∽移り行く風のように∽   作:アクア=イスタロス

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第13話

―――――【第13話 仕事】―――――

 

「なぁ…」

 

「なんだ」

 

「なんでそんな格好なんだ?」

 

「昨日言ってただろう。格好は何でもいいとな」

 

「確かに言ったけどさ…鎧すら着てこないとは思うわけないだろ!」

 

ガーッと起るシューゼ。

まぁ、シューゼの言い分も最もだろう。

今日の俺の格好。

それは……

 

「なんだよローブって!どこぞの魔法使いじゃないんだぜ!というか騎士たる者がローブで警邏とか考えられないだろ!」

 

「自らの身を守れるのであれば何でもよいだろう。ならば着ている物が鎧であろうとローブであろうと変わりない」

 

「いや、万が一ってこともあるだろう!」

 

「…お前、実はお節介と言われないか?」

 

「な、何でそのことを!?」

 

「…くく、さあな」

 

からかいがいのある奴。

それがシューゼの評価だ。

実力は知らんがそれでも仲間想いなのだろうな。

 

「さて、巡回ルートに沿って街を案内してくれ。俺はほとんどこの街について知らんからな」

 

「そ、そうなのか?騎士団に仕官するぐらいだからてっきり街出身かと思ってたんだけど…」

 

「いや。俺は旅人だ。弟子に助力を求められたから来ただけに過ぎん。街に入ったのも一昨日だ」

 

「うへ~。ま、いいさ。俺が案内してやるよ、こっちだ!」

 

シューゼが元気よく歩き出す。

俺はその少し後ろをついて歩き、ここがこうだ、あそこはああだ等と街の批評を聞きながら街を見渡していく。

子供が走りながら笑い、主婦たちが話に花を咲かせ、男たちは酒を飲んで歌う。

確かな温かさを持った民の暮らしがそこにはあった。

 

「――!おい、リュラン!聞いてるのかよ!」

 

「聞いてる聞いてる。そこの親父さんは美人相手にマケては奥さんに怒られて、隣の親父さんは無口だけど腕は確かなんだろ」

 

「なんだ、聞いてんじゃん。じゃ、次行くぜ!」

 

シューゼの歩みと言葉は続く。

結局、時間を過ぎに過ぎて他の団員から戻って来いといわれるまで街をフラフラしていたのであった。

 

 

 

 

その夜。

再びリュランは街へと赴いた。

静かなる街に足音が響き、月に照らされた影は不気味に伸びる。

行く先は街の裏側。

日の当らぬ闇の街。

 

「これほどの街であっても貧困街が出来るのか…。何かしら手を打たねばここから暴動が起きるかもしれないな」

 

月明かりを頼りに裏の街を静かに歩き続ける。

壊れかけた住宅、枯れた植物、飢えた動物…。

一見、廃墟とも思える風貌がここには存在した。

 

「住宅の修復は騎士団を動員すれば人員は足りる。予算は……なんとでもなる。植物が枯れるのは日の光が当たらぬせいだろう。つまり、街の区画整理も同時にやらなければ解決には至らない。飢えは……人々の気持ち次第か」

 

ぶつぶつと呟きながら辺りを見渡すリュラン。

そして、突如足を止め後ろを振り返る。

 

「後を追う者達よ。出て来い。気が付かないとでも思ったのか」

 

その声にゆっくりと現れる人々。

男に女、子供に老人。

年齢も性別もバラバラな10人ほどの集団が手にナイフやカマ、包丁を持って詰め寄ってきた。

ただ彼らには共通点がある。

ボロボロの衣服と痩せ細った身体。

普通に生活していればあり得ない状態の人々。

これが、貧困街の実情であった。

 

「久しぶりの獲物……」

 

「飯…飯……」

 

「服…綺麗な服…」

 

「……悪いが、素人に負けるつもりも施しを与えるつもりもない。俺は現状を確認しに来ただけなんでな」

 

姿勢を低くし、風を巻き起こす。

砂ぼこりが吹き荒れ、人々が手で目を守る隙を狙い、通路を埋めていた人々を掻い潜り、逆側へとたどり着く。

砂ぼこりが止んだ後に宛てなき者たちに見えたのは自分たちの手を逃れた獲物の姿。

 

「必ずこの街を変えてやろう。生きる希望を捨てるな」

 

風に流れて聞こえてきた声にピクッと動きを止める。

その姿に満足し、貧困街を立ち去る。

頭の中には既にプランは整っていた。

残すは……上を動かすのみ。

リュランは静かなる街を歩き続けた。

 

 

 

 

――――――――――

――――――――――

――――――――――

 

 

 

 

5日後。

ガチャガチャと鳴り響く金属音で街の者たちは目が覚めた。

何事かと慌てて窓を開けてみれば鎧姿の騎士たちが手に材木や槌を持って歩いているではないか。

理由を聞きたくとも相手が騎士故に軽々しく話しかけられぬが、ただ1人、民から気軽に話しかけられる人物がいた。

――シューゼである。

 

「シューゼ!これは一体なんだってんだい!?」

 

「これから貧困街の人を助けに行くのさ!後で手伝いに呼ぶからよろしく~!」

 

言うだけ言ってさっさと走り去るシューゼに呆然とするが、これは大変とばかりに周りの者たちへと伝えて行く。

午前中にはこの噂は街全体に広がっていた。

 

「えー、貧困街にお住まいの皆さん!騎士団団長補佐のロイドです!此度は貧困街の皆さんを国を挙げて救おうと立ち上がった次第にございます!これから数日間、街の区画整理と住宅の立て直しのため、一時的に王宮へと避難していただきたいと思います!どうかご協力をお願いします!!」

 

補佐役のロイドの言葉を聞いた者たちがのっそりと壊れた扉や通路から顔をのぞかせる。

その顔にあるのは戸惑いと恐怖。

無理もない。

武装していないとはいえ相手は国の精鋭たち。

自分たちなど歯牙にもかけぬ存在なのだ。

それが、今こうして自分たちを救うと豪語して貧困街への道の前に勢ぞろいしている。

…どうすることもできなかった。

 

「…えー、とりあえず避難をお願いしますね!家具などの荷物は騎士の皆さんに言っていただければ運びますので!」

 

それでも誰も動かない。

どうするか、と悩むロイドの前に1人の騎士が現れる。

騎士といってもローブ姿のためそうは見えぬが、その顔は既に知れ渡っていた。

 

「って、ちょっとリュラン君!?」

 

単身貧困街へと入っていく彼を止めようとするが踏み出せない。

どれだけ言葉を述べてもやはり思うところがあるのだろう。

その1歩が別れ道であった。

 

「言葉だけでは民は動かぬ。それは国を建てる時も同じであったはずだ」

 

歩き続けるリュランの前にあの日と同じ者たちがぞろぞろ現れる。

その手に凶器は…ない。

 

「約束通り、この街を変えてやる。生きる希望をくれてやる。そこからどうするかはお前たち次第だ」

 

籠手を着けていない素の手を差し伸べる。

誰もが戸惑い、どうするかを悩む中、1人の者が動いた。

 

「お兄ちゃん。ありがとう」

 

小さな手であった。

それでも、温かかった。

 

 

 

 

そこからは地が鳴り響く大騒動であった。

まず、貧困街の人々と彼らの家具やら何やらの運び出し作業。

その時点で国の予想を遥かに上回る状況を招いた。

国に存在する区画である以上、街の状況や人々の数の確認を怠っていたわけではなかったが、それでも想像以上の人数がこの狭き町で暮らしていた。

ボロボロの布を纏い、騎士たちに先導されながらとりあえず街の銭湯を目指した。

国の金でその日1日貸し切って入浴させるためだ。

彼らが風呂に入る間に他の騎士たちは建物の解体作業を急いだ。

ここでも彼らの予想を上回る事態となる。

街が地図上で見た以上に入り組んでいたのだ。

人々が自分たちの手で作り上げ、広げた空間がかなりある。

一から作り直しのため、全て破壊することに変わりはないが、それでも手間は増える。

だが、現場の騎士たちは文句を言わない。

これが民の心を明るくするためだと信じたからだ。

彼らの戦いは始まったばかりである。

 

入浴を終えた貧困街の者たちは再び驚いた。

手渡されたのは真新しい衣服。

白く輝いて見えた。

服に袖を通し、互いに見せ合う。

そこには今までにはない笑顔が満ち溢れていた。

生まれ変わった彼らは王宮へと訪れた。

不安はある。

それでも、自分たちに希望を見せた1人の男を信じた。

そんな彼らの前に、1人の女性が現れた。

 

「そなたたち、面を上げよ」

 

上げた先にはこの国の王がいた。

皆が驚き、再び伏せてしまう。

致し方ないとは思うが、それでも自らの言葉を真正面から聞いてもらいたくて…再び言葉をかけた。

 

「照れずとも好い。面を上げよ」

 

再びの言葉におずおずと顔を上げる者たちにニコリと微笑む彼女。

皆が顔を上げたところで彼女は言葉を紡いだ。

 

「我の事は言わずとも分かるであろう。今回は突然の出来事でそなたたちに迷惑をかけた。すまない」

 

「と、とんでもございません。陛下の謝る仔細は一切ございません!」

 

一番前に座る老人が辛うじて返答を返した。

事実、自分たちは迷惑をかけ続けている自覚があった。

それでも、生きる希望が見出せぬ故に、自分を誤魔化し続けた結果がアレであった。

 

「それでもだ。我は今日、貧困街が出来ていることを知ってもなお、良き案が浮かばなんだ。他事で目を逸らし続けた。それゆえそなたたちには辛き思いをさせてしまった。こればかりは譲れぬ。本当にすまなかった」

 

王が頭を下げた。

それと同時に左右に居た文官武官の者たちも頭を下げた。

もはや、老人は心臓が止まりそうであった。

 

「お、恐れ多きお言葉。誠にありがとうございます。これ以上の謝辞はわし等は欲しておりませぬ故、どうか頭を上げてくだされ」

 

老人の必死さが届いたのか、とりあえず頭を上げた陛下含む高官たちの姿にホッと一息。

少しの間を上げて再びアマテルが声を発する。

 

「それでは今回の計画について説明しよう。皆に分かるよう、難しき言葉は避けるが、それでも分からぬことがあれば何でも聞いてくれ。んんっ。まずは先ほどそちらへ向かった騎士の者が言うたと思うが、街の通りを良くしようと思っての。聞けばそなたたちの場所は植物が枯れていたとのこと。それは日の光が当たらぬせいじゃ。よって、住宅の建っておる場所を良き場所へと移し、通路をある程度の広さを持たせる。これでこの問題は解決するじゃろう。次にそなたたち自身。そなたたちには職を持ってもらおう。もちろん、慣れぬこと故失敗もあるじゃろう。しかし、人は誰しも失敗する生き者じゃ。失敗を恐れて職を捨てるくらいなら失敗を繰り返して学べ。我からは以上じゃ」

 

王の言葉に皆がありがたやありがたやと呟く。

その姿を見ているうちに何か思うことがあったのか、アマテルは言葉をつなぐ。

 

「なお、これは独り言じゃが…これらは全てリュランという騎士が考え、調べ、我らに提案した。あやつは言うなと言っておったが……民は知っておかねばな、のう?」

 

悪だくみを明かすかのようなニコリと笑う王の姿に皆が唖然とし……直後、謁見の間は笑いに包まれた。

 

 

 

 

――――――――――

――――――――――

――――――――――

 

 

 

 

国を挙げた街直しは2週間を要した。

本来であればこの倍はかかるはずだったが、住宅の再建作業にかかる期間が王宮に使える魔法使いたちによる手伝いによって大幅に短くなったことが要因だろう。

再び住処へと戻った彼らは驚いた。

年月を経て色が落ち、壊れた壁は白さを取り戻して輝き、汚れた狭き通路は元が分からぬほど広くなっていた。

 

笑顔が溢れた。

この作業を行った騎士の者たち…とりわけ発端となったリュランに対しては住民全員からお礼を言われる始末。

言うなと言い含めていたはずが普通にバラされ、言われるはずのない礼を言われ珍しく慌てるリュランの姿に皆が笑った。

 

こうして、街は全ての民に対して明るさを与えることとなる。

それと同時に人々の記憶にリュランという名が刻まれた瞬間であった。

 

リュランが英雄として名を馳せる――数か月前の温かい話である。

 

 

 

 

∽to be continue∽

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