仮想世界のソウル 作:のりすもさん
私は…大変なミスを犯してしまった。それも私個人としてはとてつもなく大きく、今後にも響く確率があるかもしれないほどのだ。何か。そうきっかけは些細な事だった。
あれは迷宮区を探す為に走り回っていた時だっただろうか?松明をつけては消して、つけては消して。なくなったら補充して、また外へそれを何度も何度も繰り返した。
彼此2から3週間は一件無駄に見える行為をしていたかもしれない。そのルーチンワークを辞めようかと思っていた矢先の事であった。街など始まりの街位しか知らず、その事からか、3日で帰ってこられるような場所までしか行かなかった私にとある情報、それは嬉しいお知らせと、大変なミスを犯したことに気付く知らせが騎士の耳に入ったのだ。先に嬉しい方からいこう。嬉しいお知らせは迷宮区は見上げれば見えた塔であったのだ。これには騎士も何だそこだったのか、としか言いようがなかったが、しかしこれでルーチンワークから解放されるだろう。ただし、二つ目の知らせはしまったという自責の念に囚われそうになったのを忘れない。…覚えているだろうか?騎士は始めにドラングレイグへ帰還するべく『自殺』した。後はお分かりだろう。そう、ソウルを落としてきているのをすっかり忘れていたのだ。それを思い出させたのは、たまたま松明を補給しようと街に戻ろうとした時に出会った、顔に猫の髭を模したペイントを施した、あー…鼠のアルゴだったろうか?まぁそんなプレイヤーであった。正確にはかなりの勢いで正面から衝突しただけなのだが。(こっぴどく怒られそうになったのだが…私が悪かっただろうか?)何でも腕の立つ情報屋をしていて、金次第でどんな情報も教えてくれるという。何かの縁ということで一つ噂をタダで教えて貰った。いや、正確には私がいつ使っているのを見たのか、火の蝶を要求されたが。しかし、火の蝶のストックはまだまだあるのでタダ同然だろう。そして提供して貰った噂というのががそれだった、という訳だ。それを聞いた時、私は大きく溜息をした。人付き合いの悪い私でも皮肉にも注目される機会を得てしまった。幸い、コルではなくソウルと化しているようで他の者達はとる事ができないようで、取ろうとしても体がスルリとすり抜けてしまうそうだ。
…しかしこれはこれで大問題だ。そんな取ることが出来ない物を軽々と体に収納してしまえば、いらない注目を浴びるだろう。それだけは避けたい。だが、私には他の者の視線を避け尚且回収する方法を知らない。私の持ち合わせる手段としては擬態という手があるものの擬態は完璧ではなく、攻撃されれば解けてしまうという危険もある。又擬態中は走る事は出来ても擬態したその状態で走るので、仮に箱に化けたとして、周りの目から見れば不自然に箱が地面を滑走している不気味な光景が広がるだろう。
…フーム…どうしたものか。
そんな訳で私は今始まりの街の一角にある、食事亭に来ている。本来、不死人となりし者にはソウルにより動いているため、食物は必要ないとされているが、それでも酒等の嗜好品は生者であった時の欲求が働くため、欲する時もある。騎士は酒をあまり飲む方では無いが、嗜む程度ならば良く飲んでいたため時折、今いる古ぼけた外観をした小さな食事亭で酒を取っている。もちろん会計もある…なのに何故今までソウルを落とした事に気づかなかったのだろうか?
現在、メニューの時計によれば夜9時頃。前は知らなかった夜型の者達が一斉にフィールドに飛び出していくのだろう。夜になれば当然視界が悪くなるため松明は必須なのだろうが…皆手には盾や剣または斧といった武器のみを持ち視界確保など二の次といった具合で飛び出していく。
良くいえば勇敢。悪くいえば無謀。自分が言えたことじゃないが止めておいた方が良いと私は考える。
カラン。
騎士は飲んでいた、紫色のワインのようだがワインとは呼べない液体の入ったグラスを傾ける。中には通常では入れない氷、それも黄色の物がグラスと当たり、耳障りの良い音が店の中で反響し、徐々に消えていく。店内には騎士一人と喋らないNPCが1人位しか居ないため、何をやっても音が聞こえる。ほんの少しばかり前は布が擦れる音一つ一つまでをも警戒していたものだが、こうも敵がいないと警戒心が僅かに緩んでしまうのは仕方のないことだろう。
騎士がグラスの液体を仰ぐと同時に珍しく来店者が入る。
見れば、レザープレートを着込んだまだまだ新米の若い容姿の者が2人ノコノコと入ってくる。大体縦4×横7程の大きさしかない店内には充分な客だろう。その客はカウンターに座っていた騎士の後ろにある木製のテーブルに座るやいなや簡単な軽食と騎士が飲んでいたワインのような物を注文する。騎士もワインの中身が無くなったためもう一杯追加。直ぐにオブジェクト化?されたワイン風を一口飲む。後ろからは頼まれた軽食の揚げられたパンのような物をサクサクと噛む音がし、騎士と同じく頼まれたワイン風のグラスを置いた音がよく響いた。そして、一息着くとその2人の者は今日あった事なのかフィールドについて喋り出す。
「ふ~…やっぱ今日も大変だったな。本当にこれがデスゲームだと思うとなぁ…」
「未だに俺は実感沸かねーよ。オープニングのストーリーでした、ちゃんちゃんみたいな話だと思ってる」
あまり盗み聞きは良くはないと思いながらも、どうしても狭い店内なので、勝手に耳に入っていってしまいそちらに意識を集中させてしまう。
「あれだな、ここで死んだ奴は本当は外にもうログアウトしたのかもな」
「そりゃあねぇだろ。なら何で街外れに幽霊の塊見たいなエフェクトが出現してんだよ」
幽霊の塊…?はて、何の事だろうか。フィールドにもそんなようなモンスターは居なかったし、もし仮に私という異なる存在がいる事でドラングレイグからこの世界に術が流れ込んだとしても私の経験上皆ソウル単体では動かず、ソウルが体を動かしている敵しか見なかった。いや、聖壁の都サルヴァにはソウルだけで動く敵がいたが...あれも体なるものはしっかり存在していた。この世界の支配者が
と、騎士が脳内で考えを張り巡らせていると、さらに入店者が現れる。だがその様子は慌ただしく、まるでダルマのように転がっていきそうなくらい全速力であった。
「た、大変だ…!例のアレ!ちゃんとしたアイテムだったらしいぞ!」
「はぁん?どうせ、ガセネタだろう」
「いいや、キバオウよりも先に調べたアルゴって奴が2500コルと引き換えに教えてくれたんだが、どうもちゃんとタグがあるみたいでな。それの名前が…確か…」
「ーーーのソウル」
「何だよ、その名前?カーディナルシステムが逝ってんのか?」
騎士はその手を凍り付かせた。…前半部分では分からなかったが、後半で分かった。間違いない、自分の物だと。
何、有り得ないことではない。そもそも、騎士が自殺したポイントはたまたま人が居なかっただけであって、普段ならば他のVRMMOだけではなく、通常のRPGでお馴染みのアイテム探しをしてああいった路地裏のような場所に人がやってくるのも何ら不思議ではないのだ。
噂が広まるのは早いというが、まさか有名になるのにこんなにも時間も要さないとは。後悔後先たたず、しまった今事ならばもっと慎重に行動すべきであったか。
しかし、これ以上
騎士は足早に身支度を整えると、早急に外へと飛び出していく、今は夜であるので黒く染色された革の装備を頭以外装備すると、更に敏捷を高めるため、バレたら今の状態よりも更に危険が増すが王の戦士の指輪を装着する。この指輪は厳密には敏捷ではなく、装備重量の限界を引き上げるものであるが、結果的に走る速度が上がる事になるので変わりないないだろう。更にもう一つスタミナを底上げする為と更に速さを上げるためにために一匹目の龍の指輪を装着。そして全力疾走で街中を出来るだけ目立たぬよう走り抜ける。生憎、騎士のメニューにはマップが存在しないため手探りで探さねばならないが、前に一度行った場所ならば記憶している。人々の喧騒が夜だというのに絶えないのは良いことだが、裏を返せばそれだけの人数が現場周辺にいるかもしれないという事だ。
ガヤガヤとした喧騒は街の外れに行くにつれ薄れて小さくなりつつあるが、それでもまだ回収するためには多い。多過ぎる。
…本当にどうしたものか…
今回は次回以降の関係で文字数を少なくしました。
大変申し訳ございません。
2/13 タイトル変更致しました