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先日の破面襲撃の報を受け、現世へと送られた日番谷先遣隊は死神代行黒崎一護が通う学舎 空座第一高校に訪れていた。
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しかし、なぜだろう顔だけは見覚えがある。
気づけば、実に簡単なことで毎日鏡を覗く自分の顔に作りがそっくりであったのだ。不思議な勘が働き始める。一角や恋次と話している間も、意識はその男性に向かった。いっそ、話しかけてみようかと思い立った瞬間に窓からの侵入者に阻まれる。
「何だ!その腑抜けた顔は!」
「ルキア!」
教室の窓枠に立ったルキアは強制的に一護から死神の姿を引き摺り出し、飛び出していった。
一般の者からすれば、一護が気絶しルキアが一人窓から飛び降りたような異様な光景に騒つく教室内に残された日番谷先遣隊は各々好き放題に喋り始めた。
「…やっぱりこうなったわねー」
「そっスね、全く世話のやける野郎だ」
「まァ、あんだけフヌケたツラみせられちゃああしたくもなるだろうぜ」
「そぉ?ヘコんでた顔あれはあれでそそるもんあったわよ♡」
「どこが⁈美しくない」
「あらーやだ、誰もアンタには聞いてないわよ弓親」
「じゃア一体誰にきいたのさ!一角にでも⁈」
「やあね、杏に決まってんじゃない!
ねえ?杏!」
話を振られた人物は、一拍遅れて応えた。
なんせ話しかけられるその時まで、自分と彼らとはまるで関係がないように入り口に身を預けて呆けていたのだ。
「乱菊さんこの姿の時は、杏一て呼んでくださいよ。せっかく用意してもらったんですから」
周りと同じように制服を纏った平たい胸を撫でつけて、杏と呼ばれた人物は乱菊達に「
杏一は女性的な凹凸を持たない体に男子生徒の制服を身につけて、ネクタイの締まった首を見ると喉仏が突出している。杏の長い髪の面影はなく、顎の辺りで短く揃えた毛先を指先で捉えると耳元に挟み込んで形のいい耳を晒した。
◆◆◆◆
___敗北が恐ろしいか⁉︎仲間を護れぬことが恐ろしいか⁉︎それとも、貴様の内なる虚が恐ろしいか⁉︎
敗北が恐ろしいならば、強くなればいい
仲間を護れぬことが恐ろしければ、強くなって必ず護ると誓えばいい
内なる虚が恐ろしければ、それすら叩き潰すまで強くなればいい
他の誰が信じなくとも__、ただ胸を張ってそう叫べ!
私の心に居る貴様は、そういう男だ_____一護!!!
獅子が子を崖から落とすように、平子と相対してから死神となるのを渋っていた一護を虚の前に叩き出したルキア。その朽木ルキアの叱咤は、一護の頭に燻る恐れを拭った。死神になればいつも視界にチラつく、こちらを覗き込む胡乱で真っ黒な虚の瞳。振り切ってしまえばなんてことはなかったのだ、己は強くなるしかない。
一護は、そう一度思えて仕舞えば立ち直るのは早かった。
黒崎杏と黒崎一護、この姉弟の立ち直りの早さは黒崎家の特徴にでもあるのだろうか。
ルキアに連れられ井上に頭を下げた身で家に着くと、見慣れない女生徒と一緒に帰宅した一護を目にした黒崎家は突然舞い降りたスキャンダルに胸躍らせた。浮ついた父と妹の遊子はドアの前にへばりついて聞き耳を立てて部屋の様子を伺っていたが、全く隠す気がないのか大声で騒ぐ家族に怒りを爆発させた一護が追い払い部屋に戻ると、なぜか天井の照明が外れ赤・金・肌色・黒と四つの頭がぶら下がってこちらを見ていた。
藍染惣右介が崩玉を持ち破面に接触したことで、「未完成の破面」が完全体である「成体」が誕生したことを説明されているなか黒崎医院ではなく自宅の方のインターホンが鳴った。
「あれ、誰だろー」
「宅配の人じゃねえの?」
居間のソファでポテチを食んでいた遊子と夏梨。夏梨はゲームの最中で出れないとジェスチャーすると、遊子はもーとムクれると近くにあったウェットティッシュを引き抜いて指を拭ってから玄関に向かった。玄関には、宅配のお兄さんではなく兄と同じ制服の男子生徒がいた。顔は逆光になっていてよく見えない。だが、なんとなく知り合いのような気がした。
「一護いるかな」
「あ、あのお兄ちゃんのお友達…ですか?」
「ともだち…よりは、親しい間柄かな。」
「あ…!」
目の前の男性が親しい間柄と言った瞬間に思わず、淡い期待をして遊子が顔を上げた瞬間に影となっていた場所に陽の光が差し込んだ。遊子はその時、ようやく目の前の男子学生の顔が兄にも似てもいて居間に張られた姉の顔に似ていることを知った。
夏梨は、玄関に向かった遊子が来客にしろ荷物が届いたにしろの反応がないのを変に思い、区切りのいいところまで進めたゲームをセーブしてから玄関に向かうと遊子はどうやら兄一護の学校の生徒と話しているようだったが何かが様子がおかしい。
「遊子?」
声をかけると、丁度よく医院の方から父が顔を出した。
なんだか酷くぼんやりしている遊子に焦って近寄ると、
てれれれっれっれー!
とある青い表皮の猫型ロボットがお役立ち道具を取り出すが如く、男子生徒もとい杏一はオイルライター型 記換神機をポケットから取り出し「こちらにご注目ください」と注目させるとシュポッと小気味いい音を立ててシュボッと火花を散らした。
すると如何だろうか、一度キョトンと瞬きをすると父・一心に続き訝しげだった夏梨にぼんやりとしていた遊子は揃って目を輝かせて「キョウ(くん)ちゃん!」と嬉々として家に招き入れた。
◆◆◆
「わー!キョウちゃん上手ー!」
「父さんだって簡単なのならできるぞ!」
「アタシ細かいの苦手なんだよなー」
居間のテーブルを囲った遊子、夏梨、一心は杏一の手元に集まっていた。
テーブルに並べられたピルケースの中で赤、青、緑、黄色やらの細かなビーズが色分けされてキラキラと光を放っている。杏一の指先には、テグスが巻かれその先っぽをビーズの海に浸けるとビーズは自ら吸い込まれるようにテグスに連なっていく。
テグスに留められたビーズは、小さな花に形を変える。そこから、また花をそして同じように花を作ってを繰り返してそこから輪にして閉じてしまうと、遊子の指にぴったりな指輪ができた。
そして、またテグスをリールから引き出してすいすいとビーズを掬い、色を違えた同じ型の指を指輪を作るとそれは夏梨の指に納まった。また同じことを繰り返すと、今度は大き目の輪が一心の指に。
「何してんだ」
乱菊たちを見送ったあと家にまた居候すると押しかけたルキアを追いかけて居間に来てみれば、一心遊子夏梨は知らない男を囲んで和気藹々としていた。
「おう、一護に…ってルキアちゃん!どうした!」
「ええ、実はカクカクシカジカ
…そんなこんなで私は…、住む場所も食べるお金もガッツリ無くしてしまったのでした。」
ルキアの口からつらつらと流れ出た「実に困っている」という内容のお話は、一心に遊子の心を見事に掴み見事に現世任務中の食と住処を獲得した。あまりにちょろい父子に呆れて物も言えぬ一護は、とあることに気づいた。父子の指にビーズで作られた花が飾られている。夏梨の指にもだ。
「あ、お兄ちゃん気づいちゃった?キョウくんお手製の指輪だよーん」
「キョウ…くん?誰だそれ?」
「従兄弟の杏兄ィだよ」
「いや、従兄弟なんていねえだ…ろ?」
未だにルキアの御涙頂戴話に泣く一心を放置して、夏梨と遊子との会話の途中で指を引かれたのいつ背後に回られたのかと驚くと、男が一護の指を掴んでいた。教室で見かけた男だ。同じような顔つきで、男にしては長めの黒髪は軽くうねっていてその髪の間から、見覚えのある目が覗いていた。
「お前、杏か…?」