仮想世界のソウル 作:のりすもさん
ソウルの落ちた現場近くには街中程ではないが、それなりに人が集まっていた。ざっと確認出来るだけを見積もっても15人程度おり、まだその奥にもいることから見える15人は見張り役であると騎士は推測する。なるほど、ここに来た者を調べ、ソウルを拾おうとするのならば即尋問。そんな所だろう。以前、宿屋で読んだ
答えの出ない問題に騎士は頭を下げる。ふと下を見ると
そう考え、また策を練ろうとした...が時に今自分の言ったことに解答があった事に気付く。
…これだ…!
思わぬ物に助けられた騎士はニヤリと不敵に笑う。その思いついた案を決行するため騎士はソウルのある場所へと今度はゆっくりと慎重にバレぬように歩を進め始める。
先程、屋根から見た限りではソウルがあるところまでおよそ私の足で百五十歩程度だろう。そんなに遠くはない。
足音をたてぬようにじっくりと接近していく。
ソウルが落ちたのは生憎袋小路になっている為、正面から突破する事はおろか、回り込むことも不可能である。
ならばどうするか。
騎士は後5回はあるであろう曲がり角の壁から静かに顔を覗かせ、辺りを確認する。プレイヤーがこちらを向いている。だが、向こうはこの暗闇、そしてまだ気付いていないようで反応はない。まだここで策を使うわけにはいかない。懐から投げナイフを1本取り出し、それをプレイヤーの後ろの地面に当たるように投げる。騎士の適応力と筋力の補正がかかった投げナイフは勢い良く一直線に飛んでいき、カァンという音を立てて地面へと吸い込まれるように刺さる。
「あぁん?」
太い、バリトンの声でプレイヤーが後ろを振り返る。その瞬間に音を立てぬように、一気に走り去る。上にも人はいたようだが同じくナイフの音に気が行ったようで、騎士とは全く違う方向を向いている。運が良かったようだ。
そのまま一気に限り無く足音を小さくしつつ壺や樽などがある、細い路地裏を軽快に走る。そして、また同じようにプレイヤーがいたため、同じ手で気を引き、走り抜け。
敏捷性があまりにも違うようで、相手が振り向こうとした時には既に通り過ぎていた。
そして、後一個路地裏を曲がればソウルにたどり着くという時に、騎士は持っていた投げナイフを己のソウルの内へと仕舞い代わりに少しくすんだ黄土色の壺を出す。
周りを確認し、屋根の上へとスルリと出来るだけ姿勢を低くして登る。そしてもう一度周りを確認し、出来るだけソウルに近付く。次の瞬間、騎士はソウルとは九十度右に離れたポイントへその壺を全力で投げる。思いの外重たい壺は20メートル程飛んだ後、地面へと落下しその壺が割れたと思えば大きな爆発を起こし、夜の街を叩き起す。
勿論、そんな大きな音が鳴れば否が応にもプレイヤーは反応する訳で。
「おい!何だ今の爆発!」
「知るかよ!…待てよ…ベータ共がいないということは…」
「!なるほど!製品版での変更されたイベントかも!」
「おい、お前ら!何ぼさっとしてんだ!確認行くぞ!」
「は、はい!今すぐ!」
それを確認する為に移動する。今騎士が投げたのはただの火炎壷である。無論そんな特殊な事は起きる筈もないのだが…音に釣られるせいでソウルの見張りや上の見張りは居なくなる。つまり、この間がチャンスなのである。否、騎士はこれを狙ったのである。計画通り。
騎士は、自分の持てる力の全てを速力へと回す。一気に屋根から飛び降り、そのまま見張りがいるかもしれないという警戒も忘れ、自分の力の根源とも言える暖かな緑色のソウルへと走り抜ける。そして、通り過ぎるようにソウルを回収し、やった事の無い
そして、声が完全に聞こえなくなるまで離れるとメニューを出し、自分のソウルがある事を確認する。確認も終わりメニューを閉じようかとした時、ステータス欄の左上に文字が読めなくなっている場所を発見し、その場所を確認する。その欄には、
Sーーー
と書かれており、その欄は記憶ではネーム欄であったはずだ。なぜ私の名前がこうなっているのだと憤りを感じ私の名前は、と言おうとしたところで神経を凍らせる。
私の名前は…なんだ。思い出せない。ずっと覚えていた筈だ。今になって思い出せない。私が私であるための証明…
そして、自分のこの世界へ来た時の言葉が鮮明に思い出される。忘れている…?まさかな…
…忘れていっているのだろうか。この体がソウルの奴隷となった時から忘れていないと自分に誤魔化し続けていたが…いいや、忘れているわけじゃない筈だ、きっとまだ思い出し切れていないだけだ。まだ。まだ…
「やっぱり、あんただったナ」
ハッとなり周りを見渡す。警戒を怠ってしまった。
騎士は反射的に投げナイフをソウルから取り出し声のした方へと投げる。そのナイフは何時からそこにいたであろうか、立っていた女性プレイヤーに吸い込まれていく。女性はコードがあるため刺さらないだろうと考えているのかそのまま棒立ちだ。しかし騎士はナイフが刺さる事を己のミで既に知っている。しまったと悪態を心の中でつきながらも全速力でナイフへと走る。
「ナ!?何すんダ!」
この声と口調は何処かで聞いた記憶があるが、今はそういった考え事をしている場合ではない。そのナイフが女性に当たる寸前で騎士が追い付き、そのナイフを背に喰らう。
かなり力を込めていたため、背を大きく刺しそのまま心臓へと達しそうになるが、それは黒革シリーズ特有の丁寧な造りにより阻止される。だが、それでもダメージが大きい事に変わりはない。騎士は女性が見ているということも忘れポーチから透けるような黄色をした小さな石、雫石を取り出しそれを砕く。雫石はソウルの亡骸付近で見つかる事が多いためソウルの成れの果てとも取れるアイテムだが、その有用性は折り紙付きだ。私の仮説では成れの果てとなり魔力を得たソウルを砕くことにより自らの傷付いたソウルを補修し、ソウルで動く体も同時に癒されると考えている。その作用によりある程度回復したところで背に刺さっていたナイフを取る。背からは血ともポリゴンとも取れないものが止めどなく溢れ出るが、地面へ落ちると赤いポリゴンと化し暗闇へと消えて行く。傷口は大きいが直に雫石の作用により、回復するだろう。
「ァ…」
だが勿論それを見ていた女性プレイヤー…そうだアルゴだ。アルゴは驚きを隠せない所か余りにもショッキングな光景にへたりこんでしまう。しまった、情報屋だっただろうか?そのままにする訳にいかない、という訳でもないが一応口封じだけはしてしまいたいので手を差し伸べ立たせようとする。アルゴは手を差し出された後10秒程放心していたが、その手を取るとゆっくりと立ちその特徴的な鼠の髭のようなボディペインティングを顕にした。
「…宿…行かないカ?寒がりなんダ…」
明らかにそんな理由ではないとは一目瞭然だが、騎士は良いだろうと言った具合に頷く。下手な店で話を聞かれるよりは数倍マシだ。この世界では宿の扉を開けるためにはパーティ申請をしなければならないそうだが、騎士にはメニューには存在しないため、アルゴがパーティ申請を送って来る。勿論それを承諾する。
騎士はアルゴに付いて行くように明るくなっている市街地を歩いていく。騎士には気候が分からないが、少し肌寒い。その冷えきった寒さにより澄んだ空気が街の街灯…と言っただろうか?それをさらに綺麗にしているように見えるが…きっと気のせいなのだろう。何故ならば騎士は一度も本物の電気を見た事がないからだ。きっともっと冷たい色をしているんだろうと直感で感じながら何個も続く街灯を見据えた。
「こっちダ」
そんな時にアルゴがふと左へと曲がり、路地裏へと消える。それに続くように路地裏へと入る。入り組んだ道を進んでいくと、ひっそりと佇むように小さな宿があった。
アルゴはその店のドアを手馴れた手付きで開ける。
中は以前騎士が滞在していた宿とさほど変わらず、強いて違う所を挙げれば狭い位だ。アルゴは料金を払おうとしたが、その手を制し止めさせる。今回こんな事にしたのは元と言えば自分の責任だ、ならば自分が払うべきだ。騎士は割り勘ではなく、自分が全て支払うように設定を変え、YESを押す。アルゴは驚いた表情で、騎士を見たが騎士は気にせず部屋へと向かう。
部屋に着くと騎士は黒革の装備をもう先程ナイフをソウル化したのを見られてしまったので諦めてソウル化させ、変りに薄い白いローブを羽織る。アルゴも続けてメニューから自らの装備を外し着替える…のだが一瞬だけ下着になってしまうのを騎士は知っていたため、振り向き話の種になるであるだろう雫石と投げナイフを取り出す。
「あ、あぁごめんナ、忘れてタ」
黒っぽいチュニックと短いズボンに着替えたアルゴが申し訳なさそうに謝るが騎士は手を振り否定する。そしてゆっくりと話すため、取り付けの机のある椅子に座らせる。騎士はベッドに座り込む。
「ナァ、あんた、イヤ、シーク…さん?でいいのカ?」
…シーク?…私の名前だろうか?
騎士は自分のメニューウインドウを開く。すると先程まで壊れていた表示が直っており《seek》と表記されている。
こんな名前だったような、違ったような不快な感覚に襲われるが今はこれでいいのかもしれないと割り切り頷く。
「シーク…さんいや!シー君デ!どうダ!?」
シー君…私はもう君を付けられる歳ではないのだが…
まぁ、そう呼びたいならば構わないだろう。騎士は苦笑しながらも再び頷く。前に話した時はぶつかった時に話を一方的にされただけだったので分からなかったが、まぁ久しぶりにこんな明るい者と話したもんだ。と、騎士は苦笑の中にクスリと笑う仕草を加える。
「マァ、そんなあだ名は置いて置いテ。あ、シー君喋らないのカ?喋らないんだったらメッセージでヨロシク」
騎士はメニューを開きホロキーボードを展開させる。
宿屋に止まった一週間はこのキーボードを延々と使用していたためある程度馴染んでいる。騎士は宛先をアルゴに指定し、《どうだ?》打ち込む。
「ウンウン、これでイイ。早速なんだが…何デ圏内で攻撃が当たったんダ?もし、スキルなのならば…大事だゾ?」
騎士は一瞬これは言っていいものか考え、誰にも言わないという事が無いという事が確認出来れば良いのでメッセージで《誰にも言わないか》と送る。
「ンー…金さえ払えば俺っちは誰にも言わないゾ」
騎士は続けざまに《幾らだ?》と送る。情報には金がいるのは分かり切った事なので仕方ない。騎士はメッセージ欄を1度閉じ、コル送信画面へと切り替える。アルゴは一瞬戸惑ったような表情を見せたが直ぐに手を叩き、ウンウンと頷き、騎士を見る。
「なら!10万コル…と言いたいガ今回は庇って貰ったお礼だ5万コルでどうダ?」
騎士は、《そもそも自分が原因である》とメッセージに切り替えて打ち、コルの送信画面へと再び戻し、10万コルの倍20万と打ち送信する。アルゴは目を見開く。
「ナ!?何でこんな大金…」
《お詫びだと思って受け取ってくれ》
《もしそういう体が嫌ならば私のソウルの回収を見た事も含めた依頼金だと思ってくれ》
騎士が真剣な顔をしてアルゴを見据える。
アルゴはその眼差しに申し訳なさそうにYESのボタンを押す。これで当分の間は私の噂が出回る事はなくなるだろう。騎士はキーボードで《そう、そもそも私はこの世界の者ではない》と打ち、会話を進めていった。
ドラングレイグについてはぼんやりと伝えるような程度で主に私の事、ソウル、そして、不死病のことを伝えた。
アルゴはその一つ一つに驚いているようで、特に私がどういった経緯でこの世界へ来たかを話すと食い入るように聞き、メニューの少なさを伝えると、カラーカーソルが白い!と驚いていた。中々どうしてアルゴは聞き上手で話が弾む弾む、気を良くしてしまった私は武器を見せたりした。その時にアルゴが気づいたのだが、この世界の強化は四つのステータスに分けられているのだが、騎士の武器はどれにも属さない強化がされており、アルゴ曰く、その強化素材がもしこの世界で使えるのならば私に譲って欲しい位良い強化が施されているようだ。ソウルで強化されているためそうなるのは必然であると思う。そして、あらかた騎士の素情を話し終わると、アルゴはご機嫌なようでホクホクとしていた。
「いやー、予想外だったナァ。こんなに面白い話が聴けるとは」
騎士は《約束は守ってくれ》と再三注意する。
アルゴは分かってルと言い椅子を離れる。眠いのか騎士の座っているベッドへと向かい、騎士の横に座る。
「ま、何ダ。ここいらでオマケにシー君に面白い事を教えてやろう」
面白い話?一体なんだろうか?
「明後日当りにレイドボスを倒すために会議をやるっていう情報がある。中々面白い話ダロ?」
《何と…アルゴは参加するのか?》
騎士は内心嬉しいやら楽しいやら不安なのか色々な感情が混ざった心持ちになったが、この
「勿論参加するゾ。なんせ知り合いのベータがいるからナ」
《なるほど、なら私も参加していいか?》
「あー、いいと思うゾ、何ならレイドボスクリアまではパーティを組んだままにするカ?」
《よろしく頼む》
騎士はアルゴに手を差し出す。アルゴはよろしくと言いその手を握る。セクハラ何とかがあった気がするが別に発生していないため、気にすることは無いだろう。
「さ、このまま寝るカ」
《ベッドで寝てくれ。私は床の方がしょうに合っている》
「えっ?いいのカ?」
《構わない》
騎士は部屋の電気を消し、そのまま床へと転がる。
…この世界、どこまで行けるだろうか…
そんな考えは一瞬の内に睡魔にかき消され消えていった。