群青月歩   作:綿苗

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11、日常

ずっ、歩いて来た通路がそこを境に空気が変わったことにすこしばかり歩みが止まる。

 

じっとりとした湿気や熱気に少々足は重くなるが、歩みをまた始める。

九番隊副隊長 檜佐木修兵は十一番隊の隊舎に来ていた。涼しい隊舎から日の中に出てきた温度差のせいなのか、副隊長クラスが訪れるのが珍しいのか興味本位の四方から感じる視線のせいなのか、体はますます重くなるばかりだ。

 

耳が拾うのは、望んだ軽やかな少女の声ではなく、男供の野太い男の声だけ。こんなところであの”始解もままならない”という少女は上手くやれているのだろうかと、一瞬不安がよぎるが初対面で蹴りを繰り出してきた子供がそんな繊細さを持ち合わせてるわけがないと振り消した。

 

ふと顔を上げると屋根越しの空の高い位置を、燕が飛んでいた。

 

十一番隊の特色として、まず上げられるのはその道場の大きさだ。他の隊より面積を多めにとっていて、隊主室までも道場側に建っている。

それに対比して事務所代わりの隊舎は狭く隅っこに孤立した形で建っている。道場を横目に、随分遠くに感じられた隊舎にたどり着くと、どうにもうわついた。

 

わざわざ会いに来ては見たものの、特に用事もなくやってきた副隊長に対してなんとあの子供が思うのか少し不安だった。

「(いや、自分が卑下になる理由はねえわな。むしろ、会いにこねえあいつの方が気まずくなる方だろうが…ここは大人として死神の先輩としてどーんと様子を見にきてやったとか挨拶しにこいよって言ってやるべきだろ)」

 

ふんっと気合を入れてやれば、その勢いのまま障子戸に手をかける。柄にもなく少しばかりの緊張が指に伝わる。少し立て付けの悪い戸を開くと肌に熱風が当たりすこし不快だった。

 

「よ、よお!」

 

それに続く言葉は飲み込まれた、勢いよく発生した音はもう戻らないがその音さえ部屋は飲み込み静寂な室内に戻った。

 

熱風がこもっていたのも無理はない、人がいなくなるため戸締りをしっかりしておいたのだろう。窓がしっかり閉められ暗い室内に育ちの良さがうかがえられた。整頓された書類の束だけが残され人影はない。思わず顔を手で覆った。

 

遠くの方では、蝉が景気良く鳴いていた。

 

_________

 

同時刻に黒崎杏は、とある所用で十一番隊隊の隊舎と雑務から逃げ出していた。

 

「うひぃ…さいこう…」

 

小さな声で漏らしたつもりだったが、部屋の中にいたもう一人の耳は拾っていたようで鼻で笑われたので「へへっ」と笑って誤魔化した。

片手に持っていた急須を思い出したように傾け、熱いほうじ茶を二つの湯飲みに均等に注いだ。

 

十二番隊には、技術開発局が傘下に存在する。そして、黒崎杏はその技術開発局に設置されたうちの一つのソファに腰を沈めていた。

 

薄墨色の暗がりに機械のモニターが爛々と光を放ち最小限の光の中で、額に角を四つ生やした男 十二番隊三席・技術開発局副局長 阿近の顔は照らされていた。

 

ひんやりと冷房のきいた涼しい屋内。少し鼻につく除光液のような薬品の匂いには、最近慣れた。 

そして、眼前にある。冷房でしっかり冷やされた体に合わせて入れた、熱いほうじ茶。その一つを、手に取りいつ置かれたのかも分からない使いっぱのカップの横に置いた。

 

カップを持てるだけ持って流しに置くと横の備え付けの冷蔵庫から、最初来た時に「あるもの勝手に取って食っていいぞ。」と了承を得ていたので遠慮なく中身を物色する。

 

目に入ったのは水無月で、涼しげな見た目のそれに惹かれて一つ取り出した。

 

あの、冷房さえ装備されていない隊舎で黙々と書面に向き合っていた時間に比べると遥かに素晴らしく、ここは極楽浄土だ。

和菓子によくある青竹の爪楊枝を懐紙と一緒に棚から取り出して、ソファとテーブルが設置された場所に戻る。挿して持ち上げると、上の敷き詰められた甘納豆と真っ白な二層が三角形に切り整えられた水無月がぷるりと揺れた。口に運べば、まずむっちりとした歯ざわりに頬が高揚する。舌に伝わるひんやりとした冷たさ思わずついた息も上品な甘い香りで上質な砂糖が使ってるようで笑みが漏れそうになった。

 

「阿近さーん、この水無月どこのですか?美味しい...です」

 

今週は丁度修行をつけてもらう予定だ。

そんなに高くなければ七緒副隊長と京楽隊長にでもお土産に買って来たいな...でも、水無月は名前の通り六月の和菓子だからないかな?

思考しながらもう一口へと手を出すと、私にはわからない数字や文字の羅列が印刷され続けている用紙に顔を向けたまま、阿近さんはなんでもないように答えた。

「おお、そりゃあよかったな。俺の手作りはうめえだろう」

「天才か」

「おう。それより、出来たぞ」

「あ、はあい」

 

無難に流されたので、しゅんとなる…

途中だった水無月を口に詰め込んで、阿近さんのもとに小走りで近寄ると「リスみてえになってんぞ」と頬を指で刺された。どこの少女漫画出身だおい、正直に吐け。

ぶんっと首を遠ざけて、拒否を示すと笑われたのでやっぱりこの人だけ出身違うよなと、思いました、丸

 

それはそうと、手渡された長方形の箱を開けて確認すると想像通りの眼帯が綺麗になって鎮座していた。

眼帯、気づいた方はいるかもしれない十一番隊と眼帯。これは更木隊長の装着者の霊圧を食い続けリミッターとなっているあの眼帯だ。

滅多に満足した戦闘のない隊長の霊圧は、眼帯の限度量を超えてしまったらしく漏れでた圧で失神者が多発。コントロールしたところで剣八の霊圧に耐えられる平隊員はそういないらしい。

週または月一でのメンテナンスが入ることになったが、なにせ更木隊長は十二番隊を苦手としている気があり自分で出向きたくないということもあり、普段から書類の束を持ってやちる副隊長と鬼ごっこをしている私に白羽の矢がたったのだ。

 

「はい、間違いなく受け取りました。つぎのメンテナンスはいつ頃ですかね」

「そうだな、ちょいちょい様子見つつで次からは、一年置きで大丈夫そうだけどな」

「おお、そうですか...了解です伝えときます。」

 

身長が足りないせいで、ずっ、音を立ててほうじ茶が阿近さんの喉を通りすぎていくのを見つながらいうと、阿近さんは背を曲げて目線を合わせる。

「べつに用事はなくても茶入れにきてくれていいんだぜ」

 

だから、あんたどこの少女漫画出身ですか。

 

_________________

 

 

 西日の強い九番隊のそれと似たようなしかし傷にまみれた板張りの溝を感じながら、十一番隊の縁側に檜佐木 修兵は座り込んでいた。

実際、暑さで立ちくらみがしたから暫くは動けなさそうだった。視界の先では蜃気楼が踊っている。

 

遠くの方では、蝉の虚しい求愛の叫びが、悲鳴のようにも聞こえていた。

ああ、喉が渇く。そろそろ立ち去ろう、とは思うのだがどうにも腰を上げるのがだるい。

 

色々と悩んだ挙句、目的の人物に会えなかったショックとは結構響くものなのだな…。額から垂れ鼻先まで降りて来た汗を手の甲で拭う。

いい加減動かなければ、そう思ったとき檜佐木修兵に影がかかった。

 

「あれ、檜佐木副隊長…お久しぶりです、どうされたんです?誰か席官にご用事でしたか?」

班目三席でしたら道場の方ですよ。なんて、なんて暢気な声を出しやがるんだ。

 

影を作っていたのは、目的の人物黒崎 杏だった。

覚えていた時の声より、少し低い。そもそも体型が変わっていた。子供らしい細い首筋や手首は変わらず、相変わらず折れてしまいそうだがひょろりと縦に伸びていた。俺の肩まで頭があるということは、5尺6寸1分(170cm)有るかないかだろうか。もう子供特有のまろみはなく、暑さのせいでか頬は赤らんでいた。

 

しかし、一目であの子供だと分かった。

あの髪は、瞳は変わらない…ずっと変わらないんだな…俺は再び暁天(ぎょうてん)の深淵に相見えた。群青に近いくせのある髪は、一つにまとめられおり光の具合で浅く深く輝いているようにも見えた。

 

「おう、本当に…久しぶりだなあ黒崎」

いつも通りの声色とは裏腹に修兵の心は、ざわついている。秋の山のように燃え、静かにその枝を揺らしていた。

 

もう蝉は鳴いていなかった。

 

 

_______

 

「じゃあ、うどん屋さんか甘味屋さんにでもいきませんか?お詫びで奢りますよ。ここは、冷房がないもので暑いですから

ああ、でもちょっと待っててください。隊長にコレ届けないと」

 

十一番隊に訪れた経緯を話せば、場所を変えようと提案されるので、肯定の意を示すよう声を漏らした。

コレと言って振られたのは長めに作られた箱だった。十一番隊を離れたのはどうやら更木隊長の用事だったらしい。どうにも自分のタイミングの悪さには、笑うしかなかった。

 

 

流魂街

 

街に下りてから、二人の行動は早かった。

お互い昼はまだだということで、提案のあったうどん屋に入り。話しやすいだろうと半個室のようになっているテーブル席を取り、注文まで済ませた。

杏はきつねうどんの大盛りといなり寿司とあんみつ。檜佐木は天ぷらうどんを。

 

食後の煎茶までいくと、口も軽くなる。

いろいろと話していくうちに噂の真実が明らかになる。例えば、真央霊術院での飛び級での卒業が決まっていた先輩をノシて横入りで卒業しただとかは、相手側からの申し出で負けた後の円城寺は自分から入隊ではなく真央霊術院の教員の道に進んだとか。

 

実は、京楽の隠し子だった。なんて噂が出回っているのは初耳だったようで、杏は顔を熟れたように真っ赤にして憤慨していた。

 

「それで、十一番隊ではやっていけてるのか?始解まだできてないって聞いたが」

 

「あれ?あー、なるほどそういう感じの噂もあるんですか。まあ、席官の末席にいるといってもほとんど事務仕事なので支障はないです。

意外だったんですが隊長は普段の業務は真面目なので…阿散井六席にも手伝っていただいてますし、問題は隊員ですね。

ほとんど私がやっているようなものなので…」

 

「ああ、あの人仕事だと真面目だからなあ…瀞霊廷通信には一切そこ発揮して貰えてないんだがなあ」

 

ずっ、安い煎茶をすすると鼻に刈ったばかりの草の匂いが通り過ぎていった。

そうか、そんな風に捉えられていたのかと、杏は納得した。十一番隊に配属されてから、事務仕事に加え副隊長とのデス⭐︎鬼ごっこ(~捕まったら最後、恐怖の残業~)のせいで隊員達には絡まれないのかと思ったが、どうも違ったようだ。私は十一番隊では、始解のできない事務員(大事にしようね!)ってところらしい。

 

始解が嫌すぎて、浅打と鬼道だけで戦闘をこなしていたことがここで影響が出ていたのかと、思わず感心してしまった。

 

「あ、なにか注文されますか?私あんみつもう一個食べようかと…」

「お前よく食うなあ、てか雰囲気変わったなあ…」

 

脛を蹴られたいのだろうか…




はい…もりもり盛り増。

原作との相違点等はそういう世界線とご理解ください

むずい

あと作者は、阿近さんが好きです…
うちの阿近さんは2メートルあります
勢いで入稿。勉強嫌いな分書いてしまう…夜のテンション…
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