群青月歩   作:綿苗

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幽霊編
00、唐突の死亡確定


 死の瞬間を未だに覚えている。

 雨で水量の増す川の中、双子の弟とまだまともに喋ることもしてあげられてない妹のことを考えながら濁流に飲み込まれて、死んだ。身体はだいぶ長い間水に浸かっていた。

 

◆◆◆

 

 6月17日

 重い雨の中、双子の弟の前で母と二人その日に死んでしまった。なんとも、あっけなく空しい。悲しむ暇もなくて、私は妙に冷静でいて自分自身が気持ち悪かった。

 

 

鮟鱇の様に少女の疑似餌を垂らした虚は、弟を釣り上げた。

一護は幼かったから、だからしょうがなかった。人と違うモノの区別がまだ難しかった。...そこまで考えて目の前で母親と双子の片割れが死ぬ・流される場面なんて見てしまってトラウマになってしまってるんじゃない?と心配になって来た...死んでしまったけれどもやはり常に一緒に居た弟のことが心配だ。

それにしても、お母さんと違い私の身体は、ずいぶんと下流まで押し流されてしまった。運良く木に引っかかり海まで流れることはなく、布きれみたいに漂っている。やっぱり生気の無い自分の顔を見下ろすのは不思議だった。

 

どうする事もできないので、諦めて私は身体の引っかかった木に登った。

枝の間から覗くとなんだか私はこの世界ときっかり突き放されてしまったように感じれた。

「なるべく身体のキレイなうちに見つけてほしいな、一護」

膝を立てて座ると身体と繋がった鎖が揺れて、動きも多少制限されてしまう。うーん、ままならんなあ。

 

それから2、3日過ぎた頃にパトカーが2台に、野次馬が沢山。そして大切な双子の弟(一護)、厳しい顔をしたお父さんに抱っこされた妹たち。

 

 私の"身体"が無事見つけられた。

 

私を見つけたのは、散歩中のわんちゃんで警察が来てしばらく経ったらみんなが来た。

家族が到着してから最初に私を見つけてくれたのは一護だった、泣きそうな顔してお父さんと川沿いに歩いて岸辺に上げられてブルーシートからはみ出たふやけた脚を見つけた瞬間に泣き出した。

お父さんが急いで一護を背に隠す。お父さんにばかり酷い役目をさせてしまって、本当に申し訳ないと思う。けど、自分で見ても酷い有り様だから一護に見られなくてよかった。最後に見た姿ぶよぶよの姿で覚えられてたら切ないもんね。どうせなら近くにまで近寄って抱きしめたいけど近くにいけない。

 

私は動く事ができない。

私の行動範囲を狭めている鎖がちゃりちゃりと揺れてその主張が煩わしい、とてもじゃないが川の向こう岸のガードレールをまたいで行くなんて事できるわけがない。

少し動いただけで鳴る鎖の音は、お前は地縛霊なのだ。と咎めているようで、辛い。

 

せめてと、見つからないように葉が多い枝に身を隠す。

 一護は優しい子だ。きっと私を見れば自分のせいだってずっと、責め続けるすがたは目に浮かぶ。身内の霊なんぞ見てしまった日には一護はきっとうなされるんだろうなー

もう少しすれば、死神も私に気付いて魂葬しに来てくれるはずだ、すんと鼻を鳴らす。死んで霊になったっていうのに鼻の奥がつーんと痛んだ。泣きそうだ。

 

「(さよなら、一護)」

小さく呼んだつもりがこちらに顔を向けた一護と目が合ってしまった気がして、ちょっとびっくりした。

 

 

◆◆◆

 辺りが落ち着き、ガードレールに手向けられる花が少なくなってきたこの頃。

知らない顔も知った顔もやってきては、同じように悲しげな表情をして帰っていく。家族も度々やってきて、同じような顔をして帰っていく。

黒い着物を着た霊を頻繁に見かけるようになった、アレがきっと死神なんだろう。

でも、死神は私の頭上を飛び交うだけでなかなか目の前に現れてくれはしなかった。おそらく、既に7月の初めを迎えているんだと思う。なんせカレンダーがないから日にちの感覚が薄い。通っていた近くの小学校からはプールの塩素の匂いがココまで臭ってきている。プール開きが近いのかもしれない。

 

一護が通らない日中、私はもっぱら木から下りて中州で石を積んで遊んでいる、いわばプチ・三途の川体験、意外と楽しい石積みで気を紛らわせる。ジェンガジェンガ。

こんな事でもしないと私は度々考え込んでしまうからしかたない。最近の考え事と言うのは、大半が最近私を悩ますモノの事だ。

私を悩ますもの、ソレは、実は死んでから分かる事、というものがあったのだ。

 

死んでみたから分かった事、自身が霊になって不眠不休で遊べると思いきや世の中はそんなに甘くはなかった。

霊になっても眠たくなる、信じられない事に夢までも見る。

 

"夢"。

 

"夢"はとてつもなくリアルなものだった。

夢は高校生になった一護を中心に物語形式で回っていて、漫画形式で話は進んでいく。そこに私という存在はおらず、ルキアちゃんという子と織姫ちゃんが一護の隣りに居た。

私はその夢が未来の事なのだと思っていた、私が居ないのも死んでしまったからなのだと、死んでしまった直後はそう思っていた。

でも、可笑しいじゃないか。

 

お母さんは一護の回想の中お父さんの回想の中で何度も何度も何度も繰り返し、思い出されていた。

最近私を悩ませる"夢"、考えれば考えるほど私はイレギュラー

 

だから、決めたのだ私は成り行きに任せちゃおうと、このまま虚となって一護に切られるのも良いし、もしも死神が魂葬にやって来たら死神にでもなって主人公(一護)を支える柱の一つとなれるならなりたいな、と。

 

だから私は、今日も今日とて死神を待つ。

 

制御しきれてない、漏れ出た霊圧を嗅ぎ付けた虚を蹴散らしながら、

 

私は、今日も今日とて死神を待つ。

 

鎖の根元からスースーと風が入っている事に気付きながら、

 

私は、今日も今日とて死神を待っていた。

 

 

 

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