IS 切捨て御免!   作:六六

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更識家十七代目楯無 更識楯無

 おかしいと思ってたのよ。万春先生が消えたとき、あの人が住んでた寮部屋がめちゃくちゃになってたのよね。まるでその部屋にだけ爆撃でも落とされたみたいに。普通じゃないわ、幾ら防音性を高めた壁で作られてるとはいえ、そんなに部屋がおかしな事になってたのに隣に住んでいた生徒も気づかないなんて。

 

 

 私もそれが引っ掛かってた。隣の住人に気づかせないまま、あの部屋では何かが起こっていたのよ。まあ、形跡から見ると明らかなんだけどね。

 

 

 それがね、誰かが万春先生の部屋に入り込んであの人を殺そうと企んだみたいなの。

 

 

 ……こらこら、落ち着いて。もう終わった話なんだから。

 

 

 そもそもあなたの知ってるあの人が闇討ちぐらいで死ぬと思う? あの人は核兵器でも持ってこなきゃ勝てないわよ。ISでさえ切り裂いたあの人にはそれが妥当よ……けど、それでも勝てるかどうか怪しいわね。よくて傷み分けって所かしら?

 

 

 ――――どんな化け物って思ってるのかって、それはもう、あの人に常識は通用しないでしょ。それは一番あなたが知っているんじゃないかしら。

 

 

 実際部屋のなかに万春さんの遺体は見つからなかったし、適合する血痕さえ見つからなかった。しらみつぶしに探したって切り落とされた髪の毛ぐらいしか出てこなかったわ。だから私たちは万春先生が生きてるって確信したのよ。まあ、それまでちょっと他の子が騒がしかったけれどね。あの千冬先生だって『……兄さん?』って呆然としていたんだから。

 

 

 けど万春さんの行方はわからなかったわ。きっと何かが起こった事は確かだったけれど、単純にその万春さんがいない。IS学園中探しても影さえ見当たらない。

 

 

 まあ、それもそうね。だって万春さんは襲撃に便乗して雲隠れしちゃったんだから。しかもどこかの愉快な兎さんの手を借りてまで、ね。

 

 

 それを知って皆呆然としてたなー。……ふふ、今でも笑っちゃうわ。あなたにも見せてあげたかったな、皆の顔。特に鈴さんなんか号泣しちゃってねー。

 

 

 ――――でも、だからと言って許せないわ。例え万春さんが無事であったとしてもね。

 

 

 人はそれぞれに誇りを持っている。例え誇りなんてわかりやすいものじゃなくても、どこかで譲れない一線があるわ。妥協を許してしまえば自分が自分でいられなくなるようなもの。……そういうものを誰もが持っている。あなただってそうよ。あなたにも譲れないものがあるはず。

 

 

 私はね、あの時はIS学園の生徒会長だったから、それなりに誇りも持ってたのよ。生徒の安全、そして楽しい学園生活の提供。ま、やりすぎちゃって怒られた事もあったけれど、万春さんに。『お前は本当に飽きさせない奴だの』って言われながらね。

 

 

 ……私の誇りはその時汚されたの。

 

 

 それに、犯人は私を舐めてたわ。この更識楯無という名をね。

 

 

 許せないじゃない。だから必ず捕まえようって決めたんだけど、犯人はあっけなく捕縛できたわ。

 

 

 ――――あなた、闇崎一夜(やみざきかずや)って知ってる?

 

 

 そうよね、聞いた事もないわよね。そんな痛々しい名前の人間。

 

 

 うん、面白いくらい他の皆と同じ反応ね。

 

 

 ……なにがなんだかわからないって顔してるわね。正直な話、私もあんまりよく分かってないんだけど当時の報告書と記録書が残ってるのよ。

 

 

 そうね、教えてあげるわ。あながち万春さんの話にも繋がるからね。

 

 

 闇崎一夜はね、『ISを使える三人目の男』だったの。

 

 

 ……ふふ、あなた私と同じ顔をしてるわ。悪い事を考える人の顔よ、それ。こわーい、まるで魔女みたい。

 

 

 あら、反応がないわね。お姉さん寂しいわ。

 

 

 まあ、仕方の無いことよね。だって未だ嘗てISを使える三人目の男なんて存在してないんだから。そしてこれからも闇崎一夜は存在しないわ。

 

 

 理解できない? 

 

 

 聡いあなたなら理解できるはずよ。 

 

 

 つまりそんな男存在しないって事よ。データベースにも、人の記憶にも全く存在しない。全くもって架空の存在、あるいは妄想かしらね。でも、そいつは確かにいた。あの当時のIS学園に。

 

 

 ――――ありえない。確かにその通りよ。私だって書類整備で偶々見つけた報告書を読まなければそう思ったでしょうね。私が記憶している中でも闇崎一夜なんて人間、存在していないんだから。そしてその名前はネットにだって存在してないのよ。

 

 

 ISを動かせる男というのは、そんな簡単に忘れるはずがない存在なの。織斑一夏と織斑万春の二人がまさにそう。あの二人は鮮烈に人々の記憶の中に自分というものを焼き付けていった。決して世界は織斑の兄弟を忘れる事が出来ない。

 

 

 でも、事実私たちは三人目のISを動かせる男である闇崎一夜を忘れている。どのような機密情報にも、ネットにだって書かれていない。……まるで、全部綺麗さっぱり消去されたみたいにね。

 

 

 けど、紙媒体のデータベースでははっきりとそう書かれているのよ。

 

 

 古い因習みたいなものでね、更識は重要な情報であるほど紙面での記録をしてるの。だから私はその存在にたどり着けた。今の世界では技術が進んじゃってるから、盲点って奴よねえ。

 

 

 闇崎一夜。世界で三人目にISを動かせた男。

 

 

 ――――そして、万春さんを殺そうとした犯人。

 

 

 ……はいはい、力を抜いてね。そのままだと奥歯が粉々になっちゃうわよ。

 

 

 とは言え私も記憶にないからね、丸ごと記録からの抜粋みたいな形になるんだけど、彼は確かにIS学園にいたわ。闇崎一夜は一夏くんが二人目のIS適合者だって発覚した後に発見されて、そのままIS学園一年一組に入学。

 

 

 写真もあるけど、見る?

 

 

 ――――これよ。

 

 

 銀色の長髪に赤と青のオッドアイ。肌は白くて長身痩躯。それに顔も美形よね。

 

 

 まるで造花みたいだと思わない? 人間だけど、全然人間らしくない。かと言って神秘的なわけでもない。不自然なものを集めて自然な形にしたような、言えるならケミカル的な外見ってところかしら?

 

 

 性格は女子に優しく、男には理不尽なほどに厳しい。典型的な唯我独尊の思想を持ち、自分が世界の中心にいると本気で思っていたらしいわ。

 

 

 それで一夏くんや万春さんを何かと目の敵にしていたようね。その時のものが書かれていたわ。『あいつらは俺の嫁だってのに、あの糞共は馴れ馴れしすぎるだろ』とか『あいつらが俺に近づいてこないのは、俺と話すのが恥ずかしいからだ』とか。他にも『俺の邪魔をしなければ存在してもいい権利を与えてやろう』や『俺がその気になったらあいつらを消す事だって出来るんだ』って叫んでたらしいわ。

 

 

 ……そうね、わけわかんないわよね。私だって理解できないもの。

 

 

 特に訳がわからないのは『くそ、なんで原作どおりにいってないんだよ』ってこれね。一体なんなのかしら。

 

 

 調査報告書には精神検査の診断も行われたとあるわ。

 

 

 それで闇崎一夜は躁病と軽度の統合失調症が見受けられ、妄言を常に吐いていたとの事。

 

 

 ……考えなくてもわかるけど、頭がおかしくなってたの。薬物反応や脳に障害を持ってはいなかったんだけれど、精神の方が重症だったらしいわ。

 

 

 でも、おかしいのよ。例え人格に問題があってもこっちが忘れることなんてありえない。

 

 

 ――――そしたらね、調べるとそいつとんでもない奴だったのよ。

 

 

 闇崎一夜はね、強力な暗示能力を持ってた。それを使って自分が思うように振舞ってたの。特に女の子には笑顔を見せたり頭を撫でたりして心を操り、自分が好きだと思わせるようにしていたらしいわ。

 許せるはずないわよね。同じ女として、これほど屈辱的なことはない。しかもそれが発覚したのはそいつが捕縛された後よ。今も闇崎一夜から受けた暗示のケアを受けている女の子だっているの。本当に救いがたい愚物よねえ。

 

 

 特に問題だったのは、そいつがISを所持していた事よ。稀代の天災、篠ノ之博士が作り上げたコアに『該当しない』オンリーワンのISを。

 

 

 ――――ありえないわ、確かに。今も尚ISのコアはブラックボックスによって殆ど解析すら出来ていないというのに、それを超えた人物がいる。という事は、あの篠ノ之博士以外にISを作れる人物がいるということに他ならないの。

 

 

 私たちはそのために闇崎一夜を監視していた、らしいわ。

 

 

 ……それがねえ、そんな事をしていた記憶もないし闇崎一夜すら知らないんだから、何をしていたかも覚えていないのよね。ただ命令書にはそう書いてあるのよ、しかも私の直筆で。まあ、これも闇崎一夜の暗示能力のせいらしいわ。彼の暗示能力によって記憶していた彼に関する記憶が消し飛んでしまったのよね。あるいは解除されたと言うべきかしら。

 

 

 何故って? だって闇崎一夜はとっくに死んでるもの。

 

 

 ――――驚かないのね。流石は元亡国機業エージェント、って所かしら?

 

 

 ……ふふ、よく我慢できました。我慢できて偉いわ、お姉さんが褒めてあげる。

 

 

 わかってるわ。それに今更それを追求したら、私が万春さんに斬り殺されちゃう。それだけは遠慮したいなあ、あの人だけは本当に敵に回したくないのよ……。

 

 

 一度だけ万春先生と戦った事があってね。その時は首持ってかれると思ったわ。『弟を鍛える力があるか見ちゃる』っていう事らしかったけど、冗談じゃないわよ。まさか組み手で殺しにくるなんて思わなかったわ。

 

 

 まあ、私が悪いのも認めるわよ? ちょっとした悪戯心で万春先生を試そうとしたのよ。前々から強いって聞いていたし、私自身先生を強いと感じていたけど、実際はどれくらいかなあ、てむくむくっと思っちゃって。ほら、私も強いからね。強者の乗りって奴かしら?

 

 

 ……そんな戦闘中毒(バトルジャンキー)じゃないわよ。万春先生じゃあるまいに。

 

 

 否定できないでしょ? あの人戦う事が好きだから。というか殺し合いが好きなのよね。ほんと、そういう所は一夏くんに似なくてよかったわ。

 

 

 ――――そろそろ話を戻そうかしら。

 

 

 それで闇崎一夜がどうして万春先生を襲撃した犯人かわかったかよね。相手は強力な暗示能力を持っていて、しかも正体不明のISを所持している。難解な相手なはず、だった。

 

 

 でも、さっき言ったわよね。闇崎一夜は頭がおかしかった、って。

 

 

 報告書によるとね、そいつ自分で犯人だってばらしたらしいわ。

 

 

 ……ええ、言いたい事はわかるわ。でも狂人の思考なんて理解できるわけないじゃない。

 

 

 『あいつを殺した事で流れは修正できる』って叫んで『これで大丈夫だぞ、もう邪魔者はいないから安心しろよ』とすごい爽やかな顔で言ったらしいわ。そしたら千冬さんが本気で怒って、闇崎一夜を殺そうとしたの。ISを展開してまで殺しに行こうとする千冬さんを止めるのに皆必死だったらしいわ。

 

 

 こら、そうは言わないの。だって殺す価値のない人間を殺しても仕方ないと思わない?

 

 

 ――――その後はざっくりと話しちゃうけれど、闇崎一夜は捕縛。更識の手に渡って解析をしたの。まあ、そこでようやく自分の立場に気づいて暗示能力を使おうとしていたんだけど、私たち更識にそんなものが通用すると考えてる時点で零点よね。それくらい克服しないで何が更識だというのかしら。

 

 

 ISで抵抗も見せたらしいわね。でも、ISに使われている奴に私が負けると思う? しかも闇崎一夜のISは万春さんとの戦闘でもう自壊寸前までいってた。完勝だったらしいわよ、私。

 

 

 ……それで更識での解析結果が書かれているけど、聞きたい? 聞きたいよね?

 

 

 ――――闇崎一夜の記憶処理をしてみると、本名は異なる人物よ。だから闇崎一夜は偽名ね。確かにこんな苗字存在しないもの。

 

 

 それで面白いのは、そいつの本名すら存在してないって事。全く存在していない奴が闇崎一夜を名乗り、行動していたの。アンダーグラウンドの人間でもなく、記憶を見る限りだと本当に普通の人間だったらしいわ。

 

 

 さらにすごいのは、そいつの両親が正体がわからなかったのよ。

 

 

 ――――どういう事かわかる? 闇崎一夜の両親はいきなり発生したといってもいいくらい過去がないの。二人の血を引いた人間は他にもいないし、また家系も存在しない。全くもって謎の人物だったらしいわ。

 

 

 そして彼の所持していたISは『ストライクフリーダム』と呼ばれる代物。世代としては第四世代。現存しているISの第四世代は篠ノ之博士が手を出したものしか確認されていないのに、そのようなものをもっている者がいるという事実を軽く見れる人間はいないでしょう。

 

 

 ……正直、ここまで正体不明だと呆れるしかないわ。記憶を調べても神や選ばれた人間というものしか出てこない。もう正常な思考が残されていなかったようね。あちらのほうもお手上げ状態だったらしいわ。でも、そんな奴が万春先生に挑むのだから、狂人っていうのはなにするかわからないわねえ。

 

 

 ――――それでそいつはどうしたのか?

 

 

 そんなの決まってるじゃない。どこにも万春さんの居場所を知れるようなものもなかったし、もう用済みでしょ? 謎を謎のままで処理するのは不安が残るけれど、その謎も消滅させてしまえば問題ないじゃない。

 

 

 それに死んでISの研究材料として人類に貢献できるのだから、あれとしても本望じゃなかったのかしら。

 

 

 まあ、もう終わった話だからね。あなたが気にするような事じゃないわ。

 

 

 ――――うふふ。知らなくてもいい事があるって幸せな事なのよね。

 




全然先輩らしくないなあ。性格がつかめないぜ。

初めて転生者というものを扱ってみましたが、書いてよくわかりました。これは便利だ。簡単に敵が作れる。ジャンルとしてよく使われるのもわかる。
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