仮想世界のソウル 作:のりすもさん
――私は昔を思い出した。そう、不死の旅が始まった頃だったとと記憶している。魔術のまの字も知らず、奇跡とも無縁。唯一出来た剣技さえも今と比べると圧倒的に未熟であったころだ。あの頃の私は、無茶で意地っ張りで、頑固で、矮小で...孤独だった。来る日も来る日も篝火の前で項垂れ、一度歩を進めれば待っているのはいつくるか理解さえ許されない暴力的な『死』。いらぬ強情で、身を切り裂かれ、いらぬ驕りで身を焼かれ。それだというのに物覚えせずただ、孤独に剣を振るうばかり。この旅の無意味さと失われる人間性に身が燻り、まるで影のようにつきまとう闇霊に嘲笑われ。とうとう心が折れ、無気力になり、意味もなく砕いた人の像。粉々になった人の像はまるで己の無気力を表すようで。頭を下げた時に見えたのだ。混沌とした闇に光る、希望が。
私は気付いた。確かに私は孤独ではあったが、しかし、協力することは出来るのだと。私は悔い改めた。白の霊となりて、心強き同じ境遇の者達と化物を狩った。その間柄に言の葉は無用。沈黙こそ、全てのものから忌避された彼らの暗黙下の絶対的な信頼であり、不要に言の葉を喋ることはただ、己の破滅へと繋がるであろう。
だからこそだ。世の中は1人ではないのだと、独りではないのだと。何でも出来ると思っている愚か者に教えてやるのが、不死人としての私の出来ることだろう。
次の朝、宿を早くに出発した騎士達一行はトールバーナに向けて進行していた。途中途中で出会うモンスター達は基本的にはアルゴ達に任せておいて、騎士は昨日と同じようにほぼ盾役に回る。それを何度か繰り返す事でトールバーナへと辿り着く。その間キリトは昨夜の事もあってか少し落ち込んでいたが、この先どうでもいいプライドで死ぬよりかはまだマシであろう。なにせ、死ぬことが許される生者なのだ。その時間は精一杯生き永らえるのが本来の人の営みだろう。
「オ〜何時見てもやっぱしここはいいとこだナァ」
「俺はベータ以来だけど...そうか?」
広がる数々の質素な建造物。草むらと土が占める大地はずっと変わりはないが、行き交う人々の顔少し暗い。軽く聞こえてきた話では死者が出たという。そんな中執り行われる攻略会議。いささか士気に問題があると思われるが、これは私がいたドラングレイグとは比べ物にならない程の協力だ。多少なりの士気の低下は演説により鼓舞するのであろう。
騎士はソウルよりロングソードを取り出し、腰に携えた。これから起こるのは、いわば前哨戦。この世界のボスの強さを推し量る事が出来る唯一無二の好機だ。
初戦の敵には気を抜かない。しっかりと装備を固める事で太刀打ちする事が最も抜いてはならぬものだと騎士は長きに渡ったドラングレイグの旅で思い知らされている。
「...広場はあっちの方ね」
「そうだな、アスナ。そっちで合ってる」
「...え?」
「何で私の名前知ってるの?」
「え、何でってそりゃ...」
「シー君、ちょっとお話があるんだけどサ。いいかイ?」
キリトとフードの者、アスナというらしい女がちょっとしたいざこざによる話し合いを始めようとしたところでアルゴに呼ばれた。一体なんだろうか?
少し離れた場所にあった手頃な段差に腰をかけるとアルゴが『メッセージ』で要件を送信してくる。
『今回、実はキー坊の持ってる剣。それを高値で買おうとしていた奴がいル。本来はこういう情報を三者に話すとひじょーにマズイけど、今回は特別ダ』
『そいつはベータを強く嫌悪してルからもしかするとシー君みたいなイレギュラーを見ると同じ反応をされる確率が高イ。きっと情報を撒いてシー君から武具をかっさらおうとするだろカラ』
『充分に注意するよー二』
騎士はふむと唸る。そういう輩がいるのはしかたあるまい。以前ではある王国に使えていた男、バンホルトも月光の大剣...と思われていた蒼の大剣が欲しければころしてでも奪ってみろと言われた記憶がある。どうでもよい武器を巡った争いならちょっとした武器を渡してしまえばそれで終わる。だが、この世界ではそのちょっとしたが危険という事を知らないはずはない。人の口には戸は立てられぬ...だっただろうか。刀を作った東洋の国にそのような言葉があったはずだ。大半の武器が楔石で強化されている以上、下手に他者へと渡せばこの世界の鍛え方も違えば、武器の説明すらでない。こんな馬鹿げた装備をどこで手に入れたと詰め寄られれば、自分はこの世界の者ではない、これをやるから黙っていてくれなんてと言ってしまえばおしまいだろう。しかし、先程の言葉のように人の口ほど緩いものはない。直ぐに調子に乗ってその事をペラペラと語り出すのは最早騎士が暫くこの街を回っただけでも充分感じ取る事が出来た。
今回のアルゴの話を聞く限り、今回はかなり厳戒に警戒しなければならないだろう。人にもモンスターにも
『了解した。ある程度は考慮して動くとしよう』
「ウム、そんな感じで頼むヨ」
アルゴはニコリと笑って見せた。ドラングレイグに笑顔を見せる者などそうそういなかったので笑顔を向けられるのは久しい。するとアスナに説明を終えたキリトがテクテクとこちらへと歩いてきた。
「おう、終わったカ?」
「あぁ、完璧だ」
事情が何だったかなのかは全く理解し難いが、とにかく事情説明は終わったようだ。アスナは度し難いとしか言いようのない顔向きで、首を捻っていたが、きっと私と一緒でまだこの世界については無知なのであろう。
「そうだ、シー君。オイラは今回の攻略戦には参加しない方針だからそこのところヨロシク!」
「え!?」
なんと、アルゴが参加しないとは。だが、それ以上にキリトが驚いている。アルゴの本職は情報屋だ。決して私やキリトのような戦闘職ではない。ここ数日は私の見る限り情報屋としての仕事を殆ど行っていない。見てないだけであって、実は仕事をしていたのならば大変申し訳ないが、騎士が確認出来たのはせいぜいメッセージ送信をしていた程度であった。今回のアルゴ不参加は少々騎士にとっては情報が手に入りにくくなる点では痛いが、元々あった仕事、情報の先行入手はこの先の敵についても大きなものとなるだろう。そんな簡単に死ぬような相手ではないと知っているが、それでも万が一を考えれば同意せざるを得ない。騎士は黙ってアルゴの言葉を肯定した。
「アルゴ不参加かぁ...シークは...?」
「...」
キリトとアスナが、期待半分、疑惑半分で騎士を見据える。この答えについては最早問われるまでもない。
《参加だ》
キリトはそれによし、と言った具合に頷くと会議は向こうだと大きな広場を指し示す。
「じゃ、アルゴ。情報は手に入り次第教えるよ」
「りょーかい。期待して待っておくヨ」
そういい、キリト達が歩き出すのに習い、騎士も後に続こうとした時、アルゴに背を掴まれた。クルリと振り返ってみると心配するような目で。
「メンバーを頼むヨ。私のいい客もいるんダ」
「だから...任せたヨ?」
騎士はそれに肯定する様に自分を指し示す。
任せろと、言わんばかりに。
「じゃ、オイラはここで。じゃあナ。また後でいい報告待ってるゾ」
そう言ってアルゴも立ち去った。騎士も己の目的を果たす為広場へと足を進めた。
決闘場のようや味気ない広場にせめぎ合うように人が詰め込んでいた。革装備で軽装の者もいれば、鉄で重装備に固めたものもいる。だが、まだまだ駆け出しと言ったところで、しきりに剣を抜き、剣舞もどきを振るう者や、この安全圏内だからと言って気を抜いたのか剣をほっぽり出して横になっているものもいた。騎士はキリト
に盗られる心配はないのか、と問うと肩をすくめて直ぐには盗られないとの返答が返ってきた。
「みんな、よく集まってくれた!」
しばらくの間待っていると広場の中心に目立つ青髪をした、若い青年が現れた。だが、目立つとはいえ他にも特徴的な髪型や髪色をした者は他にもいたので特にこれといって特徴がないが、大きな声に集まった戦士達の視線が一斉に集められる。無論騎士もだ。
「今日は、俺の呼びかけに応じてくれてありがとう!知ってる人もいるかもしれないけど、改めて自己紹介しとくな!俺は《ディアベル》、職業は気持ち的にナイトやってます!」
そんな呼びかけに周りから勇者って言いたいんだろとはやし立てるものやヒューッといった掛け声が飛び交った。そのディアベルという男の装備はいかにも騎士と言わんばかりにカイトシールドにワンハンドソード。よく、お伽話や、武勇伝等に出てきそうな、そんな格好だ。しかし、装備と掛け声で周りの者の心をガッチリと掴む事には成功したようだ。
しかし、騎士には届かなかった。上部だけの協力が時に裏切りをもたらし、崩れる事を知っていたからだ。
騎士の一抹の不安も知らず自称騎士ディアベルの演説は続く。
「さて、こうして最前線で活動している、言わばトッププレイヤーのみんなに集まってもらった理由は、もう言わずもがなだと思うけど...」
ディアベルがつい昨日騎士が訪れた迷宮タワーをビシリと指さす。リーダーの指差しに反応するように民衆は面白いように揃って一同同じ方向へと向ける。キリトもアスナも向いた。しかし、騎士はじっとディアベルという男を見極めていた。信用に価するのか、適切な判断を下す事が出来るのだろうか。頭によぎる情報を一つ一つ己の経験とドラングレイグに跋扈していた不死の化物共を警戒するために鍛えられた第六感で仕分ける。生者は生きるのが当然。たった1人の
騎士は元々人を信用しない。例え信用したとしてもある程度の警戒はしく。これに関してはアルゴだろうが誰だろうが関係ない。それは誰しも裏切る可能性があるからだ。一見好意的な態度で近付いて来たとしてもそれが本当の顔なのかは少し見ただけでは分からない。騎士の中で思い出されるのはペイトという男だった。温厚そうな青年を装っていたが、実際は宝のためなら誰でさえも利用しようとした男だった。ドラングレイグにはそのような人物は1人や2人ではない。一度白霊で共に戦っていたとしても後に闇霊として自分に害をなさんとする者だっている。だからこそ一定の警戒をするのだ。その者が善人であろうと悪人であろうと。
ふと気づくとディアベルの演説が止んでいた。何事だろうかと横目で見るとサボテン頭のいかにも不満だ、という顔で声を上げている者がいた。身のこなしからまだまだ戦いの運びも分かっていない。しかし、威厳と態度は横暴だ、と印象に残る。ディアベルが意見を歓迎する趣旨の言葉を述べるとその男は低い声で名を語る。
「わいは《キバオウ》ってもんや」
なるほど、見た目通りの豪傑そうな名前だ。睨んだ目の矛先は広場にいる者達全てに与えられ、まるで見下すような目線で周りを睨みつける。その眼力に押されたのかヒッと声を上げひ弱そうな男と女子が1歩後ずさった。
この視線は嫌いではないが、あまり好ましいものでもない。騎士は全体でこのような態度を取れる胆力に内心で拍手を送りながら次の言葉を待った。
「こんなにかに五人か十人ワビぃ入れなあかん奴らがおるはずや」
ざわりと、会場がどよめきに包まれた。騎士は片目を瞑りその真意を見出すためにさらなる警戒を敷く。
ディアベルもその言葉の意味が分からず、誰に対してなのかを問いただす。その言葉を聞くなりキバオウは憎悪に塗れた声で高らかに言い放った。
「はっ、決まっとるやろ。今までに死んでいった二千人に、や。奴らが何もかんも独り占めしたから、一ヶ月で二千人も死んでしもたんや!せやろが!!」
会場が凍り付く。まるで事実を突き付けられたかのように。騎士は奴ら、とは言葉の文中から大体察する事が出来た。この世界を前もって体験した者。つまるところベータテスターという集団をさしているのだろう。
騎士の予測は的中し、キバオウはなおも言葉を続け、言い方を変えると独占者が強い武具を手に入れ、知らない者達が武具を無くされたために死んでいったと、大まかな意味で言い張った。
「そいつらに土下座さして、貯め込んだ金やアイテムをこん作戦のために軒並み吐き出してもらわな、パーティメンバーとして命は預けられんし預かれんと、わいはそう言っとるんや!」
騎士はキバオウのその言論を聞いて、心の中から軽蔑、そして呆れた。むしろ、評価していたことすらを恥じる程に。弱い者が死んで、強い者が力を手にする。当たり前だ。ドラングレイグに民衆で手を繋ぎあって笑顔で協力などない。血で血を洗い、奪える者は奪い。時に孤独で戦う者達が白霊として無言で持てる力を出し、『己』のため戦う。そうでもしなければ生き残れない。ただ、地獄を見るだけだからだ。ずっと手を繋いでいる事等騎士には到底理解し難いものであったし、こうまで真っ向から強情な意を述べられては賛同を示す気にもならない。そして何より。相手にだけ利益を差し出させ、自分は何の損害を受けていない。信用というのは犠牲と対価の上で成り立つものだ。それを損なわせてしまっては最早協力などという言葉は生まれない。それこそ烏合の衆そのものだ。
すると集まった民衆からもそうだ、そうだと言う声が上がった。
一度付けられた火が燃え広がるように、小さかった声は爆発するかのように瞬く間に広がった。キリトは自分がその立場のせいか、とてつもなく苦い顔をして、俯き。アスナは群がる愚者の考えを理解出来ないように、忌避の態度で蔑んでいた。騎士も同じく冷たい眼差しで、それを理解し、両目を閉じ、心の底から辟易した。
言葉を交わすことも不要と考えた騎士はソウルの中に集中する。数多の武具、ソウル、そして根源となる火を感じた。その火は希望無き闇夜に焚き付けられた一分の希望のようで。しかし、手を伸ばせば掴むのは空の空間。いや、空すらも掴めないのかもしれない。火はパチパチと燃えていた。では、何が燃えているのか。騎士はさらに自分の中を覗いていく。火はよく見れば騎士が旅の助けにした篝火とよく形が似ていた。錆び付いた得体のしれない剣が突き刺さり、その周りにはへばりつくような混沌とした闇が燃え、代わりに今にも消えそうな火がそこにはあった。骨粉ではない。騎士はその剣へと手をかける。
だが、頭の片隅が焼き付けるような痛みがはしると同時に意識が急浮上する。イメージが砕け、武具も指輪もソウルも消えていく。残るのはただ、一本ささった剣のみ。意識が浮き消える瞬間脳裏に囁き声のようで、嗄れた老婆のような声色で、聞こえたのだ。
『絶望を焚べよ』
はっと意識が戻ると黒い肌をした男とキバオウが何かを言い合っていた。騎士は先程のイメージとソウルと向き合った事により、久しく忘れていた魂を呑み込まんとするそのイメージを思い出す。定まらない意識をハッキリさせるために立ち上がると何故か、キバオウが自分の前にいた。キバオウの身長と騎士の身長差はかなり大きい。騎士はキバオウを見下すとキバオウも負けじと鋭い眼光を送ってくる。騎士が何の用事だろうかとジェスチャーする前にキバオウは言い放った。
「あんた、ベータやろ?何ぼさっとしとん。そのアーマーは誰もつけてひん。つまり、何処かの宝箱からかすめ取ってきたんや!何しれっと混じれとんや!分かっとんやぞ!」
騎士はいわれのない憶測にいい加減に憤りを覚えた。
かなりの賛同者が既にいるようなので、まだ、手はかけない。キバオウが何かをずっと発し続けているが、騎士は耳にするのも鬱陶しくて仕方がないので聞き流す。
それが怒りの琴線に触れたのかさらに激昂し、騎士の上級騎士の鎧を掴み、揺さぶる。だが、騎士の鍛えられた体の筋力の前にその手は鎧を虚しく上下させるだけで何の威圧感もなく、散々化物を狩ってきた騎士からは駄々をこねる
「...おい、あんた。流石にやりすぎだ」
「あんさんもよー見とき!間違いなくこいつがベータであるっちゅー事を今から証明したる!」
極度の興奮状態で黒い肌の男の言葉も聞こえていないようだ。あの自称騎士はディアベルもことの成り行きをじっと見守っている。折角だから正体を少しでも知っておきたいということだろうか?騎士の名が聞いて呆れる。
民衆も興奮したキバオウに釣られ熱狂的な声援を送る。
まるで敵対されたようだ。いや、引っくるめると敵対していると思っていいのだろう。
「いい加減にぃ!せぇ!...ウグッ!?」
騎士はキバオウの首を掴み天高く掲げる。その後は邪魔だと言わんばかりにポイと投げ捨て大きな尻餅をキバオウにつかせる。見ていた観衆も言葉を止め、ディアベルも目を丸くして、騎士の一連の行動に驚いていた。
「えぇ、度胸しとるやないか。そんなら!」
「落ち着こう!みんな!」
一触触発その空気を壊したのはディアベルだった。
「その人については後で討論するとして、今は攻略会議について話そうぜ!俺達は何の為にここに来た!?この不安を取り除くためだろう!?」
「だからそのためにもみんな!」
「勝とうぜ!」
民衆の声は高らかに現れたリーダーによって大きくプラスへと傾けられた。
だが、そんな周りとは裏腹に騎士の気持ちは陰るように暗く沈み込んでいた。
ダクソって侵入するヤツが悪いんじゃなくて侵入されて対応出来ない方が悪いと思うのです。
と、神喰らい誓約が申しております。
ダクソ3のDLCもくるらしいし、急いで書き上げなきゃ。
※追記:私の無知ゆえの多数の間違いを指摘して頂き、この場を借りて感謝いたします。本当にありがとうございます。