仮想世界のソウル 作:のりすもさん
ソウルとは元々、人間等しく等しく持っているものである。そう、魂である。不死人とはその魂に不死の呪いを患った者を指す。その証として
さて、宿屋...それよりかは農夫の家の言った方が良い古ぼけた板張りの部屋に大柄な男の周りに三人が密集しているというなんとも奇妙な光景が広がっていた。
「シークは...本当に不死身なのか?」
《そうだ》
「ダロ?」
「うーん...にわかに信じ難いな」
あの後余りにも不自然な行動をとってしまった私は問い詰められ言い逃れることも出来ない状況下になってしまったため仕方なくキリトと横のフードの者に自らの事を語っていた。アルゴ曰く信用にたる人物ではあるということなので問題はないであろう。
「なぁ、アルゴこのシークってのは特殊なイベントNPCじゃないのか?どう考えても都合が良すぎる。第一、こんな電子の世界に生身の人間が来るのはどう考えたって不可能だ。それこそ脳をスキャンしたりとかさ」
「と、オイラも最初はそー思ってたサ。だがシーくんの使う武器、アイテムはどう考えてもおかしイ。効果やDPSは置いておくとしても、どの武器やアイテムにフレーバーが出ないのはバグとしても流石に出来すぎてるダロ」
「だよな...」
キリトとアルゴが困ったような顔でこちらを見ていた。
見つめられるこちら側としては少々気が苦しいのだが、不可解な事に接しているのだろう。こちらも自制しておくのが礼儀というものだ。一方でフードの者は話についていけないのかいそいそと浴場へと足を運んでいた。
「武器名、強化度合いだけが分かって他は不明...考えれば考える程、分からない...やっぱ高度なAIを積んだNPCっぽいけどなぁ...」
「もし、仮にシーくんNPCだとしても、何というカ、パッとしないんだよナー。武器とか、盾が俗に言う序盤向けの武器っぽいって言うカー、マジにキー坊にいわれてみるとNPCって率も」
《ふむ》
騎士はアルゴから出たその言葉に対して、騎士は少々戸惑った。確かに今まで使っていた剣は何の変哲もないただのロングソードであって、いや、確かに変哲はないが、神代より伝わりし楔石で最大まで強化されている。なので少なくともある程度の神聖なものであるはずなのだが、アルゴ達にはそれがわからなかったようだ。
だとすれば一目で分かるじしょうあ、つまり魔術的な事が関わっている技を見せれば少しは信頼されるのだろうか?
己のソウルの内より左に魔術師の杖を持ち、右に先程のロングソードを取り出した。キリトたちは何をしているのか分からないといった表情で、騎士の両手に注目した。騎士はその目を気にしつつも魔法の詠唱を開始する。練り上げられたソウルが杖へと宿り、蒼白い光が迸って行く。その後右手のロングソードを胸骨の高さまで持っていき、刀身を杖で撫でると、剣にも蒼白き光が宿る。
「エンチェント!?」
「こりゃ、オイラもビックリだナ...」
――魔法の武器。相なれない剣技と魔術、そのかけ離れたものを有する者にのみ行使が可能な技である。その為メルルヴィアの魔法院ではこの魔術を使用する者は異端児されると言う。本来、魔術師が貧弱な筋力を埋めるために使う魔術だが、騎士は魔の極地にも剣技の極地へともたどり着いており、相手は驚異以上の他ないだろう。その魔術をしかと目に焼き付けたキリトとアルゴは目を丸くして騎士のロングソードを見つめていた。
「...他のファンタジー系VRMMOに行けばエンチェントはあるかもしれないけど...このSAOに限ってはエンチェなんて出したらバランス崩壊まっしぐらだしな...」
「オイラも同意見ダ。一瞬キー坊の理論に惑わされそうになったが、シーくんはNPCじゃナイ。プレイヤーダ」
「プレイヤー...か、なんか引っかかるところがあるけど...ひとまずはそういう事にしておくか」
キリトがシークから身を離した。アルゴもそれに習ったのか身をすっと引く。途端に張り詰めていた場の空気が柔和になっていく。取り出していた得物をソウルに還元すると、代わりにダガーを取り出した。至って見た目は普通のダガーではあるが、これもこれで楔石による強化が施されており、加えて毒による変質強化もされている。もし、仮に誰かが深夜の寝込みを襲ってきても即座に対処するための武器である。
―――が、
「いやいや、このSAOは扉はパーティメンバー以外は開けられないぞ。だから寝込みに襲われるなんて事はないし、第一ここは圏内だし、HPが減ることはないよ」
「キー坊の後者は間違いだガ、前者は言う通りダ。そこまで警戒しなくても、誰も襲ってはこないサ」
《そういうものなのか》
騎士はやれやれと腰のダガーをソウルの内に収納した、ように見せかけた。実際はいつでも闘うことが出来るようにソウルの上層部分に置いただけである。だが、他の者からそれを視認する事は不可能である。キリト達はソウルの何たるかを理解していないため騎士が武器を収めたと思い、ストレージから食料品を取り出し食べ始めた。
「で、明日の攻略会議だけども」
「そうだナ。オイラは参加しない方針デ」
「え?どうしてだ?最高のネタになるじゃないか」
「まだ、オイラはキー坊とは違ってやることが色々残ってんダヨ、だから明日はシーくん頼むナ!」
《私は赤子ではないのだが...》
他愛のない談笑をくり返し。そして、次第に疲れが来たのかパタリパタリと寝ていった。やがて寝息だけが聞こえており、あたりも闇に染まる頃。そんな中、片手剣士キリトだけは睡眠を未だとらずに武器を抜いて眺めていた。月明かりを受けてキラリと輝く刀身には細かな傷が入っており、使い込まれている事が容易に察する事が出来た。その剣を暫く見ていた騎士は、どれほどこの死地において鍛錬を積み、戦闘を繰り返し、戦果を挙げたのかは容易に察する事が出来た。その剣を眺めるキリトの面は硬い。
暫くすると、鞘に剣を収めストレージへとしまい込んだ。ふと、顔をこちらへ向ける。闇夜の夜に騎士を再び見つめるその双眼は鋭かった。
「なぁ、シーク...死ぬってどんな感じ...なんだ?」
《はたして真っ当な人間と不死人の死に方が同等とは考えられないが》
《己が消えてなくなる見えない闇の奈落の底に落ちていく感覚と答えておこう》
「――ッ」
キリトは考えた。己が消えて行く、その瞬間を。死の宣告が視界を包み神の高笑いを聞きながら四散するその瞬間を。途端に底冷えするような寒気が足の裏より襲う。ガタガタと震え出す拳をどうにか抑えようとするが、どうにもリアルな死が頭から離れない。仮想空間だと言うのに汗が背を伝う感覚が感じられた。月夜の光も歪んで辺りの草を全てが、この鋼鉄城に巣食う化物に見えた。呼吸が荒くなる。このデスゲームに来てから考えた死を初めて深く感じた。意図も容易くきえてしまいそうなこの体が。軽く、軽く感じた。
「―――」
騎士はその光景を知っている。自分の初陣もそうだった。震え上がった手から剣が落ち、拾おうと思っても腰が抜けて立てなかったその記憶を。そこからは鮮明に覚えてないが、今思えば正しく格好の的とはあの事だと思い出す。キリトはその間にも動悸を乱れさせ、床に肘を付かせて呻いている。
騎士はその肩に手を乗せた。このように人に手を置くのは何年ぶりだったか、とうに忘れてしまった。だが、覚えている。確かに人には温もりがあったのだと。ソウルではなく心の温かさがあったと。手を置かれた。
はっとキリトは我に帰ったは荒くなった呼吸を整えて、未だ正しくならぬ視界を騎士に向ける。
「そうだったな...シークは今まで一人で戦ってきた本物の騎士だったっけ...」
「まだ、ダメだな...腹を括ったつもりが全然じゃないか...」
自嘲気味に笑う。
騎士はその心の内を知っている。何度も命を絶たれ、己が際限なく無へと落ちていくことを悟ってしまったあの時の心情を騎士は知っている。巨大な絶望を前に心が折れてしまいそうだったあの時を。
《腹を括った程度で変わるわけじゃない。死は等しく平等だ、愚者であれ強者であれ》
「それは分かってる。分かってるんだ。でも何とかしなきゃって考えちまうんだよ...!俺一人でもこのデスゲームを勝ち残らなきゃってな...」
《そうか》
騎士はその結末を知っている。思い知っている。
誰の力も必要ないと意味の無い我を通して同じ苦しみを知っている。騎士は人から揶揄され、罵られ、孤独であった。世界の外からの白霊はともかく騎士の世界では共に剣をとる味方はいない、そう思っていた。孤独で全てを背負い込み、それを他者に渡さんとするその無力な我慢を。分からせなければなるまい。世界は絶望に満ちていながらも一筋よりも小さな希望があることを。
騎士はすっと肩から手を外し、キリトの前に立った。そして、俯いているキリトの鳩尾向かって拳を叩き込んだ。モロに食らったキリトは大きく吹っ飛んで壁に叩きつけられる。HPバーがグリーンからイエローへそしてレッドへといとも容易く突入する。当然、システムエラーが出ると思っていたキリトは何が起きたかも理解することなく辺りを見渡す。そして自身のHPを確認するやいなや一気に冷や汗が吹き出す。
「アアアァァァァ!?」
キリトはようやく自分のおかれた状況を呑み込めた。
減り続ける│HP《命》。温厚だと思っていた騎士の突然の暴挙。そして絶対安全だと思っていたシステムの無効。呑み込めはしたものの理解が追い付かず恐慌する。
目の前の男は、自分を殺す気だ。何故殺されると思ったのかは分からない。考える時間さえない。
殺気、佇まい。その存在自体が殺しにかかっているのだ。
しかし抵抗しようにも既に残りHPは一割切っている。
せめてもの報いにと握り拳を握り騎士へと殴りかかる。
「アァァ!」
「――」
騎士はその攻撃に見向きもしなかった。代わりに直ぐに蒼い澄んだ色をした指輪と竜の意匠をかたどった鈴を取り出し詠唱をする。キリトの死に絶えの拳が騎士の体を襲うが圧倒的な筋力と体力を誇る騎士の体はびくともしない。
(ここまでか...くそ...)
攻撃虚しくキリトの命尽きようとしただった。光が辺りを包んだ。闇夜を切り裂き光の奔流を魅せた。その光に触れたキリトの体力はありえない速さで回復していく。
――大回復。難題で壮大なこの奇跡は術者の信仰の強さによってその修繕力を高める。騎士は聖職者ではない。だが、長い旅路の果に奇跡を習得し、本来の聖職者と比べても遜色ない、若しくはそれ以上信仰を高めた。信仰の頂まで高められたその奇跡は、大概の傷は癒すことが出来る。今にも消えかけていたキリトの生命力は砂時計を傾けるが如く、元に戻っていった。
「...何の真似だ」
《何を悟ったつもりだ》
簡素な電子的なメッセージでありながら、その文面は騎士の心情を意図も容易く表していた。
「何って...このデスゲームは一人でも生き残る力がないと途端に消えちまう。ましてやシークみたいに絶対的な力なんてない。だから...」
《一人で?笑わせてくれる。まだそんな児のようにつまらぬ意地を張るのか》
《どうだ、一度死に近付いた感覚は?それでもまだ一人で戦うというのか》
「...怖かったさ。死に近づくのは。でも、それを恐れていたら何も前に進めない。効率良くレベルを上げて、安定して生き残れるようになるんだ...絶対に...!」
キリトの目は真剣だった。覚悟を決めて、後悔しない様にした、目。心の折れた者達ばかりを見てきた騎士からするならばとても新鮮であり、愚かであり、何よりも妬ましかった。あれだけ死に近付いたというのに折れないキリトの心が。その眼光が。
《ふむ、孤軍奮戦をそこまで望むならもう私は止めない》
《だが、肝に銘じておくといい。人は孤独ではないと言う事を。それは害であれ、利であれ、誰しもその繋がりは断てない》
「...分かった、出来るだけ思いだすようにするよ」
キリトはその返答の後急速に肝を冷やした事で疲れたのか、目をつぶり死んだように眠った。皮肉な事だ。死を体験したというのに。
騎士は夜空を見上げた。作り物の月光が棚引く草むらを照らし、それはまるでこれから起こる焦燥を表しているようにも見え、騎士はその夜床につくことが出来なかった。
闇を見る視界に火はまだ存在しない。
ダクソ3に打込みすぎて更新を忘れておりました。
申し訳ございません。
ただ、やってる中で一つ。
――無名の王ラスボス以上の貫禄じゃね?