IS 切捨て御免!   作:六六

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日本代表 織斑一夏

 お、帰ってきてたのか。おかえり。

 

 

 ちょっと待ってくれよ。……よしこれで終わりだ。いや、中途半端に身体動かすとなんか気持ち悪いだろ。だからちゃんとやっておきたかったんだよ。

 

 

 それで、旅はもう終わったのか? ……そっか、もう少しだけ見て回りたいのか。まあいいんじゃないか。お前なら大丈夫だろ。

 

 

 心配じゃないのかって? どうしてだ? お前充分強いじゃん。俺でも歯が立たないんだから心配する必要もないだろ。

 

 

 あ、もしかしたらお前に襲い掛かるやつがいるかもしれないとか。そうだな、確かにそれは心配だな。相手のほうが。お前がやりすぎないかどうかが俺は心配だよ。

 

 

 ちょちょちょ、その握り拳はなんだおい。久しぶりに会ったのにそれはないだろ!

 

 

 ――――いてえなあ、畜生。そんな強く殴んじゃねえよ!

 

 

 ったく。……でも、久々だな。こうやって誰かに殴られるの。

 

 

 ……おいマゾとか言うな。叩かれておいて嬉しそうとか変態、ってひでえ言い草だな。

 

 

 いいじゃないか。家族のふれあいの一つとでも思ってくれよ。最近は千冬姉も忙しいし、お前もお前でふらふらとあっちこっちに行ってるもんだから、家が淋しくてしょうがねえんだからよ。

 

 

 それで、何が聞きたいんだ?

 

 

 ――――なんだ、その顔。びっくりする事ないだろ。俺はな、何となくだけどお前が何を聞きたがってるかわかるぞ。……言ってやろうか、春兄(しゅんにい)のことだろ?

 

 

 やっぱりな。お前はそういう顔をしてた。すごいか、エスパーみたいだろ俺。

 

 

 ……そんな冷めた目で見るなよ。結構傷つくぞ、それは。

 

 

 まあいいや。それで春兄の事だな。そういや、お前春兄の事あんまり知らないもんな。お前が来た時には、もう春兄はどこかに消えちまってたし……。

 

 

 けどそうだな、なに話そうか。

 

 

 ――――ん? なんで春兄って呼んでるかって?

 

 

 ああ、春兄は万春って名前だけどさ、万春兄って何か言いづらいだろ? 語呂が悪いというか、千冬姉は言いやすいんだけどな。それで千冬姉からの提案で春兄って呼ぶことにしたんだ。初めて呼んだときは『ほお、なかなか良い仇名じゃないかい』ってさ、春兄笑いながら俺の頭撫でてくれたよ。

 

 

 そん時どんな気持ちだったかはもう覚えてないけど、たぶん嬉しかったんだと思う。春兄はよく俺と一緒にいたしな。やっぱ家族が笑ってくれたら嬉しいに決まってんだろ。

 

 

 でも懐かしいなあ。俺と千冬姉と春兄でずっといたんだよな、あの家に。

 

 

 俺、両親の顔とか覚えてないけどさ、二人の顔だけは昔からずっと覚えてるんだ。春兄はニヒルな感じだったけどいつも剣には真剣でさ、千冬姉は昔から出来る女の人って感じだったよ。まあ千冬姉、昔はあんまり料理できなかったんだ。今だって家事殆ど出来てないけれどさ、その時は料理だって駄目で家事なんて何も出来なかったぞ。だから俺が家事とかやるようになったんだ。

 

 

 春兄? 春兄は殆ど箒の親父さん所にいて竹刀握ってて、家にいてもだるそうに寝転んでばっかだったから家事なんてやんなかったよ。俺が幾ら言っても手伝ってくれなくてさあ、ほんと俺だけで家の事は全部やってたようなもんだ。

 

 

 ……ん? もしかしたら春兄、千冬姉より家事出来ないんじゃないのか?

 

 

 ――――うわ、ありえそうだ。というか間違いなくそうだろ。米とかとげんのか。

 

 

 でも、セシリアみたいな事はしないと思うから大丈夫だろ。……たぶん、きっと。

 

 

 まあ、春兄なら料理できなくても生きていけるだろ。千冬姉だって料理できるようになったし、俺も簡単なものなら作れるしな。春兄はいつだって食べる専門だよ。

 

 

 ……ほんと、今なにしてんのかなあ、春兄。

 

 

 そりゃ心配だろ。だって家族のことだしな。家族の事心配しなくて、何を心配すんだよ。

 

 

 ――――まあ、心配させるほど春兄が弱かった事なんてなかったけど。

 

 

 春兄はさ、すげえ人なんだ。千冬姉だってすごい人で尊敬してるけど、春兄は俺たちのために早い頃から働いて金を稼いでたんだ。たぶん春兄が高校生ぐらいの時じゃないか? 春兄学校には通ってなかったけど、それでもそんな十六ぐらいで家族のために働く事なんて出来ないと思うぞ。

 

 

 それに剣の腕もすごくてさ、春兄に勝てる人なんて誰もいなかった。

 

 

 だからさ俺、大人になったら春兄みたな人になりたいって思ってた。体張って俺たち家族のこと守ってくれたんだ。そう考えるのも仕方ないことだろ?

 

 

 でもさ、春兄が『世界で唯一ISを動かせる男』になってからは大変だったんだろうな。

 

 

 その頃はいつもテレビに春兄が出てたな。俺たちそれをじっと見てた。あん時は千冬姉も淋しそうだった。前もちょくちょく家に帰って来なかった時もあったけれど、全然帰ってくることなくなってさ。たまに帰ってきてもなんでもない風にしてたけど、すごい疲れてたのはわかってた。

 

 

 俺もなんとかしたかった。だけど大人の世界にいる春兄に出来ることなんてほとんどないだろ。それでも『そうやって想ってくれるだけ、俺は上手くやっていけるさ』って春兄言うんだ。そしたら俺ますますどうにかしたくってさ。

 

 

 確かに仕方のないことかもしれない。だけどさ、それでも大事な家族がとんでもないことになってるんだから、心配ぐらいするさ。

 

 

 その内、千冬姉もIS搭乗者として大人の世界に飛び込んでいった。『私がいれば、多少は兄さんも楽になる事ができるはずだ』っていいながら。

 

 

 皆やるべきことを見つけて、それに向かって頑張ってた。じゃあ俺は何が出来るんだろうって、そん時はすごい考えてたよ。……子供が考える事じゃないよな。

 

 

 けど、そんな考えも第一回モンドグロッソで春兄と千冬姉が戦ってるの見て吹っ飛んだ。

 

 

 二人とも滅茶苦茶強いんだ。誰も二人に勝てなくて、決勝戦で二人が戦う事になった。誰も相手になんかなってなかったよ。本当に圧勝して、兄妹で決勝戦だ。漫画やアニメみたいだろ。でも、実際にそうなったんだよな。

 

 

 かっこよかったよ。あの二人の家族である事が自慢に思えるくらいに。

 

 

 だけどさ、テレビの向こうで切り結んでる二人を見て思ったんだ。

 

 

 ――――俺、置いてけぼり食らってんだなって。

 

 

 二人ともすごい速さで走っちまって、俺はそれに全然追いついてない。どんどん二人は見えなくなって、最後には俺一人だけ残されるんだ。

 

 

 ……ひねくれてるとか言うな。ほんきでそう思ったんだから仕方ないだろ。

 

 

 一人って淋しいだろ。特に二人とも有名人になっちまったから、いつも家には俺一人しかいなくてよ。箒の家にはお邪魔してたけど、それでもどこか心がぽっかりとしてんだ。誰もいない家で自分のためだけに飯作るんだぜ。それで二人が傍にいないって思うほど、それが広がって深くなってくんだ。

 

 

 だからさ俺、まずはあの二人に追いつく事から始めようと思ったんだ。世界最強の兄と姉の場所まで行こうって決めたんだよ。

 

 

 もっと俺がしっかりしてれば、そうは考えなかったかもしれない。もし二人のどちらかがいなかったら仕方のない事だって納得がいくかもしれない。

 

 

 ――――だけどよ、春兄を追っ掛けて千冬姉は行っちまった。それで俺だけが残ってんだ。……納得いかないだろ。せめて春兄か千冬姉、どっちかがいてくれれば良かったのに。

 

 

 俺、簪の気持ちが分からなくもないんだよ。簪は先輩に嫉妬して、先輩がすごければすごいほど自分が惨めに思ってた。俺ももしかしたら、そうなってたかもしれないからな。――――でもさ、俺って負けず嫌いだから二人に追いつきたいって思ったんだ。

 

 

 けど俺が誘拐されて、それが原因で二人が現役止めたときは参ったよ。俺のせいで二人ともIS止めちまって、しかも春兄は左目が見えなくなっちまった。なんて駄目な奴なんだろう、いっそ死んでしまえばよかったんじゃないかって思わず言っちまった。

 

 

 ……そしたら千冬姉にすげえ怒られた。あれだけ怒った千冬姉は今でも見た事がないな。

 

 

 『ふざけるなよ。お前が死んでしまったら、残された私たちはどうすればいいんだ!!』って泣きながら言われて、春兄には『俺はお前が家族でよかったって思ってるけれど、お前は違うのかい?』って言われたよ。

 

 

 情けねえよ。家族心配させて、それで怒らせてさ。結局そん時は自分の事しか頭になくて、二人がどんな気持ちかだったかなんて俺全然考えてなかった。でもよ、二人が俺の事すごい大事にしてくれてるってわかったから、結構楽になったよ。

 

 

 だからさ、俺は二人を守れるぐらいに強くなろうって決めたんだ。

 

 

 ……それが最初の俺の誓いってやつかな。

 

 

 今思えば、たぶんきっとそうなんだろうな。

 

 

 ――――はは、そうだよな。あの二人を守れるくらいに強くなるって、土台無理な事かもな。けど、最初から諦めてたらきっと何も出来ないだろ。

 

 

 それにもう決めちまったんだ、あの時に。二人を守れて、俺の事を誇りに思えるくらい強くなってやろうってさ。

 

 

 そういう意味じゃ、俺もISが動かせる事が出来るってわかってよかったよ。千冬姉は心配してて、俺も最初は戸惑ってばっかだった。でも、ISが動かせられるんだったらあの時の誓いを果たせるんじゃないかって考えたんだ。だから、その時やっと俺はスタートラインに立ったんだよ。

 

 

 ……ん、あれ? いつの間にか俺の話になってた? 

 

 

 うお、今掠った、掠ったぞ!?

 

 

 ――――お前の話なんか聞きたくない、って冷たいなあ。

 

 

 ああ、わかった、わかったから! だからその右手を下ろせ!

 

 

 ……それじゃ春兄の話に戻すぞ。

 

 

 ――――でも、そうだな、お前は春兄の何が聞きたいんだ?

 

 

 俺が知ってる春兄のことだけでいい?

 

 

 ほんとうにそうなのか?

 

 

 ……まあ、今はそれでいいのかもな。

 

 

 さっきも言ってたけど、春兄ってあんま家にいなかったんだよな。それよか剣ばっか握ってて、いつも戦ってばかりいた。組み手で、稽古で、喧嘩で。なんか餓えた鷲みたいにあっちこっちに行っては戦ってたよ。ISに乗ってもそれは変わらなかったな。寧ろ『世界で始めてISを動かした男』ってやつを利用して世界中に飛んで戦ってたから酷くなってたかもしれない。

 

 

 だけど俺たちの事は大切にしてくれてたんだ。少なくとも俺や千冬姉はそう思ってた。俺たち家族は大丈夫だ。何も問題にならないし、誰もいなくならないってな。

 

 

 ……あれは確か『銀の福音』を倒した後だったかな。春兄が砂浜にいて煙草吸ってたんだ。俺も一緒にいた。二人で俺たちは同じ風景を眺めてたんだよ。

 

 

 そしたらさ、春兄が言ったんだ。『強くなったな、一夏』てさ。俺は嬉しかったよ。だって春兄たちに認められるくらい強くなるって思ってたからさ。

 

 

 でも俺が強くなったのは皆がいたからだ。皆がいたから俺は強くなったんだ。そう言ったらさ春兄が頭撫でてくれてよ、『じゃあ、お前がいれば皆大丈夫だの』って笑ったんだ。淋しそうな顔でさ。

 

 

 ――――俺、なんだか嫌な予感がしたんだ。なんかもやもやって感じが胸の中に入ってきて、それが消えてくれないんだよ。

 

 

 ……今思うと、春兄が言ってた皆の中に春兄は入ってたのかなあ。

 

 

 たぶんそれが始まりだったんだ。

 

 

 夏休みに入っていつも通りが戻ってきたって思ったけれど、春兄は前よりも剣にのめり込んでて何にも興味なかったな。いつも行ってた箒の家の夏祭りにも行かないで、ずっと剣を振っててさ。箒の親父さんと打ち合いばっかりしてた気がするよ。柳韻さんは春兄の師匠で、一人だけ春兄とまともに組み手が出来る人なんだ。夏祭りとか箒の事とか関係ない感じで打ち込んでるから、俺もあんま話すことが出来なくてさ。話しかけても『ああ、大丈夫だよ。やる事があるから、もっと強くならないといけないしの』ってまともに取り合ってくれなかったんだ。

 

 

 ……まだ強くなろうってしてるんだ。あれだけ春兄は強いのに、まだ上を目指してるって言ってたんだよ。一体どこまで行こうとしてるのか、俺にはわからなかったよ。

 

 

 でも、あの時ちゃんと理由を聞けばよかったんだ。

 

 

 文化祭の時さ。亡国機構のエージェントに襲われた時だよ。先輩が色々と考えてやってきた奴だったんだけど、……そいつがさ、昔俺を誘拐した奴だったんだ。

 

 

 もう目の前が真っ赤になったよ。そいつがいなけりゃ春兄や千冬姉が現役やめなくて済んだし、春兄も左目が見えなくなるようなこともなかったんだぞ。しかもその時は白式奪われて、もう頭の中が何も考えられなくなっちまった。もう俺は何も出来なくて、あの時の仕返しすら出来なくてすげえ悔しかった。

 

 

 そしたらさ、そこに春兄が来たんだ。『一夏、戦いに憎しみを持ち込んじゃあいけないさね』って言いながら。

 

 

 でよ、それまで戦ってたエージェントが春兄を見て、すげえ顔で笑ったんだ。『戦う理由は見つかったか、てめえ』って睨みつけながらだ。

 

 

 ――――ああ、オータムって言うんだっけあいつ。

 

 

 そう。俺たち家族の敵、春兄の左目を奪った奴。

 

 

 そして、純粋に春兄と戦える唯一の相手。

 

 

 ……気づけば二人は戦ってた。俺なんか放っておいてさ。相手も俺の事狙ってたはずなのに、春兄に真っ直ぐに向かって行ったよ。

 

 

 だから思ったんだ。俺はまだ全然追いついてないんだってな。

 

 

 ――――実はさ、『銀の福音』を倒してから少しだけ自信がついてたんだ。俺はここまで強くなった、あと少しで春兄たちのいる場所に届くって。

 

 

 でも、俺は勘違いしてた。少しも追いついてないんだ。相変わらず俺は春兄の後を走ってる。背中を追い続けている。

 

 

 全く、ついてく奴の苦労なんてお構いなしだよ。ほんとに。

 

 

 あの頃はいろんな人が春兄を見てた。戦うたびに見る奴が増えてたなあ。

 

 

 他の生徒も、専用機持ちまでもだ。皆春兄の姿を目に焼き付けようとしてた。

 

 

 俺も――――、もう少し見ていたかった。

 

 

 ……俺はまだ走り続けてる。春兄の場所にたどり着くために。

 

 

 だからさ、モンド・グロッソだって足がかりにしかならない。

 

 

 なりふり構ってなんかいられないんだ。少しでも気を抜くとあっという間に遠くへ行っちまう。

そういう人なんだ、春兄は。

 

 

 ……ま、仕方ねえさ。憧れちまったんだ。

 

 

 意地があるんだよ、男の子にはな。

 




スクライド一夏
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