仮想世界のソウル 作:のりすもさん
アルゴと共に迷宮区へ向かうこと約一時間。アルゴは道中の敵を何の問題も無く華麗に倒していった。騎士も敵を倒そうとしたが、アルゴがレベルを上げたいので極力手を出さないで欲しいという事で最低限攻撃するのを控え、アルゴの背後から攻撃しようとした敵を殴るだけに留めた。
道中はアルゴが少々危険ではあるが、抜け道を知っていたためそこを通り迷宮区の塔へと辿りついた。上を見上げる程の高さで、石英のような色をした鉱石で作られており、入口は同じく石英のブロックでとても簡素な作りになっていた。外観からはとても迷宮とは思えぬ作りで、その場所だけを切り取って見れば優美な城の門に見えなくもない。だが対称的に入口は傷一つすら付いていない黒い頑丈な金属で作られており、その入り口一つで城が牢獄のようにも見えた。しかし皮肉な事に既に電子の牢獄に囚われているのだが。
「ここが迷宮区ダ。ここからは道中の敵とは少々難易度が高いからキーつけるんだナ...ってシー君には関係ナッシングだナ!にゃははははは!」
と元気にアルゴが笑うので騎士もその表情を綻ばせた。
実際、騎士はこの
この事から騎士を倒せる者はいないだろう。
ボーッと考え事をしているうちにアルゴが迷宮区へと入っていってしまった。騎士も置いてかれるぬように早足でアルゴへと追い付く。アルゴは騎士が追い付く間にも慎重に周りを見渡しながら進んでいく。道を探しているのか...と思ったが、様子を見ると最初から何か知っているようで、ぐちゃぐちゃな道を迷いなく進んでいく。なるほど、一度この世界へ足を踏み入れたという話は本当だったようだ。
と、そんな時ふとアルゴが口を開いた。ただし、含みのある笑みを浮かべて。
「なぁ、シー君。実は攻略会議ってここよりもっと前の場所で開かれるんダ」
騎士は大変驚愕した。ここで行われるわけでないなら何故こうも急いだのか?騎士はジェスチャーで何故と訴えた。
このジェスチャーの意を受け取ったらしく、アルゴは続けて話す。
「ここの迷宮区は、以前オイラは来たことがアル。でもナー
騎士はアルゴの示した目的を深く頷きながら噛み締めた。
確かにそうだ。一度きりの人生であるアルゴや他の者達にとっては情報とは切っても切り離せない云わば生命線と言ってもいいだろう。そもそもアルゴは情報屋だ。私がこの世界に来て貰った攻略本もアルゴが作成、それを多数のプレイヤーに委託し複製し、今も使われている。無論、私も使わせてもらっている。
騎士はアルゴに歩み寄るとインスタント・メッセージが送れないので変わりに親指を立て深く頷いた。騎士とアルゴ以外人がいないせいか妙に騎士の鎧が擦れる音が迷宮区に響いた。アルゴはウンウンと頷き返すと
「シー君も分かってくれるカ!ソーカソーカ!持つべきは分かり合える友だナ!ニャハハハハハ!」
と破顔させ大きく笑った。騎士も微笑を浮かべひとしきり笑った後、2人は視線を交わし、拳を軽く、しかし確かに打ち付けあった。
しばらく歩くと、龍人型のモンスターが出現した。私程の体躯に、膨れ上がった二駆の脚、加えて特徴的な艶のある赤色の鱗に軽金属の装備、そして発達した脚とは対称的に短く細い貧相な剣を両手で装備し、金色にギラリと野生を感じさせるような眼光をしていた。だが、足りない。圧倒的に心臓に深く刺さるような威圧感が。何故そんな事を思ったか。それは騎士の中では龍は偉大なるもの、古の竜然り、眠竜然り、何かしら大きな力を持っていた。いや、格を下げて竜騎士でもいいが、それでもまだ迫力が足りない。騎士はそんな事を思いつつ、双竜の大盾を構えモンスターの前に立ち、ある程度気を引き付けた所でアルゴがクローを器用に使い
「ヤアァァァァァ!」
ソードスキルを一撃。準備動作とその速度は
む。単純なアルゴリズムしか搭載されていないモンスターは、騎士がいることなぞお構い無しに荒滑稽な突撃を敢行する。そんな攻撃は勿論騎士が構えた双竜の大盾により防がれる。大盾にしては軽い双竜の大盾がその攻撃を完璧とは言えないが吸収する。剣と盾がギリッと音を立てて凌ぎ合う。だがその一瞬だけの拮抗の後騎士は攻撃を受けた事により1歩ノックバックする。ここでアルゴを狙うよりも好機と判断したのか、モンスターはもう一度剣を振りかぶり騎士を攻撃する。しかし
「ヤァァ!」
その隙にアルゴが残りの体力を削るべくクールタイムが完了したソードスキルでモンスターへと攻撃する。体勢の崩れたモンスターが攻撃を躱す事など出来るはずがなく、そのポリゴン体をガラスが割れるような派手な音で粉砕させる。そして直ぐにメニューが出現し、入手アイテム、コルが表示される。しかし騎士の前には何も出現する事はなく、自分でメニューを出現させると僅かながらコルが追加されているのを確認する事が出来た。
「やったナ!シー君!」
チェックを終えたアルゴがこちらに振り返りグッと親指を立てる。騎士も良い剣技だったと親指を立てる。戦闘の疲れからかアルゴはグッと背を伸ばし、ふぅという溜息とともに体を解した。実際にはリアルのアルゴの頭に付いているナーヴギアがその快感信号を感じ取りSAOの隠しパラメーターの疲れを下げただけだが。迷宮区の壁に背をあずけたアルゴはそのまま座り込む。無理もない。この迷宮区までダッシュし、ほぼ休憩ナシで戦闘のだから。
「ンー...やっぱ疲れるモンだナー。ベータの時は疲れたらログアウト出来たケド、今じゃ宿行って寝なきゃ疲れが取れなイ。皮肉だと思わないカ?リアルではまだ寝なくてもイイとか言ってられたケド、こっちは寝てなきゃ死ヌ。
ってシー君は死なないんだったナ」
アルゴの自白とも取れる発言にジェスチャーで深く頷いた。それを見たアルゴはフッと笑みを浮かべると何時もの人懐っこい顔に戻った。
「ヨシッ!一回休憩!シー君もそんな立ってないデ、休もウ!」
ジェスチャーでその誘いを断る。騎士は双竜の大盾を外し、代わりにソウルより銀鷲のカイトシールドを取り出し装備する。何の為か、勿論警戒だ。
騎士も言葉にはしないが実際は分かっていた。アルゴの自白のような言葉の意味を。かつて騎士が篝火で休憩を取らず死ぬ事がない旅をしていた時だった。やっとの思いでアマナの祭壇にたどり着き、その足でいざ歩き出すと水で足を取られ、そこを狙う異形達と迫り来る追尾するソウルの矢から逃走するため大きく迂回した時、何度も通っていた道だった筈であったのに、休憩を取っていなかった為か水の下に大穴がある事を、忘れそのまま水の中へと沈み込んでしまい死んだ記憶がある。そこで騎士は悟った。如何に休息というものが重要である物かを。そう、あの暗く光のない水の底はゴメンだ。アルゴにはそんな思いをさせてたまるものか。彼女まだ死ぬのには早すぎる。
休憩してから一分経過した頃だっただろうか。不意にアルゴと騎士以外の足音がした。耳を澄ませると何やら大きなものがこっちに接近しているようだった。その足音に反応したアルゴは座り込ませていた体を猫のような俊敏さで跳ね上がらせて、足音の発生源を探した。やがてその足音は強さを増し、そしてカーソルが見えた時、アルゴは大きく後退していた。そう、第一層にしては強力だったのを未だに覚えている。2mはあるであろう体型。特徴的な両手斧を構える風貌は如何にもパワー型で、攻撃が命中する半分以上体力を損なわさせられた。しかしそれでいて俊敏性もあるという非常に厄介な敵『センチネル』と呼ばれる亜人系modである。このモンスターはこの層のレイドボスの取り巻きにも出てくる、いや、そちらの方が正しい。しかしそんな事はこの際はどうでもいい。その
「クッ...!何デ...こんなにモ...シー君!気を付け...」
アルゴ言い終わる前に騎士は行動に移していた。ロングソードを構えセンチネルに向かって突撃していた。3体並んだセンチネルの一体が両手斧を振り回しそれを風を切るほどの速さで騎士へと真っ直ぐに打ち込む。普通のプレイヤーならばこの攻撃がヒットすれば大ダメージは確実だったであろう。しかし、騎士は違う。経験を積んでいるのだ。この程度の数何度も斬りあっている。騎士は左手のカイトシールドで迫り来るその斧を下から撥ね上げるようにいとも容易く
「ゴオオォォォ!」
だが、その隙を埋めるように残った右左2体のセンチネルが騎士に向かって斧を振り下ろす。よく見ると一体の方の斧は2体とは違い両手斧の中でも長柄斧と呼ばれる種類のリーチが長い斧であった。しかし騎士は右にローリングし、2本の斧を見事に回避して見せる。そしてその起き上がりと同時に横薙ぎにロングソードを振るう。先程センチネルが放った斧の速度よりも何倍も何倍も速く、両手斧のセンチネルの腹をズバンッと一撃。振るわれた神速の一撃は一層では体力が多い筈のセンチネルのHPゲージを高速で減少させていく。緑から黄色へ、その後レッドゾーンへと進み、その勢いが落ちぬままゲージをゼロにし、ポリゴンの粒子へと変えた。
「オオォォォ!」
長柄斧のセンチネルはプログラムされた野生の咆哮を上げると躱された斧を軽々と持ち上げ袈裟斬り。騎士はそれを歩くようにヒラリと躱す。そしてカウンターでセンチネルの体から頭をを下から真っ二つにする。悲鳴の咆哮すら上げられずまたもやそのHPゲージを消し飛ばす。
そこでやっと起き上がった初めのセンチネルが怒ったように斧を滅多切りに放つ。だが騎士は見切ったようにバックステップし、回避。そこに突っ込んできた斧を又もや完璧なタイミングでパリィする。弾かれた斧は主を見捨てるように手から落とされる。
プログラムとはいえ、このモンスターは運が無かったと言える。何故か?その問いの答えはいとも簡単に出る。
だが挑んでしまった。
その罪に判決を下すが如く、鋭く磨き抜かれたロングソードの冷たい切っ先はポリゴンの中には無いはずの心臓部分を突き刺していた。無様に座り込んだ状態で、仮想世界に散っていった。
「...ァ...」
アルゴがポカンと口を開けて喘いだ。予想はしていた。しかしいざ見ると余りにも強過ぎたのだ。目の前の騎士は。
後退したのが馬鹿馬鹿しくなるほどに。戦闘が終わりロングソードを腰に収めた騎士が駆け寄ってきてジェスチャーで前を指さす。喋れないのでは喋らないと既に気付いているが、今だけは喋らない事に感謝した。怖かったのかもしれない。しかし、歩き出したその大きな背を見ると何処か胸の奥がズキリと痛む気がした。
立ち止まり過ぎていた為だろうか?シークが後ろをチラリと振り返った。
「ア!シー君!ちょっと、ストップ!ストップ!置いてくなんてオネーサン泣いちゃうゾ!」
シークが微笑を浮かべて立ち止り、待ってくれた。
胸の痛みの原因は分からないが、直ぐに治るだろう。
そう判断してシークの元へと急いで駆けて行った。
シーク《seek》には英語で探し求めるという意味です。
何を探し求めるかはまたいずれ。