた。だが、アーチャーはマスターを守らねばならない。異常があれば直ぐに魔術で“移動”出来るよう気張りながら、セイバーの意識を自分だけに向けさせていた。

 

「―――堕ちたなぁ、セイバー。呪われて、そんな様で、どんな気分よ」

 

 目前まで迫った剣戟をアーチャーはゆるりと避け、戦闘中にも関わらず相手を挑発していた。装填した弾丸も残り少なく、直ぐに使いきってしまう。

 

「戯けが。この世全てに呪われたのだ、この世へ呪い返そうとするのが道理だろう」

 

 怨念に染まった凶笑。セイバーに嘗ての面影はなかった。あるのは、そう……底なしの憎悪。何か特定のものに対する恨み辛みではなく、視界に入る全てを肯定した上で斬殺を良しとする悪意だった。そんな宣告と共にセイバーは全身を力ませ、一気に溜めに溜めたエネルギーを解放。音よりも早く、空気を砕きながらアーチャーへ突き進む。

 そんなセイバーの隙を逃すアーチャーではない。あれ程の速度を出せば、迎撃で撃ち落とすのは難しくない。相手の動作を持ち前の視力で容易く見切り、弾丸を胴体にぶち当てた。直撃軌道だったが、セイバーは余りにも強大な魔力放出と、膨大な魔力を込めた鎧の硬さで強引に逸らした。アーチャーは接近を許してしまい、斬撃の間合いまで距離を詰められる。

 ―――絶死の危機。左から横振りで首を()りに来た刃を、彼女は義腕を間に挟む事でそれを阻止。しかし、セイバーの狙いはそれだけではない。黒く染まった呪詛を魔力放出によって左手に纏い、まるで巨大な獣の手の如き形となった。物質化する程の呪いに憑かれたセイバーの魔力だからこそ可能な、本来なら有り得ない魔力放出スキルの使用方法。

 

「そら、捕まえた。脆いぞ、貴様」

 

「かぁ、グ……」

 

 魔力の手で宙に固定された。両腕と両足を握り締められ、顔にも魔力が覆い被さっている。サーヴァントであるアーチャーが身動き出来ない拘束力だ。セイバーの黒化魔力に対抗して全身から一気に、念力と魔力を解放して強引に脱出しようとも破れない。固定された空間さえ打ち破る威力があろうと、セイバーの前では無意味。理由は単純で、今のセイバーとアーチャーでは出力に差が有り過ぎる。蟻と像までとは言えないが、それでも子猫と獅子ほどの差は存在する。もはや、セイバーの魔力はそれだけで宝具に匹敵する武器なのだ。

 ダダダダ、と隙間の無い連続射撃。アーチャーは気力で握り締めていた銃を手首だけで動かし、銃口を何とかしてセイバーに向けていた。

 

「無駄だ。もはや効かん」

 

 P90とは威力が違う弾丸の筈。しかし、全力で魔力を放出したセイバーからすれば結局どちらも豆鉄砲。アーチャーはこのまま握り潰されるか、黒い聖剣で斬り殺されるかの二択。セイバーは敵の脅威を認めており、躊躇う事なく殺そうと聖剣を構えた。

 さくり、と静かな刃の音。モノが切り裂かれた時の悲鳴は、何故か人の心を波立たせる。

 銃器を咄嗟にアーチャーは捨て、刀へ持ち直してたのだ。そのままセイバーの魔力を、手首だけを回して斬り裂いた。

 

「ふむ。面白い手品だ。見ていて飽きないぞ」

 

 解放されて一気に距離と取ったアーチャーを、何故かセイバーは追わなかった。変異する前では考えられない邪笑を浮かべ、彼女はニタニタと怖気を誘う表情を作るだけ。ただただ静かに、敵の行動を眺めている。

 

「なんなんだ、アンタ。その気配……まるで化け物だ」

 

「その通りだ。今の私はサーヴァントにして英霊に在らず。しかし、そう言う貴様は、無念に囚われた哀れな女に見えるがな。

 ……無様だよ。それでは死に場所を求める老兵の成り損ないだぞ」

 

「ハ! 否定はしないけど、素直に肯定する気にゃなれないよ……!」

 

 瞬時にアーチャーは左手へ新たに刀を取り出し、二刀流でもってセイバーへ斬り掛かる。遥か格上の相手故アーチャーも全力を出すが、それを見たセイバーの表情に変化はなかった。穏やかな微笑みさえ浮かべて、敵の剣戟を優しく受け止めていた。

 

「温い。生易しい殺意だ、虫も殺せない」

 

 その場を移動することもしない。セイバーは直感に導かれるまま、早過ぎて傍から見ればゆったりとした腕捌きで淡々と、敵の攻撃を真っ向から防ぎ続ける。片手で握った聖剣を的確に相手の動作と合わせ、斬撃軌道とかち合わせた。アーチャーの二刀連撃を防ぎ遮る。恐ろしい事に、セイバーはアーチャーの攻撃を剣を持つ右腕だけを動かし、そんな魔技を行っていた。だが、アーチャーとてやられるだけの女ではない。軌道をゆらりとズラして刃を錯覚させる。敵の意識の隙間を狙う明鏡の剣技。セイバーの直感で感じ取れるよりも尚早く、アーチャーは斬首の剣戟を繰り出していた。

 それなのに、灰色の騎士(セイバー)には一太刀も届かない。

 錯覚する自分の意識さえも直感は補正した。いや、直感スキルと言うよりかは、戦乱を生き延びた剣士として持つ鋼の理性。彼女が蓄える戦闘経験が敵の技を初見で対応する。

 ―――強い。

 問答無用でセイバーは強かった。

 この騎士を剣で相手にするのが間違いだった。鍔迫り合いにアーチャーはあっさり持ち込まれ、そのまま一気に押し飛ばされた。吹き飛んだ距離は絶妙で、剣の間合いではないが飛び道具を使うには近過ぎる微妙な間合い。

 

「最初に言った筈だアーチャー、甞めるなと。その武の動き、貴様本来のクラスはアーチャーではあるまい。それは長物を得意とする者だ。本当ならばランサークラスが一番適性を持ち……あるいは、その魔術の程度から言ってキャスタークラスも本命なのだろう?」

 

「―――厭な奴になったよ、アンタ。でもさ、アーチャークラスもこれはこれで使い易いんだ……」

 

 この手合いは珍しくはない。隠し事が巧いのだ。元は同盟相手だったアーチャーだが、その時でもセイバーはアーチャーの手札を知らなかった。だが、知らないだけで動きや能力を観察すれば、考察することは不可能ではない。

 セイバーはブリテン王だ。騎士を統べる王だ。剣だけが戦う手段ではない。使おうと思えば、槍も弓も斧も棍もそれなりの腕前。騎士として武芸の心得は十分以上にあり、豊富な知識も蓄えている。その彼女からすれば、其の者が何を一番得意としているのか、そんな程度を予想するのは幾度見れば見破るのは実に簡単。数多の騎士を部下にし、彼女はその武技を見ていたのだから。

 

「……けどま、やっぱアンタの言う通り、一番の相棒はこいつさ」

 

 ゆらり、と彼女は薙刀を構えた。二刀を門の向こう側へ送り返し、神父と暗殺者を容易く戦闘不能にした愛刀を手に―――アーチャーは、血に染まり切った人斬り特有の笑みを浮かべた。同じく、セイバーも彼女と似た類の笑みを顔に刻んだ。

 

「―――ほぉ。愉しめそうだ」

 

 雰囲気が変質したことをセイバーは肌で直接感じ取れた。明らかに、敵の剣気と殺意が比較になれないほど強まっている。本気と言えば今までも本気であったが、これは次元が数段階違う。

 

「どうも。アタシの方も楽しませて頂くよ―――セイバー」

 

 零秒の圧縮―――弓兵は魔速で踏み込み、既に右斜め下から斬り上げていた。

 人型要塞とも例えられるセイバーの鎧と魔力霧をするりと抵抗なく切り裂いて、直後には首目掛けて水平斬りが繰り出されている。セイバーは瞠目する暇もなく、相手が生み出す絶技に敬意さえ抱いた。だが、殺されてやる訳にはいかない。最初に一撃目を避け切れず内臓まで斬られたが、その程度では致命傷にも届かない。自前の自己再生に加えて、今の自分は黒い鞘による治癒もある。しかし、二撃目の斬首は宝具の蘇生も意味を成さない必殺一閃……!

 だが、その程度で殺される剣士のサーヴァントに在らず。

 聖剣の刃の上で相手の斬撃軌道を滑らせ、鍔の部分で攻撃を停止させた。そのまま刃を絡ませ、一気に間合いを詰め込む。薙刀ではなく剣の範囲まで一気に攻め入った。振り上げた聖剣の一太刀で、アーチャーを斬り壊せる。その脅威をアーチャーは咄嗟に利用し、手元に引き戻した薙刀の柄で斬撃を地面へ受け流した。直後、一気に二歩分後退すると同時に胴を切断するアーチャーの斬り払い。セイバーは直感した死の未来だったそれを、身を刃で裂かれながらも回避し、再度反撃に出る。そして、アーチャーはサーヴァントとして何かが狂った術理で以って、騎士の剣戟を身を斬られながら捌き、鋭い刃で斬り返す。

 後はその繰り返し。しかし、攻防の入れ替わりが一秒の間に数度も行われ、何十もの刃を交合わせる。速さと言う概念を越えた先の先の瞬きが、二人がいる世界の正体。むしろ、時が逆行するとさえ錯覚する剣戟の衝突は、極めた業と鍛えた技だけが辿り着ける狂気の果て。

 セイバーはアーチャーから、人間が到達できる一つの可能性を敵の剣技から悟れた。魔力放出による絶対的な膂力は、全英霊の中でも最上位に位置する。それも聖剣の刃による攻撃となれば、神造の鎧や加護であろうと敵を両断する。並の宝具を一振りで叩き切る斬撃を、アーチャーは限りなく衝撃を零にまで弱らせた。時に刃で撃ち流し、柄で防ぎ流していた。

 強く、巧い。膂力と速度と技量を揃えた達人。自分と同じ戦場に生きた戦人。セイバーは敵から相手の在り様を感じ取れたが、剣で伝わるのはそれだけではなかった。

 

「―――外法か、その肉体」

 

「……アンタ―――」

 

「分かるぞ、感触で。生前の我が子も、似たような改良をあやつから受けていたからな」

 

 肉体の崩壊を躊躇わない過剰運動。アーチャーは筋肉と神経を発熱させ、口から流れ出る呼吸が熱かった。血液が煮え滾り、心臓を含めた全身を傷めつけながら戦っている。その状態の身体へ、更に魔力による強化魔術を施している。

 英霊となり、霊体のサーヴァントと化した今のアーチャーでさえ、心身を削り戦闘をしているのだ。これが生前の生身の状態となれば、彼女にとって戦いとは命を消費しながら行う自殺行為だったに違いない。一度に大きく寿命が縮む訳ではないが、生命を燃やして段々と死んで逝く。

 

「さぁ、アーチャー―――もっと斬り合おうか」

 

 素晴しい、と澱んだ騎士王はアーチャーの在り方を喜んだ。一体彼女の中の何がそこまで駆り立てたのか、今この瞬間の剣戟で味わいたい。教えてくれ、楽しませてくれ……と、今のセイバーは弓兵との斬り合いに挑んでいた。

 直後―――アーチャーは最速で刺突を放つ。

 心臓を貫き、一瞬で命を仕留める絶技。

 セイバーも同じく、魔力を爆発させ一気に敵へ斬り掛った。薙刀の刃を避けず、胴を貫かれながら―――敵を正面から叩き斬った。

 

「セイバー……―――!」

 

 心臓を抉れていなかった。いや、矛先は確かに心臓に当たっていたが、それは僅かに掠っただけ。大部分は肺の片方へ刺突が逸らされていた。その上、串刺しにされた肉体をそのまま切り裂かれない様、セイバーは左手で薙刀の柄を握る。加え、物質干渉する程の密度を持つ魔力を放ち、敵の肉体と武器を固定。

 ―――堕ちる剣。刃がアーチャーへ直撃した。

 まるで迫撃砲が建物を粉砕したかの如き狂った騒音だ。つまり、セイバーの一撃はその類の剣戟。もはや対人の枠には入らない対軍の領域にある破壊力。

 

「……抜かったか―――!」

 

 悪寒を信じ、セイバーはアーチャーの腹を蹴り飛ばし―――直後、背後の空間から銃口だけ飛び出た対戦車狙撃銃から、ライフル弾が発射されていた。セイバーがアーチャーを蹴って動いていなければ、頭蓋が潰れた果実みたいになっていただろう。

 

「クソ、なんて怪力。口から内臓が出るかと思った」

 

 口元から血流を滝のように吐き出すも、大事ではない。この程度生前に施した薬物投与と肉体改良で、サーヴァントとして召喚された現在でも、並以上の治癒速度で戦闘可能にまで回復できる。

 だが、半壊した左腕の義手は―――既にまともに動かせない。

 セイバーの一撃を防いだ所為か、脳神経と巧く義手の神経回路と連結出来ていない。二の腕部分を深く抉られている。義手の五指はもう武器を操ることも、握ることさえ不可能だ。

 

「―――完治してやがる。ホント、アンタを敵に回すなんて最悪だ。ゲテモノめ」

 

「あの程度、今の私にとっては掠り傷だ……で、どうする? 宝具で一切合財を決めるか、アーチャー」

 

「人が悪いなぁ。アンタのあんな化け物宝具、アタシ程度の英霊じゃ撃ち合う気にゃなれないよ」

 

 三秒も経っていない。アーチャーは万全には遠いが、肺を串刺しにされた筈のセイバーの方が回復している。アーチャーからすれば余りに理不尽な削り合いであり、幾ら敵を追い詰めようとも一撃で殺せなければ一瞬で回復する。

 瞬間―――セイバーを狙った弾丸が戦場を貫いた。

 

「あ、チャンス到来―――じゃあ、こっちも遠慮なく」

 

 などと悠長に喋りながらも、アーチャーは虚空に銃火器の銃口をずらりと列を描いて展開。接近戦では使い道が少ないが、相手が離れたとなれば砲火に集中できる。

 重機関銃に軽機関銃、対戦車狙撃銃から果てには迫撃砲の群れ。宝具には程遠い神秘の現代兵器だが、英霊の武器となり魔術的改造をされている為、サーヴァントを殺すには十分。それも、今のセイバーは受肉している。物理的な肉体で在ると言うのであれば、宝具や概念を重視しなくとも、圧倒的な火力で治癒が間に合わない速度で潰してしまえば良い―――!

 セイバーを狙った男、バーサーカーのマスター―――アデルバート・ダンは、その光景を見ている。彼が撃った弾丸は灰色の騎士に当たりこそしなかったが、アーチャーが反撃に出る機会を生み出した。

 

「……ふん―――」

 

 だが、今の騎士王は狂っている。膨大な魔力放出を剣気に混ぜ、一気に銃弾の嵐を薙ぎ払う。剣を魔力と共に一閃するだけで、アーチャーの弾幕を振り飛ばした。黒い斬撃は視界に映るほどの密度を持ち、セイバーは己が宝具を素早く解放……!

 

「―――風王鉄槌(ストライク・エア)

 

 二撃目は、宝具の黒い風を追加して撃ち放つ。呪詛により透明化は出来なくなったが、聖剣が纏っている風の鞘は健在。暴風は銃弾を吹き飛ばすと同時、更に背後で並んでいる銃火器さえ吹き飛ばした。

 そして、セイバーの前には敵が二人。

 左腕の義手を肩から垂らす弓兵(サーヴァント)と、厭な気配を放つ銃を構える殺し屋の魔術師(マスター)

 

「……で、そこのマスター。助けてくれたのは良いけど、バーサーカーはどうした?」

 

 アーチャーはアデルバートに問う。助けて貰ったのは良いが、それはそれ、これはこれ。聞かねばならない事は、サーヴァントとして知らなくてはいけない。

 

「黒い魔物に取り込まれた。マスターの俺を逃がす囮になった」

 

「なるほど。あの男が義理固いからな。戦うんじゃなくて、直感的にマスターを逃がしたんか。サーヴァントじゃ、あれからは逃げ切れないし。サーヴァントじゃなくても、対抗手段がないと勝ち目もない。

 ……んで、本題は何さ?」

 

「―――同盟だ。バーサーカーの仇を討つ。撃ち殺してやる」

 

 殺し屋の言葉は酷く簡単だった。敵を同じくするならば、と言うサバイバルにおける鉄則な誘い文句。

 

「―――は! 分かり易い。実に良いな。アタシから同盟はマスターに進言してやるさ。だからまぁ、今はアタシと協力しな」

 

「ああ。このセイバーは奴らの身内らしい。命を奪い()るには十分な理由だ」

 

 不利な状況下だが、この程度の逆境には慣れている。セイバーは人でなしの笑みを浮かべつつ、何故か急に不機嫌な形相に変わった。

 

「……成る程。そこの殺し屋、貴様―――亜璃紗に手傷を負わせたのか?」

 

「そうだぞ、否定はしない。その様子だと念話で知ったみたいだな」

 

 回転式拳銃(リボルバー)をくるりと回しながら、下劣な笑みをアデルバートは騎士王へ向ける。まるで、この銃で撃ち抜いてやったと嘲笑うかのような仕草だ。

 

「殺し合いはまた次回か……ならば、仕方ない」

 

 セイバーは念話で味方の状況を随時得ている。当初の目的はもう果たしており、得るべきモノは得られた。黒化聖女達もサーヴァント戦に運用した所為で、消耗が激しく修復が必要らしい。亜璃紗も腹部に風穴を空けられたらしく、もう黒い泥の転移で撤退を完了させている。

 ならばこそ、セイバーがすべき事は何もない。鎧の中に仕込んでおいた小さな蛭を、念話で知らせを受けた桜が遠隔より転移座標に使い―――セイバーは奈落へ堕ちるよう、一瞬で広がった地面の泥に沈んでしまった。

 

「……っち。アーチャー、その様子だとセイバーに逃げられた様ね」

 

 静かになった戦場。アーチャーの背後には、彼女のマスターが苛立った雰囲気で佇んでいた。凛は念話でアデルバート・ダンがいることは聞いており、バーサーカーが奪われたらしいことも知っている。となれば、次の戦闘だとセイバー同様な姿になっているかもしれないと、最悪の未来を簡単に予測していた。

 

「ああ。敵さん、色々と考えてるよ。……汚染されたセイバーに、甦った亡霊の衛宮切嗣ね」

 

「あの亡霊にも逃げられたわ。こっちを殺すと言うよりも、抑え込むことを優先してた。わたしを殺す気もそこまでなかったみたいだし……いや、殺す予定が最初から無かったみたいな、妙な感じだったけど」

 

「気味が悪い事態になってきたよ、マスター。背後には誰が居るんだか」

 

 はぁ、と深く溜め息を吐く凛とアーチャーの主従。

 

「―――間桐桜。お前の妹さ、遠坂凛」

 

「何を言っているのかしら、アデルバート・ダン?」

 

 此処で始め、凛はアデルバートへ視線を向けた。

 

「もうそこのアーチャーから、オレの提案を聞いているんだろ?

 今直ぐ殺しに来ないのが良い証拠さ。だったらよ、敵側の情報がこれ以上欲しいなら、オレと同盟を組め」

 

「はん! サーヴァントを失ったマスターに、同盟を組む価値があるのかしら?」

 

「そうかい。だったら―――オレを雇え、殺し屋としてな。報酬はこの戦争で生き残れることで十分さ」

 

 

◆◆◆

 

 

 アーチャーが強制召喚される前。己が宝具を解放したライダーは、王手を彼らに掛けていた。だが、このライダーでさえ事前に想定することのなかった奇襲方法により、戦場の土台ごとひっくり返されてしまった。

 

「―――エクス……カリバーだと!?」

 

 黒い極光。英霊の座に昇った者であれば、あれほど高名な宝具を見間違える訳がない。ブリテンと関わり合いがないモンゴル生まれの英雄のライダー―――チンギス・カンとて、英霊の座に昇った英霊として、アレの威容を見間違える訳がない。生前と関わり合いが無くとも、高名な聖剣程度見れば理解できる。

 光の斬撃、最強の聖剣、真名は約束された勝利の剣(エクスカリバー)

 

「だが……黒い。我輩が想定する戦場の埒外で、一体何が起きておる?」

 

 相手を追い詰め切っていた筈。亡霊兵の弾幕により、敵陣を大部消耗させれいた最中。だが、その砲火を出現した盾が防ぎ止めていた。敵魔術師は投影魔術を得意としているらしい。展開しているあの武器は恐らく、トロイア戦争で活躍した英雄の盾。ライダーはアイアスの盾と一目で判断し―――何も、問題はないと攻撃を続行していた。七弁あった守りも、砲火によって既に五枚消えていた。このまま撃ち続ければ、そのまま相手を消し済みにして簡単に殺害できる。

 それを―――エクスカリバーによって、兵士を一掃されてしまった。

 衛宮士郎達へ砲火を決行していた配下を皆殺しにされた。ライダーもあの場所に留まっていれば危険だった。咄嗟に範囲外まで飛ばなければ、そのまま光の中に消えていた事だろう。

 

“デメトリオ。お主、無事か?”

 

“無論……しかし、敵から離れた”

 

 エクスカリバーの極光によって、斬り合っていた相手を聖騎士は見失っていた。宝具が来ることをライダーの念話と自前の第六感で察知し、感覚のまま後ろへ避けた所、眼前に黒い光が通り過ぎて行った。その時にどうも相手は自分の戦域から離脱したらしく、首を取り逃がしてしまっていた。

 

“仕方ない。用心しろ”

 

“分かってる”

 

“だが、騎士王を表に出さず、わざわざ伏兵に利用し奇襲する。らいくないの、あやつらからの印象とは程遠い。想定内の事態故に驚きはせんが、何かが……何処かが変ぞ。可笑しい”

 

“確かに。本来ならば、騎士王と某らを戦わせ、後ろからエミヤが撃つのが戦術的に正しい”

 

“そうよ。本当にあの騎士王は―――衛宮士郎なるマスターの、サーヴァントか?”

 

“キナ臭い。気を付けろ、ライダー”

 

 念話をしつつデメトリオは異常事態に備え、自分のサーヴァントの元へ帰還する。騎士王アーサー・ペンドラゴンを見たライダーは、あの手合いの英雄が自分の誇りと言える宝具を奇襲に使うことが意外だった。

 ライダーは削られた兵力を計算し、まだ問題ないと判断。セイバーが戦闘に加入してこようとも、それ用の兵器は準備済み。エクスカリバーの発生位置から、既に観測兵によって姿を捕えており、此方に向かって来ているのも分かっている。新たな敵戦力の確認もできた。

 故に―――もはや、エクスカリバーは取るに足りない兵器となった。姿さえ確認してしまえば、真名解放など二度と許すものか。

 彼にとって一番の凶手と為る筈のアーチャーは、同盟相手を利用して隔離できた。あの女の強さは知っており、恐らくはあの神父と暗殺者も理解していよう。故に、あれが他人と組んで自分達と戦う事になるのはどうしても避けたかった。自分と戦った時は本気を出そうとしていなかったとしても、ライダーは出来るだけアレを排除したかった。それが出来るように、態々あいつらとアーチャーを一対二の状況にしてやった。

 だがその程度で殺せるのか、如何か。ライダーは希望的観測はしないが、結果の一つとして思考はしていた。違ったとしても、敵陣の戦力を減らす好機が今なのは確実。その為に神父達と同盟を結んだのだ。

 しかし―――

 

「まぁ、逞しい心臓ですね。とても握り甲斐がありますよ―――ライダー」

 

 ―――泥に囚われ、背後から肉体を貫かれるのは想定内でも、予想内の出来事ではなかった。

 異常の始まりは自分と自分の軍勢へ、突如として迫り襲って来た黒い極光。それを避けたのは良い。あんな膨大な魔力を真名解放を放つ前段階で感じ取れば、自分らに届く前に相応の準備も出来る。エクスカリバーが解放する斬撃軌道から、ある程度は逃げ伸びることも可能。観測兵から随時情報を得ているライダーにとって、不意打ちで撃たれるエクスカリバーを避けるのは難しくは無い。

 容易とは言えないが、それでも避け切った。

 避けた先へ、計ったように―――この女が存在していなければ、ライダーは不意と取られる事もなかった。

 

「何者だ、貴様……―――!?」

 

「魔術師、間桐桜。この度の聖杯戦争を起こした元凶の一人です」

 

 驚愕するライダーは、背から自分を抉る相手に振り返る事もできない。そして、彼女は体内に捩り込ました右手で、まだ鼓動を続ける心臓をそのまま強く握った。生きている体の内側から、桜は直接ライダーの霊核を文字通りに掌握していた。つまり、ライダーの霊核越しに宝具の死霊共も桜は汚染した。これではもはや、ライダーであろうとも亡霊兵に命令を下せない。

 ―――王手を越えたチェックメイト。

 全てを支配する将を囚われては、配下の駒は何も出来やしない。

 

「―――シィ……!」

 

 だが、自分のサーヴァントの危機を見逃すデメトリオではない。真に将となるのはマスターだ。何よりライダーを確保し、隙だらけな背後を見せる桜は殺したい放題。

 彼は切除の魔眼を発動するよりも確実に殺すため尚早く、標的との間合いを一瞬で零に縮めて斬り掛かる―――!

 

「しくじったか。流石は、聖堂騎士団が生み出した人型兵器だ」

 

 尤もそれは―――長身の神父が、聖騎士へ踏み込んで来なければの話であったが。横槍を完璧なタイミングで、言峰綺礼は聖騎士へ叩き込んだ。一撃でもその拳を生身で受ければ、内臓破裂は確実。練られた動きと身体機能から、気配はサーヴァントではないとしても、戦闘能力は埋葬機関並みの達人だとデメトリオは判断。流石の聖騎士と言え、無視出来る相手ではなかった。

 攻撃を避けると同時、デメトリオは敵を斬りながらステップを踏む。斬れたとはいえ、胴を数cm深く切った程度。神父は気にせずもう一度迫って来たが、彼は構わず最速で二刃目を繰り出す。たったそれだけで、相手を後退させるに十分な脅威。余りにも行動が騎士は早過ぎる。だが、その所為で騎士もライダーへ助けに行くのが一時的に止まってしまった。距離もまだあり、間には神父が一人佇んでいる。

 

「足止めか、神父。無駄だ」

 

 しかし、そんな程度で手段を失くす聖騎士ではない。距離があり、障害が有って斬りかかれない。となれば、その時こそ魔眼によって細切れにすれば良い話。

 

「―――……貴様」

 

 その斬撃を、桜はいとも容易く封じていた。

 

「ええ。無駄です。呪いで空間そのものを汚染してますから、大魔術でもないそんな異能程度の神秘は楽に潰せます。

 空間を切れると言うのでしたら、空間を支配してしまえば良い話。後は出力の問題なだけ」

 

 デメトリオの横槍で、それでも数秒の時間が過ぎている。それだけあれば、ライダーならば脱出くらいは出来る。心臓が潰れない様、自分の胴を串刺しにしてでも桜の心臓へ刃を刺し込める。そのことをデメトリオは疑問に思い、しないのではなく出来ないのだと直ぐに理解した。

 ……想像を絶する呪詛が、体内から溢れてライダーを拘束している。

 地面から湧き出ている呪いも拘束具に使われ、身動きがまるで取れない。だが、危機はそんな程度だけでは止まらない。

 

「あら、気が付きましたか。そうですよ、ライダーのマスター。令呪による命令なんて、そもそも聖杯を使えば使用権くらい妨害できます。あれは限定的な聖杯の解放によって起こす、ただの魔術現象に過ぎないですし。

 まぁ、本来ですと通常はそこまで出来ませんが―――命令を下されるサーヴァントを掌握してしまえば、不可能な技術じゃないんです」

 

 令呪による脱出指令を、デメトリオはライダーに下せられなかった。だが、些か不可解な気分をデメトリオを感じ取れた。確かに、自分は令呪でライダーの奪取を狙った。しかし、それはまだ発動前段階。魔力を込めて、令呪を発動させようとしたところで、違和感を感じて戸惑っただけ。だからこそ、何故―――まだ、自分が発動させていないソレをあの黒い悪魔の魔女は悟れたのか?

 

「さぁ、何ででしょうかね。教えませんよ」

 

「―――……まさか」

 

「どちらでも、もはや構いませんでしょう? でも、貴方の同盟相手であるあの神父でしたら、この仕組みを知っています。

 ……それだけのことですよ。

 こうやってライダーは既に私の掌の上に転がってきました。後はじっくりねっとりと、この右手で握り潰すだけで魔術師殺しさんの策は完成です」

 

 ライダーでさえ、恐らくはマスターたるデメトリオでも察知できない完璧な奇襲。エクスカリバーを囮に使った常識外れな作戦。泥によって広範囲を一気に侵食汚染。泥の群れを形成し、虚数空間から放たれる影の鞭。

 ……流石の桜でも呪泥の虚数による転移と、サーヴァントの霊体を削る呪いを、誰にも悟られずに出せる道理は欠片も無い。サーヴァントは勿論、聖騎士、殺し屋、正義の味方も楽に察知できる。空間と空間を連結させるには、それ相応の魔術の気配が内包されている。しかし、それを解消する手段がない訳ではない。術を成す為の基点があれば良い。膨大な魔力を存分に使用すれば、目的座標へ楽に魔術を具現可能。加えて、戦闘中であれば隙も見出せる。ランクA++の対城宝具を利用し、文字通り桜は“影の中”に罠を潜ませたのだ。

 それは―――小さな黒い蟲だった。

 何処にでも生息している羽虫。存在感などまるで放さず、気配も皆無。殺気もなかれば、脅威など有り得ない。視界に映ろうとも、戦闘中で気にする事もない。あるいは、戦場でなければある種の違和感はあるのかもしれなかったが、全長が5mmもない生物を注意することは非常に難しい。

 そんな羽虫が地面に染み込むよう、一気に数十mまで膨れ上がる怪異。

 魔術を発動させる瞬間をライダーは察知したが、その時にはもう空間ごと塗り潰す呪詛の範囲内。反応したところで、それ以上の速度で間桐桜の虚数元素が敵を捕えた。加え、その泥から出てくる影の触手は霊体のサーヴァントにとって絶対の天敵。地面の泥沼だけでも致命的なのに、その触手に捕えられると肉体が汚染される。この密度になると、あの英雄王に並ぶ自我がなければ意識も保てない。

 

「最初から我輩を狙っておったか……!?」

 

「良いですね。一を聞いて十を知るのは並の天才ですけど、零から百を錬り出す貴方は最高の意味不明(ゲテモノ)です。

 ですけど……流石の貴方でも、知識外のイレギュラーには対応できません。私のこの魔術は零ではなくて、英霊全てに対する埒外の天敵。一度でも私の力を見られればお終いですけど、一度でケリを付けられれば―――ほら、こんなにも簡単に捕まえられました」

 

 サーヴァントを捕える絶対の泥とは言え、ライダーは脱出できた。この英雄の自我の強さは狂っている。国家規模の膨大さだ。並の人間霊数十万程度の魂の強靭さを誇る。三秒でもあれば、強引に地面ごと魔力と火薬で抜け出せた。瞬時に死なぬ程度に自爆し、迎撃態勢を整えられただろう。

 だが―――間桐桜は、その三秒を許さない。

 捕えた刹那に、泥を介して転移。次の瞬間には心臓を生きたまま掴み、霊核を完全に掌握。作戦自体は衛宮切嗣が考えたものだが、それを可能とする間桐桜の化け物加減は常軌を逸している……!

 

我輩(ワシ)が計り合いで……貴様、それは―――」

 

「その通り。知っているのでしたら、話はとても早いです」

 

 デメトリオが疾走(はし)ろうとも、全てが遅い。足止め役の言峰綺礼もそうだが、その神父がまるで従がえるよう、黒いクラゲに似た魔物が大量に地面から生えてきた。影法師の如く、余りに唐突な脅威の出現。桜とライダーまで物理的な距離は近くとも、間に挟まる敵の手でデメトリオですら到達出来ない死地と化す。

 ―――桜は笑った。悪魔の真名を唱えるために、狂気を己の要にした。

 拝火教における邪神の符。膨大な呪詛が心臓を体内で握る右腕から溢れ、黒い紋様が桜とライダーの全身を二人纏めて覆っている。ならば、言葉にせよ。黒き呪詛を生み出した元凶を形に示せ。

 大聖杯の中に眠り続ける悪神の名を言葉へ変え、今此処に世界を呪う神の泥を現そう―――!

 

「―――この世全ての悪(アンリ・マユ)

 

 




 殺し屋のアデルバートの外見イメージは、ぶっちゃけ銭形警部やロールシャッハみたいな茶色の外套&帽子です。顔は若手カリスマギャングですけど。
 後、やっと桜さんを本格投入できました。ブレインの切嗣と、暗躍担当の綺礼に、戦術兵器担当のセイバーが居て、やっとキャスターと対抗できるサーヴァント二体を手に入れました。

 余談ですけど、Fateアニメのクオリティの高さが凄過ぎる所為か、更新していない間に平均評価が凄く下がってて逆に笑った。でも、低い評価をする人ってこんな駄作つまらねぇ暇潰し以下の徒労だって感じで、もう二度この作品を見ないでしょうし……読者じゃなくなった誰かに何か言うのは、作者自身もやっぱり物凄くつまらないので、普通にこのまんま書くのが一番なのかなぁと。
 なので、読んで頂けている方には、改めて、本当に感謝しています。二次の執筆が楽しめるのは、読者あってこそだと、久方ぶりに更新して実感しました。

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