神父と聖杯戦争   作:サイトー

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 第一次世界大戦終結後、とある国から大陸核弾頭ミサイルが雨となって降り注いだ。全ての首都は例外無く焼き払われ、国家は国家として機能せず世界は放射能の渦に消えた。核を使った新国家―――モンゴル帝国を除いて。カルデアのマスターと英霊たちは人類史の悪意と出会い、暴かれたこの世全ての罪を背負う魔人と対面する。



嘘予告.神父と聖杯探索

「―――やあ。調子はどーだい、赤兜ちゃん?」

 

「知るか、死ね。腐れ奇術師」

 

 牢獄の中。光源がランプ一つの暗闇に男と女が居た。男はにやにやと笑いつつ、不気味で冒涜的な雰囲気を隠さず椅子に座ってもう一人を視線を犯している。そして、女の方は鎖で両手を椅子の肘掛けに縛られ、上半身を椅子ごと巻き込んで拘束されている。

 何より彼女の服装は卑猥の一言。上半身は胸は赤い布で隠してはいるがそれだけ。

 下半身は身に纏うことは許されず、しかし足を拘束するものは何一つない。

 赤兜と呼ばれた女―――モードレッドは足を組み、無遠慮に自分を視姦する下衆野郎(キャスター)の眼から自分の恥部を守っていた。

 

「いやぁ、気の強い女性は良いね~」

 

「ハッ! 婦女子を嬲る屑魔術師の好みなんざ興味ないぜ」

 

「そんなこと言われると僕も傷付くよ。彼是君が僕たちの陣営に捕まってからの付き合いじゃないか」

 

 奇術師と呼ばれる魔術師は気にした雰囲気など一切無く、好色的な表情を浮かべて楽しんでいた。何しろ、モードレッドをこの牢獄に閉じ込め、今まで死なぬ様に世話をしていたのは彼だ。嬲り続けていたのも彼だ。彼女の性格も把握しており、こっちの拷問に屈しないことも理解していた。

 ……そう理解した上で、この魔術師は可愛らしく、美しく、強く、心がまだ何処か幼い騎士を陵辱することを存分に楽しんでいた。

 言ってしまえば、こんなモノは生産性も計画性もないただの娯楽。

 

「だってさ、ほら。こんな上等なお膳さんを食べないのは、男として可笑しいでしょ。でもね、僕はまだまだ我慢する。その方が至った時の快楽が高く、大きく、そして素晴しい。

 だから―――君の純潔を、僕は奪ってないのさ。

 敵国に捕まり、裸体に剥かれ、僕の同胞たるブリテンの男どもに強姦され、聖女は処女を奪われ聖処女でなくなり、何度も何度も拷問を受け、何度も何度も陵辱される。そして僕達をとてもとて~も愛して下さる唯一絶対の創造神の名の元に、火刑に処されたあの聖女みたいな屈辱を君をしても良かった。焼いた後に焦げて裸になった体を民衆に晒し、その後更に焼いて灰を河に流しても良かった。

 でもね~。そんな事、僕はしないよ。同じブリテン生まれの人間の屑だけど、そんな酷いことは出来ないさ。神様を信じる糞雑巾共と同じことは絶対しないさ。

 何せ、君みたいに美しいモノを愉しまないなんて―――己が人生の損失じゃないか」

 

 良くも悪くも、この魔術師は教会の神を心底嫌悪している。2016年まで残ったその宗教を心の底から憎悪している。

 カトリックであれ、プロテスタントであれ、宗派を問わずに意味もなく嫌っていた。

 自分の人生を縛るもの、縛ろうとする戒律がどうしようもなく、この魔術師は怨んでいた。

 

「――っち、相変わらず下衆だ。この俺を美しいだと……愉しもうだと!

 テメェの下らねぇ御託になんざ価値はない! とっととこの鎖を外しやがれ、腐れ外道!」

 

「うん、いいよ」

 

「……――――――」

 

 その戯言に本気で堪忍袋の緒が切れたモードレッドは憤怒で視界が真っ赤に染まり―――瞬間、自分を縛る拘束具に魔力が奔ったのを自覚して……

 

「はいはい、ポチッとね」

 

「―――――――――は?」

 

 ……本当に、拘束が外されて、茫然としてしまった。

 

「いや~ねぇ、ほら何て言うか―――飽きちゃった」

 

 固まったままでいるモードレッドを良い事に、奇術師と呼ばれたキャスターを朗々と今の心境を語る。無駄に抑揚を付けて、奇術師と言うよりも道化師と言った方が正しい雰囲気で。それはとてもふざけた態度であり、不真面目な表情であった。

 

「そりゃ、やっぱり……? 君の性欲をネンネンゴロリと魔術と薬品で昂らせ続けて、自分から犯してくれって懇願されるのを待って、念入りに犯して尊厳を折るのも愉しそうではあったんだけどね~。

 でもさ、僕って自分で自分の気を狂わせてる女以外を性で狂わせる趣味ってなくてね。こんだけ細胞一つ残らず肉欲で狂わせてるのに、精神が狂わず魂が屈指ないんだったら、君をとことん玩具にしてもあんまり面白そうじゃないし。

 これだったら玩具にならない相手が望む方法で、一緒に遊んだ方が楽しそうだなってね」

 

「………………」

 

 

「うん、(だんま)りかい?」

 

「あ~……つーか、斬って殺そうと思ってたんだけど、何か一気に殺意が冷えた」

 

「それが狙いだからね。はいこれ、タオル貸すよ。ソコが濡れたまま武装化とか、流石にしたくないでしょ。逃げるんだったら手伝うし、僕もこの超軍師さん特製超中華ガジェット式超元帥運営の超監獄から脱出する予定だしね」

 

 超超うるせぇ、と言う顔をしたまま赤兜の騎士は地面に唾を吐く。

 

「……テメェ、気が効く癖にマジでイラつくな」

 

 モーロレッドから視界を外し、キャスターは既に唯一の出口である扉を開いていた。

 

「うーん。まぁ、これでも世界で最も邪悪な男って世間から呼ばれた魔術師だからね~……あ、そうそう。束縛術式は全部キャンセルしておいたし、拷問として使ってた媚薬と一緒に魔力も存分に注入してたから、その気になれば今この瞬間にでも宝具ブッパ出来るから」

 

 そう言って、男は背を向けて牢獄から出て行った。余りに凶悪な魔力の波動を背に受けながら、彼は静かに扉を後ろ手に閉めた。

 

「ホント、色々と愉しみだね~」

 

 生前は根源に至る為に我慢していた道楽を、魔術師は一切遠慮することなく堪能するため、彼は自分の信条さえ裏切って死後を愉しんでいる。

 

「死後に英霊として生きられるとは、私は何て素晴らしい幸運を拾えたのだ」

 

 根源の為だけに、全てを掌に悪名を広めた―――真名を得る為。

 根源を観測して、なのに「 」には至れず―――無価値な答え。

 根源を目の前に、魔法を手に得ることなく―――不実な魔術師。

 あの虚無に到達したと言うのに、この身は根源と接続出来ず、新たなる法も得られず、あの虚無が根源であろう「 」なのだ理解しただけだった。到達することは出来たのに、知識として得られた筈なのに、私はこの魂に「 」を宿すことは出来なかった。根源そのものに辿り着こうとも、行き着いたその先にある求めた「 」を手に入れられなかった。

 神の目と神の脳により根源から手に入れたのは、その神が持つ権能のみ。そして、その権能からなる新たな自分だけの魔術系統だけであった。

 だからこそ―――計画通り、英霊となった今は全てを愉しもう。

 次こそは手に入れた我が権能で以って、あの根源を全て支配する。

 魔術王の頭脳と両目を奪い取り、量産した真なる聖杯があれば、遂に私は――――

 

 

 

 

 

 

 

             特異点γ 人理定礎値:A

       AD.1919 廃滅大王苦界イェケ・モンゴル・ウルス

 

           「亜種聖杯 ――大いなる獣――」

 

 

 

 

 

 

 

 ―――蒸気都市の玉座。世界を略奪した皇帝と、帝国建国を助けた数学者の二人。

 

「この惑星を今の段階で、その……地球そのものを遊星に出来るのですか?」

 

「是なりぞ、アルキメデス。その為の平行世界への移行だっただろうが。我輩(ワシ)の世界における人理は完全崩壊し、後は伐採を待つだけの残骸に成り果てたしの。

 我らの軸におけるソロモンもどきを討ち殺し、成り果てたあの真なるマスターの英霊体も、遂にはこの我輩の―――そう、このモンゴルに堕落した。我ら全ての英霊達の支配者として完成したあの少女も、この世界に移動し、この時代の人理を略奪することで死後の英霊としても完結した。

 分かるだろう、全ての英霊が魔人となる。全てやがてグランドとなり、他惑星を略奪する先兵となる」

 

「それは理解しております。捕えた先兵を解明し、ヴェルパー共は既に分解済みですから」

 

 だからこそ、アルキメデスはこの王に仕えた。チンギス・カンが目指す略奪の果ては、地球外の叡智を求めるアルキメデスの目的と同じ。

 文明技術もまた皇帝にとっての略奪品である。

 だが、その略奪品を有効に扱うには技術士と学士が必要だ。

 アルキメデスとは、皇帝にとって必要不可欠な帝国のパーツだった。自分と同じ国家運営の為の歯車だった。

 

「うむ、そうだ。遊星の文明はモンゴルへ移し終えた。アルキメデス、お主の手柄だ。お主がこの銀河における文明の起源となるのだ。

 だが、それだけではまだこの平行世界は手に入らん。

 銀河の中心地たる母星に生まれ変われん。

 我らは異界からの侵略者故に容易く世界を滅ぼせたが、完全な異端因子故に世界を焼き、滅却を果たすが崩壊には至らず。

 核弾頭による地上の絨毯空爆によって全ての都市を滅ぼしたが、人理が崩壊していないのはその為ぞ。完全な外部からの侵略者の所業だからこそ、その虐殺を人類史から隔離されてしまっていのだ」

 

 そう、それこそがチンギス・カン。人理が滅んだ遠い平行世界で百を超える聖杯を手に入れ、ソロモンの偉業を略奪した男。アルキメデスと手を組み、世界を幾度も移動し、遂にカルデアが観測する世界における特異点を生み出した元凶。

 この世界の西暦1919年に降り立ち、時代を焼いた魔人。

 とある聖杯戦争において優勝し、全てを狂わした欲望の化身だった。

 

 

 

 

 ―――カルデア、人類最後の砦。

 その中心部たる部屋にレイシフトの説明のため、ロマニ・アーキマンは彼らマスターとサーヴァントを集めていた。

 

「―――1919年?」

 

 人類最後のマスターはその西暦を聞いて、少しだけ疑問に思った。

 

「そう、1919年。結構最近だけどね、その年代に特異点が発生したんだ」

 

「1919年ですか? その年ですと確か―――第一次世界大戦が終わった年、でしたか……?」

 

「その通りだね、マシュ。でもね、年代は特定出来ても、その地域がかなり異常なんだ」

 

 そう言ってロマンはスクリーンを出し―――それを見ていたマスターとマシュも、自分の眼を疑ってしまった。特異点となる地域は異常が出ており、確かに一目で判断はできる。判断できるのであるが―――

 

「見れくれ、ヨーロッパが焼き払われているんだ。そして、ドイツ中心部に巨大都市が一つだけ存在している」

 

 ―――小国に匹敵する巨大都市。

 

「しかも、焼かれているのはヨーロッパだけじゃない。世界各国の都市が壊滅してて、その殆んどに人間が生活してる気配がない。

 でも、人理は全く崩壊していない。

 特異点は観測出来ているのに、人理の崩壊を確認出来ないんだ」

 

「どういうことですか、ドクター」

 

「それがわからないんだ、マシュ。でもね、多分ことの真相はこの都市に行けば分かる筈」

 

 それを聞いたマスター―――藤丸立香は、その危険度だけを認識する。残すは七つ目最後の聖杯だけとなった現在、突如として発生した特異点。それがまともな訳がない。

 しかも、レイシフト可能な人数がかなり限られている。

 恐らくはカルデア対策で、惑星規模で何かしらの結界が張られている。規模が規模だけに干渉能力は微々たるものであるが、それでもその時代、その世界以外からの外部干渉を有る程度は遮る結界が星に刻まれていた。その所為でマスターとシールダーをカルデアから観測するのが精一杯で、カルデアの力で保護できる数も二人を除けば三人が限界だった。

 

「現地入りしないとその辺も分からないか。でもまぁ、これも何時もの事だね。分かったよ、ロマン。私たちがあっちに行けば、そっちにも詳しい情報も送れると思うから。

 霊脈見付けてマシュのシールドパワーを発揮してしまえば、孔を穿いて観測もし易くなるし……うん。そうすればレイシフト先の世界でも、私を通じてカルデアから現界を維持できるサーヴァント人数も拡張できるかもね」

 

「何時もすまないねぇ、立香の婆や」

 

「それは言わない約束でしょ、ロマン爺さん」

 

 

 

 

 

 ―――転移した先の荒野。

 

「先輩ここは危険です、異常なまでの放射能汚染です! それに加えて未知の毒素で溢れています!!」

 

 念の為、都市の外れにレイシフトした彼と彼女達を待っていのは、異常な空気に満ちた世界。そして、異形化した人間と動物が徘徊し、幻想種などの魔獣とは雰囲気が違う異形の化け物達。

 

「……ク。これはまた雅ではない死の世界よ」

 

 アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎が口元を押さえながら苦言を申す。予め転移前に魔術で身を保護していなければ、神秘面における特別な技能がない小次郎だと数分で肺が爛れている腐界だった。

 

「同感です。これは霊体であるサーヴァントでも生命活動に危機が出ます。受肉して生身であれば私でも一時間は生きられません」

 

「マスター、人数分の浄化マスクをダ・ヴィンチから念の為に渡されていた筈だ。それを使わせてくれ」

 

 また、セイバーのアルトリアとアーチャーのエミヤもまた、この世界の毒は長時間耐え切れないらしい。

 

「やぁ君達、大丈夫かい?」

 

 そんな五人一向を迎えたのは一人の魔術師。

 

 

 

 

 

 

 ―――そうして、マスターたちは都市に辿り着く。

 

「―――蒸気の遮断結界?」

 

「そうさ。今やこの都市以外はね、放射能汚染とエーテルによって人間が長時間生きられない世界になってるんだ」

 

 あの聖都キャメロットとは違い、二人は無条件で妨害もなく都市に侵入できた。余りに巨大な未来都市で、まるで巨大な機械の内側に入り込んだ様な雰囲気の街。事実サーヴァントによって運営されるこの都市は、本当に機械を一つの都市として型を創り上げ、更に拡大させていた。

 

「放射能ですか? でもそれは変ではありませんか、キャスターさん?」

 

「うん、そだよ。1919年の今だと誰も放射能技術なんて科学を理解出来ない。これはこの特異点を生み出した主犯格が計画した作戦でね。世界大戦によって人間に愛想が尽きた神様の仕業なんて偽って、世界中に目視もレーダーでも確認できない不可視の核弾頭を世界中にばら撒いたんだ。

 そりゃもう、この時代の人間からすれば神の裁きに見えただろうさ。

 ピカと光ったら、全てが崩壊してるんだからね。それも第二次世界大戦で使われた原子爆弾よりも更に強く進化した兵器だよ。世界中でゼウスのケラウノスやら、インドラの雷光やら、バベルの再来やらと、そりゃ滅茶苦茶だったから。

 一部国家ではもう核の理論はあるだろうし、実験もやってるかもしれないけど―――そう言う科学的に理解出来る国はとっくに廃滅しちゃったからね~」

 

「それはなんて―――」

 

「気が狂ってるって? 僕もそう思うよ、マシュ君。人理滅却によって一瞬で世界を焼いた魔術王よりも、更に人間的で生々しい手段でね―――この蒸気都市を支配する皇帝様は地上を滅却した。

 人理を崩壊させることで間接的に滅却したんじゃない。

 物理的に人間の文明全てを焼いたんだ。魔術でもなんでもない、自分達人間が生み出した科学文明の技術を使った所業ってこと」

 

「でも、そんな悪意があるのに、その人はこの都市を作って人間を保護してる」

 

 マスターの疑問はそこにある。ある意味では魔術王が成した悪行よりも遥かに人間らしい、目を逸らしたくなる大殺略を行った魔人が、何故自分が滅ぼした後の世界で救世を行うのか。

 

「うん、その通り。あの王様はさ、自分が作った新国家に民を呼びこむ為だけに―――科学技術で以って文明を滅却した。何より、自分以外の国はこの星に不必要はっはっはとか言って爆笑してたよ。

 ……あの王様も王様で、生前は一人の人間として世界そのものに挑戦はしてたみたい。でも座の所為で死後に英霊になっちゃてね、人理とか抑止とか阿頼耶とかの本質やら真実やらを知って、それを覆す聖杯とかも魔術王が特異点とか作る所為であっさり手に入れちゃってさ~……ま、それでこの様って訳。それが出来る手段と道具と理論も手に入れたのだから、この世界から星を略奪しないでいるのはつまらないってさ。

 けれど、この惨状は自分を駒として良い様に利用した魔術王に対する意趣返しでもあるんだろ~ね」

 

 

 

 

 

 ―――街に潜む異形の魔物。

 

「―――んで、これ何、キャスター?」

 

「これ? これはね、この都市の連中が作った生物兵器と機械兵器さ」

 

「機械と一体化した人間―――え、もしかして人造人間(ホムンクルス)じゃなくて、マジな改造人間(サイボーグ)!」

 

「そだよ、マスター君。あの皇帝が呼んだサーヴァント連中は凄くその性質が偏っててね、こう言うのが得意な連中ばかりなのさ。

 と言っても、今君らが殺して始末したのはね、元々はホムンクルス。しかも科学技術で型作りした生物兵器としての製造方法も用いている所為か、魔術的なホムンクルスの要素も持ったデザイナーベビー兼改造済みのオートマタでもあったりする」

 

「成る程。ならば、自然の触覚である通常のホムンクルスとは違い、人型の生命として霊長の魂を持った人間でもある訳か。

 ……しかし、それは変な話だぞキャスター。

 何故奴らは都市機能を破壊し、そして国民を殺し回る兵器を野に放った。話を聞く限り、ここの支配者は愉快犯でもあるが、手段を選ばぬ合理主義者でもある。これでは道理に合わないが?」

 

 答えを確信している疑問をエミヤはキャスターにぶつける。

 

「その通りさ。いやーホントはさ、最初はこんな風に暴走してた訳じゃないんだ。あの連中は安全管理は異常なまで完璧だったから。けど僕達反抗勢力が奴らの工場をテロって爆破した時に、どうやら可笑しくなっちゃったみたいでね~……野生化した生物兵器が都市に大量蔓延しちゃった。

 んで、それを正義の味方と偽って、僕達がこの哀れな兵器達を処理してるってこと。そうすればテロって悲劇の元凶を生み出したのは僕達だけど、その事実を隠しさえすれば慈善活動で一定の支持を住民から得られるからね~」

 

 

 

 

 

 

 

 ―――拠点での一時。

 

「それなりに親睦も深めたし、そろそろ僕も僕自身をしっかり自己紹介しよう。キャスターのサーヴァントってだけじゃ、人理を修復するために絶対死ねない君達も、僕をちゃんと信用できないでしょ。まぁ、真名を知ったら信頼は絶対に出来ないだろうけど」

 

「そんなことはないです。あなたは私達をここまで助けてくれました」

 

「やだな、マシュ君。それはね―――助けない何て無価値な行いより、助けた方が絶対に人生愉しいからだよ。

 ……宝具を使えば運命とか別にただの天気予報だし、あそこに君達が来るなんて現実は一週間以上前から知ってたし。例え信頼されなくても、最低限は信用して貰えるように全部僕が仕組んだ事なのさ」

 

「それでもキャスターは良い文明! 愉悦もまたそれで良し!」

 

「君は君で割り切ってるね~。ホント、マスターになるべくしてなった超人だ」

 

 故に、キャスターはこのマスター足る女を理解していた。世界全てを自然と背負えて仕舞える人間のその魂は、恐らく座においても確実に上位に君臨する強大さだった。問答無用とさえ言える強さ。

 彼女とて最初は一般人そのものであったのだろう。だが、数多の時代の、数多の世界の、数多の英霊達との邂逅と、人類が絶滅する圧倒的危機と脅威を何度も何度も退けた経験が―――もはや、その人間の心を有象無象を遥かに超えた超人魔人に変貌させてしまっていた。

 何よりも、この短期間で救世を実行する成長速度。

 世界全てを救えと、そう在れかしと生み出されたとしか思えない人型の理。

 己を既に悟り切っているその魔術師こそ、キャスターは自分のマスターに相応しいと―――否、数多の英霊達を従がえる人理の化身と成り果てつつあるその女こそ、魂を預けられると直感していた。

 だからこそ――――

 

「だからこそ、私は宣告する。

 我が名はアレイスター・クロウリー。神の理を理解したが故、根源に敗北した英霊の魔術師である」

 

 ―――人間としての本名ではなく座に登録された英霊としてのこの名さえ、目の前の女からすれば取るに足らないただの情報なのだろう。そんなことをエドワード・アレギザンダー・クロウリーは人間として分かっていた。

 あの哀れなグランド等と言うもどきと化した魔術王を討つべく選ばれた救世の徒。

 人理と抑止を維持するアラヤと、何より神霊と精霊を支配するこの星たるガイアが望む未来が交差する瞬間に、恐らくこの人理の守護者の命運は決まっていたと、クロウリーはほくそ笑む。所詮全てが予定調和に過ぎないならば、滅ぼしたところで罪など有りはしないのだ。

 そして、その魂の深化はマスターだけではない。

 彼女が真に信頼し、全てを信用する絶対の相棒――マシュ・キリエライト。このクロウリー好みの悪辣さで生み作られた人造人間もどきも恐らくは、そう在れかしと生き残ってしまったのだと愉快に思う。クロウリーが心底嫌う束縛された因果律の中では、救いさえももしかしたら決められた運命なのだろう。絶望が運命で決まったものなら突き進んで破壊すれば良いのに、求めて得られた救済さえ決められた運命の内側であったとしたら、全てが全てガラクダだ。だからこそ、霊長全てが救いを求めて綴ったこの物語の中では、この瞬間もまたただの幕間劇。

 

「クロウリー~、今帰ったぞ。キュロスさんが戻って来たぞ!!」

 

「うっせーな、玄関の外で大声出すと警邏に居場所がばれるかもしんねぇだろーが……!」

 

「おいおい。小声で怒鳴るなんて器用だなぁ、モーさん」

 

 とまぁ、クロウリーが心の中でシリアスな自分に酔っていても別に何でもないことだ。

 

「……あれま、アーさん。何時の間に」

 

「徒歩で帰って来た。それと救世王、アーさんはやめないか」

 

 一人黙々とフォークでケーキを食べていたアルテラは顔を顰める。相手はあの救世王キュロス二世、基本的に何を考えているのか全く分からない。

 

「なんで? 可愛くない?」

 

「可愛い……可愛いか? そうか、可愛いのか―――」

 

「そーですので、オレのこともキューちゃんと呼んでも良いのよ? 救世王とかマジ堅苦しい」

 

「それは、なにかイヤだ。キュロスで我慢しよう」

 

「なんでや。そんなんだから神の(SMグッズ)とか呼ばれるんだ」

 

「ふざけるな。生前も死後も、この星に来る前でも、そんな呼ばれ方はされたことがない……!」

 

「あのー、フォークが三色ペンみたいになってますよ~。もしかしてフォーク・レイしちゃうんですか……―――!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――奇襲する敵の全戦力。

 

「この場所は既に我輩(ワシ)の領地、我らが都市の内側よ。ならば―――小手先の戦力は逆効果。偵察などそも不要。

 故に、こうして全戦力で以って相手が準備を整えぬ内に強襲する。

 今で在れば、こちらの本陣の防御戦力が最低限で済むからのぅ。今だからこそ、お主ら全員を一度に殲滅できる最後の機会となる。この好機を逃せば、此方も其方の奇襲や挟撃、諸々の内部工作に備えて、ある程度は戦力を分散しなくてはならんのでなぁ……」

 

 皇帝―――チンギス・カンが笑う

 

「……辺りの住民の避難は済んでおる。存分にその人理の宝具で神話を貶めるが良い、稲妻博士」

 

 瞬間、蒸気都市に張り巡られた無線送電網に火花が散る。限定的ではあるのだが、蒸気王C・バベッジ博士と結託したテスラはこの蒸気都市に電機を綱を張っている。それはつまり雷電の巣を意味し、遂にニコラ・ステラは自分の望みである世界システムに手を掛けた。

 故に、ここは蒸気世界であると同時に絶対雷電領域。

 サーヴァントである自己を霊体化することで、その電磁場配線網(ライトニング・ネットワーク)によって自分を雷速で移動させることが可能となり―――――

 

人類神話(システム)雷電光臨(ケラウノス)――――――!!」

 

 ―――魔力を存分に溜めた状態で遠距離から、このアーチャーは背後に移動し宝具による奇襲を敢行。本来ならば絶対不可避の速攻であるそれ。

 

“マシュ、エミヤ。手順通りで宜しく”

 

いまは遥か(ロード)―――」

 

熾天覆う(ロー)―――」

 

 しかし、もはやカルデアの魔術師(マスター)であるこの女にとっては“その程度”としか感じられない危機に過ぎない。

 

「―――理想の城(キャメロット)!!」

 

「―――七つの円環(アイアス)!!」

 

 人類の雷を防ぐも、恐らく狙いは纏めての鏖殺ではない。宝具を防がせることが目的であり、あの皇帝ならばカルデアのマスターのサーヴァントの力量を読み間違える訳はない。故に、マスターはあっさりと気が付く。雷撃によってサーヴァント達が身動きを全く取れず、全員が稲妻博士の一撃に“集中して”しまっているこの現状―――!

 

“多分宝具の放射が終わった辺で気配消した奇襲を私だったらするから、コッジーはもしからしたらの迎撃準備宜しくね”

 

“―――承知”

 

 だが、その念話も直ぐに結果を出す。雷を防ぎったその刹那、小次郎が自己を明鏡止水に至らせ、周囲全てに存在する生命の気配、あるいは物体が移動する気配を容易く感覚し―――

 

「無明三だ―――……ん! 本気ですか!?」

 

 ―――一瞬、マスターを背後から刺殺せんと縮地で迫った暗殺者を小次郎は己が心眼で見破る。合気切りとでも呼べる柔らかい動きと剣捌きで、あっさりと敵の首が移動する軌道上目掛けて刀を振っていた。加え、小次郎の剣戟は異常な間で見切り難く、まず初見で完全に把握することは不可能。

 

「……おや、その可憐な姿は沖田殿ではないか。いやはや、こうして敵同士で殺し合えるとは正に僥倖」

 

「う~ん、私は貴方を知らないのですが……もしかして―――そっち、私います?」

 

「セイバーであるがな」

 

「はぁ、なるほど。それでは良い事を教えてあげますけど、アサシンで召喚された私は真っ向からの戦いは兎も角ですね―――殺し合いと切り合いは、そのセイバーよりも巧いですから」

 

「くく、それはこの一合で悟っておるよ。なにせ殺気を斬り殺す直前まで消す事で、その得られた気配遮断を有効に縮地と合わせておったからな」

 

 加えて、今の沖田総司の刀は日本刀ではない。皇帝に召喚された超軍師が死後の工学歴史を研究して造り上げた中華ガジェットが一つ、倭刀・軍神一刀。小次郎はその能力は理解できないが、その刀がAランク宝具に並ぶ異常な“凶器”であることは既に見抜いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――君臨する略奪王と、立ち塞がる救世王。二人は椅子に座り、テーブル越しに対面していた。

 

「アルマゲドン。神の裁きと偽り、今の時代では未知の兵器であると核弾頭不可視化し、世界中の都市に振り落とす。

 そして、放射能汚染により人が住めない環境と化し、自然を抹殺するのだ。

 ……本番は其処からでの。

 生き残った世界中の人間を避難の名の元、巨大浮遊蒸気機関艇を使い―――この新たなるモンゴル帝国、この蒸気都市に蒐集した。国家はやはり民なくしては成り立たず、その民を集めるのに国家を滅ぼした訳ぞ。

 民達は喜んでおったぞ。敬っておったぞ。

 遂に世界を見放した神による滅びの裁きから人界を救いし救世の徒達。真なる科学文明によって絶対守護領域を生み出す人界無二の都市国家。不治の疫病から逃れられ、星と自然が廃滅したこの苦界において、人間が人間として唯一営みを成せる大王の楽園―――」

 

 略奪王はそう謳う。チェス盤の駒を動かしつつ、楽しそうに知略を行使する。

 

「―――大蒙古国(イェケ・モンゴル・ウルス)

 特異点と化したこの世界の民共はのう、我々人類を救うべく復権した第三帝国と、そう我輩(ワシ)の国を呼んでおる」

 

「ふぅん、そう。まぁ、テメェの気持ちも分かるよ、すごく良く分かる。オレもあの哀れな魔術師に召喚されたら叛逆確実だし、聖杯とか先に手に入れたらそりゃヒャッハーするに決まってる。

 けれど、それでも一応はあの神様連中との密約があってなぁ……」

 

「ああ、アレかの。バビロンでお主がやった奴隷解放か?」

 

「そうそれ。虜囚にされて信仰を奪われた民族をオレが解放してやったんだけど……まぁ、そん時に色々と密約を交わしていてな。あそこは混沌として過ぎていてな、なんか駄目だなぁと思ってさ。メソポタミヤの神と古いユダヤの神連中にね、ちょっとした提案をオレがしたんだよ。

 ありゃ、どっちも良い気分になれるWinWin(ウィンウィン)なヤツだったし、向こうも律儀に今もまだオレとの密約を忘れてはいない。だったら、死んで国が滅んで王でも何でもない英霊になった後だとしても、誓いは誓いとして守らないとな」

 

「ほぉ……密約者たるお主がどのような契約が気になるが、まぁ気になるだけだの。如何でも良くはないが、今は関係無い。にしても、我輩も我輩で特異点となる程度には人類史にほどほどの影響を与えてはおるが、お主もお主で特異点と化す歴史の変化時点を生み出しておる訳だの」

 

「オレが虜囚解放していなけりゃ、啓示宗教は星の縛りから脱却することなく、人が人の為に創り上げたあの唯一神もユダヤの民に信仰されることはなかったし。ユダヤの神が今ほどの膨大な信仰を得る事も無かった。そうなりゃ、後に聖人らもユダヤの神から加護を受けられず、この時代の二大宗教もあの唯一神を見出せずままだったろうよ。

 ユダヤもバビロン虜囚からの解放があったからこそ、この時代であれば旧約聖書と呼ばれる人類の聖典を生み出した訳だしな。あれがなければ、啓示の信仰者共があらかた駆逐した他の多神教と変わらず、星から生じた神霊が文明の発展と同時に消えた様に、その信仰も文明発展に合わせて廃れたことだろうて」

 

 二人は盤から視線を動かすことなく、淡々と互いの駒を動かし、相手の思考を先読みし合う。

 

「その挙げ句、生前は戦って負けて死んだ訳か。神の加護を多重に受けながら、それでも敗北するとは相手は鬼神の類と見える。

 ……と言うよりも、それは本当に人間なのか。お主を殺した女王が治める国は、本当に人間の国であっておるのか?」

 

「一応。人間は人間でも、兵士全員が修羅道に墜ちてたけど。生前は戦争しまくって国々を滅ぼして、お隣さんの巨大帝国をぶっ潰して、虜囚解放なんて善行を国家事業として成功させて、最後の最後に良い国も良い女も纏めてさらっと頂こうとして、出鱈目にすげぇ強い目当ての未亡人女王に滅殺されちゃった。けど、今回はあの神様以上の理不尽なバケモンはいないみたいだし。

 ……つーか、あの戦闘民族強過ぎ。正に蛮族の中の蛮族(BANZOKU)だった。そりゃ、狩猟を生業とする遊牧国家は略奪王であるアンタを代表するように強いのは分かるけど、あれは無いわ。幾ら狩猟民族だからと言って、人間をあんなに容易く狩り殺せるもんだろうかね。向こう側の雑兵がこっちの精鋭並の戦闘技量を持ってるわ、向こう側の精鋭はオレが出て殺しに行かないとこっちの兵士相手に無双してくるわでマジ地獄。しかも、あの国で一番偉い女王様そのものが狩人の中の狩人で、今まで戦った戦士の中で一番殺戮技能が優れてやがった。

 普通よ、雷速で飛来する神罰の雷矢を避けられるものか……?

 オレが神の力を自分の魂で練り上げて、鍛え上げた愛弓の一撃の筈だったのに。雷神の力をブチ込んだオレの愛剣もなぁ、斬り合いで掠りもしなけれゃただの鈍らだしなぁ」

 

 だからこそ、キュロスは合戦における最初の一手は卑怯で姑息な案を採用した。部下にした自分が滅ぼした国の元王が提案した作戦であった。何せ効率的であったし、成功すればかなりの儲けモノであったからだ。

 ……最も、その卑劣な作戦が原因となり、あの女王を全力で本気にさせてしまったのであるが。キュロスは思う、怒りだけで限界を超えるどころか、人が畏怖する神の力そのものを捩じ伏せる女王の底の無さを。強い弱いと言う秤を壊し、ただただ全てが巧みに過ぎ、余りに全てが迅過ぎた。

 

「それはそうだろう。救世王たるお主の首を取った鮮血王トミュリスに比べれば、我輩の純粋な武人としての戦闘能力など其処らのAランク程度だしのぅ。

 戦闘蛮族マッサゲタイが生み出した史上最強の戦士兼狩人であり、且つ美貌の女王だったぞ。いやはや、前の特異点では勝ち逃げされたからの。聖杯は我輩が略奪したが、結局殺し切れなんだ。戦で人間を狩り殺す能力は我輩をも超えており、本能的な部分で殺人に特化しておったわ。

 まぁ……それはそれとして、ほれチェックメイト。お主の負けだ」

 

「―――なん…‥だと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――真なる数式を生み出した理論屋は、世界を嘆き、人理を嗤う。

 

「ああ、カルデアの者共を奇襲したあの時、周囲一帯全て灰燼にしたのは貴方でしたね―――Mr.(ミスター)アインシュタイン」

 

「その名はもう捨てました。私のことは、ただキャスターと呼びなさい。分かりましたかね、エジソン君」

 

 獅子頭はニタリを笑い、そして深くまた哂う。

 

「我ら碩学を志す座の英霊達にとって、貴方はその頂点に位置する理論を人類史で初めて生み出した。その貴方を自分と同じキャスターと言う記号で区別するのは、名前を知る者として余り好ましくない」

 

 半身を機械で覆っている稲妻の男もまた笑っている。

 

「そこの直流獅子に同意するのは嫌だがな。それでも、あの理論を人の文明に加えた貴方はそれだけで偉大だと思うが」

 

 鉄紳士も一つ目(モノアイ)をまるで笑う様に深く赤く光らせる。

 

「だが、彼らは全員あの終末の火(エンドロジック)から逃げ切った。やはりあのマスターは素晴しく、そして狂っている。ロンドンの時も恐らくは魔術王と対面したのであろうが、心が折れるどころか更に感情の熱量が増している」

 

 蒸気都市を生み出した本当の元凶―――からくり鎧のバベッジ博士は、今の世界に後悔している。しかし、理想世界を生み出した事そのものに対して未練はない。

 固有結界とは、そもそも精霊種や真性悪魔が使う魔術理論・世界卵による魔術。英霊として死後の妄執、未練、後悔、執着、そして理想が練り込まれ、自身の偉業による逸話が座での能力と化し、宝具としての固有結界を得ている。つまるところ、聖杯と常時接続し、物理的にも存在するこの蒸気都市と自身の固有結界を融合させていることで、バベッジはこの都市の神霊とでも言える“ナニカ”へと変貌している。

 そして、この蒸気都市を運営する文明理論を生み出したのが理論屋と呼ばれる男―――キャスター・アインシュタイン。魔術的に科学技術を使用し、世界を焼いた核弾頭を作り出し、バベッジと結託しこの蒸気科学世界を作り出した元凶の一。

 あのテスラさえ、自分が夢見る世界システムの実現のため、この蒸気都市に無線電網を作り出し、更に優れたシステム創造に腐心してしまっている。

 無論のこと、それはエジソンも同じ。聖杯とテスラの電網、そしてバベッジとアインシュタインによる都市機構を利用し、彼はこの都市に住まう市民全てに食糧や兵器、その他諸々の物資全てを大量生産していた。エジソンが居なくては、この都市で住民は生活出来ないだろう。

 

「狂える世界です。太古から滅びは既に始まっていました。あの略奪王が加減せずにこうして世界を一度終わらせたのも頷けます。でなければ、人類繁栄と言う大義なく国家殲滅は出来ません。この終末世界を具現させるなどガイヤもアラヤも認めはせず、実例として魔術王が人類滅亡を成したから、略奪王も焼却の影に隠れて抑止力の駆逐に成功しました。

 ……とは言え、特異点さえ修正されてしまえば、この世界も削除されてしまいます。

 我らは外側からの来訪者です故、他の時代の特異点と違い何一つ残留しないでしょう」

 

 嘆く事も価値を失った。

 世界は地獄だった。

 博士が愛した数式は、憎悪を望む獣に救いを齎した。つまるところ、世界に怨み尽くすための兵器と成り替わった。

 

「私の宝具であるこの相対性理論(神秘)もまた、人類史に刻まれた力として文明に利用されたが故に、こうして英霊としてのシンボルとして形を得てしまったのです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――戦闘王アルテラとマスターが邂逅するは、敵対する終末の英霊(アーチャー)中華の軍師(アーチャー)のサーヴァント。

 

「カルデアのマスター、下がれ。あの銃を持つサーヴァントはある意味では、グランドよりも遥かに脅威だ」

 

 キュロスと共に反抗勢力として動くサーヴァントの一人、セイバー・アルテラがマスターを守るように前へ出る。今は自分以外に彼女を守る人間が存在しない。

 

「安心しなって。宝具は使わないし、今はまだまだ補充中。この惑星のアルティメット・ワンが一週間前に顕現してこの都市に襲来したのをあんたも見てたろ」

 

 真エーテルを破壊する人類最後の概念武装にして、座に存在する純粋な人間の英霊が持つ人理最期の宝具。神を遥かに超える星そのものの写し身を容易く殺害する人類の兵器。

 

「今はここのサーヴァント達が共同開発し、そこの軍師が作成した銃型超中華ガジェットしか使えねないしね」

 

 とはいえ、実は使えないのは回転式拳銃だけ。自動拳銃の方の宝具であれば、今直ぐにでもアーチャーは発砲可能。

 

「それにしても、面白いからくり武器ですな。そこのセイバー、調べはついてます。その超魔剣こそ、神造兵器の原典宝具」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――王は笑う。

 

「我輩はのう、何一つ油断も慢心もない。それにの、人が持つ最も強く、最も尊い才とはな―――諦めないことだと思うのだ。何があろうとも諦めないとするその感情こそ、人間が持つ最強の力である。

 だからこそ、お主ら全員一人残らず―――この我輩(ワシ)を殺し得る強敵であり、仇敵でもある。

 そんな連中を前にし、慢心? 油断? ハ―――!

 それはのう、どれ程強く、何者にも負けぬ魂を持とうとも―――弱き戦略家よ。

 ―――下らない戦争屋よ。

 死ぬべくして死ぬのだ。そんな無様、我輩は耐えられん。

 負けるなら、全てを出し切り敗北し、屍を世界に晒す。

 勝つも負けるも殺し合いは全力で、人殺しは本気でなくてはならん。全身全霊でなくては一瞬で不意を疲れて死ぬだけよ。例え負けたとしてもそうであれば、戦場で生き残れる可能性が生まれる。生き残ることが出来ればの、また次の機会に巡り敵を殺すことが出来るのだ。

 己が望みを果たすべく、死なぬと諦めぬこの感情こそ、我らが持つ星をも滅ぼした力である!」

 

 そもそも、その気になればカルデアなど略奪王はあっさり滅ぼせた。既に時空間超越は聖杯と魔術と科学の力で可能となっており、世界に孔を空けて小型核爆弾をカルデアに送りつけてばそれで終わりだ。本当に、敵に何をさせるまでもなく、チンギス・カンはカルデアがこの特異点に来る前に彼らを滅ぼせた。

 勿論、それはソロモンの方も同じ。

 無尽蔵の力を有していようが、制御盤を破壊されれば時空ごと木端微塵。

 碩学達の頭脳と、終末の英霊であるゴドーの知識を用いれば、人類史上最悪の兵器を簡単に生み出せた。それこそ聖剣の数兆倍と言う惑星破壊が可能な真なる物質変換爆弾。神造兵装を遥かに超えた文明兵器。とは言え、それを使えば地球が消える。よって、奴らの本拠地を世界ごと消し飛ばした後、それを聖杯を使って修正する。それ程の所業ができる文明技術をチンギス・カンは生み出してしまった。

 実現可能なあらゆる空想を、実際に行ってしまう異常なまでの思考能力。それこそがサーヴァントの固有スキルとして顕現した「建国の祖」であり、“星の開拓者”と似ているが余りに乖離した合理の化身。

 

「故―――抗い、殺してみせろ。我輩とて人類を支配する為に断固として、魔術王から守護せねばならん。

 故―――この時代を滅ぼし、その力を我輩を得た。遂に人類史上最強の国家を創設した」

 

 しかし、チンギス・カンとて本意ではない。星を焼くのは愉しめたが、その悪行も必要だからしたに過ぎない。これは自分の願望であると同時に、カルデアに対する試練である。

 もし自分に勝てたなら、このマスターは魔術王をより確実に滅ぼせる能力を得られるだろう。

 もし自分に負けたなら、このままカルデアも魔術王も焼き払い、星を作り変えてこの特異点の人類は宇宙へ旅出る。

 第一目標は魔術王と名乗るアレの殺害。

 チンギス・カンはその為に、この国家を生み出し、特異点を作り、カルデアを向かい入れた。

 

「故―――勝てるとは思うな。お主では、そもそも心の内に宿る熱量が我輩に負ける。最後のマスターよ、サーヴァントを指揮する司令官としても、敵を討つための純粋な人殺しとしても、我輩には勝てんのだ。経験を積んだ所で、積み上げた技の厚さに差が出るのは当然よ。まだまだ理の殻をお主は破り切れておらん。

 ならばこそ―――命を賭けろ。

 お主ほどの人間であれば己が限界を踏破し、あるいは我が野望を焼き払えるかもしれんぞ」

 

 

 

 

 

 

 ―――嘗ての自分と、遥かに立つ自分。

 

「私がマスターだよ。遠い平行世界でキャスターとして召喚され、敵を皆殺しにして、聖杯で受肉して、同じく生き残ったライダーの寄り代になった英霊の魔術師。二人のマスターなんだ。

 分かるでしょ、カルデアのマスター。

 この文明崩壊はね、私と皇帝と学士と三人で始めた大事業なんだ。

 いやぁ、魔神と神霊相手に中々爽快だったよ。モンゴル無双&シラクサ無双に加えて、私のカルデア無双はね」

 

「――――――」

 

「驚くのも無理ないかな。でもね、君はエミヤの、私のアーチャーだった誰かのマスターなの。もしかしてのイフなんて、本当に考えて無かった訳でもないでしょうに。

 人類悪から人理なんて救ったら最後―――資格をね、得てしまうんだ。

 素質そのものは最初から魂に宿っていて、危機が訪れれば抑止に導かれ世界救済を行う人理兵器。まるであのジャンヌ・ダルクと同じ様に、特別な血筋から生まれずに、そう在れかしと闘いに身を投げ込む我ら霊長存続の為の生贄」

 

 英霊として完成し、つまり人間として完結してしまった姿。

 呪詛に染まった漆黒の髪に、死人みたいな白蝋の肌。目は呪いに満ちていて、瞳は奈落の黒色に成り替わった。成長した見た目は二十代後半程度だが、確かにこのサーヴァントには少女の面影が残っていた。

 

「今の私はサーヴァント、キャスター。そして、生前の名は棄てた。確固たる個を示す真名なんて必要ない。けれど、それでももし真名を名乗るとしたら―――マスター。嘗て英霊を従え人理救済を成したマスターの魔術師。

 だからね、私の事はただ―――マスターと、そう呼ぶと良いよ」

 

「……なんで、なんで。どうして―――」

 

「―――決まってる。何時も通り、世界を救うためだよ」

 

 今この瞬間、彼女(マスター)彼女(サーヴァント)と二人きり。

 

「さぁ、拳を握れ。彼をこの手で殺した時みたいに、救いたいなら殺すしかないでしょう。

 ―――命を賭けろ。

 もしかしたら、その身で至った私に届くかもしれないよ?」
























 妄想グランドオーダーでした。
 実は言峰士人も出てないですけど外伝なのでカルデアにいます。ダ・ヴィンチちゃんとは違った面でマスターとサーヴァントに技術協力しており、簡単に言うと武器開発&武装魔改造屋です。ゲームキャラで例えるならバイオ4の武器商人、ロックマンDASH(続編販売、まだか!永遠に待つ!)で言う所のロールちゃんです。武器が宝具として完成していないサーヴァントの武器を概念武装へ改造したり、あるいは対サーヴァント戦用の銃火器を開発してます。例えば小次郎の剣をマジで竜殺し兵器にした高ランク宝具にしたり、キッドにバルカンやロケットランチャーを渡したり、マスターの立香に専用礼装を渡したり、護身用の霊剣や拳銃を作ってます。

 実はこのモンゴル皇帝、士人が桜を暗黒面に誘ってない場合のイフの存在。桜が覚醒せずにモンゴルが聖杯戦争でモンゴルしますと聖杯を手に入れ、兵器として運用し、平行世界を渡り続け、ソロモンの世界軸に辿り着き、こんな魔王になります。
 士人が桜を助けてないとライダー無双が始まり、人理終了すると言う罠でした。


蛇足な設定

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地獄だよ、英霊集合! 碩学大集結 外伝・神父と聖杯戦争

――登場人物・帝国側――
◇ライダー:チンギス・カン
――元凶その1。略奪王。第三モンゴル帝国皇帝陛下。元々は何処かの平行世界で聖杯を手に入れたサーヴァントであり、受肉し、座本体と完全な同列体となる。後に魔術王が人理定礎の破壊を目論んだ特異点で呼ばれたサーヴァントを倒し、この世界軸の人理焼却を理解する。そしてカルデラで確固な特異点の一つとして観測される前に自分以外の全てのサーヴァントを殺害し、本来の持ち主から新たな聖杯を奪取。自らが君臨する世界を生み出し、この世界を魔術王から奪い取る為に聖杯を使い、時空間を移動して自分だけが支配する亜種特異点を創造した。
 自分が聖杯を使って召喚したサーヴァント達には、可能な限り願望を叶えさせている。バベッジには蒸気文明の新国家、アインシュタインには魔術王殺害による世界平和の約束、陳宮には自分と言う王に仕えさせ思う儘に策謀を行使する権限、テスラには新たな世界システムを開発する為の研究環境と魔術科学を問わない様々な技術提供、エジソンには国民の為のあらゆる工業品の開発と量産を可能とする巨大生産企業と政治的権力、沖田には永続的な国家の治安維持、ゴドーには来訪するアルティメット・ワンの殺害権利と自由な生活と人並みの職。と言うよりも、自分が必要とする事業を願望としてくれるサーヴァントを呼んだ為、完全な協力関係を結べているとか。
◇キャスター:アルキメデス
――元凶その2。宰相。チンギス・カンに協力した数学者。皇帝と協力し、ヴェルパー共を捕獲・分解。時間が加速する異界内で、遊星の文明技術を数千年掛けて手に入れた。そして、遊星がやって来た大元の銀河系で更なる技術を得るため暗躍。しかし、それにより聖杯を手に入れた英霊アルテラに狙われ、世界を幾度移動しても殺しに向かってくる。
◇キャスター:チャールズ・バベッジ
――都市開発大臣。鉄帽子。新たなるモンゴル帝国首都を創設した魔術師のサーヴァント。核弾頭により崩壊した世界において、唯一文明を維持している蒸気文明都市を生み出した。都市領域はバベッジの手で日々拡大し続けており、五十年後には地上全てを蒸気都市に変え、この星そのものが宇宙を旅する蒸気機関船と化す。都市と同化しており、こちらの固有結界が本体なので蒸気都市を滅ぼさなければ、端末のバベッジも同じく不滅。
◇キャスター:アルベルト・アインシュタイン
――帝国技術研究部総括長。チンギス・カンによって召喚された理論屋の英霊。程良く文明が熟成した時代に聖杯を持ち運び、キャスターと聖杯と科学技術の力で以って核弾頭を大量生産した。
◇アーチャー:陳宮公台
――軍部総元帥。そして超軍師。軍師を職にしているが周りの人間は誰もがこう思って言えなかった、魔改造が大好きな超エンジニアだと。しかし、本人は滅多なことがないと中華ガジェットは趣味でしか開発しなかった。生前は能力を存分に発揮できなかった。望みは単純明快、一切後悔しないよう思う儘存分に軍略と策略を好き勝手に行うこと。呂布の武にこの世の誰よりも憬れており、それに相応しい破壊兵器を生前生み出した。
◇アーチャー:ニコラ・テスラ
――電磁管理網省長官。雷電。バベッジと結託し、限定的だが都市内で電流そのものが行き合うニコラ・テスラシステムを完成させている。このシステムによって蒸気文明を異次元領域まで引き上げた。
◇キャスター:トーマス・エジソン
――食糧プラント及び兵器生産会社会長。獅子頭。都市の流通全てを掌握し、兵士の装備を製造し、人間が生活を営める様にしている生活基盤の根底。
◇アサシン:沖田総司
――警察庁長官。通り魔。生前は警邏をしていたとは言え、ただの一隊員。なので皇帝様に乗せられ、長官を嫌々させられている。報酬として病弱スキルを抑える霊薬を貰っているとか。
◇アサシン:ゴドー
――国家粛清委員会理事長。銃神。偽神。生前はアルティメット・ワンを超長遠距離から狙撃し、地上に墜ちる前に暗殺を成功させた終末の英霊にして、純粋な最期の人間。人理滅却時、ソロモンと違い文明によって星を滅ぼした為に帝国壊滅を目的に現れた地球の防衛生物を葬った立役者。ゴドーが星の意思たるガイアそのものと言えるアリストテレスを他惑星に救援を送る前に抹殺しため、宇宙怪獣が襲来するようなことは起こらなかった。
◇キャスター・マスター
――元凶その3。人理の救世主。生前の名を棄てた為、守護者の真名としてマスターとだけ名乗っている。とある世界でチンギス・カンに誘われ、宙を目指す為に世界を一つ伐採することに決めた。

――登場人物・レジスタンス側――
◇キャスター:アレイスター・クロウリー
――奇術師。大いなる獣。元帝国宮廷魔術師。英霊化した自分が生前の自分に憑依召喚された擬似サーヴァント。帝国の宮廷魔術師として快楽と探究に勤しんでいたが、飽きたのでモードレッドを誘ってレジスタンスに寝返った。
◇セイバー:モードレッド
――叛逆の騎士。赤兜。帝国に囚われて拷問を受け続けていたが、クロウリーの手引きにより脱獄。レジスタンスに属し、テロリズムに興じる。
◇セイバー:キュロス
――救世王。密約者。レジスタンスのリーダーであり、蒸気都市に潜伏するサーヴァントたちの纏め役。
◇セイバー:アルテラ
――戦闘王。略奪王に奪われた本体を取り戻す為、聖杯を獲得した後に受肉して追って来た英霊としての端末。
◇マスター:藤丸立香
――人理の守り手。魔術師としてなら三流、マスターとしてなら問答無用でトップ。マシュは友人であり、自分の命より貴く大切にしている。
◇シールダー:マシュ・キリエライト
――盾。ギャラハッドの真名を得て、宝具の真名解放が可能。立香を先輩と慕っているが、どちらかと言うと気の合う友人であり戦友。
◇アサシン:佐々木小次郎
――侍。冬木で召喚された最古参。あらゆる戦場で、あらゆる強敵を切り捨てた刀の魔人。技量そのものは英霊として完成しているが、召喚された後に詰め込んだ経験により全ての敵と対等に斬り合える。
◇セイバー:アルトリア・ペンドラゴン
――騎士王。マスターが最も頼りにする強き戦友。現地にモードレッドが居て複雑な心境。
◇アーチャー:エミヤ
――錬鉄の英霊。オカン・ザ・カルデア。

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