神父と聖杯戦争   作:サイトー

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 エクステラの新作情報楽しみです。


83.決戦会合

「―――さて、会議を始めます」

 

 衛宮邸の居間。士郎と凛は勿論、その他諸々合計12名が集っていた。流石に全員がテーブルの前に置かれた座布団に座れるほど広くはなく、壁に寄り掛かっていたり、マスターの背後で待機している者もいた。またこの場には決戦に対する全戦力が集まっており、士人と綾子が痴話喧嘩をしている間、士郎は既に治癒と魔術回路の調整を施されて全快し、他の面々も肉体と霊体の回復は完了している。

 

「…………」

 

「…………」

 

「それとそこの二人、空気が悪いんだか桃色なんだか意味不明な雰囲気にならないように」

 

 しかし、様子がおかしい二人がいた。綾子と士人である。不気味なほど機嫌が良い神父も気色悪いが、落ち込んで鬱になっているのか嬉しくて楽しいのか今一分かり難い綾子も不審者そのもの。

 

「……いや、それどういうこと、遠坂?」

 

「はっ……それ、言わないとダメ、美綴さん?」

 

「何でも無いです、遠坂様」

 

「分かれば良いのよ、分かれば……―――ケ」

 

「―――え、なんかアタシ、遠坂に気に食わないことでもした……?」

 

 実は隠れて綾子と士人の様子を見ていた凛は、かなり胸焼け気味だった。序でに言えば、たまたま凛と遭遇したアサシンも一緒に覗き見していた。知人同士のああ言うシーンは反応に困りつつ、何故こんなにも他人の恋愛事情を冷やかすのは愉しいのか。仮面で外からは分からないだろうが、アサシンなど人格に物凄く似合わないニヤニヤ顔で、契約したマスターが追い詰められている光景を愉しんでいた。やはりこの聖杯戦争、召喚されるサーヴァントとマスターは共通点が多いのだろう。

 ……士人が黙っているのは、そんな凛とアサシンの邪悪な気配を察してのこと。

 これが愉悦なのね、と凛は独り納得しつつ、独裁者としての気配を出して会議を進めた。

 

「皆、休憩はもう十分でしょうし、今からは同盟の確認と、これからすべきことの確認をするから」

 

「すまん、質問があるんだけど」

 

「まぁ、今なら良いでしょう。質問を許します、殺人貴(デス)

 

 何時の間にか眼鏡を掛けた凛が、アヴェンジャーを見ながら特に意味もなく優雅に紅茶を飲みながら微笑んだ。

 

「あー、アヴェンジャーって呼んで欲しんだけど……ま、いいや。

 オレとしては同盟の確認よりも先に、そこの見慣れない女性を出来れば早目に紹介して欲しい」

 

「……あぁ、彼女。彼女の名前は沙条綾香よ。賃金払って霊薬準備させておいたのよ」

 

「どうも、殺人貴さん。貴方のとんでもない悪名は色々と聞いてます。死徒殺しとか、真祖誑しとか。報酬さえあれば、作れる物を作って上げますから」

 

 凛と同じく眼鏡が可愛らしい女性が、地味に蠱惑的な微笑みを浮かべていた。言うなれば、本性を隠す魔女のような雰囲気だ。

 

「真祖誑しって噂は確実におまえが流したな、神父……神父? おい、笑ってないでなんか言えよ。俺がおまえの言葉に逆らって面白くない死に方をしたからと、嫌がらせにそんな噂を流したのか?」

 

「すまんな。この身は神に仕える敬虔な聖職者。嘘を付く訳にはいかんのだよ。それにほら、お前が先生と慕う魔法使いも昔は男に首輪を付けてペットにし、性的に弄んで酒池肉林の宴を開いていたと聞く。あの人形師が言っていたので、そう間違ってはいないだろう。昔、男をペットにしていた噂を人形師から聞いたと魔法使い本人から聞いた時、図星を突かれたように動揺していたのも事実であるしな。

 となれば、師弟揃って変態的噂話が流れ出るのも致し方なし。しかりと、噂は噂として無辜の怪物が付くようにしてやろう」

 

「貴様―――その魂、極彩と散るがいい。

 毒々しい輝きならば、誘蛾の役割は果たせるだろう……!」

 

「ほう、やると言うなら構わんが。

 だが出来るなら―――俺だけを憎悪してその命、燃え輝くと良い……!」

 

「―――シャラップ!」

 

 早撃ちガンマンの如き超高速ガンド撃ち。一工程も無詠唱も超え、もはや条件反射の領域。凛の真っ黒ビームがアヴェンジャーと士人の二人を襲った。痛い。

 

「なんて素早いガンドブッパ……―――オレじゃなきゃ、見逃しちゃうぜ」

 

「……いや。何だかんだで此処に居る全員、あれ程度なら反応は出来ると私は思うのだがね、ダン」

 

「お前は結構お茶目な性格している癖に、なんで微妙に空気が読めないんだ。エミヤ、そんなんだから協会生活でも無自覚に女魔術師を惚れさせまくって、遠坂凛が激怒するってパターンになるんだぜ。

 お前ってあれだろ、危機から女性を助けてそのまま……って王道パターン、何度かあるんだろう?」

 

「………………」

 

「沈黙は金だけどよ。そりゃ悪手だぜ、正義の味方」

 

「―――そこもシャラップガンド!」

 

 ビーム直撃。ダンと士郎が机に沈む。まぁ、アンリ・マユの泥沼を泳いで渡れるようなメンタルの持ち主達なので、ガンド程度の呪詛は気合いで防ぐことは出来た……物理的には普通に痛いのだけど。

 

「あんたたちはこれだから! もう本当にこれだから、もう!!」

 

「――――――……」

 

「そこ! 慈愛に満ちた眼で私を見ない様に、特にイリヤ!」

 

 聖女の微笑みとは正にイリヤの笑みだった。こんな役目を遠回りに士人から押し付けられた面倒見の良い凛は、哀れみを越えて慈愛の念にイリヤに与える程にアレだった。

 

「はぁ、はぁ……く! 無駄な体力を使ったわ」

 

「お疲れ様です、凛」

 

「……凄く他人事ね、貴女。それとねぇ、セイバー王様だったんだから、そのカリスマでここの狂人たちを纏めて欲しいんだけど」

 

「嫌です。桜の呪詛とメランドリの傷跡の所為か、カリスマのランクも低下していますので。それにこんな濃い連中を率いるのは、生前死ぬ思いをして纏めた円卓の騎士だけで懲り懲りです」

 

 と言うよりも、実際それに失敗して死んだのがアーサー・ペンドラゴンである。

 

「眼が死んでるわよ、貴女」

 

「ふふ―――思い出は、綺麗な物が残ればいいのです。態々生前のトラウマを自分で抉り返すことも無いでしょう。

 ……反骨の相持ちに命令を聞かせるとか、絶対無理ですから」

 

 荒んだ姿のセイバーをゾクゾクとしながら見ているカレンは、存分に愉悦を味わっていた。その笑みがばれないよう静かにセラ(メイド)が準備した緑茶を飲む……角砂糖五個入りの、カレンオリジナルブレンドに魔改造された緑茶だが。生前、同じ邸宅で住んでいた翡翠(メイド)の梅サンドにも匹敵する光景をギョッとした眼で殺人貴は驚いていたが、魔眼殺しの包帯のおかげで誰にもバレてはいなかった。

 

「―――お前達、少しは真面目に会議をしないか」

 

「おまえが言うのかね、棚上げ神父」

 

 士郎、憤慨。

 

「アンタ、厚顔無恥にも程があるんじゃ」

 

「貴方みたいなのが弟子なんて、遠坂家の恥よ」

 

「兄さん、毎朝ちゃんと鏡を見てますか?」

 

「この腐れ外道が、撃ち殺すぞ」

 

「呆れてものも言えんぞ、マスター」

 

「貴方なんて最低の屑だわ」

 

「なんで知り合いの神職は変態ばっかりなんだ」

 

「人でなしココに極まりだな」

 

「正に言峰」

 

「殴る」

 

 神父の発言に対し、士郎を筆頭に非難が集中するのも当然のこと。

 

「いやはや、この場でまともなのは俺だけか。神父たる自分がしっかりしないとな。この面子で聖杯を破壊し、世界の秩序を守らないといけないとは。

 ……この巷は、相変わらず感動的だ」

 

「まだ言うか、バカ弟子!」

 

「まぁまぁ、遠坂。落ち着いて、凄く落ち着いて」

 

「分かってるわ、綾子。ええ、分かってる分かってる」

 

「遠坂凛―――貴女、もしかして更年期障害なのですか?」

 

「シャー!」

 

「止めてくれ、カレン!」

 

 士郎がカレンに声を思わず荒げるが、その姿を見せてもカレンを喜ばせるだけ。今度は笑みを隠さず緑茶(角砂糖五個入り)をゆったりと飲み、殺人貴(アヴェンジャー)がカレンと言う修道女を密かにずっと戦慄していた。何故、聖堂教会所属の人間は味覚が全員可笑しいのかと、この世の神秘を思い悩む。

 

「……可哀想ですね、凛。士人からリーダー役を押し付けられたばっかりに」

 

 言葉ではそう言いつつ、バゼットは内心では安堵していた。長年何だかんだと付き合いがあるカレンのことはバゼットも理解している。彼女は他人の苦しみも自分の苦しみも喜ぶ破綻者であり、言葉を交わすだけで精神状態が危険な状態になる。そして、凛がリーダー役として纏める連中の一人であり、この程度のキャラの濃さが全く以って普通と来ている。この中では穏健派の衛宮士郎でさえ、一般常識で考えれば普通に超武闘派テロリスト。

 目的の為なら手段を選ばない正義の味方、衛宮士郎。

 生前に騎士王をしていた英霊の剣士、アルトリア・ペンドラゴン。

 戦いと盗みが大好きな強欲の女盗賊、美綴綾子。

 狂った聖杯を司る人造人間、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。

 神代から神造兵器を引き継ぐ伝承保菌者、バゼット・フラガ・マクレミッツ。

 真祖も二十七祖も容易く抹殺する死神、殺人貴。

 悪魔を愛で苦痛を楽しむ被虐霊媒者、カレン・オルテンシア。

 人間と社会を娯楽とする死灰の神父、言峰士人。

 死が生活の一部になった凄腕の殺し屋、アデルバート・ダン。

 歴代首領に呪術を教えていた快楽殺人狂、ハサン・サッバーハ。

 姉が根源接続者の魔薬狂いの魔女、沙条綾香。

 濃かった。どうしようもないレベルで濃過ぎた。凛の目の前に居るのが、そんな11人。カリスマスキルがAランクに至っている王様であろうとも、従がえるのが不可能だった。尤も纏め役の凛も根源到達者の魔法使いにして拳で語る八極拳士であり、魔法に至ってしまったが故にある意味で魔術師を卒業した魔術使いと言う、凄まじく濃いメンバーの一人なのだが。

 

「……うーん、混沌(カオス)。これは酷い、早く何とかしないと」

 

「同感ね。全く、何なのかしらねこれは、どうすれば良いのかしら」

 

 綾子の呟きに同意するイリヤ。だが常識人ぶっているこの二人とて、この場のいる混沌(ヒト)と同類である。

 

「黙れ! うるさい!! シャラーップ!!! この馬鹿阿保間抜けども最初にも言ったけど!? まずは同盟の確認! その後に方針を決める!!

 ―――良いわね?!

 ……はぁ…‥はぁ……はぁ……って、あぁもぅ馬鹿らしい、きっと私が一番馬鹿なんだわ。なんでこんな程度の話し合いでここまで疲れるのよ……―――はぁ、死にそう」

 

「そりゃ遠坂、この殺人貴(アヴェンジャー)がアンタに質問したか―――」

 

「―――お口をチャック! もう無駄話はなし、絶対なし!!」

 

「……オーケー」

 

 鬼の形相ではあるが、その眼光を向けられた綾子からすれば、凛の殺意と表情は二十七祖の殺気さえ思い出してしまうほど禍々しい。

 

「まずは同盟の確認よ。大聖杯抹殺を目的とした同盟をこの場の全員で結びます。これを肯定する者は沈黙すること」

 

「「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」」

 

「はい、どうも。この沈黙を以って同盟締結としましょう。では、一時間後にはもう大聖杯が眠る空洞に強襲を掛けるのだけど、それについては―――」

 

「―――オレは爆弾を使うのを提案するぜ。

 あいつら纏めて大聖杯ごと生埋めにし、身動き出来ないところを騎士王の聖剣であの小山ごと全て更地にしちまうのが一番だ」

 

 取り敢えず意見が出たのは、戦争屋以上に過激な殺意を持った殺し屋のダンだった。

 

「無駄だろう。向こうには魔術師殺し―――衛宮切嗣がいる」

 

「ああ。あれ、テメェの親だったな、衛宮。となると、ありきたりな殺戮は無駄になるなぁ」

 

「そうだとも。今までは一箇所に留まらず半ばゲリラに近い戦術を彼らは使っていたが、大聖杯を守るとなればそれ相応の戦略を用意していることだろう。それも、此方の戦力を加味した上で多種多様な戦術を練ることに違いない。

 となれば、我々がセイバーのエクスカリバーによる遠距離砲撃を計画しているのは勿論、爆弾を設置してくるだろうと確信していなくとも、自分が敵側に立つならそうやって自分達を皆殺しにする手段の一つとして思い浮かべる。そう言う虐殺法をしてくるかもしれないと彼は簡単に思い付き、それのカウンターを魔術師殺しは確実に考案して設置してくる」

 

「奴は外道。あの男ならば、その程度の殺戮を手段の一つとして選びます。なら、此方がそれをしたとしても対抗手段として、更なる悪辣な抹殺手段を思い付き皆殺しを狙ってきます。

 ……生前、私はあの傭兵のサーヴァントをしていた経験がある。

 魔術師殺し―――全く、味方でも厄介な男であったが、敵に回せば更に煩わしい鏖殺者です」

 

「加えて俺の親父、言峰綺礼も居る。どう我々を陥れ、殺し、死に様を愉しもうかと喜んでいることだろう。魔術師殺しが好む物理的殺戮だけではなく、精神的な責め苦となる外道なる手段も選択するだろうな。

 人の心を折るような―――例えば、この街に悪神の先兵を送り、冬木の住民の虐殺をすると言ったな。目的を達成するのと同程度に、此方が苦しみ悶える姿を悦楽にするのも熱を入れてくる。誰が人質にされていようとも、心が乱れないようにしなくてはならない。

 ……あの男は俺を育てた神父だからな、本当にしてくるぞ。精神攻撃をしない訳がない」

 

「―――するわね、綺礼なら」

 

「―――しますね、彼なら」

 

 士人の言葉に、綺礼のことを詳しく知る凛とバゼットは肯定した。

 

「ああ、無論のことだが間桐桜と間桐亜璃紗の二人も中々に頭がきれるぞ。特に亜璃紗は他人の心を良く理解出来る娘でな、どんな出来事を起こせば相手が望む反応をするのか、心理的作用全てを行動の計算式に入れてくる。此方が複雑に練り込んだ戦略にすればするほど、容易く瓦解することだろうよ」

 

「……え、何なのその人達。正真正銘の悪魔じゃない。そんなのが相手になると私風情じゃ、魔薬提供以外に役に立たないよ。言峰と遠坂には義理があるか出来る事は手伝うけど、出来ない事は手伝わないよ」

 

「貴女はそれで良いわよ、綾香。戦場に来ても人質にされて哀れな目に合うだけでしょうから」

 

「うん、そうするね。お金の分は働くから」

 

「そうしなさい」

 

 沙条綾香の霊薬は有益で、戦場で負傷した者全員が回復したのはこの魔女の手腕が大きい。それだけでも十分であるが、この会合に参加したのは、魔女の叡智が何か役に立つのじゃないかと凛が考えたからだった。

 

「―――ふむ。確か、大聖杯があるのは巨大空洞だったな」

 

 ある程度話が進み、そこでアサシンはボソリと一人呟く。

 

「どうした、アサシン。何か案でもあるのか?」

 

「ああ。そもそも密室であれば、毒性の気体を生み出せる我が宝具の独壇場だからな。毒を充満されれば、人の命を容易く奪える」

 

「しかし、あそこは広いからな。充満させるには時間が必要だ」

 

「それもあるが……まぁ、あの呪われた魔女に私の宝具は効かんだろうな。物理的な殺傷性は効くが脳を潰さぬ限り蘇生し、毒に犯されようとも呪詛で生命活動を強引に続ける。あの女ならば聖杯で空気中の毒素を泥に吸い込ませ、空気の浄化も出来るだろう。宝具を見せた時点で私の呪術に対する対抗魔術も考え付いている筈だ」

 

「それはまた、私が狩り()ってきた封印指定や、魔術師の死徒が可愛らしく感じられますね。ならば、大聖杯に流れ込んでいる霊脈を逆に利用して、地下から山ごと崩落させてしまうのはどうですかね。

 綾子が契約しているアヴェンジャー、殺人貴が持つ直死の魔眼(宝具)を巧く応用すれば、星の力を殺すことも可能でしょう」

 

「アンタも中々過激だな、マクレミッツ。けど、俺の魔眼で霊脈を途絶えさせても、大聖杯から魔力を地脈に逆流させてしまえば、星の魔力の流れを強引に復活させることも不可能じゃないと思うよ」

 

 真祖を殺す為にはまず、真祖に力を与える星からの供給ラインを断つのが王道だ。生前の経験から、土地殺しも殺人貴は行えることを理解している。結界を土地に張り、陣地を形成して立て籠もる魔術師の類など、殺人貴にとっては身動きの出来ない家畜を嬲り殺しするような、簡単であれど残虐なだけの作業。この宝具の魔眼ならば容易く可能な殺害行為であるが、星にも再生機能がある。幾ら殺そうとも地脈は甦り、桜の方も大聖杯があれば霊脈の蘇生も出来る筈。

 

「――――――もはや、奇襲による正面突破しかないんじゃ……」

 

「Oh、アヤコ……」

 

「言ってしまったな」

 

「それを言ったらお終いですね」

 

「それ言っちゃうのね」

 

「あーあ、言っちまったな」

 

 綾子の一言に総攻撃を始めるが、全員がそれしかないなぁと諦めモードに入っていた。

 

「……えぇー、そう言われてもなぁ。相手が桜ってだけで凄く厄いのに、あの亜璃紗に加えて、アタシも前に資料読んだことあるけど、魔術師殺しでしょ?

 あの男、標的一人殺す為に旅客機に仲間ごとミサイル叩き込んで撃墜するし、この冬木でビルを解体爆破したこともあるらしいじゃん。そんな頭が可笑しい奴の裏をかくって、原爆投下とか、隕石落とすとか、そんなレベルじゃないと無理だよ。

 それに士人の父親も元代行者って話だし、まだ向こうには不死身のバーサーカーがいる。

 そうなると手段は限られるし、ならこっちの有利を生かすのが無難なんだよね。あっちは数が少ないし、戦力自体はこっちが上。聖杯取られてるから総合火力は負けてるけど、セイバーの聖剣があるこっちの方が瞬間火力は高い筈だ」

 

「それだと各々が役目に沿ったスタンドプレイをし、仲間を利用する形で結果的に協力するって雰囲気ね……」

 

「……それで構わないと思うがね。私が最も得意とする戦術は皆が知っての通り、投影を矢にする遠距離狙撃だ。だが、相手が要塞に籠城されてしまうと、その手も使い難い。役目を決めて協力しようにも、あの洞窟に突入するとなれば、誰が誰の相手をし、味方の誰と手を組むかと言う程度の事しか決められん。

 何より大聖杯を覆っている山は、今は本当に要塞化されてしまっている。治癒をして貰った今、戦闘機能自体は万全だが、戦術的には選べる手段を制限されている時点で不完全だ」

 

「まぁ、衛宮の言う通りだな。アタシもあの山を遠目から解析しただけだけど―――呪詛の魔力が染み込んでいたよ。虚数概念を応用した結界術式も至るところに刻まれていたし、あれ多分桜の仕業だね」

 

「ほう。となれば、文字通りあの小山は要塞だ。私のエクスカリバーならば、ただの建物や丘であらば一撃で更地にしてみせよう。だが、大質量の物質に魔力が満たされ、概念的にも強化されているとなれば話は別です。魔力が斬撃を吸収するクッション材となり、物理的破壊力は大幅に低下する。

 ……あの山を崩すのは不可能ではないが、何発必要になるかは未知数ですね」

 

 嘗ての行われた第四次聖杯戦争で、セイバーの聖剣はキャスターが召喚した巨大原生海魔を消滅させた。海魔を倒した後の斬撃の余波を防ぐために、切嗣は船を使って周辺住民に被害が出ないようにクッションにしたことで対処した。つまり魔力を大量に含む海魔を通したことで、聖剣の斬撃は船を破壊して街に被害が出ない程に弱体化していた。本来ならば街を一文字に一刀両断する程の聖剣がだ。

 ……魔力を多量に含む物体とは、それだけである意味で幻想種のような防御力がある。概念的な殺傷能力は兎も角、魔力を魔力で抵抗された分、物理的破壊効果は大幅に減ってしまうものなのだ。つまるところ、地脈のごとき膨大な魔力が込められた山とは、それだけで魔術的な天然要塞であり、その内部の洞窟は外から手出しが出来ない安全地帯。ここまで来ると冬木に核弾頭が落ちて地上全てを焼き払ったとしても、あの洞窟内部は衝撃に揺れる程度で無事であろう。

 

「やはり、要塞化されていましたか。大聖杯を最終防衛ラインと最初から決めていたのでしょう」

 

「厄介ね……ってなると桜のヤツ、洞窟内部に魔術的な罠も仕掛けてるわね」

 

「魔術師殺しによるブービートラップも有るだろうな……」

 

「「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」」

 

「……ま、腹の内はみんな決まってたみたいね―――」

 

 とは言え、話し合う前に結論は半ば出ていた。この段階までくれば搦め手が通じる訳もなく、一点突破に全てを注ぎ込むのが最善だった。

 ……無言になる皆を凛は流し見た。

 全員が言葉にするまでもなく意志を決めていた。これから全てを終わらせると、静かに決めていた。

 

「―――我らはこれより、大聖杯へ強襲を仕掛ける。

 各々の役目は決め、戦闘準備に入りなさい。大聖杯起動までに、第六次聖杯戦争全ての決着を付けるわよ……!」

 

 

◆◆◆

 

 

 洞窟内部での迎撃準備を終えた桜は静かにしていた。だが絶え間ない修行により体得した分割思考によって、脳内では使い魔の羽目蟲による冬木の監視を続けていた。衛宮邸で動きあってから桜は黙り、抜け殻のように監視に専念している。

 

「―――仕掛けて来るなら、力尽くの正面からの奇襲かな」

 

「僕も亜璃紗に賛成だ。相手が搦め手やトラップの類が使えない様に、一つ一つ攻める側に優位な部分の塗り潰しておいた。

 ……まぁ、勘違いして罠に嵌めようとして来ても、敵の策を逆手にとれば大聖杯の成就は確実だ」

 

「良く言う。魔術回路を破壊して戦闘不能にする気はあるけど、人間は誰も殺す気はない癖に。まぁ―――その我が儘を良しとしたからの、間桐との契約ですけど。

 なのに、酷いものです。自分の遺伝子情報で作成されたアインツベルンの人形は、本当に容赦なく殺しましたね」

 

「あれは残骸、ただの魔術師だ。聖杯を諦めさせる説得は出来ない。所詮、正義の味方ならざる僕に出来るのは―――いずれ世界を滅ぼす我が娘を、殺す事だけだった」

 

「そ。まぁ、あれ程渇望していた肉親に殺されたんだ。その死が悲惨だとしても、無価値じゃないと信じましょ」

 

 当然のことだが、無条件で間桐桜と衛宮切嗣と言峰綺礼は契約を結んだ訳ではない。彼らには彼らの目的があり、その在り様がある。

 ……単純な話、切嗣はアインツベルンを滅ぼさねばならなかった。

 彼らがもう二度と生み出せないと結論を出した筈の至高の最終傑作(ホムンクルス)、イリヤスフィールが聖杯戦争に敗北することで絶望に堕ちれば良かった。そうすれば彼らはもう何も果たせず、魔術と魔法に裏切られ、滅び枯れていた。全ての人造人間が静かに機能を停止し、アインツベルンの名は消え去った筈だった。

 つまり―――とある未来における真実を、世界と契約した切嗣は与えられていた。

 だがアインツベルンは諦めなかった、何故か。言峰士人による暗躍だ。あの男は第六次聖杯戦を引き起こす為に、アインツベルンを渇望の狂乱に陥れていた。当主ユーブスタクハイトの精神を抉り、人間のように発狂させ、望みを諦められない狂気を与えていた。呪詛と説法により、当主の魂はアンリ・マユのソレに汚染されていた。本当ならイリヤスフィールの失敗により諦観を得られる筈だったのに、城に残ったアインツベルン最期の錬金術師(オートマタ)は、自分の意志で更なる“人造聖杯(イリヤスフィールとなる者)”を目指して足掻いた。

 死ぬのなら、滅び去るなら―――その最期まで、理想を目指して苦しみ続けると。

 その果てに生み出されたのはエルナスフィールと、その従者であるツェツェーリエ。手に入れた英霊の触媒は第六次聖杯戦争開催地における最高の知名度を誇る魔術師(キャスター)であり、日本最強の陰陽師、安倍晴明。

 彼女らの優勝は確実だった―――大聖杯は確実に根源へ到達した。しかし、失敗すれば冬木に真エーテルが溢れ、世界は神代に逆戻りする可能性がある。無論、キャスターならば、そんな間抜けな失敗はしないだろう。抑止を掻い潜り、人理を刺激せず、聖杯の魔術理論と第三魔法の魔術基盤を極めることも容易だっただろう。それをアイツベルンはキャスターとの間に結んだ契約により手に入れ、その役目を終わらせ、第三魔法を独占したまま人理の終わりまで―――否、人類が滅び去ろうとも永遠の人間(ホムンクルス)は鋼の大地の上で存在し続けたことだろう。

 しかし、キャスターの手で覚醒した大聖杯は完全なるオーパーツ。

 魔術協会との全面戦争は確実。聖堂教会とも開戦し、あらゆる魔術結社が大聖杯を目指す。言わば、個人が核兵器を所有する以上に世界にとって危機的状況。

 衛宮切嗣は衛宮切嗣で在るが故に―――世界が滅びる可能性を見逃せなかった。とは言え、大聖杯暴走による世界滅亡の危機と言う点で言えば、間桐もまた切嗣にとっては同じ事なのだが。

 

「ふーん、なるほど。それが人理か……」

 

 そして、亜璃紗はその全てを理解していた。心を読むとは、魂を理解することに等しい行いだった。英霊の、それも守護者の魂は問答無用で最高だった。

 

「……聖杯も、まぁ罪深い。嫌な世界だ。まぁ、衛宮さんは好きにして下さい。心変わりなくやりたいようにやってくれれば、こっちに文句も何もないな」

 

 哀れなものだと亜璃紗は哂った。衛宮切嗣がこの様となれば、座にこれから死後に昇るエミヤも、ミツヅリも、コトミネも、さぞ愉快な心で苦悩していることだろう。

 とはいえ、この魔術師殺しが自分達にとって危険なのは間違いない。

 桜の願望は叶えさえすれば剪定は確実だろうが、今直ぐに世界が滅びることもない。むしろ、自然に星と人類が滅びるまでに剪定事象となることもない。何よりも大聖杯は間桐桜の心象風景に再誕し、根源の渦は彼女の中に封じられる。ある意味では、生贄を差し出す人身御供による大聖杯の解体とも言え、臨時的な対処としては次善策とも言える手段だった。

 ……地獄が溢れて滅びが訪れるなら、その時はその時で新たな守護者が派遣されることだろう。

 科学技術が発展し、文明が進化しようとも世界はまだまだ破滅に満ちている。月世界に眠る白い巨人、水晶渓谷で絶滅を待つ大蜘蛛、真祖による蘇生を企む月の吸血鬼、復活が迫る闇の六王権、女神の権能に至る根源接続者、知性体を喰らう快楽の獣、神殿に佇む魔神の支配者―――と、物理法則で星が運営される現代だろうと、あっさりと滅び消え、剪定される可能性は腐る程。間桐桜の地獄など、良くある世界滅亡の危機に過ぎない。全てを監視なくてはならない抑止力からすれば、人類が滅び始める直前から動き出すしかないのかもしれない。

 

「――――――来ましたか。

 亜璃紗、準備を。切嗣さんは手筈通りに。貴方は綺礼さんの方も頼みますよ」

 

 大望成就の時。勝てば理の支配者となり、負ければ魂が無価値に還る。

 

「了解した。作戦を開始する」

 

 切嗣の行動は素早く、既に迎撃体勢に入った。もう綺礼と同じくこの場所にはおらず、決めておいた役割に従い、倒すべき相手を誘い込む準備を始める。

 

「うん。じゃ、始めるよ」

 

「ええ、お願いします」

 

 亜璃紗は薄気味悪く笑った。キャスターが死んで聖杯に吸収出来たことで、更に面白い玩具が作れた。戦争の流れが確実に自分達へ流れ込んでおり、主導権は此方が殆んど握っている実感があった。

 

「令呪、装填。

 指令、伝達。

 ―――黒騎使徒、機動準備開始」




















 とのことで、第六次聖杯戦争の真の黒幕はやっぱり士人でした。主人公からすれば自分が整えた舞台の上で、自分が用意した聖杯を皆に求めさせ、自分が準備した登場人物達が聖杯獲得を目指して殺し合うバトルロワイアル。あの神父からすれば愉しくない訳がなく、それを知っていたアインツベルンのエルナと協力者の桜にとっては、士人を利用して参加した茶番劇となります。
 双方共に最終決戦の準備を終わらせてますので、後は殺し合うだけです。

 しかし、水着鯖手は数騎しか揃わなかった。手に入れても育てられないのですけど。
 自分はFGO、心が折れた青ニート系無課金初期マスター勢ですので、ストーリーに追い付くだけで精一杯です。貧乏人は貧乏プレイしか出来ぬのです。手に入ったそこそこ強い鯖をある程度育てて、後は令呪と詫び石で敵をごり押しで駆逐してやるとポチポチする脳死亡者プレイ。
 魔界転生が好きな自分は、Fateで思いっ切り魔界転生するっぽい侍同士の果し合いがメインかもしれない剣豪勝負が楽しみで仕方がない。天草が剣豪召喚してたら、本当に魔界転生ですけど。

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