PSAO=Phantasy Star/Sword Art Online 作:Noah/Deal
The whole new world
希望と夢を携えて、我々の船は海原を越える――
――全てが、新しい世界へ。
――真珠の様に輝く、全てが新しい世界へ。
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深淵が如く、"暗黒"に彩られた宇宙空間の狭間で。
その空間を、ただひたすら加速し続ける輸送艇が一艇。
――星々は、行先すら示してくれない――
長い、長い旅の中でか。美しくコーティングされていたであろう"それ"の表面は色褪せ、記されていた文字は掠れて読むことすら出来ない。
――ただ、太陽の照らし出す場所へ――
何処へ行くのか。何のためか。
それすらも分からないまま、ただ"それ"は空間を駆ける。
それがこの空間に放たれてから、既に幾つの時が過ぎたのか。それすらも分からないが――
だが、一つだけ確実に言える事は。
―――ズ、■ャ゛、■゛ァ。ァ■―――
聞こえないはずの音が、明確に聞こえているかのような錯覚。
――そう、ただ一つ言える事とは、"それ"にとって、これほどの時間を与えられた事は素晴らしい幸運であった事。
異音と共に輸送艇の一部がヒビ割れ、醜悪な腕がその身を封印の外に晒す。
同時に、広がる侵蝕。ハイ=テクノロジーなど"それ"の前には無意味――
自らを書き換えられる事に対してか。これが、機械の悲鳴とでもいうのだろうか。
無機質な金属音が機内に響き渡るも、それを咎める者は既に存在しない。
―――やがて、文字通り輸送機の
暗黒の世界を超え、数多の時を経て……
やがて、標的となったのは。
"それ"のかつての故郷と良く似た、煌びやかな青に包まれた惑星であった。
―― Welcome to Sword Art Online!! ――
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NEEDLES――直接神経結合環境システム(NERve Direct Linkage Environment System)の実用化と、対応マシン《ナーヴギア》の発売。
それらがもたらした新たなる世界。その変革は、既存のどんなハードでも為し得なかった[完全体感型ゲーム]の誕生という形を持って全世界に広まった。
次々と発表されていく新世代のゲーム。以前から興味の有った者も無かった者も、次第にその世界に惹かれ、注目せざるを得ない程――そのムーヴメントは爆発的に広まっていった。
――そんな中、発表されたのが、世界初のVRMMORPG、《Sword Art Online》。
その構想が発表されるや否や、息を継ぐ間も無く開始されたβテストに、世間の注目は一層そのゲームに集中することとなる。
実際、ゲームメーカー『アーガス』がSAOを発表する以前も幾つかのVRMMOは発表されてはいたが、いずれも"発売日未定"の一括り。
確かに、全く新しいプラットフォームに事業を展開する以上は、準備期間が必要だ。
それを理解している為か、世間の人々は今か今かと待ちわび続けながらも、それに対して不満を感じることは無かった。
そんな中突如として始まったβテスト。
体験者達の絶賛の声を聞きながら、運悪くテスターとなれなかった人々は"その日"を待ち続けるのであった。
即ち、SAO製品版のサービス開始日。2022年11月6日、その日を――
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―― アインクラッド標準時 2022.11.6 第一層『はじまりの街』 ――
浮遊城『アインクラッド』。
全100層から成るその威容は正しく、このゲーム――ソードアート・オンラインの象徴たるに相応しいものであった。
今、光に包まれてこの地に降り立って来ているのは、皆が皆"幸運"の持ち主と言えよう。
彼らはまさしく、このゲーム――ソードアート・オンラインの初期ロット、僅か1万本の幸運を手に掴んだ者であるのだから。
広場に集まっているアバターは、誰もが丹精込めてクリエイトしたであろう美男美女の集団であり、此処は"現実"では無く"空想"であると再認識させるにはそれだけでも十分な光景であった。
……かくいう俺もその一人、数時間掛けてクリエイトした甲斐あってか、十二分に納得できる長身美形になったと思う。
――まぁ、自分から好んで醜い外見を演じたい物好きはそうそう居ないだろうけど。
そんなこんな訳で、幸運にもそのチケットを掴んだ俺――プレイヤーネーム"Ash"――は、この地に降り立った、訳だが……
「まいったなぁ、何すればいいんだ、これ……」
――そう、このゲームではプレイヤーが実行可能な事が多すぎるのだ。
一昔前のゲームならば、自由度が高いと言われているゲームでもある程度の道筋は有った。
だが、このゲームは違う。アインクラッド攻略と言う最終目標はあるにしろ、それ以外のサブクエストも多数あるらしいし、聞いた話では"釣り"なんかも出来るとか。
レベル1の段階で考えることじゃないかも知れないが、レベル上限が有るならステータス振りの方向性も考えないといけない。
――βテスターでも、俺に見つかってくれないかな……レベリングに最適な場所とか、教えてくれるだろうし
などと甘えた考えを持ってみても、そうそう都合良くはいかない。
十分ほど周囲を観察してみたが、皆が皆この世界に夢中で、浮き足立っている者ばかりだ。
「――よし、仕方ないかっ。まずは"ソードスキル"を極めてやるぜ」
気合いを入れ、座っていた椅子から立ち上がる。
事前情報は可能な限り調べてきた、その点については問題無い……、筈。
その場を走り抜けた俺は、視界一杯に広がる夕焼けを目に焼き付けながら――
この"SAO"という世界へと、足を一歩踏み出した。
――その時。
「……っ!?なんだ、この音は……?」
聴覚を直接刺激するような鐘の音。
恐らくは、このゲームの正式スタートを祝福するものなのだろうが……
何故だか、それを聞き過ごすことは出来なかった。
胸中に膨れ上がる不安感。
βテストの時には、このようなイベントの情報は流れていなかった。
「そうだ、アナウンス――」
右手の指で宙空をなぞると、そこに半透明の画面が浮かび上がった。
なんにせよこの画面を操作するのは初めてだ。綺麗に並んだ項目を一つ一つ目で追っていく。
そこで初めて、俺はこの事態に気が付いた――
「ログアウトボタンが、無い……?」
それに気が付いた途端、自身を包む明るいエフェクト光。
確か、これは転移の際の……
転移が始まるまでのその一瞬の間で、俺はそこまで考えるが――
その疑問を追及する暇も無く、俺は、その場から姿を消したのであった。
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