香霖堂には、妖怪や人間など、様々な客が来た。
僕はなんにもせず、奥から見ていたが、霖之助さんは道具屋だけじゃなく、修理屋もしているらしい。
主に服の修理をしているようだ。
棚の中に、裁縫道具やリボンやボタン、布など、色々な物がはいっている。
妖怪としての術や空を飛ぶことを覚え、僕は少しずつ、幻想郷に慣れていった。
幻想郷に、受け入れられていただけかもしれないけれど。
「ヒトミ、ちょっと出るから、店番よろしく」
「あ、はいっ!」
最近与えられた仕事は、店番をすることだった。
なんでも頼りきりだから、できればなにか手伝いたいのだけれど、僕はきっとドジばかりして、逆に迷惑だろう。
店内は薄暗かった。
物が多すぎるせいで、窓が半分ほどふさがれているせいだ。
それだからか、今は明るいということを忘れてしまいそうになる。
店内には時計の針が鳴る音だけが鳴り響いていた。
僕は霖之助さんの勧めてくれた絵本を読みながら、お茶を啜っていた。
少しすると何人か客が来たが、昼頃になるとぱったりと客足が途絶えた。
暇になった僕は、なにか考えてみることにした。
浮かんできたのは、
「夢と現を操る程度の能力」についてだった。
紫さんには言われたけれど、未だ扱い方がよくわからない。
『夢と現の境界をなくして、幻想を見せる能力。自分の見た夢、他人の見た夢、それを現実と交じあわせる力』
夢…夢とは、幻想のことをさすんじゃないだろうか。
…例えば、僕がここにお団子があると想像したとする。
それは僕の見た夢…つまり幻想であり、現実じゃない。
だけど僕の能力は、それを出すことができるということだ。
団子の味はどうなのか。
もしかしたら、味は感じるかもしれない。
だが、胃にはいかないだろう。
もしかしたら、意図的に自分以外触れないようにもできるかもしれない。
人が思い出す記憶も幻想なのだから、出すことができるのでは?
そこまで考えて気がついた。
どうやったら幻想を現実と交じ合わせることができるのか、わからない。
ためしに頭の中にリンゴを想像しながら、念じてみる。
しかし、なにも出てこない。
リンゴの食感や形を具体的に考えてみても、できなかった。
なにが発動条件なのか。
それはこの瞳にヒントがあるんじゃないだろうか。
そこまで考えると、僕は立ち上がって道具屋に置いてあるレトロな鏡を覗き込んだ。
相変わらず、不気味な瞳だ。
「リンゴ…」
また念じたり、考えたりしてみる。
結果、無理だった。
もしかしたら能力の解釈を間違えているのかもしれない。
そう考えていると、ドアの開いた音がした。
「あ、いらっしゃいませ」
しかし、店先に立っていたのは、霖之助さんだった。
「お帰りなさい。随分遅かったんですね。大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫だよ。遅いがお昼にしよう」
「はーい」
「能力の使い方?」
「霖之助さん、わかりませんか?」
「うーん、そうだな…。能力の名前にヒントがあると思うよ。夢と現を操る程度の能力…紫の言葉を借りるのならば、あくまで夢と現を交えるというだけであって、思い浮かべたものを具現化するわけじゃない。どちらかというと、具現ではなく、見えるように見せる…つまり、見えないものが見える幻覚といった感じだろう。交えるだけで、在るわけじゃない」
「見えるように見せる…」
りんごを想像する。
しかし、今度は念じているんじゃない。
目で、映し出しているのだ。
「出た…りんご…」
僕はそれを持ち上げて、一口かじってみる。
味や匂いを感じるし、本物のように感じる。
だけど、喉を通り抜けていったりんごは、胃に行かず消えていく。
これは、術者にしかわからないだろうが…。
「霖之助さん、なにか思い浮かべてくれませんか?」
「え?」
「ちょっとやりたいことがあるので」
また集中すると、霖之助さんが、なにか思い浮かべていることがわかるとわかった。
それを出してみる。
梅
「上達が早いね。じゃあ…生き物はできるのかい?」
「生き物?」
「猫とか…虎とか」
「動物ですか?…うーん」
猫は出たことには出たのだが、なんだか動きが人形のように気持ち悪い。
「動物とかは動きをよく観察しないと…」
「まあ頑張って覚えなよ」
西日が傾いてきていた。
To be continued…
能力キター