仮想世界のソウル   作:のりすもさん

8 / 10
熱:8 /意固地

騎士がセンチネル系統と戦闘を終えてから早一時間。順調に迷宮区内部の探索は進んでおり途中何度も敵が現れ戦闘に陥ったが、どれも騎士が弾きアルゴが攻撃するスイッチのローテーションを崩されるような敵はいなかった為、そこまで苦になることなく上へと進む事が出来た。その戦闘のお陰かアルゴはレベルが一つ上がり、ヨシッ!と喜んでいたのが脳裏に焼き付いている。アルゴのレベルも上がり、安全マージン以上になったので更に迷宮区を探索使用としたが、ある事に気が付いた騎士はそれに待ったをかけた。それはアルゴの主武器(メインアーム)であるクローにヒビが入ったのが見えたからだ。

 

「アー...オイラ換えの武器なんて持っててないしナー...しょうがなイ!迷宮区を降りて会議がある《トールバーナ》の街まで戻る、カ」

 

その言葉に騎士も頷いた。実の所を言えば、クローの耐久度の問題は修理の光粉を使えば今すぐにでも解消する事が出来るのだ。だが、それでは駄目だ。自分は大丈夫だが、アルゴは見た目以上に疲れている筈だ。走って、戦闘。ひたすらそれを繰り返している。表情こそ笑ってはいるが、体はふらりふらりと揺れている。アルゴの事だ、武器さえ元通りになればもっと上の階層も探索し、他の者達の為に尽力を尽くしてしまうだろう。いや、武器が無かろうと自分の素早さと身のこなしの軽やかさで上へ上へと行くかもしれない。休息をいい加減に取らなければ、疲れ果て倒れてしまうのは明白だ。トールバーナという街が何処にあるかは知らないが、会議が行われる位だ。ここ(迷宮区)にほど近い場所にあるのだろう。そこへ行かなくては。今は休ませなければ。

 

騎士はロングソードを握り直し、当たりを見渡す。辺りにはモンスターの姿、音、気配も感じられない。先程戦闘したのは角を曲がって60歩程の距離にある場所だったので、今はそこに音に釣られたモンスター達が寄って集っているのかも知れない。そこにいるのならば、今の所は心配無いが、もし何らかの弾みで音がし、こちらに向かってこられたのならば相当厄介である。ここの階層のモンスターは先程の戦闘から、さほど強くは無いことがが分かっているが、集団となった場合は私も危ないがそれ以上にアルゴが危ない。一刻も早く安置に行き、その集団が去るのを待つと同時に休息を取り、トールバーナへと向かいたいものだが、如何せんこの迷宮区には安置らしい安置はそうお目にかかれないので、下へ戻るか、探すしかない。しかし下へ戻るにしても元来た道を引き返す事が必要で、どうしても戦闘は避けられない。しかし、アルゴの武器はそろそろ限界を迎える。パキリと折れてしまえばそれまでだ。その後は拳で戦うしかない。だが、アルゴは口では帰るとは言っているものの、上を目指そうとしている。対照的にクローの輝きが失せ、それと同調するように一見元気そうに見えるアルゴの体も左に右に落ち着きなく揺れている。無茶な。アルゴの仕事であるマッピングは全二十層あるという迷宮区の16層まで進んでおり、充分だと思うのだが、何故ゆえそこまでしようとするのだろうか?だが騎士には今それを伝える事が出来ない。声で伝えられれば良いのだが...それも叶わない。その理由を何時かアルゴにも伝える時が来るかも知れないので、またその時に。

 

アルゴの肩がまた、左右にと先程より振り幅が大きくなりながらも歩くのが見えた。その姿は性別、性格は違えどウーゴのバンホルドという一人の騎士のようで、義理深い、心強い男という印象が記憶に新しい。人柄の良さも相まって何度も彼に助けを求めたものだ。それを今のアルゴに当てはめると攻略集団の為に必死に情報をかき集める義理の深さ、しっかりと裏がとってあり、人によっては心強い武器となるその正確な情報。そして明るい人柄。少しの間しか行動も共にしていないが、きっと彼女を差し置いては攻略は成り立たないのだろう。そう確信できた。だが、それと無理は全くの別物だ。今にも倒れるぞーそんな騎士の懸念が的中したのか、アルゴの体が不意に左から崩れ落ち始めた。

 

「アレ、おかしいナ...体ガ...」

 

 

だがアルゴの体が地面へと叩き付けられる前に騎士はその体を支えて、左手を己の肩に回した。アルゴもこの行動には予想外だったようで目を丸くさせつつ、騎士を見つめていた。だが、暫くするとフッとアルゴの体から力が抜け、騎士に体重を預けるような形になった。その重さは余りにも軽く、それに加えあまりの力のなさに先程まで活発動いていたのが嘘のように思えてしまう。暫く支えていたが、このまま支え続けるのは余計に疲れてしまうだろうので、引く物もないが床に寝かせてやる。迷宮区の無機質な白い床に横たわったアルゴのハリのある白い肌がぼやけて映り、その姿は曇りガラスに映った見た目相応の少女の様で少し指を触れただけでも砕けてしまいそうに見えた。アルゴを見るとあどけない顔で小さな寝息を立てて深い眠りに誘われているようで、特にダメージや状態異常もなく、疲れで倒れてしまった事を確認出来た。騎士は胸を撫で下ろした。アルゴが死んでしまっては騎士として失格、いや、それ以前にただの慢心による逃れえぬ大きな失態であり、同時にこの世界に囚われし者達の生命線を奪う事であり、元生者として失格だ。とにかく何もないようで良かった。

 

騎士は誰もいない事を確認し、本来使用するつもりもなかった触媒、呪術の火を装備する。そしてたまたまスクロールにあったぬくもりの火を展開する。この呪術はソウルが持つ本来の温かさを使用し、じっくりと敵味方関係なく癒していく、不死廟に伝わる呪術である。呪術とは銘打ってあるが、実際はそんな事は一切なく、回復のような体力を即座に回復する奇跡とも違い、体の芯から癒すのである。一時の間フワフワと不規則に火を揺らめかせながら宙に浮遊した火は、アルゴをじっくりと癒し、僅かに減っていた体力を回復させると共にアルゴの精神もじっくりと和らげていった。騎士はその間、この呪術の展開によりモンスターが来るのではと警戒していたが、運がいいのか何も出現しなかった。ふとそんな時そういえば、アルゴが昨晩会話していた時にルインコボルドとかいう種類の竜人系のモンスターもいると言っていた事を思い出した。未だに1度も見ていないので、何とも言えないが、自分はともかくアルゴに関しては敏捷性だけしか高めていないため、とても防御力が低いのが弱点であり、戦闘になったら今の疲れ果て眠り姫のように深い眠りについているアルゴを守り切れるか...心配だ。

 

ぬくもりの火の効果が切れる頃にはもう既にアルゴの表情には笑みが浮かんでおり、熟睡している事が目に取れた。騎士はそっとアルゴを両の腕で持ち上げ、1度壁に寄せた後、己の背に背負った。武器が振れなくはなるが、片方の手首程度は動かせるので投げナイフを投擲する事くらいは可能だろう。今までの戦闘から多く見積もっても二発程度で倒す事が出来る。アルゴの寝息が耳に伝わってくるが、今はそんな事は気にする暇は無いので割愛する。立ち上がり周りを見渡し、何もいない事を確認すると、騎士は元来た道をゆっくりと引き返していった。その時に騎士の背に背負われた無意識のアルゴの表情が鼠ではなく、一人の少女の顔でニッコリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何とか見つからないようにモンスターを避けながら、迷宮区を降り切った。いや、一度だけ発見されたたか。迷宮区タワー第12層当たりで、センチネルとは違う、だが竜人系の自分の知らぬモンスターと角で鉢あった。そのモンスターとの距離は本当に目と鼻の先以下の距離で、体長は悠に騎士を抜いていた。赤い体色に、軽金属装備、そして先程とは違ってシンプルな鉄製のメイスと何やら意匠が凝らされたこれまた鉄製の小盾を装備していた。反射的に騎士は飛び抜き着地と同時に器用に手首を回して野球のピッチングマシーンのように綺麗に投げナイフを投げた。投げられたナイフは吸い込まれるように敵のど真ん中に刺さった。本来、大したダメージも与えられない投げナイフは騎士の圧倒的な筋力と技術の恩恵を受け、竜巻を斬るが如く音を上げ竜人のHPを6割ほど削り、そこに間髪入れずにナイフを投げ、そのまま敵を無に帰した。その後は何とかやり過ごし、何とか迷宮区タワーの真下へとたどり着き、現在は迷宮区タワーから少し歩いたところである。モンスターとの戦闘を含めかなり激しく動いた場面もあったが、お構い無しにとアルゴはずっと可愛らしい寝息を立てて静かに目を閉じていた。あたりを見渡せば、茜色に染まる空が大地を照らし、それと同調して影も長く伸びていた。とても美しい空出会ったが、何処か冷たかった。

 

騎士はアルゴを背に乗せたまましばらく歩いた。途中で巨大な芋虫のようなモンスターや、虚ろの影の森に居たようなゴブリンがいたが、どれもコレも投げナイフで対処した。その頃には星が瞬き始めていたが、全くトールバーナの位置がわからなかった。そう、そのため騎士が諦めてその辺りで野宿しようかと考え始めもしていた時だった。ふと耳を澄ませると左からパタパタと2人位の足音が耳に入った。左を見るとフードをかぶった者と大振りな片手剣(ワンハンドソード)を背に携えた者がこちらに小走りで向かってきていた。向こうもこちらの存在に気付いたようで素早さを上げた。騎士が何か異常がないかアルゴの寝顔を確認し、何も無い事を確認して前を振り向くと2人組は既に騎士の前にいた。

 

「えーと...アンタ。こんな薄暗いところで何やってんだ?...!」

 

開口一番、片手剣を背に携えた男が問いかけてきた。生憎、私は喋ることが億劫なのでその趣旨をジェスチャーで伝えようとする。しかし、男は目を見開いて騎士を睨んだ。いや、この表現は間違っている。正確には騎士が背負っているアルゴを見て、だ。それと同時に後ろのフードを被った者も私がおぶっているアルゴを見て少しばかり警戒したのか、腰にあるレイピアに手をかけていた。

 

「アンタがおぶっている奴は俺の知り合いなんだ...何があった?...いや、()()()()()

 

妙に最後の語尾を強調し、問うてくる。知り合いだったのであればアルゴが起きていれば自然な接触が出来たはずなのだが...その当のアルゴは別になんてことはなく疲れで眠っているだけなのだが...今この男が私に投げかける目線は紛れもなく、疑いの気持ちである事が抑揚から分かる。確かに少女一人を薄暗いところで顔のわからない者が背負っているのは確かにいかがわしい事、つまるところ不純な性愛を犯そうとしている風にも見えない事もないとは思う。しかし、だ。何故そこまで警戒するのだろうか?

 

騎士は知らないが、このSAOにおいて寝ている異性プレイヤーをせかせかと担ぐ者がいたのならばまず、二つの疑いを掛けられる。一つ目はMPKや相手の無抵抗をいい事に勝手にストレージから窃盗する等のアイテムを狙った犯罪。二つ目は単なる性的欲求から来るわいせつ行為だ。今の騎士の格好はどちらともにも当てはまり、疑われるのは致し方ない事ではあるが...まだそれでも弁解の予知が本来ならある。だがその疑いに拍車をかけるように小柄なアルゴとかなり大柄な騎士の対比は犯罪的な印象をあまりにも大きくしてしまっていた。さらに不運な事に喋ることが色々訳あって出来ないということもある。騎士は将棋やチェスでいう詰みに入ったのだ。

だが転機はあった。よく観察すると中肉中背の男が騎士の頭上、つまるところカラーカーソルを見たからだ。

 

「ちょっと待ってくれ...アンタ何者だ...?カラーカーソルが白?聞いたことも見た事もないぞ...」

 

男は剣の柄に手をかけて、さらに警戒した。いや、既に抜く態勢だ。もしかしなくても、敵対されたのかもしれない。困ったものだ。私には戦闘する気が一切ないのだが...何とかして、敵では無いことが証明できないだろうか?一応の為騎士も投げナイフを一本だけ背に隠すようにして持った。一食触発とまではいかないが、場に背筋の凍る緊張が走る。男が何か後ろのフードに何か伝えた後、長い金属音を立てて背の鞘から剣を抜いた。それに合わせて後ろに待機していたフードも腰からレイピアを抜いた。奥歯を噛んで騎士も投げナイフに込める力を強める他なかった。幾つもの修羅場を駆け抜いた騎士からすれば、他愛のない存在である。もし、襲ってきたのならば殺すだろう。だが、どうにも騎士の心には男の発言がつっかえているのだ。知り合いという言葉が。もし仮にそれが真なのであれば戦ってばならぬ。何故ならば獅子奮迅の働きを見せる騎士であっても情報に関してはアルゴに大きく引けをとってしまうからだ。分からないだろうか?もし、ここで騎士がこの前の2人を殺害したとしよう。アルゴはどんな反応をするだろうか?考えなくてもわかる。答えは拒絶だ。私をを憎しみ、苦しむだろう。それはつまり、私が情報を得ることが出来なくなると同意義だ。その最悪を避けるためにもどうにかして解決を探さなければ...そう騎士が考えていた時だった。背に乗せたアルゴが小刻みに震えたのだ。騎士が慌てて振り向くとうっすら目を開けた、アルゴと目があった。

 

「ンー...!?」

 

アルゴはパチクリと瞬きを数回し、しばし固まった後、次の瞬間猫か鼠か素早い動きで騎士の背から飛び降りた。チラリとアルゴの顔が見えたので確認するとリンゴのように頬を赤く染めて呆けていた。やはりというか当然というかアルゴも年頃の少女だった。私のような者に背負われていたのが相当恥ずかしかったのだろう。私の軽率な行為の為だ、悪い事をしたと思う。一連の流れを見ていた目の前の男はそれに驚き、毒気が抜けたのか溜息を吐き剣を鞘に戻した。フードを被った者は残念ながらまだ警戒しているのか、レイピアを構え続けている。顔は見えないが、相当キツく睨んでいるのだろう。そう考えると少しばかり苦笑を浮かべたくなったが、今の場にそんな冗談混じりの行為は恥じるべきだと己の自尊心が訴えかけるので抑制する。 騎士が構えていた投げナイフを戻した。そっとアルゴを確認すふとやっと我に返ったのかブンブンと首を振って状況確認をした。

 

「あーっと...まず、キー坊なんでこんなところにいるんダ?」

 

「おいおい、それはこっちが今が旬の聞きたい事第一位だぜ...」

 

アルゴがポカーンとしているので、どうにも言えないが、悪い奴ではなかったらしい。どうしていいか分からない騎士は、取り敢えず手持ち無沙汰になった手に薄暗くなってきた事を警戒して、松明を取り出して火の蝶で着火してあたりを明るくした。...実際はあたりを警戒したのではなく先程あまりにも気を入れて男と面向き合っていた自分があまりにも馬鹿馬鹿しく思え、松明をつけたのが、騎士の心情を察するスキルなど誰も持っていないので、分かることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男の名はキリトといった。どうやらアルゴとは騎士がアルゴと出会う以前からの知り合い兼情報提供をし合う仲で、攻略集団だった。アルゴと話したキリトは私の認識を誤解した事を詫び、そのお詫びとしていい宿を近くに持っているとの事だったので、そこへありがたく伺わせてもらう事にした。そもそも、キリトとフードを被った者はそこへ行く予定であり、その途中にアルゴを背負った騎士と鉢合わせたそうだ。キリトとアルゴ曰く騎士が向かおうとしていたトールバーナは全く明後日方向でそのまま直進していればそのまま谷へと直行していたらしい。もしそこに落ちればモンスターとたっぷり戦闘出来るようだが...ご遠慮願いたいものだ。松明を持った騎士が先導し、しばらく話をしていると一件の農家が見えた。キリトが見えてきたなと言う。いや、待て。あれは宿じゃなくて...家だろう...

困惑した表情で首を傾げるそれを察したアルゴがぼそっと「民宿っていうんだヨ」と少し微笑みながら教えてくれた。騎士には民宿というものが何なのかが分からなかったが、宿とついてるのだから休めるところなのだろうと結論づけて割り切った。

 

キリトが先導して、宿の中に招き入れてくれた。中には誰か人がいたようだが、皆一様に気にすることなく2階への階段を早足でかけていった。最後に入った騎士はドアを閉めて、皆にならって上へと上がった。上へと着くと大きなベットが1つ、バスルームと書かれたプレートがすぐに目に付いた。キリトが装備を解除すると、アルゴもフードも装備を解除した。そこで驚いた事にフードは女性という事が分かった。栗色の髪を持ちとても美しかった。少なくとも騎士の思い出の中では見た事がない程だ。緑衣の巡礼も女性だったが、あちらはどちらかと言うと不思議な感覚がする、いわば妖艶だった。この圧倒的な膂力を有することが出来たのはあの巡礼のおかげだ。今でも強く感謝している。騎士も装備をソウルの内に上級騎士装備をしまい、代わりに昨日着ていた衣服を取り出すと装備した。だが、何がおかしかったのだろうか。アルゴがあっという顔をし、キリトと女性は目を点にして騎士を見た。

 

「...アルゴ。後で話がある」

 

「奇遇だナ。オイラも全く同じ事言おうとしてたヨ」

 

「ねぇ、どういう事かしら?」

 

反応は皆違えど騎士を食い入るようにして観察していた。...一体何がどうして、こうなったのやら。

 

外をふと見やると綺麗な星空が輝いていたが、それはこれから話される会話と何の関係もなかった。




※余りにも誤字、未完の場所が多かった為修正。何かあればご報告願います。
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