仮想世界のソウル   作:のりすもさん

3 / 10
熱:3 /探索へ

さて、あれから書庫にはや一週間篭ったわけだが…

成程、ここはどうやらドラングレイグではないらしい。うすうす気付いてはいたが、どうやら本当に異世界のようだ。名前は何だったか…あぁ、そうだアインクラッドだ。そう、この土地は私の知り得る伝承等はない。

おまけに魔法系統のものが一切存在せず、あるのはソードスキルと呼ばれる剣技のようなものが存在するだけのようだ。それから100層のダンジョン、その一階一階にいる強靭なボス、回復手段は基本的にアイテムのみ…初めて知った時正直な所私でさえもこの世界を作った奴は頭が飛んでいるんじゃないかと感じた程だ。本当、掠れた笑いが出る程に

 

閑話休題。この世界には100層あるダンジョンをクリアしようと動く先鋭隊、通称攻略組と呼ばれる団体がいるそうだ。何故こんな事を急に思ったか。それは私が最初にいた黒鉄宮と呼ばれる建物での会話を思い出して欲しい。

私の記憶さえ正しければ「ベータテスター」とか言う土地名が出ていたはずである。実際は土地名等ではなく、この世界を事前に体験していた者達の総称であったのだ。てっきり勘違いをしていた私は、片っ端からそのベータテスターについて調べた。理由は簡単でこの世界での無知は私にとっては帰れなくなるような致命的な失態になりかねないからだ。ふとここで帰りたいと思った自分に問を抱くが今は割愛する。私が調べた所ベータテスターは前述の攻略組の大半を占めており、この世界に初めて来た者達と確執を起こしているようなのである。しかし、前者は大して問題はない。しかし後者の確執が起きているのは私にとっては大きな問題である。何故なら、私の能力値、はたまたレベルと呼ばれるものは余りにもかけ離れており無駄な闘争を生み出しかねないからだ。私は不死の呪いがかかっている以上、死んでも…

 

まて、今の私が死んだらどこへ私は行くのだろうか?

 

よくよく考えたのならば、死ねば最後に触った篝火、もしくは隙間の洞の遺跡のような場所に転移するのでは…?

こうしてはいられない。一刻も早く試さねば。

 

騎士は宿の代金を支払うと慌しく外へと駆け出した。

成功するかは私にも分からない。しかし、その思い立った時にやらねば気が済まないのは私の悪い癖だ。

 

嘲笑を浮かべた騎士は人気のない場所を探す。

しかしどんな路上でも人はいるようで、思うようにそれを実行する事が出来ない。右往左往と、街の中を稲妻のように駆ける。すると、街の本当に外れの方に屋根と壁で誰からも見えない袋小路を発見する。人はいない、試すのならばいまだ。

 

騎士はソウルから傀儡の短剣を取り出す。この短剣は致命倍率が高いため、騎士が僅かではあったが愛用していたものであった。その短剣を高く掲げ、己の心臓を穿つ。

その瞬間激しい痛みと血が噴き出す感覚に襲われ、不快な感覚に襲われる。噴き出した血は落ちたそばから、ポリゴンになりガラスが割れるような音と共に消えていく。成程、血が噴き出す事から、この世界での私の扱いはやはり中途半端な存在だったようだ。だがこれで終わってくれればこの光景を目にする事もなくなるだろう。短い間ではあったが有意義な時間であった。

 

そのまま騎士は意識を闇に落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冷たい。目を覚まして一番最初に感じた感覚だ。

…やはり黒鉄宮か。

 

期待はそこまで高くなかったが、騎士の試みは見事に失敗したようだ。証拠に私の皮膚はくすんだ緑色になり、内蔵も剥き出しになった亡者となっているからだ。しょうがない、勿体無いが、人の像を使うとしようか。だが皮肉なものだ、孤独となったのに人に頼るとはな…

 

少し笑ってソウルの内側から針金で作られたような人の形をしている像を自らの体に押し当てる。ほのかな温かみと共に体が煙を僅かながら上げ、元の生者の姿へと戻らせる。昔の騎士ならばこのままでも良かったが、今は仮想世界の中におり、人と触れ合っているのだ。最もそんなに話す事はないが、亡者となった私を見れば遅かれ早かれ皆去っていくだろう。これはそうならないための必要最低限の私なりのマナーだ。

 

さて、これから何をしようか。元の世界、ドラングレイグに戻るためには私が考えている手段は後2つ。一つ目はこの仮想世界、アインクラッドを脱出すること。二つ目は篝火による転送。だが、死んでも元に戻ることが出来ない以上はこの確率はかなり薄い。それに篝火もない。生憎、騎士は篝火の作り方等知らぬ。作って転送という都合の良い話には決してならないだろう。…調べ物も殆ど済んだ。

ならばやる事はただ一つのみ。

 

この仮想世界を脱出する。

 

行くか。騎士は黒鉄宮を走り抜けて行った。

余談ではあるが騎士と黒鉄宮の通路ですれ違った数人のプレイヤー曰く、速すぎるとの事だった。

そう、それこそ後にビーターと呼ばれる黒の剣士様よりも速く。

 

 

 

 

うって変わってここは、はじまりの街より外に出たフィールドである。騎士はそこを悠々と歩いていた。…というのは冗談で、極限まで楔石により強化がなされた上級騎士装備込んで警戒しつつ歩いていた。何故、彼が上級騎士装備なのかと言うと先日ベータテスターと呼ばれていた者達が持っていた…アニールブレード?だったか、それがかなりの高難度のクエストをこなさなければならず、新参達にとっては死の危険性があるこのアインクラッドでは生存率上昇のために喉から手が出るほど欲しい物だが、何も情報を知らないまま行くのは危険だと察し、大半のものが躊躇っているのが現状である。

そこでどうだ、アニールブレードを見せびらかしたらそれはそれは大変な妬みや恨みを持たれ、仕舞いには奪われてしまうかもしれない。幸い、この仮想世界には保護機能のようなものがあり、1時間たつか、同じ手に違う武器が握られるまではそのプレイヤーの物である。その状態ならばアイテムを全てをオブジェクトする事で戻るそうだ。

…だが騎士にはそのコマンドがない。つまりは奪われた時点でもう一度奪わい返さなければいけないのである。

それを避けるために敢えて、上級騎士装備を装備する事で周りと同じにしようという考えである。だが、死んでは復活する私の体ではもっと批難を受ける確率を考慮して、強化された上級騎士装備である。シンプルな物理防御ならばその辺りの装備では比べ物にならない程高い。

この階層程度ならば特に苦労する事もないだろう。

ちなみに武器はブロードソード、ほんの僅かばかりの強化されているだけで後は何の変哲もない、それだけである。指輪は怪しまれないように付けていない。

 

そんな事を考えていた騎士に刺客が3体。

青色の毛を纏った豚。確か本にはフレンジーボアと書かれていたはずだ。だがどれも貧弱そうで大した障害にもならない。…そういえばマデューラにもいた気がする。あんな感じの豚が。そうだ、一番最初にあった時は殺されたなぁ。そんなくだらない事を考えているその暇にもフレンジーボアは接近してくる。

 

「ブモオオオォォォッ!」

 

やれやれ、五月蝿い豚達だ。このごろ敵と戦闘してないからか、体がかなり訛っているのがよく分かる。

とは言え、問題無い。騎士は接近してきた一体目のフレンジーボアの頭にブロードソードを突き刺す。そのたった一撃でフレンジーボアの体力はあっという間に消し飛ぶ。だがまだフレンジーボアは2体いる。だがそれでも問題無い。フレンジーボアがポリゴンと化す前に驚くべき速度でフレンジーボアを縦半分に切断し、そのまま横薙ぎにブロードソードを振るう。タイミング良く突っ込んできたフレンジーボア2体は避ける暇もなく、剣の餌食となる。勿論鍛え上げられた直剣と筋力になすすべもなくガラスのようなポリゴンとなり消滅する。ドロップ品は…なかった。

騎士はぶんと1度ブロードソードを振ると腰に収める。

そして考える。

 

ふむ、この程度ならば問題なさそうだ。だが、これはまだ100層あるうちの一層である。つまり上に行けば行くほど敵が強くなって行くわけだが…問題無いだろう。

エスト瓶の残りが心配ではあるが、そこは何とか凌ぎ切るしかない。エスト瓶は不死の者にとっては宝である。

何故ならば、その場で素早く体を癒す飲み物だからだ。騎士はこれに幾度となく救われてきている。

本来は篝火で休むことによりエスト瓶の力は回復するのだが、現在はそれを行うことが出来ない。困ったものだ。

後エスト瓶はデュナシャンドラ戦後で残り10回分。

せめての救いはまだいくつか回復するものがあるということだ。しかし、それでもエスト瓶が自由に使えないのはは痛い。それに武器の耐久力も心配だ。今は買いに買い込んだ修理の光紛があるため事なきを得ているが、流石に100層ともなると、武器を考えて使わねばならない。篝火…こんなにも便利だったとは。無念。

 

そういえば、だが街から出る時にすれ違った者が迷宮区がどうとか言っていたような…この辺りで迷宮なんてあっただろうか?いや、私があまりまだ探索していないからだろう。もしかするとこの仮想世界を脱出する上での重要な話なのかもしれない。ならば暫くはその確率を信じその迷宮区とやらを探してみるか。だがここで問題だ。

…何処へ向かったら良いのだろうか?

 

そんな事を考えている暇にもまたフレンジーボアがポップする。しかし騎士は慌てる事もなく、拳を振り下ろす。

どうやら拳でも騎士の筋力ならば一撃で、フレンジーボアはその体力を蒸発させた。剣を使わずとも倒せるとは。

むぅ、惜しいことをした。何度行った行為か分からないが、騎士は迷宮区を目指し道無き鋼鉄城をある出した。

 

余談ではあるが、騎士には武器の補正値以外のシステム的アシストは一切ない。それは詰まるところソードスキルの一つする使えないということだ。後でわかったことであるが、中途半端なアシストしか受けられない(宿しか確認していないが)故かドロップ品や経験値は得られないようだ。幸いコル、つまりソウルは手に入る。仮想世界である為、幻覚を攻撃しているのと何ら代わりはないはずであるが、なぜ手に入るのだろうか?私はあいてぃーやぱそこんとやらに知識がないため、理由は分からないが、一種の世界ということでソウルが手に入るのかもしれない。だがあくまでも予測の域だが。

 

ふと空、といっても作り物であるがそれを見上げた。

空は残光をあと僅かながら残しつつ、夜へと変貌し始めていた。何卒、夜にはなれているが今は進んでも暗闇があゆために道がわからないので街に戻ろうとも考えたが、かれこれ少なくとも5時間は探索にでかけていたはずだ。戻るにしても遠い。しかたない、今夜はここいらで野宿をとる…といいたいのだが、如何せんここはフィールド。

いつ何処で何が待ち構えているか分からない。騎士は何度も何度も待ち伏せをされ、トラップがあったりと、苦い経験があるが為に野宿をするにあったっては首を素直に縦に降ることは出来ない。…以前ならば篝火で休息をとっていたが…私にとって、火は切っても切っても切り離せないものなのだろうか…。違う。今はそんな事を考えている場合ではない。

 

いっその事、先へ進もうではないか。

 

ふと頭の中に考えが過ぎったが、視界が悪い内は動かないのが鉄則だ。これは私の中の鉄則であり、破った事は多分ない、わけでもない。だが…休めないなら…うぅん…しかし暗闇では…!そうだ!松明で照らせば進めるのでは?

忘れていた便利アイテム松明。休息をしようとも考えたが進んで休んだ方が何倍も安全だ。幸い絶対休息が必要な訳ではない。進むしかないな。

 

騎士は己のポーチから火の蝶を取り出すと中の蝶を掴み、骨粉がまぶされた松明に向かって振り下ろす。その接触で、蝶の体液が空気と反応し燃える。そしてその燃えた体液は骨粉を燃やし、辺りを暖かい純粋な光で照らす。

その明かりを頼りに騎士は草原を駆け出す。とにかく、先来た道よりも反対へ反対へ駆けた。途中、またもやフレンジーボアがいたので素手で殴り対処した。

 

迷宮区とやらも探さねばならぬし、新しい宿を探したいところだ。はてさて、私がドラングレイグへと帰還する日は来るのだろうか…いや、もう二度と帰る事は叶わぬ夢となってしまうのか。…面白い。折角こんな世界へと入ったのだ。もし罠にかけられていようとも、作り出されたものであろうとも、今感じているこの五感は確かに本物である。しっかりと見て、学び、私の知識、技術を精一杯高めようではないか。やってやるさ。

 

騎士はまだ暗いアインクラッド一層の草原エリアを駆けながらもしっかりとその世界を見据えていた。

それに答えるかのように騎士の腰に下げてあったブロートソードが鈍く光っていた。

 

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