群青月歩   作:綿苗

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※加筆しました2026.01.27


26、知らない、私知らないわ。

幾度も過ごした夜であったが、今日ほど夜を疎ましく思った日はない。虫も鳴りを潜め、付近の家の室外機の音がかすかに聞こえる深夜。

 

偽物の肉体を得て、

男として現世に帰ってきた杏の元にも、夜は変わらず訪れた。

 

七番隊からの要請で用意された寝床は、

浦原喜助の商店のすぐ裏に建てられた二階建てのアパート。その一室は、唯一の光源である卓上ライトで十分なほどの大きさだった。

 

和室の窓に反射で映った顔は、杏一ではなくいつもの杏である。

 

今、義骸は義魂丸のパピルスがはいっている。

面白いのか、自分の取り扱い説明書をしげしげと卓上のライトの明かりで読んでいる。

 

説明書なんてものは、読まずに仕舞い込むタイプの自分にはよくわからない楽しみ方だ。窓に手をついてその姿を眺めていると、木の匂いがした。

 

建物こそ古いが、リフォームがされたようで新しく削られた木の匂いをさせていた。熱気が篭る部屋で年代物のエアコンが唸って、風を吐く音が響く。

 

つい先程まで、家族と過ごしていた時間が幻だったかのように実感がない。思考に膜が張ったような頭で、昼間の出来事を反芻しながら視線は外を向いていた。

 

ふと、何かを捉えた。

杏が反射のままに窓を開け放った瞬間、熱気が窓から入り込んだ。

 

「…来たな」

 

月の中に、いくつかの影が見えた。

 

七つの影が散ったのを見ると、

少し迷ったがその中の一つに向かって窓から飛び出した。

 

◆◆◆◆◆

 

黒崎 杏は、困惑していた。

 

 

 

 

-----破面軍の襲来。

人知れず、戦闘の場と化した空座町。

 

町の至る所で、刃の交わる音が反響しているのが聞こえる。

 

自分の目の前にも、敵が1人。

杏は向かってくる切先を跳ね上げながら戦闘中にも関わらず、困惑した頭で敵の容姿をまじまじと観察していた。

 

_____誰?

 

黒崎一護の元に向かっていた影を追っていた杏の進路を妨害した破面は、オレンジに近い赤毛を揺らして刃をむける。

隊長格から指南を受けている杏にとって、荒っぽい品のない太刀筋は容易にいなせた。

 

日番谷冬獅郎が

松本乱菊が

朽木ルキアが

班目一角が

阿散井恋次が戦っている。

空の上に1つだけのこった影がおそらくグリムジョーなのだろう。

 

霊圧の塊を感じながら、だれそれが戦っているのを確認してまた、対峙してる破面を見た。

 

とするならば、こいつは誰だ?

 

記憶力のいい方ではないが、この場面、この瞬間にくる敵の数は把握しているはずだった。

 

 

それでも、見覚えがない破面。

 

「誰?」

 

子供の問いかけのようなソレに、対する敵は苛立ったように口を曲げた。

 

間違い探しをするように、ページを捲るように記憶を辿って、破面の特徴を刷るように観察する。小柄な体躯は機敏に動き回り。橙色とも赤とも言える混じった毛色の髪がケモノの耳のように跳ね上がり、キツネの頭骨に似た骨のせいで目元がよく見えない。

 

夢でみた破面は6人のはず。

 

見覚えのない7人目の破面。

解放されていないお互いの刀が強い音をたてて、弾き合う。

 

距離を取った杏に毛先から、足先まで値踏みするような目で見られた小柄な破面は体を震わせて突き刺す形の牙を剥き出しにして叫んだ。

 

「てめーを殺す奴の名前を知りたがるなんて、女にしては酔狂なヤツじゃねーの!?いいぜ、教えてやるよ!№19(ディエシヌエベ)__ダリオ・エカスタニェダ・ゾロジョ だっ」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

.

耳馴染みのない言葉に遭遇すると、

アタシはいつも時間が飛んだような感覚になった。

 

音は、拾えている。

ただ音だけ。意味が汲み取れずに思考だけが空中に投げられたような感覚になり、不安を掻き立てた。書類を綴るだったり、宛名に「気付」をつけてね。なんてのが、死神になり社会に身を置いてから、初めて存在を知った言葉の例だ。綴ると言うのは、文章を書き連ねる意味ばかりに使われると思っていたが、どうやら別の用途にも使われているらしい。いわゆる、ファイリングのことで書類を綴じる意味と同義。十一番隊で使う人はいなかったけれども、比較的他の隊では、乱用されていた。

 

宛名につける気付は、送り主の本来の住所ではなく一時的な滞在先に向けて使うのだと言う。これは長期での現世任務で、不在にしている死神に宛てて使った。

 

 

ダリオ・エカスタニェダ・ゾロジョ____

 

彼の名前を聞いた時、コレらの第一印象と同じだった。

 

周りに置いて行かれたような失速感。ポンと投げ出されたような感覚。

 

わからない、

耳馴染みのない言葉。

 

この世界の何かが、黒崎杏という存在で変わり…バタフライエフェクト、ソレに相応するものなのが起きてしまったのか、元から存在していたが描かれていなかったのか…杏には、わからなかった。

 

迫り来る刃を足蹴にして、空で一回転

秋空を燕が旋回するように、破面の刃を避けて避けて、一太刀も触れることを許さない。その動作は余裕そうに見えるが、段々と速度の上がっていく破面の刃に内心恐々と小さな心臓は激しく動いている。

 

杏に分かるのは、

ただ戦わねばならぬということだけだった。

 

繊細さのカケラもない荒々しい力任せ、尚且つ打撃に近い攻撃は太刀筋が見えやすい。が、それは扱いやすく見えてバネのように跳ね返せば返すだけ一打一打が重くなる。一瞬でも侮ればその刃が杏の身を裂いて骨を砕かれてしまうだろう。

 

イラつきが彼の燃料となるなら、自分と同じタイプである。厄介で、一番手がわかりやすいタイプだ。

ただし、普段稽古で前に立つ京楽隊長たちに比べれば杏の敵ではない。慌ただしく動悸していた心臓ももはや落ち着いている。一過性のビビリに、小物すぎる本性を自覚して羞恥心で表情が落ちる。

 

そして力量を測るのもそろそろ頃合いだろうと、

次の手に出ようと刃を跳ねた瞬間、剛を煮やした相手が噴火した。

 

No.19 ダリオ・エカスタニェダ・ゾロジョはヒステリックに叫ぶ。

 

「オメーみてえな女がここで出張ってやがるッなんで俺の剣を受けて立ってんだよっ折れろ折れちまえよ!折れて泣き喚いて、さっさと消えろ!!ここは男の戦場ダッ!女なんかが剣を俺に向けやがってッ!てめーみたいな無駄にでかい女が俺は1番気に食わねえんだッ」

 

なるほど、

 

「Son of a Bitch」

 

「あ???」

 

「理解できなかった?しっかりその耳で聞き取って、次はちゃんとキミに分かるように発音してあげるから 虱以下(クソガキ)

 

今までは、受けるためだけに寝かせていた刃を立てる。

 

いくら、苛立ちが脳を鈍くさせていたとしても、彼の野生の勘は働いたらしい。

 

彼に危機が迫っていた。何よりも発火しやすく、災害たり得る杏の怒り。

 

彼女の誇りは、二卵生双生児であるにもかかわらず弟と似通った顔・同じ身長…ダリオは今彼女の誇り(それ)を罵倒した「なんの役にも立たない身長。無駄にでかい女」と

 

ダリオは瞳孔を開いたまま振りかぶった姿で動きを止めている。

杏も止まらぬ罵倒を、この馬鹿に分かるようになんとか形を成して矢継ぎ早に捲し立てる。

 

「思い上がりも甚だしい。その膨張しきった驕りも埃を被ったセクシズムもここで焚き上げてこの町で最も弱いのがキミだって悟らせてあげる----

 

てゆーか、オメーがチビなだけだろっ」

 

 

 

 

瞬間、杏の姿が消えた。

 

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