……ようこそ、墓の中へ。
はっ、まさかこんな所でてめえの顔を拝むなんてな。笑いに来たってか、それこそ笑えるなあ裏切り者。……気に喰わねえ、どんな面さげてきやがった。
――――だんまりか。まあいい、とっとと消えろ。てめえの顔を見てると苛々する。折角久々の静けさってやつを楽しんでんだ。てめえみてえな奴がいると空気が濁って仕方がねえ。
あ? なんだその顔。俺がこんな事言うのが珍しいか? ……てめえが俺の何を知ってる。何も知らねえ奴がいちいち口出しすんじゃねえ。
俺は、てめえが嫌いなんだ。見てると癪に障る。てめえがあいつに似てるから余計にな。
……おい、てめえ。――――万春の名前を出すんじゃねえ。あいつはな、俺のもんだ。てめえなんかが口に出していい相手じゃねえ、身を弁えな。
――――ふん。何故だと、てめえがそれを聞くか。こいつは享楽だなあ、日の出の中に出て行った奴はやっぱ考えが違うぜ。思わず頭が下がっちまいそうだ。
聞きてえならそれなりの言い方ってのがあんだろ? そう、頭を下げてお願いします(プリーズ)だ。
言えねえか? だったらさっさと消えろ。俺はてめえになんか用はねえん――――。
……っ!
……おいおい、まさかてめえがそんな事言うなんてな。
やっぱりてめえは変わっちまったんだな……。それもあいつの影響ってやつか?
ちっ、……仕方ねえ。吐いた言葉は戻りゃしねえしな。昔のよしみで教えてやるさ。
――――あいつと始めに会ったのは織斑一夏を誘拐したときだ。
そん時は対して面白くもねえ任務で、攫ったのも価値のねえ餓鬼ひとり。子供のお使いよりも簡単な仕事だ。すげえ退屈だったな。何せ餓鬼はびびって何もしてこねえ。抵抗のひとつでもしてくれたら甚振ってやっても良かったんだけどよ。
そいつをなんで誘拐したかは知らねえ。餓鬼の身内がブリュンヒルデでラストサムライってのは知ってたけどよ、理由なんて知ってたところで興味なんてなかっただろうよ。俺はただ暴れられりゃよかっただけだ。
そんなときだ、あいつが来たのは。
織斑万春。俺が攫った織斑一夏の身内って奴だ。そいつが俺たちの居所をどっからか嗅ぎ付けてきやがった。
まあ、そん時は退屈しのぎにゃちょうどいいぐらいに思ってたけどな。敵がラストサムライだとは言え、結局のところは男。しかもこっち側を知らねえ甘ちゃん野郎だ。人を殺した事すらねえような童貞野郎が俺に勝てるはずがねえ。せめて時間つぶしになってくれりゃそれでいいって思ってたな。
……けど、あいつはそんな奴じゃなかった。
俺は油断もしてたし、舐めてもいた。お陰さまでこの顔の傷だ。俺は無様に逃げて、左目とってやたったがこんな秋刀魚傷付けられちまったよ。
万春はな、明らかに素人じゃねえ。童貞もとっくに卒業して、殺しに馴れてやがった。あいつISを展開して最初から俺を殺しにきたんだぜ。躊躇いなんて全然もってやしねえ。ラストサムライなんて名前で表舞台を動いてた野郎がだ。
腹がたつよなあ。ああ、相当切れちまったよ。女の顔に傷つけやがって、ただじゃおかねえ。しかもだ、あいつはよりによって俺相手に手加減してやがった。あいつがその気になりゃいつだって俺を殺せたのに。そしたらあいつ『そんなに弱いお前を殺す理由が見当たらないの』って言いやがった。……俺は、敵にすらならなかったんだよ。
俺はそれから万春をぶち殺してやろうとずっと考えてた。ずっとずっとだ。あいつをどうやって殺してやろうか俺がそれからずっと考えてチャンスを待ってた。
だからあいつの事を知るところから始めた。何があいつにとって屈辱的か、最高な事か。どれが一番嫌な事か。好きな事か。色んなもん調べてった。……始めてだったぜ、あれほど誰かに執着するなんざ。
そしたらあいつの事がよおくわかってきた。
俺はあいつの剣で斬られてんだ。一度受けた太刀筋を忘れるはずがねえ。そっから考えると一目瞭然ってわけだ。
万春はな、こっちがわの人間だ。表舞台の眩しいところにいるが、どうしようもなく俺たちみたいな人間さ。人殺しの糞野郎だ。勝つ事ですべてを手に入れてきた奴だ
――――怒ったか? だがてめえも感じてきたはずだ。織斑万春の外れっぷりを。
とことん強さを求め続けて勝利を欲し続けたあいつだからこそ、他の奴らとは違った可能性を得た。その末路がアレだ。生温い人間共に紛れようともしない、糞のような奴だ。
……それを理解して俺がどう思ったか、てめえにはわからないだろうな。
俺はな、嬉しかったよ。これで心置きなく殺せるってな。しかも全身全霊を持ってだ。あいつは俺と同じような糞野郎。俺と同じにおいを嗅いで、同じ視界を見てきてんだぜ。
だからこそ、あいつが生温い場所にいるのが許せなかった。俺と似た奴だってのに、てめえは俺とは別の場所にいやがるんだ。ありえねえだろ? こっちはあいつを殺すチャンスを狙ってるっていうのに、向こうはのんのんと過ごしてやがる。しかも俺はスコールから機会を伺えと抑えつけられてたんだよ。相手はIS操縦者だけでなく、戦闘のプロだからってな。
だからよ、俺はあいつをこっちに引き込んでやろうとした。
上の奴らは篠ノ之を狙っていたが、俺は違え。そんな奴に興味なんかなかった。俺はただ織斑万春を殺せればいい、それで良いと思ってた。……てめえが知るようにな。
あいつが向こう側の住人なら、こっち側に引きずり込んで思いっきり殺してやろう。そんなことばかり考えてた。
――――嫉妬だあ?
……はっ、! そんなもん、はなから知ってんだよ!
あいつは俺と同じ癖に俺にはねえものを持ってる。強さ、地位、それに家族だったか?
俺はチンピラでしかねえ女だ。自分の居場所は全部力で勝ち取ってきた。そうじゃなけりゃ生きられなかった。家族なんて知らねえ。気づけば俺はひとりだった。周りは全員敵ばかりで、守ってくれる奴もいねえ。だったら全部叩き潰して俺の思い通りにさせりゃいい。俺は強くならなきゃ生きていけなかったんだよ。
それに対してあいつはどうだ? 帰る家があって、誰にも認められて、守ってくれる奴がいて、しかも強い。温い世界にいるくせに、俺よりもだ。
この差はなんだ? 一体何が違って俺とあいつは似てるくせにこんなに違う?
世の中は不平等だ。一度だって平等になったためしはねえ。だから弱い奴から死んでいく。だったらあいつより弱え俺はあの時死んでるはずなんだよ。
その癖に、あいつもそれを知ってる癖に俺を殺さなかった。
……気づけば、俺はあいつがわからなくなっちまった。理解すればするほど、訳がわかんなくなっていった。
甘さ? 優しさ? そんなもんじゃねえ。そんな感情であいつが殺さないはずがねえ。俺はあいつの弟を攫った張本人だぞ。憎くて憎くてたまらねえ相手じゃなきゃならねえ。
だからよ、IS学園に乗り込んで万春に会えたのは良かった。俺が求める答えをあいつは持ってんだからよ。それを確かめなきゃ、どうもしようがねえ。
――――死ぬつもりだったか?
……さあな。どうだったか。
ただあいつと殺るってんだから、俺の命ぐらいベットに賭けなきゃ割りにあわねえだろ。あいつはそれぐらいの奴だ。俺が知ってる。
けどよ、あいつと戦ってるうちにそんな事どうでもよくなっちまった。今まで考えたり、悩んだりしてた事があいつと殺し合っている間には頭ん中から綺麗さっぱりに消えちまったんだ。
楽しかったぜえ。ああ、あれだけ楽しい時間は滅多にない。
一瞬でも気を抜けばこっちが潰されるギリギリの戦闘。気を抜いたら忽ちに首が飛ぶ殺し合いだ。しかも今度はあん時と違って向こうも本気で俺を殺しに来てやがる。俺だってあいつを殺すためのチャンスを何もしないで待ってたわけじゃねえ。あのままの自分なら何も出来ねえで殺されるとわかってんだ、俺なりに頑張ってたんだよ。
だけど、それで俺はあいつと戦えるようになった。真正面からの殺し合いだ。『なかなか斬り応えのありそうになったな』ってあいつは俺を見て殺しに来てる。俺だけを見つめてな。あの時には出来なかったが、あいつは俺を敵として認めたんだよ。
それがわかって、俺はようやく理解した。……あいつの事じゃねえ、俺のことだ。
俺はよ、万春に敵として認めて欲しかった。自分が殺すに相応しい、自分が殺される相手として相応しい奴として認められたかった。殺したくて殺したくてたまらねえ相手だったが、俺はどこかであいつを羨んでいた事はさっき言ったよな。
つまりそういうことだ。……俺はいつの間にかあいつに狂っちまったんだ。もうすっかり参っちまったよ。
ま、そん時俺は任務で潜入してたからよ。結局餓鬼のISは奪えねえし、時間もかけられなかったから半端に撤退しなくちゃなんなかったけどな。名残惜しいが、逃げた。
――――それからは面白かったぜ。何度もIS学園の餓鬼共を襲う作戦で俺は万春と殺しあった。何度も何度も、あいつと殺し合って切り結んでいった。あん時はそれぐらいしか楽しみがみつからないぐらいにな。
んだが、それを邪魔する奴もいたな。……織斑千冬。万春の妹で、てめえの身内だ。
あいつは俺と万春が殺し合ってるところに割り込んできて、いつも邪魔してやがった。『お前など兄さんの相手にさせるのも惜しいくらいだ』ってよ。
ふざけんじゃねえよなあ? 俺と万春が楽しく愛し合ってるとこ邪魔しにきやがって、それで言うに事欠いて俺が万春に相応しくねえだとよ。
ははっ、笑っちまうよなあ! 俺ほどあいつを理解できる人間いねえのによ!
その証拠にあれだ。万春はIS学園を離れた。
へ、そりゃそうだ。織斑万春は俺たち側の人間だ。あんな生温ぃ場所にいれるはずがねえ。今までが間違ってたんだよ。万春は必死に我慢して抑え込んでたんだ。自分が外れねえようにな。
けど、それも結局意味がなかった。
――――何故かって? はは、何故かだって! てめえがそれを聞くか!?
俺と同じ穴の狢でしかねえ、てめえがそれを聞くってか? ……笑わせてくれる。
まあいい、だったら教えてやる。
万春はな、俺たちと戦うと楽しそうに笑うんだ。満面の笑みってわけじゃねえが、殺し合いの中であいつは少しだけ笑うんだよ。『俺はやっぱこういう奴でしかねえのさね』ってな。しかも戦うたびにあいつは剣閃を研ぎ澄ませていって、楽しそうになってくんだ。
……まだわからねえか? おめでたい脳してんな。その頭の中に入ってるもんは腐ってんのか?
つまりよ、万春が消えたのは俺らがあいつ達に襲撃をかけたせいなんだよなあ。
――――嘘じゃねえよ。そんな必死な顔しやがって、……苛めたくなっちまうなあ。
それに嘘言ってどうすんだ。俺に一体何の得がある?
織斑万春は自覚した。自分がどういう人間で、どういう場所が似合ってんのかよ。『所詮俺にや剣しかねえ』があいつの口癖だったぽいが、とんでもねえ。万春がそんな奴かよ。あいつは殺し合いが好きなただの糞野郎さ。平和なんて望みさえしねえ。
そして、それを自覚した。俺たちと戦ってる間に気づいちまったんだ。戦っている自分が笑顔なのもな。はは、これで俺の念願が叶った。あいつを俺たちの世界に引きずり込んでやったのさ。
……それが俺たちの経緯ってやつだ。
後はてめえが知ってる通りだ。
織斑万春は俺らへの殺し合いに身を投じ、その中でお前は破れ、俺もまた負けた。
おかげで亡国機業はだいぶ滅茶苦茶にされたらしいな。俺もこの様だ、最後の殺し合いで左腕落とされちまった。
……あれは届いたと思ったんだけどなあ。俺の愛も、強さも。
けど、まだ俺は駄目らしい。
だからこそ織斑万春ってのもあるんだろうけどよ。あれぐらいじゃなきゃ、殺しがいもねえ。
――――後の事はもう知らねえ。
亡国機業がどうなったのかも、他のやつらがどうなったのかもどうでもいい。
まあ、織斑万春のことも心配いらねえさ。あいつは今もきっとどこかで戦ってる。場所なんて関係なくな。
……どうした、顔色が悪いなあ。気分でも悪いのか?
帰るんならそっちのドアから出てけ。二度とその面見せるんじゃねえよ。
俺は、しばらく眠ってる。あいつとの殺し合いでも夢見てるさ。
二人っきりで永遠に殺し合う夢だ。
そうして英気を蓄えて、もう一度俺は立ち上がってやる。例え亡国機業のエージェントでなくなろうとも、俺は万春を殺すまで戦い続けてやるぜ。
そうじゃなきゃ、生きる楽しみがねえってもんだ。そのための苦しみも痛みも、あいつを想えば大した事じゃねえ。女として本望ってやつだろうさ。あいつなりに言うなら『俺は戦うことしか出来ねえ女だの』か?
くくくく、……こいつは病み付きになりそうだ。