しのぶ☆ゴット 【神物語】   作:TAINZ

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しのぶ☆ゴット -08-

          ☆

 

 

神憑(かみがか)りじゃな』

 

 

マイルームである、【ひたぎ】達の女子寮から我が愛しの男子寮へ帰って来た。

 

部屋に入ると同時に現れた【忍】は終始笑い転げている、そしてひとしきり笑い終えた【忍】の第一声が「神憑り」である。

 

 

『なんだーそれは? いまどきの神ってるとか言うやつじゃ無いよな』

 

『このたわけが、うぬから聞いておいて茶化すんじゃったら儂はもー答えてやらん』

 

 

さて、女子寮での経緯を語る必要性は無いのかも知れない、だがこうして【忍】が笑い転げている以上、簡易的にだが説明せざる得まい、

 

結論から言おう…、僕はゴスロリを脱ぎ【ひたぎ】と【夢呼】同様に下着姿になった…、

 

そこまでの展開を予想していたとは思えないが、このチートな金髪幼女は…、僕を含めた3人が絶句するモノを用意していたのだ…、

 

服を脱ぐまで気付かなかったのは、僕が男でありブラジャーというものを着けたことが無いのだから許して欲しい、つまり上半身裸である…、

 

そして、ゴスロリファッションが似合う僕の身体はと言えば…ロリだった、それはそれはもう…ほんのりとささやかな(ふく)らみの胸、現在の【忍】と比べても甲乙付けがたい胸を(さら)した、

 

さらには…パンティである…、

 

本当にやってくれたな【忍】さんよー、

 

大学生の僕に…、こともあろうか…、プーさんイラストのパンティを履かせていたのだ…、

 

それはもう…、いたたまれない空気が生まれたのは言うまでもない、だがその結果・僕は服の着用が許され、その後は妙に優しい対応がなされた訳だが…。

 

 

『別に茶化してる訳じゃないけど、ただ神憑りなんて言葉がどうにもイメージ出来なくてさ』

 

 

まあ結果的には【忍】に助けられたのは事実だからな、ここは穏便(おんびん)に済ませるとしよう。

 

 

『まったく信じられんよ、これが我が主様だと言うんじゃからな・世も末じゃわい、怪異うんぬんゆう前に常識として知っておかなければならんと思うがの、だいたいじゃ・のぶエモーンなんちゅうて甘えた声でいっつも儂に頼ってばかりでちーとも自分で考えようともせんし、そのくせちょこっと外に出ればすーぐトラブルに巻き込まれおる、それも結局は儂が面倒をみるはめになるではないか、この際じゃからハッキリ言うとくがなー、儂は(ぬし)の・それはそれは可愛い奴隷(どれい)ではあるが、メイドでは無いぞー』

 

 

この吸血鬼の成れの果ては、どうにも現在の金髪幼女姿を気に入っているようで、ことある事に自らを可愛いと言いやがる、僕に一般常識うんぬん言うんだったらまずは手本を示しやがれ。

 

 

(あるじ)(つか)えるんだからさ、奴隷もメイドも同じだろう』

 

『かっかかかかかー、バカを言うのも休み休みにしてくれんかの、主様よ・儂との約束を忘れたとは言うまいな、ぬしの言う主に仕えるというのは確かにメイドじゃな、しかし奴隷というのは主に支配されとる者のことじゃぞ』

 

『嫌な言い方をするな、僕は忍を奴隷だなんて思ったことは1度も無い』

 

『それはまぁそうじゃろうなー、なんたって儂の場合は奴隷というても、肉・奴隷じゃったなー、主様の幼女好きにも困ったものじゃよ』

 

『止めてくれ、これ以上僕の性癖に対して有らぬレッテルが貼られたらどうする、僕はいたってノーマルだ! 話をややこしくするんじゃない』

 

『そぉむきに成らずともよいではないか、可愛いものを好きになるのは可笑(おか)しいことでは無いのじゃからな』

 

『たんに可愛いものが好きだって事なら否定しないよ、むしろそれを隠す方がよっぽどヤバい奴って感じだしな、ただ僕が言いたいのは奴隷っていう言葉の響きが…』

 

『して!! 何の話じゃったかのー』

 

 

話を切りやがったー、

 

 

『………』

 

 

とは言え、僕に弁明をさせずに頬杖を付く金髪幼女の姿は確かに可愛いのだが…、

 

そんな僕の視線に対して【忍】はつまらなそうにため息をつく、一言突っ込みを入れてこの不遜(ふそん)な態度を(もてあそ)んでやりたいところだが、それでは何時までたっても話が先に進まない、本題に入るとしよう。

 

 

『さっきも聞いたけど、ひたぎのルームメイトの夢呼についてどう思うって話だ』

 

『さっきも言うたが、神憑りじゃよ』

 

『だから神憑りってのが分からないって事だろ』

 

『………』

 

 

下から見上げる金髪幼女の視線はジットリ(すが)められていた…、仕方ない考えてみるか…。

 

 

『かみがかり…神が掛かる?』

 

『ひっ掛かるんで無いわ、憑依(ひょうい)するのじゃ』

 

『憑依って怪異じゃ有るまいし、相手は神様だろー、表現が間違ってねーか』

 

『間違っておらぬ、神なんてもんは怪異と何も変わりはせぬ』

 

『おいおいそんなこと断言しちゃって大丈夫かよ…』

 

『何をうろたえとるんじゃ、神も・天使も・悪魔も・鬼もみんな同じく怪異じゃよ、それらを決めたのだって人間なんじゃしな、自分に都合の善いモノは神に・都合の悪いモノは悪魔にっての』

 

『その解釈だったら神憑りと悪魔憑きは同じって事になんねーか』

 

『基本的には一緒じゃな、しかしな神憑りの場合は形式に(のっと)り特定のモノを降ろすのに対し、悪魔憑きの場合は儀式などせんでも人間の心が暗闇(クラヤミ)を求めておれば勝手に()みつく、しかしまぁ・ここでは似て非なるモノとしておくかの』

 

『似て非なるものね…、夢呼は神憑りってやつなんだろ、じゃあ何かしらの儀式が必要なんだよな、夢呼の言うように歴史が好きで卑弥呼の真似をしたってだけで神憑りなんて起こるもんなのか?』

 

『さあの、起こるか起らぬかなんてものは儂には分からんよ、儂はただ聞いたことを言うとるだけじゃからな、しかしこれだけは言えるぞ、才無き者には神憑りは起こらんよ』

 

『夢呼には神憑りを起こせる才能があるって事か?』

 

『あやつはシャーマンの末裔(まつえい)ってところかの』

 

 

シャーマン…、シャーマニズム…、たしか霊魂を自分にとり付かせることで霊界とコンタクトする宗教があったっけ、日本だと北海道のアイヌとか・沖縄のユタ…、

 

 

『いや待てよ…、日本を代表するシャーマンっていったら…、魏志倭人伝(ぎしわじんでん)に登場する鬼道を操る邪馬台国の女王…卑弥呼じゃないかー』

 

『なーんじゃ今頃気付いたようじゃの、本人もそぉ名乗っておったではないか』

 

 

当然のように言ってんじゃねー、誰がそんな伝説上の人名を鵜呑(うの)みにできるっていうんだ…、でも…、まさか…、

 

 

『まさか…本物だなんて言わないよな…』

 

『儂だって卑弥呼に会ったことは無いからの、本物か偽物かなど分からん、じゃがな…あやつに憑依しとったモノは…、まぁよい・お前様の話が先じゃ、あやつの占いとやらで何を見てきたのじゃ』

 

『僕が見てきたモノ…ね、400年前の戦国時代と呼ばれる日本だったよ、そしてお前が…キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードが初来日した時であり、キスショットと直政君が出会った場面だったよ』

 

『なーんじゃあ主様よ、寝ても・覚めても・現在も・未来もいっつも儂と居るというのに、なんとも過去に行ってまで儂に会おうとはのー、さすがにこれはどうなんじゃー』

 

 

うん? 【忍】のやつ目を細めてニヤついてるが…、

 

 

『どうって言われても、僕はただ眺めているだけだからなー』

 

『なおのこと悪いのではないか、お前様が自覚して400年前の儂に会いに行く分には問題ないの、じゃが・無自覚のまま過去を彷徨(うろつ)いたあげくに儂と会ったというのはのぉ』

 

『なにかまずいことでも有るのか?』

 

『別にまずいことはないの、ただなんと言うかのー、戦場ヶ原ひたぎじゃったか、さすがにあやつを不憫(ふびん)に思うぞ』

 

『どうしてひたぎが不憫になるんだ』

 

(とぼ)けんでも良いではないか、のお・主さまよ』

 

『僕は何も惚けてなんかいないぜ』

 

『はっきり言うたらどうじゃ、主は無意識のうちに儂を求めてしまうのじゃろう』

 

 

なるほど、僕が【忍】を無意識に求めてるって言いたいんだな、でも残念だったな、

 

 

『いや、それについてはちょっと違うと思うぜ』

 

『恥ずかしがらんでも良いではないか、儂は主さまをストーカーなんぞと拒絶したりせんから安心せい』

 

 

ペアリングしてるんだから、常に一緒に居るのはあたり前だろ、

 

 

『夢呼の占いだけど、400年前に(さかのぼ)っていきながら最初に会ったのは直政君の方だった、キスショットが現れたのは1番古い場面からは数カ月経っていだぜ、無意識に僕が忍を追いかけているとは言えないだろ』

 

『見苦しい言い訳じゃな、そもそも縁もゆかりも無いお前様がよ、なにゆえ井伊直政と会うというのじゃ』

 

『そのことなんだけどさー、僕はあまり前世の記憶とか、生まれ変わりの話っていうのはどちらかというと否定的だったんだけど、夢呼は僕の事を見た瞬間に赤鬼って言ったんだ、井伊直政っていえば徳川四天王のひとりで、赤い甲冑(かっちゅう)を着けていたし、兜には鬼の角を付けていて井伊の赤鬼って呼ばれてただろ、やっぱりこれってさー・僕の前世が井伊直政ってことに成るんじゃないかって思うんだよな』

 

 

今まで僕をからかう様に笑っていた【忍】が急に押し(だま)り、両手と両足を組んで固まってしまう、

 

 

『直政君が僕の前世だったって事になると、僕と忍の出会っていうのも必然だったのかなって思えるよな』

 

 

金髪幼女が瞑目(めいもく)してしまっては多少の罪悪感も出るじゃねーかよ、

 

 

『忍が僕を眷属(けんぞく)にしたのだって、もしかしたら直政君の面影みたいなのを感じてだったりしたのか?』

 

『400年を超えた因縁ってやつかー、なかなかロマンチックな話しじゃないかー、もっと早く言ってくれれば良いのに、なー忍』

 

五月蠅(うるさ)いわ!! 考え事しとる間ぐらい静かに出来んのか!!』

 

 

金髪幼女に怒鳴られた。

 

 

『やはりそうじゃったか、あやつに憑依しとった神はそのての(たぐい)なのじゃな…、う~む…』

 

『やはりってことは、僕の前世は直政君で間違いないってことなのか』

 

『それは無いの、先日も言うたが・この国の者であれば直政と同類の遺伝子情報を持った者は何百万と居るじゃろう、その中で特定の個人がだれ(それ)の前世などというのは片腹痛いわ、それに立証することなど不可能であろう、単なる思い込みの強い痛い人物となるの』

 

 

痛い人…かよ、ロマンチックだなんて言っちまって…、これじゃあ僕が・前世を夢見るロマンチックな痛い人、笑えないぜ。

 

 

『じゃあ僕が直政君を見続けてたのってどうしてなんだ?』

 

『それは儂の記憶じゃな』

 

『お前の記憶…、それっておかしくないか? 僕が直政君を見ていたのはキスショットが現れる前からなんだぜ』

 

『主様よ、儂はこの国の言葉を理解する為に直政の記憶を覗いとる、つまり直政が儂と会う前の記憶も儂にはのこっとるって訳じゃな』

 

『そうかエナジードレインのついでに直政君の記憶も取り込んでたな、だとしたら…夢呼の占いって僕とはまったく関係無いってことか?』

 

 

あの溯行が僕に無関係とは到底思えないが、【忍】の言う様に僕には立証する証拠は何も無いのも事実である、それよりも…ここで【忍】に押し切られるということは、僕は痛いロマンチストだという新たなレッテルが貼られるではないか、それだけは阻止(そし)したい。

 

 

『お前様よ、こそばゆい事を言うて恥ずかしいのは分かる』

 

『そんなことは分からなくていい…』

 

『儂はお前様の事ならエナジードレインなどせんでも、何を思っているかくらい分かるぞ』

 

『僕は大半の女子の考えていることが分からないよ』

 

『ぱないの』

 

 

言葉の意味は分からないが、残念な者を見る顔で言うのだからそのままの意味なんだろうな…、

 

 

『結局お前は何が言いたいんだよ』

 

『人は態度や表情、そして言葉を駆使(くし)して感情や情報を伝えるもんじゃな』

 

『まー直接会って話す場合はそうなるよな、今時はスマホでの遣り取りの方が多いから、直接電話で話すよりもSNSを活用する方が増えたけど』

 

『そんなもので感情が伝わるとは思えんがの、まーよい、儂がお前様の気持ちが分かるというたのわじゃ、こうして会って話とるからじゃろ、表情を見て考えておることを()み取っておる、こんなことは赤ん坊でもしとることなんじゃから分からんと言う方が分からん』

 

『悪かったな、僕は人の感情に(にぶ)いんだよ』

 

『まったくじゃー、儂がどれだけ苦心しておると思ってるんじゃ、お前様が人間らしく居れるようにと血もほんのちょこっとしか吸わんし、空腹を満たす為のドーナツじゃって1日に10個までしか食べとらんし、夜行性の儂は夜に話たいのにお前様はすぐに寝てしまうし、気持ち良さそうに寝てる顔を何度踏みつけても一向に起きんし、退屈じゃから添い寝をすれば儂を抱き枕にしよるしー』

 

 

これが(よわい)600歳の伝説の吸血鬼だってんだから、単なる駄々(だだ)っ子じゃねーかよ…、だが【忍】がこんな風になったのは僕の責任だからな、

 

 

『悪かったよ、もう少し夜も付き合ってやるから許してくれ』

 

『今日からドーナツ20個で手を打つかの』

 

『そっちかよー』

 

『それでじゃ、意思伝達というのは視覚と聴覚によって行うのが通常だということは言うまでも無いな、その情報は脳へと伝わり蓄積(ちくせき)され、過去のデータと比較することで答えを出す、そのほとんどが無意識のうちにやっとることじゃから分かりづらいがの』

 

 

前ぶれ無しに話を代えんじゃねー、お前の話が1番分かりづらいよ。

 

 

『神憑りの娘に憑いとる神っていうのはじゃな、人が脳に記憶しとる情報をそのまま見ることが出来るモノなんじゃよ、人と言うたが・儂の記憶も見たのじゃから、怪異の記憶も見れるし、土地や時代の記憶も見れるのかもしれぬがな』

 

 

待て待て、余計に分かりづらくなってるぞ、

 

 

『さっきお前様は、直政が自分の前世じゃと勘違いしとったな、そういうことはまま有るのじゃよ、波長が合うというのかの、シャーマンではなくとも(まれ)に霊界と通じることがある、残留思念と言っておったか、人がいまわの際に現世に残す思念のことなんじゃが、それが映像として見えることがある』

 

『あーそれは聞いたことがある、たしか3歳くらいから小学生に入る頃の子供に起こりやすいってやつだよな、自分の前世は誰で・何処に住んでたとか・どういう死に方をしたとかって話しだすとか』

 

『自我の確立しとらん子供がそういった映像を見ると自分の前世だと思うんじゃよ、ある程度の大人であれば判別するのじゃが、おかしいのぉ・お前様はなにゆえ勘違いしたのかのぉ』

 

 

楽しそうに顔を覗き込むんじゃねー。

 

 

『冗談じゃよ、しかしなオカルト好きにとって、それらは神秘体験として積極的に欲する(やから)も居る、その場合は神憑りの娘の力は絶大じゃな』

 

『ちょっと待ってくれ…、夢呼の占いで僕が見た映像が忍の記憶だということは理解した、でもあの映像は僕と忍がペアリングしているから見れたんだろ』

 

『はずれじゃな、儂の記憶を見つつ、その記憶を映像としてお前様に見せたのは・あの神憑りの娘じゃよ』

 

 

なんだよソレ…、記憶を映像として見れるってだけでもヤバいのに…、他人に別の記憶を見せることが出来るとか…、

 

 

『ウソだろ、そんなことが出来るんだったら隠し事なんか何も出来ないじゃないか』

 

『まぁ聞け主様よ、あれはそんなに悪いモノでは無いよ、しかし使い方しだいではもっとも危険なモノであるのも間違いないがの』

 

 

【忍】の話を要約するとこうだった。

 

【忍】が以前【忍野】から聞いた話の受け売りだそうだが、まず夢呼に憑依している神についてだ、名前は「天ノ目」と書いて「アマノメ」と言い、古来より日本では森羅万象を見渡すことの出来るモノとして崇められていた、偶像(ぐうぞう)としては竜の形で崇拝(すうはい)されることが多く、またその像の目は二つはあまり無くて、一つ目や三つ目が主流だという。

 

人に神憑りした時の能力としては、憑依した人物の知人で有れば…ここで言う知人は知識として知っていればという意味であり、直訳すれば世界中の誰であっても名前さえ分かれば知人である、その知人が例えば地球の裏側に居ても脳のコンタクトは可能であり、映像を読取ることが出来るのだ。

 

今の説明は生者についての能力である、森羅万象を引き合いとすればその片鱗(へんりん)でしかなく、【忍】の推測だが「アマノメ」の能力は生者も死者も・現在も過去も一切関係なく、おそらく未来すらも見ることが出来ると考えられる。

 

このことだけを聞けば、チート過ぎるこの能力(スキル)は絶対無敵だと思えるし畏怖(いふ)感を覚えるのだが、大きすぎる力は諸刃(もろは)の剣であり、使えば使うだけ自身を傷付けてしまうと言う。

 

 

『のぉ主様よ、常日頃から他人の記憶を見続けるってのはどんな感覚なんじゃろな』

 

『それはまー、興味がある相手なら楽しいんじゃないか』

 

『儂はそうは思わんがの、興味がある相手こそ覗いてはならぬのでないか』

 

『そうなのか?』

 

『ある程度成長してれば自我もあり自分と他者の区別も出来よう、そもそも興味があるということは自我を持っている証拠じゃよ、しかしな…』

 

 

【忍】の言い分だが、夢呼の神憑りは儀式によって降ろすというよりも潜在的に神と契約されているいわば天然もので、その理由としては【忍】の目というか吸血鬼である怪異としての目で見ても【夢呼】と「アマノメ」は区別しがたいほどに同調していたこと、それと【夢呼】と【ヒミコ】はまるで別の人格だったことが挙げられた。

 

 

『生まれたての赤子が真っ先に接する他者は誰だろうな』

 

『それは母親だろ』

 

『まー間違いなかろう、その何も知らぬ・自我なんぞが出来ておらぬ赤子がじゃよ、母親の視線でずっと自分を見続けて居るとする、その赤子は自分の事を何者と思うのかの』

 

『赤ん坊は自分の目で母親を見ている、けれどアマノメの力は母親の脳から記憶を映像として見せるって事だよな…、赤ん坊の視覚と聴覚が自分と他者を区別する情報と、母親が赤ん坊である自分を認識する情報が…間逆の情報が同時に入ってくる、つまり自分がダブるってことなのか…』

 

然様(さよう)じゃな、神憑りの娘は赤子の時よりふたつの人格を持っておったのであろうよ』

 

『夢呼とヒミコはやっぱり別の人格なのか…』

 

 

【夢呼】は自分が普通だと強調していた、【夢呼】にとって【ヒミコ】は演じているだけのキャラに過ぎず、ふたりは同一人物なのだと…、たぶん僕は【夢呼】がもっとも気にしている事を…指摘したのだ。

 

 

『そう悔やむでない主様よ、誰が見ても同じ質問をした筈じゃ、それにの・あの娘は人格を分けたことでというか、役割を分けたことで自らを守っておるのじゃからの、本人がどー思おうが必要不可欠だったのでは仕方あるまい』

 

『まーそうだな、言葉に出そうが出すまいが夢呼には僕の考えていることは筒抜けなんだから、後悔なんて今更って感じだよな』

 

『なにをトチ狂ったことを言うとるのじゃお前様、夢呼の方はアマノメの能力は使えんぞ』

 

『なんだってー!!』

 

『さっきから言うとるではないか、あ奴らは確かに同一人物じゃが能力に対しては役割分担しとるとの』

 

 

そんな話は初耳だと思うが…。

 

 

『アマノメの力は諸刃の剣と言うたろ、夢呼が主の人格だったとして寝ても覚めても他者の記憶情報を見せられててはどうじゃ、人格といい精神といい壊れてしまうと思わんか、そこでしゃ・森羅万象あらゆるモノからの情報の(にな)い手が必要不可欠となる、それが道理であろうよ』

 

『そうか、その役目がヒミコってことなんだ』

 

『うむ、おそらくヒミコとしての人格には目的意識は無いのであろう、夢呼が望む時にだけヒミコが現れアマノメを使う、ヒミコが集めた情報に対して夢呼は必要最低限のみしか保存しとらんよ、さもなくば夢呼はとうに人格が崩壊しとるだろうからの』

 

 

能力をセーブしないと生きていけない【夢呼】と【ヒミコ】か、なんだか僕と【忍】の境遇に似ているな。

 

【ひたぎ】が僕を彼女と合わせた理由、たぶんだけど・どこか親近感の湧く【夢呼】と【ヒミコ】、彼女達が抱えた問題を通して僕が出す答を待っているのかもしれないな。

 

 

 


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