IS 切捨て御免!   作:六六

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デュノア社社長 シャルロット・デュノア

 遠いところからわざわざありがとう。久しぶりだね、皆は元気にしてた?

 

 

 ――――そっかあ、皆相変わらずなんだね。ふふ、なんだか嬉しいなあ。自分だけ変わらないでいたら、それはそれで置いてけぼりされちゃったみたいなものだしね。

 

 

 それで、何を聞きたいのかな? 応えられるものなら答えるけれど。

 

 

 ……なるほどね、万春先生の事か。

 

 

 うーん、そうだなあ。ちょっと難しいかなあ。……ああ、ごめんね。折角来てもらってあれなんだけど僕にあんまり喋られる事なんてないと思うよ。君が聞きたいようなものがないかもしれないし。それでも良いの?

 

 

 ――――うん、じゃあわかった。僕が知ってる万春さんの事だけでも良いなら話すよ。

 

 

 でもさ、君も知ってる思うけれど。……僕、万春さんの事苦手だったんだよね。だからあんまり仲が良かったわけでもないし、一緒にいた事も少なかったんだ。

 

 

 ――――ああ、嫌いだったわけでもないし、直接何かされた事だってなかった。それに先生としては尊敬もしてたから安心して。だけど、ちょっと先生らしくない人だったかな。いつもだるそうに煙草吸ってたし、『今日は何食ったっけか?』ってお腹空かせてたしね。懐かしいなあ。

 

 

 ただ単に僕が勝手にあの人に苦手意識持ってただけの話しだよ。

 

 

 ……なんでかって? あはは、いきなり踏み込んでくるね。

 

 

 そうだね、なんでだろう。ずっとそれがどうしてなのか僕にもわからなかったんだ。でもIS学園で万春先生と会ってからしばらく経って、それで卒業してから会社を乗っ取って、ようやくわかった気がしたんだ。

 

 

 僕はね、あの人が苦手なんじゃない。あの人が怖かったんだ。

 

 

 ――――僕も皆と同じように、万春さんの事は知ってたよ。ISに関わる前からね。『世界唯一の男性IS操縦者』で、第一回モンド・グロッソ格闘部門の初代優勝者。近接ブレード『絶景』のみで戦い、全てを切り裂いた飛ばない戦士ラストサムライ。すごいよね。……とても僕にはそんな真似できないよ。

 

 

 でも、モンド・グロッソや引退前の公式戦を見て、ちょっと違和感て言うのかな、引っ掛かりみたいなものを感じてたんだ。それが何なのかまではわからなかったけれど、見れば見るほど『フラジール』を操るラストサムライの姿が目に焼きついて、それが嫌だった。

 

 

 理由もわからずにね。

 

 

 君も知ってるよね、万春さんの強さ。世界でたった一人しかいないISを使える男の人だけど、戦ってるのは対戦相手だけじゃなくて世界だった。

 

 

 女の人しか使えないISを男の人が操縦できるんだから、きっと女の人からも男の人からも厳しい目で見られてたと思うよ。……それに、ISっていう兵器に乗って戦うんだから、どんなに怖いんだろう。誰かが助けてくれるかも怪しい世界で、あの人はたった一人ぼっちだったんだ。

 

 

 ――――そうだね、僕はそうやって万春先生に自分の気持ちを押し付けて、自己投影してた。

 

 

 特にお母さんが亡くなって、父に引き取られてからそれが強くなっていったよ。当時のデュノア社で僕はたった一人で、誰も助けてくれない。父は僕を政治の道具にしか見ていなかったし、相手の母は僕を目の敵にしてた。仕方ないかもしれないよね。自分の好きな人を取られていた形で、しかもそれに全く気づかなかったんだから。

 

 

 ……それから僕はずっとあの人を追いかけてた。表には出られなかったけど、公式戦の記録データを貰って見続けてた。この人は僕と同じように独りぼっちなんだって思いながら。

 

 

 でもね、あの人は全然そんなの関係なかった。

 

 

 世界とか、兵器とか女尊男卑とか関係なくて、目の前にあるものはなんだろうが切り捨てていった。それがどれだけ凄い事かすらどうでもいいようにね、障害や壁を切り開いていったんだ。 

 

 

 ……僕はね、嫌な奴なんだ。そんな万春先生を見て、嫉妬さえしてたんだから。なんでこの人は僕と同じように一人ぼっちなのに、こんなに強いんだろうって。何も出来ずに流されるしかない僕には眩しくて、……苦手になった。

 

 

 だからさ、一夏が現われてIS学園に男として転入するってわかってから、チャンスだって思ったよ。直接この目で確かめてやるってさ。父の言い分に従うしかなかった僕だけど、それだけは譲れなかった。そもそも一夏のデータを盗む呈で行く事になってたけど、優先事項は違った。僕にとって一夏よりもラストサムライのほうが重要だったんだ。

 

 

 ――――でも、直接万春先生を見てから、そんな気持ちもなくなったよ。

 

 

 あの人さ、初めて会ったときに僕を見てたんだ。ラウラに抱きつかれてぶらさげながらもさ、『余計な事すれば首もってくぞ』って言ってるのが目を見てわかった。なかなかないんじゃないかな。初めて会った人に殺気をぶつけられるなんて。

 

 

 その証拠に待機状態で刀の形状をしていた『灰鶴』をいつでも抜けるようにしていたからね。見せ付けるみたいに。

 

 

 ……万春先生は全部わかってたんだ。僕が女で、一夏のデータを盗もうとしているってさ。まあ当然かもしれないよね。IS学園がそんな簡単に行くはずもない。しかも相手は織斑兄妹。ブリュンヒルデとラストサムライ。特に『世界唯一の男性IS操縦者』だった万春先生は情報スパイの相手なんて飽きるほどやってたみたい。僕みたいな小娘がどうにかできるものでもなかった。

 

 

 あの人は僕が思ってたような人と全然違ってた。僕は勝手な思い込みであの人を自分と同じ一人ぼっちな人と見当つけて、それに縋ってたけど、でもそんな事はなかった。万春先生には織斑先生がいて一夏がいて、それにラウラや鈴やもっとたくさんの人がいた。一人ぼっちでもなんでもないよ。……それですごく怖くなったんだ。結局僕は一人ぼっちで力を持たない奴でしかないんだってね。

 

 

 それから僕は一夏にばれたんだよ、女だって。

 

 

 ……まあね、気が抜けてたというか、一夏を舐めてた結果だね。

 

 

 ――――それにね、その時には僕はもうなんだか全部がどうでも良いやって思ってたんだ。変な話じゃないでしょ。望みは違った。僕の勘違いで。それだけで僕はもう駄目になっちゃったんだよ。だから一夏が誰かに話しても抵抗するつもりもなかったし、フランスに戻されても逮捕されても仕方がないなって思ってた。

 

 

 でも、一夏は言ってくれたんだ。『俺が助ける』ってね。

 

 

 嬉しかったなー。始めてだったんだよ、そんな事言われるの。

 

 

 ――――あ、一夏の話になってたね。ごめんごめん、話戻すよ。

 

 

 でも、一夏だって関係してるんだよ、この話。

 

 

 一夏はさ、ずっと家族の助けになりたいって思ってたんだ。ブリュンヒルデとラストサムライが兄妹ってすごいけど一夏は一夏で色々考えててさ、話は聞いてたんだけど万春先生の左目に走った傷跡って誘拐された一夏を助けるためについたものなんだ。それを一夏すごい気にしててね。それを理由に二人とも現役引退しちゃったから、余計にそう思ってたんだと思うけど、『二人が弟として家族として、一人の男として誇れるようになりたいんだ』って言ってた。

 

 

 ……敵わないなあ、って思ったよ。一夏は僕と違って流されずに、強くなろうとしてた。万春先生や織斑先生と同じだね。皆自分のために、誰かのために強くなってた。

 

 

 だからさ、僕も頑張ろうって決めたんだ。今まで一度もそんな事考えずに、流されていつか楽になれるってじっと耐えてきたけど、……抵抗するだなんて想像もつかなかったけれど、それでも許されるなら自分の未来は自分で切り開きたい。

 

 

 ――――その結果が今だよね。もうこの会社は僕のもの。

 

 

 ……ふふ、笑っちゃうでしょ。僕だってあの頃には夢にも思わなかった。

 

 

 我儘に生きて、自分の思う自分になるためには強くならなくちゃいけないんだ。勿論それは純粋な強さじゃないよ。誰にも負けない、意志と心の強さ。それを僕はIS学園で学んだ。それがなくちゃ、僕はあの時きっと潰れてただろうね。

 

 

 まあ、これも万春先生の受け売りだけど。『単純な強さは純粋な強さほど輝かない』って。

 

 

 ――――でも、それを強く思ったのはツーマンセルトーナメントの時かな。

 

 

 あの時僕は一夏と組んでラウラや箒と戦ってたんだ。でもね、ラウラは僕やパートナーだった箒にも興味なくて、一夏だけを狙いつけてた。

 

 

 なんだろうね。因縁って言えばいいのかな。ラウラはずっと一夏や織斑先生を目の敵にしてたんだ。理由はラウラが万春先生の弟子で、ラウラは万春先生が引退する切っ掛けになった一夏や、それに妹である千冬さんを恨んでたからだよ。ううん、あれは憎んでたって言ってもいいよ。だってあの織斑先生に真っ向から反抗してたんだから。それぐらいすごかったんだ。しかも転入初日に一夏をビンタして床に叩き落したんだよ。

 

 

 ……信じられないでしょ。君が知ってるラウラから見れば、そんな事するはずがないよね。いつも鈴と一緒にラウラったら万春先生につかまっておんぶにだっこされてたんだから。あの二人可愛かったなー。『あんた降りなさいよ!』『貴様が降りるがいい!』ってずっと引っ付きながら言い合ってたっけ。

 

 

 だけど、それだけじゃなかったよ。僕はその時いなかったけれど、ラウラ万春先生が顧問をしていた剣術部に乗り込んで、部員全員を滅多打ちにしたらしいんだ。

 

 

 ラウラは軍人で、しかも万春先生の弟子だったからね。皆も善戦はしたらしいけれど負けちゃったんだ。んでね、それに一夏が怒ってね。組み手するはずだったんだけど、織斑先生に止められた。

 

 

 『好きにやらせるのが良いんだぞ』って万春先生は言ってたけれどね、結局因縁はツーマンセルトーナメントに持ち越した。

 

 

 ――――正直ラウラの気持ちがわからなくもなかったんだ。

 

 

 あの子はね、あの時万春先生しかいなかったんだ。仲良くなってから聞いたんだけど、ドイツ軍で駄目になっていた自分を救ってくれたのが万春先生だったんだって。誰からも見放されて、誰も助けてくれない自分の前に現われて強くしてくれたのが万春先生たった一人だから、ラウラは万春先生以外いらなくて、万春先生たった一人を求めたんだ。

 

 

 ……まるで僕みたいでしょ? 理由はどうであれ、僕たちは違う形で万春先生を求めてた。だからね、どうしても他人事のようには思えなかったんだ。この子も僕と同じような人だったんだってね。

でも僕はその時頑張ろうって決めたからさ、ラウラにだって負けやしないって覚悟を決めたんだ。一夏だってそうだった。

 

 

 ……ここから先の話は守秘義務に引っ掛かると思うけど、大丈夫?

 

 

 そっか。じゃあ、誰にも言わないって約束だからね。もし喋ったりしたら、怖いよ?

 

 

 ――――異変が起きたのは、箒を倒してラウラを倒しかけた時だった。ラウラの『シュバルツェア・レーゲン』がね、変化していったんだ。

 

 

 そしたらさ、僕たちの前に黒い『灰鶴』が現われたんだよ。

 

 

 そうだね。あれはVTシステムによるものだった。違法なはずだったんだけど、何故かそれがラウラの機体に組み込まれていたんだ。何故か、なんてわからない。ただ現実として僕たちの前に『灰鶴』が現われたんだよ。

 

 

 『灰鶴』はね、当時のISで最も壊れやすいISとして知られていて『フラジール』って呼ばれてたんだけど、あの威圧感はそんなもの感じさせなかったよ。『絶景』を腰に構えていつでも切りかかれる体勢のまま佇んでいる姿も、万春先生の姿そのままだった。でもあれは『灰鶴』じゃなかったのは一目瞭然だった。だって、『灰鶴』がPICで浮遊してたんだもの。

 

 

 欧州で『灰鶴』が『フラジール』って呼ばれてるのはね、ISでありながらISではない戦法をやるから、それの侮蔑が込められてるんだ。空も飛ばないで、いつだって壊せるはずの機体だから『フラジール』。

 

 

 ――――だからだろうね。一夏はものすごく怒った。そりゃそうかもね。だって憧れだった自分のお兄さんの姿を真似られて、しかもそれが偽者なんだから。あの時の一夏はすごかったよ。たぶんあれほど一夏が怒ったのは、あれぐらいじゃないかな。

 

 

 それで一夏は『灰鶴』に挑んでいった。でも、やっぱり偽者だろうとも『灰鶴』は『灰鶴』だから、一夏は全然相手にならなかった。速過ぎて斬られた後に斬られたってわかるしかないほど、圧倒的な剣の冴えで『灰鶴』は一夏を切り捨てていった。

 

 

 だけど、一夏は全然諦めなかった。敵うはずもない相手だってわかってたのに。

 

 

 でもね、一夏さ『こんなもんで行く道引いてられっか!!』て叫びながら斬りかかっていったんだ。

 

 

 ――――かっこいいよね。あんな真っ直ぐな人、他にはいないよ。

 

 

 ……一夏にとって万春先生ってどういう人なんだろうね。今でもわからないんだ。憎んでもないし、嫌いでもないし、それどころか大好きだって言ってたしね。でも、追いついて乗り越えたい相手だったのかなあ。

 

 

 ほら、男の子って絶対負けられない、負けたくない相手がいるんだ。それが一夏にとってはお兄さんの万春先生だったんだろうね。それがどういう気持ちからくるものかわからないけど、僕はそう思うよ。

 

 

 ――――結局その後、ラウラが負けて『灰鶴』の姿も消えた。一太刀だけ掠った零落白夜が『灰鶴』を消し飛ばしたんだね。『灰鶴』のそんなところまであれはトレースしてた。

 

 

 ……実は僕さ、試合の後で万春先生の事見かけたんだ。結局後の試合が全部無くなっちゃったから、他の生徒とかの事で忙しかったはずなんだけど、織斑先生が気を失っていた一夏を看ている間、万春先生はずっと外にいたんだ。

 

 

 それが気になって僕ずっと見てたんだけど、万春先生煙草吸いながら遠くを見てたよ。ずっと、ずっと遠い所、見えないところを見るように。なんだか話しかけちゃいけない雰囲気だったからそのまま一夏の所に向かったけど、あの時万春先生は何を考えてたんだろう。

 

 

 ――――僕が話せるのはこれくらいかな。ごめんね、あまり目新しい話じゃなかったでしょ。

 

 

 ……そう、そう言ってくれるとこっちも助かるよ。

 

 

 じゃあ、そろそろ僕は行くよ。まだまだ会社が奮ってないからね、あと少しで上手くいきそうだからもう一頑張りしないと。

 

 

 辛くないのか、て? 

 

 

 確かにちょっと疲れる事は多いけれど、今は楽しいからね。それにフランスだと僕ちょっとした有名人なんだ。悪い父や母に虐げられた娘が復讐に正義を示すって。はは、ちょっとした英雄譚みたいなことになってるんだよ。だから応援してくれる人もいるし、全然辛くない。

 

 

――――君は、今度はどこに向かうのかな?

 




シャルのイメージは少し計算高い女の子ってところ。
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