何度も繰り返し見ている"夢"は、きっと忘れては行けないモノで私はソレを参考にして
鷲の文字を名前に持つ男が言っていた、
_心の中に円を描く
できるだけ暗くて
できるだけ重そうな色がいい
そしたら
その中心めがけて体ごと飛び込む自分
をイメージするんだ_
ソレが全ての鬼道に通じる基本だと、だけど私はそれだとうまくいかないのでちょっとアレンジする。
先ず四角い密閉された箱をイメージする。その箱は真っ黒で中身は泥のようなコールタールのようなドロドロと粘り気のある液体に満ちていて私はソコに両手をずぶり、ずぶりずぶりと奥に入り込み最後は体を全身埋め込む。沈む、体に重いモノがのしかかるソレを完璧に好きなように象れるようになれば、ほら、このように私は鬼道のまねごとができるのだ。
誰に見せるでもないのに私は両手を広げた、途端圧縮され激しく光る霊力の玉が弾けるように宙に飛び出た。
ひねり出したそれの光るボールを弾ませて、今日はボール遊びをすることに決めた。ジェンガから進化したなあ…
…
音もなく軽い霧のような靄のような雨が降っていた。
これはきっと「
霧状の雨だ、私は実際に降っているところを今日初めて見た。
竹林や森なんかの緑の濃いところで降れば神秘的で魅力的であっただろうコレは、生憎そういった自然物ではなく人工物であるアスファルトやコンクリートに吸い込まれて行った。
微かに肌や髪を潤す雨は、図書室で借りた事のある本に優しい雨と表現されていたことを思い出す。しとしとと濡れて前髪がビタリと額に張り付く、丁寧に払ってみると綺麗に8:2分けで纏まってしまった。
今日は座っている場所が場所なだけによく濡れる、木の下浅瀬の水面から顔を出している岩に座っている為に、死んだときから変わらず着ている青いシャツのワンピースがしっとりと濡れて張り付く。
濡れない場所に移動したいとは思うのだが、私の思いに反して鎖が邪魔して葉の密集したところまで行けないのだ。
特にこの鎖が絡み付くように、私にはこの場所に執拗なほどの執着はない筈なんだけれども...私がなにをしようがこの鎖が木から離れる事もなくこれ以上下手にこねくり回して孔が開ききってしまってもシャレにならないので、今日も私は大人しく死神を待つことしかできないのだった。
…
「...人間は無情だなあ」
急に哲学的なことを言い出したのはそんな年ごろだからと微笑ましく思ってほしい。なんせ万年厨二病患者、早すぎた発症。
なんせ木の根元には最近、隣人ができてしまったのだ。段ボールの質素な囲いに縋り付く小さな生き物、生まれたばかりの容貌に「なあなあ」と元気がいいようで盛大に鳴いている。
私は4匹いる中の一匹を取り出して、雨がかからないように前屈みになって壁を作り宥めるように撫でてみた。
"霊"は意外に現世の物に触れられるようだ、
子猫たちも私の姿が見えているようで、ジャングルジム宜しく私の肩によじ上ったり、すり寄って来たりと結構懐かれているようだった。
耳の付け根を撫でれば大きめにごろごろと喉を鳴らす。
「(どうしよう...)」
動ければ子猫の餌やら飼えそうな人物を捜して目の前においてみたりと世話をしてやれるのだが、なんせ私は動けない。
未だ鳴き続ける子猫たち。幸い放棄されたばかりでお腹は空いていない様子。餌を求めては来ないが生き物は数時間もすればきっとお腹がすくはず...何もできない私は取り敢えずできれば"死神来るならはよこい"と願ってみた。
願いが叶えられるのは意外と早かった。
翌日の朝、目を覚ますと知らない男が4匹の猫を独占していた...うわぁあ、正確に言えば見覚えのある男である。
左頬の69の刺青、顔右半分の三本筋キズ跡、そして見事な三角筋を見せつけるノースリーブの死覇装。"夢"に幾度か出演している男で名前が確か..."檜佐木 修兵"朧げな記憶力では確か残念なイケメン... 残念なイケメンかぁ...記憶から掘り出されたのは、巨乳美女に目を奪われる場面にギターと個性の塊なのに無個性に悩んでる姿…って、なんですのこれ
木の太い枝で寝ていた私の丁度真下に居たので、少し茶目っ気を出してみる事にした。
残念なイケメンと言えど現役の死神、気配を消して忍び寄るなんて事はせず起きた事を悟らせないよう気配を少しだけ薄くして、またの間に枝をはさんで「えいや、」と鉄棒の要領で勢いよくぶら下がってみた。
「うおおッ!!!!」
男の驚いた声に軽く笑ってやり、更に驚いて男の頭に爪を立てる子猫を抱き上げた。
「あ、危ねえじゃねえかッあ”ービックリした、もうやだ最近の子怖い!!」
「わーお、少女のいたいけないたずらを笑って許せない心の狭い大人がいたなんて…やば…死神ってやば…」
残った3匹に猫パンチを繰り出されながら「説明する前になんで知ってんだよ」みたいに目をかっぴろげた男にどう反応してよいか分からず取り敢えず逆さ吊りから重力に従って地面に降りる。もちろん着地は完璧。
改めてお互い自己紹介みたいなのをすませると、
ぐったりした顔でここまでの苦労話なのか世間話なのかを話しだすので、なんかこんなキャラなん…おばはんかよキャラ濃。とか思ってしまったのはワタシ、ワルクナイ。
それで彼の話を要約すると、私の霊圧で集まって来た虚を退治していて人手も足りなく私を送るのが遅れたと、そもそも虚ホイホイな私をさっさと魂葬しておけば良かっただろうにそれを人の所為にするとは…よよよ…なかなか魂葬に来ないわ、原因とされる虚を取りこぼして私が相手をすることになるわ、そこに通学中の学生に被害が及ばないように気を配っていた私の苦労を思いだすと腹が立って思いっきり振りかぶって"弁慶の泣き所"を連続で蹴った。三連打。
「痛てえなッ!」
「そのネコ、どうなりますか」
「そりゃあ死ぬなあ」
あっさり答えた死神にムカつき今度は連続で"泣き所"を蹴る、勿論スピードと体重をかけた蹴りをもちろん連続で。
「イテテテテテエエエッ!!痛ェて!!」
ゴンッ
「いたい!!」
小学生に蹴られて涙目になっている残念なイケメンは、私の頭を殴った。
「酷いッ!児童虐待だッ!乱暴者!三本傷!袖無しッ!!」
「おい、最後の方はもう悪口でもねえじゃねーか!」
「ぼうりょくはんたい、はんたい」
二発目の手を避けたところで、私はあることに気づいた。
一反言葉を止めて彼の腕を掴んで無理やり木の上に登らせるとずーっと向こう川の向こう岸に目を向けた。
「おまっ...ンぐッ」
声を出そうとする口を塞ぎ、そしてもう私の目線は川岸の道路を食い入るように見つめていた。
徐々に近づいてくるあの子の霊圧、私は気配を感知するのは得意なのですぐに気付けた。霊圧を消してただ見つめる。構っていなかった死神が場の空気を読んで霊圧を消したところを見ると彼もただの残念なイケメンでは無いようで安心した。
黒いランドセルにお揃いで買った「ケテケテ」と笑うピンクのストラップを付けて、オレンジの髪を揺らしながら下を向いて歩いて来た。
一護、相変わらず私と同じ目つきの目で、探るように川を見ている。
一護がこの場所に来るのは、習慣のようになっていた。
週の終わりに、一護が悩んでいる時。生きてた時にしてたように相談に乗っていた私と過ごす代わりのようにやって来るようになった。
私は、見つからないようにひやひやしながらも一護を隠れて見ていた。霊圧を完璧にコントロールできる事に気付いた死神はまた驚いたようだった。
俯く一護は、ガードレールの脇に生えていた花を毟って、川に流した。
「...兄、いや弟か」
こくりと頷く、顔立ちを見てそう思ったのだろう。
「見えるのか、あいつ」
「...うん、」
そうか、それだけ答えると死神は一護が帰るまでの数分黙っていてくれた。
これは、彼なりの優しさだったのだろうか、