群青月歩   作:綿苗

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23、怪々

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____夏

 

過ぎ去ったように感じていた夏の猛威が再び勢力を上げて、太陽がカンカンと辺りを焦がしつけていた。

 

鼻腔に張り付く熱せられたアスファルトの匂い。湯気のような空気が喉や肌にへばりつく。

 

真っ直ぐに補強された道路に一人立ち尽くして、感覚を取り戻すように指を絡めると、少しばかり太く平たく節だっていた。

 

久しぶりの故郷は、夏の強い日差しの中で”わたし”を迎え入れた。

 

_黒崎杏、初の現世任務である。

 

 

ここで黒崎杏が現世に降り立つ少し前に、時間を戻させていただきたい。

 

十二番隊 技術開発局の一室に白衣姿の阿近に七番隊の隊長狛村と第三席の杏は、男の遺骸を見下ろしていた。

 

遺体の安置所にも似た部屋には、二組の机がありその一つに男が寝かされている。解剖台のような銀に鈍く光る台の表面は、体液が流れても大丈夫なように無数の穴が空いていた。

 

杏は不思議な感覚でその姿を見下ろしていた。

なんせ性別以外は、全く同じ。身長から顔立ち、まつ毛の長さまで寸分違わずつくられた男は杏の義骸であった。

 

デジャヴ現象。いや、実際二度目の体験。

 

クーラーの冷え冷えな風が大柄な二人の間を通って、杏の額にスーッとした感覚を残して去っていった。

 

まさか自分の死に顔を二度も見下すことがあるとは、

川から引き上げられた自分の体を見た時と同じ気持ちで杏は少しだけ口の中が乾いた。狛村もいい感情は持てなかったようで、鉄笠のない獣の顔は険しい。

 

杏には、今後”死神代行 黒崎一護“の関係者として現世に赴く任務が増えるとして義骸の作成が総隊長より命じられた。

 

通例であれば、現世に親族が未だ健在な杏に現世に赴く任務は回ってこない。しかし、今回は特例中の特例。離反した藍染ら隊長格の現世への攻撃に備えよと、死神代行の姉である杏に通達があった。丁度良かった、現世に派遣される日番谷先遣隊への選抜においての画策の手間が減ったなと、そうして虎の威を借りる狐様々に手に付くだけの準備を隊長の狛村らも巻き込んで行っていた。

 

勿論、現世で死神が見えるほどの人間が親族にいる可能性を考慮して男性体の義骸が用意された。

 

そして、特注のオイルライター型 記換神機(きかんしんき)

通常、器子状態の肉体に作用する現世の人間に対し、死神に都合の悪い記憶を改竄する効果を持つ。しかし、利便性には欠けており書き替えられる記憶はランダムなものとなっていて使い勝手が悪い。そこで今回拵えられたモノは、男体の杏に関しての記憶を挿入するのみ。

 

記換神機は、金属同士の接触音を立て義骸の横に置かれ阿近は次々と小物を並べた。

阿近はついでのように義骸の顔にかかる長い髪を指で引っ掛けて払うと、狛村と杏に顔を向けて義骸の説明を始めた。

 

 

「体の筋肉量と配置に関しては黒崎杏の弟、黒崎一護の採寸データを参考に作成。髪の毛なんかの個人を特徴づけるものは、本人のモノを採用しましたが細部の調節はまだ可能です。

 

伝令神機は、既存の物を用意。ソウルキャンディは、新作のパピルス。

 

記換神機については、通常の記換神機と同じ使用方法のため特に注意点などは有りません。

 

今のところは、使用して貰うのと本人からの要望とかが有ればそれに合わせての調整、てところですかね。

 

それで、何かご要望は?」

 

狛村の横でクーラーからの冷風を避けていた杏は、そこから少し身体をずらして阿近に正面を向いた。ご要望は、と聞かれても一護のスリーサイズ以上の採寸なんていつしたんだろうくらいの感想しか今のところ頭にない。もう一度、ゆっくり自身の義骸を見下ろした。傷や火傷の跡まできっちり作り込まれてる…少し恥ずかしい位に。そして、台から垂れていた髪の毛に触れ、持ち上げた。

 

 

「髪の毛は…短く。現世ではここまで髪の長い男性が居たら目立つでしょうし…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

____現世、空座町

 

護廷十三隊隊長格三名の叛逆、仕組まれた朽木 ルキアの処刑が阻止されてから時が経った。

 

護廷十三隊 十三番隊隊長 浮竹から黒崎一護には、正式に死神代行として活動できるようにとシンプル且つ現代的な髑髏__所謂、スカルマークと言われるものを施した死神代行戦闘許可証が送られ。全てが円満に解決、日常を取り戻したかに思われた黒崎 一護の元に再び受難は降り注いだ。

 

始まりは、学園から。

 

夏休みが終わり、高等学校の各々の教室からは少年少女の弾む声。はたまた夏の青春に未練たらたらの落ち込んだような声で始まった新学期に、転入生が一人。

 

 

トウモロコシの髭が如く鮮やかな金髪を切り揃えた、おかっぱ頭の男がつらつらと黒板に書いた名前であろう″平子真子″の文字は上下横が反転した鏡文字で、その特技は男の飄々とした胡散臭さを増上させていた。

 

 

そして事が起こったのは、その日の夜のことである。

まだ昼間の暑さを残した、熱を発するコンクリート。エアコンの室外機がゴンゴンと稼働音を鳴らす住宅地。

 

代行証が虚に反応し、代行を遂行するため死神の姿へ変態した一護は朽木ルキアの後任空座町の担当となった車谷善之介と対面し、代行証の知名度の低さを知った。

 

すると、突如その背後に振り下ろされる影があった。

 

反射でいなした影、街灯に民家の明かりを反射して艶かしく光るのは、斬魄刀である。

 

 

斬魄刀から目線を上げれば、面識のある顔がにんまりと口角を上げている。

 

 

______平子真子。

 

愉快そうに語りかける男が顔面の虚空から、帽子のツバを摘むようにして腕を下ろして引き出すと、白い塊が顔の大半を覆い隠した。

片手の斬魄刀、真っ白な虚の仮面。

 

 

見覚えのある姿。それは、黒崎一護()が恐る自分の中の怪物(虚と化した自分)の姿。

 

 

「____オレは『仮面の軍勢(ヴァイザード)』オマエの同類や、

 

 オレらんとこへ来い 一護。 オマエは、そっち側に居るべき人間やない 」

 

 

平子の舌についたアクセサリーが話すたびに、音が鳴って、てらりと光る。

 

それはガラガラヘビの尻尾からなる警戒音のようにもスズメバチが顎から鳴らす威嚇音にも酷似していて、台詞の合間にカチカチと鳴った。

平子真子による仮面の軍勢への勧誘を、一護は拒絶した。

 

自身は、死神である。

 

己に潜んだものに目を背け、微かに戸惑いを含みつつ自身に言い含めるように言葉を放ち、平子真子から伸ばされた手を拒絶した。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

日常のありふれた風景がそこにあった。

 

休日の空座町東部の公園には駆け、回り遊具で髪を乱す子供たち。井戸端会議に興じる主婦、笑い声。練習に出てきた様子の運動部は掛け声を放っている。空座町の何の変哲もない何処にでもあるような公園の、平凡な日常の中で突如不釣り合いな爆音と共に土煙が立ち上った。

 

地鳴りと共に、巨大なクレーターがぽっかりと空いていた。

 

理解の範疇を超えた出来事に衝撃波で倒れた人は呆け、野次馬心に駆られた者達は穴の周りに集まり縁から中を覗き込む。その穴は、重機で抉られたようでも無く、爆薬で飛び散ったようでもない、純粋な圧力によって押し潰されて出来た深く大きな穴。だが、不思議なことに中には何もない。空っぽな穴に、ガス爆発かと人々は口にするがそこに何もないわけではない。見えていないだけなのだ。

 

二つの巨大な霊圧の塊が、穴から這い出て佇んでいた。

 

“ヤミー・リヤルゴ”

“ウルキオラ・シファー”

 

初めて観測された破面(アランカル)である。

 

浦原喜助、四楓院夜一両名によって撃退されたが一護は、彼らに敗北した。失意の中の黒崎一護が通う空座第一高等学校に尸魂界からの使者が送られた。

 

 

 




皆様いかがお過ごしでしょうか。
次回もよろしくお願いいたします。
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