神父と聖杯戦争   作:サイトー

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 FGO第一部完結!
 武蔵サーヴァント化しましたね。男の武蔵もいるらしいですけど、多分そっちはビーム撃たない系。いやホント武蔵オリ鯖にしなくて良かった。後一番気になるのは干将莫耶が双銃になっているイラストのエミヤ・ボブの正体です。

 しかし、まさか幼女戦記がアニメ化してるとは。
 あの第一話、一気にライト層刈り取りに逝ってましたね。万人受けしないからこそ、面白いと思えたらかなり面白く感じる作品。私はとても映像化が嬉しいです。昔読んでたネット小説がアニメ化したら懐かしみつつ見る様にしていますので、第二話も愉しみです。


74.騎士と人造聖剣

 苦心。その一言だけが、今の凛の心を言い表せる。あのセイバーが、自分の妹の桜の手で徹底的に苦しめられ、身も心も陵辱されている。

 士郎を犯したと言うが、実質的に士郎とアルトリアを陵辱したのは桜に他ならない。

 呪いによって黒く染まり、灰に澱んだ彼女の精神に選択の余地はない。

 彼女は先程、アーサー()でもアルトリア()でも無くなると言ったが―――もはや、既にアルトリア・ペンドラゴンは手遅れだった。凛にはそれが良く分かった。恐らくは衝動のまま士郎を犯した時点で、もう彼女の精神は別の何かに変貌を始めていたのだろう。

 遅延性の猛毒と同じ。

 死して消えぬ泥の呪詛は、心が終わるまで汚染を止めることは有りはしない。

 

「セイバー……でも、それはただの甘えよ」

 

「――――――凛」

 

 セイバーは驚いたが、だが凛がそう言ったことを納得してしまった。確かに、壊して欲しいなどと言うのは甘えだ。

 

「私は貴女を殺さない。貴女を壊さない。私は―――」

 

「―――斬る」

 

 だが、そんな凛の言葉を遮って騎士は表情を変えずに掛けた。一言だけ、たったその一台詞だけを場に残して、男は一瞬でセイバーに斬り掛った。

 騎士にとって、セイバーの葛藤など―――価値は無い。

 価値が有るのは―――セイバーが至高の剣士として君臨していると言うただ一点。

 真の意味でデメトリオ・メランドリだけがアルトリア・ペンドラゴンを理解していたとも言える。今のセイバーは敵であり、剣士であり、何よりあの黒き聖剣の使い手に他ならない。

 黒く反転していようとも、あれこそが星の内で鍛えられし聖剣エクスカリバーに他ならない。

 自分が持つ人間が鍛えた偽りの人造聖剣の、その大元の原典。あるいは、聖剣と呼ばれる他全て剣の中で以って、最強にして最古の剣。

 

「貴様―――……!」

 

 人造聖剣を聖剣で受け止め、セイバーは一瞬で武装化した。だが、武器を構えたセイバーの貌は怒りと憎しみで染まっている。

 この騎士は自分に無関係。何より不要。

 凛に殺される為に、あるいは凛をこの手で殺して成り果てる為に―――アルトリアはこの場に存在する。

 

「邪魔をするな、斬殺魔風情が!」

 

「斬殺魔? それが何だ。それは某の名であり、其方の名でもあるだろう」

 

 嘗てのセイバーならば、そうではなかった。斬殺魔などと言う異常者からは程遠い騎士であり、王であった。だが今のセイバーは剣士ではあるが、嘗てのままの騎士ではなかった。王であるが暴君であり、騎士としての誇りが穢れていた。

 

「失せろ、貴様は何故だが癇に障る!」

 

 剣を怒りに任せ、強引に魔力放出で押し放つ。鍔迫り合いの状態から一気に離され、デメトリオは凛達の前まで吹き飛ばされた。

 

「メランドリ、あんた何を考えているの?」

 

「見ていられなかっただけだ」

 

 聖堂騎士である彼にとって、魔物を狩り殺すことが仕事。人としての営みであり、この人間社会における彼の役目であり、命を奪い取ることで金銭を得て生活している。だからこその騎士であり、怪物狩りの人斬りである。

 見ていられないとは、騎士であるデメトリオにとって言葉通りの意味だった。

 セイバーの姿は余りにも、狂おしい程に哀れだ。

 そんな姿に成り果てて、友人である魔術師に死を願うのは―――ただ単純に、司祭として見過ごせない。

 友人である騎士王を殺さねばならない何て―――騎士は僅かに残った誇りの為にも、無視は出来なかった。

 セイバーも敵であり、遠坂凛も殺さねばならない確かな敵である事に間違いはない。だが、そもそもな話、デメトリオ・メランドリは二人に対して憎しみも恨みもない。戦場がこの場にあり、斬っても良い敵だから斬る為に殺し合うだけであり、彼は別に命が欲しい訳ではなかった。

 この二人は聖堂騎士として、何が何でも絶対に命を狩り、斬り殺さねばならぬ獲物ではなかった。死徒でなければ、悪魔でもない。この戦争における敵だが、獲物ではなく―――本来なら、殺し合う由縁がないただの人間。

 

「遠坂凛、分かっているだろうが敢えて言わせて貰う。それはただの感傷だ。特に大した意味は無い。このセイバーのサーヴァントは、君の良く知る騎士王ではない別人だ。

 あの女の言葉全て真実であり、救われるべき傷付いた一人の女性だ。

 だがな、それでもアレは騎士王ではない成り損ない。

 聡明な君が理解出来ない訳ではないが……―――いや、あの剣士を理解出来たが故に見捨てられないか」

 

 味方全員に背を向けて、聖堂騎士デメトリオ・メランドリは語っていた。

 

「だが、見捨てたまえ。安心しろ、確実にあの騎士の心は某が斬り殺してやる」

 

 不器用な気遣いであり、それは剣士としての確かな欲望でもある。

 敵であると言う理由があるから、騎士は魔術師の凛を斬ろうとする。だがその理由がなくなれば、一人の聖職者に過ぎない自分は遠坂凛と今を生きる人間として向き合うだけ。背負う必要がない苦悩を態々この女に背負わせる必要はなく―――こんな最高の剣士を、自分以外に譲るなんて余りに勿体無い。

 この騎士王は、まだ自分の敵。

 斬る理由が存在している。

 あの剣士が背負う物を知り、どのように呪われ狂い、本当なら誰かが助けるべき被害者だとしても―――デメトリオ・メランドリにとっては斬っても良い敵だった。

 斬る為に殺し続け、斬る為に化け物を狩り続けた。

 今から行うこの殺し合いもそれと同じ。

 理由があるから斬るのではなく、斬る為の理由があることが大変僥倖だったのだ。

 敵ではなくなったのなら神父として、この遠坂凛に対しては当たり前のように無償で手助けするだけ。

 敵であるのだったら聖堂騎士として、この騎士王に刃を向けて殺し合うのは当然の結果。

 

「狂ってるわ。でもね、それは私も同じことなの。はいそうですね……って、簡単にセイバーの相手を譲れる訳じゃない。勝ち目が無くてもね」

 

「やめておけ。その決意、間桐桜へ取っておくべきだ。時間が過ぎれば手遅れとなり、このセイバーもまた手遅れになる。

 自分の意地の為では無く、この女の為を思うなら―――君は行かなくてはならん」

 

「その通りだ。あれは誰かが足止めせねばならず、それはメランドリ以外には不可能だ」

 

 神父もまた騎士の献身には賛成だ。むしろ、自分は最初から残るつもりであり、出来れば騎士も足止めに利用する予定だった。

 

「少なくとも、メランドリ以外で黒化した彼女を相手に出来る者は衛宮とアーチャーだけであり、アーチャーはまだ必要な戦力だ。無論、衛宮は敵の手中。俺も抵抗は出来るが、衛宮と違ってセイバーが相手では決定打に欠けるからな。

 それに精々セイバーに割ける戦力は二人が限度。となれば話は実に簡単だ」

 

 彼女こそ我が師。士人にとって代えの効かぬ唯一無二の魔術師であるが故に、その遠坂凛をこの場で殺させるのは本当に勿体ない。まだ彼女にはやらせるべきことがあり、セイバーは遠坂凛にとって障害でしかない。彼女本人の気持ちはどうあれ、神父にとっても、騎士にとっても、凛の命を無残にセイバーへ渡す訳にはいかない。

 だがこの死地は、デメトリオ・メランドリを死なせるに相応しい舞台。

 神父にとっても、騎士本人にとっても、その意味を正しく理解していた。デメトリオ・メランドリは恐らくだが、どうしようもない臨死の危機を予感して―――こんな聖杯戦争などと言う魔術師の道楽に参加したのだ。

 

「俺も残ろう。メランドリがセイバーと戦うならば、他の者の妨害からメランドリを守る役が必要となる」

 

 神父は当たり前のように、何を言われようとも動かない決意を出しながら宣告する。セイバーがこの場で足止めに来るのは計画外であったが、予想の範囲内であった。いや、むしろデメトリオを仲間に引き入れた時点で、そうなれば僥倖だと密かに士人が望んだ光景でもあった。

 

「……んじゃ、行くからな。殺されんなよ、あんたが死ぬと少し寂しい世界になるからね」

 

「ああ。ではな美綴、また会おう」

 

 そして、声を掛けたのは綾子ただ一人だけだった。アーチャーは胡乱な目付きで神父と騎士を見るも、直ぐに二人を視界から振り切った。他のの者も無言なのは同じ。壮絶な剣気と殺気でデメトリオはセイバーを縛り、動けば殺すと訴えるデメトリオを見れば、声を掛けた綾子が可笑しかった。士人もその気配に同調し、彼特有の透明な殺意に溢れた存在感が増幅しており、サーヴァントが出す圧迫感と良く似た脅威と化しているとなれば、もはやこの場は死闘の場であった。凛や他の者も無言でバゼットさえも話すべきことは話したと、当たり前のように彼ら二人を捨て駒にし、自分を更なる死地で捨て駒として扱うべく駆け去った。

 しかし一人、ダンだけは数秒だけだがじっとデメトリオを見た。

 あの騎士は自分が殺した養父である殺しの師の友人。自分が知らない養父のことを知っており、だが聞く必要が無いことも理解していた。必要はないのだが、それでもダンはデメトリオから聞きたいことが一つだけあり、だがそれも叶わないことも分かっていた。

 だからこそ、ダンは見るだけでその余分を殺し屋として切り捨てた。

 その後に神父を見て、殺し屋はセイバーを気の毒に思った。兵器であるサーヴァントだからとて、中身は人間のそれ。となると、あんな奴らを相手にしないといけないセイバーは、如何に強かろうと何か大切なモノを必ず失うこととなる。勝とうか負けようがそれは絶対だとダンは悟り、無言のまま他の者の後を追い、そのまま去って行った。

 

「……良いのかね、セイバー。目当ての師匠が過ぎて行くぞ」

 

「相変わらず人でなしの極みですね、言峰神父。貴方を見ているとこの呪いがざわついて、盛った野獣みたいに斬り殺してくなってしまう。

 ……ああ、本当、これは凄い憎しみです。

 何でこんなにも世界全てを殺したくて、暴きたくて堪らないのでしょうか。

 こんなにも人を恨み尽くすことが苦しい何て、この様に成り果て無ければ理解出来ませんでした。もう既に溢れうまで憎いのに、憎いからと憎み続ける程に苦しくて、苦しむ程に憎悪が増す」

 

「そうだろうて。それが、人が望み、人の世に生まれ出た地獄とと言う実感だ。呪いとは、お前が今味わっているその感情そのものに過ぎんからな」

 

「やはり、そうなのでしょうね。でなければ―――こんな悪魔、人は思う事さえ出来はしない」

 

 憎悪することに疲れた、とセイバーは儚く笑った。元の人格は保っているが、それ以外の自己が混ざり別の何かが生まれては、呪いが生み出す憎しみによって、変貌する自我が元の自我によって押し潰れて―――たただた、それを繰り返すだけ。

 呪詛を英雄王ギルガメッシュのように正気を保ったまま飲み干せなければ、あるいは言峰士人のように自分の心象として取り込み元の自我を保ったまま完全掌握しなければ、延々と呪われ続けるのは必然。本来なら自我が反転して人格が変貌することで、呪いそのものが呪いの受け皿となる人間を適性のある個体に変化させてしまう。

 だが、アルトリアは呪いを飲み干せず、しかし呪いに耐えられる自我を持ってしまっていた。

 そうなれば、呪われて生まれ変わるよりも更に酷い末路へ至る。何せ、彼女は正気を保ったまま楽になれず、されどもまともではなくなっている。呪われ続け、元の心と呪いによる擬似精神が混ざり、思考回路が狂ってしまっていた。

 

「良いぞ。まこと、今のお前は美しい。俺が嘗て仕えた王様がその姿になったお前を見れば、自分自身を苦しめる愉快な理想を完結させたと嫌うのだろう。だが、お前は今この瞬間が麗しい。

 あのアーチャーも隠してはいたが……ああ、やはり守護者に成り果てたとて、俺の弟子なのだろうな。むしろ、英霊へ堕ちた今のアレだからこそ、自分や自分の師と同じ伽藍堂の存在が嬉しいのかもしれんな」

 

「弟子……弟子か? なるほど、この戦争はそう言う因果が組み込まれているのですか。前回も、その前々回も、この聖杯戦争と言うものは狂っています。

 英霊を召喚する儀式とはよく言ったものだ。

 むしろ英雄の消えた神秘なきこの現代社会において、まるで英霊同士の殺し合いで英雄を生み出す蟲毒のよう」

 

 それは思わず浮かんだアルトリアの疑問だった。

 

「その通り。そして、どうも俺の周りにはその類の英霊……いや、守護者見習いが実に多い。本来なら英霊に成ることなど有り得ないこの現代の人理において、例外が世界の滅びに対して一点に集中している。この聖杯戦争などと言う有り得ざる邂逅を齎す闘争の場であり、聖杯と言う世界変革が可能な神域の魔術礼装(アーティファクト)

 聖杯戦争とは我ら霊長(アラヤ)にとって、恐らくはある種の物語―――世界の歴史や伝承に記されない知名度無き英雄譚なのだろう。

 エミヤしかり、ミツヅリしかり、な。守護者候補の魂が、守護者への道を進む為の逸話の一つとして、阿頼耶識は運命を利用しているのだろう。俺も既に死ねば守護者と成り果て、この世界運営の為の殺戮者となる先兵に過ぎない。それはあの二人も同様だ。ミツヅリはまだ契約は結んでいないのだろうが、座に既に登録されていると言う事は、道筋はもうこの次元によって未来が定められている訳だ」

 

「それはまた……―――吐き気がする話です。もし、この聖杯戦争と言う魔術師儀式が世界の節目となる逸話なのだとしたら。もし、嘗ての私の生前がアーサー王物語として伝承となったのと同じ歴史の物語の一断片なのだとしましたら……それは、我々円卓が全員英霊として登録されているのと同じで。

 もしかしたら、この戦争に参加した特定のマスターたちには英霊に、いや守護者に成り得る程の魂を持った英雄達の雛型とでも呼べる訳ですか」

 

 つまるところ、歴史に記されはしないが人類史には刻まれる現代の英雄の物語。

 

「そうだと俺は睨んでいる。事実、冬木には素質ある幾人かが生まれ、外部からも面白い輩が大勢集まった。誰かが意図しているのか、それともアラヤ自体が仕組んでいるのか、否か。そんなことはどうでも良い。

 だが、こうして感動的な世界をこの“私”が愉しめるのであれば―――精々、全てを愉しむだけだ。

 そしてな、間桐桜の手でお前がその様になった。つまり、それもまた俺にとっては娯楽であり、その美しい姿形は感動的で、苦しむお前の表情こそ悦楽そのものである」

 

 諸悪の根源、と桜が士人のことを呼んでいたのをセイバーは思い出した。それは正鵠を射ており、人類悪とさえ呼べない、吐き気と嫌悪に溢れた正真正銘の極悪人だった。人を救い、世界を救い、助けられる者は助けに助け、奥底の行動原理は呪詛と悪意に満ちていた。

 

「だから神父、貴様は―――」

 

「―――そうだ。呪い合うお前達を、私はただ愉しみたいだけだった」

 

 悪。ただただ悪。神さえ祝福せずにはいられない、世界に匹敵する悪そのものだった。

 今のセイバーならば神父の心全てを理解出来る。この男には悪しかなく、悪しか実感出来ない。

 本質的には何も無い。心の中に何もない空っぽな泥人形。そんな壊れたガラクタに、何かの間違いで悪意が宿ってしまった。

 純粋な悪ではない。

 この世全てを呪う筈の悪意が、唯一人だけを呪い殺す為に凝縮された悪意は、あらゆる不純物によって構築されている。

 だが、全てにおいて単純な悪だった。黒く深い悪意なのだ。

 それしか愉しめないのだ。それしか喜びを感じられないからこそ、この男は全てにおいて悪でしかなくなる。

 桜の愛憎も、凛の尊厳も、士郎の理想も、アーチャーの葛藤も、言峰士人にとっては全て等価値。聖杯戦争を引き起こしてでも愉しみたい―――至高の娯楽だった。

 

「……神父、貴様との話は終わりだ。殺しはせん。斬り刻んだ後、桜に引き渡す」

 

「そうか。それは有り難い。では、俺からは以上だ。後は任せたぞ、メランドリ」

 

「ああ、当然だ。

 ……無論、此処から先、邪魔をすれば君ごと斬り裂こう。なに、安心しろ。例え某が死に果てようとも、君一人でも討ち殺せる程度には弱らせてみせる」

 

「ならばそう期待する。尤も、弱らせた程度で俺が殺せる相手とも思えないがね」

 

「そこまでは知らん。死力を尽くせ」

 

 そして、デメトリオは覚悟した。

 絶対に自分は此処で死ぬ。明らかな死地だった。だが、デメトリオ・メンダオリは騎士だ。斬る為だけに、聖堂教会の理念を利用し続けた斬殺狂いだ。それでも自分は多くの命を救い上げてしまった騎士だった。

 騎士に対する憬れが子供の頃にあった。

 斬るのが大好きで、そんな特技を人の世で活かせたらこれ程嬉しい事は“人”としてないだろう。無論、彼は人でなし故に意味を成さない仮定だった。しかし、それでも尚、彼の理想を語ると言うのであれば―――あの聖剣を使う騎士王こそ、騎士足らんとしたデメトリオ・メランドリの理想である。

 二人の視線が交差した。

 騎士の剣気が、騎士王の殺意を発火させた。場の殺気が集い、混ざり、凝り固まる。

 ならば―――すべきことはただ一つ。

 

「ブリテン王、アーサー・ペンドラゴン。貴方を殺す王の名だ。私のこの憎悪、手向けと受け取り死に果てるが良い」

 

「聖堂騎士、デメトリオ・メランドリ。君を斬り殺す者の名だ」

 

 名乗りの後―――デメトリオは疾走。もう言語を頭に思い浮かべる必要無し。如何に近づき、斬るか。それだけを思考すれば良く、技を刻んだ神経と思念が勝手に肉体を動かすだけ。

 騎士王は、それを見て哂った。

 自分と同じ騎士でありながら、円卓の騎士の誰とも似ていない異形の剣技。異常なまで極まった剣の業。もしこの男が神話の時代か、あるいはまだ神秘溢れる自分のブリテンに存在すれば、確実に歴史に名を刻む程の化け物だった。

 それが、どうしようもなく嬉しい。だから嗤ってしまう。

 

「――――――素晴しい業だ」

 

「君は素晴しい――――――」

 

 セイバーはあらゆる機能を魔力で強化し、全ての動作を魔力放出で強化していた。二人は音速を既に超え、剣先は超音速を遥かに超え、刃を振うだけで大気が何度も爆散。セイバーは一秒の間に数十回も魔力をジェット噴射させ、デメトリオは容易くその暴風を切り払う。

 だが、セイバーの一刀一刀はもはや対軍レベル。

 一合一合が空間を捩り斬り、剥き出しの今の聖剣ならばAランクの防御も切り崩すだろう。それを彼は全て斬り落としていた。もはやその動きは肉体の物理的限界を容易に飛び超え、サーヴァントが持つエーテルの肉体さえ崩壊する程の熱量を消費し続けていた。

 ―――加速。ただただ加速。

 騎士の一閃が騎士王の首へ奔るが、彼女は聖剣で斬撃を打ち上げ、その勢いのまま脳天へ振り下す。デメトリオは流れる足捌きで避けながら接敵するも、セイバーは聖剣を更に斬り上げ迎撃する。だがその剣戟を刀身の上で滑らせ受け流し、斬り返すも既にセイバーも迎撃の一撃を繰り出していた。

 

「……ほぉ、やはり私では届き得ぬ業の道だ。我が弟子ならば可能だが、自分が味わえないのは残念だ」

 

 神父はその地獄に見惚れていた。殺し合い、斬り合う騎士王と騎士に感動した。自分が手を出せばセイバーを殺せるが、それでは面白くない。生きていても楽しくない。

 死を―――愉しめない。

 言峰士人の悪徳。いや、それしかない故に、他者から見れば悪徳なのだろうが、神父にとってはその悪行こそ道徳であり、信仰だった。

 その外道と非道を混ぜた冥府の魔道。

 しかし、その腐り枯れ、無に堕落した神父さえも、二人の血塗れの斬り合いは貴かった。

 

「―――……」

 

 その刹那―――騎士は騎士王の動きを完全に見切った。百以上も剣戟を繰り返し、騎士王の剣の業を理解できてしまった。だからか、デメトリオは分かってしまう。どのタイミングで剣が力み、どの程度の膂力で振われ、次の手に打って来る剣技を把握出来てしまう。目で見切り、技で予感し、第六感で理解し、剣に堕ちた思考回路が相手の剣技を暴き映す。

 一秒が何百倍にも引き延ばされた異次元の体感時間を二人は共有し、騎士王もまた騎士に自分技が攻略されてしまったことを理解。

 だが、剣と剣が衝突し、互いに鍔迫り合いの状態に陥った。

 二人とも同じ選択をし、同じ状況を選んだが故の膠着状態。

 

(オレ)は君を斬れるが、殺せない」

 

「そうだ。逆に私では貴様を斬れぬが、殺すことは出来る」

 

 騎士王が吹き飛ばそうと力めば騎士は力を抜き、逆に騎士王がフェイントで脱力すればここぞと押し返す。セイバーの直感が相手の動きを読むことでデメトリオもまた迂闊な真似は出来ず、こうして互いに会話をする余地が生まれていた。

 となれば、効率的な手段も限られる。

 敵である互いの隙を窺う。逆に自分の思考が読まれない様、絶殺の剣気で、自分の本当の殺意を隠し―――

 

卑王鉄槌(ヴォーディガーン)―――!」

 

「―――慈悲無き信仰(シンペイル)

 

 ―――セイバーが剣から放った極大の魔力放出を、デメトリオは同じく剣に宿る秘蹟(スペル)で以って迎撃。零距離からの魔力解放のぶつかり合いは、もはやミサイルでミサイルを爆破するのと同じだ。人間では耐え切れぬ衝撃が握り込む剣の柄から伝播され、鍔迫り合いの均衡が崩壊。

 笑みを思わず浮かべてしまった。騎士は敵の頭蓋を斬り砕く剣の軌道を予知し、自分が斬り殺される未来を察知する。

 死だ。刹那よりも短い――絶死の時間だ。

 

「―――……!」

 

 聖剣を持つ騎士王は事態を理解。体勢をより大きく崩されたのは自分の方。瞬間、剣が首に来るも身を捻り回避し―――腹に衝撃。爆薬を至近距離で破裂したかのような騎士の前蹴りは、本当に一瞬だけだったが彼女の動きを止めた。だがデメトリオも体勢を蹴りの状態から剣戟を振るには時間が掛かり、無論セイバーは蹴られた同時に距離を取っていた。セイバーを斬り殺すには踏み込まねばならず、その間に体勢を整えてしまうだろう。

 だが―――逃がさない。

 狙いは命ではない―――聖剣だった。

 デメトリオ・メランドリは人造聖剣を解放したまま全力で聖剣を斬り落とし、セイバーは衝撃に耐え切れず聖剣を吹き飛ばされる。

 

「がぁ、グ……貴様ぁ―――!」

 

 彼女が呻き声を上げたのも無理はない。聖剣を失ったセイバーはデメトリオの攻撃を避け切れず、心臓の霊核を狙った刺突を身に受けてしまった。更に刺さった状態でそのまま剣を振り上げようとし、それを阻止するためにセイバーは腹に刃が刺さったまま近づき、剣の柄を握り動きを止めていた。

 最も―――セイバーはこの事態を直感していたが。

 魔力放出を全開に、この危機を好機と感じ取り、彼女は振り反った額で頭突きを叩き込む。腹に剣が刺さり、動けば小腸と大腸が直接切り裂かれ激痛に襲われるも、全て無視。

 デメトリオは攻撃を察知するも、避けられないと理解。剣を手から離せば回避は出来るも、そうすれば自分の剣を奪い取られる。吹き飛んだ聖剣を自分も奪い取れば剣を迎撃できるが、少し距離があり、隙も生まれる。

 となれば、手段は唯一つ―――

 

「ぬぉ……!」

 

 ―――こちらも同じく、頭突きによって相手の頭蓋をカチ割るのみ。一瞬で可能なだけ最大限まで頭部を強化するも、それはセイバーも同じ。互いに衝撃に脳味噌自体が耐え切れず、一秒にも満たないが意識がブラックアウトする。

 だが、本当に僅かだがセイバーの方が復活する時間が素早かった。

 明暗を分けたのはそんな些細な“生物”としての差だった。当然ながら肉を持つ生身の人間よりも、受肉したサーヴァントとは言え英霊の方が単純に生体機能が強い。

 

「しり、ぞ……け―――!」

 

 デメトリオを蹴り飛ばし、勢いのまま人造聖剣が腹から抜ける。内臓が飛び出ない様自己治癒を行いつつ、セイバーは自分の聖剣まで一気に魔力放出で飛び込む。彼女は聖剣エクスカリバーを再び手にし、直感が壮絶な臨死を訴えかける。

 既に―――あの騎士が背後に居た。

 斬撃一閃。避けるも、次の二閃が避け切れぬ。ならばと彼女は剣を振うがデメトリオはゆらりと避け、そのまま裂斬り。体勢をセイバーが整える隙を一切与えず、足場を絶対に固定させず、人造聖剣の秘蹟で“損傷《浄化》”した腹の傷が癒えぬまでに手傷を負わせ続ける。

 しかし、この騎士王こそ剣の英霊。

 直ぐ様、セイバーは剣を斬り払い―――好機を見た。

 鞘を持つ不死故、今の彼女は致命傷以外に意味は無い。致命傷だろうと即死でなければ、死に至る傷だろうと無傷と同じ。

 左肩から心臓を通り胴体を両断する軌道の一撃を、彼女は無動作に受け入れた。だが無抵抗ではなかった。斬られながらも聖剣を振い騎士の首を狙う。相討ち覚悟の一撃を、不死身だから可能な特攻を、しかし騎士は受け入れず回避する。その避けると言う動作をする僅かばかりのタイムラグが明暗を分けた。

 接敵し、騎士王は瞬間的に激突。右肩からの体当たり。

 デメトリオは宙にほんの僅かだけ浮き上がり―――自らの死を垣間見る。

 足場がなく、身を捻ろうとも、もはや此処は斬殺空間。だが聖堂騎士に隙はない。自分を上から真っ二つにする斬撃を受け止めるも、しかしセイバーは敵の技量を完全に理解している。この絶対的魔力放出から放たれる膂力を受け流させず、地面へめり込ませる様に叩き付けた。心臓まで斬ったが騎士は胴を両断出来ず、セイバーは深手だがもう治癒で蘇生し掛けていおり、その破壊力は色褪せておらず―――人間に、受け止められる一撃ではなかった。

 

「ヌゥ……!!」

 

 嘗て殺した如何なる死徒、魔獣、吸血種、真性悪魔よりも遥かな高い絶死の剣。筋肉と間接を弛緩させ、完全なる武芸で達した脱力で攻撃を受け止め、尚この破壊力。むしろ、その脱力技術をセイバーは理解し、タイムミングと剣戟の力みをズラすことで破壊力を地面へ流させないようにした。

 地面に巨大クレーターが生じ、剣ただ一振りで粉塵が舞う。

 デメトリオは次の一撃に備え振り襲う剣を知覚し―――彼の、左腕が抉り取られ宙を舞った。

 

「これは斬り合いだが、殺し合いだ。理解したか、今の私は獣と同じだ」

 

 呪詛に染まった魔力を纏い、セイバーの左腕は怪物の爪と同じになっていた。黒い呪詛の魔力は物理干渉さえ可能であり、圧倒的出力によって擬似的な武装化さえ出来てしまえた。

 爪で斬り裂き、彼女はもぎ取ったのだ。

 そして、その左腕を魔力を放出することで粉砕。これで左腕を取り戻し、治癒で切断面を付けて再生することは不可能。

 

「まぁ獣と言っても、それはエミヤシロウの戦い方を私なりに学習したものだがな」

 

 敵が状況を理解しようとも、そうならない様に足掻こうとも、必ず殺す機会を生み出す戦闘論理。セイバーはそれだけに専念し、直感のまま命を狙い、その一手として身を犠牲に左腕を破壊した。剣だけに集中させ、今の呪詛に染まることで新たに得た攻撃手段をひた隠しにし、聖剣の真名で気を逸らし、騎士との読み合いに勝利した。

 

「―――では、死ね」

 

 瞬間移動に匹敵する加速。サーヴァントの目が無ければ残像さえ残さぬ圧倒的瞬間速度。近づくセイバーを迎撃するデメトリオの剣戟を絡めるように聖剣で撃ち落とし、隙なくセイバーの首の骨を折る脚蹴りを同じく蹴りで受け止め―――一歩。

 最速で踏み込み、既に騎士王は攻撃を敢行。

 ―――左腕をセイバーは騎士の腹に差し込んだ。

 片腕を失ったデメトリオでは受け払うことは出来ず、チェスや将棋の様に詰まれて攻撃をどうすることも出来なかった。

 そしてセイバーが臓器を掴んだまま引き抜けば、その勢いのまま内臓が飛び出て騎士は死ぬだろう。更に魔力放出により自身の黒い魔力を左手から放ち、確実な止めも与えている。普通の人間なら悶死は確実。肉体を内側から強引に拘束される等、常人に耐えられる苦痛ではない。しかし、死ぬまでにセイバーを仕留められる可能性を見出せる程、今のこのは騎士は強い。油断は出来ず、首を切り落としても動くかもしれないと思える執念が宿っている。

 ならば―――

 

「聖剣解放―――」

 

 ―――確実なる死を与えるなければならない。

 もはやセイバーの心に僅かな騎士道など残ってはいなかった。右手に持った聖剣を解き放ち、左手で背骨を掴みながら強引にデメトリオを内部から拘束。魔力放出を応用した魔力の流動はデメトリオを肉体内部から制限し、直接筋肉を引き千切り、セイバーの左手から放出される魔力は更に彼の魔術回路も狂わせていた。こうなれば体術も魔術も満足に使えず、聖剣から逃げることも不可能だった。

 

「―――卑王鉄槌(ヴォーディガーン)……ッ!!」

 

 セイバーはそのまま解放した剣を片手で叩き付けた。零距離から騎士に黒き極光を薙ぐ。真横に払われた黒光は物質を容易く分解し、空間そのものを破壊し尽くした。人間である時点で即死は間逃れず、サーヴァントであろうと一撃で息の根を止める剣技だった。

 対人聖剣―――名を、卑王鉄槌。

 極光を刀身に凝縮し、そのまま刃とする黒い光の剣による真名解放の応用だった。そして、ゆっくりと彼女は左手を内臓から轢き抜いた。鎧の篭手には小腸と大腸が巻き付き、腹の孔からは血が吹き出ている。そのまま剣を杖にして君臨し、セイバーは左腕を振いながら魔力を放出。一瞬で肉と血を払い、聖剣も同じく振って血を吹き払う。

 

「首を切り落とすだけでは不安だったからな。頭部ごと斬り潰して貰った。さて―――」

 

 首が消し飛び、左腕が斬り落とされた惨殺死体。騎士の成れの果てが、遂に騎士王の眼前で崩れ倒れた。

 彼女は酷く嬉しそうに、神父の方へ視線を向け……

 

「―――後は貴様の命を斬るだけだ」

 

 ……微笑みに顔を歪めさせていた。

 強敵を殺せたことが嬉しかった。

 生前では有り得ぬ殺人による達成感。守る為に、国の為に、幾度も殺人で手を汚したが―――初めて、彼女は殺人そのものを目的にし、斬り殺せた事実が嬉しくて堪らなかった。

 

「―――……」

 

 だが、士人は黙っているだけ。魔力を回路に流すこともせず、戦意と殺意で思考回路を作り変えてはいるが、殺気を外に出してはいなかった。

 刹那―――寒気がセイバーを襲った。

 死だ。

 刃だった。

 溢れんばかりの剣気が、死体からおぞましい程に発露いていた。

 

「馬鹿な、有り得ん……―――」

 

 首と左腕のない騎士が、彼女の前で剣を握っていた。

 ……死後、魔術回路は生きていたのだ。

 死んだ肉体に魂の欠片である残留思念が残り、操り人形を動かすのと同様の感覚で―――屍が駆動する。魔力が神経を奔る電流の代わりをなし、筋肉を強引に稼働させていた。

 首も無く、左腕も落ちた。腹に穴も空いている。

 それでも尚、デメトリオ・メランドリの魂は肉体に宿っていた。

 生命力を全て燃やして燃料に変えて、剣を使う以外の機能を全て捨てた。

 脳が無くなり思考が死に、口も無くなり言葉を失い、耳も無くなり聴覚が消え、目も無くなり視界が閉じ―――騎士は遂に完成に至った。いや、それは元より完成していた人斬りの剣で在った故、完成と言うよりは完結したと表した方が正しかった。

 

「―――貴様、その姿でまだ……!」

 

 屍は右手に持つ剣の刃でセイバーを視ていた。刃で全てを、感じ、悟り、斬る。全てを斬った。

 ―――鎧を断った。肉を断ち、骨も断ち、魂も断った。

 彼の斬撃は何もかもを切っている。刃が軌道する場所が、全て斬られて逝く。空間を切り、魔力を切り、生命を斬る。故に、刃は無音であり、無風。当然と言えば当然で、彼の剣は風も斬っている。剣先は音速を遥かに超え、もはや文字通りの神速―――神域の剣速をも超えて、魔速とも言えぬ形容不可能な剣速であると言うのに、波風一つ発しない。風を斬るとはそう言う事。

 斬ると言う事は、そうであれば良い。

 剣で斬ると言うのであれば、刃は問答無用で全てを斬るのだ。

 山を斬る、海を斬る、軍を斬る、炎を斬る、神を斬る、国を斬る、世界を斬る―――全て、無駄で余分な下らぬ機能。本来ならば刃で振う事で可能となる副次的な作用を、斬撃の主軸にするなど無価値極まる。

 斬撃を放つ、火炎を放つ、雷光を放つ、呪詛を放つ、祝福を放つ、因果を放つ、地獄を放つ―――全て、無意味な概念で作られた下らぬ現象。本来ならば刃が持つ斬る作用に余分を付加するなんて、考えるだけでも魂が腐る。

 剣を振い、刃で斬る。

 それが―――斬撃。

 それが―――デメトリオ・メランドリで在った。

 

「……――――」

 

 つまり、それこそが、剣を求めた残骸の所業。屍が壊れた人型でさえない骸が、剣を振って起こした悪夢。その死体は言葉はない。理由もなく、狂気もなく、純粋な剣で在った。剣を振い続けるのだ―――敵を斬る為に殺すまで。

 

「…………ッ―――!」

 

 セイバーにとって、理解する事が出来ない“何か”だった。自分も剣士であるが、剣の果てがアレで在ると言うのであえれば……それは、人では無い剣でしか無い無機物だった。

 人間の機能が全て余分、全部唾棄すべき異物。

 極めるには剣と為り、斬撃を成す。

 刃を手とし、足とし、思考を全て刃へ還す。

 だから、斬るのだ。斬れとさえ考えずに斬れと動いて、斬れと剣を動かして斬る。

 故に―――血が、吹き出た。

 屍の心臓は止まり、血液が流れていない。つまり、この斬り合いで地面に落ちる血は、殆んどがセイバーから流れ出た赤いモノ。

 

「死ね―――死に損なった、剣の残骸が……」

 

 セイバーもまた、デメトリオで在った剣を斬るしか無かった。斬られば、斬られる。セイバーは殺す為に斬り、剣の屍は斬る為に殺さんと駆動する。その違いが、余りにも大きな差となって戦場に圧し掛かる。

 斬られた。腕と胴を、黒鎧と魔力の防御を無視して、浅く刃で斬られた。

 彼女にとって、ただの軽傷だ。無尽蔵の魔力と、自前の自己治癒と、鞘の蘇生能力を考えれば無傷と同じだが―――痛い。斬られた部分が刀傷となり、激痛が奔った。

 当然だ。斬られたのであれば、それが当然で当たり前だ。しかし、それが有り得ない現象。

 霊体を切られている。霊格が切られていた。

 彼女と言う概念を、斬撃と言う概念で切っていた。

 

「………残留思念が、小賢しい真似を―――!」

 

 しかし、それも無意味。聖剣の鞘の前では、切られて痛みが奔っても完治する。肉体の一部が損壊しても復元し、負った致命傷も容易く蘇生する。

 今のセイバーは、不死に近い本来の騎士王。

 ……いや、あの全盛期よりも尚、最高潮に至っている黒き卑王。

 しかし、相手もまた“人間”である事の括りを棄てた剣の悪霊。

 サーヴァントと同じく物理法則を容易く突き抜け、彼は自分が鍛えた術理を存分に発揮していた。肉を持ち生きる人では絶対に不可能な剣の理で以って、疲れることもなく、視覚に頼ることさえ一切なく、ただただ(それだけ)の現象に成り果てていた。物理法則の逸脱具合だけを見れば、それはサーヴァントの領域さえ超えているかもしれない。

 

「―――――――――」

 

 速い、と言う次元ではもはやない。(ハヤ)いとさえ言えぬ。あれは無だ。視界に移る騎士は姿は霞んで見えるどころか、気が付けば刃を放つ度に瞬間瞬間体勢が変わっている。その合間の隙をセイバーの視覚では確認不可能。

 だが極限まで研ぎ澄ました第六感であれば、僅かに把握可能な視覚情報と合わせることで対処は出来る。

 しかし、剣技が、直感に追い付かない。

 死ぬと、危険だと、分かっているのに動作が段々と遅れてしまう。

 その力も強く成り続け、残留思念で動く死骸だと言うのに、人間では有り得ないレベルで更に技量が高まっている。

 ―――剣。

 もはやその一言。

 そして、遂に衝撃を流し切れない致死の一閃。

 上段からの兜割りを、セイバーは受け切れなかった。振り下された剣を刃で防いだのだが、衝撃を和らげることが出来なかった。僅かに押し込まれ、頭蓋を斬り込まれた。一ミリ以下とは言え、デメトリオの刃が脳に達した。

 ―――吐き気。

 脳味噌を直接、ミキサーで掻き回されたとしか考えられない苦痛。視界がグルリグルリと歪み回る。

 

「――――――ぁ」

 

 強引に聖騎士をセイバーは刃を弾き飛ばす。敵の体勢が崩れた所を狙い、胴を蹴り飛ばして距離を取った。その気になれば数百メートルは跳躍可能な魔力放出を込めた脚力だが、もはや今のデメトリオが相手では物理的破壊を行った所で意味がない。内臓が全てミンチになる破壊力があったところで、彼はもう内臓を必要としていなかった。

 

「え、あれ―――」

 

 彼は斬っていた。何もかもを斬る剣とその魔力。それを僅かとは言え脳に達したとなれば、斬られる対象もまた脳の一部分。

 ……残骸はセイバーの記憶を、記憶で斬った。自分の思念に残った記録さえ機動する為の魔力に変え、その魂を剣に込めて強化している。無尽蔵の魔力供給と、鞘の治癒能力で不死に近いセイバーだが、その魂が不老不死になっている訳ではない。

 

「―――ぇ……?」

 

 確かに、消えた。内側に印された記録が斬られた所為で、記憶の中から忘却してしまっている。もう何を忘れたのかさえ、忘れてしまっている。果たして、自分は誰に育てられたのだろうか、家族は誰だったのであろうか―――分からない。

 アルトリアとしての記憶が欠落した。

 その記録が情報の塊である魂から切除されてしまっていた。

 つまり、デメトリオは捨てたのだ。魂の中身を刃に込めて棄てた。命だけではない。自分自身を剣の刃に変えて、敵を斬る。斬る為に、殺す。ただ斬るだけでは殺せないのであれば、生命も記憶も過去も、死した血肉袋に宿る魂の中にあるモノ全部を使った。頭部を失って、左腕を失って、なのに彼は死んでいるのに止まらなかった。斬る為に殺す必要があるのならば、これ以上無くなるモノなんて無い筈なのに、自己を消して、より多くの“何か”を失って刃を成す。

 その斬殺狂いに刃で斬られたセイバーは、内側の大切な“何か”が斬られていった。

 魔力と呼べる力ではなく、呪詛を凌駕した思念であり、祝福を押し潰す人間の極まった魂の発露。

 まるで、デメトリオが失ったモノと等価のモノが、対消滅するかの様にセイバーから斬り失っていった。その度にデメトリオ・メランドリは唯の剣と成り果てて、セイバーは唯の人に戻って行く。

 ―――剣は更に己を捨て、剣と化す。

 それは忘れてはならない思い出の数々だった。

 

「ぁ、ぁあ、貴様―――貴様、貴様貴様……!!」

 

 恐怖であり、憎悪。罵倒する所の話ではない。心を斬られるとはつまるところ、死体の残骸は―――セイバーの魂を剣で犯した。

 全てを斬る。

 この残骸が至った斬殺の極致。

 死の概念を持たない化け物があろうとも、その生物の命を斬る。不死であり無限に蘇生しようとも、その魂を斬る。魂さえ無敵となる神霊以上の“究極の一”であろうとも、その生物が活動する理念を斬る。

 デメトリオ・メランドリの残骸は笑っていた。

 心の底から嗤っていた。

 騎士王を嘲るように哂っていた。

 聖堂騎士は脳を失って、顔もないのに―――魂だけで歓喜の剣気を発していた。聖剣遣いであるアルトリア・ペンドラゴンだからこそ、あの残骸が只管に笑っているのだと悟れてしまった。

 ―――好機である。

 今の騎士に理性はない。

 剣技は生前以上。業の密度は嘗て冬木で殺し合ったアサシンに匹敵。だが、その行動に戦略性は皆無。優れた技だが戦術は単調。何より隙が大きい。こうして剣に魔力を込めても気が付かず、聖剣を掲げていても、剣の獣に堕ちた残骸は命の危機よりも―――この斬れたと言う快楽を優先する。斬って直ぐのこの後味を愉しまないと、騎士もどきは次の斬殺を愉しめない。

 ならばこそ、死ね。

 無様な隙を撃たれて消えろ。

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)ァァァァアアアアア――――ッ!!」

 

 ―――直撃。斬撃の光の奔流。

 森そのものを両断する一撃だ。光の剣によってデメトリオは肉体全てを斬り消された。斬撃そのものにより全身を呑まれ、肉体全てが消えて無くなったのだ。

 残されたのは、手に持つ人造の聖剣のみ。

 ……いや、肉体全てと言うのは誤りだ。僅かにだが、彼の肉体も光に呑まれず残っている部分があった。聖剣の柄には剣を握り締めるデメトリオ・メランドリの手だけが現世に残っていた。それ以外の全身は完全に消し飛ばされたのだ。

 

「―――――――――……」

 

 あのバーサーカーであろうとも六回以上は一度で殺し尽くす絶対斬撃―――

 

「なんなんだ、貴様は。何故、どうして……死なない! 消えない!?」

 

 ―――剣を握る残骸(騎士)が残した右手。そこに集まる赤黒い粒子。形を作るのは黒い影。

 甦ったのではない。エーテルが凝り固まり、人型を模しただけ。だが有り得ないのだ。魔術回路そのものが聖剣で吹き飛び、死んだ肉体ごと魔力も大気に溶かされている。

 それでも尚―――デメトリオ・メランドリは世界に残った。

 寄り代となる残留思念さえ消え果てたと言うのに、肉体も消えたと言うのに、その剣として生き抜いた精神が死を拒絶する。剣と成り果てた魂が斬りたいと鼓動する。遂には名前さえも、デメトリオ・メランドリと言う存在である事も刃に変えた。彼は自分人生、一切合財何もかもを刃に変えて剣にしてしまった。自分を剣にして、斬る為だけの存在になった。人間を止め、生き物を止め、この世の何もかも超えた「剣」と化した。

 死した魂が根源に至る。

 聖剣を受けた彼は「 」から還って来た。

 しかし、そこから戻る為には、とある条件がいる。肉体が死んでいては、戻って来れても死んだままだと言う事だ。問題解決の為に取った手段、それは―――契約。阿頼耶識との契約により……いや、抑止力に目を付けられる程の異端に至った故に、彼は霊長の守り手として選定された。その抑止が彼を、剣で在れと希った。同時に、彼もまた自分を剣として完成させたかった。だが、例え阿頼耶識でも死者の蘇生を成せば、霊長としての規則と異なる。死人は甦らず、それはアラヤが定める人間の規約と反する事柄。故に、本来ならば、その契約は擬似的な蘇生となり、剣ではない屍としての蘇生となるだろう。彼の肉体は抑止力の屍として元に戻り、彼の魂も霊長の規則に則った魂魄の範囲に、つまり守護者としての霊格に堕ちるだろう。

 だが、それでは駄目だ。それは余分なのだ。

 抑止も、魔法も、魔術も、神秘も、科学も、霊長も、地球も、自分には要らない。唾棄した。虚無に棄てた。

 そして、彼は―――契約を斬った。

 根源で魂が剣と言う概念に成り果て、彼は自分を束縛する根源の渦を更に斬った。斬って、斬って、邪魔をするアラヤとガイヤを斬り捨て、彼は剣となって戻った。

 斬ると言うこと。

 斬撃の極致。

 即ち、自分自身が剣と為り、刃を振う。彼の魂が手に入れた根源とは、剣と言う概念と、斬ると言う現象。それは魔法には程遠い一となる究極―――斬撃。

 デメトリオ・メランドリは死に、やっと手に入れたのだ。求めていた境地、果たすべき理念。

 ―――斬。

 斬る。斬って、斬る。斬る事。

 斬ると言う存在、概念、現象。

 今のデメトリオ・メランドリはソレに至っていた。

 彼は死ねば、守護者となるだろう。そもそも契約を斬らなければ、ある程度はまだ人生を送った後に死に、守護者となっていた事だろう。

 だが、デメトリオ・メランドリは契約を斬ってしまった。この一時の自分へ至る為だけに、剣のまま現世に戻った。アラヤは彼を守護者にし、大聖杯で起こす未曾有の人類滅亡を防ごうとしたが―――その契約が斬られてしまったのだ。

 死ねば、永遠の牢獄に堕ちる事に違いはない。

 契約が果たされてしまった時点で結果、早いか遅いかだけなのだろう。

 それでも尚、自分が守護者として座に堕ちるまでの間、人として得られるこれからの人生を斬ってまで、デメトリオは自分が至る究極を手に入れる事を優先した。

 そして―――その「剣」を、この今生で試せるのはセイバーのみ。

 彼はもう死ぬ。

 契約を斬ったのだ、死んで座に逝くしかない。

 折角、辿り着いたと言うのに、剣の業を完成させ、自分を完結させてしまった。契約を斬らずに、このまま現世で生きていても絶対に辿り着けなかっただろうが、それでも今のセイバーを打倒する能力を得る為の、抑止の後押しがあった筈。しかし、それの後押しこそ、デメトリオには許せない不純物故に、斬り捨ててしまった。現世に残した自分の屍へ戻り、斬った契約が残した残滓が魂だけを復元させた。残留思念から剣と化した本来の魂へ、還り死んだ。

 ……そう―――彼の魂は、もう死んでいる。

 契約を斬った為、肉体を思念と化して操っている。だが、それだけ。肉も心も魂も死んでいた。死んだ魂は文字通りの残留思念であり、彼はそうとしか存在出来ない現象となっていた。

 ……だから、斬る。

 斬って、斬って、斬るのだ。

 斬って、斬って、斬って―――斬る。

 斬れ、斬れ、斬れ、斬れ、斬れ、斬って斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬―――

 

「――――――――――」

 

 無音の斬撃。デメトリオが剣を振り、切れた。当然の結果だ。彼はもう剣でしかない。彼の肉体は既に魂に帰化しており、彼の肉体も魂となっている。それが剣で在れと言う現象。

 溶けて、混ざり、歪んで、同化。

 ―――剣の業。

 ―――剣の神。

 人が成し得る究極の一。

 人の業が法則を通り超える。

 

「―――……!」

 

 刃が刃に食い込んでいた。折れてはいないが、罅割れてしまっている。デメトリオの刃が、セイバーの剣を圧している。

 今のセイバーでは分からないが、この聖剣は悪の属性を持っていても本質はエクスカリバーだ。

 アルトリア・ペンドラゴン以外は担い手に相応しく無く、黒く堕ちたセイバーは担い手であろうとも、神秘の強さに違いはなかろうとも、それは本当のエクスカリバーではない。あるいは、セイバーが心の髄まで完全に黒化していれば、結果はまた別だった。黒化したアルトリアの幻想として完結しておれば、罅割れる何て事は有り得なかったが、今のセイバーは半端に呪われている。それでは剣の力が、悪性で在る事が弱さに繋がってしまう。

 その歪みが、剣として惰弱にしていた。

 刃として完結していない聖剣であるこそ、デメトリオの剣は黒い聖剣を断罪する。慈悲もなく、許容もなく、その剣が持つ欠落を裁く。

 斬られた。

 セイバーは斬られ続けた。

 聖剣を盾に、敵の剣を狙って斬り返し続けた。なのにセイバーは記憶ごと斬り刻まれた。

 

「アアアァァぁぁあああああああ……―――!」

 

 不死を越えた不滅。デメトリオの剥き出しの魂はセイバーの剣を受けるごとに存在ごと裂かれ、現世から乖離しているのに、執念だけで留まり続ける。斬り続ける。

 だが、それが無駄ではないことはセイバーは理解する。

 敵は消えないだけで、一刀一刀受ける度に確実に死んでいる。消えないだけで、動き続けるだけで、この亡霊は死に続けている。

 故に―――殺せる。斬り続ければ、何時かは斬り殺せる。

 自分は即死の致命傷を避けるだけで良い。斬り殺し続けるだけで良い。

 だが自分も斬り裂かれ続け、魂が記録ごと、精神ごと、一刀一刀確実に切り刻まれている。ならば重要なのは中身が死に逝こうとも意志を保ち、相手を斬り続けることだけに我が専心を向ける。

 ……だから、斬る。

 斬って、斬って、斬るのだ。

 斬って、斬って、斬って―――斬る。

 斬れ、斬れ、斬れ、斬れ、斬れ、斬って斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬―――

 

「―――あ…………」

 

 気が付けば―――何も目の前になかった。

 何も―――存在していなかった。

 地面に剣と右手が落ちているだけだった。斬って、斬って、斬り続け、斬られ続けた果て―――アルトリア・ペンドラゴンは勝った。デメトリオ・メランドリは魂を完膚なきまでに破壊され、アルトリアが斬り勝った。

 

「……あれ?」

 

 アルトリア・ペンドラゴン。それは何だったのか? セイバーの内側から斬り消えた。斬られて、何かが失われていった。

 王―――誰が?

 民―――誰の?

 騎士―――誰が?

 理想―――誰の?

 分からない。分かるのは唯一つ。自分が、剣士だと言う事。

 この黒い剣の名も記憶が頭から失っているけど、この剣が自分の意思に名前を直接訴え掛けている。それに、この身の内には黒い剣の鞘もあるらしい。その黒い鞘が、剣と鞘の名を自分の心に刻み込んでいた。自分は何処かの国の王であるらしい。

 ……覚えていられたのは、それだけ。他は消えた。

 だけど、絶対的な確信が一つ。

 過去の記録は全部無くなっているが、今の自分は間違いなく―――最強に至った自分。

 セイバーにとって、今のアルトリア・ペンドラゴンにとって、剣で在る以外の全てが消えて逝った。剣士としての経験と、更に鋭く変異した直感以外に、騎士王としての名残は無い。最強の騎士である筈の黒い鎧の男や、誰かは知らないが自分を殺したと思う赤い鎧の騎士も、戦闘の記録として刻まれているのに記憶には覚えが無い。

 だからこそ、最強だった。

 無敵だった。天下無敵の剣で在った。

 エクスカリバー。彼女は正真正銘、その“担い手で在る”だけの存在。

 聖剣でも無く、魔剣でもなく、ただの剣と化した。

 賢君でも無く、暴君でも無く、ただの王と化した。

 唯のエクスカリバーであり、もはや彼女は唯のアルトリアだった。

 

「―――はは、クハハ……あは」

 

 この剣は真名を“約束された勝利の剣(エクスカリバー)”と言うらしい。彼女にとって、この剣はもはやそれだけの剣。斬る為の人を殺す剣であり、斬る為に斬撃を極めた剣である。

 素晴しい剣だった。

 斬る為に、敵を斬撃で皆殺しにする最高の剣。聖なる剣だった斬る為の刃物。

 

「えくすかりばー……えくす、かりばー? えくすかりばー、えくすかりばー―――あはははははは!」

 

 意味も無く面白くて、その名前が楽しくて、彼女は嗤ってしまった。

 

「……破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)―――」

 

 茫然と、壊れたセイバーに士人は剣を突き刺した。嘗て第五次聖杯戦争で召喚されたキャスターのサーヴァント、裏切りの魔女メディアが持つ契約破りの宝具。

 士人はセイバーと契約できる。

 抵抗する意志がない今の壊れたセイバーであれば、士人程度の技量でも魔術で強引に契約を結べよう。だが今のセイバーは泥によって受肉し、竜の心臓も完全ではないが幾分かは稼働しており、自分自身で魔力を生み出せる状態。本来なら心臓の魔力炉心の稼働など受肉しても復活はしなかいのだが、桜が何かしらの細工をセイバーに施していたのだろう。つまり神父が契約し寄り代にならなくとも、セイバーは魔力消費で消滅はしない。

 

「ああ。やはり、そうだ。これこそ私が望んだ結末だ。

 ―――お前達は最高だ。

 聖杯戦争こそ―――我が運命。我が理想。

 アルトリア・ペンドラゴンよ、我が王ギルガメッシュが認めた至高の騎士王よ。

 認めよう、お前こそ我ら霊長、人類史最高の騎士だ。斬り殺されたデメトリオ・メランドリが憧れた騎士の頂点だったぞ」

















 セイバーとデメトリオ・メランドリ脱落。
 実は幼い子供の頃、デメトリオは伝説のアーサー王物語を聞いて憬れていました。聖堂騎士になってからは完全な剣技狂いに成り果てましたが、今は面影ないけど少年期はアーサー大好きっ子。大人になった後でも、偶に読書しています。

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