IS 切捨て御免!   作:六六

15 / 15
超お久しぶりです。


日本代表整備補佐 更識簪

 ……話って、なに? ――――万春先生のこと?

 

 

 それって、私に聞かなくてもわかる、ことじゃないの? だって、最近貴女が万春先生の事を調べてるって話、お姉ちゃんから聞いてる。だから、貴女が知ってる情報は私以上。私の知ってる万春先生の話と比べたら、大した事じゃない。だから、話すことなんて何もない。

 

 

 ――――え、私が万春先生をどう思ってるか? そんな話だけで良いの……?

 

 

 ……うん、分かった。それだけなら、良い。話しても問題ない。それにたぶんだけど、貴女が求めてるのは世間一般的な万春先生のイメージじゃなくて、私にしか見えない万春先生のことだろうから。

 

 

 でも、何から話そう……。取りあえず言える事は、私にとって万春先生はヒーローだってことかな……。

 

 

 そうヒーロー、正義だとか悪だとかそんな瑣末な事に拘らない唯一無二の、ヒーロー。それが私の持ってる万春先生のイメージ。万能じゃないけれど、それでも戦い続ける強くて、そしてとても悲しいヒーロー。

 

 

 だって、私が知ってる万春先生は、とても強いから。誰も追い付く事が出来ない、孤高の境地に万春先生はいる。

 

 

 貴女も見た、と思うけど、この前のモント・グロッソで万春先生が突然現われて、それで織斑君と戦って、そして一撃で織斑君を倒した。あっという間に、瞬きのうちに万春先生は織斑君を切り捨てた。

 

 

 ……万春先生の戦闘映像は幾つも見てたけど、万春先生の強さは歯止めが、効かない。それこそ天井知らずで、しかも過去の映像と比べてみると、明らかに今のほうが強い。

 

 

 歴戦を潜り抜けてきたからだとか、修羅場を幾つも経験したからだとか、色々憶測はあるけど、確実に、万春先生は以前の私たちが知ってるよりも強くなってる。……だって日本代表の織斑君が手も足も出せずに、近接ブレード『絶景』の一太刀で全部のエネルギーを失ったとき、皆呆然としてたし。

 

 

 ――――確かに、決勝戦の後で碌な休憩時間も与えられなかったと考えると、織斑君が不利であることには違いなかったと思う。相手は織斑君のお兄さんの万春先生、だから、織斑君の癖だとか強みとか弱みだとか、全部知っていたかもしれない。……だけど、それ以上に凄かったのは、万春先生は部分展開で出した『絶景』だけで、織斑君の挑戦を受けて、一撃で倒した。ISをまともに使用することを放棄した上で、万春先生は勝った。

 

 

 たぶんだけど、万春先生はスリルを味わいたいタイプじゃない。ぎりぎりを楽しむような、人じゃない。全力を振り絞った、それこそ必死な相手と戦う事を望んでいる。

 

 

 だから、例えあの時、織斑君が万全だったとしても、万春先生は部分展開だけしかしなかったのだと思う。それほどまでにあの二人には開きが、格差があった。

 

 

 織斑君からすれば、……悔しい気持ちで一杯だったんだろうな。決着がついて改めて行われた表彰式で、織斑君全然嬉しそうじゃなかった。それに表彰式が終わってから一時間以上も織斑君は選手控え室に閉じこもってた。もしかしたら、自分がしてきた事が根本から崩壊して、何に縋ればいいのか分からなくなったからだと思う。

 

 

 ――――どうしてそんな事が分かるのか? だって織斑君の境遇は私とよく似てるから、何となく分かるの。凄くて全部が全部完璧に出来る兄姉がいて、いつも二人を引き合いに出されて、比較され続けてきたから。

 

 

 私も同じ。お姉ちゃんは完璧な人間で、何をやってもお姉ちゃんに追いつくことが出来ない。なにか違う分野に秀でたとしても、その考えはなかなか消えてくれない。実際、私はそうだった。お姉ちゃんが苦手で、嫌いでたまらなかった。

 

 

 だけど、織斑君はほんの少しだけ違った。日本政府の暗部である更識は表沙汰にされることなんて、全くないけど、ブリュンヒルデの姉とラストサムライの兄とでいつも比べられてた。ただの、有名人じゃないし、二人とも。

 

 

 それで何か出来なかったら駄目な身内として認識されて、何か出来たとしてもあの二人の身内だから当然だ、て……私にはそんなもの耐えられない。家族全員が有名人っていうのは、きっと私が思う以上に辛い環境なんじゃないかな……。

 

 

 それに、織斑君は屈しなかった。世論とか世間とか全部どうでも良くて、織斑君はひたすら二人に追いつこうと必死、ただそれだけ。だけど、それって一番難しいことなんじゃないかな、て思う。どうやったって天才には届かないけれど諦める事無く、僻む事もなく、嫉むこともなく、恨んだりすることもない。寧ろ、万春先生や織斑先生を誇りに思ってた。

 

 

 だから今も頑張ってる。世界最強の栄光は手に入れたけれど、我武者羅に万春先生を乗り越えようと必死にトレーニングしてる。たぶん、本人はそんなつもりなんてないんだろうけれど、私にはわかる。だって、私も同じような境遇だったから……。

 

 

 ……あ、ごめんね話がそれた。貴女は織斑君じゃなくて万春先生を知りたい、だよね?

 

 

 さっきも言ったかもしれないけれど、私にとって万春先生はヒーロー。誰よりも苛烈に生きて、壮絶に戦ってる。

 

 

 たぶん、あの決勝戦後の決着が済んでまた行方を暗ませたけれど、きっとあの人は戦ってる。じゃあ何と戦ってるのか、何のために戦っているのかまではわからない。だけど、あの人が向かう場所は理不尽が蔓延っている。

 

 

 国家とか、宗教とか、軍事とか、戦争とか。人一人がどうにか出来ないものを相手に戦ってる。だからなんだろうね、中東とかだと万春先生の人気は絶頂を極めていて、天使のように愛されてる。

……なんでか? それは、あの人が戦う後ろには弱い人ばかりだから。

 

 

 理不尽に飲み込まれて、明日も知れない日々を送る人にとって、そういう大きなものを相手にたった一人で戦う万春先生は、希望の星。……実はこの前のモント・グロッソで中東代表の人から話しかけられて知った。悪魔のように畏れながら、神様や天使と同じくらいにあの人を愛して、その想いのままに代表にまで上りきった人が、いたの。

 

 

 ひたむきな努力は報われないかもしれない。たった一人の天才に屈することもある。だけど大切なのは諦めない心。強い信念。ようはハートの問題。

 

 

 だから、私にとって万春先生はヒーロー。あの人の強さや魅力をこの目で確かめるため、そして戦いからじゃなくて違う側面からあの人を見るため、代表候補生から降りた。

 

 

 お姉ちゃんには再三それでいいのかって聞かれたけど、私は、今でもこの選択が正しいと信じてる。近くからじゃなくて、少しだけ離れて見る。これで良い、これだけで私は充分。

 

 

 ……だからと言って、私は万春先生に何かしてもらった訳じゃない。寧ろIS学園での戦闘演習でしか関わった事がない。それに万春先生は機械音痴だから、自分のISでさえも整備が出来ない人で、私の設計に全く関わらなかった。だから会話も殆ど交わしたことがないし、あったとしてもお姉ちゃんを交えての事が多かった。

 

 

 ――――それに、たぶんだけどあの人とは見てる世界が全く違うし、居る世界も全然違う。私が一学年の頃、専用機のメンテナンスに困ってた時も手伝ってくれなかった。……ううん、別にそれをどうだかだなんて思ってない。寧ろ放っておいてくれてありがたかったかな。『身の丈に合わねえことしても、そりゃあ失敗する』って万春先生は言ってたし。

 

 

 なんだろう……ちょっと話をしてて結局何が言いたいのかわからなくなってきた。ごめんね、私莫迦だから。

 

 

 ……さっきの話は私なりの解釈をすれば、出来る事を理解して、出来ない事を理解するってことなんだと思う。たぶん、あの時私はそう感じた。

 

 

 万春先生は、はっきり言えば剣以外は何も出来ない人。だから『俺にや剣しか取り得がねえしのお』って煙草をふかしてるあの人を見て、なんでもう少し器用にやれないのか、とか、私には無理だ、って勧告したのか分からない。そんなぐるぐるした感情で、あの時はどうしようもなかった。

 

 

 ――――確かに、それでどうして先生をヒーローと思ってるのか、私にも理解できない。だけど、ひとつだけ言える事は、……あの人は私を導いてくれた。周りと全然打ち解けず、自分の世界に閉じこもってばかりだった私の、殻に罅を入れたのは、間違いなく万春先生のおかげ。手伝ってくれはしてくれなかったけれど、何も言わずに見守ってくれた。成功も失敗も全部受け止めてくれた。それだけ、それだけだけど、それだけで私には充分だった。

 

 

 これは万春先生が好き、とかそういう問題じゃないと思う。

 

 

 憧憬、憧れ、尊敬。それに過分の嫉妬が色々混ざった結果じゃないかな。たぶん、殆どお姉ちゃんにも当てはまるけど、天才は凡才を置いて遠くに飛躍する。経過はさておき、凄まじい結果だけ残す。そこに凡人の苦悩が挟まることなんか、知りもせずに。

 

 

 そういう意味で、だからこそ私は織斑君を万春先生と比較する。織斑君の折れない姿と、万春先生の決して曲げない精神性。それは本当にちょっとした差。だけど、どうしようもなく隔たりのある、決定的な差。事実、織斑君は万春先生に届かなかった。それでも、織斑君は諦めない。実力差とか、経験の差じゃない、絶望的なまでの才能の差に改めて直面して、それでも届いてみせようともがいてる。だから私は、たぶんだけど万春先生よりも織斑君を応援したくなる。凡人が天才を凌駕する瞬間を見たいから。

 

 

 ――――これも、結局は卑屈、なんだろうね。自分じゃ敵わない相手に挑み続ける強い信念。そんな自分になりたくて、でもなれなくて、だから私はあの二人にお姉ちゃんや自分を投影してるんだと、思う。自分では無理だから、せめて同じ境遇にいる人に頑張って欲しいという、身勝手な願い。

 

 

 ――――呆れる、よね。私はいつまで経ってもお姉ちゃんを乗り越えることが出来ない。だけどせめて、そういう壁を乗り越えようとする人に頑張ってほしい、って考えてる。私は、昔から何も変わらない。

 

 

 だけど、万春先生はどんどん変わっていく。才能云々の問題じゃなく、もっと違う部分で。IS学園に在籍していた時、何度も万春先生が戦っている所を見たけれど、あの人は天才だから、という理由を切り裂いて、どんどん強くなってる。まるで人生の全てが成長期であるかのように。

 

 

 そう思うと、本当に同じ人間なのかって思う。剣しか取り得がない、というのは万春先生の口癖だったけれど、頂点に立って尚強くなる姿は、ちょっと怖い。だから、私はあの人が真のヒーローなんだって思うようにしてる。

 

 

 ヒーローは決して弱音を吐かない。傷つくこともない。泣く事だってない。いつだって強く、眩しく輝いてる。昔、私はそんなヒーローの偶像に憧れていた。だけど、今ではそんなヒーローがいたら可哀想だと思う。

 

 

 皆の羨望を背中に抱えて、常に強くなろうと躍動して、全く敗北を知らない。そんな存在に憧れていた。けれど気付いちゃった。そんな存在なんて御伽噺の中にしか存在できない。だって、そうじゃなければあんまりに寂しい、孤独。そんな孤高を許容できる人は、たぶん、心のどこかが壊れてしまっている。だから私は、強さの頂で一人立ち尽くす万春先生を悲しいヒーローとして認識してる。

 

 

 あまりに強いという事は、なんでも願いが叶ってしまう事。権力も財力も全て苦労することなく手に入れることが出来る。苦しむことがないって、きっと退屈で、つまらない人生なんじゃないのか、と思う。だからこそ、私はいつか織斑君に勝ってほしい。いい加減、誰か強さに雁字搦めになった万春先生を解放してほしい。その可能性が一番高いのは織斑三兄妹のうちの誰か。ブリュンヒルデである織斑先生か、世界最強の座を手に入れた織斑君か。だけど、織斑先生は強すぎる万春先生を許している。許容して、受け入れている。それだけじゃ駄目。

 

 

 今、万春先生に必要なのは、敗北。それなんだろうと、私は思う。

 

 

 ――――ちょっと話過ぎちゃった。いい加減私は整備に戻らないと。

 

 

 全ては準備。万春先生が負けるための。

 

 

 ……結局私は何が話したかったのかな。これで良い?

 

 

 ――――そう、これで貴女が満足できたなら、私もそれで良い。

 

 

 

 じゃあ、ね。もう暫くは会うことが出来ないかもしれないけれど、ばいばい。

 




超お久しぶりです! 理想郷では六と名乗っているものです!
要望が以前からあったので少しだけ更新してみました。
最近執筆出来なかったのは、病気と闘っているからです。こうして書いているのが精一杯で、簪さんと同じように何が言いたいのか自分でもよく分からないのが現状です。
ですがクリスマスということで、物書きの一人である自分自身のため、こうして作品を投稿しようと決めました。いわばプレゼントです!
メリークリスマス! 皆様に幸よあれ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。