IS 切捨て御免!   作:六六

4 / 15
中国代表 凰鈴音

 まあ、色んな人からあの人の話を聞いてきたんでしょうけど、私から言わせて貰えば万春さんは泣き虫よ。それもしょっちゅう泣いてたわね。

 

 

 ……いやいや、怒らせるつもりなんてないわよ。ただ私が思っていることを言っただけで。

 

 

 それに、あんたは万春さんが泣いてるとこなんて見たことないでしょ。そりゃそうよ、だってあの人あんた達の前では強がってばかりいたんだから。

 

 

 え、なんでかって? 

 

 

 そりゃあんた達が万春さんの家族で、兄妹だからよ。しかも万春さん兄妹で一番上の兄貴だから、弱いところなんて見せたくなかったんじゃない? 立場にしても、大黒柱って感じだったし。本当のところはどうだかなんて、わからないけどね。

 

 

 ――――にしても、あんたよくそんな事聞くためにわざわざここ(中国)まで来たわね。電話でもすむ話じゃない。……はあ、なんだかその自由さが羨ましいわ。国家代表になってから色々と面倒なものが増えたから、本当にそう思うわよ。

 

 

 ま、そんな事私には関係ないけどね。私は私で勝手にやらせてもらってるわ。

 

 

 それで、なんで私が万春さんが泣き虫だって思ってるのかって言えば、私があの人と始めて会ったとき、万春さん泣いてたのよ。

 

 

 ああ、どうしてそんな事になったかまでは聞かないでよ。私もちゃんとは知らないんだから。

 

 

 小学五年の時だったかしら。一夏と仲良くなってちょっと経った頃の事だと思うけれど、あいつん家に遊びに行ったのよ、私一人で。

 

 

 そしたら一夏の奴がいなくて、しかも雨まで振り出すじゃない。通り雨ってやつだったんだけど、どうしようかと思ってたら鍵が開いてたのよ。その時私がこのままじゃ嫌だと思ったんだか知らないけれど、鍵が開いてるならって家に入っちゃったのよね。

 

 

 ……不法侵入って言わないでくれる? 私だっていけない事してるかもしれないってその時にはわかってたんだから。

 

 

 そしたら家の中で万春さんが寝てたのよ。

 

 

 その時は万春さんが有名人だって知らなかったわ。モンド・グロッソが終わった後の事だけど、万春さんの顔とか私興味なかったし。『世界唯一の男性IS操縦者』だとか、そういう人がいるってのは知ってたけど、所詮画面の向こうじゃない。遠い世界にいる人に熱中するほどISのファンでもなかったしね。まあ、弾みたいにのめりこむ場合もあるけど。

 

 

 ……ああ、弾? あんた知らないの、蘭の兄貴よ。

 

 

 ふーん、あいつ教えてないんだ。……相変わらずね、あの二人も。

 

 

 ――――話戻すわよ。それで一夏にお兄さんやお姉さんがいるって話はきいてたから、この人がその万春さんだって気づいたの。万春さん帰国したばかりで、妙に疲れてたらしくてね、私が入ってきても全然起きないのよ。ありえないでしょ。『立てばもののふ、座れば剣士、歩く姿は武士の華』なんて海外では呼ばれてたあの人がよ。いっくら寝起きを襲っても返り討ちにした万春さんがよ。モンド・グロッソでよっぽど疲れてたんでしょうね。……まあ、その時にはそんな事も知らなかったんだけど。

 

 

 そしたら何か気になってね、万春さんの事が。じっと座って見てたのよ。ああ、別にその時にかっこいいとか思ってなかったわ。もちろんあの人はかっこいいけれど、でも小学五年生にそんな感性求めないでよ。ほら、子供ながらの直感って言えばいいのかしら。なんだかこの人は違うぞ、ってね思ったんでしょうね。

 

 

 でね、しばらくしたらさ、あの人が泣き出したのよ。

 

 

 寝ながらね、涙流したのよ。

 

 

 ――――そうね、何だかショックだったわ。

 

 

 私あの頃、男の人が泣いてる姿をよく見てたわ。ISが登場して、男の人の立場がどんどん悪くなっていって、それでね。だから言っちゃえば男の人の涙なんて見慣れてたような気がするわ。

 

 

 ……でも、あれは別だったわ。何が何だかわからないけれど、ただその人が悲しい事でもあって泣いてるんじゃないかって思って、もしかしたら悪い夢でも見てるんじゃないのかなってね。でも寝てるからどうしようもないし、それにはじめて会った知らない人だから起こすなんて出来ないわ。

 

 

 それで私ね、気づけば万春さんが泣き止むまでずっと涙をふいてた。

 

 

 正直止める事は無理だし、それでも何かしたかったからかな。

 

 

 ――――それが万春さんとの出会いよ。

 

 

 それから一夏が帰ってくるまで、一緒にいたんだけど、万春さん自分が泣いてた事に気づいてね。それでそれを知った私に驚いてたのよ。『まさか、誰かに見られるなんてなあ』なんて言いながらさ。

 

 

 たぶんそれで箍が外れたんでしょうね。万春さん私の前だと泣けるようになったらしいわ。……おかしいでしょ、十歳年下の女の子の前でしか泣けない男なんて。

 

 

 だから、あの人は泣き虫なの。もうそれで私の中ではそういうイメージで固定しちゃってるわ。変えようもない。

 

 

 ――――嫌じゃなかったのか、って?

 

 

 さあ、どうとも言えないわね。面倒だって思ってもいたし、男が泣くなんてかっこ悪いって思っていたかもしれないわ。でもさ、それで私、一回だけ千冬さんに頭下げられた事があるのよ。『すまない。私だけでは駄目なんだ。私だけでは兄さんを助けられない』って真剣な顔で言われてさ。……そんな事で頼られるなんて始めてだったから、嫌だなんて言えないじゃない。 

 

 

 それに私は私で悪い気はしてなかったのよ。今だってあの人に比べればずっと子供だけど、それでも自分が誰かの役に立って、しかも必要とされてるってわかったからさ。それをうんと考えて噛み砕いて、理解して、その役目を受け入れたってわけよ。

 

 

 ――――だから、あの人の泣き顔はわたしだけのものよ。

 

 

 ……ずるい、ですって? 残念ね、これはあんただってラウラにだって千冬さんにもそう、誰にも譲るつもりはないわ。万春さんの涙や弱い所、全部わたしのものなの。もうこれは決まった事よ、仕方のない事なんだから。

 

 

 ああ、ごめんごめん。にやけるのは止めるわよ。

 

 

 でも、そうね。――――あれが私の初恋よ。

 

 

 そして、まだそれは続いてる。

 

 

 これから先、違う人を好きになるなんて考えられないくらい、私は万春さんが好き。

 

 

 ――――何よ、その顔。そりゃ本人が目の前にいないから、これぐらいは言えるわよ。……まだ直接こんな事言える自信ないけれど。

 

 

 だからさ、両親が離婚して中国に帰らなくちゃならなかった時、どうしても中国に行きたくなくて家出までしたわ。

 

 

 ずっと会えなくなるなんて、その時の私には想像できなかったけれど、でも折角出来た友達や万春さんの傍にいられなくなって、もしかしたら二度と一緒にいる事が出来なくなるんじゃないかってわかっちゃったからさ。

 

 

 ……それで、家出。いやあ、私も若かったわねー。

 

 

 走るだけ走って、それで嫌なことから逃げるだけ逃げて。

 

 

 私気づいたら知らないとこにいてさ。見たことない景色に、見覚えのない地形。それに周りには知らない人ばかり。ほんと、どうしようかと思ったわよ。最悪、このまま死んじゃうんじゃないかって本気で怖くなって、その内不安で涙が出てきちゃった。

 

 

 ――――そしたら万春さんが私を見つけてくれたのよ。『おお、なにしてんだ鈴音』って言いながらさ。うちの親が連絡とったらしいんだけど、それで万春さんが探しに来てくれたってわけ。

 

 

 ありえない話でしょ。あの人良い意味でも悪い意味でも身内にしか興味ないし、それも剣とどっちか大事かってなったら両方取るぐらいに大事にしてるからさ、その時なんて一夏や千冬さん以外に関心持ってる人なんていなかったんじゃないかしら。私だって一夏の友達で自分が楽になるために利用してるって考えてたと思うわよ。

 

 

 でも、実際に万春さんが私を探してくれたのよ。『帰る場所があんなら帰ったほうがええ。それでも帰りたくないなら俺んとこに来い』って泣いてる私を慰めてくれてね、そのまま背中におんぶしてもらって一緒に帰ったわ。

 

 

 ――――それがたぶん切っ掛けなんだろうけど、好きになっちゃったのよねえ。ううん、好きだったんだけど自覚がなかったのよ。ただ、それに気づいただけ。

 

 

 ……おかしな事じゃないでしょう。女の子って大人っぽい男に憧れるもんなのよ、少なくても私はそうだったわ。万春さんがラストサムライってわかってからそれも凄かったわよ。なんかもう、近所に住んでる友達のお兄さんから一気にランクが上がって憧れの人って感じで、ずっとついて回ってたような気がする。たぶん一夏と同じぐらい一緒にいたわね、あれは。

 

 

 だけどね、向こうからすれば十歳年下のがきんちょだったから、全然まともに相手してくれなくてさ。『鈴音は愛い愛い』ってさ。それが無性に腹立ったのよ。いくら一夏の友達だからって、それ以上として見てくれないのはどういう事だこんにゃろー! って。

 

 

 それでまあ、結局中国に帰ってからISに乗って、いつの間にか代表候補生になってたわけ。理由は才能があったからってのもあるけど、万春さんに認められるにはISしかないんじゃないかって、本気で思ったからよ。……一夏もきっと同じ気持ちだった。あいつのほうが根は深いかもしれないけどね。

 

 

 ――――でも、日本に戻って折角それを見せようとして、自分がどれだけ間違ってるかって思い知った事があるわ。

 

 

 一年の時か、クラス対抗戦の時に一夏と戦ってたら無人機ISに襲われてね。そう、無人機。まだ実用段階でさえないものが実際に私たちを襲ってきてんだから、たまったもんじゃなかったわよ。

 

 

 それで、私は一夏と協力してどうにかそいつを倒したんだけど、そしたら壊したはずのそいつがまだ動けてて私たちにレーザー撃ってきたのよ。私その時には完全に気が抜けちゃってさ、避けられるはずもなかった。そのレーザー、アリーナの防御壁ぐらいなら簡単に壊せるものだったら、『あ、死んだ』って思ったわ。一夏がカバーに来てくれてたけど、それも間にあう感じじゃない。――――これで死ぬんだ、もう万春さんに会うことも出来ないんだって、何かその時色々と考えたわ。

 

 

 ……だけど、それを万春さんは切り裂いてくれた。直撃すればISぐらい完全破壊できるビームを。しかも万春さんの『灰鶴』は一発でもダメージが入れば終わる代物なのよ。

 

 

 どうなのかしらね。自分から死ににいく人の気持ちなんてわからないし、そんな危ない場所に自分から飛び込んでいくような真似、中々出来ないわよ。

 

 

 ――――私? 私は……って、あんた。

 

 

 ……そんなわかりきってる事を私に言わせるつもり?

 

 

 まあ、いいわ。だからそれで私はますます万春さんが好きになったけど、でも悔しくてさ。結局自分は何も変わらない、ただの子供のままなんだな、てさ。全然万春さんに追いついてない。それどころか、目の前で見せられて初めて万春さんの核違いな強さを理解しちゃったから。それで落ち込みもしたし、泣きそうになったりもしたわ。それまで持ってた意地とか全部忘れてね。

 

 

 でも、あの人卑怯なのよ。そういうときに限って、私を探してくれる。

 

 

 だけど、私ってば落ち込んでて卑屈になっててね、素直に万春さんの事見れなかったの。

 

 

 そしたら、あの人なんて言ったと思う?

 

 

『何も言う事なんてないけど、お前が無事でよかったさ』って笑いながら言ってくれたのよ。

 

 

 ……ええ、堕ちましたよ。墜落必至だったわよ!

 

 

 それで、万春さんの言葉でわかったものもあるの。今はまだしょうがない。でもこの人に笑って欲しいから、今度は私がこの人を守れるくらいに強くなってやろうってね。

 

 

 ――――笑いたければ笑えばいいわ。あの織斑万春を守るって言ってるんだからね。私も頭おかしいんじゃないかって偶に思うわ。でもそれを私は正しいと信じてるし、これは私の道だからね。……間違ってたって後悔なんてないわ。

 

 

 だから、万春さんの授業も剣術部も耐えてきた。まあ、生身でISと戦えとか言われたときはこの人、人間じゃないわって怖くなったけど。

 

 

 だけどね、全部を凌いで飲み込んでいったら実際に強くなっていったし、万春さんと過ごす時間も多くなったから良かったわよ。それに、たまに万春さん私の頼みも聞いてくれるから、昔みたいにおんぶしてくれたしね。

 

 

 ……ラウラがだっこされるのは、なんか気に入らなかったけど。

 

 

 ――――万春さんはまだ私を認めてくれない。少なくても、こんぐらいじゃまだまだだってあの人に言われなくたってわかるわよ。

 

 

 だから今度のモンド・グロッソ。私は絶対に負けるわけにはいかないの。一夏なんかで躓いてられないわ。私は全部を追い抜いて、万春さんの隣に立つ。そのためなら千冬さんにだって負けない。……うう、ちょっと怖いけど。

 

 

 にしても万春さんの隣にいる千冬さんとかすごいお似合いなのよね。というかやっぱり乳? 乳なのかしら!? 千冬さんといい、山田先生といい、やっぱり大人の魅力は乳で決まるってーの!?

 

 

 ――――ちょっとあんた。あんたまで胸でっかくなりやがったら、それをもいで私の糧にしてやるからね!

 




十歳年下に泣きつく男。
なんかすごいな。

年を経てもちっぱい鈴。これでいい、六もそれがいいと思う。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。