群青月歩   作:綿苗

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06、黒と白

 静まり返った院内、授業中ということもあり廊下には人の姿はない。

私がいる空間だけが取り残されたように閑散としていた。今日は、秋の冷たい澄んだ空気が院内の空気をよく伝えている。産毛がぴりぴりと刺激を受ける頬を掻いた。

開かれることを待つこの部屋は、現世でいう学校の小会議室に当たる6畳ほどの和室である。部屋は襖で閉ざされて中の様子を窺うことはできないが人の気配が感じられた。視察の日から2週間ほど過ぎ、座学の授業中に嬉々とした担任に連れ出されて、部屋の前で待っているように言い渡され、それに従うしかなく私は待った。事情も知らされず数十分も待たされていることで浮かび上がった不安を長さの合わない浅打の鐺の部分を軽く踵で叩いて、紛らわせた。

 

そして、あちらの都合がついたようで襖が開いた。摩擦を感じさせず氷を滑るように開けられると、その向こう側には癖っ毛の黒髪と畳に吸い込まれるように落ちた白髪を怠惰と誠実、享楽的に正義・義務とを持ったそんな対照的な二人の男が並んで座りこちらを見ていたのだった。

 

◆◆◆◆

ここで2週間前に戻ろう、僕の元にやってきた浮竹は視察の日より血色がよく気分もいいようで、安心したが不安定にも思えた。

 

 「彼女を僕の隊に迎えようと思っているんだ」

 

護廷十三隊八番隊隊舎より外れに建てられた離れ、十三番隊隊長が起居する雨乾堂や六番隊のに作られた池のように色彩豊かな鯉が泳ぐ立派なものではないが、鳥が数羽、水を啄んだり羽を休めたりするほどの水場に古びた鹿威しがあった。京楽はやはりかと、想像通りの言葉に目を覆った。未だ匂いたつ杉の一枚板の座卓を挟んで向かい合うように座った旧友に茶を八番隊副官伊勢七緒、ななおちゃんが茶を勧めた。全く頭が痛い。指の間から見えるいつになく少年のように眩しいほどの目をさせたこの男は、まるで全ての事が上手くいくことを信じて疑っておらず、深いため息が出た。

「...一応聞くけども、彼女って黒崎 杏ちゃんのことかな?」

「もちろんだとも!京楽も見ただろう黒崎さんは抜きんでて秀でていて、それでいて剣術に霊圧は既に席官ほどの腕だ。鬼道が苦手で飛び級した死神も多くないが、例がないわけでもない。彼女なら飛び級の枠に値すると思うんだ」

 

浮竹の並べ立てた言葉は本心なのだろうけど、含みがあることぐらいは安易に想像ができた。また息を吐いて、浮竹に磨いでいた言葉()を向けた。

 

「確かに値するだろうね彼女は...でもね浮竹、僕はキミの隊に入れるのは反対かなあ」

「なぜ、ッん”」

 

噎せながらもどうしてそんなこと言うんだ。とでも言いたそうに混乱した顔、憂愁の色を漂わせる彼の横に移動して落ち着かせるよう背を撫ぜてやる。後ろに控えたななおちゃんまで僕の言葉が不可解だそうで、それを顔に浮かばせていた。

 

「あのねえ、浮竹あの子に志波 海燕を重ねてるのあからさま過ぎるよ。そうでないとしても、長年連れ添ってきた君の隊の隊員にはとくに、ルキアちゃんにはそう見えてしまうんじゃないのかなあ?それに、死人と比べられるあの子が可哀想だよ」

眉尻を下げて言えば、浮竹は何かを言おうとして、しかしぐっと唇を食い締めて押し黙った。しゅんとした顔を見ると彼は立案を飲み込んでくれたようだった。撫ぜていた手の指先で軽く背を叩き、僕は顔だけをななおちゃんに向けると承知したように頷き退出した。さて、思い立ったが吉日と、今日にでも山じぃの元に書類を届け出てしまうつもりだ。今引いたななおちゃんには、揃えていた書類を取りに行かせた。

 

水の溜まった鹿威しが石を打ち、バサバサと羽音を立てて水浴びに興じていた雀たちが飛び去る。落ち着いてきた浮竹から離れ、元の位置に戻る。浮竹はきっとあの子を引き取る場には同伴するであろうから、いろいろと話しておこうかと自分の湯のみにもうすっかり冷めてしまった茶を煽った。

 

◆◆◆◆

 「それで黒崎杏くん、キミには飛び級の資格があるとして彼の(八番隊)に入隊してもらうことになったんだが、大丈夫かい。気分が悪そうだけれど」

白髪頭の浮竹十四郎が心配するのも無理もない。机を挟んで正面に座っているため顔は二人の方に向けているがかっちりと固まってしまっている。

 

八番隊への入隊はもう決定事項なのだろうけれど、私はソレに正直に従うのは癪だったもので黙りこくった。自身の悪い癖である考えに身を落とし、周りを置いてけぼりにする。ああ、気分が悪い。私をのけものにして話がどんどん進んでしまうことに腹がたつ、最近も連続して見る魂の根本に居座る前世(過去)の私の夢は今も健在であり、繰り返し"未来の出来事"に新たにできた”不安”に悩まされているというのに、そんなこと知らぬ相手に怒っていても仕方がないかと心に一点を残したまま諦めた。

 

”不安”というのは他でもなく過去の私がBLEACHのコミックスを全巻集めるという夢を道半ばで閉ざされたということに、気づいてしまったのだ。死んでしまったのが18歳で、最後に購入したのは50巻まで。ぎり死神代行消失篇までしか知らない私は一体、介入者としてどう動いたら良いのかという問題に悩まされていた。それに、何番隊に配属されるのが一番介入者なモブとしてあっているのかということを考えていたところのコレだ。その一点だけを不安の種とし私は腹をくくった。

 

沈鬱とした無言の顔から一変、スッと引き締めた顔つきをとり姿勢を正した。

「そのお話、謹んでお受けいたします」

目を閉じて軽く肘を曲げ頭を下げると、横に座っていた教師が嬉しそうにヒクヒクと体を揺らしたのを感じ、それに反して私の気持ちが水が引くように冷めていくのを感じた。




書きたいこと多すぎて、内容詰めすぎたかなと反省してはいるんです。
始解編と同時進行で悩みすぎてて可哀想な杏ちゃんのために平和な日常編を書き始めたんですが、楽しいです。
年内には始解編あげる予定です。
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