IS 切捨て御免!   作:六六

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ドイツ軍IS配備特殊部隊隊長 ラウラ・ボーデヴィッヒ大佐

 ……珍しい顔だな。我がドイツ軍に何のようだ。

 

 

 ――――師匠のことについて、か? ふむ、確かに教える事はやぶさかではない。お前と私の仲だしな。

 

 

 だが、メリットが見当たらんな。……意地悪ではない、等価交換というやつだ。お前は持っているのか、情報を聞き出すに値するものを。

 

 

 ……なっ、それは本当か!? 嘘だと承知しないぞ!! 

 

 

 ――――本当に、そうなのか……?

 

 

 はは、……そうか、あのお方は、まだ剣を握っておられるのか。

 

 

 ――――いいだろう。その情報、確かに受け取った。ならば教えてやろう、ラストサムライと呼ばれた我が師匠の事を。

 

 

 では何から話すか。……私と師匠の出会いか?

 

 

 なるほど、順どおりにいけば確かにわかりやすい、か。では、師匠がドイツ軍にいた話でもしよう。お前も聞いた事ないだろう。

 

 

 そもそも師匠は日本人であり、私が所属する部隊はドイツ軍。……本来ならば縁もゆかりもない、それこそ私たちに関係性など存在しないはずだった。

 

 

 しかし、師匠がドイツに借りを作った事で私たちは一筋の線で紡がれる。

 

 

 師匠の兄妹であるお姉様も来るはずだったのだが、それを師匠は肩代わりする形でドイツ軍に訪れ、我が軍を教導することになったのだ。

 

 

 そうして私は師匠に巡り合った。

 

 

 ――――だが、師匠は軍人ではない。私が軍人でしかないのと同じように、あの人は剣士以外の何者でもなかった。

 

 

 だからこそ軍行動に必要な教導を行わなかった。師匠が教導されたのは個人レベルの底上げだった。一個人としての戦闘力の増強で、軍隊戦闘ではなくあくまで戦闘という点にのみ拘り、指導を下さった。実際指令部からは再三の教導変更を申し付けられてたらしいが、聞く耳持たずだったな。『関係ないさね』としきりに語っていたな、あの頃は。

 

 

 当然部隊からも不満が噴出していた。

 

 

 師匠がラストサムライであり、モンド・グロッソ初代格闘部門優勝者であろうとも、軍人としての矜持と男であるという理由で侮っていたのだ。……私は違うがな。

 

 

 だが、流石師匠だった。あのお方は我々を完膚なきまでに叩きのめし、己の実力を示したのだ。それが集団戦闘だろうが、ISであろうが関係なく師匠は無傷のまま完全勝利でもって我々を従えた。しかも勝利してすぐ『楽しいけど、まだ足りねえなあ』と煙草を吸い始めたんだ。

 

 

 弱い者が強き者に従うのは全くの道理だ。戦場ではそれがわからんものほど死にやすい。冷静な状況把握と情報整理が出来ぬのだからな。

 

 

 そのようにして師匠の教導が行われたが……地獄だったぞ。

 

 

 やっていた事と言えばIS学園で師匠がお教えになっていた授業や剣術部と同じようなものだったが、こちらの場合は軍だからな、遠慮も手加減もされなかった。

 

 

 ……ああ、そうだ。IS学園での指導に関しては、師匠はある程度の手加減を行われていたぞ。何せ気絶者などいなかっただろう?

 

 

 まあ、えぐさで言えば剣術部のほうが上だったかも知れないがな。失神するかしないか、ぎりぎりを見極めて指導されてたのだから。

 

 

 我々はそれに合わせてサバイバル訓練、そして実戦戦闘を行っていた。特にサバイバル訓練ではドイツの山奥で行われるのだが、五日間以上をかけてノルマを達成しなければならず、更にそこへ師匠の襲撃が行われるのだぞ。

 

 

 『油断そのものがお前達を殺すんだよな』と笑顔で仰られていたが、私たちとしては戦々恐々だ。師匠の奇襲によって何人の隊員が脱落していった事か……。

 

 

 クラリッサなど師匠のご指導が行われるたびに膝を震わせながら内股でうっとりしていたぞ。妙に顔を赤くして『ショーツの換えは足りるのでしょうか』と言っていたが、あれは一体なんなのだ?

 

 

 ――――知らなくていい? ふむ、お前が言うならそうなんだろうが、しかし部下の体調不慮を指摘するのも私の務めだと思うのだが。師匠も苦笑していたしな。

 

 

 まあいい。……兎も角私が言いたい事は、IS学園に在籍していた甘ちゃんの奴らと我々は質が違うと言う事だ。

 

 

 我々は軍人であり、そして師匠に鍛えられた戦士だ。ISはスポーツと銘打たれているが、その実兵器以外のなにものでもない。お前が一番それをわかっているだろう。ならば軍に属して戦う我々こそ最も強かである。

 

 

 ……何よりも、あいつらは師匠のご指導に対し『酷い』だの『少しは遠慮して下さい』だの『女の子を泣かすなんて最低』などと戯言をほざいていた。……到底許容できるものではないっ。

 

 

 貴様にもわかるだろう。いや、貴様だからわかるはずだ! IS学園に入った私の失望と怒りを。何も考えていない愚かな雑魚共がISを身に纏うというのだからな。

 

 

 師匠は『どうでもええじゃないか。雑魚には雑魚の戦い方がある』と仰られていたが、私は違う。今でもあの事を思うと腸が煮えくり返ってたまらない。あいつらによって師匠が汚されたと思うと、縊り殺してしまいたくなる。思わずあの時も笑ったり泣いたり出来なくしてやる所だった。雑魚は雑魚らしく無意味に口を閉ざしていればいいのだ。

 

 

 そうだ。師匠の栄光を汚したものは何者でも許されるはずない。断じてだ。

 

 

 ――――何故だ、と? 

 

 

 そうか。お前は知らなかったな。

 

 

 それはな、当時私にとって師匠だけがたった一人の味方だったからだ。

 

 

 ……この左眼はな、擬似ハイパーセンサー仕様のIS用補佐ナノマシンだ。本来ならば何らリスクもなく施術できるはずのものだったが、これによって私は大きく訓練を遅れる結果となり、一時は出来損ないと呼ばれていた。

 

 

 想像できない、か。しかし、昔はそうだったのだ。

 

 

 当時私にとってそれは屈辱だった。

 

 

 軍人として生まれ育ったのに、実力が伴わなかったのだからな。だが、それ以上に絶望を感じていた。部隊からは孤立し、実力もない私にとって存在する理由は皆無だったのだ。

 

 

 ……だがな、そんな私を救ってくれたのがあのお方だ。

 

 

『昔の俺みたいだの、お前』と言いながら、師匠は特別目をかけられてくださり、遅れた訓練を取り戻すためにご指導を毎日していただいた。

 

 

 苦しかったが、その分だけ私は強くなり、隊員との実力を埋めることが出来、やがて部隊一の実力を得る事が出来た。師匠には感謝しても仕切れない。『俺はなんもしてねえよ。ラウラが勝手に強くなったんさ』と仰っていたがそれは違う。あのお方がいなければ私はあのまま腐敗していき、おそらく軍からいられなくなっていたはずだ。だから私は師匠に感謝している。それは今も変わらずにだ。

 

 

 ――――指導の内容か? 特段珍しい事はしていない。ただ師匠の襲撃応戦を繰り返していただけだ。一年以上な。

 

 

 師匠の襲撃は時や場所を選ばなかったな。食事、睡眠、訓練時やIS装着時。いたる場所と時間に師匠は私を襲い、戦わなければならなかった。無論、私が師匠に敵うはずもなく、私はいつも気絶させられていたな。しかも師匠は待機状態の『灰鶴』を使用していたからな、何度斬りつけられた事か。

 

 

 だが、師匠のおかげで私は救われたのだ。だからこそ師匠を侮る奴らなど許せはしない。

 

 

 ……そういえば、あのお方を師匠と呼ぶようになったのも、その頃からだったな。

 

 

 最初クラリッサから言われて『パパ』と呼ぼうとしていたのだが、『それは良いけど駄目だ』と師匠から言われたな。ふむ、……何故だろうな。クラリッサは『恥ずかしがっているのですよ』と言っていたがな。……本当にそうだったら、嬉しいな。

 

 

 ――――だからこそ、IS学園での日々は苦痛だった。兵器を兵器と思わぬ弱者共が群れた巣窟なのだ。私も始めは何故あのような場所に師匠がおられるのか、理解できなかった。

 

 

 まあ、その中にもマシなやつはいたがな。剣術部を筆頭にした極僅かな人間だけがISを駆るに相応しい奴らだった。

 

 

 ああ、一夏や鈴、それにセシリアや箒、シャルがそうだった。他にも剣術部に在籍していた生徒や、師匠の授業を選択した人間だけがマシな存在だった。一度実力を見てやろうと乗り込んでいったが、なかなか手ごわかったな。……まあ師匠の一番弟子である私には敵わなかったがなっ!

 

 

 ――――しかし、私はお姉さまには敗北をしてしまった。負けることなど許されないというのに。

 

 

 現役を引退したとは言え、お姉さまはブリュンヒルデ。さらに師匠の妹であられるのだから、当然の事と言えるかも知れない。

 

 

 だがな、私はあの二人。織斑千冬と織斑一夏を認めるわけにはいかなかったのだ。

 

 

 師匠の左目に入った傷跡は二人が原因でつけられたようなもの。その結果師匠はモンド・グロッソを棄権するはめになり、あまつさえ現役を引退するに至ったのだぞ。弟子として師匠の栄光を汚した敵は討たなければならん。……その時は本気でそう信じていた。

 

 

 それに、師匠はあの二人と鈴にだけは私の知る強いままの師匠であってくれない。私は家族と言うものを理解できないし、師匠の弱さを見たくなかった。私を救い、導いて下さった師匠は誰よりも強く雄々しい剣士であり、弱さなどあるはずがない。

 

 

 だからな、師匠の弱さなど私が切り捨ててやろうとしたのだ。

 

 

 ――――言わないでくれ、その時の自分はあまりに無知だった。だからこそ知らない事は怖く、必要とさえ感じていなかったよ。

 

 

 でも、私は教えられたのだ。

 

 

 『春兄が意地を張らなくてもいいぐらいに強くなってやる』と一夏に説かれ。

 

 

 『私は兄さんの全てを知ってるからこそ、あの人の弱さが愛おしい。貴様もわかれ』とお姉さまに叱られ。

 

 

 『万春さんの傍に立たなければいけないの。だからあんたなんかに負ける理由がないわ』と鈴に頭を叩かれた。

 

 

 皆強くなろうとしていた。

 

 

 そう、皆最初は弱かったのだ。自らの弱さに出会い、そして弱いままだと嫌だから、強くなろうとしていた。気づかされたよ、私も同じだったのだと。

 

 

 ただ私は私の知る、私だけの師匠であって欲しかった。師匠じゃなければ、私を認めてさえくれないと師匠を求めていた。……ただ、それだけなんだ。

 

 

 ――――な、なんだその小動物を見るような目は。私をそんな目で見るんじゃない。

 

 

 私はシュバルツェ・ハーゼ隊長ラウラ・ボーデヴィッヒ大佐だぞっ。

 

 

 かつての思考はすでに淘汰されている。今の私が昔の私であるはずがないのだ!

 

 

 ……だが、あれからだったな。私も随分と甘くなったのは。

 

 

 お姉さまをお姉さまと呼ぶようになり、師匠と揃って買い物にもいったな。臨海学校に必要なものを買いに行ったのだが、一夏と合流する結果となりお姉さまの水着を見て回り、黒色の水着を選んだな。『お前にゃ黒がよく似合うさね』と師匠も仰っていたからだろう、お姉さまも嬉しそうに顔をにやけさせていたぞ。

 

 

 私も私で水着が必要とわかりクラリッサと連絡を取り合っていたが、途中師匠が加わり色々と話したな。ただ、クラリッサは『教官の声だけでじゅくじゅくになってしまいます』と鼻息荒く言ってたが、一体何がじゅくじゅくになったのだろうな。

 

 

 ――――ああ、そうだな。初めて楽しさというものを知ったのがあの頃だった。

 

 

 そう意味では毎日が新鮮に溢れていた。新しい知識、見知らぬ発見があれほど胸躍るものだとさえ、それまでの私は知らなかったのだ。だから師匠やお姉さま、それに一夏やついでに鈴たちに感謝しているさ。

 

 

 だが、鈴に関してはわたしが師匠におんぶをしていただいているのに、師匠の背中にだっこしてもらっていたのは気に喰わないがな、全く。

 

 

 そうだ、あいつはいつも私の邪魔をする。私はただ師匠と一緒にいたいだけなのに、『そのポジションは私のものよ!!』と言っていつも割り込んでくる。なんなんだあいつは!!

 

 

 そんなあいつらがいまだは国家代表だ。確かに実力があった事は認める、師匠のお教えを受けた中では随一の力を手に入れていたからな。ふん、我が隊は今度のモンド・グロッソでは警備を任されているからな。私怨で任務を怠る事はないが、もしかしたらなにかしらの要因で警護が出来なくなるかもしれないぞ。

 

 

 ――――昔のことじゃない、だと? 何を言う、現在進行形の話だ!

 

 

 あの意地悪めが。私が師匠に可愛がれるのはよっぽど気に喰わんと見える。だからいつまで経っても『ちっぱい』なのだ。私は違うぞ。見るがいい、この伸び上がった背丈を! 今ではお姉さまにも引けを取らないのだ。

 

 

 ……しかし、そうか。安否が知れたならば問題はない。

 

 

 あのお方はいつだって障害を己が剣で切り開いてきたお方だ。如何な者が相手であり、幾ら卑怯な手段や策を用いようとも、きっと斬り捨ててくれるだろう。私の知っている師匠はそういうお方だ。

 

 

 うん? ……なんだ、このヌーの大群が大移動するような音は。

 

 

 ――――ああ、不味いな。クラリッサがどこからか嗅ぎ付けたか。あいつは師匠のことに関しては私以上に敏感だからな。きっとどこからか話を拾ってきたのだろう。

 

 

 仕方ない、取り合えず私が抑えとく。その間にお前はもう行くといいだろう。

 

 

 では、さらばだ。

 

 

 ……お前と会えてよかったよ。

 




クラリッサがなぜか色物に。どうしてこうなった。
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