仮想世界のソウル 作:のりすもさん
翌朝、騎士は朝の日...いや偽物すらないのでこの表現は間違っていると思うが、跳ね起きた。意識は既にまどろみを飛ばしている。普通の人なら硬いフローリングの床は辛いものだが、騎士にとってはついこの前までは篝火の前で腰を折って座り込むようにしていたので、上質といえば上質だろう。空中を右手でなぞりウインドウを表示させ今の時刻を確認する。みるとまだ今は朝早くの5時半であり、ベットのアルゴは意外と綺麗に寝ている。自分はソウルで動いているため空腹感は特に湧かず、食事は必要ではないと自覚しているが、アルゴは別だ。
彼女は『人間』であり『生者』である。そうなれば当然食事は必要な行為であり、無くてはならぬものだろう。
騎士はアルゴを起こさぬように忍び足で出入口のドアノブを静かに掴み、そっと外へと出る。騎士のいたドラングレイグは季節らしい季節が無かったが、こちらの世界はしっかりとした四季があり、確か今は春夏秋冬の内の秋であったはずだ。その為か少しばかりひんやりとし、冬の訪れを少しながら感じさせると同時に意識を覚醒させていく。
簡素に打ち付けられた玄関扉を開け外に出る。しかし外は路地であり、作られた太陽光は建物の影と影に遮られており立っている場所からでは雲の隙間から見える程度しかない。が、それでも路地には光と反比例して通りの喧騒が朝だというのに聞こえてくる。熱心な事だ。
騎士はソウルからいつも通り上級騎士装備を取り出し装備する。カチャリと金属的な音が鳴り、路地に反響したがすぐに喧騒によってかき消されてしまう。装備の点検を素早く済ませ、金属が打ち鳴らす音を目覚めの音楽とし、そのまま通りへと出る。
夜程人は居なかったが、それでも人はそれなりに多く、遠くに見えるNPCのホットドッグのショップには多くの客が集まっており、長蛇の列が出来ていた。東洋のニホン..だったろうか?という国にはそのような思いやりを重んじる風習があり、それを思い出させた。風の噂では騎士のいたドラングレイグに寸分違わぬ、いやそれ以上の技術力があるとも聞いたが、今となっては確かめようのないことである。
そういえば食べ物と言えば、昨夜アルゴが何とかエンジンだとか、何だか言っていたが、騎士がワインもどき以下を飲した感想を聞かせると、
「はぁん?良くシステム無しにアジ感じれるナ。いや、オイラ、てっきりオブジェクトが反応することも無いと思ったゾ」
との事だった。会話中に私の知識にはない単語が幾つか話されたので、主張したい事の四割も理解出来なかったが、わかりやすく説明をと願い出ると、一言。勉強するんだナ。とあっさり切り捨てられてしまった。私としては少しばかり不服ではあったかが、向こうからすれば基礎中の基礎だったようで、そこを一々話せ、説明しろと言うのは些か苦だろう。方向性は違っているが、歩き方を教えて下さいと頼んでいるような面倒くささだろうと考える。とにかく、精進あるのみだ。
騎士はアルゴの朝食を買うために大蛇の如く並んでいる人々の後ろへと歩を進めて行った。
昨日、初めてあの
だが、長くは続かなかった。少し離れた所で爆発音がしたのだ。ドカンと。β時には爆破するようなオブジェクトや、アイテムは無かった筈だ。見張りのものもそちらへと気がいってしまったのか、持ち場を離れていった。
占めたと思い、その光へと近づこうとするとそれよりも速く速く、屋根上から黒く染められた革装備を着た者がそのライトエフェクト及び、アイテムに一瞬触れたかと思うと吸い込まれるように消えてなくなってしまった。はっと気付くと屋根を登り、現段階では有り得ない速度、動物のチーターいや下手するともっと速いかも知れない速度で屋根の上を飛び移り去っていった。しかし、始まりの街はβテストで熟知済み。速かろうと追いつける自信があった。何故あれだけ速いのか、何故あのバグエフェクト、確かソウルと表記されていたあのものを回収できたのかと、それを聞くまでは帰ることは私の心が許さない。
ダッシュで、黒革装備を着た者がいるであろう地点まで走っていく。路地を曲がって曲がって、ショートカット出来るところはして、とにかく全速力。メロス程真剣に走った。すると、案の定謎の者がいた。顔をよく見ると以前街角でぶつかったプレイヤーだった。その時に貰ったアイテムがβテスト時に無かったアイテムだったのでつい交換条件として、あのエフェクトの情報を上げたのを覚えている。なるほど、ますます話をしたくなってくる。
「やっぱり、あんただったナ」
声をかけて自然に接触を試みる。が...投げナイフが自分に向かってかなりの速さで投げられる。圏内だからナイフが刺さる事はないが、その者は慌てた様子でそのナイフよりも速く走り始める。自分に向かって。
「ナ!?いきなり何すんダ!?」
だが、事情が次に視界に入ったもので全てが塗り替えられた。自分の叫びなどどうでも良いくらいに。
投げられたナイフが、私に向かいコードに弾かれる...事はなく、目の前の者の背に深く深く刺さり、出血エフェクトが発生する。その光景にただただ自分は硬直した。いや、硬直し立つ力も一切損なわれペタンと地面へとへたり込む。間違いなくここは圏内だ。例えここがデスゲームであろうと唯一無二のセーフティスポットなのは確実だ。現にデスゲームが公言された後何度も何度も圏内で自分に剣を突き立てようときて紫色のコードに尽く弾かれたのを自分は目撃している。しかしどうだ。今広がるのは背にナイフが刺さり、見た事も無い回復アイテムを握り締め傷を癒しているではないか。身の危険など感じる事が有り得ない、圏内で。そこからは頭の中が真っ白になり過ぎて、口から出任せで意味不明な言葉を喋っていた気がするが、宿につく前の記憶が殆どない。
宿に着いてから幾らかあの
ここまでくると本当に異世界人なのかもしれない...と思ってしまう。まだ、現実世界なら有り得なくもない。いや充分に有り得ないが。それでも0と1の塊の電脳世界に異世界人が体ごと入るのは有り得ない。しかし、そう否定したくとも、捏造されたようには思えない歴史の話。不死病というものが蔓延した世界。そして、そこで剣を振り続けた目の前の騎士。その厚みが信憑性を高めてしまっていた。
まだ半信半疑ではあるが、取り合えずの間はそういう事にしておこう、そして知り合いに相談して見るのが良いと結論づけた。
そして、現在、朝。
寝ぼけなまこで、周りを見回した。見るとシークは何処かに出かけてしまっていったのか、部屋にはおらず簡素にまとめられた麻袋だけがテーブルの上に置いてあった。封はされておらず中からは昨日の雫石よりも一回り大きい物が3つと緑色の草何枚かとよく分からない錆び付いた銅貨が2枚入っていた。何だろうかと思い恐る恐る麻袋に手をかけた時。バンッと勢い良く扉が開けられた。勿論そこにはシークがいた訳で...傍から見れば泥棒を働こうとしていた風にも見えた。違う、そうとしか見えなかった。
「あ、イヤこれは、泥棒とかじゃなくてだナ...」
騎士はやれやれといった具合に頭に右手を当てて、首を横に振る。反対に左手には何か買ってきたであろう少し大きめの紙袋が提げられており、その中からボイルされたウインナーような香りが漂ってきた。騎士はゆっくりとした足取りで、ベッドまで足を運ぶと紙袋の中からアルゴにホットドッグと水を差し出す。
「オ!買ってきてくれたのカ!これは助けられちゃったナ」
と、表面上で感謝の意を騎士に伝えながらもその会話の間にも、既にホットドッグを勢いよくかぶりついていた。騎士はその食欲っぷりに苦笑の笑みを浮かべつつ自身はもう少ししたら向かうであろう迷宮区の為の準備を進める。
指輪基本的に怪しまれるという理由で付けないようにしよようか...いや、大事を取って刃の指輪程度は装備しておこう。実力の分かっていない相手に挑むのだ、対策はしておくべきだろう。そして防具は変わらず上級騎士一式で問題はない。武器は...ロングソードと使う気はないがグレートソードを装備する。盾は双竜の大盾を装備。有事の際は盾を外し、両手持ちしても良いだろう。勿論、魔術など使える訳ないので、触媒は持たない。回復に関しては何とかバレないように雫石を砕く以外に道は無いだろう。取り合えずこんな所だろうか。確認が終わりアルゴの方へ目をやるとホットドッグは食べ終えたようで、同じように装備の確認をしており、作業は自分以上に慎重だった。
騎士は先程アルゴが弄っていた麻袋の中身を確かめ、その後封をするとアルゴへと差し出した。
「...?なんダ?くれるのカ?」
《少々数を持ち過ぎた余り物のようなものだが、それでも何かの役に立つ筈だ》
一瞬アルゴはシステムに検知され消されるのでは...と思ったが、ここでの死=現実世界の自分の死なので、アイテム程度で死ぬことは無いだろうと判断し麻袋をシークから両手で受け取る。
「すまない。助かるヨ」
《気にすることはない」
《お節介かもしれないがアイテム説明だ》
と、話し始め3分程で話を切り上げた。アルゴに与えたのは緑化草、輝雫石、錆び付いた銅貨だった。もしかすると使えないかもしれないが、少しでも足しになれば幸いだろう。アルゴは説明を聞いた後麻袋をストレージへと放り込んだ。騎士としてはストレージに自分のソウルから取り出したアイテムが入るのか心配だったが、杞憂だったようだ。アルゴはメニューを閉じると元気良くベッドから飛び跳ねて、グッと伸びた後、騎士に向かって笑いながら
「じゃあ!迷宮区へと出発進行!」
と力強く宣言した。騎士はノリに合わせてペコリと一礼した。
そうして、明日に迫った攻略会議参加と一層攻略のために騎士と鼠は今、宿を出た。それに同調するようにお互いの装備がキラリと鈍色に光り輝いた。
次回、迷宮区へ。ダクソっぽくダンジョンの難しさを表現したいです。