FGOもリヨった後に水着イベントですね! あのバーサーカーこそ、ある意味ではギリシャ最速のアキレウスを越えるだろう最速の宝具演出サーヴァントであることに間違いはありません。
しかし、あの水着イベのCM。砂漠でチキチキマシン猛レースって、あれ多分水着イベの名を借りたス〇ーウォーズイベントならぬセイバーウォーズイベントですよね。ヒロインXもいましたし。
感想のコメントありがとうございます。誤字報告も大変有り難いです!
―――地獄である。
アインツベルンの領域は死に耐えた。
間桐桜が連れ込んだ黒化天使の使い魔が撒き散らす呪詛により、土地の霊脈が汚染されている。キャスターの守りが消えた陣地は桜の手に落ち、濃密な
「シロウ……」
「……………………」
気絶した男を彼女は背負い、森を走り抜けていた。桜へ投影した武器を射出し、自分の実の父親の亡霊ごと狙い撃っていたが、奴ら全員には逃げられた。だが第一の目的は敵になってしまった妹分の殺害でも、親殺しを成すことでもない。今しなくてはいけないのは、桜の傀儡人形として操られていた弟を安全な場所まで運ぶこと。凛には自分が彼を運ぶことを無言のまま伝え、目をしかりと合わせ頷き返された。恋人の女性から託された自分の弟だ、彼女は、イリヤスフィールは、まずやらなくては成らぬことを成すだけだ。
式神としてイリヤスフィール・フォン・アインツベルンに憑依した英霊―――コトミネジンドが持つ宝具。
この英霊の
あらゆる魔術を初期化する契約破り―――
魔術師にとってこれほど便利な道具はない。それを前回の魔術師のサーヴァント、キャスターが宝具として持っているのは道理であり、逆にあの魔女に対する皮肉でもある。これを刺せばあるいは、あの間桐桜を大聖杯から引き離すことが十分に可能で、衛宮士郎を取り戻す手段としても最適だった。
「……はぁ、ホント、なんでこうなったのかしらね」
走るのに集中しても、イリヤは思わず呟いてしまった。
「さぁ? 本当に不思議ですね」
「……………生きてたの?」
「しぶとさには自信がありますから。肉が裂けても死にませんので」
「さらりと気分が悪くなることは言わないで欲しいのだけど。苦しくなるし」
さり気なくイリヤに近づき、背後から声を発した不審者―――カレン・オルテンシアは、ニタリと臓腑の底から面白そうに微笑みを浮かべている。
「良く言いますね……―――その体、もう綻びてるように見えますが?」
「……ふん。それは貴女もでしょ」
ただの人間ではないが、それでも肉を持つ魔術師が上位存在である英霊の宝具と技能を酷使した。カレンに至っては異能はあれど魔術師でさえない。そんな二人が、ここまで暴れたとなれば肉体や内臓に異常が発生し、霊体の方も危険な状態になるのは当然だった。
「否定はできませんが、私は宝具持ちですので。肉体と霊体は勿論、魔術回路さえその気になれば蘇生可能です」
「……あ、そう言えばそうだったわね。何だかんだであの神父から愛されてるってことね……って、そんな惚気はどうでもいいわ」
イリヤは自分と同じ様に、あのキャスターの手で式神を憑依されたカレンを見て思い出した。この司祭は神父の手によって、とある宝具が仕込まれていた。その宝具ならば、被虐霊媒体質による自傷さえ完治し、致命傷さえ瞬間的に蘇生する能力を保有していた。
イリヤもイリヤで、憑依した英霊の固有結界から漏れ出す黒泥により、霊体を呪い潰すことで魔術回路の傷を強引に蘇生させた。また治癒効果を持つ宝具を幾つか投影することで、肉体の損傷も既に魔力任せで回復させていた。
「ええ、どうでも良いのです。なので、互いの利益となる話をしましょう。私なら、貴女が命より大事にしている家族―――そこの衛宮士郎の魂と肉体を調整できます。契約破りなら、あの女からの束縛は破れても、霊体に残る傷跡までは癒せない。
このままでの状態なら魔術を失うことになりますし。まぁ、それならそれで、貴女には都合がいいのかもしれませんが。
……ああ、そう言う意味では、あの衛宮切嗣にとっても好都合なのかもしれませんね」
この悪辣さは親譲りとしか思えないだろう。何故士郎がそんな様になっているのか、人と人の関係を結び付けることでカレンは他人の心を盗み見る。
……物事には原因と、それを為した誰かの理由が存在する。
間桐桜の支配から脱した場合における保険。魔術回路の永久的封印措置。広い魔術世界であれば破る方法はあるのだろうが、この第六次聖杯戦争中に復活することはまず有り得ない―――カレンさえ居なければ。キャスターが死した今、その力を手に入れた者こそが鍵となる。
「――――――貴女……」
「まぁ、怖い。ですけど、等価交換の為の材料がこちらにはこれ位しかありませんのでね」
「で、なによ? 話、進めて」
廻りくどい話をさせてはいけないと、イリヤは経験則で理解していた。こう言う輩に言葉を装飾させてはならない。聞くなら聞くで、余分な情報を省いたシンプルな言葉にした方が良い。
「蘇生に協力して欲しいのですよ。アインツベルンの聖杯である貴女にね」
「ふぅん。そう言うことね。でも、そこまでする義理が貴女にはあるの?」
「ないです。恨みなら逆にある程ですよ。けれども、私は見た目通りに神へ仕える敬虔な修道女。
……助けを求める断末魔を、態々無視する必要もありません」
キャスターの望みとは、それだった。その為ならば、保険として残しておいた術式のみを憑依させ、カレンの魂を塗り潰すであろう自分の魂の大部分を聖杯へ送り、自我を残りしても良いと交渉した。それに答えたから、カレンはまだ自分で在ることが許され、キャスターも譲歩した。尤も、嫌がらせに抵抗されるよりも効率的だと判断したからこそ、手順がランサーに殺されたことで狂ったからこそ、あの陰陽師は完全な死を受け入れた。
「魂がない完全な死者の蘇生は不可能よ。それは分かっているわね?」
「無論です。首だけの状態ですけど、まだ脳は生きてます。メイドの方も、肉体はもう駄目ですけど死んではいないので」
「……そう。なら、出来ないことはないわね」
「では、交渉成立で?」
「ええ。シロウもその方が――――――」
その時―――会話を遮る程の爆音が、森全てを振わせた。余りにも唐突に、弾道ミサイルが何発も同時に爆破されたのかと思う程の、大規模な音と熱が二人を背後から襲いかかる。爆風に吹き飛ばされたイリヤは、気絶した士郎を抱きかかえて守った。カレンも式神としての強靭な肉体によって耐え、風と石飛礫から顔を手で守り、爆心地らしき方角を見て笑った。
「何事なの!」
「大事ですね」
「わかってるわよ!?」
―――天に舞い上がる極光。
何かが終わったことを二人は察し、足早にこの地獄からの離脱を急いだ。
◆◆◆
追い付かれたと理解したが、時既に遅し―――と、桜は師の神父と良く似た表情で邪笑した。聖杯の黒化天使共を足止めに使ったが、何体か機能停止に追い込まれているも、それは別段問題ではない。あれには泥による自動蘇生があり、不死殺しでなければ殺せず、あるいは魔術契約を破戒する礼装でもなければ倒せない。
「フン―――……む? 成る程、銃か」
綺礼は黒化した呪泥の黒鍵で銃弾数十発を纏めて弾く。その黒化天使を潜り抜け、桜達に迫ったのはまず三人。綾子とダンと士人だった。サーヴァントには基本的にサーヴァントを当て、キャスターの式神により半英霊となったイリヤスフィールに天使を集中させた為、足の速いこの三人が最初に接敵した。
と言うよりも、蟲の監視網を掻い潜る隠密行動を実戦で行え、更に黒化天使を撃退可能な人間がこの三人であったのだが。
「来ましたか……」
走りながら逃げ続ける桜は、後方から来る追手を目視で確認した。使い魔の蟲で全体はある程度把握しているとはいえ、肉眼で見える程に接敵されるとなれば程々にピンチだ。一人にでも見つかれば、そこから念話を使われて敵陣全員に居場所がバレテしまう。
「ライダーに命じます―――宝具で以って自爆しなさい、盛大に!」
だからこそ、躊躇いは無かった。追い付かれた時点でそれを行うことは決めていた。出来る限り距離は稼ぎたかったが、欲張れば不利になるのは目に見えている。
それは―――破滅だった。
それは―――凶行だった。
隕石が衝突したとしか思えない破壊の轟音。既に数kmは逃げた筈なのに、衝撃波が伝わって来る程の威力だった。爆心地には巨大クレーターが刻まれ、アインツベルンの森の木々が円状に薙ぎ倒され、魔力と霊子が爆風と共に吹き荒れた。セイバーの聖剣を越えた正しく評価規格外と呼べるランクの神秘である。
「くぅふふふフフフフフフ! やっぱり切嗣さんは頭が可笑しいですね」
桜はこれ程までに悪辣な策を考え付く切嗣が恐ろしくも、それに比例して頼もしくもあった。令呪によるサーヴァントの自壊―――それも、宝具を爆薬として利用する一度きりの切り札である“
ライダーの宝具は固有結界が本質であり、今は肉体と融合した状態。それも今までに殺した敵を兵士と貯めに貯め、膨大なまでに膨れ上がった“
「これで四体分の魂が回収できました……」
既に桜は結界が消えたアインツベルンの森へ使い魔の蟲を大量に送り込んでいる。そして、キャスターも死に、そのマスターも意識不明。エルナとツェリは式神化したカレンに連れ去れてしまったが、意識を失い抵抗の無い二人の精神へ亜璃紗は即座に入り込んでいた。桜のが出す虚数の泥沼と亜璃紗は繋がっており、あの泥と触れれば精神を汚染されると同時に一瞬で心理解剖される仕組み。死の間際に泥へ触れたエルナとツェリは、桜と亜璃紗の手によって情報を全てくり抜かれていた。
……アインツベルンの聖杯は、キャスターが符にして隠していたらしい。本人たちは持ち運んではおらず、森の中の何処かへ封じてあった。魔力で探知されない様、専用の小さいが頑丈なキャスター製のお守りの中。しかし、そのキャスターが死に、アインツベルンのマスター達もいないとなれば、小聖杯としての吸引力は間桐桜が上回る。それにそもそも、精神を読んだ後に派遣した蟲によって聖杯は回収済み。
「……フフ」
笑みを桜が溢してしまうのも無理はない。ライダーは宝具の性質もあるのか、ただでさえ強靭な魂が更にブクブクと霊格が膨れ上がり、彼の英雄王ギルガメッシュに迫るエネルギーを持つ。ランサーも並の英霊を遥かに超える霊格を持ち、アーチャーも大英雄には届かないがそれに迫る程。
何より、アイツベルンの聖杯が良い。蟲を黒泥化することで呪界層へと既に溶かし取り込んでおり、聖杯として機能する自分の外付け小聖杯として運用できる。これを上手く使えば自分への負担を減らし、更なる大聖杯へ対する外部装置の礼装となる。
「―――そろそろ、だね。良いんだろう、マスター?」
「ええ、切嗣さん。良いんじゃないでしょうか。だって、ほら―――あなたが考えた作戦ですから」
切嗣は自分の策を巧く使い、自分と言う
となれば必然、それら全てが間桐桜にとって有利となる。そもそもサーヴァントは敵だろうが味方だろうが、死ねば死ぬほどに大聖杯が成長する材料となる。
―――キャスター、安倍晴明。
―――ライダー、チンギス・カン。
―――ランサー、クー・フーリン。
―――アーチャー、ミツヅリ。
この四柱の英霊達の死によって、もう大聖杯には起動必要分の魔力が貯まり切った。キャスターは自分以外の七騎を生贄とする為に例外の一騎をシステムへ組み込んだが、強大な魂を持つ英霊なら一騎で数人分のエネルギー源となる。細工をしたキャスターは自分も含め、こうまで良い贄となる霊格を持つ英霊が召喚されたのは予想外だっただろう。死んだ四騎で想定された七騎分以上の魂となれば、大聖杯の呪詛はもう煮え滾っている。この現世において真性悪魔の固有結界そのものになるにはもう十分。
「はぇー、凄い……」
茫然とした顔で亜璃紗は呟いだ。彼女が警戒を薄れさせる程にライダーの自爆の衝撃は大きかった。逃げていた自分達四人も爆風に襲われ、空間を振わせる衝撃波で吹き飛ばされてしまっているのもあるが、距離もあったので無傷である。
何より、この爆破によって追手達の動きが鈍ったのが丁度良い。
爆風で桜の使い魔である天使も結構な数が吹き飛んだが、直接爆ぜた訳ではないので回収は可能。まだライダーの近くで戦っていた者も吹き飛ばされた影響か、戦闘行動に移ることも出来ない状態。
「計画通りと言う訳だ。実に素晴しい戦果だな」
哀れだな、と走りながら綺礼は思った。捨て駒にされたライダーと、そんな捨て駒によって容赦なく殺害されたランサーとアーチャーが、だ。この三人は高位の英霊が使い魔になったサーヴァント。そもそもが、こんな程度の策略で殺されるような者らではない。しかし、全てを衛宮切嗣の策謀が罠に嵌めた。こうなるように戦局が動く様に、自分達の不利益さえ遂には有益な物へ変換した。
鏖殺の者とでも呼べばいいか。策を練り、罠に嵌め、敵を殺す。この手順が凄まじく巧かった。
「糞共が、死ね。ただただ―――死ね」
ダンは動いていた。無論、綾子も続いて戦闘に入る。彼は
尤も銃弾は盾役に前へ出た綺礼が全て強化黒鍵で捌き捨て、切嗣は固有時制御によって加速済み。暗殺者は気配を殺し、ダンと綾子の後ろを取る。その切嗣に対して士人は更に背後から両手に持つ呪詛の双剣で襲い、その一撃一刀を彼は加速した世界で以って全て避け切った。
「
その刹那―――この時、この好機まで隠していた切り札を士人は使い潰した。数にして数十にも及ぶ黒い小動物のような、球体に四本の手足が付いただけの使い魔たち。普段は転がりながらあらゆる地形を高速行動し、接敵の際には手足を器用に動かし隠密行動する自立機雷だった。アサシンとレンの二人と隠れ家に居る間、コツコツと投影宝具を内蔵させて作っていた兵器を、彼は間桐桜に対して解き放った。
一弾一弾がAランク相当に至った過剰火力。
綺礼と切嗣を誘き出し、桜と亜璃紗が二人になった瞬間を狙った悪辣な神父の策。高ランク防御型宝具を保有するトップ・サーヴァントさえ一撃で死ぬトラップ群。
「―――まぁ、恐ろしい」
その暴虐に対し、桜は容易く対処した。亜璃紗によってこの奇襲自体は既に把握しており、それでも士人が行ったのは知られていようと対処不可能な破壊工作だった筈だから。だが桜は聖杯の泥沼を数十メートル離れた所へ既に設置しており、自分と亜璃紗を予め準備していた魔術式で短距離空間転移を行っていた。自分の霊感の探知範囲であれば、準備済みと言う前提が必須とは言え、瞬間的な空間転移さえ可能とする魔術の技量。
―――そこまでか、と魔女の狂った技の冴えに神父は読み間違えた自分を嘲笑う。
綺礼と切嗣も撤退しており、桜の前に立っていた。ダンは殺意が滲み出る目で睨み、逆に綾子は冷徹なまで静かな視線を送るのみ。
“やれ―――アサシン”
声に出さずに士人は敵意を形にする。念話でそれを受け取ったサーヴァントは宝具で傀儡にしたバーサーカーを盾にし、横合から強引に敵陣へ強襲を仕掛けた。自分の策が破られようが、更なる策を用意しておくのはこの神父の嫌な所。
バーサーカーを操り人形にし、アサシンも同じく造血した双剣を構えて走る。
「クク―――」
笑みを浮かべた言峰綺礼は、躊躇わず自分の
「―――
召喚した呪いの泥を綺礼は右手で握り締め、自分自身の悪意と起源が詰まった聖杯の泥を狂ったこの世界そのものへ投げ捨てる。空間を塗り潰す呪いの黒泥をまともな手段で防ぐことはできず―――だが、アサシンの機動力ならば回避は可能。近距離ならば兎も角、距離があれば十分に余裕がある状態で避けられた。しかし、囮に使われ操作されているバーサーカーが避けるのは土台無理な話。
魔力によって活性化した悪性炉心―――アンリ・マユの心臓。
神経糸で操っていたバーサーカーの肉体が、泥によって溶かされ、泥状の液体になったのをアサシンは把握した。こうなれば神経を操ることもできず、加えて言峰綺礼の呪詛が糸を通してアサシンの精神を汚染し始める。
―――死ね。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。
悪徳に死ね。邪悪に死ね。怨讐に死ね。憎悪に死ね。醜悪に死ね。唱える事に五度。罪科は星の煌きを喰らい、この身は命の輝きを喰らい歓喜する。故に死ね。我が娯楽となって死ね。
切開する―――我ら霊長全ての悪性、お前の心を切り開く。
……そんな、何もかも呪う泥がアサシンの心を捌き、隅から隅まで解剖する。
思い出されるは、感情を消す為に初めて麻薬を吸った時。快楽に脳が蕩け、やがてそんな快楽も消え果て、体が幾ら痛みを訴えようとも心は一欠片も苦しまない、苦しめない、憎めない。狂って狂って、それが当たり前の日常となった。自己改造の為に、自ら進んでそう成り果てた。
初めて、人と殺した時。最早既に道徳は枯れ、罪悪感など有り得なかった。思い浮かんだのは、もっと巧い殺し方があったのではないかと言う疑問。そんな事しか迷えなくなった自分に対する諦観。でも、それでもね、私はそれしか娯楽がなかった。呪術の研究もそれに行き着く為の手段だからこそ、殺戮道具として愉しめた。
初めて、暗殺教団が本格的に牙を剥いた時。愚かにも王を誑かし、
初めて、弟子を取った時。暗殺術も呪術も全て教えた。優秀な弟子だった。初代ハサンである教団開祖が、まだ人間の暗殺者であった頃に生まれた彼の子供たち。何人かは堕落して開祖の手で処刑されたが、自分が指導した者の一人は幽谷へ去った父を継いで二代目となり、その者が殺された後の三代目も違う自分の弟子たる教祖の娘がハサンとなった。そんな大事な愛弟子も、最期は父親の手で処刑された。
そしてハサンとなり、ハサンとして首を斬り落とされた後も―――殺しを教え続けた。
自分の技術を伝授した弟子が成長し、素質ある者がハサン・サッバーハとなって―――あの御方によってまた殺され続けた。
死んで、殺して、殺しを教え続けて―――結局、教団は蛻の殻。ハサン達も滅び去った。何もかもが無に消えた。自分が殺してきた哀れな被害者達と同じ様に、自分達もまた哀れに消え果てた。
だから―――死ね。
死ね。死ね。死ね。死ね――――――死んで、償え。
「―――っち、性根の腐った呪いだな」
過去のトラウマ全てが抉り出される。そんな抉られた部分を、まるで切り傷に熱した塩を塗り込むかのような悪辣さで、精神を犯すかのように傷口へ呪詛が流しこまれる。
心を切開し、泥の流し込む。物理的にも精神的にも、溶かし汚染する。人間を呪い殺す筈の呪詛が、長い年月を掛けて逆に言峰綺礼と言う人間性に染まり、より邪悪な何かへと変質した“心の傷を切開し、呪いで塞ぎ腐らせる”殺人兵器となっていた。
……とは言え、アサシンは呪術師。それも殺人と殺戮に特化した呪詛遣い。直撃を受けてば霊体を物理的に融解されてしまうが、精神的に屈することはまずなかった。
「……ぉおお、オオ―――■◆■◆◆ーーーー!!」
だが、もはやバーサーカーは完全に狂った。綺礼の呪詛によって抉りだされた
―――その島は死に溢れていた。
誰も彼もが人を殺し、人を死なせ、人を滅し―――けれど、誰一人として死んでいなかった。そこは屍らが屍を殺し続けるだけの不死者の失楽園だった。何度も死に、幾度も殺され、けれども命だけは決して亡くならない。
―――死にたい。
―――消えたい。
―――殺されたい。
―――無くなりたい。
バーサーカーのサーヴァント―――生前のホグニ以外の全ての不死が死にたいと願い、乞い、相手を殺す。死にたいと望みながら誰かに殺されていた。女神が与えた不死の霊薬の他に、魔剣からも更に呪われていたホグニ王以外は。
憎悪する、嫌悪する。そんな感情を越えた激情。
死にたいなんて思いなど最初から焼け果てて、殺したい何て人間らしい欲望は灰となり。不死であるならば、永遠と殺し続け、殺され続けると―――何故か、そんな地獄を受け入れて。
狂ったホグニ。その王が持つ剣の銘はダインスレフ。遥か神代にダーインと言う名前の
だが、奴は不死。英霊の魂だろうと砕け散る狂気と憎悪であろうと何一つ問題はない。不死となり、練磨されてしまった自我は容易く全てを平らげる。狂っているのに彼は、どうしても狂えない狂気に至っていた。
そんな男が完全に狂うとは、それは即ち―――
「
―――理知的に憎悪を楽しむ狂乱だった。
「―――
狂えないならば、この憎悪を理性を持ったまま暴れさせる。開き直りに近い意図的な暴走行為。不死故に自分の死さえ娯楽にする自棄でもあり、殺戮を心底喜ぶ狂人の悪意だった。
肉体を宝具で容易く蘇生させ、報復王ホグニは翔けた。
「―――
そして、士人もまた左手に持った投影宝具を解放。嘗て王の財宝から学び取った原典の創造物で以って、彼は真なるオリジナルを持つ担い手と相対した。
―――激震。
衝突する
神父の左手首は砕け、腕の骨が複雑骨折し、肩が外れる。だが、そんな程度の負傷は関係無い。憎悪の魔力を循環させられるダインスレフならば、もし神父の肉体が砕けようとも無理矢理筋肉を稼動させるのだ。死ぬまで戦い続ける呪詛が、例え死んで屍になろうとも殺意の限り使用者を動かせ続ける。
そして、右手に持つ聖剣を解き放つ。宝具によって自己強化をしながら、その状態で更なる宝具の真名解放を行う禁じ手だった。
「……
極大の閃光が狂戦士を襲う。その一撃を躊躇うことなくバーサーカーは魔剣を振り、力づくで強引に跳ね返した。その隙をついて間合いを詰め、士人は相手の懐へ入り込む。無論―――アサシンは既に行動を完了させていた。
血の糸がバーサーカーを拘束している。だからこそ、士人は飛び込んだ。
聖剣を彼はバーサーカーの心臓へ突刺し、更に魔剣を腹へ抉り込む。そのまま地面を踏み締め、あらん限りの力でバーサーカーの首へ回し蹴りを当てた。魔鉄と術式を仕込み、地雷さえ踏んでも持ち主を守る神父のブーツは頑丈で、サーヴァントに対する殺傷能力さえある。直撃を受けたバーサーカーは首の骨に罅が入り、勢いそのまま桜や綺礼達の所まで吹き飛んで行った。
「
宝具の魔力を暴発させる
炸裂―――直後、闇が音を喰らう。
右手を掲げる間桐桜と、その背後に居る亜璃紗、綺礼、切嗣。
「―――ひどい人。纏めて爆殺ですか」
呪層界による防護膜だった。桜は魔力を吸収し、魔力の爆破から自分たちを守っていた。しかし、既に
対応したのは綺礼と切嗣。ダンは礼装である
手に持つは、切嗣の起源を宿すコンバットナイフと、起源弾を放つコンデンター。
遠坂凛と情報を共有するダンは、それらの脅威を理解していた。何より魔術戦用に鍛えた戦闘魔術の一つである解析魔術を使い、魔術礼装や概念武装、あるいは魔術に仕込まれた術式をある程度は読める。エミヤほどの絶対性はないが、それでも戦闘において解析魔術はかなり重要な技術だとダンは考え、戦闘特化の魔術使いとして会得していた。無論のこと、魔力の流れを感じ取る魔術師としての第六感も、魔力や魔術を使う戦闘においては非常に重要。
固有結界を肉体限定で展開し、固有時制御による時間加速を行う戦闘魔術。超音速で迫る弾丸を見切るダンの動体視力を以って、圧倒的と呼べる加速攻撃を可能とする切嗣の猛攻。これを見切るには視覚だけでは足りず、生まれ持って優れていた心眼とも言うべき直感と、魔力の流れを把握する魔術師の技量がダンには必須だった。
ダンは魔力を込めず、頑丈なマチェットでコンバットナイフと防ぎ、コンデンターを撃たせる余裕を作らせない。一撃必殺を可能とする高威力の武器だが、コンデンターは単発式の拳銃だ。避けてしまえば、起源弾による追撃は直ぐには来ない。弾切れになった回転拳銃に弾丸を装填しながら敵の攻撃を避け、持って来ておいた
「お前、
「…………」
「へ、だんまりか」
互いに似た者同士の戦闘法。正面からの潰し合いならアデルバート・ダンにも分があるかもしれないが、殺戮者としての腕前は衛宮切嗣の方が数段上。しかし、銃と刃物を使う独特なサイレント・キリングによる殺し合いは加速する切嗣を如何にダンが対応し、凌ぎ切れるかと言う点にある。もし切嗣を殺すのであれば、ダンは敵の加速能力を上回る何かが必要だった。
そして、衛宮切嗣とアデルバート・ダンとは対称的に、言峰綺礼と美綴綾子の殺し合いは地獄絵図だ。綾子の殺し方は優れた才能によって為される技が、殺戮により生まれ変わった真性の業である。綺礼のも基礎として身に刻み込んだ套路を、死徒狩り、魔術師狩り、悪魔狩りによって練り上げた殺人技術である。だが、綺礼のそれと比べても綾子の技量は狂っていた。ハサン達と同じく薬物投与によって改造した身体と、狂気と呼べる程に技を身に刻み込み続けた果ての、自己鍛錬と殺人経験で練磨し、それらを幾度も繰り返した末の超人を辞めた魔人の武錬だ。人間を狩り殺した数で綺礼を上回り、鍛錬に費やした時間も若いながらも綾子が上回り、戦場で彷徨いながら化け物を何匹も抹殺し続けた。
「―――流石がは、あれの弟子か」
己が地獄より救い、正しく世界へ撒いた災厄の種―――言峰士人。それが育てた至高の傑作こそ彼女だった。
強く、鋭く―――ただ、巧く。
神父が持つ人間としての強さの理想像へ至る中間存在。
これ程の武の化身でありながらも、未だ完成にはならず成長期。そして、それら全てを完結させたのが、この度の聖杯戦争で召喚されたアーチャーであった。
「そりゃどうも!」
敵の神父の言葉を受け流し、綾子は薙刀を振う。それも一方的な彼女の演武だった。綺礼が投げた黒鍵は全て左腕の義手から発せられる念力で逸らされ、距離を離せば右腕を鍵とする“魔術門”より展開した銃身から弾が嵐となって吹き荒れ、八極拳の猛威を容易く捌いて対処する。
遠距離攻撃が
……簡単な話だと綺礼は哂った。文字通り、士人が自分の持つ戦闘論理全てを教えたのだろう。悪辣なまでに隙が無く、あらゆる種別の敵を殺し得る武術と異能と兵器を持つ。言わば、戦闘における言峰士人が持つ美学の結晶。理想的なまでの戦争屋。
―――強さ、と言う概念を生み出す為の最高傑作。
「
しかし、その呪文一言で桜は戦局全てを引っくり返した。今まで他のマスターとサーヴァントの足止めをしていたマキリの黒化天使全員を自分の元へ強制転移させ、辺り一帯に呪泥を溢れさせた。
「―――それで?」
「本当、相変わらずな化け物代行者ですね」
現世における肉体を持たぬサーヴァントを融解する泥であり、人間の精神を崩壊させる呪詛の権化。触れれば、この世において最大の精神的苦痛を味わい、そのまま死ぬのが普通。なのに、士人は普段と全く変わらなかった。無論、呪詛の主である間桐桜と、その娘である間桐亜璃紗も正気のまま。擬似サーヴァントの衛宮切嗣と言峰綺礼も正常だ。
「まぁ、この密度の泥であれば、どのサーヴァントにも有効だな」
今の桜が操る呪泥はサーヴァントにとって天敵も天敵。例え受肉した英霊であろうとも、現世の生命体でない霊的存在であるならば、問答無用で融かし、魔力源として魂を吸収するだろう。無論のこと、この密度となれば人間の肉体をもあっさり融解するのだが、この言峰士人に効果が及ぶことはなかった。
……とは言え、桜の呪沼が危険地帯であることに違いはない。
士人は早急に脱出して、礼装の弓を投影。射出専用の槍を模した鉄矢を弓に備え、射殺す眼光で桜達を監視した。
「―――では、さようなら」
呪泥を通過門とする空間転移による戦線離脱。しかし、ただ転移するだけでは、その隙を狙われる。転移を阻止されるだけではなく、命さえ失う危機に陥るだろう。そんなことは桜も分かっていた。妨害されるのが分かっているならば、その妨害を妨害する為の策を用意するまで。
広げた呪泥を爆散させ、黒い呪いの濃霧で一体を包み込んだ。視界はおろか、太源を一気に汚染することで魔力探知も魔術検知も不可能となり、霊的直感を阻害。加えて、感性を狂わす程の膨大な殺意と憎悪が泥霧の呪詛には含まれており、直感による察知も防いでいた。
この呪霧を吸い込む訳にはいかない。
あれには恐らく、呪い以外にも生物を殺す毒素が含まれている。恐らくは、桜が蟲を研究している過程において、自然界の虫が持つ毒性を参考にした猛毒があると考えるのが自然。人間が動物として生きている以上、この手の毒に弱いのは当然だ。生命力の高い魔術師ならばある程度の耐性もあるのだろうが、肉体が弱るのは避けられない。尤も、普通なら呪いによる汚染で毒に感染する前に死ぬのだが。
アサシンは咄嗟に何時も羽織っている黒衣で口を塞ぎ、士人も固有結界に常時ストックさせておいた仮面を投影して被った。綾子もガスマスクを取り出して使っており、ダンも綾子から投げ渡されたそれを借りていた。
「周到な魔女だ。お前の教え子と言うのも頷けるな」
「言うな、アサシン。あれはそも、俺を遥かに超える才能に満ちた魔術師だ。それこそ、魔法を操れる程の霊的素質がある。
……人格面も鍛えれば、それ相応だったしな。
不幸を背負おうが、洗脳されて病んでいようが、強い奴は強いからな。俺を鍛えた師である
「そうか。才のある者を育てるのは楽しいからな。致し方ない」
「無論だとも。教え甲斐のある素晴しい者だったさ」
今の時点で桜は吸血鬼以上の不死の化け物。そんな魔女が、更に死徒にでもなれば、二十七祖級の怪物に変貌するのは確実だろう。士人としては、そんな“モノ”に桜が成長してくれただけで十分な娯楽であり、更にこれ程の馬鹿騒ぎを起こす最高の友人に成り果ててくれた。
「……んで言峰、これからどうするん?
それに、なぁ、ダン。あんただって、一人くらい撃ち殺さなきゃ、国に帰る踏ん切りもつかないってもんでしょ?」
「当然だぜ。ここまで純粋に殺したくなったのは、親を銃殺した時以来だ」
綾子の呟きに、ダンは肉を喰らう獅子に似た獰猛な笑みを浮かべる。
「へぇ。あんたって親殺しなんだ?」
親殺しと聞き、綾子は疑問に思った。この男とは縁があるが、過去について詳しくない。殺し相手としての資料や、記録上での過去は知っているが、それだけの関係だ。
「深く聞いてやるな、美綴。俺もこれから親殺しをする破目になったのだぞ。あぁ、全く以って残酷なことだ」
「嘘つけ。凄く愉しそうにあたしは見えるんだけど?」
黙っているアサシンもまた親殺しの英霊だが、親を殺した過去など「英霊の座」では何ら特別なことではない。今回の聖杯戦争で召喚されたセイバーは我が子に殺された親であり、同時に子殺しの英雄でもあった。必然セイバーの子である叛逆の騎士モードレッドは親殺しの英霊。
「―――
「だろうな。急がないと地獄が生まれる事となる」
「無論、分かっているな?」
アサシンはどうするのだと、髑髏仮面で隠れた顔を歪めながら詰問した。
「まずは師匠を回収しよう。アレが無事でなければ、そもそも間桐を相手に勝ち目が全くない。美綴、転移は出来るな?」
「出来るっちゃ出来るけど……まぁ、何度も出来るほど魔力はないよ」
「安心しろ、沙条特性の霊薬がある。いざとなれば魔力供給の最終手段もあるしな。
……なに、今の冬木ならば男女を選り好みしなければ、色々と致せる相手に不足はせんぞ」
「セクハラだからそれ! 魔力供給とか隠語にさえならないからな!!」
「魔術師相手に魔力供給しようぜ、とか直球過ぎる口説き文句だぜ。オレには恥ずかし過ぎてできないな。しかし、お前みたいな早撃ちマック神父ソン風情がよ、女魔術師なんてエロス生命体を満足させられんのかよ」
「ほほう。素人童貞な雰囲気しか感じられぬ強面の僻みが醜いな。醜過ぎて、実に面白い殺し屋だ。何よりも、エロス生命体と判断する所が面白い」
「おい、あんたら。なに人を勝手に色情魔にしてやがる。そりゃ性魔術もいけるけど、それって魔術師なら当たり前の必修科目ってだけだし」
「まぁ、お前みたいにまだ人並みの感性がある魔術使いならな。けどよ、ナンパして一晩洒落込もうとした美人さんが、実はオレの精子を狙ってた魔術師だったなんてことも普通にあったぜ」
「分かるな。俺も冬木を襲撃して来た死徒の魔術師に敗北し、数日間監禁され、口にするもエゲツない拷問を子供の頃に受けたことがある。沙条を救う為とは言え、ある意味では聖杯戦争以上の面倒事だった。
あれは私でなければ精神崩壊していたぞ。成人しても女に対するトラウマは必須だろう」
思わず素で返答するアデルバート・ダンと言峰士人だった。
「―――お前ら」
人間相手に向けてはならない殺意がアサシンから溢れ出た。耐性のない一般人なら心臓麻痺による突然死を迎えるまでに濃厚な死の気配。
「殺気を出すな、アサシン。分かっている。もう気配の探知は終わっているな、美綴」
「当然。遠坂以外の探知も終わったさ」
「そうか。では撤退といこうか」
そうして、空間が歪み、四人の姿はこの場所から消え去った。
切嗣さん、マジ外道!
ホテル爆破するくらいですから、サーヴァントを人間爆弾にするのに全く躊躇いはありませんでした。ついでに聖杯起動の為のエネルギー源も得ると言う。敵を屠り、ライダーを再利用し、更に大聖杯を復活させる一石三鳥作戦でした。
如何でも良い後日談ですが、両キョウカイの工作でライダーの自爆後は小型隕石の落下と言うことになりました。扱いとしては、隕石が爆発したとされるロシアの森みたいな雰囲気です。