群青月歩   作:綿苗

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救出篇
14、鐘の音


「おい、一護。この写真の子供は杏というのではないか」

 

「あ…何でお前そんなこと」

 

六月の初め、雨の降る日が増え始めようやく迎えた晴天の日。今日は家族がそれぞれの用事で家を出ており、家には一護とルキアの二人だけだ。 

 

そしてルキアがそれに気を取られたのはたまたまだった。いつも視界には入っていたが触れないでいたもの。黒崎家の食卓には、如何様にしても遺影とは言い難い加工に加工を重ね引き伸ばしポスターにしたものが飾られている。

 

よくよく見ることもなかったそれに今日は妙に惹かれ、じっくりとその遺影を観察する。

 

橙色の髪を靡かせ女神のような母に抱きしめられた、天使の風貌に加工された少女。くりくりと癖のある黒髪にふくっらとした子供特有の頬。しかしその大きな瞳には、どこか見覚えがある。はて、どこで見かけたかと思案してみるがぼんやりと思い出せない…ではと、印象的な瞳を見れば黒曜石や岩群青を砕いて散らしたような瞳。少し垂れたような目元を飾り付けるような睫毛。ああ…確かに知っているこの瞳は、

 

はっ、と息を引き込むとタイミングよく二階から降りてきた一護にルキアは、指を差して問いかけた。

 

 

 

_______

 

夏の盛りを迎えた頃、瀞霊廷の一角の和室に敷かれた布団の中では一つの戦いが巻き起こっていた。

 

朝が嫌い、というわけではないがいくら歳を重ねようと黒崎杏が布団の中の温もりには勝てないもので、黒崎 杏は布団の中で胎児の様に膝を抱え込んで温もりの中を微睡んでいた。枕元からは豊かなうねる黒髪が川のように流れて呼吸のたびに振動で幽かに揺れていた。

 

だが穏やかな時間というものには終わりが付きもので、二度目の目覚ましが起床の時間を知らせた。ズボッと勢いづいて抜け出した杏の顔の不機嫌さよ…ばさりと持ち上がっていた長い前髪がそれを隠すように落ちた。

 

席官となり簡単な住居を手に入れた杏だが朝のルーティンが変わらない。

 

学生時代に行っていた習慣というのはなかなか抜けず。昨日のうちに桶に汲んでおいた水で顔を洗い、化粧水やらクリームやらを塗っていく。そして簡単に布団を畳んでしまい、次に寝巻きを脱ぎ捨てて抜け殻を残す。

肌着のまま衣紋掛けの死覇装へと手をかけると、摘んだ際に見えた内側の、縫い付けられた隊章に一時、手が止まった。

 

”七番隊”

縫い付けられたものは確かにそう書かれていた。

 

 

春の終わりに、異動が言い渡された。

 

阿散井恋次が六番隊の副隊長に、朽木ルキアが現世への赴任と同時に申し渡された異動で、私は七番隊の三席。あの十一番隊の地獄の書類仕事からの解放には、思わず神に感謝したが私がそもそも死“神”だったなと思って瞬時にしらけた。そして今度は三席の業務が始まることに対してか目まぐるしい異動へのストレスからか、眉間にシワが刻まれ鏡を見るとますます一護に似てきた風貌に「双子って素晴らしいなあ」とそこにだけ笑みが溢れた。

 

「(そういえば…最近あの夢を見なくなった…なぜ?物語が始まったから…?)」

 

戻した前髪の奥から鏡の自分を見据えて、あの十八才の少女が読んでいたBLEACHというタイトルの単行本を思い出す。最後に見たのは異動を言い渡される前…愛染隊長が一護に倒され封印される…というところまでそれから先は未知の領域となる…わたしはどうにかそれまで頑張らなければと塗り忘れていた日焼け止めのクリームを塗りたくった。

 

ちなみに異動の理由は、おそらく一昨年の分裂する虚を抹消した一件だろうと勝手に当たりをつけている。鬼道に優れた人材をわざわざ肉体派の十一番隊で眠らせておく利点はない。私には鬼道=二番隊という勝手なイメージもあったため、その理由だと七番隊に配属されたことに違和感を感じるがきっと瀞霊廷において妥当な異動であったのだと思う。

 

そして、朽木ルキアの失踪。

 

これに瀞霊廷はついに動き出した。

そして一介の死神にできることはない。ゆえに私は動かない、動けない。記憶通りの内容で進んでもらうしかないのだ。

 

諦めたように鼻から息をつけば気を取り直して着付け、座卓の前に座る。身支度の続きをせねばならない、置かれた茶色の小瓶から杏油を両手に垂らして、丁寧に髪に揉み込む。木製の櫛で梳くと父親似の剛毛はなりを少しばかり潜め、素直になったそこをギッチリ纏め上げ高く結う。尾のように垂らすと手に残った油分を前髪に撫で付けた。

 

さあ、出勤だ。

 

_______その日の夜、六番隊隊長、副隊長と共に朽木ルキアが帰還した。

生身の人間への死神の力の譲渡。やむを得なかった事態であったとはいえ朽木ルキアの行為は"第一級重禍罪"であったと、尸魂界(ソウル・ソサエティ)最高司法機関中央四十六室により処罰がくだされる。

 

一度、顔を見に牢に寄ったが氷柱のように一人静寂を身に纏った朽木ルキアが私を迎えた。話をしてみれば幽かに微笑むが、やはり乏しい表情を思い出すと胸がズクリと痛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数日後、瀞霊廷に異常事態を知らせる警鐘が鳴り響いた。

 

警鐘の甲高い音は、その役割通りに瀞霊廷内を駆け巡る。《三号から八号域に警戒令》と何度も繰り返される警告に、七番隊に白道門近辺に緊急の配置が下され、私も急いで数名の隊員を引き連れて白道門近辺に向かうと、すでに九番隊の副隊長 檜佐木 修兵と数名の隊士が配置についていた。

 

「お疲れ様です。檜佐木副隊長…まだみたいですね旅禍」

「ああ、お前も災難だな…三席になったばっかりだっていうのに」

 

その覗かせた不憫そうな顔ににょきにょきと伸びた身長を生かして一撃加えたかったが、流石に隊員たちの前でそれはいただけない。180cm強VS174cmの戦いの火蓋は切られずに理性によって鎮火された。そんなことを知らず「警戒を怠るなよ。」と一言言い残し去っていった男の背を見送り、私も自身の隊員達の元に戻った。

 

 

空を仰げば、晴天に恵まれ陽光が頬を軽く刺す。手をかざして日陰を作れば、どおんという衝撃に流魂街に増えた霊圧。

「あ、遂に来たね一護。」

 

誰にも聞こえはしまい、騒ついた廷内に溶け込むように呟いた言葉には確かに再会への期待が滲んでいた。

 

 

 

 

 

 




評価ありがとうございます‼︎

ちょっとスランプ気味で味気ないものが続くと思われます、おやつを片手に読んでいただけたら幸いです。
それと絵を描いてみました…大体現在のイメージです参考程度にどうぞ


【挿絵表示】


原作を活かすか、自身の文章を活かすかが難しいです…が原作がこの頃はサクサク進んでるイメージなので更新早めにしようかと考えてます。がんばるぞー!

すみません書き忘れあったので11/15に直し加筆しました!
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