―――――【第11話 決闘】―――――
「両者、準備は良いか」
「応!」
「いつでも」
「それでは――開始!」
演習場中央で剣が火花を散らす。
1合、2合、3合……。
2人の男が己の鍛えし力を惜しみなく出し合い、力を比べ合う。
そこはもはや戦場ではない。
2人が織り成す剣の舞台であった。
国の中でも1、2を争う者たちだからこそ出来る素晴らしき舞。
誰もがずっと見ていたいと思わせるような時間であった。
しかし、現実は無情にも終わりを告げてしまう。
片方の者の剣が上へと弾かれ、場外に刺さる。
首元に剣を突き付けれら、降参の意を示すホールドアップ…つまり、両の手を上に挙げたのだった。
「そこまで!勝者、クリフ!」
観客から声援が飛び交う。
勝利を収めた騎士は敗北した騎士に手を差し出し、敗北した騎士はその手を取って立ち上がる。
「やれやれ。また負けちまったぜ」
「ふっ。苛烈に攻めるのもいいが、まだまだ防御が甘いぞ、ガイアス」
「守るのは柄じゃねーんだけどな…」
「私たちは王を護る騎士なんだが…」
ガイアスの言葉に苦笑いを浮かべるクリフ。
護りに重きを置くべき騎士とは思えぬ発言だ。
最も、ガイアスの主張は今に始まったことではない。
周りも諦めるほど頑固な主張ではあるが、言葉に劣らぬ力を持っているため騎士団最強であるクリフも諦めたわけだ。
試合も終わり、後片付けに入ろうとする両者に待ったをかける声が届く。
「片付けは待て。これからもう1試合しなければならぬ故に」
「こ、これは国王陛下!」
「も、もう1試合ですか?いったい誰と誰が…」
「時期に分かる。今は物見席に参ろう」
王の言葉に困惑する2人であったが、とにあえず動こうと王の背中を追った。
数分後、演習場に現れたのは騎士団1誇り高く、それゆえに煙たがれる存在であるグリゴールであった。
「グリゴール?つまり、またあやつは揉め事を起こしたのですか?」
「はっはっは。あいつの誇りは言うまでもないからな。で、誰が相手なんですか?」
「…時期に来る」
それきり王は口を噤んだ。
珍しく話さない王を不審に思うも、ここで何を言ったところで変わるわけでもないことを彼らは知っていた。
故に、次に来るであろう人物が誰なのか、思い当たる人物の顔を浮かべていた。
さらに数分後。
グリゴールの反対側から見知らぬ青年が現れた。
銀髪、長身、騎士にしては軽装な姿であった。
「王よ。あの者は誰でしょうか?」
「名はリュラン。此度より新たに加わる者だ。我が友の師でもある」
「へぇ?王の友って言いますとあの方でしょう?その師ってわりには大分若い気がしますけど…」
「我にも分からぬ。だが、強者の風格は十分だ」
王の言葉で改めて件の青年を見つめる。
そして気が付く。
全く隙が見当たらないことに。
一方、演習場では決闘前のやり取りが行われていた。
「来たな、無礼者」
「騎士なら口で語るな、剣で語れ」
「ぐっ、いいだろう…ッ」
先制攻撃とばかりに文句を飛ばしたグリゴールであったが、軽くあしらわれて怒り心頭のまま剣を構える。
対するリュランは右手に持った剣を構えず、腕を下にぶらりとしたままだ。
「構えはどうした、怖気ついたか?」
「そんなもの人それぞれだろう。少しは黙るといい」
「はっ。減らず口が…すぐに捩じ伏せてくれる!!」
剣を構えたまま勢いよく突進するグリゴール。
その速度は常人が出せるソレを軽く上回る。
ウェスペルタティア騎士団には全員が最初に覚える魔法がある。
それが身体強化。
全身を魔力で覆い、筋力と耐久の強化を行う魔法だ。
裏話を言えば、昔リュランが適当に見せたものを少ない魔力で行えるようにレイナが改良したものである。
そんな話はいざ知らず、頭の上に剣を振り被り、この速度に驚いて少しも動かないリュランへと振り下ろした。
「(勝った!)」
グリゴールは自身の勝利を疑わなかった。
それはそのはず。
何故なら自分の剣は大した抵抗も無く、まっすぐ地面へと振り下ろされたのだから。
しかし、勝利の合図も観客の声援も聞こえない。
不思議に思った彼の目に、目の前の現実が教えた。
「…ッ!?な、なんで…俺の剣は…!?」
正確に言えば、彼の刃は、だろう。
グリゴールの持つ剣の柄から先の部分は忽然と姿を消した。
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン
どこからともなく空気を切り裂く鋭い音が響く。
慌てて飛び下がるグリゴールの額を、柄のない刃が薄く切った。
そのまま刃は地面へと刺さり、動かなくなる。
グリゴールの額から少量の血が垂れる。
その程度の怪我ではあるが…勝負は決した。
「驕る者に、負けるつもりなどない」
既に敗者(グリゴール)から背を向けた勝者(リュラン)が呟く。
まさに、勝負は一瞬であった。
「しょ、勝者。リュラン!」
茫然としていた審判を司る者が高らかに宣言する。
それと同時に時の止まっていた観客席が一気に湧いた。
その声に答えることも無く、リュランは演習場を立ち去った。
戻ること物見席。
そこでは今の光景に目を疑う者達が唖然としていた。
「…クリフ。今の、見えたか?」
「辛うじてだが、な。最も、次はどうなるかわからぬが」
「見えただけマシだろうよ。…俺は、全くだった」
「…王よ。あの者は、一体…」
「だから言ったであろう。我が友の師だ」
「それに付け加えるのであれば、王を前にして全く気圧されずに自らの言葉を述べられる剛毅な方でもありますぞ」
「ヴェレス様…」
後ろからコツコツと音を立てて現れたのは謁見の間でも控えていた老人、ヴェレスであった。
そのままクリフの横へと並び立つと、地面に膝をつき、呆然としたままのグリゴールを見降ろしながら続けて呟く。
「王のお側で政り事に携わって既に5年。いつものように心に問いましたが、あのような発言は久しぶりに聞きましたぞ」
「どのような言葉だったのだ…?」
「…『国とは、民から血肉を奪い人形へと変える悪魔であり、死人に生命を与え人へと生まれ返す天使である』、と」
「!!」
「おいおい、どういう意味だよ。俺にはさっぱりだぜ?」
「…お主はもう少し脳を鍛えろ、ガイアスよ」
「断る!」
ガイアスの元気な言葉にはため息のヴェレスであるが、仕方あるまいと言葉を続けようとしたが、アマテルが遮る。
「国とは、民を食い物にすることも、安寧に導くこともできるということだ」
「……って、待てよ。つまり、あのリュランって奴は…」
「下手をすれば敵対心在りと見なすこともできる発言をした。それも王の目の前で。…それだけ自分の腕を信頼してるか、何か別の思惑があるのか…」
「下手に考えるでない、クリフよ」
「しかし…」
「…私は見たのだ。あの者の目を。強く、曇りのない目を。案ずることはない。あの者は護ることこそするが、脅かしはせぬよ」
「……私は、私の剣を信じます」
そう言い残すとクリフは去って行った。
続けてガイアスも何とも言えぬ表情で去り、残されたのはアマテルとヴェレスの2人。
「ヴェレス」
「何でしょうかな、王よ」
「私は彼を信じる。そなたも彼を信じてはくれまいか」
「無論。私とて自分の目を信じて居りますからの」
ほっほっほ、と笑いながら去って行ったヴェレス。
最後に残されたのはアマテルただ1人。
目を閉じ、再び目を開けて空を見上げた。
「父上、母上。どうかこの国と国に生きる民を御守りください」
祈るかのように呟いた言葉は風に流され、天へと消えた。
静まった演習場に再び目を向け、何かするでもなく静かに立ち去った。
足音も消え、熱の収まる物見席にどこからともなく小さな声が響いた。
「…娘の頼みだ。ある程度は引き受けてやる」
声の主も無音のまま立ち去り、演習場には夕日が差し込む。
片づけを忘れ、残されたままの刀身が紅く照らされていた。
∽to be continue∽