群青月歩   作:綿苗

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頑張って書いたー!

前回の誤字脱字報告ありがとうございました!
感想、評価ありがとうございます!

感想にやにやして読んでるんです…嬉しくて…


21、大逆の天の座

空に、霊圧の揺れを感じた。

 

杏は処刑が行われている間を狙って、自分が借りる宿舎に戻ってきていた。

 

思うにこの感じは、【天挺空羅(てんていくうら)】。

 

複数人同時の接続が可能な、伝達用の鬼道。便利な鬼道ではあるが、繋ぐ人数が多ければ多いほど霊圧の震えは大きくなる。どうやら私が旅禍に与している事は知られなかったようで、通信から外されたようだった。だが内容が分からなくとも、天挺空羅がつかわれたという事が分かれば十分。

 

四番隊副隊長の天挺空羅によって

藍染惣右介の反逆が、公のものとなったことだろう。

 

 

杏は、隠密機動の男性から拝借した服に着替えると、覆面を手にしたところで手が止まる。覆面の目元はぽっかりと開いている。これは少々困った。

 

黒崎杏は特徴的な目をしている。

 

目を隠すために髪を出せば死神側に正体がバレるだろうし、目元を出して仕舞えば死神側にはいいが現世組に何かしら気づかれるリスクがあるだろう。

 

うーん。

 

少し悩んで、そういえば今回護廷十三隊の隊舎から拝借してきた中にいいものがあったはず、と思い立ち台所の床下収納に隠していた物資の中から布に包まれた"良いもの"を取り出して試しに着けてみる。

 

うん、これなら、行ける。

 

視界は結構良好。

 

杏は、髪を纏めて服に仕舞い込むと覆面とそれを装着し、一護の手により処刑が中止となった丘の上に向かった。

 

 

 

◆◆◆

 

護廷十三隊 八番隊隊長 京楽春水及び、十三番隊隊長 浮竹十四郎の手によって破壊された双極の矛の残骸と旅禍・黒崎一護の手によって破壊された磔架の残骸が、辛うじて姿を残す双極の丘は、六番隊隊長 朽木白夜と黒崎一護との戦いで、卍解同士がぶつかり合った影響で抉れ、無惨な姿へと変貌していた。

 

 

空には、幾つもの筋状の雲があった。

 

すると、突如雲では無い白煙が竜巻状に立ち上がり辺りを一掃した。

 

土塊を巻き上げたその小さな竜巻は、数名の人影を運んできたようであった。

 

藍染惣右介、東仙要、市丸ギン。先程の天挺空羅で、四十六室の殺害等を犯した反逆者として名を連ねた者達。

 

そして、白装束の朽木ルキアを抱きかかえた阿散井恋次。

阿散井の顳顬を汗が伝った。

 

朽木ルキア奪還後、出会い頭にかけられた東仙の術によって双極の丘に戻された阿散井は、先程の【天挺空羅】によって反逆が明らかとなった者達が眼前に勢揃いした事で、己の立場を悟った。

 

狙いは、ルキアだ。

斬魄刀を構えて威嚇をするが、藍染は笑む。

 

そして、子供に言い聞かせるように語り始めた。

護廷十三隊で起こしていた行動を、道筋を並べて丁寧に教鞭を取った経験でもあったのだろうかと疑う程に敬虔に、そして朽木ルキアを抱える阿散井恋次に歩み寄った。

 

阿散井は藍染をルキアに近づけまいと、己の斬魄刀【蛇尾丸】を振るうが、藍染には届かない。始解して変幻した蛇尾丸の刃節は切り刻まれ、バラバラと地に落ちた。突き立てられた絶望的な力の差、阿散井は瞬く間につけられた背中の刀疵とともに地に膝をついた。

 

「朽木ルキアを置いて下がりたまえ」

 

いままでと変わらない凪いだ穏やかな声。しかしその声に似合わぬ威圧を放つ男に、阿散井は無事な方の腕で強くルキアを抱きしめた。手に伝わる頼りない細い身体、もとより細身だったが処刑が決まってからさらに細くなったように感じる。

 

俺は、ルキアにこんな思いをさせるつもりで副隊長になったわけじゃねえ…

 

恋次!

ルキアの悲痛な叫びが丘に響く。

 

 

冷たい雨のように、薄布を突き刺す藍染の霊圧。背中の傷は、痛みよりも熱を持ってドクドクと脈打って流れ出る血が、身体を伝って膝で血溜まりを作っている。

 

阿散井は、藍染に向かって釈明を始めたルキアの声を遮り、黙らせた。

どうせ自分が犠牲になれば、なんて考えてるんだろう。だがそれは違う。阿散井は、底なし沼のような後悔をずっと抱えてきたのだ。俺は、あの日手を離すべきではなかったと。朽木家にルキアが迎え入れられたからと言って、疎遠になるべきでは無かったのだ。

 

 

「…誰が、離すかよ…バカ野郎が…!」

 

過去を嘆くのは、今日で終わりだ。

 

勢いのまま阿散井は牙を剥き啖呵を切って、藍染を睨みつけるが、藍染は取り合わず斬魄刀を振り下ろした。

藍染は斬魄刀は、振り下ろした。

 

「…そうか…残念だ

 

 

 

 

しかしそれが肉を断つことは無かった。阻止するのは二つの刃。キーンと金属がぶつかり合う音が耳鳴りのように反響する。

 

三つの刀は宙で止まった。

 

「一護…に…お前は」

 

「通りすがりの三席です。お気になさらず」

 

淡々ときまり台詞かと思われる今の言葉で、全てを理解してしまった阿散井は自身の処理能力の優秀さが少し恨めしくなった。身体のラインに沿ったタイトな黒い卍解姿の一護と並ぶ女は、明らかに不正に入手したであろう隠密機動の服を一式身に纏い、木彫りの牙を剥く犬の面を着けたこいつは、…あいつだ。あの黒崎杏だ。

 

 

「すんませェん。手ェ出したらあかん思うてあの子たちが、横通るん無視しました」

 

背後で見物をしていた元・三番隊隊長であり現・叛逆に加わる市丸ギンは、艶めいた訛りでしゃあしゃあと喋り、藍染に許しをこうた。

 

「いや、いいよ。払う埃が二つでも三つでも

 

___________ 目に見えるほどの違いはない。」

 

 

含みのある重量を持った言葉は、肩を重くさせた。

 

ああ、やっぱり怖い、ヨン様だわあ。

 

杏は場面にそぐわない軽率な怯えばかりを、吹き出す胸か脳に呆れた。

顔に着けた牙を剥く犬の面の強面の向こうで、臆病者の己を鼓舞する様に牙を剥く。藍染が刀に加えていた力を緩めた瞬間、反射的に斬魄刀を撥ね返す。

 

黒崎杏は、言い争いをしている一護と阿散井に背を向けて、微笑む藍染の目に布に隠れた頸の産毛が粟立ったのを感じた。

 

 

「それじゃあ、いっちょ共同戦線といくか…‼︎」

 

突如上がった一護の声。それに奮起したのか立ち上がる阿散井は、先の戦いで砕けた蛇尾丸の柄を構える。杏も、それに合わせて斬魄刀を解放する。

 

「_瞋恚高鳴れ 群青飛鷺」

 

ぱちぱち

 

耳に心地良い爆ぜる音、熱が周囲に放たれて、刃は群青色に染まり炎を纏う。

炎は辺りの空気を巻き込み、風を呼び込む。旗めく髪なぞは気にせず二刀の鋒を下げるように構えて、杏は藍染を目で捉えた。

 

 

近くにいた阿散井の肌は、杏の斬魄刀から発せられた熱で焼けるのを感じた。

 

炎熱系か…大層大事に隠されてきた始解の姿を見て納得がいく。杏の前に就いていた十一番隊は基本物理系。鬼道系の斬魄刀は嘲笑の的となる。ことなかれ主義というか、面倒ごとを嫌う杏のことだ。どうせ、人間関係がめんどくさいからなんて考えで、始解なしで任務をこなすことを優先したんだろうと当たりをつけた。しかし、今も隠密機動の服など着て正体を隠す必要があるのだろうか?

 

そんな事を考えているうちに、調子を取り戻してきた阿散井は一護に一つの案を告げる。

 

「この技を使えるのは、一回だけだッ。ほんの一瞬しかねえかもしれねえ、隙をついてくれよ

 

 

狒牙絶咬(ひがぜっこう)】」

 

辺り一面に散らばっていた蛇尾丸の破片が浮かび上がる。ちょうど藍染を中心として円型に広がるそのひとつひとつが狙う獲物はただ一人。そして、刃は放たれる。

 

一護は、すかさず突入する。

破片が起き上った際に巻き上がった砂で、藍染の視界が遮られた今しかない。

 

しかし、肉を断つ感覚もなく天鎖斬月の刃が止まる。一護は、全身の毛が逆立つのがわかった。砂が晴れかち合った男の目は、笑っているのに、氷のように冷たい。自身をなんとも、障害とすら思ってはいない。俺の刃は届くのか?

 

思考で一瞬止まった一護の腹に向かった刃を止めたのは、杏の右手の刀。

 

そして、左手の刀は炎を噴き出す。

紺青・迦楼羅焔(こんじょう・かるらえん)

 

放たれた不浄を祓う炎は、火炎放射器のように藍染の姿を覆う。

 

そして一護を蹴り、後ろに下がらせ無理やり距離を取らせたのだが一護の腹部からは、血が噴き出した。

 

「一護!!」

 

「いけないよ。よそ見なんてしては、」

 

左を差し出して藍染の刃を止めるが、刀を合わせたまま押し込まれる。

 

は???何故燃えない???炎が着火しなかったことに困惑し、杏の体勢がぐらりと崩れた瞬間、肩に強い痛みが走る。突き立てられた斬魄刀を目の端で確認するも、構わずに杏は差し出されている藍染の腕を切り落とさんと刀を払う。八番隊・十一番隊出の七番隊を舐めんなよ!杏は自分の中で誇れるものを、歯を食いしばりながら心で叫ぶ。

 

しかしそれも、読んでいた様に藍染は刀を抜き取り数歩下がる。

藍染の目には虚ろに、杏の影に八番隊隊長の姿を見た。

 

 

「やはり、君の相手は面倒だな…少し眠るといい…

       ______縛道の六十三【鎖条鎖縛(さじょうさばく)】」

 

ぞわぞわ、蟲が這い回る様な寒気に杏は瞬歩で避けようとするが、それを許さないというように藍染は刀を振る。一瞬の遅れ、それは戦いの場では命取りになることもある。それを、知っていた筈なのに…細身の身体に無数の鎖は食い込み捕縛する。それを振り払おうと霊圧を高めた杏の額に藍染は、そっと指を添え笑む。

 

ただそれだけの動作に、杏は糸を切られた操り人形の様に力を失い地に縋った。

 

 

阿散井は吼えた。

 

黒崎一護に黒崎杏の両名は倒れ、最早己だけ。

藍染は向かってくる折れた刃を避けることもなく、それを斬りつけた。

 

 

朽木ルキアの目の前に立つ者は、返り血に微笑む藍染惣右介だけになった。

 

 

◆◆◆

 

眩い光を閉じた瞼越しに感じて、杏は飛び起きた。

 

付けた犬の面に開いた目の穴から見えるのは、裂けた天空から覗く幾数もの巨大な白き仮面の異形軍団。大虚(メノスグランデ)の大群は、双極の丘に集結した隊長格らを見下しそして、藍染に市丸に東仙に光の柱を差し伸べた。

 

総隊長 山本元柳斎重國は、それを見据えると光の柱に駆け出した七番隊副隊長 射場鉄左衛門を止める。

 

「あの光は、反膜(ネガシオン)というての。大虚が同族を助ける時に使うものじゃ。あの光に包まれたが最後、光の内と外は干渉不可能な隔絶された世界となる。大虚と戦うたことのある者ならば皆知っとる____あの光が降った瞬間から、藍染には最早触れることすらできんとな」

 

やられた。

 

大した傷も負わず、のうのうと眠らされたことに腹を立て杏は地面に拳を叩きつけ、藍染を睨みつける。裂けた皮膚が土を汚した。耳鳴りの鳴り響く頭の向こうで、狛村隊長の東仙に吠える声。

 

鈍った脳みそを回せ、思考しろ。

杏は、天の空隙を見つめてふと、思いつく。光の柱が外界からの影響を断絶するならば、ならばだ。その根本にわたしの全力の火力の叩き込むのはどうだろうか。助けを差し伸べる大虚に攻撃を仕掛けたという例は、聞いたことがない。試すべきだ。なんせわたしはイレギュラーなのだから。

 

皆が背を向ける中、静かに立ち上がる。

 

左手の斬魄刀は、すでに始解を解いて浅打の姿をしている。ふざけんな。

 

「起きろ!起きろ!起きろ!今が、お前の、わたしの炎の全力を出す時だ____【瞋恚高鳴れ 群青飛鷺】」

 

 

◆◆◆

 

「地に堕ちたか、藍染…‼︎」

 

白んだ髪を靡かせ、十三番隊隊長 浮竹十四郎は糾弾の声を張るが、藍染はそれに反問する。

 

 

「…傲りが過ぎるぞ浮竹。最初から誰も天に立ってなどいない。君も、僕も、神すらも__だが、その耐え難い天の座の空白も終わる。

 

 

 

 

 

 

___________これからは、私が天にたつ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紺青・月牙天衝(こんじょう・げつがてんしょう)‼︎」

 

 

 

 

突然の霊力の揺らぎ、強大なそれに振り向きざまに衝撃が浮竹を通りすぎる。

 

それは、浮竹の肌を掠めて表皮を焼き、靡く白銀の毛先を焼き切った。

 

空に放たれた三日月状の紺青の炎。ちらちらと火の粉を散らし、天に開いた空隙に吸い込まれて、爆けて煌々と燃え上がった。

 

黒崎 杏の中で燻り続け、己が溺れかけた大河が如き瞋恚の炎は解放された。

 

ゲラゲラと笑い声を上げる群青色の飾り羽根を跳ね上げた白い鷺は、杏にしか見えてはいない。それを良いように使い杏に寄り添って、目線に合わせて翼の先を天に向けて「見ろ」とでも言うように指し示す。

 

空は、一瞬で暁光の空が如く青白み紺青の炎が雲を、大気を、藍染に傅く大虚を、藍染らの白い隊長羽織の悉くを燃やそうと、花弁を重ねる花のように空隙より溢れ出す。

 

 

大虚の悲鳴が空に木霊した。

 

 

それは産声にも似ていて、藍染らはその淵に立ち紺青の炎に照らされると深い笑みを浮かべて獣が顎を閉じるが如く空の穴を閉じた。

 

 

杏は、そこまでを見届けると張り詰めた糸が切れるのを感じた。

 

卍解でもないのに、放たれた想像以上の炎の威力に眩暈がする。

 

鼻から垂れる血は覆面に吸われ息が辛い、焼け爛れた両の手の平、爪は急な高温に晒されたせいか割れて痛む。杏は意識を手放した。

 

 

 

_____天を鎖すは、瞋恚の炎。

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