群青月歩   作:綿苗

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08、No kidding

 

 涙で薄く膜が張った瞳からついに大粒のしずくがぽろりと零れ、刀身に当たって蒸発した。

 

右手の太刀の刃長は目測でおよそ二尺六寸四分(約80.0cm)。細身な刀身から柄尻にかけて一点の光も逃さぬ濃い群青を染み込ませたような色を長さの違う二振りはしていた。肌を焦がすような熱気はまだ若かった頃の山じぃの《流刃若火(りゅうじんじゃっか)》に似ていた。―――綺麗な斬魄刀だ。感想に嘘はない彼女の斬魄刀から目線を、彼女に向けた。纏う霊圧は鮮明な群青色の炎のように揺れるように変わっていて修羅の鬼気とした感覚、宗教的香気の世界観を感じた。

 

「キミは一体何に恥じているんだ」

京楽は、高揚した頬を持ち上げて言う。

 

始解によって形状の変わったのは刀身のみでなく、合わせて鞘も二つに増えた。形状も刃の形に変わりそれが編んだ紐で繋がって、腰から垂れる。杏は手首を返して斬魄刀を逆手に持ち替え、始解から浅打の一振りに戻すと、鞘に納めた。すると、道場の空間の高まった熱気も霊圧もゆっくりと下がっていった。感心したように京楽が顎をさするとジョリっと嫌な音を立てて炙られ炭化した髭が散った。腰から背中の定位置に長い斬魄刀を背負い直すと軽い金属音が立った。

 

「...私は、真名を隠して形を歪めて披露することもできました。そうしたらきっと、隊長は私に見せる気がないと分かればそれ以上追求するようなことはないでしょうし」

 

自然と視線の下がった杏が、ぽつりぽつりと言葉をつなげていく、伏せた目にもはもう涙は見えず、てらてらと輝いて見えたあの瞳はもう無かった。

 

「…私は、群青飛鷺が苦手、です。嫌いに近いかもしれません」

 

ちりっと肌を刺すような乱れた霊圧だけが、妙に子供じみていたことに僕は笑うのを止められなかった。杏にとって、浮竹と京楽の斬魄刀(もの)だけがこの尸魂界(ソウルソサエティ)唯一の二刀一対の刀であった。杏は前はオタクでこの世界のファンであったから、介入者(イレギュラー)であったとしても特別になりたいわけではない、少しだけ世界に混じって自分の手の届く範囲に世界へ介入するのが理想的という屁理屈を持っていた。二人の隊長格が狛犬のように対になって尸魂界を護る。二刀一対の二人という形が”完璧”で"崩すべきでない均衡"であったから辛かった。10代の主張ならぬオタクの主張...介入者でも、やっていい事と悪い事があるんだぜ…

 

京楽は、改めて黒崎杏を見た。

 

チカチカと目の奥に残った淡い青の火の粉を、振り払うように瞬きをして、よく見た。

”死人の面影を背負った少女”と言い表したのは、あまり的確ではなかったようだ。少女は少女であった。どうも我々の目は先入観からの錯覚で、彼女自身を見ていなかったらしいと気づく。彼と同じ襟足を弄る仕草なんかは、それをする指なんか深爪気味の長い指で全体的にまろく小さい、彼の方は余り覚えていないがきっと男らしい無骨な手をしていたはずだ。

彼女は砕かれた群青岩のような瞳をしているが彼の目は翡翠の光沢をしていたはずだ、それに少女には彼に気づかなかった、深みがある。

 

理解しがたく介入できない彼女の悩みは、彼女の味であると言える。少女から女性へと変貌遂げる瞬間にぜひとも立ち会いたいと思ってしまうほどに深い。

 

「もしキミが許してくれるなら、あんずちゃんが群青飛鷺を好きになる手助けをさせてくれないかい」

 

「それは、その…意味が、よく分かりませんでした」

 

「僕の弟子になってみないか?ってことなんだけど…あんずちゃんと群青飛鷺の付き合い方一緒に考えてみないかい。どうせ一生モノの斬魄刀だ、嫌でもあんずちゃんからその子を抜かした人生は送れないんだから」

 

ゾッとした、あまりに自然に風にのせて歌うように、私の人生という重いワードを入れてきたことに肝が冷えた。なんなんだろう、私の上司はこんな言葉を選ぶキャラじゃなかったはず…悶々と悩む。ネガティブモードから一気に真顔に変わらざるを得ない…むしろ、脳みそがスッキリして冷静に…なったような、ならないような。

 

ごくり、つばを飲み込むと丁度風が吹き込み床に落ちていた笠が舞う、はっと手を伸ばせば届きそうだったので杏が手を出すと、それは指先が触れた瞬間に形を崩した。




見にくいと指摘されたのがモヤモヤしてて、なるべくシンプルに書こうとしてみましたが、普通の女の子の感情がシンプルに落ち着くはずねーなと思って次からも好きに書きます。

でも、見やすくなるように書きます。
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