.
双極の丘の上空を、一羽の鳶が飛んでいた。
風に羽を撫でられて、空から縄張りを巡回していると、草木の茂らぬ白んだ不毛の地にいくつかの粒を見かけた。粒は、人のようであった。
鳶は、不思議に思う。
あそこは、獣や鳥にとって餌場にも羽を休める価値がないからこそ、己が縄張りの一つに出来た場所である。
餌となる動物は、隠れる場所の無い丘を嫌い。止まり木にちょうど良さそうな不思議な形の木は近づくだけで毛が逆立ち、嫌な感じがした。わざわざ縄張りにしている理由も、ただ”何もない”というところが気に入ったというくらい。
なのに今日は、人がいる。
可笑しな日もあるものだ。
鳶は、つまらなそうに来た道を戻った。
◆◆◆
小さな体躯に纏った隊長羽織が風に煽られて、裾を怯ませた。
二番隊隊長 砕蜂は、苛立っていた。
「随分と集まりが悪いな…集まっているのは。二・四・八番隊だけか…五・十一・十二は仕方ないとして、他の連中は一体どういうつもりなのだ…」
単調で静かに呟いてはいるが、副官の大前田 日光太郎右衛門 美菖蒲介 希千代が、普段口にしている油煎餅のカスが衣に残ってはいないか気にする程度、少々の刺激で爆発でもしそうだった。
旅禍の侵入に加え、”朽木ルキア”処刑に関する警備や準備と情報伝達、五番隊隊長 藍染惣右介 殺害の調査。
二番隊は他の隊と比べ、それら直属組織”隠密機動”がある分、多忙であった。
だが、多忙なのはいい。砕蜂が問題視しているのは、それに加えて隠密機動の隊員の一人が身包みが剥がされた姿で発見されると言う事件に加え、備品の数が合わないという異例の事態が発生したことにある。おそらく旅禍のせいであろうことは、予測がつく。
しかし、”隠密機動”とは瀞霊廷を「裏」で守護する存在。
旅禍に不意を突かれたとしても、身包みを剥がされた上に生かされて戻るなど話にもならない。
すでに四名の旅禍の捕捉は済んでいる。この処刑が執行され次第に尋問せねばなるまい、と砕蜂は縄で繋がれた朽木ルキアを心無い目で見つめた。
処刑の時は、刻々と迫ってきていた。
◆◆◆
_____”燬鷇王”が目を覚ます。
双極の矛が、解放されると矛を炎が包み形を変え翼を広げて、瞳は罪人を見据えた。双極の丘が、なぜ草木の一片の姿も無い不毛の地なのか。
その理由が顕となった。
土の表面を、地中に張った根の水分を、炎の熱は蒸発させる。
彼の一撃は斬魄刀の約百万本の威力を持ち、罪人は貫かれると超高度の熱破壊により蒸発し、”
ルキアは、燬鷇王の恐ろしく穏やかな瞳を静かに見つめた。
人は、死を前にして何を思うだろうか。絶望か、憎しみだろうか、朽木ルキアの場合は諦めと"感謝"だった。思い出すのは、兄、恩師、友人。
それと、黒崎 一護。
オレンジ色の頭を思い出して、悪いことをしたと俯く。
感情が、現れては消え消しては現れ。全てに整理がつき、ゆっくり瞼を閉じると、涙が頬を伝う。
「___さよなら」
燬鷇王は、それを待っていたかのように動き出す。
ルキアの皮膚は熱の動きを感じ、それの時を待った。自身を穿つその衝撃に耐えるべく、固定された両の手を強く握る。
しかし、その衝撃はいつまで待っても来ない。
なぜ…?
ルキアは、目を開けた。
「よお」
火の粉が散り、己と燬鷇王を遮る者がいる。
オレンジ色の髪、
身の丈程ある大きな斬魄刀。
「い…一護…!」
◆◆◆
雲が泳ぐ空が、霊圧に揺れた。
【
『___護廷十三隊 各隊長及び副隊長・副隊長代理各位 そして旅禍の皆さん
こちらは四番隊副隊長 虎徹勇音です。音声は届いていますか___緊急です。
これは四番隊隊長 卯ノ花烈と私、虎徹勇音よりの緊急通信です。
どうか暫し、ご静聴願います。___これからお伝えすることは全て事実です。』