群青月歩   作:綿苗

28 / 30
25、一家団欒まであと何歩

 

 

黒崎杏の剣術の師である京楽春水は、今時分の遊びを好む男であった。

 

花木の色を楽しみ、水をとらえて空を見上げ風に揺蕩う。季節毎に、全ての変化を五感にて感じ遊びに興じる。それには、副隊長の伊勢七緒に弟子である杏も伴った。

 

 

遊びの誘いは、突然で大体が稽古が終わりに。予定が合えば、七緒と杏は京楽の見立てで贈られたお揃いの勝色、と呼ばれる青に染めた浴衣に袖を通す。七緒は七宝柄、杏は麻の葉模様の帯を締める。そして、京楽は隊長服から艶男(いろおとこ)めいた町人の風態に転じる。

 

春には川に猪牙舟を浮かべて、川を下って花を見る。川に手を差し伸べて、雪解けのつめたい水を切って春の温い風を鼻先で感じて、舟に身を委ねる。桃に桜と始まり初夏までは、忍冬の薫りが楽しめる。そうすれば、知らないうちに体幹がしっかりしてくるからと師は語るが副隊長の伊勢七緒からすれば体のいいサボり文句である。

 

夏には、煎茶を淹れた。

ちゃんとした格式立つ茶会ではなく、京楽隊長所謂暑気休め。

夏バテしては堪らないからと、京楽は手水鉢を置いた立葵のよく見える部屋に毛氈とよばれる緋の布を敷いて、各々楽な姿勢で好きな茶菓子と好みの湯呑みを持ち寄る。

 

氷をぎしぎしに詰めた湯呑みに、煮て沸かした煎茶を注ぎ込めばキィキィと氷が悲鳴をあげた。これが、不思議と美味い。別に茶葉は高価なものではなく、給湯室で普通に置かれた茶筒に無造作に入れられた茶葉である。

それが京楽の言う通りに、一手二手と湯を注ぎ急須を傾ければ渋みのない味の良いものになる。何度も淹れれば身体が勘をつけて、一人でもこなせる様になるがこの遊びの際は、一挙一動京楽の指示に従う。

 

 

__そういう遊びなのだ。 

 

秋には、夜道を歩いた。

畦道を虫の声を聞きながら、歩く。新月の日なんて時折、前を歩く京楽の姿を見失う。普段なら霊絡なり霊圧知覚なりで調べるがしかし、いまは遊びの時間。

 

それらを使うことなく、探さなければならない。そうしなければ、遊びではなくなってしまうためだと京楽はへらへらと軟派にも見える笑みを浮かべていた。

 

手を伸ばしても、指先がかろうじて白んで見える様な状態の中、足先の感覚に鼻と耳それを頼りに歩いた。

 

冬には、降る雪を見ながら火鉢で火を起こす。

 

流石に浴衣では、寒さが辛いので浴衣ではなく隊服で丹前を羽織る。

おやきに餅なんかを炙って、煎茶の他に抹茶も点てる。茶道には、裏千家・表千家なんてあるらしく、京楽隊長には泡立てて点てる裏千家の流れを教わった。

 

火鉢なんて若者には馴染み無い物を態々取り出して、暖をとる。この火鉢が曲者で、気になってついつい火箸で突いてしまうが、炭は弄りすぎてはいけない。そして餅を炙ったり湯を沸かしたりするため五徳なんかが視界を邪魔をして炭の塩梅が分かりにくい。

 

手間を惜しまず、気楽に。そんな遊びは、杏の教養にもなっていたし、背伸びしていた杏の気を休めるいい時間になっていた。それが京楽の狙いで杏を遊びに連れ回していたのかはわたしのあずかり知らないところである。

 

 

◆◆◆

 

一護は目の前にいる男が、双子の姉だと言われても、心底分からなかった。しかし、感覚ではわかる。どうにも頭が鈍い。

 

これが本当にあの姉だろうか?

先程まで、恋次やら一角やらが居た部屋に今度は杏とルキアの2人がベッドを背もたれに談笑している。そして父親が出した茶を啜る姿は、異様に様になっていてちゃんと男に見える。そわりと首の後ろ側が燻り、一護は胡座をかいていた足を何度か組み直した。

 

杏の口から説明があったが、あの男の体はいつの間に取られたか知れぬ自分のデータを基に造ったというのだが、その割には線が細くみえる。それにうねる髪、母親譲りの癖のある髪に父親譲りの黒色でコシが強いのは元のままだし、威圧的な程に輝く目も杏のままだった。

 

しかし傍目から見れば、ルキアと並ぶ姿はお似合いのカップル。それにいち早く気づいた杏の正体を知らぬコンが、間に入って杏にガンを飛ばし茶々を入れるのをのらりくらりと口で躱す、様子は知らない姿であった。

 

「それじゃあ、そろそろお暇しようかな」

 

コンで遊んでいたはずの杏がそう言い放った言葉に、ルキアと2人で驚いた。当然、杏も黒崎家に留まるものと考えていた一護とルキアにとっては何を言い出したかと戸惑った。

 

「?…杏もルキア達と同じ現世任務なんだろ?しばらくこっちに居るなら、家に居ればいいじゃねえか」

 

「そうです!杏殿が他に出て私が一護の家というのは些か、しまりが悪いと言いますか!」

 

「親父達なんかもうその気で、俺の部屋に布団持ってくる気満々だしなんなら遊子と夏梨は飯の買い出しに行ったぜ。それに杏の部屋も昔のまんま取ってるし…行くなよ。お前の家なんだぜ」

 

杏は、それを聞いて悲しそうに眉を下げるとコンをぶみぶみと揉みしだいて俯いた。

 

「…今回の現世任務は、現世に家族が生存している私は特例でね。杏一として会うことは許されても、黒崎家で過ごすことは許されてないんだ。

総隊長殿からもそこは釘を刺されているし、今回は向こうの用意した場所に大人しく帰るよ。それに、杏一が杏の部屋に泊まるのはおかしいでしょ!嬉しかったけど…

 

まっ残念だったけど、そういうことで」

 

コンから手を離し、ポムポムとオレンジの頭を撫でた。しかし、一護の顔を見れば納得してないのは一目瞭然だ。不服そうに刻まれた眉間に指を突き立てれば、コンが吹き出して笑い一護はコンを掴むと押し入れに投げ入れた。

 

「わかった!じゃあ、別んとこに泊まんのはいいとして、飯は食ってけ。遊子は、アンタと料理したいって俺用に買ってたエプロン引っ張り出してたし…」

 

「えー…へへ、そっかあ、じゃあもうちょっと居ようかな」

 

なんでもないような口調で取り繕っているが、緩んだ顔を見れば一護に引き止められたのがいかに嬉しかったのかが明白だった。そのやり取りを見ていたルキアは、もどかしい気持ちに駆られた。この姉弟が、この現世で大手を振って仲良くできる日はもう来ない。胸を突く思いに、ルキアは兄の顔がちらついた。

 

◆◆◆◆◆

 

静寂には、少しばかり遠い。

夏の夜の一角。

 

闇夜に浮かぶ三日月の下に、七つの人影があった。

 

 




お久しぶりでございます。



誤字脱字の報告お願いします!
よろしければ、お気に入り登録と評価の方もお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告